いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
「我が魔力……とくとその目に焼き付けるがいい!!」
鬼姫はそう口にすると両手を組んで人差し指を垂直に立てて、呪文のような言葉を唱えだす。魔法を発動させる準備動作なのか、彼女の全身がメラメラと赤く燃える炎のオーラに包まれる。下から風が吹いたように着物がバサバサと揺れる。
「我が力よ……炎の龍となりて全てを焼き尽くせ!
魔法の言葉を叫ぶと、彼女の全身を覆ったオーラが正面へと集まっていき、凝縮されて炎の
全身が炎で出来た龍は蛇のように巻き付いて、相手を焼き尽くそうとする。ゴブリンなら触れれば一瞬で火だるまになって焼死する超高熱の火炎だ。
「フンッ!」
ザガートは
魔王は間違いなく炎に触れられたはずだが、全くの無傷だ。まるで何事も無かったかのように平然と立っている。
「炎が得意な俺に炎の魔法で立ち向かおうなどとは、勘違いも
皮肉めいた言葉を吐く。効かない魔法をぶつけてきた相手に侮蔑の眼差しを向ける。
「グッ……ならばこれはどうじゃ!」
鬼姫は一瞬悔しげに下唇を噛んだ後、すぐに次の動作へと移る。両手で
「風の精霊よ、
彼女が魔法の言葉を唱えると、かまいたちのような真空の刃が、ヒュンヒュンッと風を切る音を鳴らしながら飛んでくる。およそ二十枚ほどあるように見えたそれは、ザガートを取り
鬼姫が勝利を確信したようにニヤリと笑う。
魔王は四方八方から迫り来る真空の刃になす
あくまで見えただけだ。風のカッターが直撃しても、魔王は
「どうした……それで終わりか? その程度の攻撃、俺には通用せんぞ」
ザガートが腕組みしたまま余裕の表情で相手を見下ろす。攻撃を受けた事実など無かったかのようにピンピンしている。
風の魔法を受けた時、魔王は一切回避行動を取らなかった。防御結界を張り巡らす事なく、相手の好きなようにさせた。
にも関わらず鬼姫の術は、魔王に深手を負わせる事が出来なかった。男は素の肉体の打たれ強さだけで、相手の攻撃を無傷で
「ええい、まだじゃ! まだなのじゃ!!」
鬼姫が大きな声で叫ぶ。表情に焦りの色が浮かび、
自身の中に湧き上がった『敗北』の二文字を打ち消そうと
「青き光よ、雷撃となりて我が敵を
正面に右手をかざして攻撃呪文を唱える。彼女の手のひらがバチバチッと音を立ててスパークすると、そこから青く光る一筋の
雷は目にも止まらぬ速さで魔王めがけて一直線に飛んでいく。並みの人間なら打たれれば感電死する、落雷と同じ威力の雷撃だ。
「
ザガートが両手で
雷撃はバリアに触れると、飛んできた方向へと跳ね返された。そのまま術の唱え主である鬼姫に命中する。
「あびゃぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーっっ!!」
高圧電流にその身を焼かれた女が激しく
致命傷には至らなかったものの、皮膚はあちこち焦げており、衣服はボロボロだ。鬼族の
「魔法戦は俺の
ザガートがフフンッと得意げに鼻息を吹かす。魔法が自らの本分である事を教えて、相手の得意分野に勝負を持ち込んだ女の判断ミスを指摘する。
「鬼姫、もうやめにしないか……お前がどうあがこうと、俺に勝てる見込みは無い。お前の種馬になってやる気も無い。一族の再興など諦めて、とっとと故郷に帰れ」
彼女を深く傷付ける事は魔王の本意ではない。大人しく
「……もうよい」
鬼姫がボソッと小声で
「……一族の再興も、貴様を
顔を上げて目をグワッと開いた阿修羅のような表情になると、胸の内に湧き上がった怒りを声に出してブチまけた。もはや魔王の子種を
完全に頭に血が
鬼姫は再び武器を使う戦術に切り替えたように、一旦は大地に刺していた刀を手で引き抜く。それを魔王に向けて構える。
「我を怒らせた事、後悔しながらあの世へ行くがいい!! 我の最大奥義、受けきれるものなら受けてみよ!」
女はそう叫ぶと、右手に持った刀を頭上に掲げてプロペラのようにクルクル回した後、今度は
「鬼龍剣奥義……
技名らしき言葉を口にすると、刃が刺さった地面から黒い影のようなものがみょーーんと伸びていく。それは魔王の真下に来るとみるみる大きくなっていき、半径五メートルほどの大きな丸い影となる。さながら黒い沼が出現したかのようだ。
直後魔王の真下にある影から、巨大な『何か』が顔を出す。
それは体長十メートルを超す、竜のように大きなイリエワニだった。体は漆黒に染まっており、技名通り影のワニである事を思わせる。
彼は地中を掘り進んできた訳ではなく、文字通り影の中からワープしたように出てきたのだ。
「グァァァァアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」
ワニの化け物が大きく口を開けて魔王に襲いかかる。魔王は一切抵抗しようとせず、棒立ちのまま巨大なワニに頭から丸
ワニは魔王をゴクリと呑み込んで満腹になったようにゲップを吐くと、影の中へと戻っていく。いつまで
「………」
魔王が丸呑みにされた光景を、三人の少女達が黙って見ていた。一瞬何が起こったのか全く分からず、
「クククッ……」
「フフフ……ハハハッ……ハァーーーッハッハッハァッ! 見たか! これぞ我の究極奥義……その名も
いかにもな悪党らしい三段笑いをした後、技の性能について口を開く。影の魔獣が自らの
「魔王は死んだッ!
