いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
ギースを倒したザガートの前に、ケセフの弟カフカが姿を現す。傭兵に魔王抹殺を依頼した張本人である事実を明かす。黒いチーターの化け物を呼び出して魔王の処刑を命じたものの、チーターはいともたやすく返り討ちにされてしまう。
配下の魔獣を倒された事にカフカが激高する。
地面に叩き付けられた球体が粉々に砕けて、悪魔の封印が解ける。
「なん……だと!?」
視界に入り込んだ光景にザガートが驚きの言葉を発する。それもそのはず、醜悪な魔神のイメージからは程遠い、一人の若い女性が大地に寝そべっていたからだ。
その女性、見た目は二十七歳くらいで、赤い『着物』と呼ばれる和服を着ている。胸元ははだけており、常に右肩を出して、腰の
性的にだらしなそうな服装は『
東洋人のような肌色をしていたが、色が濃い目で、褐色肌との中間的な小麦色の肌だ。身長は百六十センチ程度で、全身の肉付きが良い。セクシーな抱き心地の良さを思わせる。
黒髪のおかっぱ頭で日本人の顔付きをしていたが、頭に鬼の
「ふぁーーーーあっ……なんじゃ全く、
鬼の女がけだるそうにあくびしながら目を覚ます。地べたに
カフカに切り札として呼ばれたというのに、全く緊張感が無い。とても魔王一行を皆殺しにする悪魔の姿とは思えない。
老婆のような独特の喋り方をしており、見た目より相当長生きしているのが分かる。さながら『のじゃロリ』ならぬ『のじゃババア』と言った所か。
「貴様……何者だ?」
ザガートが
「フッフッフッ……よくぞ聞いてくれたのう」
魔王の問いに女が不敵な笑みを浮かべる。よっぽど自分が何者か教えたくてウズウズしたようだ。
「
腰に手を当てて誇らしげなドヤ顔になりながら、ノリノリで自己紹介する。東洋における魔王のような存在であった事を明かす。
「かつて日本で暴れ回った時、モモタロウと名乗る
桃太郎という人物と戦って敗れた事、それによって現在まで封印されていた事を教える。
(フーーム……俺が元いた世界の桃太郎に『鬼姫』などという人物はいなかったが、こっちの世界では違ったらしい)
ザガートが
「オイ、何をゴチャゴチャと無駄話している! せっかく封印を解いてやったんだ! さっさとそいつを殺さないかッ!!」
一向に戦いが始まらない事にカフカが
「やかましい! 汚い
鬼姫は目をカッと見開いて大きな声で一
「へぶるぁぁぁぁぁぁああああああああっっ!!」
カフカが
「お主、妾を誰じゃと思うておる! 恐れ多くも、東の妖怪の王じゃぞ! 貴様
自分を高圧的な態度で従わせようとしたカフカを、鬼姫が大声で怒鳴り付ける。道化師の命令に従う意思が無い事を明確にする。封印を解かれた事に恩義を感じる様子は
「それで鬼姫とやら……ヤツの命令に従わぬというなら、お前はこれからどうする気だ?」
ザガートが彼女の今後の方針について問う。
「……んっふっふっふっふーーーん」
魔王の問いかけに鬼姫が意味ありげに
「ザガートとやら……お主の事は聞き及んでおるぞ。なんでも異世界から来た最強の魔王だそうじゃな。我は二百年眠っておったが、外の世界の事は夢で見ておったからのう」
まじまじと相手を観察しながら、魔王について知っていた事を明かす。
「魔王よ……今から
自信満々に相手を指差しながら、仰天の発言が飛び出すのだった。
「俺と勝負……だと!?」
魔王が一瞬我が耳を疑う。とても正気の言葉とは思えず、困惑せずにいられない。
いくら鬼姫が強いと言っても、魔王からすれば完全に格下の相手だ。ネズミに勝って
互いの力量差を理解していないであろう女の発言はあまりに無謀だった。
(オーラの量を見る限り、鬼姫の強さはアスタロトのおよそ二倍……だが俺はヤツの二十倍ある。つまりこの女の強さは、俺の十分の一程度……という事になる)
生物はそれぞれ強さに応じた量のオーラを発しており、それらは普通の人間には目視できないが、ザガートなら見る事が出来る。それによりアスタロトの何倍の強さか、大まかに判定する。
「……それでお前はもし勝負に勝ったら、俺に何をさせるつもりだ?」
魔王はゴホンと
「……知りたいのなら教えてやる。知っての通り、
魔王の疑問に鬼姫が答える。自分以外の鬼が死んでしまった事、
「我は何としても一族を再興せねばならぬ。その
