いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

42 / 134
第42話 廃墟の決闘

 ゼタニアの町から北に二キロ向かった場所にある、神殿跡地の廃墟……そこにギースはいた。戦闘に使う道具がぎっしり詰まった袋を、(ひも)に腕を通してリュックサックのように背負い、(さや)に収まった一振りの剣を左腰に()す。女神像の後ろには台座に固定したボウガンが配置されており、準備は万端だ。

 

 ズボンのポケットから懐中時計を取り出して見てみると、約束の時間まであと二、三分といった所だ。

 

(……コイントスで運命でも占うか)

 

 待っているのが退屈になり、暇潰(ひまつぶ)しに占いをしようと思い立つ。懐中時計をポケットにしまうと、今度は一枚のコインを取り出す。表に数字が、裏面に女性の顔が書かれている。

 

 ギースはコインを指で弾く。垂直に宙を舞ったコインがくるくる回転しながら、彼めがけて落下する。ギースはそれを右手の(こう)で受けた瞬間、サッと左手で隠す。

 

(表が出たら俺様の勝ち、裏が出たらヤツの勝ち……どうだ!!)

 

 心の中で叫びながら左手をどける。右手の甲を見てみると、コインは表を向いていた。

 

「フン……こんなモンに未来を(ゆだ)ねるようじゃ、どのみち先は()ぇ」

 

 吐き捨てるように言いながら、コインをポイッと投げ捨てる。占いで良い結果が出たにも関わらず、何故か不機嫌になる。本当は悪い結果が出て欲しかったのか、それとも占いにすがる自分が急に馬鹿らしく思えたのか……。

 

 投げられたコインは地面をコロコロと転がっていき、裏面を上に向けて倒れる。そこに現れた一人の男がコインを拾い上げる。

 

「時間通りに来たつもりでいたが……待たせてしまったか?」

 

 男はそう言いながらコインをポケットにしまう。

 頭に悪魔の(ツノ)を生やし、黒いマントを羽織(はお)り、三人の女性を連れた長身の若い男性……(まぎ)れもなくギースがここに来る事を待ち望んだザガートに他ならない。

 

「待っちゃいねえよ……ただ遊んでただけだ。それよりここに来たってこたぁ、俺の誘いを受けてくれるって考えて良いのか?」

 

 魔王の疑問に傭兵が笑いながら答える。()びる必要は無い(むね)を告げる。

 男の背後に仲間の女性がいたのを見て、一対一の決闘する意思があるかどうか聞いて確かめる。

 

「案ずるな……勝負は約束通り、一対一で()り行う。彼女達はただの見届け人だ。勝負には一切手出しさせない」

 

 ザガートはそう口にすると、合図を送るように左手をサッと横に振る。彼の指示を受けて、ルシル達が十メートルほど後ろに下がる。

 

「……ありがてえ」

 

 懸念が払拭された安心感でギースがニヤリと笑う。

 

 二流の暗殺者ならここで彼女達を人質に取ろうと考えただろう。ギースも相手が魔王でなければ、そうしたかもしれない。

 だが彼は魔王のこれまでの戦いの記録を映像で見ている。その中には少女を盾にしたケセフが一瞬で首を()ねられたものもある。人質を取るような小細工が通用しない事は百も承知だ。

 

 ギースは(さや)から剣を抜いて構える。敵の方を向いたまま、間合いを詰めるように数歩前へと進んで、ピタッと止まる。

 ザガートはその場から動こうとしない。腕組みして相手を(にら)んだまま突っ立っている。来るなら来てみろと言わんばかりの態度を取る。

 

 両者は数メートル離れて向き合ったまま一歩も動かない。慎重に相手の出方を(うかが)うように静止している。(まばた)き一つしない。

 ビデオの再生を止めたように固まったまま時間だけが経過する。(かわ)いた風がヒュウッと吹き抜けて、砂(ぼこり)が宙に舞う。

 

 そのままいつまでも固まっているかに思われたが……。

 

