いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第49話 グレーターデビル、その名はギルボロス

 ――――ザガート達がレッサーデーモンと戦っていたのと同時刻。

 

 

 一人村に残った鬼姫は、入口の見張りを数人の若者に任せて、自分はそこから遠く離れていない原っぱで子供達と遊ぶ。何かあったらすぐ報告するよう若者には伝えてある。

 

 鬼姫は子供達と『だるまさんがころんだ』をする。彼女が本気を出せば絶対触られる事など無いが、わざと手加減してタッチされる。そうして何度も鬼役を交代する。

 鬼姫と子供達が遊ぶ光景は大変微笑ましい。子供達は彼女に非常によく(なつ)いており、彼女も満更(まんざら)でも無さそうに相手をする。和気(わき)藹々(あいあい)とした空気が生まれる。

 

 周囲の村人は穏やかな表情でその光景を見守る。若い男性の一人は「彼女なら将来良い母親になれるだろう」と考える。

 

 魔族の脅威に(さら)された事実など無かったかのように平和な一時(ひととき)が訪れる。そのまま時が過ぎ去るかに思われたが……。

 

「……ムッ!?」

 

 何らかの異変を察知した鬼姫が、慌てて村の入口へと振り返る。彼女がそうしたのとほぼ同時に、村の外を見張っていた若者が血相を変えて走ってくる。

 

「まっ、魔族だ……魔族が攻めてきたぞおおおおおおーーーーーーっっ!!」

 

 敵の襲来を大きな声で告げる。若者の一人が村の中央にある木製の物見(やぐら)に上がり、鐘をカンカン鳴らす。老人と若い女性は子供達を連れて家の中に入り、扉に鍵を掛ける。若い男性達は大きな倉庫に入り、槍や盾、弓などで武装して出てくる。

 

 村を覆った(さく)、その唯一の入口に鬼姫がズカズカと歩いていると、武器を手にした数十人の若い男性が、加勢すべく彼女の後ろに付いてくる。

 

「うぬらは付いてこんでいい……敵は我一人で相手する。うぬらがいても邪魔になるだけじゃ。大人しく家の中に隠れておれ」

 

 女が後ろを振り返り、加勢の必要は無い(むね)を告げる。村人がいてはかえって足手まといだという。

 

「村の危機だというのに、貴方一人に背負わせて、我々だけ安全な所に隠れてなどいられません! せめて後方に控えさせて下さい!!」

 

 男性の一人が前に進み出て、強い口調で反論する。断固として引き下がれない強い意志を伝えて、必死に同行を願い出る。言葉の節々からは、鬼姫に村の安全を丸投げする事への罪悪感、少しでも力になりたい切実な思いが伝わる。

 他の者も彼の言葉に同意するように(うなず)く。(みな)思いは同じのようだ。

 

「……好きにせい」

 

 鬼姫は村人の説得を諦めて、しぶしぶ彼らの同行を許す。しょうがないと言いたげに頭を手でボリボリ()くと、村の入口に向かって再び歩きだす。村人達は彼女の後に付いていく。

 鬼姫は(あき)れた素振りを見せたものの、心の中では彼らの勇敢さを嬉しく思う気持ちもあった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 鬼姫が村の入口に立つと、魔物の集団らしき連中が村に向かってザッザッと歩いてくる。

 彼らが現れたのは、ザガートが向かった山頂方面ではない。山を下りた所にある平地、その(はる)か地平の彼方にある砂漠からだった。山頂に向かう魔王と(はち)合わせにならないよう、早朝になる前に移動していたようだ。

 

(……まんまと敵の策に乗せられたという訳か)

 

 鬼姫は魔王が騙されたと気付く。仲間を責める訳ではないが、この重大な局面を一人で乗り切らねばならない事にプレッシャーを感じる。

 

 最初は砂煙で隠れていた魔物の姿が、距離が近付くに連れてハッキリと見えてくる。最前列はレッサーデーモン四体が横一列に並んで歩いており、そこから二メートルほど離れた後方に、同じくレッサーデーモン四体が横並びに歩く。

