いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第50話 ギルボロス vs 鬼姫

「ギルボロス……鬼族の王たる我の力、とくと目に焼き付けるがいい!!」

 

 鬼姫はそう叫ぶと、右手に持っていた刀を地面に突き刺す。しばらく使わない事を決めたように(つか)から手を離す。

 両手で(いん)を結んで、ボソボソと小声で呪文を詠唱する。彼女に魔力が集まっていくように全身が炎のオーラに包まれる。

 

「我が力よ……炎の龍となりて全てを焼き尽くせ! 火炎龍嵐(かえんりゅうあらし)ッ!!」

 

 魔法の言葉を唱えると、彼女の前にある空間に炎が集まっていき、巨大な(かたまり)となる。それは一匹の(ドラゴン)へと姿を変えて、ギルボロスめがけて飛んでいく。

 炎の龍はギルボロスに巻き付いて焼死させようとする。ゴブリンを一瞬で消し(ずみ)にする超高熱の火炎が魔神を焼き尽くそうとする。

 

「ムンッ!」

 

 ギルボロスは(かつ)を入れるように一声発すると、拳を強く握ったまま両腕を左右に大きく開く。すると彼に巻き付いた炎の龍は力ずくで振りほどかれたようにバラバラに千切(ちぎ)れて、小さな炎となって消えていく。

 

「ドウシタ……モウ終ワリカ? 鬼族ノ王トヤラノ(チカラ)ガソノ程度ナラ、期待外レモ良イ所ダ……」

 

 魔神が余裕ありげに侮蔑の言葉を吐く。首を左右に傾けてゴキゴキと音を鳴らし、グフグフと声に出して笑う。灼熱の業火で焼かれたにも関わらず、何事も無かったかのように平然とする。

 ゴブリンを一瞬で焼死させる炎も、魔神には(かす)り傷すら負わせられなかった。それは両者に埋めがたい実力の開きがある事実を浮き()りにした。

 

「まだじゃ! まだ戦いは始まったばかりなのじゃ!!」

 

 それでも鬼姫は諦めようとしない。圧倒的な力の差があると分かっても、(なお)も食い下がろうとする。

 

「青き光よ、雷撃となりて我が敵を()ぎ払え! 雷撃龍嵐(らいげきりゅうあらし)ッ!!」

 

 正面に右手をかざして魔法の言葉を唱えると、女の手のひらがバチバチッと音を立ててスパークする。そこから青く光る一筋の(いかずち)がギルボロスめがけて放たれた。

 目にも止まらぬ速さで飛んでいった電流は魔神を一瞬にして貫く。鎖のように全身に巻き付いて、ビリビリと高圧電流で感電させる。

 

 魔法は自然の落雷に匹敵する威力だ。普通なら心臓が止まるし、そうでなければ全身が黒焦げになる。並みの魔物なら死は(まぬが)れない。だが……。

 

「ウイーーーッ。コレハチョウド良イ電流ジャ。オカゲデ肩()リガ取レタワイ」

 

 ギルボロスが恍惚(こうこつ)とした表情になる。手傷を負わせられないどころか、逆に気持ちよさそうにする。並みの生物を一撃死させる電流も、最強の魔神にとっては全身の凝りをほぐすマッサージにしかならない。

 皮肉でなく本当に肩凝りが治ってしまったらしく、魔法を受ける前よりもハツラツとした笑顔になる。

 

「サテ、オ(アソ)ビハコノクライニシテ、ソロソロコチラカラ行カセテモラウトシヨウ」

 

 魔神はそう口にすると前に一歩踏み出す。自分から攻撃を仕掛ける事を決めたようにゆっくりと歩き出す。二、三歩ほど進んだ所で立ち止まる。

 

「ゲヘナノ火ニ焼カレテ、消シ(ズミ)トナレ……火炎光弾(ファイヤー・ボルト)ッ!!」

 

 女に手のひらを向けて攻撃魔法を唱える。魔神の手のひらに大量の炎が集まっていき、圧縮されて一つの火球になる。火球は女めがけて目にも止まらぬ速さで撃ち出された。

 

「くっ!」

 

 鬼姫は咄嗟(とっさ)に両手を正面にかざして、半透明に青く光るバリアをドーム状に張り巡らす。

 だが火球はバリアに衝突しても霧散する事なく、逆にバリアを力ずくで押し破ろうとする。バリアの四方八方に亀裂が入り、バリィィーーーンッ! とガラスのように(もろ)く砕けてしまう。

 障壁を破ると、火球はそのまま直進して鬼姫を()み込んだ。

 

「ぐああああああああーーーーーーーーっっ!!」

 

 女が天にも届かんばかりの絶叫を発する。火球に触れた途端ダイナマイトに匹敵する威力の爆発が起こり、その身を超高熱の炎で焼かれた。爆発の衝撃により吹き飛ばされて、全身大ヤケドを負ったまま地面をゴロゴロ転がる。

