いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
ギルボロスと名乗るグレーターデビルに立ち向かう鬼姫だったが、力の差は大きく開いており、全く歯が立たない。
彼女が絞め殺されそうになった時、何者かが魔神の脇腹に飛び蹴りを食らわせる。魔神は豪快に吹っ飛び、その手から離れた女を何者かがキャッチする。
彼女を助けた人物こそ、魔王ザガートに他ならない。山頂でグレーターデーモンを片付けた後、転移魔法で村に駆け付けたのだ。
「ザガート様っ!」
魔王が飛んできた方角から、三人の少女が遅れてやってくる。彼女達も転移魔法で一緒に来ていた。
三人が合流すると、ザガートは回復魔法で鬼姫の傷を
「……俺が合流するまでよく持ち
重苦しい表情を浮かべて
「そんな顔せずともよい……それより敵は恐ろしい力を持った魔神じゃ。くれぐれも気を抜くでないぞ」
鬼姫が責任を感じる必要は無い
魔王が女の言葉に「分かった」と言いたげにコクンと
一行が言葉を
冷静さを取り戻すと、一行に向かってドスンドスンと歩きだす。魔王から数メートル離れた場所まで来て立ち止まる。
脇腹を蹴られた事によるダメージは全く無いようだ。
「異世界ノ魔王……
宣戦布告するように名乗りを上げる。鬼姫に名乗った時と違い、今度は魔王軍内における自らの序列を教える。
(最強の魔神ギルボロス……確かに凄い魔力だ。鬼姫ですらアスタロトの二倍あるのに、こいつは十倍……つまり鬼姫の五倍の強さという事になる。冒険者では歯が立たないのも道理だ。何しろこいつに勝てるだけの強さがあれば、世界を救う勇者になるのも夢ではないのだからな……)
魔神の強さにザガートが驚嘆する。直接対峙するまで実感が湧かなかったが、いざこうして目の前に立つと、その魔力の高さに驚きを禁じえない。
アスタロトの十倍という事は、二十倍であるザガートやアザトホースの半分程度の強さという事になる。彼が今の二倍強くなっただけで、大魔王と肩を並べてしまうのだ。彼が
「ギルボロスとか言ったな……俺の仲間を傷付けた
敵の予想外の強さに一瞬驚いた魔王だったが、それでも自分より実力は下だと冷静に思い直す。自らの中に湧き上がった懸念を打ち消すように前に一歩踏み出すと、正面に右手をかざして魔力を集中させる。魔王の手のひらに炎が集まっていき、凝縮されて一つの塊になる。
「ゲヘナの火に焼かれて、消し
魔法の言葉を唱えると、手のひらにあった火球が正面に撃ち出された。火球は目にも止まらぬ速さで魔神めがけて飛んでいく。いくら
「我、魔神ノ名ニオイテ命ジル。精霊ノ光ヨ、
火球が眼前まで迫った時、ギルボロスが両手を組んで人差し指を垂直に立てて、呪文の詠唱を行う。すると彼を中心として虹色に輝く結界がドーム状に張り
魔神に届きかけた火球は虹色の結界に触れた途端、風で吹き飛ばされたようにバラバラになる。粒子状に分解された
「何ッ!?」
攻撃魔法を無効化された光景にザガートが驚きの言葉を発する。予想外の展開に動揺を隠し切れない。
(
醜悪なる闇の魔神が最上級の光魔法を唱える、その組み合わせに意外性を感じる。最後は自分も似たような事をするので、そう珍しくもないのだろうと思い直す。
「だがギルボロスよ……その魔法は術者自身の魔力をも無力化する
魔法の特性を述べて、戦術の
魔神はザガートの魔力を封じるのと引き換えに、自身も全ての魔法を使えなくなる捨て身の戦法を取ったのだ。
「グフフッ……何モ心配スル必要ハ無イ」
ギルボロスが口からダラダラと
「ワシノ取ッテオキヲ、見セテヤル」
そう言いながら、合図を送るように指をパチンッと鳴らす。