「行くぞ、魔王ッ! 人間サマの底力、見せてやるぅぅぅぅううううううーーーーーーーーッッ!!」

 

 先に口火を切ったのはギースの方だ。戦闘開始の合図とばかりに大きな声で叫ぶと、正面の敵に向かって全速力で駆け出す。近接戦の間合いに入ると、両手で握った一振りの剣を高々と振り上げて、魔王の頭上に振り下ろす。

 

 振り下ろされた剣の刃が魔王の(ひたい)に当たると、ギィンッ! と大きな金属音が鳴って弾かれる。ダイヤモンドの壁を斬り付けたような感触を覚えて、剣を握る男の両腕がビリビリと(しび)れる。

 反撃を恐れた男が慌てて数メートル後退する。それを見てザガートが鼻で笑う。

 

「どうした……底力を見せるのでは無かったか?」

 

 相手を(あざけ)る言葉が口を()いて出た。威勢良く斬りかかったにも関わらず(かす)り傷すら付けられなかった事に、お前の力はそんなものかと皮肉を込めた口調で挑発する。

 

「まだだッ! まだ俺は本気を出しちゃいねえ!!」

 

 ギースはそう叫ぶや(いな)や、背中の袋からオレンジ色の液体が入ったガラスの(びん)を取り出す。瓶の(ふた)を開けると、中の液体をゴクゴクと飲み()す。空になった瓶をポイッと投げ捨てる。

 直後男の体がドクンドクンと脈打って、(まばゆ)い金色のオーラに包まれた。

 

全能強化(マイティ・ブースト)と同じ効果がある魔法の薬……ハイパードリンク! これで五分の間、俺の能力は十倍に底上げされたッ! ザガート! これで貴様の首を取る!!」

 

 薬の効果を包み隠さず教える。自身の能力が底上げされた事を教えて、敵を仕留める事を宣言する。

 

「うおおおおおおおおッ!!」

 

 勇ましく()えると、魔王に向かって全速力で駆け出して一気に間合いを詰める。

 

「うららららららららぁぁぁぁああああああーーーーーーーーッッ!!」

 

 腹の底から絞り出したような大声で叫ぶと、両手で握った一振りの剣を目にも止まらぬスピードで振り回す。音速を超える速さで振られた剣が魔王を何度も斬り付ける。そのたびにキンキンキンッとけたたましい金属音が鳴る。まるで銅像を(けず)る作業をしているようだ。

 

 何十回、いや何百回斬っても魔王には傷一つ付かない。それどころか相手を侮辱するように腕組みしたまま笑っている。

 魔王は戦いが始まってから一歩も動いていない。直立不動の姿勢で、相手のなすがままにさせている。さながら子供のケンカに付き合う大人のようだ。

 

 それでもギースは一歩も引かない。いつか手傷を負わせられると信じているのか、それとも何か考えがあるのか、ただがむしゃらに剣を振り続ける。

 その光景がおよそ一分ほど続いた後……。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 剣を振る男の腕が止まる。口で激しく呼吸して、全身に滝のような汗がブワッと噴き出て、疲労困憊(こんぱい)したようにガクッとうなだれる。

 剣を握る手がプルプル震える。体力が底を尽きたのが一目で分かる。

 

「……フンッ!」

 

 ザガートは敵を小馬鹿にするように鼻息を吹かすと、左脚で(ひざ)蹴りを()り出す。ドグオッと鈍い音が鳴り、男の腹に膝小僧がめり込む。

 

「うっ……うぼぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーっっ!!」

 

 ギースが滑稽(こっけい)な奇声を発しながら後方に吹き飛ばされる。強い衝撃で地面に叩き付けられると、横向きにゴロゴロ転がる。魔王に背を向けて寝転がったままピクリとも動かず、気絶したようにも見える。剣は吹っ飛ばされた拍子に彼の手元から離れていた。

 

 ……これまでの流れで、魔王が優勢である事を疑う者はいなかった。

 