 

「ううっ……」

 

 (うめ)き声が女の口から漏れ出す。全身を駆け回る痛みに身(もだ)えするように体をよじらせた。着物はボロボロになり、体のあちこちの皮膚が黒く焦げている。そこからブスブスと白煙を立ち(のぼ)らせた。

 致命傷にまでは至らなかったものの、深手を負った事は明白だ。

 

 鬼姫が放った渾身の一撃はギルボロスに(かす)り傷すら負わせられなかった。魔神は結界を張る素振りすら見せず、無防備のまま無傷で耐え(しの)いだ。逆に魔神が放った何でもないただの一撃を、鬼姫はバリアで防ぎ切れず大打撃を受けてしまった。

 

 力の差は歴然としていた。鬼姫ですら大悪魔アスタロトの二倍の強さがあるというのに、その彼女が虫けらのように軽くあしらわれている。このギルボロスと名乗るグレーターデビルはアスタロトの何倍の強さだというのか。

 

 状況は絶望的だ。どうあがいても鬼姫に勝てる見込みなど無い。このまま戦いが続けば、彼女がなぶり殺しにされる事は目に見えている。

 村人達は自分らの安否以上に鬼姫が殺される事を心配し、みるみる悲壮感が湧き上がって胸が締め付けられるように痛くなる。

 

「グフフッ……鬼姫ヨ。ソロソロ降参スル気ニナッタカ?」

 

 ギルボロスがニタァッと不気味な笑顔になる。ボロ雑巾(ぞうきん)のような姿になった女を眺めて、嬉しそうにグフグフと笑う。心身共に追いつめられた女が弱気になる事を期待して、再考を(うなが)す。

 

「……まだじゃ」

 

 鬼姫がそう言葉を発しながら、手の指先をピクリと動かす。ゆっくり体を動かして上半身を起こすと、自ら気力で奮い立たせたように、二本の足でしっかりと立ち上がる。

 相変わらず衣服はボロボロで、体の傷は治っていないままだ。両足はガクガク震えており、全力疾走したように呼吸が荒くなる。かなり体力を消耗したのが一目で分かる。

 それでも彼女の目から闘志は失われていない。何としてもこの村を守るのだという揺るぎない意志の炎がメラメラと燃えている。

 

 正面に右手をかざすと、地面に刺してあった刀が(ひと)りでに抜けて、自ら意思を持つように女の手元へと飛んでいく。女は刀の(つか)を右手でガッと(つか)む。

 

「まだ我は切り札を使(つこ)うておらん……これまで数多(あまた)の敵を(ほふ)ってきた、取っておきの技がな。ギルボロスよ……勝った気になるのは、この技に耐えてからにしてもらおうかッ!!」

 

 刀を手にすると、鬼姫は最後の大技を使う事を宣言するのだった。

 

「ギルボロス……我の最後の大技、その身に受けるがよい!!」

 

 女はそう叫ぶと、右手に持った刀を頭上に掲げてプロペラのようにクルクル回した後、今度は(つか)を握ったまま大地に突き立てる。

 

「鬼龍剣奥義……影鰐(かげわに)ッ!!」

 

 技名らしき言葉を口にすると、刃が刺さった地面から黒い影のようなものがみょーーんと伸びていく。それはギルボロスの真下に来るとみるみる大きくなっていき、半径五メートルほどの大きな丸い影となる。影が水面のようにゆらぁっと波打つ。

 

「グァァァァアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」

 

 次の瞬間、影から体長十メートルを超す竜のように巨大なイリエワニが顔を出す。ワニは大きく口を開けると、真上にいたギルボロスを丸()みにしようとする。

 ギルボロスは自らに襲いかかってきたワニの上(あご)と下顎を、それぞれの手でガッと(つか)む。ワニに捕食されまいと、ググッと腕に力を込めて抵抗する。ワニも何としても相手に力負けすまいと、必死に口を閉じようとする。

 

 二体の魔獣がパワーで()り合う光景は、さながら実写特撮の怪獣映画のようだ。ヒトが一切介入しない、怪物と怪物の、暴力と暴力のぶつかり合いだ。

 

 化け物同士の争いを、後ろで控えた村人達がハラハラしながら見守る。影鰐(かげわに)が勝ってくれるんじゃないかと(かす)かな期待に胸を(おど)らせた。だが……。

 

「ヌウゥゥゥ……ドリャァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーーーッッ!!」

 

 ギルボロスが力を()め込むように低く(うな)った後、天にも届かんばかりの怒号を発する。その勢いに任せるように、顎を掴んだ両手を左右に大きく開く。ワニの口がバリバリと音を立てて裂けていく。

 

「グッ……ウギャァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」

 

