いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第41話 ゼタニアの町

 ギースが廃墟の下調べをした翌日……ザガート達一行は廃墟から二キロ南にあるというゼタニアの町に着く。ここで旅の疲れを(いや)しつつ、物資の調達、情報収集を行うと決める。

 

 町を(かこ)む城壁、その唯一の入口である門から中へと入る。門には二人の兵士がいたが、(すで)に魔王の名声は知れ渡っており、一目見ただけで彼らだと分かったため、軽く挨拶(あいさつ)しただけで通す。魔王が(ねぎら)いの言葉を掛けると、二人は感激しながら頭を下げる。

 

 ゼタニアの町はグラナダより規模こそ小さかったが、人の通りは多く、十分活気に満ちていた。魔王軍の脅威に(おび)える薄暗さは感じられない。

 一行が表通りを歩くと、すれ違う人々がヒソヒソと小声で(ウワサ)したり、魔王の姿を見て驚いたり、応援の言葉を掛けたりする。反応は様々だが、悪印象は抱いていないように見えた。

 

 表通りを行き()う人々を目にして、ザガートはある事実に気付く。

 

「冒険者の数が多いな……」

 

 ふとそんな言葉が口を()いて出た。

 

 グラナダの町は人こそ多かったが、冒険者の数はそれほどでも無かった。街中を巡回したのは領主に仕える兵士であり、彼らが治安を守っていた。

 ここゼタニアにも町を守る兵士はいたが、それよりも冒険者の数が圧倒的に多い。商人よりも多く、そこかしこで目にする。

 治安が悪い訳ではないが、剣と鎧で武装した戦士や、ローブを羽織(はお)った魔法使いをそこら中で見かける光景はある種の異様さを感じさせる。それはグラナダの町にあったような清潔感ではなく、『荒くれの町』と呼べるものだ。

 

「フフフッ……気付いたようだな、ザガートよ」

 

 魔王の言葉を聞いてレジーナが誇らしげなドヤ顔になる。腕組みしたまま鼻の穴おっぴろげたゴリラ顔になりながら、フンフンと鼻息を吹かす。城の本棚で得た知識を披露したくてウズウズしたようだ。

 

「ここゼタニアには大陸随一(ずいいち)とされる冒険者ギルドがある……交通の要衝となっている事もあり、各地から高額の依頼が届くんだ。それを目当てに腕の立つ連中が集まる。彼ら相手に商売する武器商人、酒場、果ては娼館に(いた)るまで……様々な人が集まる。いつしか町はこう呼ばれるようになった。『冒険者の町』……と」

 

 町の詳しい成り立ちについて話す。この地に大陸中から魔物討伐の依頼が集まった事、それに冒険者達が引き寄せられた事、それによってこの町が冒険者相手に商売する町へと変わった事を教える。

 ザガートが最初に抱いた『荒くれの町』という印象はあながち間違っていなかった事になる。

 

(フム……これだけ屈強な猛者(もさ)どもが集まっていれば、魔王軍も()(かつ)に手が出せないという訳か)

 

 王女の言葉を聞いて、魔王が()に落ちた表情をする。辺境の田舎ではないにも関わらず魔族の脅威に(さら)されていない理由を、強い冒険者が集まっているからだろうと推測して(ひと)り納得する。

 この町なら、去り際に配下の魔物を置いていく必要は無いだろう……そう心の中で考えた。

 

「情報収集を行いたい……この町にあるという冒険者ギルドへ案内してくれ」

 

 ザガートは町人の一人を呼び止めて、ギルドまでの道案内を頼む。

 町人は魔王の頼みを(こころよ)く引き受けて、表通りを奥の方へと進んでいく。一行は彼の後に続いて歩き出す。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 町人に案内されるまま歩き続けると、表通りに面した巨大な建物に着く。

