いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

47 / 134
第47話 山に棲む悪魔

 ザガートが村に掛けられた呪いを解いた日の翌朝……まだ太陽が昇り始めたばかりで、周囲が明るくなっていない頃。

 

 (さく)に覆われた村の出口に、出発の準備を終えたザガート達一行が立つ。彼らを見送るべく数十人の村人がいる。その中には村長カルタスや、鬼姫と一緒に遊んだ子供達の姿もあった。

 一行の前に大きな山があり、村から山頂に向かって蛇のように(うね)った山道が続いている。一行は山の頂上に()むというデーモン討伐に向かう(ため)、山道を歩いていく事となる。

 

 山頂へ向かおうと鬼姫が歩き出した時、魔王が彼女の肩に手を掛ける。

 

「鬼姫……お前はここに残れ」

 

 彼女一人だけ村に残るよう命じる。

 

「なんでじゃ! 我も一緒に行くのじゃ!!」

 

 鬼姫が声を荒らげて猛抗議する。自分だけのけ者にされた事に深く(いきどお)る。

 

「そうむくれるな……何もお前を仲間外れにしようと言うのではない。これにはちゃんとした理由がある」

 

 顔を真っ赤にして怒り出す鬼姫を、魔王が慌ててなだめる。

 

「俺達が村を留守にしている間に、敵が別働隊を(ひき)いて攻めてくる可能性は十分に考えられる。もしそうなった時、誰かが村を守らねばならん」

 

 万が一に備えて、村に戦力を残す必要性を()く。魔族が襲来した時村を守る使命を彼女に任せたいのだという。

 

「こんな事を頼めるのは、お前しかいない……」

 

 最後に女の肩に手を乗せて、念を押すように言葉を掛けた。

 男の表情は真剣そのものだ。決して嘘やでまかせを言っている訳ではないのが伝わる。女を足手まといに感じたのではなく、むしろ力を頼りにしているのが分かる。

 

 鬼姫が返答に迷った時、誰かが着物の(すそ)をグイッと引っ張る。着物を引っ張った方角に目をやると、きのう一緒に遊んだ少女メイがいる。

 

「お姉ちゃん……」

 

 メイが不安そうな表情で女の顔をじっと見る。あえて声に出さずとも、村に残って欲しい心情が伝わる。魔族が攻めてくる可能性を知らされて、心細さを感じたようだ。

 

「しょ……しょうがないのう! そこまで言うなら、留守役を任されてやるわい!!」

 

 鬼姫が困ったような顔しながら、魔王の申し出をしぶしぶ承諾する。男の()(ぶん)に説得力があった事、メイが泣き出すかもしれない流れから、村に残る提案を受け入れた。

 

「その代わり……何としても山に()むデーモンを討伐するのじゃぞ」

 

 自分が村を守る間に魔物のボスを倒す事を、強い口調で託す。

 

「ああ……任せてくれ」

 

 ザガートは女の言葉にコクンと(うなず)いて答えた。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 鬼姫に留守を任せた一行は、住人の声援に送られながら村を後にする。

 魔物のボスがいるであろうとされる山の頂上を目指して歩き出す。

 

 村から頂上へと続く道は草の生えた(じゃ)()になっていたが、徒歩でも十分に登れる角度のなだらかな斜面だ。山道の両脇にある獣道(けものみち)へ進もうとしない限り、滑落する心配も無い。

 道の横幅も馬車三台が余裕で通れるほど広く、敵と遭遇しても戦えるだけのスペースがあった。

 

 ザガートは山頂を目指してズカズカと早足で歩く。ルシル達三人は黙って彼の後に付いていく。和気(わき)藹々(あいあい)と言葉を()わしたりしない。

 

 一行が数分ほど山道を歩き続けた時……。

 

「……待て」

 

 ザガートがそう口にして、右手をサッと横に振る。

 彼の指示に従い、少女達が立ち止まる。

 

 ザガートは誰もいない砂利道をじっと眺めていたが……。

 

