いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
――――ザガート達がレッサーデーモンと戦っていたのと同時刻。
一人村に残った鬼姫は、入口の見張りを数人の若者に任せて、自分はそこから遠く離れていない原っぱで子供達と遊ぶ。何かあったらすぐ報告するよう若者には伝えてある。
鬼姫は子供達と『だるまさんがころんだ』をする。彼女が本気を出せば絶対触られる事など無いが、わざと手加減してタッチされる。そうして何度も鬼役を交代する。
鬼姫と子供達が遊ぶ光景は大変微笑ましい。子供達は彼女に非常によく
周囲の村人は穏やかな表情でその光景を見守る。若い男性の一人は「彼女なら将来良い母親になれるだろう」と考える。
魔族の脅威に
「……ムッ!?」
何らかの異変を察知した鬼姫が、慌てて村の入口へと振り返る。彼女がそうしたのとほぼ同時に、村の外を見張っていた若者が血相を変えて走ってくる。
「まっ、魔族だ……魔族が攻めてきたぞおおおおおおーーーーーーっっ!!」
敵の襲来を大きな声で告げる。若者の一人が村の中央にある木製の物見
村を覆った
「うぬらは付いてこんでいい……敵は我一人で相手する。うぬらがいても邪魔になるだけじゃ。大人しく家の中に隠れておれ」
女が後ろを振り返り、加勢の必要は無い
「村の危機だというのに、貴方一人に背負わせて、我々だけ安全な所に隠れてなどいられません! せめて後方に控えさせて下さい!!」
男性の一人が前に進み出て、強い口調で反論する。断固として引き下がれない強い意志を伝えて、必死に同行を願い出る。言葉の節々からは、鬼姫に村の安全を丸投げする事への罪悪感、少しでも力になりたい切実な思いが伝わる。
他の者も彼の言葉に同意するように
「……好きにせい」
鬼姫は村人の説得を諦めて、しぶしぶ彼らの同行を許す。しょうがないと言いたげに頭を手でボリボリ
鬼姫は
◇ ◇ ◇
鬼姫が村の入口に立つと、魔物の集団らしき連中が村に向かってザッザッと歩いてくる。
彼らが現れたのは、ザガートが向かった山頂方面ではない。山を下りた所にある平地、その
(……まんまと敵の策に乗せられたという訳か)
鬼姫は魔王が騙されたと気付く。仲間を責める訳ではないが、この重大な局面を一人で乗り切らねばならない事にプレッシャーを感じる。
最初は砂煙で隠れていた魔物の姿が、距離が近付くに連れてハッキリと見えてくる。最前列はレッサーデーモン四体が横一列に並んで歩いており、そこから二メートルほど離れた後方に、同じくレッサーデーモン四体が横並びに歩く。
彼らの後方に、ボス格と思しき巨大な魔物がいる。
その者は背丈七メートルほど、背中にコウモリの羽を生やした全裸の悪魔だ。グレーターデーモンより体が一回り大きい。グレーターデーモンが引き締まった筋肉だったのに対し、その者はでっぷりと太った、
全身は暗めの赤色に染まり、
かなり体重が重いらしく、一歩進むたびにドスンドスンと地響きが鳴る。そのたびに体の脂肪がブルルンッと波打つ。
「あ、アイツだ……アイツが俺達の村に呪いを掛けた化け物だッ!!」
若者の一人が、ボス格の悪魔を指差しながら大声で叫ぶ。やはりグレーターデーモンではなく、この醜悪なデブ悪魔こそが、山に棲む魔物の首領であったようだ。
軍隊のように行進する魔物の一団は、鬼姫から数メートル離れた場所まで来てピタッと立ち止まる。その場から動こうとしない。
人間と魔族、双方の集団が一定の距離を保ったまま
「敵ノ襲来ヲ予測シテ、村ニ残ッタ事ハ
ボス格の悪魔が沈黙を破るように口を開く。村に戦力を残した判断の的確さを褒めながらも、鬼姫一人では力不足だと指摘する。
「フン……我は東の国で暴れた妖怪の王なるぞ。見くびるでない。うぬの方こそ、名を名乗ったらどうじゃ。そこまで大言を吐くからには、さぞかし名の知れた悪魔なのであろうな」
悪魔の言葉に鬼姫が強気な態度で反論する。鬼族の首領である事を誇らしげに自慢すると、
「グフフッ……
悪魔がニタァッと不気味な笑顔になる。大きく裂けた口元から
「ワシハ、ギルボロス……魔王軍ノ
種族名がグレーターデビルで、ギルボロスというのは彼の個人名のようだ。
「貴様一人デ村ヲ守レルト言ウナラ、ヤッテミセルガ
鬼姫を指差しながら部下達に処刑を命じる。
「ウォォォォオオオオオオーーーーーーッッ!!」
上司の命を受けて、最前列にいた四体のレッサーデーモンが
敵が動き出したのと時を同じくして、鬼姫の真横にある空間に裂け目が生じる。女はそこに手を突っ込んで、
