いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第48話 グレーターデーモン

 村を(おびや)かす魔物を討伐すべく山へと登るザガート達一行……レッサーデーモンの襲撃を受ける。敵を返り討ちにしてわざと一体だけ逃すと、彼の後を追ってボスのいる山頂まで案内してもらう。

 山頂の岩場にたどり着いた一行が目にしたもの……それは全身の筋肉が盛り上がった、ボディビルダーのような悪魔だった。

 

(ワレ)コソ、山ニ棲ム悪魔ヲ統率スル者……グレーターデーモン!!」

 

 悪魔が高らかに自己紹介する。村を襲った魔物の親玉である事を包み隠さず教える。その言葉が本当なら、村に呪いを掛けたのも彼の仕業という事になる。

 

「お前達は後ろに下がっていろ……こいつは俺一人で相手する」

 

 ザガートがそう口にして、右手をサッと横に振る。彼の指示に従い、少女達が数メートル後ろに下がる。

 魔王は少女達の手に負える相手なら少女達に任せ、そうでない敵は自分が相手する。そうする事が少女達を危険な戦いに巻き込まず、なおかつ足を引っ張られない効率的な戦術だと考える。

 グレーターデーモンは少女達が勝てる相手ではないと、魔王はそう判断した。少女達は彼の意思を尊重する事にした。

 

「フフフッ……無駄ナ事ダ。ドウセ貴様ヲ殺シテカラ、後ヲ追ワセテヤルノダカラナ」

 

 デーモンが不気味に笑いながら前に一歩踏み出す。仲間を安全圏に逃がした魔王の行いを馬鹿げた愚行だと(あざけ)る。三歩ほど進むと、グワッと開いた両手を胸の前で、互いに向き合わせる。

 

「大気ノ水分ヨ、氷トナレ……凍結吹雪(アイス・ブリザード)ッ!!」

 

 その構えのまま魔法の言葉を唱えると、両手の間にあった空間に白い光のようなものが浮かび上がり、キラキラと輝き出す。そこから冷たい風がザガートに向けて放たれた。風は大気中の水分を凍らせた雪を(ふく)んでおり、相手を()てつかせようとする。

 風の温度はマイナス五十度に達していた。バナナが瞬時にハンマーと同じ硬さになる寒さだ。

 

「フンッ!」

 

 ザガートは(かつ)を入れるように鼻息を吹かすと、正面に右手をかざす。彼の手のひらを中心として半透明に青く光るバリアがドーム状に張り巡らされた。

 

 吹雪はバリアを破る事が出来ず、魔法の障壁に(さえぎ)られる。

 ザガートはそのままバリアを維持し続けたが……。

 

 

 

「……!?」

 

 魔王が立っていた場所が、突然大きな影に覆われる。ふと空を見上げると、影の主である『何か』がザガートめがけて落下する。このまま動かずにいれば、謎の物体に押し(つぶ)される事は確実だ。

 

「くっ!」

 

 ザガートはバリアを張るのをやめて、グレーターデーモンから離れた空間にジャンプする。次の瞬間、彼が立っていた地面に巨大な何かがドスゥゥーーーンッと音を立てて着地する。かなりの体重らしく、落下の衝撃で山全体が激しく揺れた。

 

「これは……ッ!!」

 

 落下してきた物体を目にして、レジーナが驚くあまり目を丸くさせた。それもそのはず、戦場に姿を現したのは、もう一体のグレーターデーモンだったからだ。

 

「グレーターデーモンが二体……だと」

 

 ザガートも思わず口にせずにいられない。

 

「……二体ダケデハナイゾ」

 

 魔王の言葉に、最初のデーモンがニヤリと笑う。

 

「何ッ!?」

 

 悪魔の(つぶや)きに驚いた瞬間、魔王の背後にあった地面が(まばゆ)い輝きを放ち、白い光の柱が立つ。光の柱に包まれた状態で、もう一体のグレーターデーモンが、透明化を解除したようにスゥーーッと姿を現す。

 最初からそこに立っていたのであれば、魔王が気付かないはずはない。どうやらテレポーテーションの魔法でこの場へ転移してきたようだ。

 

「フンヌッ!」

 

 三体目のデーモンは開いた右手を高く掲げると、魔王めがけて全力で振り下ろして、横一閃に()ぎ払おうとした。

 

 ザガートは咄嗟(とっさ)にジャンプして相手の攻撃をかわす。だがそれによって敵の包囲の中心に着地してしまう。

 三体のデーモンは正三角形を描くように配置しており、そのド真ん中に魔王が立っている構図だ。逃げ場は無い。

 