 ギルドと思しき三階建ての木造家屋は酒場と宿屋の看板をぶら下げていたが、一つの階層がレストラン並みに広く、かなり大きい印象を受ける。

 ザガートが元いた世界の市役所か、もしくは観光地にあるホテルのようだ。

 

 扉を開けて中に入ると一階は食堂兼酒場らしく、無数の椅子(いす)とテーブルが置かれている。昼食(どき)ではないため満席では無かったが、いくつかのテーブルの椅子に冒険者の一団が座っており、今後について話したり、食事を()ったりしている。

 部屋の壁には魔物の討伐依頼の紙が貼り出されており、何人かがそれを立ったまま見ている。

 

「……ッ!!」

 

 ザガート達が中へ入ると、魔王の姿を見て冒険者達が一瞬驚いた顔をする。上級悪魔(アーク・デーモン)らしき男が現れた事に敵の襲来を予感して、武器を手に取って身構える。酒場内に緊張が走り、数人の冒険者がゴクリと(つば)を飲む。

 

 だが数秒が経つと(ウワサ)の救世主だと理解し、(ほこ)を収めて席に着く。各々(おのおの)がそれまで行っていた作業を再開する。

 プロの冒険者だけあり、彼らの判断は冷静だった。その事も魔王に「並みの連中ではない」と思わせるのに一役買った。

 

 一行が店のカウンターへと進むと、一人の男がカウンター()しに座っている。店主であろうと思われる人物は五十代半ばに見える中年男性だが、体はムキムキして鍛えられており、老化による(おとろ)えを感じさせない。頭はツルツルに禿()げており、虎のような黒い(ひげ)を生やす。東洋人のような肌色に赤のタンクトップを着て、両手首にリストバンドを巻く。

 見る者に豪快な印象を与える男の姿は、熟練の武闘家か、はたまた盗賊の親分のようだ。

 

(この男、なかなかの強さだ……ミノタウロスと戦っても、負けはしないかもしれない)

 

 ザガートは店主の姿を見て、かなりの手練だと見抜く。彼もまた冒険者の一人であり、時々魔物の討伐に出かけるのだろう……そう思いを抱く。

 

「オゥ、アンタが異世界から来た魔王サマかい? ウワサに聞いてるぜ! とっても(つえ)えんだってな! 俺の名はドーバン、ここのギルド長をやってるモンだ! よろしくなっ!!」

 

 ハゲの店主が真っ先に挨拶(あいさつ)する。腰に手を当てて胸を前面に突き出したポーズのまま「ガハハ」と大きな声で笑う。見た目通り豪快な人物のようだ。

 

「アンタほどの大物が、こんな所に何の用だい? まさか依頼を受けに来た訳じゃないだろうね」

 

 首を(かし)げながら、ギルドを訪れた用件を問う。魔王がクエストを受注しに来たなどとは考えにくく、それ(ゆえ)に理由を聞かずにはいられない。

 

「直接依頼を受けたい訳じゃないが……情報が欲しくてやって来た」

 

 店主の疑問にザガートが答える。椅子に座ってカウンターに両(ひじ)をついて手を組むと、神妙な(おも)()ちになる。

 

「俺達は世界各地にいる魔王軍幹部を倒す旅をしている……ヤツらの持っている宝玉を集める事が、大魔王の城に行く手がかりだと考えているからだ」

 

 旅の目的を明かし、宝玉集めをしている事を包み隠さず教える。

 

「そこで聞きたい……今までどの冒険者もこなせなかったほど危険度の高い依頼は無いか? それほど恐ろしい魔物なら、まず間違いなく魔王軍の幹部だろうからな」

 

 冒険者が倒せないほど強い魔物こそ目的の相手だろうと考え、その所在を問う。

 

「……あるぜ。アンタにおあつらえ向きの依頼がな」

 

 ドーバンがそう口にしてニヤリと笑う。魔王の実力ならどんな依頼もこなせるだろうという確信に満ちた笑みが浮かぶ。

 

