いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
ギースが廃墟の下調べをした翌日……ザガート達一行は廃墟から二キロ南にあるというゼタニアの町に着く。ここで旅の疲れを
町を
ゼタニアの町はグラナダより規模こそ小さかったが、人の通りは多く、十分活気に満ちていた。魔王軍の脅威に
一行が表通りを歩くと、すれ違う人々がヒソヒソと小声で
表通りを行き
「冒険者の数が多いな……」
ふとそんな言葉が口を
グラナダの町は人こそ多かったが、冒険者の数はそれほどでも無かった。街中を巡回したのは領主に仕える兵士であり、彼らが治安を守っていた。
ここゼタニアにも町を守る兵士はいたが、それよりも冒険者の数が圧倒的に多い。商人よりも多く、そこかしこで目にする。
治安が悪い訳ではないが、剣と鎧で武装した戦士や、ローブを
「フフフッ……気付いたようだな、ザガートよ」
魔王の言葉を聞いてレジーナが誇らしげなドヤ顔になる。腕組みしたまま鼻の穴おっぴろげたゴリラ顔になりながら、フンフンと鼻息を吹かす。城の本棚で得た知識を披露したくてウズウズしたようだ。
「ここゼタニアには大陸
町の詳しい成り立ちについて話す。この地に大陸中から魔物討伐の依頼が集まった事、それに冒険者達が引き寄せられた事、それによってこの町が冒険者相手に商売する町へと変わった事を教える。
ザガートが最初に抱いた『荒くれの町』という印象はあながち間違っていなかった事になる。
(フム……これだけ屈強な
王女の言葉を聞いて、魔王が
この町なら、去り際に配下の魔物を置いていく必要は無いだろう……そう心の中で考えた。
「情報収集を行いたい……この町にあるという冒険者ギルドへ案内してくれ」
ザガートは町人の一人を呼び止めて、ギルドまでの道案内を頼む。
町人は魔王の頼みを
◇ ◇ ◇
町人に案内されるまま歩き続けると、表通りに面した巨大な建物に着く。
ギルドと思しき三階建ての木造家屋は酒場と宿屋の看板をぶら下げていたが、一つの階層がレストラン並みに広く、かなり大きい印象を受ける。
ザガートが元いた世界の市役所か、もしくは観光地にあるホテルのようだ。
扉を開けて中に入ると一階は食堂兼酒場らしく、無数の
部屋の壁には魔物の討伐依頼の紙が貼り出されており、何人かがそれを立ったまま見ている。
「……ッ!!」
ザガート達が中へ入ると、魔王の姿を見て冒険者達が一瞬驚いた顔をする。
だが数秒が経つと
プロの冒険者だけあり、彼らの判断は冷静だった。その事も魔王に「並みの連中ではない」と思わせるのに一役買った。
一行が店のカウンターへと進むと、一人の男がカウンター
見る者に豪快な印象を与える男の姿は、熟練の武闘家か、はたまた盗賊の親分のようだ。
(この男、なかなかの強さだ……ミノタウロスと戦っても、負けはしないかもしれない)
ザガートは店主の姿を見て、かなりの手練だと見抜く。彼もまた冒険者の一人であり、時々魔物の討伐に出かけるのだろう……そう思いを抱く。
「オゥ、アンタが異世界から来た魔王サマかい? ウワサに聞いてるぜ! とっても
ハゲの店主が真っ先に
「アンタほどの大物が、こんな所に何の用だい? まさか依頼を受けに来た訳じゃないだろうね」
首を
「直接依頼を受けたい訳じゃないが……情報が欲しくてやって来た」
店主の疑問にザガートが答える。椅子に座ってカウンターに両
「俺達は世界各地にいる魔王軍幹部を倒す旅をしている……ヤツらの持っている宝玉を集める事が、大魔王の城に行く手がかりだと考えているからだ」
旅の目的を明かし、宝玉集めをしている事を包み隠さず教える。
「そこで聞きたい……今までどの冒険者もこなせなかったほど危険度の高い依頼は無いか? それほど恐ろしい魔物なら、まず間違いなく魔王軍の幹部だろうからな」
冒険者が倒せないほど強い魔物こそ目的の相手だろうと考え、その所在を問う。
「……あるぜ。アンタにおあつらえ向きの依頼がな」
ドーバンがそう口にしてニヤリと笑う。魔王の実力ならどんな依頼もこなせるだろうという確信に満ちた笑みが浮かぶ。
「ここから数キロ南に行ったとこに山があるんだが、その
