いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
ティタンのメイスの力によって、ある場所へと運ばれた魔王……そこはギースが『妖精の針』で標的を
敵の狙いが読めず焦る魔王だが、足元の床に付けられた
(3……2……1……今だッ!!)
傭兵がカウントダウンを終えた瞬間、ボウガンから矢が発射された。ビュウッと音を立てて放たれた矢の速度は非常に速く、着弾に一秒も掛からない。
矢の発射音に気付いてザガートが慌てて振り向いた瞬間、魔王のシルエットに矢が重なってドシュッと肉が刺された音が鳴る。トマトのように赤い血がボタッ……ボタッ……と
魔王は傭兵に背を向けたままピクリとも動かない。倒れるでもなく、悲鳴を上げるでもなく、刺されたポーズのまま映像を一時停止したように固まる。生きているのか死んだのか判別が付かない。
ルシル達は戦いを見届けながら一言も発しない。本来魔王が死んだかもしれない状況に悲鳴を発するべき所だが、真剣に見入ったあまり言葉が出ない。目をグワッと開いて一連の光景を凝視したまま、ゴクリと
誰も一歩も動かないまま、数秒が経過する。辺りはシーーンと静まり返り、場の空気が
(やった……
ギースが勝利を確信したのも
「クククッ……」
魔王が沈黙を破ろうとするように言葉を発する。それと同時に傭兵の方へゆっくりと振り返り、真実を見せる。
……ザガートは右腕を盾にして心臓を
矢の発射音に気付いた瞬間、
矢を引き抜くと、傷口はみるみるうちに
「フフフッ……フハハハハッ……ハァーーーッハッハッハァッ!!」
魔王が興奮気味に高笑いする。最初は声を押し殺すように、徐々に声量を上げていき、最後は大きな声を出す、いわゆる『三段笑い』をする。
これまで見た事が無いほど歓喜に満ちた表情をしている。人生で味わった事が無い喜びを得たように
死なずに済んだ事を喜んでいるように見えたが、そうではない。
「よくぞ……よくぞ俺をここまで追い込んだッ!
傭兵の健闘ぶりを称賛する言葉が口を
魔王の中にあったのは男への恨みではない。むしろ逆だ。
魔王は予想を
「……なんてこった」
ギースが残念そうに言葉を吐く。喜ぶ魔王とは対照的に、落胆したようにため息を漏らす。失意の奈落へと突き落とされて、ガクッと
魔王の反応速度が想定通りなら殺せる
「もうオシマイだ……アンタを殺す手段は一つも無くなった。煮るなり焼くなり好きにしろ」
地面に両手をついて下を向いたまま自暴自棄になる。手札を失った事を伝えて、戦意を喪失した素振りを見せる。
男がやる気を失った姿を見て、ザガートがズカズカと歩いていく。彼の前に立ち、声を掛けようとした瞬間……。
「……なぁんて、言うとでも思ったか!!」
ギースが大声で叫びながら顔を上げてニヤリと笑う。右腕に
「……そう来るだろうと思った」
相手の狙いが読めていたように魔王がサッと横に動いてかわす。攻撃を空振って
「バッ……ドブルゥゥゥゥァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」
傭兵が
殴られた衝撃で全身血まみれになり、あちこち骨が砕けている。立ち上がる力さえ残っていないのが一目で分かる。
今度ばかりは演技でなく本当に重傷を負っていた。それどころか何の治療も
ザガートは倒れた傭兵に向かって歩いていく。彼の前に立つと、腕組みしたまま勝ち誇ったように相手を見下ろす。服従しろと言いたげな視線を向ける。
「今度こそ本当にオシマイだ……
ギースが観念した言葉を吐く。息も絶えだえになり、
「……お前は殺すには惜しい男だ。俺とここまでやり合えた相手を他に知らない。もしこの先俺と互角に渡り合える勇者が現れなければ、お前を最強の人間と認定しても良いほどだ」
ザガートがギースの健闘ぶりを
「降伏しろ……そうすれば部下として取り立ててやらん事も無い」
厚遇する意思を伝えて、仲間に加わるよう
「魔王サンよぉ、馬鹿言っちゃいけねえ……俺はアンタを殺すために雇われたんだ。その俺が勝負に負けたからハイ降参しますなんて、そんなダッセェ
傭兵が魔王の誘いを即答で断る。何を馬鹿げた事をと言いたげに一笑に
「そうか……だがどうするつもりだ? 部下にならないと言うなら、俺も自分を殺そうとした相手を生かしておくほどお
魔王が
「死ぬ覚悟なら……とっくに出来てる」
ギースがそう口にしてニッと笑う。欠けた奥歯に埋め込んであった小石のようなものをベロで取り出して、力任せにガリッと噛み砕く。次の瞬間……。
男の体が一瞬
「なっ……何だとぉぉぉぉおおおおおおーーーーーーーーっっ!!」