 彼らの後方に、ボス格と思しき巨大な魔物がいる。

 

 その者は背丈七メートルほど、背中にコウモリの羽を生やした全裸の悪魔だ。グレーターデーモンより体が一回り大きい。グレーターデーモンが引き締まった筋肉だったのに対し、その者はでっぷりと太った、(たる)のような体型をしている。何処までが筋肉で、何処までが脂肪か分からない。さしずめ悪魔界のスモウレスラー、その横綱といった所か。

 全身は暗めの赤色に染まり、(ツノ)が生えた頭頂部は禿()げ上がっている。(あぶら)ぎった中年のオッサンのような顔をしており、歯はギザギザで、大きく裂けた口元からダラダラと(よだれ)()らす。背中の羽はちっちゃく、サイズ比を考えれば空が飛べるようには見えない。

 かなり体重が重いらしく、一歩進むたびにドスンドスンと地響きが鳴る。そのたびに体の脂肪がブルルンッと波打つ。

 

「あ、アイツだ……アイツが俺達の村に呪いを掛けた化け物だッ!!」

 

 若者の一人が、ボス格の悪魔を指差しながら大声で叫ぶ。やはりグレーターデーモンではなく、この醜悪なデブ悪魔こそが、山に棲む魔物の首領であったようだ。

 

 軍隊のように行進する魔物の一団は、鬼姫から数メートル離れた場所まで来てピタッと立ち止まる。その場から動こうとしない。

 人間と魔族、双方の集団が一定の距離を保ったまま牽制(けんせい)するように(にら)み合う。その状態が一分ほど続く。

 

「敵ノ襲来ヲ予測シテ、村ニ残ッタ事ハ()メテヤロウ……ダガ貴様一人デハ、ドウニモナルマイ」

 

 ボス格の悪魔が沈黙を破るように口を開く。村に戦力を残した判断の的確さを褒めながらも、鬼姫一人では力不足だと指摘する。

 

「フン……我は東の国で暴れた妖怪の王なるぞ。見くびるでない。うぬの方こそ、名を名乗ったらどうじゃ。そこまで大言を吐くからには、さぞかし名の知れた悪魔なのであろうな」

 

 悪魔の言葉に鬼姫が強気な態度で反論する。鬼族の首領である事を誇らしげに自慢すると、(あお)るような口調で名乗りを求める。わざとケンカを売る言葉を吐いて、相手の名前を聞き出そうとする。

 

「グフフッ……()カロウ」

 

 悪魔がニタァッと不気味な笑顔になる。大きく裂けた口元から(よだれ)()らしながら、不気味な笑い声を出す。

 

「ワシハ、ギルボロス……魔王軍ノ悪魔(デーモン)族ヲ統率スル最強ノグレーターデビルニシテ、魔王軍十二将ノ一人ナリ!!」

 

 ()えて鬼姫の挑発に乗るように自己紹介する。

 種族名がグレーターデビルで、ギルボロスというのは彼の個人名のようだ。

 

「貴様一人デ村ヲ守レルト言ウナラ、ヤッテミセルガ()イッ! カカレ!!」

 

 鬼姫を指差しながら部下達に処刑を命じる。

 

「ウォォォォオオオオオオーーーーーーッッ!!」

 

 上司の命を受けて、最前列にいた四体のレッサーデーモンが咆哮(ほうこう)を上げながら女に向かって走り出す。

 

 敵が動き出したのと時を同じくして、鬼姫の真横にある空間に裂け目が生じる。女はそこに手を突っ込んで、(さや)に収まった一振りの刀を取り出す。刀を鞘から抜いて鞘を地面に放り投げると、(つか)を両手で握って構える。

 その刀は言うまでもなく、ザガートとの決闘に使用した名刀マサムネだ。

 

 刀を手にした女の眼前にレッサーデーモンが迫る。グワッと開いた右手を相手めがけて振り下ろし、鋭い(ツメ)で肉を引き裂こうとする。

 

「ぬぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーーーーっっ!!」

 

 鬼姫が勇ましい雄叫びを上げながらデーモンに斬りかかる。刀を横()ぎに振って、まずは先頭にいた一体の横っ腹を切り裂く。

 

「グアアアアアアッ!」

 

 脇腹を斬られたデーモンが悲痛な声で叫ぶ。崩れ落ちるように前のめりに倒れると、傷口を両手で押さえたまま激しくのたうち回る。流れる血の量はおびただしく、悪魔は十秒と()たないうちに息絶える。

 

 鬼姫は間髪入れず後ろの三体に斬りかかる。それぞれの胸、腹、頚動脈をすれ違いざまに一刀両断する。

 

「ギャアアアアアアッ!」

「グワァァァァアアアアアアーーーーーーーーッ!」

「アビャアアアアアアアアッ!!」

 

 急所を斬られた悪魔達が断末魔の絶叫を発する。傷口から真っ赤な血が噴水のように噴き出し、辺り一面血の海と化す。三体の悪魔は斬られた順番に倒れていき、全身ピクピクさせた後すぐに動かなくなる。

 マサムネによる斬撃の威力は凄まじく、一撃で相手の命を確実に奪う。刀を四回振っただけで、四体の悪魔が(しかばね)となる。

 

「オノレェェェェエエエエエエーーーーーーーーッ!」

 

 後方に控えた四体のレッサーデーモンが声に出していきり立つ。仲間が殺された事に激しく(いきどお)る。感情の(おもむ)くままに女めがけて突進する。

 

「フンッ!」

 

 鬼姫は右手に持っていた刀を悪魔めがけて投げ付ける。クルクル横回転しながら飛んでいった刀は鋭利なブーメランと化し、四体の悪魔の首をズバズバと()ねる。自ら意思を持つように女の手元へと戻っていく。

 首を斬られた悪魔は断末魔の悲鳴を発する間もなく、切断面から真っ赤な血を噴きながら前のめりに倒れて絶命する。首を失った四つの死体と、地面に転がる四つの頭がデーモンの死を印象付ける。

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

 後方で戦いを眺めていた村人達から歓声が上がる。五分と()たない間に八体の敵を片付けた鬼姫の奮戦ぶりに、胸の奥底から興奮が湧き上がる。テンションが高まったあまり()ても立ってもいられず、(となり)にいた者同士が抱き合ったり、ウサギのようにぴょんぴょん跳ねたりする。

 

 魔王ほどではないが、鬼姫も十分に強い。敵に回れば恐ろしいが、その彼女が今は村を守るために戦っている。村の住人にとって、これほど頼もしい事があろうか。

 彼女なら村を守り抜いてくれる……そんな期待に胸を(おど)らせた。

 

「クククッ……ソウヤッテ、セイゼイ今ノウチニ()キナダケ(ヨロコ)ンデオクガイイ……スグニ喜ベナクシテヤル」

 

 歓喜に包まれた村人をギルボロスが(あざ)笑う。喜んでいられるのは今のうちだけだと忠告する。部下が倒されて自分一人になったので、重い腰を上げるようにゆっくりと歩きだす。

 途中で部下の死体を踏み付けたが、魔神は気にも()めない。

 

「鬼姫……妖怪ノ王ダトイウオ前ノ実力ハ本物ダ。ソレハ認メヨウ。ダガソレデモ、オ前デハ、ワシニハ()テン……ワシトオ前トノ間ニハ、天ト地ホド(チカラ)ノ差ガアルノダ……」

 

 一歩ずつ前進しながら口を開く。レッサーデーモン八体を倒した女の強さに一目(いちもく)置きながらも、それでも圧倒的な実力差がある事を教える。

 話を終えると、鬼姫から五メートルほど離れた場所まで来て立ち止まる。その場から動こうとしない。

 

 鬼姫とギルボロス、両者が一定の間合いを保ったまま(にら)み合う。二人とも一言も喋らず、敵を()(かく)するように鋭い眼光を向ける。その状態が時間にしておよそ一分半も続く。

 村人は(かた)()を飲んで状況を見守る。重苦しい空気が場を支配する。

 

(こやつ……口先だけのデブではない。確かに見た目はブサイクで口調はマヌケじゃが、感じる魔力は(まぎ)れもなく本物……もしかすれば、(わらわ)を超えるかもしれぬほどの……ッ!!)