「何という事だ……敵が複数いたとは」

 

 予想外の展開にレジーナが驚きを隠せない。一体だけでもかなりの実力を有する悪魔が三体いた事に、(いや)(おう)でも不利な状況に追い込まれたと思わずにいられない。ルシルとなずみも魔王がピンチになったと受け止めて、胸をハラハラさせた。

 

 少女達がうろたえた姿を見て、デーモン達が「クククッ」と声に出して笑う。

 

「ソウダ……我々グレーターデーモンハ、三体イル!!」

 

 自分達が複数体いる事実を誇らしげに明かすのだった。

 

「魔王ザガート……ココガ貴様ノ墓場トナル!!」

 

 三体のデーモンのうち一体がそう口にすると、開いた両手を胸の前で向き合わせて、呪文の詠唱を行う。他の二体も同じ行動を取り、三体の悪魔が氷の魔力を集めだす。

 

「「「大気ノ水分ヨ、氷トナレ……凍結吹雪(アイス・ブリザード)ッ!!」」」

 

 三体が声を重ねるように同時に呪文を唱えると、彼らの両手に集まった光から全てを凍てつかせる猛吹雪が放たれた。

 吹雪は包囲の中心にいるザガートへと襲いかかる。魔王は全くその場から動こうとしない。防御の結界を張る素振りすら見せず、相手のなすがままにさせる。そうこうしているうちに足元からビキビキと凍り付いていき、あっという間に分厚い氷に覆われてしまう。

 

「ああっ!」

 

 ルシルが悲痛な声で叫ぶ。魔王が凍らされた姿を見て、愛する人が死んだと確信して胸を痛めた。悲しみに打ちひしがれたあまり、ガクッと(ひざ)をつく。レジーナとなずみも落胆の表情を浮かべる。

 

「フフフッ……」

 

 少女が悲しむ姿を見て、デーモンが顔をニンマリさせた。

 

「フフフ……フハハハハッ! ヤッタ! (ツイ)ニヤッタゾ! 異世界ノ魔王ヲ、我々ノ手デ仕留メタノダ! コレデモウ、我々魔族ノ邪魔ヲスル者ハ誰モイナイ! 人類ハ皆殺シニサレテ、我々魔族ガ支配スル、暗黒ノ世界ガ訪レル!!」

 

 自らの揺るぎない勝利を大きな声で叫ぶ。少女達を絶望の奈落へ突き落とそうと、人類の敗北を声高に宣言する。

 宿願を果たせた喜びで胸が(おど)りだす。嬉しさのあまり鼻歌を(うた)いながらスキップしたい心境になる。

 

 すっかりウキウキ気分に(ひた)っていたデーモンだったが……。

 

「……ン?」

 

 ある異変に気付く。何処からかゴゴゴッと奇妙な音が鳴り続けているのを耳にする。音が聞こえた方角に目をやると、氷漬けにされたザガートが、電源を入れたマッサージチェアのように小刻みに揺れている。振動は最初は小さく、だんだん大きくなっていく。しまいには大地を揺るがしかねないほど激しくなる。

 

 揺れが激しくなるにつれて、ザガートを閉じ込めていた氷に亀裂が入りだす。亀裂はビシビシと音を立てて広がっていき、(またた)く間に氷全体を覆う。

 

「バッ……」

 

 馬鹿な……デーモンがその言葉を吐きかけた瞬間、氷がバァーーーンッ! と音を立てて砕ける。全方位へと時速百キロを超える速さで放たれた氷の破片が、デーモンの体にビシビシと当たる。

 

「グアアアア! 痛イ痛イ痛イ!!」

 

 全身を駆け回る痛みに悪魔が情けない悲鳴を漏らす。石つぶての雨に打たれたような激痛は並みの攻撃呪文よりも(はる)かに強力で、体中に打撲のアザが出来上がる。

 ルシル達は咄嗟(とっさ)に防御結界を張ったため無傷だった。悪魔達よりも後ろにいたため、反応が間に合うだけの余裕があった。

 

 氷が砕けた地点に皆の視線が向けられると、ザガートが余裕の表情で立っている。何事も無かったかのようにピンピンしている。彼が氷を内側から砕いて自力で脱出した事は火を見るより明らかだ。

 

「フン……この程度の術で俺を倒せた気でいたとはな」

 

 敵を小馬鹿にするように鼻で笑う。勝利の気分に(ひた)っていた悪魔に侮蔑の眼差しを向ける。

 

