いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
ゼタニアの町から北に二キロ向かった場所にある、神殿跡地の廃墟……そこにギースはいた。戦闘に使う道具がぎっしり詰まった袋を、
ズボンのポケットから懐中時計を取り出して見てみると、約束の時間まであと二、三分といった所だ。
(……コイントスで運命でも占うか)
待っているのが退屈になり、
ギースはコインを指で弾く。垂直に宙を舞ったコインがくるくる回転しながら、彼めがけて落下する。ギースはそれを右手の
(表が出たら俺様の勝ち、裏が出たらヤツの勝ち……どうだ!!)
心の中で叫びながら左手をどける。右手の甲を見てみると、コインは表を向いていた。
「フン……こんなモンに未来を
吐き捨てるように言いながら、コインをポイッと投げ捨てる。占いで良い結果が出たにも関わらず、何故か不機嫌になる。本当は悪い結果が出て欲しかったのか、それとも占いにすがる自分が急に馬鹿らしく思えたのか……。
投げられたコインは地面をコロコロと転がっていき、裏面を上に向けて倒れる。そこに現れた一人の男がコインを拾い上げる。
「時間通りに来たつもりでいたが……待たせてしまったか?」
男はそう言いながらコインをポケットにしまう。
頭に悪魔の
「待っちゃいねえよ……ただ遊んでただけだ。それよりここに来たってこたぁ、俺の誘いを受けてくれるって考えて良いのか?」
魔王の疑問に傭兵が笑いながら答える。
男の背後に仲間の女性がいたのを見て、一対一の決闘する意思があるかどうか聞いて確かめる。
「案ずるな……勝負は約束通り、一対一で
ザガートはそう口にすると、合図を送るように左手をサッと横に振る。彼の指示を受けて、ルシル達が十メートルほど後ろに下がる。
「……ありがてえ」
懸念が払拭された安心感でギースがニヤリと笑う。
二流の暗殺者ならここで彼女達を人質に取ろうと考えただろう。ギースも相手が魔王でなければ、そうしたかもしれない。
だが彼は魔王のこれまでの戦いの記録を映像で見ている。その中には少女を盾にしたケセフが一瞬で首を
ギースは
ザガートはその場から動こうとしない。腕組みして相手を
両者は数メートル離れて向き合ったまま一歩も動かない。慎重に相手の出方を
ビデオの再生を止めたように固まったまま時間だけが経過する。
そのままいつまでも固まっているかに思われたが……。
「行くぞ、魔王ッ! 人間サマの底力、見せてやるぅぅぅぅううううううーーーーーーーーッッ!!」
先に口火を切ったのはギースの方だ。戦闘開始の合図とばかりに大きな声で叫ぶと、正面の敵に向かって全速力で駆け出す。近接戦の間合いに入ると、両手で握った一振りの剣を高々と振り上げて、魔王の頭上に振り下ろす。
振り下ろされた剣の刃が魔王の
反撃を恐れた男が慌てて数メートル後退する。それを見てザガートが鼻で笑う。
「どうした……底力を見せるのでは無かったか?」
相手を
「まだだッ! まだ俺は本気を出しちゃいねえ!!」
ギースはそう叫ぶや
直後男の体がドクンドクンと脈打って、
「
薬の効果を包み隠さず教える。自身の能力が底上げされた事を教えて、敵を仕留める事を宣言する。
「うおおおおおおおおッ!!」
勇ましく
「うららららららららぁぁぁぁああああああーーーーーーーーッッ!!」
腹の底から絞り出したような大声で叫ぶと、両手で握った一振りの剣を目にも止まらぬスピードで振り回す。音速を超える速さで振られた剣が魔王を何度も斬り付ける。そのたびにキンキンキンッとけたたましい金属音が鳴る。まるで銅像を
何十回、いや何百回斬っても魔王には傷一つ付かない。それどころか相手を侮辱するように腕組みしたまま笑っている。
魔王は戦いが始まってから一歩も動いていない。直立不動の姿勢で、相手のなすがままにさせている。さながら子供のケンカに付き合う大人のようだ。
それでもギースは一歩も引かない。いつか手傷を負わせられると信じているのか、それとも何か考えがあるのか、ただがむしゃらに剣を振り続ける。