「……いつまでもそこに隠れていないで、出てきたらどうだ」

 

 姿を見せるよう言葉を掛けた。すると彼から数メートル離れた場所にある大地の土が、モコモコッと盛り上がる。それも一箇所や二箇所ではない。一行を取り(かこ)むように円状に配置された八つの地点が、同時に盛り上がる。敵に包囲されたようだ。

 

 最初に盛り上がった土がバァンッと音を立てて弾けると、大きな人影が立っていた。

 背丈四メートルほどにもなる、筋骨隆々とした全裸の悪魔……背中にコウモリの羽を生やし、全身の皮膚は暗めの赤色に染まり、首から上は山羊(ヤギ)の頭になっている。

 それは一度はザガートが戦った経験のある、レッサーデーモンと呼ばれる怪物だ。

 

 一体が姿を見せると、他の七体も後に続くように土の中から姿を現す。

 (みな)同じレッサーデーモンだ。別の魔物は混ざっていない。

 以前ヒルデブルク城で大臣に化けた時は一体で出てきたが、今回複数で出てきた辺り、量産型の魔物だったようだ。

 

「フフフッ……地獄ヘヨウコソ、異世界ノ魔王。我々ガ()(アツ)ク、モテナシテ差シ上ゲヨウ」

 

 最初に姿を見せた一体が不敵な笑みを浮かべながら挨拶(あいさつ)する。ジョークの利いた言い回しで、一行を歓迎する意思を伝える。

 

「ココガ貴様ノ墓場トナルノダ! 死ネェェェェエエエエエエーーーーーーーーッッ!!」

 

 死を宣告する事を発すると、魔王めがけて全速力で駆け出す。近接戦の間合いに入ると右手をグワッと開いて、鋭い(ツメ)で相手を引き裂こうとした。

 

()ぜよッ! (なんじ)の身に宿りし力、外へ向かう風とならん!」

 

 ザガートが正面に右手をかざして呪文の詠唱を行う。彼の手のひらに青白い光が集まっていき、圧縮された光弾になる。

 

「……絶対圧縮爆裂(アブソリュート・ディスラプト)ッ!!」

 

 魔法の言葉を叫ぶと、手のひらで生成された光弾がデーモンめがけて一直線に飛んでいく。光球に触れると、悪魔の体が沸騰した湯のように泡立つ。

 

「バッ……グギャァァァァァァアアアアアアアアッ!!」

 

 断末魔の悲鳴を発した瞬間、デーモンの体が空気を注入しすぎたタイヤのように破裂して、粉々に弾け飛ぶ。黒焦げになった肉片が大地に散乱する。

 

「オノレェェェェエエエエエエーーーーーーッッ!!」

 

 他のデーモンが仲間の死に激昂する。

 一行の後ろにいた二体が、怒りに身を任せて突進する。

 

「業火よ放て……火炎光矢(ファイヤー・アロー)ッ!!」

 

 ルシルはすかさず後ろを向くと、両手のひらをかざして攻撃魔法を唱える。彼女の手のひらから煌々(こうこう)と燃えさかる(なし)くらいの大きさの火球が、一度の詠唱で二発撃ち出された。

 火球はそれぞれのデーモンの目を正確に狙い撃ち、悪魔の顔面が一瞬にして炎に包まれる。

 

「グアアアアアアッ!!」

「ギャァァァァアアアアアアッ!」

 

 顔を焼かれる痛みに悪魔が悲鳴を上げる。あまりの激痛に耐え切れず、顔面を両手で覆ったまま(ひざ)をついてしまう。

 

「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」

 

 相手の(すき)を見逃すまいと、レジーナが勇ましい雄叫びを上げながら突進する。両手で握った一振りの剣を横()ぎに振って、敵の胸元に斬りかかる。

 彼女の剣の切れ味は凄まじく、デーモンの心臓がある胸元が切り裂かれると、傷口から真っ赤な血が噴き出す。致命傷を負ったデーモンは前のめりに倒れて、悲鳴を発する間もなく息絶えた。