突然の出来事にレジーナが声に出して驚く。予想外の結末に動揺せずにいられない。
ルシルもなずみも、こわばった表情のまま固まる。大きな爆発を前にして言葉も出ない。
ザガートは爆風に
一瞬、男が爆発に
(他人に服従して生き長らえるより、誇りある死を選んだという訳か……)
傭兵の死を確信して深く残念がる。才能ある人物を仲間に出来なかった事に、欲しいものが手に入らないモヤモヤを抱く。
ザガートは衣服のポケットに手を突っ込んで、一枚のコインを取り出す。ギースが戦いが始まる前に捨てたのを拾い上げたものだ。
「……
そう口にすると、男が死んだ地点に向かってコインを放り投げる。
……コインはころころと地面を転がっていき、表を上に向けて倒れた。
「ホッホッホッ……やはり彼では駄目だったようですねぇ」
ザガートが
その者はトランプのジョーカーのようなピエロの格好をしていた。声も、顔も、口調も、仕草も、何もかもケセフに
ケセフが赤い服を着ていたのに対して、彼は緑色の服を着ていた。それで別人だと分かる。
「貴様……何者だ」
ザガートが敵視するような目で相手を
「ホッホッホッ……お初お目に掛かります、異世界の魔王。私はカフカ……貴方に殺されたケセフの弟にして、魔王軍十二将の一人。
道化師が自らの素性を明かす。ケセフと血の繋がりがある事、魔王軍の幹部だという事、ギースの依頼主である事実……それらを包み隠さず教える。
「ギースは素晴らしい戦士でした。それは認めましょう。ですが彼の力を
傭兵の実力に一定の評価を下して、魔王を仕留められなかった事を深く残念がる。
期待通りの成果が出なかった事を
彼に殺せない相手なら、他の誰を雇っても殺せはしない……そう感じさせる結果となった。
「それで頼みの
ザガートが小馬鹿にするように問う。本気でそうする
「ホッホッホッ……ご冗談を。手札は常に複数枚用意しておくものです。兄もそうしたでしょう? 私も同じですよ。貴方を殺す手段は一つだけではないという事です」
魔王のジョークをカフカが笑い飛ばす。相手の挑発に乗せられてマジギレしたりしない。ギース以外にも魔王にぶつけるカードを用意していた事を告げる。
「暗黒魔獣よ……出てきなさいッ!」
そう言いながら合図を送るように指をパチンと鳴らす。
「……グルルルゥゥゥ」
道化師の合図を受けて、炎の中から巨大な何かが
……それは大人のライオンより
黒い大きな獣が四足歩行する姿は、かつてのケルベロスを
「恐るべき魔界の獣……その名も『
カフカが魔獣の詳しい説明を行う。以前ザガート達が戦った三つ首の獣と同等の強さを持つ事を雄弁に語る。
「さあ、我が忠実な
「グルルゥゥゥゥァァァァアアアアアアーーーーーーーーッ!」
魔王を指差して処刑を命じる。カフカの命を受けて、チーターの化け物がけたたましい
「ゲヘナの火に焼かれて、消し
魔王が敵に手のひらを向けて攻撃魔法を唱える。魔王の手のひらから
「ウギャアアアアアアアアッ!!」
一瞬にして地獄の炎に包まれたチーターが、この世の終わりと思えるほどの絶叫を発する。火球が激突した衝撃で後ろに吹き飛ばされて地面に叩き付けられると、痛みから逃れようとするように体をのたうち回らせたが、数秒と
死体は完全に炭化しており、ボロボロと崩れ落ちて灰になる。一陣の突風が吹き抜けると風に飛ばされて散っていった。
ザガートは敵が跡形もなく消えた光景をじっと眺めた後、カフカの方へと振り返る。
「ケルベロスに引けを取らないから……何だと言うのだ?」
ゴミを見るような目で相手を見ながら、冷たい口調で言い放つ。大した強さじゃない敵を差し向けてきた道化師を心から
魔王は三つ首獣に苦戦などしていない。その三つ首獣と同じ強さだと言われても、彼にとっては何でもない話だった。
魔王に正論をぶつけられて、反論できず押し黙るカフカだったが……。
「……クソが」
そんな言葉が口を
「よくも……よくも俺様をコケにしてくれたなぁっ! 許さねえ……
顔を上げてグワッと目を見開いた阿修羅のような顔になると、聞くに
最後の手札を残してあった事を告げると、
「この中には恐ろしい悪魔が封印されている! アスタロトを
黒い球体が何なのかを詳細に明かす。凶悪な魔神が封印されている事を伝えて、それをザガート達にぶつけるつもりでいた事を教える。彼らが残忍に殺される姿を想像して、心の底から嬉しそうに高笑いした。
話を終えるとカフカは球体を勢いよく地面に叩き付ける。球体がガラスのような音を立てて割れた瞬間、カッと
「なん……だと!?」
目に入り込んだ光景にザガートが驚きの言葉を発する。予想外の展開に動揺を隠しきれない。
そこに一人の若い少女……いや大人の女性が寝そべっていた。