その光景がおよそ一分ほど続いた後……。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
剣を振る男の腕が止まる。口で激しく呼吸して、全身に滝のような汗がブワッと噴き出て、疲労
剣を握る手がプルプル震える。体力が底を尽きたのが一目で分かる。
「……フンッ!」
ザガートは敵を小馬鹿にするように鼻息を吹かすと、左脚で
「うっ……うぼぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーっっ!!」
ギースが
……これまでの流れで、魔王が優勢である事を疑う者はいなかった。
「やれやれ……勇ましく
床に倒れたギースを見て、ザガートが失望の色をあらわにする。事前に聞いた評判と違って大した成果を上げられない男の戦いぶりに大きく落胆し、残念そうにため息を漏らす。少しは楽しめそうだという期待は裏切られ、テンションが一気に下がる。
「
そう叫ぶや
……剣のように
「何ッ!?」
攻撃をかわされた事に魔王が慌てふためく。完全に想定外の事象が起こった事に驚きを隠せない。
魔王は一切手加減しなかった。男を殺すつもりで放った渾身の一撃だ。それが空振りに終わるなどとは想像もしなかった。
いくら十倍の速さになったとはいえ、傭兵は魔王の拳を紙一重で避けたのだ。それは
魔王が数メートル先に目をやると、ギースが平然と立っている。腰に手を当てて余裕ありげなドヤ顔を浮かべてニヤニヤする。汗をかいて息が上がっていた男の姿とはとても思えない。
(全て演技だったのか……?)
傭兵の元気な姿を見て魔王が激しく
物思いに
(クククッ……そうだ。驚け……驚いて、冷静さを失うがいい。効かない攻撃を何発も当てた事、わざと
これまでの流れが全て計算通りだったと頭の中で語る。想定通りに事が運んだ喜びのあまりテンションが上がりだす。
「やいザガート! テメエお得意の魔法とやらを、俺様にぶつけてみやがれ! どんな魔法が来ようと、防いでやるぜ! たとえそれがバハムートを殺した最強魔法だろうとなッ!!」
「……良かろう」
しばらく考え事に没頭していた魔王が、男の言葉に反応して振り返る。傭兵の方をじっと見ながら、これから取るべき行動を模索する。
挑発を無視するのは簡単だが、それでは気持ちが収まらない。戦いを楽しみたい身として、相手の挑戦から逃げてしまっては
無論男に考えがあるのは読めていた。これまでの戦いぶりからして、彼が何の計算も無い行動を取るとは考えにくいからだ。
ザガートは相手の挑発通りに最強魔法を使おうと一瞬考えたが、万が一に備えて、それよりランクの落ちる魔法を使う事を思い立つ。
「ゲヘナの火に焼かれて、消し
敵に手のひらを向けて呪文の詠唱を行う。魔王の手のひらから
最強魔法でないとはいえ、アスタロトを一撃死させた必殺の炎だ。直撃すれば死は
期待通り魔王が魔法を唱えてくれた事にギースがニヤリと笑う。
「ファクトの鏡よッ! 魔法を反射せよ!!」
背中の袋から一枚の手鏡を取り出して、正面に向ける。火球は手鏡に激突すると、飛んできた方向へと跳ね返された。手鏡は力を使い果たしたように粉々に割れる。
魔王は自身へと跳ね返された火球を避けきれず食らってしまう。巨大な爆発に
「なッ……うおおおおおおおおッ!!」
突然の出来事に思わず驚きの言葉を上げる。
……それは彼がこの世界に来てから受けた攻撃の中で一番の威力だった。
(危なかった……もし唱えたのが
命を失う危険性があった事に魔王が
敵を
……ザガートがふと顔を上げると、ギースがすぐ目の前に迫っていた。魔王が動揺している間に一気に距離を詰めたのだ。その手にはトゲの付いた金属製の
「ティタンのメイスだッ! 食らいやがれ!!」
そう叫ぶや否や、メイスを横
大した痛みは無いと油断したのも
(何ッ!? これは……)
正体が
それは殴った相手を任意の場所へと運ぶ『ティタンのメイス』の魔力によるものだが、魔王には知る
魔王が落とされた床には何の
不規則に散らばった
予期せぬ出来事が続いて精神的に追い込まれた事が、辺り一帯を吹き飛ばすという考えを浮かばなくしていた。
……足元にある床のタイルにナイフで