いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
ザガートが村に掛けられた呪いを解いた日の翌朝……まだ太陽が昇り始めたばかりで、周囲が明るくなっていない頃。
一行の前に大きな山があり、村から山頂に向かって蛇のように
山頂へ向かおうと鬼姫が歩き出した時、魔王が彼女の肩に手を掛ける。
「鬼姫……お前はここに残れ」
彼女一人だけ村に残るよう命じる。
「なんでじゃ! 我も一緒に行くのじゃ!!」
鬼姫が声を荒らげて猛抗議する。自分だけのけ者にされた事に深く
「そうむくれるな……何もお前を仲間外れにしようと言うのではない。これにはちゃんとした理由がある」
顔を真っ赤にして怒り出す鬼姫を、魔王が慌ててなだめる。
「俺達が村を留守にしている間に、敵が別働隊を
万が一に備えて、村に戦力を残す必要性を
「こんな事を頼めるのは、お前しかいない……」
最後に女の肩に手を乗せて、念を押すように言葉を掛けた。
男の表情は真剣そのものだ。決して嘘やでまかせを言っている訳ではないのが伝わる。女を足手まといに感じたのではなく、むしろ力を頼りにしているのが分かる。
鬼姫が返答に迷った時、誰かが着物の
「お姉ちゃん……」
メイが不安そうな表情で女の顔をじっと見る。あえて声に出さずとも、村に残って欲しい心情が伝わる。魔族が攻めてくる可能性を知らされて、心細さを感じたようだ。
「しょ……しょうがないのう! そこまで言うなら、留守役を任されてやるわい!!」
鬼姫が困ったような顔しながら、魔王の申し出をしぶしぶ承諾する。男の
「その代わり……何としても山に
自分が村を守る間に魔物のボスを倒す事を、強い口調で託す。
「ああ……任せてくれ」
ザガートは女の言葉にコクンと
◇ ◇ ◇
鬼姫に留守を任せた一行は、住人の声援に送られながら村を後にする。
魔物のボスがいるであろうとされる山の頂上を目指して歩き出す。
村から頂上へと続く道は草の生えた
道の横幅も馬車三台が余裕で通れるほど広く、敵と遭遇しても戦えるだけのスペースがあった。
ザガートは山頂を目指してズカズカと早足で歩く。ルシル達三人は黙って彼の後に付いていく。
一行が数分ほど山道を歩き続けた時……。
「……待て」
ザガートがそう口にして、右手をサッと横に振る。
彼の指示に従い、少女達が立ち止まる。
ザガートは誰もいない砂利道をじっと眺めていたが……。
「……いつまでもそこに隠れていないで、出てきたらどうだ」
姿を見せるよう言葉を掛けた。すると彼から数メートル離れた場所にある大地の土が、モコモコッと盛り上がる。それも一箇所や二箇所ではない。一行を取り
最初に盛り上がった土がバァンッと音を立てて弾けると、大きな人影が立っていた。
背丈四メートルほどにもなる、筋骨隆々とした全裸の悪魔……背中にコウモリの羽を生やし、全身の皮膚は暗めの赤色に染まり、首から上は
それは一度はザガートが戦った経験のある、レッサーデーモンと呼ばれる怪物だ。
一体が姿を見せると、他の七体も後に続くように土の中から姿を現す。
以前ヒルデブルク城で大臣に化けた時は一体で出てきたが、今回複数で出てきた辺り、量産型の魔物だったようだ。
「フフフッ……地獄ヘヨウコソ、異世界ノ魔王。我々ガ
最初に姿を見せた一体が不敵な笑みを浮かべながら
「ココガ貴様ノ墓場トナルノダ! 死ネェェェェエエエエエエーーーーーーーーッッ!!」
死を宣告する事を発すると、魔王めがけて全速力で駆け出す。近接戦の間合いに入ると右手をグワッと開いて、鋭い
「
ザガートが正面に右手をかざして呪文の詠唱を行う。彼の手のひらに青白い光が集まっていき、圧縮された光弾になる。
「……
魔法の言葉を叫ぶと、手のひらで生成された光弾がデーモンめがけて一直線に飛んでいく。光球に触れると、悪魔の体が沸騰した湯のように泡立つ。
「バッ……グギャァァァァァァアアアアアアアアッ!!」
断末魔の悲鳴を発した瞬間、デーモンの体が空気を注入しすぎたタイヤのように破裂して、粉々に弾け飛ぶ。黒焦げになった肉片が大地に散乱する。
「オノレェェェェエエエエエエーーーーーーッッ!!」
他のデーモンが仲間の死に激昂する。
一行の後ろにいた二体が、怒りに身を任せて突進する。
「業火よ放て……
ルシルはすかさず後ろを向くと、両手のひらをかざして攻撃魔法を唱える。彼女の手のひらから
火球はそれぞれのデーモンの目を正確に狙い撃ち、悪魔の顔面が一瞬にして炎に包まれる。
「グアアアアアアッ!!」
「ギャァァァァアアアアアアッ!」
顔を焼かれる痛みに悪魔が悲鳴を上げる。あまりの激痛に耐え切れず、顔面を両手で覆ったまま