魔物に襲われた村の存在を教える。村を襲う魔物こそ、ザガートが探し求める『冒険者が絶対勝てない相手』だと考える。
「しかもそいつはバケモンの
最後に魔物が高度な知性の持ち主だと伝えて、魔王軍の幹部たる根拠とした。
「フム……では
ザガートが店主の言葉に感謝しながら椅子から立ち上がった時……。
「アンタがザガートさんかい? 左目が眼帯の強そうな男から、アンタにこれを渡してくれって頼まれたよ」
一人の町人がそう言いながら中へと入ってくる。手に持っていた四つ折りの紙切れを魔王に手渡す。
魔王が受け取った紙を広げると、中に文字が書かれている。それを声に出して読み上げる。
「魔王ザガート……アンタに一対一の決闘を申し込む。本日午後三時、ゼタニア北にある神殿跡地の廃墟にて待つ。必ず来られたし。どちらが最強に相応しいか、白黒ハッキリさせよう……
……それは暗殺者からの果たし状に他ならない。
「
魔王が果たし状を読み上げると、手紙の送り主の名を聞いたドーバンが
驚いたのはドーバンだけではない。酒場にいた他の冒険者達も、その名を聞いた途端どよめきだす。
「そのギースとやらは、そんなに有名な男なのか?」
ザガートが不思議がるように首を
ここにいる連中は魔王軍十二将に勝てないとはいえ、いずれも死線をくぐり抜けてきた熟練の戦士だ。ヘルハウンドやミノタウロスに勝てる者も、中にはいただろう。にも関わらずそれほどの実力を持った
「ああ……アンタは異世界から来たから知らねえだろうが、俺らの業界じゃかなり有名だ。傭兵に片足突っ込んでてヤツの名を知らねえ者はいねえと言ってもいい」
魔王の疑問にドーバンが答える。
「傭兵ギース……十年前まではパッとしない、うだつの上がらないチンケな男だった。体だけは鍛えてたが、実戦になるとへっぴり腰になる、ビビリなチキン野郎だったのさ」
男が最初は大した戦士では無かった事を口にする。
「それが十年前のある戦いで左目を失ってな……それからヤツは変わった。恐怖心を完全に
片目を失ったのをきっかけに一流の戦士へと変わった事を告げる。恐怖心が彼にとって唯一の弱点であり、それを克服した結果恐ろしい強さを身に付けた事が
「だが何より恐ろしいのは、ヤツが金さえ積まれれば魔族の依頼だろうと受けるって点だ。
ギースが魔族の依頼を受けて勇者候補を二十人殺した事、目的の
ドーバンの表情に浮かんだ苦悩……それはもしギースに殺されなければ、そのうち何人かは実際に勇者になったかもしれない未練に他ならない。
じっくり成長するのを待てばいずれ出たかもしれない
「……ザガートさんよぉ! こんな勝負、受けたってアンタが得るモンは何も
ドーバンは決闘を受けても魔王に利が無い事を
「……そのギースという男、ますます会ってみたくなった」
ザガートがそう口にしてニヤリと笑う。顔をうつむかせたまま目だけ正面を向いて、悪魔のような表情をする。
とても決闘を思い
「ドーバンよ……忠告してくれた事には感謝する。だがそれほど名の知れた人物の誘いとあっては、受けない訳には行かなくなった」
マントを右手でバサッと開いて風にたなびかせながら、自らの方針を伝える。
決闘を挑んできたのが単なる小者なら、無視するつもりでいた。何処の馬の骨とも知れない
「やれやれ……俺としちゃあ、本気で思い
ドーバンが
「分かったぜ……もう止めやしねえよ。だがな、魔王サンよ……アンタの命は、もうアンタ一人だけのモンじゃねえんだぜ。その事を忘れねえようにな」
説得は無駄だと諦めて、せめて魔王が無駄死にしないように念を押す。
真剣な顔付きで相手の目をじっと見ながら放たれた言葉に、店主の切実な思いが宿る。今日会ったばかりだというのに、十年来の親友に向けて言ったような思いやりのある言葉だ。
「ああ……分かっている」
店主の忠告に魔王がニッコリ笑う。相手を気遣う優しさ
ふと後ろを振り返ると、ルシルとなずみが暗い顔をする。あえて声には出さずとも、魔王が討たれるのではないかと不安を感じた事が一目で分かる。
「大丈夫だ。約束する……俺は愛する女を置いて、自分だけ死ぬようなマネは絶対しない」
ザガートは二人の不安を打ち消そうと、頼もしい