次の瞬間、空の彼方からヒュゥゥゥウウウウウッと音が鳴り、巨大な何かが飛んでくる。それは蛇のようにも、
巨大な何かはギルボロスの真横にある大地に、ドスゥゥーーーンッと音を立てて着地する。その衝撃で辺り一帯が激しく揺れた。
飛んできた何かは魔神のサイズに合わせた鋼鉄製の鎖だ。鎖の先端にはトゲの生えた鉄球が付いており、ぶん回して相手に叩き付ける武器のようだ。
それは創作作品において『モーニングスター』と呼ばれる武器のうち、鎖で振り回すタイプのものと思われた。恐らく目視で確認できないほど遠くの場所に魔神の仲間がいて、合図を送られたため武器をよこしたのだろう。
「魔法ガ使エナクナッテモ、ワシニハ、コレガアル……コレマデ幾人モノ冒険者ノ血ヲ吸ッテキタ、ワシノ必殺武器。今回同様、魔法ヲ使エナクナッタ状態ニシテ、コレヲブン
魔神が鉄球について説明を行う。これまで何人もの冒険者を屠ってきたお気に入りである事、互いに魔法を使えなくした状態に持ち込んで、鉄球で命を奪うのは彼の
話を終えると、地面に落ちた鎖を両手で拾い上げる。鉄球が付いてない方の鎖を左手で
「死ネ、ザガート! 脳ミソブチ
死を宣告する言葉を発すると、鎖の先端に付いた鉄球を魔王めがけて振り下ろす。
重さ数百キロは超えるだろう鉄の塊が、男の頭上に落下する。男は避けようともしない。相手の技を受け切る気でいたのか、その場から一歩も動こうとしない。
やがてドガァッと大きな音が鳴り、鉄球の下敷きになってしまう。
「ざっ……ザガート様ぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」
ルシルが悲痛な声で叫ぶ。男が鉄球の
他の仲間達も無念そうな表情を浮かべて下を向く。魔王が倒された事に心底落胆する。重苦しい空気が場に漂う。
鉄球は大地にめり込んでおり、地面に亀裂が走る。魔王は影も形も見えない。鉄球に押し
「グフフ……グッファッファッファッファ!
ギルボロスが勝利の喜びに満ちた高笑いをした時……。
地面に落ちていた鉄球がひょいっと持ち上がる。最初は地面と数センチの
一瞬鉄球が
「こんなものがお前の切り札なのか? 確かに並みの冒険者なら殺せたかもしれないが、俺には
魔王が侮蔑に満ちた言葉を吐く。相手を見下すような視線を向けたまま「フフンッ」と得意げに鼻息を吹かす。
魔王はあろう事か、鉄球を右手だけで持ち上げていた。全く
「ふんっ!」
鉄球は男の姿からは想像も付かないほど凄まじい力で投げられており、まるで星と同じ大きさの巨人に投げられたかのように、放物線を描いて飛んでいく。
鎖を握っていたギルボロスは、鉄球の勢いに引っ張られて宙に浮き上がり、そのまま一緒に飛んでいく。
「ヌゥゥゥゥゥゥォォォォォォオオオオオオオオーーーーーーーーッッ!!」
突然の出来事に困惑した魔神が絶叫する。うっかり鎖から手を離してしまい、空高く投げ出されると、垂直に落下して強い衝撃で地面に叩き付けられた。
落下の衝撃で大地が激しく揺れて、大量の砂
「ギルボロス……貴様はケセフと同じ間違いを犯した。それは俺が魔法が得意なだけの男だと思い違いをした事だ」
「俺が魔法においてだけでなく、肉弾戦においても最強である事を教えてやる!!」
肉弾戦で敵を
「マサムネ、お前に意思があるなら来い! 今だけでいい……俺のモノになれ!!」
ザガートが大声で叫びながら、刀が落ちた方角に右手を伸ばす。
すると彼の呼びかけに応えたのか、地面に落ちた刀が自ら意思を持つように
魔王は刀の
鬼姫には一瞬、魔王の姿がかつて対峙した桃太郎と重なって見えた。
「グヌゥゥゥ……」
地面に倒れたギルボロスが
魔王の方へと向き直ると、ギリギリと割れんばかりの勢いで歯
「ヨクモ……ヨクモヤッテクレタナァッ!