 

「オイラもやるッスよ!」

 

 仲間に負けじとばかりになずみがもう一体のデーモンに向かって駆け出す。背中の帯に()してあった(さや)から短刀を引き抜くと、逆手に持って構える。

 

「ムゥンッ!」

 

 地に(ひざ)をついていた悪魔が慌てて立ち上がり、強く握った右拳を高々と振り上げて、少女めがけて振り下ろそうとする。

 拳が触れようとした瞬間なずみの姿がワープしたように消える。直後一陣の突風が吹き抜けると、デーモンの背後に刀を振った構えの少女が姿を現す。

 

「……ガッ」

 

 後ろを振り返ろうとしたデーモンの首に一本の赤い線が走る。そこが切断面となり、悪魔の首がゴトリと地面に落ちる。首を失った胴体は大量の血を噴きながら崩れ落ちるように地面に倒れた。

 

(ほう……三人とも腕を上げたな)

 

 (またた)く間に二体のデーモンを仕留めた仲間の戦いぶりを見て、ザガートが満足げな笑みを浮かべる。彼女達の実力が底上げされた事を心から喜ぶ。

 

 以前の彼女達であれば、レッサーデーモンに勝てなかっただろう。だが今は違う。強化魔法無しで中級の魔物と戦っても互角に渡り合える力がある。

 旅を続けていれば魔物に襲われる機会は多い。それら全てを魔王に任せたりせず、倒せる魔物は彼女達自身の手で倒す事で、順調に経験を積み重ねていた。

 

 どれだけ魔王が強かろうと、いずれ彼女達の力が必要になる日が来るだろう……ザガートはそう確信を抱くのだった。

 

「……オノレェ」

 

 残り五体のデーモンのうち一体が怒りを(にじ)ませた。仲間が殺された姿を見て全身をわなわなと震わせて、割れんばかりの勢いで歯(ぎし)りする。はらわたが煮えくり返り、爆発寸前になる。

 

「ヨクモ……ヨクモヤッテクレタナァッ! (ユル)サン! 絶対ニ許サンゾ、貴様ラ! ジワジワトナビュ……ナブリ殺シニシテ、バラバラニ引キ裂イテ、二度ト(サカ)ラエナイヨウ、拷問シ続ケテクレルワァァァァァァアアアアアアアアボビャロレラアアアアアア!!」

 

 胸の内に湧き上がった憤激を声に出してブチまけた。感情の(おもむ)くままに喋ったあまり呂律(ろれつ)が回らなくなり、途中で噛んでしまう。最後は何を言っているのか分からなくなる。

 

 同族を殺された事に対する怒りは凄まじく、一分一秒たりとも敵を生かしておけない心境になる。どんな手段を使ってでも相手を殺さなければ気持ちが収まらなくなる。

 

「ウオオオオオオオオッ!!」

 

 大声で(わめ)いていたデーモンが駆け出すと、他の四体が彼の後に続く。五体の悪魔が包囲の中心にいる魔王に向かって一斉に走っていく。他の少女には目もくれない。

 

「地より生まれし者腐れ落ち、大地に(かえ)らん……致死風(デッドリー・エア)ッ!!」

 

 ザガートが右手をかざして魔法の言葉を唱える。彼の手のひらから黒い(もや)のようなものが放たれて、デーモンにまとわり付く。靄に触れられた途端、悪魔の肉がドロドロに溶け出す。

 

「ギャアアアアアアアアッ!!」

 

 体を溶かされる痛みに悪魔が悲鳴を上げる。空気感染型バクテリアの集合体である黒い靄は、敵の肉を秒速で融解させて真っ赤なトマトジュースと化す。

 最初の一体が白骨化した死体になると、靄は別の悪魔に襲いかかる。

 

「ギャアアアアアアッ!」

「ドグワァァァァアアアアアアーーーーーーーーッ!」

「アビャアアアアアアアアッ!!」

 

