いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
鬼姫を仲間に加えたザガート達一行は一旦ゼタニアの町へと戻る。冒険者ギルドの
ギースから決闘の申し出があったため一旦保留になっていた依頼を改めてこなす事に決める。魔物にたびたび襲われた村を救うため町を離れるのだった。
町を出たザガート達が南に数キロ歩いて森を抜けると、目の前に大きな山が立つ。その
村へと近付いていき、村を覆った
ザガート達が中に入っても、出迎える者はいない。これまで救世主が訪れるたびに歓待を受けた事を思えば異例なほどだ。むろん村人が一人もいない訳ではなく、彼らが外にいる姿を見かける。にも関わらず、誰も一行に駆け寄ろうとしないのだ。
子供から大人、老人に至るまで
ザガート達の姿を見て落胆した訳ではない。一行が村を訪れた時、彼らは
「これは一体……」
村の異様な姿を目にして、レジーナが声に出して
「なんかこの辺一帯の空気が、どよーーんとしてて重いッス。
なずみが思わず口元を押さえながら、自分が覚えた違和感を口にする。村に吹き抜ける風が
「フン……邪悪な術の気配がプンプンするわい。村全体を覆うように呪いが掛けられておる。
鬼姫が気に食わなそうに鼻息を吹かせながら、村に呪いが掛けられた事を伝える。普通の人間には空気が汚れた事しか認識できないが、彼女ほどの魔力持ちともなれば、何が起こったかを正確に把握できるようだ。
一行が言葉を
「お姉ちゃん達、ここにいちゃダメ……」
少女が警告の言葉を発しながら、よろよろと歩いてくる。表情は死人のように青ざめており、足取りはおぼつかない。体に変調を
それでも少女は力を振り絞って歩いていたが、ザガート達まであと数歩の所でバタッと倒れてしまう。
「おい、大丈夫か!!」
レジーナが血相を変えながら慌てて駆け寄る。他の者も後に続く。
ルシルが少女を抱き起こす。少女は目を閉じたままウンウンうなされており、何らかの病気に
「精霊よ、傷を
ルシルが少女の胸に手を当てて回復の呪文を唱える。青い光が少女の体を優しく包み込む。
だが癒しの光に包まれたにも関わらず、病気は一向に治る気配が無い。少女は目を閉じたまま苦しそうにうなされているだけだ。やがて病気の治療を諦めたように光が消えてなくなる。
「そんな……どうして!!」
病気を治せなかった事にルシルが困惑する。魔法で治癒できると確信を抱いたにも関わらずそうならなかった事に、自分の力が至らなかったのではないかと胸が激しくざわついた。
どうすればいいか分からず、少女を抱きかかえたままうろたえる。助けを求めるようにキョロキョロと周囲を見回す。このまま彼女を死なせてしまうのではないかと焦りが
慌てる仲間に助け
「また一人、犠牲になってしまったか……」
老人は倒れた少女を目にするや
「老人……この村で何が起こったか、詳しく話してくれないか」
明らかに事情を知っているらしき
「お
老人が
「以前この村に魔物が攻めてきた時期がありました。襲ってきたのはゴブリン、オーク、スライム……いずれも低級の魔物です。彼らは群れをなして襲ってきましたが、我々も武器を手に取り戦い、彼らを撃退しました。自分達の力で村を守ったのです。その時はそれでカタが付くと、そう思っていました」
カルタスが村の事情について説明を始める。村に魔物の群れが襲来した事、それを自力で撃退した事を伝える。
「……ですがある日、彼らの
魔物のリーダーであるデーモンがやってきた事を口にする。村全体を覆うように掛けられた呪い、それにより村の住人が体に変調を
「このままでは村が全滅すると踏んだ我々は、ギルドに
冒険者ギルドに討伐の依頼を出した事、しかし誰も魔物を倒せなかった事、それらの事実を無念そうに語る。
村長の口ぶりから察するに、ギルド長ドーバンが予想した通り、デーモンが魔王軍の幹部である事は間違いなさそうだ。
「結局、デーモンを倒せる者は一人もいませんでした。このままでは、我々は死を待つだけになってしまう……ですがもう、どうする事も出来ないのです……ゴホゴホッ!」
村長は悲しげに顔をうつむかせると、村の未来を悲嘆した言葉を吐いて話を終わらせた。最後は病気に侵された事実を生々しく伝えるように
ガクッと肩を落とす老人の姿は何とも
「………」
話を聞き終えて、ルシル達が思わず黙り込む。村長にかける
村人が味わった苦しみを知らされて、彼らがどれだけ辛い思いをしたか想像し、胸が痛んだ。罪なき人々を
「……胸糞が悪くなる話だな」
ザガートが思わずそう口にする。声に怒気を含んでおり、表情がみるみる怒りの色に染まる。
黙って村長の話に耳を傾けていた彼であったが、内心ではデーモンに対する怒りをフツフツと煮え
「村長、もう何も心配する必要は無い。俺に全て任せてくれ。この村に掛けられた呪いを今すぐ解いてやる」
前に一歩踏み出して村長の肩に手を掛けると、頼もしい言葉を吐く。自分ならデーモンの力に対抗できる事を強い口調で伝える。
魔王はズカズカと歩いていって表通りのド真ん中に立つと、天を仰ぐように両腕を左右に広げたポーズを取る。
「我、魔王の名において命じる……呪いよ消え去れッ!