思い直したように顔を上げると、滅亡を回避する打開案として、屈強な遺伝子を持つ男性とセックスする考えがあった事を明かす。
「魔王よ……もし
魔王を自信満々に指差すと、先ほどの疑問への回答として、魔王との間に子を作る計画があった事を口にする。とても良いアイデアを思い付いたと言わんばかりに
「なっ……何ぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいっっ!?」
レジーナが驚きのあまり大きな言葉を発する。その声量はあまりに大きく、大地が揺れて、空気がビリビリと振動する。空を飛んでいたカラスの群れが空気の振動に驚き、慌てて反対方向へと逃げていく。
これまで黙って話を聞いていた彼女であったが、鬼姫のあまりに突拍子もない発言に動揺せずにいられない。
「きっ……貴様、魔王とあんな事やこんな事をして、気持ちよくなってスッキリした挙句に子供を産むだと!? ふざけるなッ! そんな事、断じてさせてたまるかッ! そんなにオスの子種が欲しけりゃ、そこいらの男でも捕まえて好きなだけヤッてろ! この淫乱エロババアがッ!!」
興奮した猛牛のように鼻息を荒くして顔を真っ赤にしながら猛抗議する。とても王女とは思えない汚い言葉を吐いて、鬼姫を徹底的にこき下ろす。見た目も性格も完全に
「
「抜けがけは許しません! ザガート様は私達のものです!!」
なずみとルシルが後に続くように口を開く。王女の言葉に賛同し、いきなり現れた痴女に愛する者を奪われまいとする。
「かよわき人間のメスどもが、いっちょまえにしゃしゃり出るでない! 人間と悪魔が子を作るより、鬼と悪魔が子を作ったほうが良いに決まっておろう!!」
鬼姫も負けてはいない。三人を前に一歩も引かず、理屈を並べ立てて反論する。人外である自分こそ魔王の子を産むに相応しいと主張する。
一人と三人は互いに一歩も譲らず大きな声でギャーギャー
「お前達、いい加減にしないか! このままでは
ザガートが両者の間に割って入る。自分そっちのけでケンカを始めた彼女達を止めようとした。三人は大人しく引き下がったものの、鬼姫は不満げにブツクサと文句を
魔王は一旦場を収めると、鬼姫の方へと振り返り、冷静に口を開く。
「鬼姫よ……お前の考えは分かった。だが
遺伝子目当てのセックスを強要されるのも心象が良くない。それは魔王にとって極めて不本意な事だ。いくらくさそうな美女とセックスできるからといって、安易に喜べる話ではない。断る以外に選択肢など無かった。
「フフッ……
鬼姫が得意げに鼻息を吹かせながら強気な笑みを浮かべる。魔王が反骨心を見せてくれた事を心から喜ぶ。勝負に打ち勝って一族を繁栄させる光景を想像して胸を
……それまで床に倒れていたカフカがムクッと起き上がる。意識はハッキリしており、気絶したフリしたまま話を聞いていた彼だったが、戦いに巻き込まれぬよう崩れかけた神殿の壁にササッと身を隠す。
(……もうこの
鬼姫が勝ってくれるよう願いながら、戦いを見届けるのだった。
「悪いが手加減できぬぞ……どうせ殺してしまっても、後で生き返らせてやれば済む話なのじゃからな……フッフッフッ」
鬼姫が邪悪な笑みを浮かべて殺意を
彼女のすぐ
「名刀マサムネ……これに並ぶ刀は五振りと存在しないと伝えられる、伝説の刀じゃ! その切れ味は腕の立つ者によって振るわれれば、アダマンタイトをも切り裂くという……元はモモタロウの愛刀じゃったが、封印される間際に
鬼姫が刀について詳細に教える。かの国において語り継がれし伝説の刀なのだという。それを武器として使う事を告げる。
「
死を宣告する言葉を発すると、正面の敵に向かって全速力で駆け出す。近接戦の間合いに入ると、刀を高く振り上げて魔王の
刃先が触れようとした瞬間、魔王の姿がワープしたようにフッと消える。刀は誰もいない床をガッと切り裂いて、石ころと砂が大量に飛び散る。
「!? ヤ……ヤツは何処じゃ!!」
敵を見失った事に鬼姫が慌てふためく。予想を上回る相手の速さに動揺しながら左右をキョロキョロ見る。
「俺はここだ……」
声が聞こえた方角に慌てて振り返ると、五メートル離れた女の背後に魔王が立つ。相手の攻撃に一切動じる事なく、腕組みしたまま余裕の表情で見下ろす。
「こっ……このぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーーっっ!!」