「ここから数キロ南に行ったとこに山があるんだが、その(ふもと)に小さな村がある。村の住人は山から来る魔物に何度も襲われてる。山にはとんでもなく(つえ)えデーモンが()んでるって話だ。これまで何人もの冒険者が討伐に向かったが、半数が逃げ帰り、残りの半分は殺されちまった」

 

 魔物に襲われた村の存在を教える。村を襲う魔物こそ、ザガートが探し求める『冒険者が絶対勝てない相手』だと考える。

 

「しかもそいつはバケモンの(くせ)に流暢な人間の言葉を話すらしい。こいつぁ魔王軍の幹部に(ちげ)えねぇぜ」

 

 最後に魔物が高度な知性の持ち主だと伝えて、魔王軍の幹部たる根拠とした。

 

「フム……では早速(さっそく)村に向かうとしよう。有益な情報、感謝する。いつかこの礼は必ず……」

 

 ザガートが店主の言葉に感謝しながら椅子から立ち上がった時……。

 

「アンタがザガートさんかい? 左目が眼帯の強そうな男から、アンタにこれを渡してくれって頼まれたよ」

 

 一人の町人がそう言いながら中へと入ってくる。手に持っていた四つ折りの紙切れを魔王に手渡す。

 魔王が受け取った紙を広げると、中に文字が書かれている。それを声に出して読み上げる。

 

「魔王ザガート……アンタに一対一の決闘を申し込む。本日午後三時、ゼタニア北にある神殿跡地の廃墟にて待つ。必ず来られたし。どちらが最強に相応しいか、白黒ハッキリさせよう……隻眼(せきがん)の傭兵ギース」

 

 ……それは暗殺者からの果たし状に他ならない。

 

隻眼(せきがん)の傭兵ギース……だとぉ!?」

 

 魔王が果たし状を読み上げると、手紙の送り主の名を聞いたドーバンが(にわ)かに色めき立つ。慌てて椅子(いす)から立ち上がり、表情に焦りの色が浮かび、(ひたい)から滝のように汗が流れだす。ギースという人物に心当たりがある事が一目で分かる。

 

 驚いたのはドーバンだけではない。酒場にいた他の冒険者達も、その名を聞いた途端どよめきだす。(みな)が恐怖のあまり体を震わせながら、ヒソヒソと小声で話をする。(にぎ)やかだった酒場が一瞬にして男の話題一色に染まる。

 

「そのギースとやらは、そんなに有名な男なのか?」

 

 ザガートが不思議がるように首を(かし)げた。彼らが何に(おび)えているか全く分からず、(はと)が豆鉄砲を食らったような顔をする。

 

 ここにいる連中は魔王軍十二将に勝てないとはいえ、いずれも死線をくぐり抜けてきた熟練の戦士だ。ヘルハウンドやミノタウロスに勝てる者も、中にはいただろう。にも関わらずそれほどの実力を持った猛者(もさ)どもが恐れおののく姿に、魔王はギースという男に興味が湧く。

 

「ああ……アンタは異世界から来たから知らねえだろうが、俺らの業界じゃかなり有名だ。傭兵に片足突っ込んでてヤツの名を知らねえ者はいねえと言ってもいい」

 

 魔王の疑問にドーバンが答える。(ひたい)から流れ出る冷や汗を右腕で(ぬぐ)い、少し疲れた表情をしながら、(くだん)の傭兵について語りだす。

 

「傭兵ギース……十年前まではパッとしない、うだつの上がらないチンケな男だった。体だけは鍛えてたが、実戦になるとへっぴり腰になる、ビビリなチキン野郎だったのさ」

 

 男が最初は大した戦士では無かった事を口にする。

 

「それが十年前のある戦いで左目を失ってな……それからヤツは変わった。恐怖心を完全に()くしたヤツは、どんな状況でも冷静に物事を判断するマシーンへと変貌したのさ。それからの戦績は凄まじかった。自分にこなせる依頼かどうか受ける前に判断し、一度受けた依頼は絶対にしくじらねえ。ヤツの名は傭兵界隈に(とどろ)いた。いつしか地上最強の傭兵と呼ばれる所まで(のぼ)り詰めちまった」