その構えのまま大きな声で叫ぶと、彼を中心として白い光が村全体に向けて放たれた。すると村に吹き抜けていた
「全ての毒よ、聖なる力により浄化されよ……
続いて両手で
家の外にいた村人が、その光に触れた途端……。
「おっ……おおおおおっ!」
歓喜の言葉が漏れ出す。それまで死人のような表情を浮かべていたのが、一転して明るい笑顔へと変わる。重い荷物から解放されたように背筋がピンと伸びて、体がシャキーーンと活力に
「んっ……お姉ちゃん?」
ルシルに抱かれていた少女も目を覚ます。眠たそうに
魔王の術は村に掛けられた呪いを解くだけでは
「おっ……おおっ……うおおおおおおおおっ!!」
感極まった村の住人達が大きな声で叫ぶ。体調が良くなった感動のあまり
「ありがとう! ありがとう、異世界の魔王様っ!」
「アンタは村を救った英雄だ!」
「ありがたや……ありがたや」
「この村は貴方がたの来訪を心より歓迎するっ!」
感謝の言葉が口から漏れ出す。
数十人の村人は魔王を取り
「良かった……」
村人が喜ぶ姿を見てルシルが安堵の笑みを浮かべていると……。
「ささ、アンタ達もこっちへおいで! おいしい料理作ってあげるよ!」
「旅の話を聞かせてくれ!」
「お姉ちゃん達、一緒に遊ぼう!」
胴上げに参加しない村人が少女達の方へと集まってくる。それぞれ思い思いの言葉を口にしながら彼女達の手を引っ張る。
ルシル、レジーナ、なずみは村人に連れて行かれ、鬼姫だけがその場に残る。
「やれやれ、全く……ヒト族は
一人ポツンと取り残された鬼姫が
彼らから距離を置こうと鬼姫がスタスタ歩き出した時、何者かが着物の
その少女は先ほど一行が助けたメイという女の子だ。鬼姫を珍しいものを見るような目でじーーっと見る。声を掛けようかどうか迷ったように上目遣いで彼女の方を向いたまま体をモジモジさせた。
少女のすぐ後ろに、同じくらいの年代の子供が四人いる。少女の友達だろうか。
「お姉ちゃん……あたし達と鬼ごっこして遊ぼう」
メイが勇気を振り絞ったように顔を上げて口を開く。自分達と一緒に遊ぶよう誘う。
「何じゃ……ごっこもなんも、我は本物の鬼じゃぞ? お前達を食ろうてしまうやもしれん。お前達、
鬼姫がイタズラ半分に子供を
「怖くないよ。だってお姉ちゃんが怖い人だったら、魔王様が連れて歩いたりしないもん」
メイがニッコリ笑いながら答える。善良な魔王が従えている事を根拠として、鬼姫が自分達を襲わないだろうと確信を抱く。
「それに……あたしの死んだお姉ちゃんにソックリだから」
大好きだった肉親に似ていた事も、少女が女を恐れない理由の一つだろう。
「フン……全く、しょうがないのう。お前達といると、どうも調子が狂うわい。だがまぁ、我もちょうど
鬼姫が困ったような顔をして尻を手でボリボリ
「やったぁ! わぁーーーい!」
メイが嬉しそうに大はしゃぎする。胸に湧き上がる感動のあまりウサギのようにピョンピョン跳ね回ると、女の手を強く引っ張って、子供達の遊び場である空き地に連れて行こうとする。他の子供達は彼女を後ろからグイグイ押す。
鬼姫は子供達のテンションに乗せられるがまま連れて行かれる。
(全く……本当におかしな
そんな言葉が胸の内をよぎる。今まで味わった事が無い不思議な感情を覚えて、妙にくすぐったい気持ちになる。それが何なのか、鬼姫にはよく分からなかった。
◇ ◇ ◇
その日の晩、村は飲めや歌えのドンチャン騒ぎになり、広場では祭りが行われて集会所では宴会が行なわれた。うまい酒と飯を食らい、歌を
長い苦しみから解放された喜びを
宴会が一段落して、誰もが寝静まった晩……時計の針が十二を指した頃。
村の外れにある
女性は
一陣の突風が吹き抜けて、着物の