鬼姫が悔し
ザガートはサッと横に動いて相手の斬撃をかわす。大振りの一撃を空振った鬼姫がバランスを崩して前のめりに転びそうになる。
「フンッ!」
魔王は
「のわぁぁぁぁぁぁあああああああああっっ!!」
鬼姫が驚くあまり
刀は彼女の右手に握られたままであり、手元から離れてはいない。
「散々大口を叩いておいて、その程度とはな……これならギースの方がまだ骨があったぞ」
地面に倒れていた鬼姫がゆっくりと上半身を起こす。両腕を支えにして二本の足で立ち上がると、相手の方へと向き直る。
彼女の表情は怒りに満ちている。顔を真っ赤にして両肩をプルプル震わせると、目に涙が浮かんで今にも泣きそうになる。
「……よくも」
ボソッと小声で
「よくも……よくも
腹の底から湧き上がる憤激を声に出してブチまけた。鬼族のプライドを
「ぬぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーーっっ!!」
気迫の
「おりゃりゃりゃりゃーーーーーーーーっ!!」
勇ましい掛け声と共に、両手で握った刀をブンブン振り回す。高速の連撃を放って相手をメッタ斬りにしようとする。
ヤケクソ気味に振られた剣を魔王が紙一重でかわす。完全に相手の動きを見切っており、華麗にダンスを踊っているようにヒラヒラと避ける。一撃たりとも当たりはしない。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
やがて鬼姫の刀を振る腕が止まる。呼吸は乱れ、全身からブワッと汗が噴き出て、表情には疲労の色が浮かぶ。足がガクガク震えており、立っているのもやっとだ。体力が底を尽きたのが一目で分かる。
「そらっ」
ザガートは小馬鹿にするように声を発すると、疲れて動けなくなった鬼姫の
「ぐああああああああっ!!」
鬼姫が大きな悲鳴を上げながら後ろに吹き飛ばされる。地面に叩き付けられてゴロゴロと転がっていった挙句、仰向けに倒れたまま動けなくなる。吹き飛ばされた
「ううっ……」
女が痛そうに声を漏らしながら
鬼族の王を軽く吹き飛ばしたデコピンの威力は凄まじいものだ。もし受けたのが普通のデーモンなら、首から上が
「お前に勝ち目など無い……いい加減、諦めて降参したらどうだ」
倒れたまま起き上がらない女に魔王が降伏を勧める。力の差は歴然としており、戦いを続ける事の無意味さを説く。
「……まだじゃ」
鬼姫がそう
「我は東の国を
決して引き下がれないプライドがある事を口にして、気迫によって奮い立ったように二本の足で立ち上がる。怒りで闘志に火が
何か策を思い付いたのか、刀が落ちた場所に向かって全力で走り出す。床に落ちた刀をすかさず手で拾い上げる。
「これでも食らうがよいわ!!」
そう叫ぶや
「フンッ!」
魔王は余裕ありげに鼻息を吹かすと、飛んできた刀を水平チョップで弾く。カァァーーーンッ! と音を立てて弾かれた刀が宙を舞う。
攻撃を防がれても鬼姫は慌てる様子が無い。それどころか意味深にニヤリと笑う。
クルクル回転しながら地上から十メートルほど離れた上空を舞った刀が、ザガートの真上でピタリと止まる。刃を下に向けたまま垂直に落下する。自ら意思を持ったように魔王の脳天に突き刺さろうとする。
「ザガート様ぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」
魔王が
鬼姫は自らの勝利を確信する。その瞬間――――。
ザガートは正面を向いたまま、頭上に落下してきた刀の刃を素手で
魔王は一連の出来事に全く動揺していない。最初からそう来ると読んでいたような落ち着いた対処ぶりだ。
「直接手を触れずに刀を操るとは、面白い術だ……だが不意打ちで殺されるような俺ではない」
魔王が余裕に満ちた言葉を吐く。相手の能力に感心しながらも、奇襲では自分を殺せない事を説く。
「……」
鬼姫は下を向いたまま男の言葉に反論しない。しばし物思いに
刀を手放すと、数歩前へと進む。
「……これまではほんの小手調べに過ぎん。我の本分は剣術ではなく魔法なのじゃからな……ここからが我の力の見せ所じゃ」
今までの戦いが本気では無かった事、魔術においてこそ本領が発揮される事を告げる。
「鬼族の力……目に焼き付けて死ぬがいい!!」