その刀は言うまでもなく、ザガートとの決闘に使用した名刀マサムネだ。
刀を手にした女の眼前にレッサーデーモンが迫る。グワッと開いた右手を相手めがけて振り下ろし、鋭い
「ぬぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーーーーっっ!!」
鬼姫が勇ましい雄叫びを上げながらデーモンに斬りかかる。刀を横
「グアアアアアアッ!」
脇腹を斬られたデーモンが悲痛な声で叫ぶ。崩れ落ちるように前のめりに倒れると、傷口を両手で押さえたまま激しくのたうち回る。流れる血の量はおびただしく、悪魔は十秒と
鬼姫は間髪入れず後ろの三体に斬りかかる。それぞれの胸、腹、頚動脈をすれ違いざまに一刀両断する。
「ギャアアアアアアッ!」
「グワァァァァアアアアアアーーーーーーーーッ!」
「アビャアアアアアアアアッ!!」
急所を斬られた悪魔達が断末魔の絶叫を発する。傷口から真っ赤な血が噴水のように噴き出し、辺り一面血の海と化す。三体の悪魔は斬られた順番に倒れていき、全身ピクピクさせた後すぐに動かなくなる。
マサムネによる斬撃の威力は凄まじく、一撃で相手の命を確実に奪う。刀を四回振っただけで、四体の悪魔が
「オノレェェェェエエエエエエーーーーーーーーッ!」
後方に控えた四体のレッサーデーモンが声に出していきり立つ。仲間が殺された事に激しく
「フンッ!」
鬼姫は右手に持っていた刀を悪魔めがけて投げ付ける。クルクル横回転しながら飛んでいった刀は鋭利なブーメランと化し、四体の悪魔の首をズバズバと
首を斬られた悪魔は断末魔の悲鳴を発する間もなく、切断面から真っ赤な血を噴きながら前のめりに倒れて絶命する。首を失った四つの死体と、地面に転がる四つの頭がデーモンの死を印象付ける。
「うおおおおおおおおっ!!」
後方で戦いを眺めていた村人達から歓声が上がる。五分と
魔王ほどではないが、鬼姫も十分に強い。敵に回れば恐ろしいが、その彼女が今は村を守るために戦っている。村の住人にとって、これほど頼もしい事があろうか。
彼女なら村を守り抜いてくれる……そんな期待に胸を
「クククッ……ソウヤッテ、セイゼイ今ノウチニ
歓喜に包まれた村人をギルボロスが
途中で部下の死体を踏み付けたが、魔神は気にも
「鬼姫……妖怪ノ王ダトイウオ前ノ実力ハ本物ダ。ソレハ認メヨウ。ダガソレデモ、オ前デハ、ワシニハ
一歩ずつ前進しながら口を開く。レッサーデーモン八体を倒した女の強さに
話を終えると、鬼姫から五メートルほど離れた場所まで来て立ち止まる。その場から動こうとしない。
鬼姫とギルボロス、両者が一定の間合いを保ったまま
村人は
(こやつ……口先だけのデブではない。確かに見た目はブサイクで口調はマヌケじゃが、感じる魔力は
鬼姫が胸の内に焦りを抱く。初めて会った時は強気な態度に出たが、いざこうして目の前に立つと、ギルボロスから漂う魔力に戦慄を覚えずにはいられない。
この醜悪な魔神から放たれたオーラ、それは魔力を持たぬ者でも感じ取れるほど凄まじい量だった。その場にいるだけで空気がピリピリ張り詰めて、見ているだけで心臓をワシ
鬼姫は自分より強いかもしれない化け物と対峙して、無意識のうちに足がジリジリと後退する。
「グフフッ……
女が
「鬼姫……オ前ガドウ
女にこの戦いから手を引くよう提案する。妖怪が人間のために戦う無意味さを
「……」
鬼姫が下を向いたまま黙り込む。魔神の言葉に一切反論しない。うつむいていたため表情を読み取れず、何を考えているか分からない。敵の意見に賛同したのか、そうでないのか……。
「人のために命を張る必要は無い……か。確かにそうかもしれん」
ボソッと小声で
「我は鬼じゃ……人間ではない。その
自分が人間ではなく妖怪である事、その自分が人間のために戦う義理は無い事……それらの事実を淡々とした口調で話す。
「じゃがのう……村の人間共は、
そっと顔を上げると、重苦しい表情を浮かべていたのが一転して晴れやかな笑顔になる。村の住人達に受け入れられた喜びを口にする。
声は
たとえ魔王にチョロイと笑われようと、鬼姫は村人の友好的な態度に胸を打たれたのだ。彼女の告白を聞いて、後ろに控えた若者達は思わず泣きそうになる。
「我は、我を信じてくれた者を裏切る事は出来ん……彼らの期待に応えるためにも、ギルボロス……ここで貴様を倒さねばならぬのじゃッ!!」
鬼姫は目をグワッと開くと、魔神を倒す決意を大きな声で叫ぶのだった。