 この世の終わりと思えるほどの絶叫が放たれた。真っ二つに裂かれたワニの亡骸が大地に転がり、大量の血と内蔵が無惨にブチ()けられた。敗北を認めてショボくれたように、ワニの出現穴である丸い影が小さくなって消えてゆく。後にはグロテスクな死体が残るだけだ。

 

「フゥ……フゥ……フゥ……」

 

 返り血を浴びて赤く染まったギルボロスが、肩で激しく息をする。表情には疲労の色が浮かび、(ひたい)から汗が滝のように流れ出る。さすがに楽勝という訳には行かなかったらしく、体力を消耗した様子が(うかが)える。

 

「グフフッ……鬼姫ヨ。今ノハ流石(サスガ)(キモ)ヲ冷ヤシタゾ。コレマデ散々()クビル発言ヲシタガ、撤回シヨウ。オ前コソ、(マギ)レモナク東ノ妖怪ノ王ニ相応(フサワ)シイ実力ヲ持ッタ女ヨ……」

 

 呼吸が落ち着くと不気味に笑い出す。(ひと)仕事終えてスッキリしたような、晴れやかな笑顔になる。相手の大技にいたく感銘(かんめい)を受けたらしく、彼女の実力の高さを素直に称賛する。

 

「……」

 

 ()められた当の鬼姫は言葉も出ない。渾身の大技を防がれたショックのあまり()(ぜん)となる。いくら実力の高さを評価された所で、ギルボロスが健在では意味が無い。彼が村を滅ぼそうとする事実に何ら変わりないのだから。

 

 やがて地面に刺さった刀を引き抜くと、両手で握って構える。そのまま敵に向かって走り出す。

 

「ぬぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーーーーっっ!!」

 

 勇ましい雄叫びを上げると、ギルボロスの腹めがけて斬りかかる。縦一閃(いっせん)に振られた刀が分厚い肉の壁に激突すると、ガリガリガリッと何かを引きずったような音が鳴り、物凄い力で刃が押し戻されそうになる。

 

「ぬうっ……うおおおおおおおおっ!」

 

 鬼姫は腹肉の圧力に負けまいと、両腕に力を込める。刀に全体重を乗せて、一気に振り抜いた。

 

 当のギルボロスは……全くの無傷っ!

 レッサーデーモンを一撃死させる威力の刀で斬られたにも関わらず、(かす)り傷すら負わない。魔神の腹肉は何事も無かったかのようにテカテカしている。

 

(なんの……一撃でダメなら、何撃だろうと食らわせてやるわい!!)

 

 それでも鬼姫は諦めようとはしない。いずれ攻撃が通るはずだと確信を抱いて、次の攻撃に移る。

 

「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁぁぁぁああああああーーーーーーーーーーっ!!」

 

 腹の底から絞り出したように大きな声で叫ぶと、両手で握った刀をブンブン振り回す。高速の連撃を放ち、相手をメッタ斬りにしようとする。

 目にも止まらぬ速さで振られた刃がぶつかるたびに、腹の肉がボヨンボヨンとしなる。まるで受けた力を外に逃がそうとしているかのようで、全く手応えが無い。

 それでも鬼姫は諦めずに刀を振り続けたが……。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 やがて刀を振る腕が止まる。全身汗まみれになり、表情に疲労の色が浮かび、ガクッと(ひざ)をついてうなだれた。手足の震えが止まらず、ゼェハァと口で激しく息をする。完全に疲労困憊(こんぱい)した様子が(うかが)える。

 刀を握る力すら残っておらず、彼女の手から刀が(こぼ)れ落ちて地面に転がる。

 

 鬼姫の連撃は数分ほど続いたが、魔神の腹には全く傷を付けられなかった。()が刺した程度の(あと)すら付いておらず、健在ぶりをアピールするようにでっぷりしている。魔神は「ふぁーーっ」と退屈そうにあくびをしながら、指で鼻くそをほじる。

 

「グヌゥゥ……何故じゃ……何故我の一撃が通じぬ! 此奴(こやつ)の腹肉は、マサムネの切れ味を(もっ)てしても太刀打ちできぬというのか!!」

 

 女が声に出してうろたえる。攻撃が通らない悔しさのあまり、割れんばかりの勢いで歯(ぎし)りする。天下の名刀と(うた)われた刀で斬ったのだ。敵が無傷に終わった結果は到底納得の行くものではない。

 

「グフフッ……ソウデハナイ……鬼姫ヨ」

 

 ギルボロスが笑いながら口を開く。骨の(ずい)まで憤慨する女に、落ち着いた口調で理由を説明する。

 