「ザガートッ!!」

「ザガート様っ!」

「師匠っ! 無事だったんスね!!」

 

 魔王が健在な姿を目の当たりにして、少女達が歓喜の言葉を漏らす。胸の内にあった絶望は消え失せて、心の底から安堵した晴れやかな笑顔になる。

 

「……オノレェ」

 

 敵が無事なのを知って、デーモンが悔しげに歯(ぎし)りする。戦勝気分に水を差された事に対する(いきどお)りは凄まじく、何としても相手を生かしておけない気持ちになる。

 

「氷ノ呪文ニ()エタクライデ調子ニ乗リヤガッテ! 許サン! 絶対ニ許サンゾ、貴様! 二度ト生意気ナ(クチ)()ケナイヨウ、バラバラニ引キ裂イテ、ハラワタヲ引キズリ出シテ、鍋デ煮テ食ッテヤル!!」

 

 胸の内に湧き上がる憤激を声に出してぶちまけた。完全に頭に血が(のぼ)って、怒りで我を忘れている。顔を真っ赤にしてフーフーと鼻息を強くして、興奮した猛牛のように荒ぶる。

 

「死ネェェェェェェエエエエエエエエーーーーーーーーッッ!!」

 

 三体のうち一体が大声で(わめ)きながら魔王めがけて駆け出す。鍛えられた脚力で大地を走って、(わず)か一瞬で間合いを詰める。強く握った右拳を高々と振り上げると、全力で振り下ろして相手を殴り付けようとした。

 

 魔王は焦る様子もなく、右手の人差し指を相手に向ける。凄まじい威力を誇るはずのデーモンのパンチが、男の指先に触れた瞬間ビタッと止まる。悪魔がいくら腕に力を入れようと、ピクリとも動かない。(はる)かに体が小さいはずの魔王が、デーモンの何十倍もの力があるかのようだ。

 

「……」

 

 魔王が聞こえるか聞こえないかぐらいの小声で、ボソッと(つぶや)く。男の指先に豆粒くらいの大きさの、白い光が(とも)る。その光は接触した拳を通じてデーモンの腕へと移動し、(さら)に体の中心へと進んでいく。

 男の指先から生まれた小さな光が、デーモンの心臓部分にたどり着いた瞬間……。

 

「グッ……ウギャァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」

 

 悪魔の口から、この世の終わりと思えるほどの絶叫が放たれた。化け物の胸元がドクンドクンと脈打った後、全身の皮膚が沸騰したようにボコボコと泡立つ。体全体が空気を入れた風船のように(ふく)らんでいき、一瞬(まばゆ)い光を放ったかと思うと、バァンッ! と音を立てて弾けた。

 バラバラに吹き飛んだ肉片が大地に散乱する。どうやら魔王が圧縮した爆裂魔法を指先から送り込んだようだ。

 

「コノ……ド畜生(チクショウ)ガァァァァァァアアアアアアアアッッ!!」

 

 その時魔王の背後にいたもう一体のデーモンが、怒りの言葉を吐き散らしながら突進する。グワッと開いた右手を魔王めがけて振り下ろし、鋭い(ツメ)で心臓を(えぐ)り出そうとした。

 

「フンッ!」

 

 魔王は背を向けたままジャンプして、相手の一撃を難なくかわす。悪魔の顔面と同じ高さまで飛ぶと、宙に浮いたままクルリと横に回転して、後ろ回し蹴りを放つ。魔王の足の(こう)が、デーモンの顔面を直撃する。

 

「バッ……ドブルゥゥゥゥァァァァァァアアアアアアアアッッ!!」

 

 悪魔が滑稽(こっけい)な奇声を発しながら、豪快に吹き飛ぶ。戦場の(はし)にあった岩壁に頭から突っ込んで、上半身をめり込ませたまま手足をピクピクさせた。そのまま気絶したように動かなくなる。

 

「ウウッ……!!」

 

 二体のデーモンが(またた)く間にやられた事に、最後の一体が顔面蒼白(そうはく)になる。胸の内にあった怒りは消え失せて、死への恐怖が湧き上がる。無意識のうちに足が後ろへと下がり、体の震えが止まらなくなる。全身から冷や汗がとめどなく(あふ)れ出す。

 無策のまま突っ込めば命を落とす考えが、冷静な思考として働く。

 

「大気ノ水分ヨ、氷トナレ……凍結吹雪(アイス・ブリザード)ッ!!」

 