「やれやれ……勇ましく(たん)()を切っておいて、その程度とはな。正直言って、期待外れも良い所だ」

 

 床に倒れたギースを見て、ザガートが失望の色をあらわにする。事前に聞いた評判と違って大した成果を上げられない男の戦いぶりに大きく落胆し、残念そうにため息を漏らす。少しは楽しめそうだという期待は裏切られ、テンションが一気に下がる。

 

(くだ)らん茶番は終わりにしよう……一撃で終わらせてやるッ!」

 

 そう叫ぶや(いな)や、敵に向かって猛然とダッシュする。倒れた男の前に立つと、心臓めがけて右手による貫手を放つ。魔王はこれで勝敗が決したと、そう確信した。

 

 

 

 ……剣のように()()まされた指先が届きかけた瞬間、男の体がワープしたようにフッと消える。ザガートは誰もいない床を指で突いてしまい、ドガッと大きな音が鳴って大地に右手がめり込む。

 

「何ッ!?」

 

 攻撃をかわされた事に魔王が慌てふためく。完全に想定外の事象が起こった事に驚きを隠せない。

 魔王は一切手加減しなかった。男を殺すつもりで放った渾身の一撃だ。それが空振りに終わるなどとは想像もしなかった。

 いくら十倍の速さになったとはいえ、傭兵は魔王の拳を紙一重で避けたのだ。それは(まこと)に驚嘆すべき事だ。

 

 魔王が数メートル先に目をやると、ギースが平然と立っている。腰に手を当てて余裕ありげなドヤ顔を浮かべてニヤニヤする。汗をかいて息が上がっていた男の姿とはとても思えない。

 

(全て演技だったのか……?)

 

 傭兵の元気な姿を見て魔王が激しく(いぶか)る。腹に一撃を食らわせたのに、その事実が無かったかのような健在ぶりに動揺せずにいられない。今まで男がやられたふりしたのは全部嘘だったのではないか、一杯食わされたんじゃないかという考えが頭をよぎり、胸がざわついた。

 

 物思いに(ふけ)るように立ち尽くす魔王を見て、ギースがほくそ笑む。

 

(クククッ……そうだ。驚け……驚いて、冷静さを失うがいい。効かない攻撃を何発も当てた事、わざと(ひざ)蹴りを食らって(おお)袈裟(げさ)に痛がってみせた事、自信満々にとどめを刺しに掛かる事……脳内シミュレートで予測済みだ)

 

 これまでの流れが全て計算通りだったと頭の中で語る。想定通りに事が運んだ喜びのあまりテンションが上がりだす。

 

「やいザガート! テメエお得意の魔法とやらを、俺様にぶつけてみやがれ! どんな魔法が来ようと、防いでやるぜ! たとえそれがバハムートを殺した最強魔法だろうとなッ!!」

 

 呆気(あっけ)に取られた魔王に(たた)み掛けるように挑発的な言葉を浴びせる。どれほど高威力の魔法だろうと防いでみせると豪語する。まるで相手にわざと最強魔法を撃たせようとするかのように(あお)る。

 

「……良かろう」

 

 しばらく考え事に没頭していた魔王が、男の言葉に反応して振り返る。傭兵の方をじっと見ながら、これから取るべき行動を模索する。

 

 挑発を無視するのは簡単だが、それでは気持ちが収まらない。戦いを楽しみたい身として、相手の挑戦から逃げてしまっては(きょう)()がれる。

 無論男に考えがあるのは読めていた。これまでの戦いぶりからして、彼が何の計算も無い行動を取るとは考えにくいからだ。

 

 ザガートは相手の挑発通りに最強魔法を使おうと一瞬考えたが、万が一に備えて、それよりランクの落ちる魔法を使う事を思い立つ。

 

「ゲヘナの火に焼かれて、消し(ずみ)となれ……火炎光弾(ファイヤー・ボルト)ッ!!」

 