胸の内に湧き上がった怒りを声に出してぶちまけた。
魔神の怒号は大地を揺るがし、空気がビリビリと振動し、山を二つ超えた遠くの町までも届く。空を飛んでいたカラスの群れが異変を察知して、慌てて飛び去る。
ギルボロスは地面に叩き付けられても全く傷を負わなかったが、プライドを深く傷付けられた事への精神的ダメージは
「殺ス! 何トシテモ殺ス! コノワシノ手デ、貴様ヲ殺シテヤルゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウーーーーーーーーッッ!!」
大声で
完全に頭に血が
近接戦の間合いに入ると、グワッと開いた両手を相手の首へと伸ばす。魔神の指先が触れようとした瞬間、ザガートの姿がワープしたようにフッと消える。
「!? ド……ドコダ!!」
敵の姿を見失った事にギルボロスが慌てふためく。
魔王が何かしたのは明らかだが、何をしたのかは分からない。刀を振ったにも関わらず、魔神には傷一つ付いていない。状況だけ見ると、ただワープして逃げたようにも感じ取れた。
「フッ……フフン! ナンダ、
魔神が冷や汗をかきながら必死に強がる。自身の体に何ともなかった事に深く安堵すると、再び魔王に向かって歩き出す。相手を
魔神の右手首に、ブレスレットのような赤い線がピッと入る。そこが切断面となり、線が通った箇所から先の右手がズルリと
「……ア?」
魔神は一瞬何が起こったのか分からない。手首から先にあるはずのものが無い。それから数秒遅れて、切断面から真っ赤な血が噴水のように噴き出し、傷口がビリビリと激しく痛みだす。
「ギャ……ギャァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!! ワワワ、ワシノ手ガ、ワシノ手ガァァァァアアアアアアッ!!」
手首から湧き上がる痛みにギルボロスが悲鳴を上げる。右手を失ったショックのあまりパニックに
「俺が貴様の右手を切り落とした……と言っても、そのザマではまともに聞いちゃいないだろうが」
ザガートが真相を明かしながら魔神の方へと振り返る。斜め上を向いたまま目だけ相手の方を見て、ゴミを見るような視線を向ける。
魔王が手に握っていた刀の刃には赤い血が付着しており、ボタッボタッと地面に
「これで終わりにさせてもらう……ギルボロス!!」
魔王はそう言うや
やがて魔神から数メートル離れた背後にザガートがスタッと着地する。またも刀を振り下ろした構えを取っている。
一瞬の沈黙の後、魔神の体に刀で斬られた
「グッ……ウギャァァァァァァアアアアアアアアッッ!!」
断末魔の悲鳴を上げた瞬間、ギルボロスの体がバラバラに崩れていき、
「グレーターデビル……ギルボロス。お前は確かに強かった。バハムートに次ぐ魔界第三位の実力というのも
相手の死に
魔神が死ぬと、彼がいた場所の真上にある空に青い光が集まっていく。それはやがて一つの宝玉へと変わっていき、ゆっくり降下していって魔王の手元に収まる。
「………」
その場にいた者達はポカンと口を開けて、
後ろで控えた村人達も、駆け付けた三人の少女も、助けられた当の鬼姫も、心底驚く。凄まじい力を持つはずの魔神が、こうもあっさり
しばらく誰も一言も発しないまま
「うっ……うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおっっ!!」
やがて村人の一人が感極まったあまり大きな声で叫ぶ。彼の声を聞いて、他の村人がハッと我に返る。村が救われた事を実感すると、胸の内に喜びの感情がじわじわと湧き上がる。
「村が救われた……村が救われたんだ!」
「俺達助かったんだ!」
「ヒャッホーーーイ!!」
思い思いの言葉を口にすると、魔王に向かって一斉に駆け出す。
「アンタのおかげで村は救われたんだ! 本当にありがとう!」
「アンタこそ、世界を救う勇者様だっ!」
「ありがてえ……本当にありがてえ」
「本当に感謝しなければならないのは、俺ではなく鬼姫の方だ。もし彼女が持ち
ザガートが仲間への感謝を
「おお、そうでしたな!」
魔王の言葉を聞いて、彼に殺到した村人の半数が鬼姫の方へと向かう。皆で輪になって彼女を囲む。
「アンタも、村を守るためによく戦ってくれた!」
「姉ちゃん、アンタも十分強かったぜ!」
「魔神に勝てなかったからって、気にするこたぁ
村人のために尽力した彼女の労を
魔神に力が及ばなかった事を擁護する言葉が飛び出す。力不足を責めたりはせず、彼女が責任を感じないように配慮する。
「……」
それでも鬼姫の表情は暗い。村人に優しく言葉を掛けられてもあまり嬉しそうにせず、下を向いたまま黙っている。魔神に勝てなかった事に落ち込んだのが一目で分かる。
ザガートはそんな彼女の姿を、ただ遠くからじっと眺めていた。