「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」
相手の
彼女の剣の切れ味は凄まじく、デーモンの心臓がある胸元が切り裂かれると、傷口から真っ赤な血が噴き出す。致命傷を負ったデーモンは前のめりに倒れて、悲鳴を発する間もなく息絶えた。
「オイラもやるッスよ!」
仲間に負けじとばかりになずみがもう一体のデーモンに向かって駆け出す。背中の帯に
「ムゥンッ!」
地に
拳が触れようとした瞬間なずみの姿がワープしたように消える。直後一陣の突風が吹き抜けると、デーモンの背後に刀を振った構えの少女が姿を現す。
「……ガッ」
後ろを振り返ろうとしたデーモンの首に一本の赤い線が走る。そこが切断面となり、悪魔の首がゴトリと地面に落ちる。首を失った胴体は大量の血を噴きながら崩れ落ちるように地面に倒れた。
(ほう……三人とも腕を上げたな)
以前の彼女達であれば、レッサーデーモンに勝てなかっただろう。だが今は違う。強化魔法無しで中級の魔物と戦っても互角に渡り合える力がある。
旅を続けていれば魔物に襲われる機会は多い。それら全てを魔王に任せたりせず、倒せる魔物は彼女達自身の手で倒す事で、順調に経験を積み重ねていた。
どれだけ魔王が強かろうと、いずれ彼女達の力が必要になる日が来るだろう……ザガートはそう確信を抱くのだった。
「……オノレェ」
残り五体のデーモンのうち一体が怒りを
「ヨクモ……ヨクモヤッテクレタナァッ!
胸の内に湧き上がった憤激を声に出してブチまけた。感情の
同族を殺された事に対する怒りは凄まじく、一分一秒たりとも敵を生かしておけない心境になる。どんな手段を使ってでも相手を殺さなければ気持ちが収まらなくなる。
「ウオオオオオオオオッ!!」
大声で
「地より生まれし者腐れ落ち、大地に
ザガートが右手をかざして魔法の言葉を唱える。彼の手のひらから黒い
「ギャアアアアアアアアッ!!」
体を溶かされる痛みに悪魔が悲鳴を上げる。空気感染型バクテリアの集合体である黒い靄は、敵の肉を秒速で融解させて真っ赤なトマトジュースと化す。
最初の一体が白骨化した死体になると、靄は別の悪魔に襲いかかる。
「ギャアアアアアアッ!」
「ドグワァァァァアアアアアアーーーーーーーーッ!」
「アビャアアアアアアアアッ!!」
靄に
「ヒッ……ヒィィィィイイイイイイイイッッ!!」
一体だけ靄との接触を
「まさか、ザガートが敵を
即死魔法で敵が全滅しなかった事にレジーナが血相を変える。いつもなら一匹残らず仕留める場面でそうならなかった事に、敵が何か凄い術でも使ったのかと
「いや……わざと逃がしたのだ」
慌てる王女にザガートがニヤリと笑いながら答える。意図的に悪魔を全滅させなかった事を明かす。
「このままボスの居場所まで案内してもらおう……行くぞ!!」
そう口にすると逃げたデーモンの後を追う。少女達は彼の言葉に従い、数秒遅れて走り出す。そうして一行は敵を見失わないよう一定の距離を保ったまま山の大地を駆けていた。
◇ ◇ ◇
デーモンが向かった山の頂上……そこは
巨大な『何か』が中央の岩に腰掛けていると、岩壁の唯一の入口からレッサーデーモンが慌てて駆け込んでくる。
「ハァハァ……ゴ報告申シ上ゲマス! ヤツラガ……異世界ノ魔王ガ
敵が山に侵入した事を、ゼェハァと息を切らせながら伝える。
「……ソレデノコノコト、ココマデ案内シテキタトイウ
部下の報告に巨大な何かが言葉を返す。まんまと敵の思惑に乗せられた配下の無能さに愛想を尽かした口ぶりだ。
「ヘ?」
何の事か分からずレッサーデーモンがポカンと口を開けた瞬間、彼の背後から
「ギャアアアアアアアアッ!!」
炎に包まれた悪魔が悲鳴を上げて倒れる。全身を駆け回る痛みから逃れようとミミズのように体をのたうち回らせたが、十秒と
火球が飛んできた方角から魔王一行が姿を現す。地面に残った灰を、レッサーデーモンの死を侮辱するようにクシャッと踏む。
魔王が顔を上げると、目の前に巨大な『何か』がいる。
背丈六メートルほどにもなる、背中にコウモリの羽を生やした全裸の悪魔……皮膚は暗めの青色に染まっており、首から上はミノタウロスのような牛頭になっている。
だが何より特徴的なのは、全身の筋肉がムキムキに盛り上がっていた事だ。日々の鍛錬を欠かしていなさそうな屈強な
見るからに強そうな風貌は、レッサーデーモンより格上である事が一目で分かる。
「……お前が山に棲む魔物のボスか」
巨大な悪魔を前にしてザガートが口を開く。
魔王の問いに、デーモンが意気揚々と答える。
「イカニモ……