 敵に手のひらを向けて呪文の詠唱を行う。魔王の手のひらから煌々(こうこう)と燃えさかる(なし)くらいの大きさの火球が、傭兵めがけて放たれた。

 最強魔法でないとはいえ、アスタロトを一撃死させた必殺の炎だ。直撃すれば死は(まぬが)れない。

 

 期待通り魔王が魔法を唱えてくれた事にギースがニヤリと笑う。

 

「ファクトの鏡よッ! 魔法を反射せよ!!」

 

 背中の袋から一枚の手鏡を取り出して、正面に向ける。火球は手鏡に激突すると、飛んできた方向へと跳ね返された。手鏡は力を使い果たしたように粉々に割れる。

 魔王は自身へと跳ね返された火球を避けきれず食らってしまう。巨大な爆発に()まれ、一瞬にして火だるまになる。

 

「なッ……うおおおおおおおおッ!!」

 

 突然の出来事に思わず驚きの言葉を上げる。流石(さすが)に致命傷にはなっておらず炎はすぐに鎮火したものの、服があちこち焼け焦げており、ブスブスと音を立てて白煙を立ち(のぼ)らせた。髪はチリチリになっており、色男が台無しだ。皮膚も(かす)かにだが焦げている。そこからヒリヒリと痛みが湧く。

 

 ……それは彼がこの世界に来てから受けた攻撃の中で一番の威力だった。

 

(危なかった……もし唱えたのが火炎光弾(ファイヤー・ボルト)でなく絶対圧縮爆裂(アブソリュート・ディスラプト)だったら、俺は今頃(いまごろ)全身の皮膚が爆裂して死んでいただろう)

 

 命を失う危険性があった事に魔王が(きも)を冷やす。()えて相手の挑発に乗って最強呪文を唱えなかった自身の用心深さに感謝の念すら湧く。

 敵を()めすぎたのではないか、もっと本気で殺しに掛かるべきだったのではないかと後悔する思いに駆られた。彼はこの世界に来てから今までどの敵にも味あわされた事の無い、『恐怖』という感情を覚えた。

 

 ……ザガートがふと顔を上げると、ギースがすぐ目の前に迫っていた。魔王が動揺している間に一気に距離を詰めたのだ。その手にはトゲの付いた金属製の棍棒(メイス)が握られている。

 

「ティタンのメイスだッ! 食らいやがれ!!」

 

 そう叫ぶや否や、メイスを横()ぎに振るう。メイスは魔王の横っ腹にドグオッと音を立ててめり込む。

 

 大した痛みは無いと油断したのも(つか)の間、魔王の体が突然フワリと宙に浮く。山のように大きな巨人に指でつままれたかの(ごと)く、目に見えない力で何処かへと運ばれてゆく。

 

(何ッ!? これは……)

 

 正体が(つか)めない力に魔王が困惑する。どうにかして運ばれるのを阻止しようとしたが、手の(ほどこ)しようがない。

 それは殴った相手を任意の場所へと運ぶ『ティタンのメイス』の魔力によるものだが、魔王には知る(よし)もない。結局何の手も打てないまま運ばれて、床にストンと落とされる。

 

 魔王が落とされた床には何の(わな)(ほどこ)されていない。魔王は何か仕掛けがあるんじゃないかと慌てて周囲を見回したが、それらしいものは見当たらない。逆に目に付いたもの全てが怪しく思えてくる。

 不規則に散らばった瓦礫(がれき)、視界を(さえぎ)る、崩れかけた神殿の壁、階段を(のぼ)った段差にある、頭が吹き飛んだ女神像、草地にある()れかけた木……どれも疑いたくなるが、狙いを一つに絞れず、焦りばかりが(つの)りだす。

 予期せぬ出来事が続いて精神的に追い込まれた事が、辺り一帯を吹き飛ばすという考えを浮かばなくしていた。

 

 ……足元にある床のタイルにナイフで×(バツ)印に傷が付けられていた事に、魔王は気付きもしない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。