「正宗ノ切レ味ハ、(マギ)レモナク一流ダ……モシ伝説ノ勇者ノ手ニヨリ振ルワレタナラ、ワシハ、バラバラニ切リ裂カレタダロウ……ソウナラナカッタノハ、オ前ノ腕力ガ()リナカッタカラニ他ナラナイ。イクラ(スルド)イ切レ味ヲ持ッタ刀デモ、(アツカ)ウ戦士ガ一流デナケレバ、本来ノ強サヲ発揮シナイトイウ事ダ……」

 

 刀の切れ味は十分だった事、女の細腕では本来の威力を出し切れず、致命傷に届かなかった事……それらの事実をありのまま教える。

 

 女の実力に一目(いちもく)置いた魔神の発言だからこそ、嘘は無いのだろう。その事が余計に彼女にとってショックが大きい。もし刀を振るったのが自分でなく桃太郎なら、魔神を倒せたかもしれない……そんな思いが女の胸に湧き上がる。

 

 無力感に打ちひしがれて茫然(ぼうぜん)自失になった女を、ギルボロスが右手でガシッと(つか)む。強く握ったまま、高々と持ち上げる。

 

「ぐああああああああっ……!!」

 

 全身を締め付けられる痛みに鬼姫が悲鳴を上げる。体中の骨がミシミシと音を立てており、魔神がちょっとでも指に力を加えれば、一瞬でペシャンコになりそうだ。もはや彼女の生き死には魔神の意思に(ゆだ)ねられてしまった。

 

「グフフッ……鬼姫ヨ……コレガ最後ノチャンスダ。我々ニ降参シ、二度ト魔族ニ(サカ)ラワナイト約束シロ。サモナクバ、オ前ヲ殺ス」

 

 頭上に掲げた女を見ながら、ギルボロスがニタァッと笑う。まな板の上の(こい)を眺めてうっとりしたような、いやらしい笑顔になる。心身共に追い詰められた女に最後通牒を行う。

 

「グッ……貴様如きに降参するくらいなら、死んだ方がマシじゃ」

 

 鬼姫が相手の降伏勧告を跳ね()ける。敵の言いなりになる事を断固として拒否し、自らの意思で死を選ぶ。

 

「ソウカ……ナラバ(ノゾ)ミ通リ、死ヌガイイ!!」

 

 魔神の目がグワッと開く。女を握る指にぎゅっと力が込められた。

 

「がぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーーーっっ!!」

 

 鬼姫が悲痛な声で叫ぶ。全身の骨がボキボキ砕ける音が鳴り、口から真っ赤な血が噴水のように吐き出された。体中を駆け回る激痛にもがき苦しんだあまり、目を(つぶ)って苦悶の表情を浮かべたまま、体を前後に揺り動かす。かよわい女性が絞め殺されそうになる光景は見るからに痛ましい。

 

「ああっ……!!」

 

 鬼姫が死にそうな姿を見て、村人達が顔面蒼白(そうはく)になる。何とかしなければならないと思いながらも、方法が思い付かない。自分達が飛びかかった所で、女を助けられずゴミのように蹴散らされるのは目に見えている。ただアワアワと慌てふためくしかない。

 

 最後は(わら)にもすがる思いで、両手を合わせて神に祈る。

 その祈りも届かず、女が死ぬかと思われた時……。

 

 

 

 何処からか、ヒュンッと風を切る音が鳴る。次の瞬間、音が聞こえた方角から黒い(かたまり)のようなものが飛んでくる。

 黒い物体はギルボロスの脇腹に激突し、ドグォッと音を立ててめり込む。その衝撃で魔神の体がフワリと宙に浮く。

 

「バッ……ドブルゥゥゥゥァァァァァァアアアアアアアアッッ!!」

 

 ギルボロスが滑稽(こっけい)な奇声を発しながら豪快に吹き飛ぶ。攻撃を受けたショックで、女を握っていた手を離してしまう。空高く打ち上がった後、墜落するように地面に激突すると、そのまま数メートルほどゴロゴロ転がった挙句、うつ伏せに倒れて手足をピクピクさせた。

 

 魔神の手から離れて宙を舞った女を、何者かがキャッチする。黒い塊に見えていたのは人だった。物凄い速さで魔神に飛び蹴りを食らわせたのだ。

 

「まんまと敵の策略に乗せられたが……どうやら間に合ったらしい」

 

 女をお姫様抱っこしながら、男が口にする。

 

「フンッ……全く、助けに来るならもうちょっと早く来ぬか。(あや)うくこっちは死ぬ所じゃったわい」

 

 男に抱き(かか)えられたまま鬼姫が憎まれ口を叩く。わざと素直じゃない口ぶりをしてみせたものの、顔から笑みがこぼれており、救援が間に合った事を喜んでいるのが一目で分かる。

 

 男は救援が遅れた事を()びるように無言のままコクンと(うなず)く。

 

 ……その人物こそ山頂でグレーターデーモンを倒した後、転移魔法で急いで村に駆け付けた魔王ザガートに他ならない。

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