 靄に()まれて、悪魔が次から次へと硫酸を浴びたように溶けていく。わずか十秒と()たないうちに四体のデーモンが溶かされて骨だけになる。地面にかつて彼らであったモノが無惨に転がる。

 

「ヒッ……ヒィィィィイイイイイイイイッッ!!」

 

 一体だけ靄との接触を(まぬが)れていたデーモンが、情けない悲鳴を漏らしながら慌てて逃げ出す。一行に背を向けて、山頂に向かって一目散にダッシュする。

 

「まさか、ザガートが敵を()ち漏らしたのか!?」

 

 即死魔法で敵が全滅しなかった事にレジーナが血相を変える。いつもなら一匹残らず仕留める場面でそうならなかった事に、敵が何か凄い術でも使ったのかと(かん)()る。

 

「いや……わざと逃がしたのだ」

 

 慌てる王女にザガートがニヤリと笑いながら答える。意図的に悪魔を全滅させなかった事を明かす。

 

「このままボスの居場所まで案内してもらおう……行くぞ!!」

 

 そう口にすると逃げたデーモンの後を追う。少女達は彼の言葉に従い、数秒遅れて走り出す。そうして一行は敵を見失わないよう一定の距離を保ったまま山の大地を駆けていた。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 デーモンが向かった山の頂上……そこは()き出しの岩がゴロゴロ転がる、草木の生えない岩場だった。四方を切り立った(がけ)のような岩壁に(かこ)まれた、闘技場のようなスペース……(さら)にその中央にテーブルのような平べったい岩が置かれている。

 

 巨大な『何か』が中央の岩に腰掛けていると、岩壁の唯一の入口からレッサーデーモンが慌てて駆け込んでくる。

 

「ハァハァ……ゴ報告申シ上ゲマス! ヤツラガ……異世界ノ魔王ガ()メテ来マシタ!!」

 

 敵が山に侵入した事を、ゼェハァと息を切らせながら伝える。

 

「……ソレデノコノコト、ココマデ案内シテキタトイウ(ワケ)カ?」

 

 部下の報告に巨大な何かが言葉を返す。まんまと敵の思惑に乗せられた配下の無能さに愛想を尽かした口ぶりだ。

 

「ヘ?」

 

 何の事か分からずレッサーデーモンがポカンと口を開けた瞬間、彼の背後から煌々(こうこう)と燃えさかる(なし)くらいの大きさの火球が飛んでくる。火球はデーモンを直撃して一瞬で火だるまにする。

 

「ギャアアアアアアアアッ!!」

 

 炎に包まれた悪魔が悲鳴を上げて倒れる。全身を駆け回る痛みから逃れようとミミズのように体をのたうち回らせたが、十秒と()たないうちに黒焦げの焼死体になる。死体は完全に炭化しており、一陣の突風が吹き抜けると、ボロボロと崩れ落ちて風に飛ばされて散っていった。

 

 火球が飛んできた方角から魔王一行が姿を現す。地面に残った灰を、レッサーデーモンの死を侮辱するようにクシャッと踏む。

 魔王が顔を上げると、目の前に巨大な『何か』がいる。

 

 背丈六メートルほどにもなる、背中にコウモリの羽を生やした全裸の悪魔……皮膚は暗めの青色に染まっており、首から上はミノタウロスのような牛頭になっている。

 だが何より特徴的なのは、全身の筋肉がムキムキに盛り上がっていた事だ。日々の鍛錬を欠かしていなさそうな屈強な(はがね)の肉体は、魔法戦だけでなく、肉弾戦においてもトップクラスの実力に見える。さしずめ悪魔界のボディビルダーといった所か。

 

 見るからに強そうな風貌は、レッサーデーモンより格上である事が一目で分かる。

 

「……お前が山に棲む魔物のボスか」

 

 巨大な悪魔を前にしてザガートが口を開く。

 魔王の問いに、デーモンが意気揚々と答える。

 

「イカニモ……(ワレ)コソ、山ニ棲ム悪魔ヲ統率スル者……グレーターデーモン!!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。