「こんな場所で、一人で考え事か?」
和服を着た女性……鬼姫が物思いに
「……何じゃ魔王、お主であったか」
男の姿を目にして、鬼姫がそっけない返事をする。見知った人物である事を確認すると、興味無さげに元の方角へと向き直る。再び考え事に没頭する。
ザガートはズカズカと歩いていって彼女の
「……村の子供達と遊んでいたな」
鬼姫が人間の子供と
「お前を信用しない訳じゃないが、万が一にも人を襲う可能性を考慮していた。それが
心の中に不安材料があった事、それが払拭された安堵の気持ちを声に出す。最後は人間に心を開いた事を深く感謝する。
「……この村はおかしな連中ばかりじゃ」
鬼姫がボソッと小声で
「我が元いた国では、人間と鬼は争うのが当たり前じゃった。見かければ即殺し合いになる。どっちかが先に手を出す次元の話ではなく、互いに相手を心の底から憎み、消し去りたいと願っておった。我が生まれるよりずっと前の代から、争いは続いておった。我はそれが当たり前の事じゃと思っておった」
東の国でヒト族と鬼が一触即発状態にあった事を明かす。もはや対話して分かり合う事は不可能であり、どちらかが滅びるまで争うしか無かったという。
「じゃが、この国の連中はどうじゃ? お主の仲間というだけで、たったそれだけの理由で、ヒト族は
顔を上げて夜空に浮かぶ月を眺めると、村人に受け入れられた戸惑いを口にする。目にうっすらと涙が浮かんで、瞳を
「こんな気持ちになったの、生まれて初めてじゃ。我は……我はもうどうすれば良いか分からぬ。分からぬのじゃ……」
苦悩の言葉を
ヒト族の少女に
「鬼姫……」
葛藤を抱え込んだ女の姿を見て、ザガートが深刻な
「鬼姫……お前、案外チョロいな」
そう口にしてププッと噴き出す。想定外の女の甘さに思わず顔をニヤつかせた。
「なっ……!!」
魔王に笑われて鬼姫が顔を真っ赤にする。胸の奥底から急に恥ずかしさがこみ上げてきて、穴があったら入りたい心境になる。自らのプライドを
「魔王、貴様ッ! よくも……よくも
すぐさま立ち上がると、罵詈雑言を早口で
魔王は女の言葉に一切反論しない。殴られても痛くないので、相手のなすがままにさせる。満面の笑みを浮かべたまま、頭をポカポカ叩かれ続ける。
夜の原っぱで、二人が微笑ましいやりとりをしていた時……。
「……ムッ!?」
魔王が突如言葉を発して、村の外へと振り返る。それまでの穏やかな雰囲気から一転して、真剣な表情へと変わる。
鬼姫も魔王が何かに気付いたのだろうと察して、殴るのをやめる。男が見ているのと同じ方角に目をやる。
二人の視線が向けられた草むらがガサガサッと音を立てて揺れた後、足音が物凄い速さで遠ざかっていく。足音の主が去った後、元の沈黙が訪れる。
(偵察用のゴブリンか……俺達が村にいる事を、上司に報告しに行ったようだ。転移魔法を使ったのか、途中で気配が消えている。俺の追跡を逃れる対策をしていたとは、なかなか優秀な密偵のようだ)
ザガートが足音の主に思いを
「今日はもう遅い……そろそろ寝るぞ」
そう口にしてマントをバサッと閉じると、宿のある方角に向かってカツカツと歩く。男の背中は
「……ああ」
鬼姫もまた魔王の真意を
◇ ◇ ◇
村の前にそびえ立つ山……その頂上にある、大きな岩場。
背丈六メートルを
山に
「……貴方様の見立て通り、ヤツらは村に来ていました。カフカ様がお
ゴブリンは片
「グフフッ……ソウカ……ヤツガ村ニ……」
ゴブリンの報告を聞いて、大きな影がニヤリと笑う。同胞が敗れた事を知らされても焦る様子は無い。それどころか魔王が近場に現れた事を喜んですらいる。
「待ッテロ、異世界ノ魔王……
大きく裂けた口元からダラダラと