 

 鬼姫が胸の内に焦りを抱く。初めて会った時は強気な態度に出たが、いざこうして目の前に立つと、ギルボロスから漂う魔力に戦慄を覚えずにはいられない。

 この醜悪な魔神から放たれたオーラ、それは魔力を持たぬ者でも感じ取れるほど凄まじい量だった。その場にいるだけで空気がピリピリ張り詰めて、見ているだけで心臓をワシ(づか)みにされたような感覚に(おちい)る。村人は全身の悪寒が止まらなくなる。

 ()の者から感じるプレッシャーは、まさしく最強のデーモンと呼ぶに相応しいものだ。

 

 鬼姫は自分より強いかもしれない化け物と対峙して、無意識のうちに足がジリジリと後退する。

 

「グフフッ……気付(キヅ)イタヨウダナ。オ前自身ノ(チカラ)ガ、ワシニ大キク(オト)ル事ニ……」

 

 女が(おく)した姿を見て、ギルボロスがニタァッといやらしい笑みを浮かべる。

 

「鬼姫……オ前ガドウ足掻(アガ)コウト、ワシニ勝テル見込ミハ無イ。ダカラコソ忠告シテヤル。今スグ村カラ立チ去リ、二度ト魔族ニ敵対スルナ。ソウスレバ、コノ場ハ見逃シテヤル。妖怪デアルオ前ガ、人間(ゴト)キノ(タメ)ニ命ヲ張ル必要ハ無イ……」

 

 女にこの戦いから手を引くよう提案する。妖怪が人間のために戦う無意味さを()いて、魔族に逆らわなければ身の安全を保証すると取引を持ちかけた。

 

「……」

 

 鬼姫が下を向いたまま黙り込む。魔神の言葉に一切反論しない。うつむいていたため表情を読み取れず、何を考えているか分からない。敵の意見に賛同したのか、そうでないのか……。

 

「人のために命を張る必要は無い……か。確かにそうかもしれん」

 

 ボソッと小声で(つぶや)く。それまで閉じていた口を開けてゆっくり喋りだす。

 

「我は鬼じゃ……人間ではない。その(われ)が、ヒト族のために命を張るなど、昔なら考えられぬ事であったろう」

 

 自分が人間ではなく妖怪である事、その自分が人間のために戦う義理は無い事……それらの事実を淡々とした口調で話す。

 

「じゃがのう……村の人間共は、(わらわ)(こころよ)く迎え入れた……恐れる事なく、()み嫌う事なく、同族のように歓迎したのじゃ。子供達は我を姉のように(した)い、(なつ)いてくれた……その時我がどんなに嬉しかったか、うぬには分かるまい」

 

 そっと顔を上げると、重苦しい表情を浮かべていたのが一転して晴れやかな笑顔になる。村の住人達に受け入れられた喜びを口にする。

 声は(かす)かに震えており、目にはうっすらと涙を浮かべて、今にも泣きそうになる。涙声で心情を打ち明けた彼女の姿からは、深く感動した思いが切実に伝わる。

 

 たとえ魔王にチョロイと笑われようと、鬼姫は村人の友好的な態度に胸を打たれたのだ。彼女の告白を聞いて、後ろに控えた若者達は思わず泣きそうになる。

 

「我は、我を信じてくれた者を裏切る事は出来ん……彼らの期待に応えるためにも、ギルボロス……ここで貴様を倒さねばならぬのじゃッ!!」

 

 鬼姫は目をグワッと開くと、魔神を倒す決意を大きな声で叫ぶのだった。

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