 

 片目を失ったのをきっかけに一流の戦士へと変わった事を告げる。恐怖心が彼にとって唯一の弱点であり、それを克服した結果恐ろしい強さを身に付けた事が(うかが)える。

 

「だが何より恐ろしいのは、ヤツが金さえ積まれれば魔族の依頼だろうと受けるって点だ。(げん)に勇者になる事を目指して旅立った戦士が、これまで二十人()られた。その手段もえげつねえ。ヤツは標的を殺すためなら、毒でも女でも人質でも、なんでも使いやがる……ヤツは(まぎ)れもなく殺しの天才だ」

 

 ギースが魔族の依頼を受けて勇者候補を二十人殺した事、目的の(ため)なら手段を選ばない事を教える。

 

 ドーバンの表情に浮かんだ苦悩……それはもしギースに殺されなければ、そのうち何人かは実際に勇者になったかもしれない未練に他ならない。

 じっくり成長するのを待てばいずれ出たかもしれない()を、未来ある若き才能を、ギースという男は咲く前に()んでしまったのだ。

 

「……ザガートさんよぉ! こんな勝負、受けたってアンタが得るモンは何も()ぇ! ヤツの誘いなんて断っちまいなッ!!」

 

 ドーバンは決闘を受けても魔王に利が無い事を()いて話を終わらせた。

 

「……そのギースという男、ますます会ってみたくなった」

 

 ザガートがそう口にしてニヤリと笑う。顔をうつむかせたまま目だけ正面を向いて、悪魔のような表情をする。

 とても決闘を思い(とど)まる男の顔ではない。それどころか傭兵の凄さを知らされてウズウズする。

 

「ドーバンよ……忠告してくれた事には感謝する。だがそれほど名の知れた人物の誘いとあっては、受けない訳には行かなくなった」

 

 マントを右手でバサッと開いて風にたなびかせながら、自らの方針を伝える。

 

 決闘を挑んできたのが単なる小者なら、無視するつもりでいた。何処の馬の骨とも知れない(やから)の遊びに付き合う義理は無かった。だが男の素性を知らされて、魔王は勝負を挑んできたのがただの小者ではなく、付き合うに(あたい)する人物だと、そう考えた。

 

「やれやれ……俺としちゃあ、本気で思い(とど)まって欲しかったんだがなぁ。やめさせるどころか、闘争心に火を()けちまった」

 

 ドーバンが(あき)れたように苦笑いしながら、自分の頭を手でペチッと叩く。(ほん)()させるための説得が逆効果になった事を深く残念がる。

 

「分かったぜ……もう止めやしねえよ。だがな、魔王サンよ……アンタの命は、もうアンタ一人だけのモンじゃねえんだぜ。その事を忘れねえようにな」

 

 説得は無駄だと諦めて、せめて魔王が無駄死にしないように念を押す。

 真剣な顔付きで相手の目をじっと見ながら放たれた言葉に、店主の切実な思いが宿る。今日会ったばかりだというのに、十年来の親友に向けて言ったような思いやりのある言葉だ。

 

「ああ……分かっている」

 

 店主の忠告に魔王がニッコリ笑う。相手を気遣う優しさ(あふ)れる態度に胸を打たれたように穏やかな笑みを返す。

 

 ふと後ろを振り返ると、ルシルとなずみが暗い顔をする。あえて声には出さずとも、魔王が討たれるのではないかと不安を感じた事が一目で分かる。

 

「大丈夫だ。約束する……俺は愛する女を置いて、自分だけ死ぬようなマネは絶対しない」

 

 ザガートは二人の不安を打ち消そうと、頼もしい台詞(セリフ)を吐きながら、優しく頭を()でるのだった。

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