 近接戦では()が悪いと踏んだのか、呪文の詠唱を行う。両手の間に白い冷気が集まっていくと、そこから猛吹雪が放たれる。

 魔王は猛吹雪を受けてもビクともしない。最初に使われた時はバリアで防いだが、今回はそれすらも行わない。三体が重ねがけすれば氷に閉じ込める威力の魔法も、一人が唱えただけでは魔王にとってはそよ風にしかならないようだ。

 

「同じ魔法でも、術者が違えば威力も変わる……それを教えてやろうッ!」

 

 ザガートが恰好(かっこう)を付けるようにマントをバサッと開いて、雄々しく立つ。

 開いた両手を胸の前で向き合わせて、小声で術の詠唱を行う。

 

「大気の水分よ、氷となれ……凍結吹雪(アイス・ブリザード)ッ!!」

 

 これまで敵に使われたのと同じ魔法を唱える。魔王の両手の間に魔力の冷気が集まっていき、そこから冷たい風がデーモンに向かって吹き抜けた。

 魔王の手から放たれたのは、もはや吹雪などと呼べるものではない。液体窒素に匹敵するマイナス二百度の、極低温の冷凍ガスだ。水分などあろうが無かろうが、触れたものを瞬時に凍らせる。

 

「ガッ……!!」

 

 冷気を浴びたデーモンは十秒と()たないうちに全身が凍って、氷の像と化してしまう。そのままピクリとも動こうとしない。(すで)に死んでしまっているように見えた。

 

 魔王はズカズカと歩いていって、氷漬けになったデーモンの前に立つ。しばらく相手をじーーっと眺めていたが……。

 

「……フンッ!」

 

 (かつ)を入れるように一声発すると、右脚による回し蹴りを放つ。魔王の全力を込めたキックが命中すると、デーモンの形をした氷はガシャーーンッと音を立てて、ガラスのように(もろ)く砕けた。バラバラになった氷の破片が周囲に散乱し、再生する様子も無い。三体目の悪魔が死んだ事は一目瞭然だ。

 

「やったな、ザガート!」

「やりましたね!」

「さすが師匠ッス!!」

 

 少女達が思い思いの言葉を口にしながら魔王に駆け寄る。完全に戦いは終わったと確信を抱き、勝利の喜びを分かち合おうとする。

 だが喜ぶ少女とは対照的に、魔王の表情は重い。(あご)に手を当てて眉間(みけん)(しわ)を寄せたまま、何やら考え事をしている。戦いに勝った事を喜んだりはしない。

 

「……おかしい」

 

 そんな言葉が口を()いて出た。

 

「師匠、どうかしたんスか?」

 

 ただならぬ魔王の様子に、なずみが首を(かし)げた。

 

「グレーターデーモンも決して弱い魔物ではないが、世界を救う勇者でなければ倒せないほどではない。腕の立つ冒険者なら十分倒せる相手だ。それは三体いようとも変わらない。呪いに関してもそうだ。村全体に呪いを掛けるほど強大な魔力など、コイツらは持ち合わせちゃいない……これは一体どういう事なんだ?」

 

 魔王が頭の中に湧き上がった疑問を口にする。倒した相手が決して大物とは呼べない事を指摘し、チンプンカンプンになる。これまで聞いた話と照らし合わせると、グレーターデーモンでは力不足であり、致命的な矛盾が生じる。その事が男を大いに悩ませた。

 

 いくら思考を働かせても納得の行く答えが導き出せず、考えあぐねていると……。

 

「……気付(キヅ)イタヨウダナ」

 

 岩壁に頭を突っ込んでいた二体目のデーモンが、唐突に口を開く。岩壁からズボッと頭を引き抜くと、足をよろめかせながら数歩前へと進む。その場に立ち止まって喋りだす。

 

「俺達ハ、タダノ(オトリ)()ギン……魔王ザガート、貴様ヲ引キ付ケテオク(タメ)ノナ。今頃、ギルボロスノ兄貴ガ村ヲ攻メ滅ボシテ……ガハッ!!」

 

 自分達がおとりに過ぎない事を告げると、口から血を吐いて前のめりに倒れる。最後の言葉を発して力を使い果たしたのか、そのまま息絶えた。

 

 三体のデーモンは山に棲む魔物の首領などでは無かった。その手下に過ぎなかったのだ。恐らく彼の口から発せられた『ギルボロス』という言葉こそ、首領の名であろうと思われた。

 

「何という事だ……まんまと一杯食わされたとは。こうなったら一刻も早く村に戻らなければ!!」

 

 ザガートは敵に裏をかかれたと知り、即座に転移魔法の準備に入るのだった。

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