敵を倒した事を声高に宣言して、心の底から満足したように高笑いした。
これまで胸に抱えていたモヤモヤが晴れてスッキリしたような、晴れやかな表情になる。全身の血管が沸き立つほど憎んだ相手を殺せた事に、便秘が解消されたような爽快な気分になる。解放感のあまり鼻歌を
勝利の喜びに
「……ん?」
ある異変に気付く。ワニの出現口である丸い大きな影が、いつまで
「はて、おかしいのう。ワニが異空間に戻れば、影は消失するはずじゃが……」
女が首を
「グッ……ウギャァァァァァァアアアアアアアアッッ!!」
影から突然けたたましい絶叫が発せられた。あまりの声の大きさに女が一瞬驚いて、慌てて後ろに下がる。
化け物の断末魔の悲鳴と思しきそれが聞こえた後、影から人のようなものがぴょーーんとジャンプしながら出てくる。すると影がだんだん小さくなっていき、最後は跡形もなく消える。
影から出てきた人はスタッと着地すると、女の方へと振り返る。右手には巨大な黒い
「なかなか面白い技だった……食らったのが俺でなければ死んでいただろう」
男がそう口にしてニッコリ笑う。その人物こそワニに呑み込まれて死んだはずの魔王に他ならない。魔獣の腹の中に入ったのに、消化された形跡が全く無い。胃酸に触れられた事実など無かったかのようにピンピンしている。
「そらっ、鬼姫。お前にプレゼントだ」
ザガートはそう言うと、手に持っていた黒い塊のようなものを鬼姫に向かってポイッと放り投げる。それはクルクル横回転しながら飛んでいき、鬼姫のすぐ横にある地面にドシャッと音を立てて墜落する。明らかに無機物ではない、ナマモノの質感だ。
「……ひっ!!」
自分の真横に投げ付けられた物体を目にして、女が顔面
……それはザガートに襲いかかったワニの生首だった。首から下が力ずくで
魔王が圧倒的な力でワニを返り討ちにして生還した事は一目瞭然だ。
「あああっ……あっ……」
手下の魔獣を殺された事に、鬼姫が声に出してうろたえる。表情がみるみる絶望の色に染まっていき、目にうっすらと涙が浮かんで今にも泣きそうになる。恐怖のあまり腰を抜かしてしまい、地べたに
「い、嫌じゃ……我、死にとうない……死にとうない」
影鰐を破られた事に相当ショックを受けたようだ。もはや彼女の中に魔王に立ち向かう気力は一ミリも残っていない。
魔王が無言のままズカズカと女に向かって歩いていく。侮蔑するような眼差しで相手を見下ろす。軽く
「わ……我が悪かった! これまでの非礼は全て
鬼姫が土下座して許しを
「ほう……何でも言う事を聞く……か」
女の言葉を聞いて、ザガートがニヤリと笑う。良からぬ
「ならば鬼姫よ……俺の部下になれ。これから一生、忠実な手足としてこき使ってやる。それが
命を取らない条件として、自分の配下に加わるよう命じる。
「わ、分かったのじゃ……もう二度と逆らうようなマネはせぬ! 今後一生かけてお主に尽くさせてもらう! 身の回りの雑用でもパシリでも、何なら夜の世話でも、好きなだけこき使うがよい!!」
鬼姫が即座に顔を上げてウンウン
「では最初の命令だ……そこで隠れて見物しているカフカを殺せ!!」
ザガートは崩れかけた神殿の壁を指差し、魔王軍の幹部の抹殺を命じる。
「ひっ……ひぃぃぃぃいいいいいいっ!!」
物陰からひょっこり顔を出して一部始終を眺めていたカフカが、情けない悲鳴を漏らしながら飛び出す。一行に背を向けて、慌てて走り去ろうとした。
「逃がさぬッ!」
鬼姫は地面に刺さっていた刀を手で引き抜くと、道化師めがけて投げ付ける。ヘリコプターのローターのように横回転しながら飛んでいった刀は、カフカの首をスパーーンと
「……ッ!!」
首を撥ねられたカフカは断末魔の悲鳴を発する間もなく、傷口から真っ赤な血を噴いて倒れる。首から下の胴体はピクリとも動かず、地面に転がった頭は恐怖に染まった表情のまま固まっている。
男が息絶えると、彼の頭上にある空に青い光が集まっていく。それはやがて一つの宝玉へと変わっていき、ゆっくり降下していって魔王の手元に収まる。
「どうじゃ? 魔王よ……
鬼姫がそそくさと魔王の元へ向かい、上目遣いで相手のご機嫌を
「ああ、よくやった。上出来だ。これからも俺の
ザガートが穏やかな眼差しを向けながら、女の頭を優しく
鬼姫は仕事ぶりを
(おい、大丈夫か!? こんな
レジーナが
(安心しろ……少しでも裏切る素振りを見せたら、即座に首を
ザガートが王女の疑問に小声で答える。女が裏切ったら容赦なく殺す方針である事を伝える。
二人の会話は鬼姫に聞こえており、彼女はゾワッと背筋が凍る思いがした。この先何があろうと、魔王を裏切る事はすまい……そう決意を固くするのだった。
魔王は戦いの終わりを確信し、ふと思い出したようにギースが死んだ場所に目をやる。自爆時に噴き上がった炎は沈下しており、地面に焦げ跡が残っているだけだ。それが
(一匹の毒蛇を逃がし、代わりに
そう心の中で