いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第52話 鬼姫とセックス

 魔王がギルボロスを倒した日の晩、村を挙げての宴会が開かれた。

 大人達は酒と肉をかっ食らいながら楽しそうに笑い、歌を(うた)って踊りだす。子供達は広場を駆け回って追いかけっこしたり、『ザガートごっこ』をして遊ぶ。

 (みな)が英雄の活躍ぶりを口にして、救世主に思いを()せた。ようやく村に訪れた『真の平和』を噛み締めて、生きる喜びに満ちた一時(ひととき)を味わう。

 

 (うたげ)が終わり、皆が疲れたように寝静まった真夜中……時計の針が十二を指した頃。

 

 ザガートがふと目を覚ますと、(となり)のベッドで寝ていた鬼姫がいない。トイレに用を()しに行ったのか、もぬけのカラになっている。

 一行は酒場がある宿屋の二階に(ふた)部屋を借りていた。一方の部屋にはルシル、レジーナ、なずみの三人が、もう一方にはザガートと鬼姫が泊まる形となっている。いくら同室とはいえ一つのベッドで寝たりはせず、二台のベッドで離れて別々に寝る。その隣で寝ていた女がいなくなったのだ。

 

 魔王は女がいなくなったのが気がかりになり、ベッドから起き上がって普段着に着替えると部屋の外に出る。ドアを閉めて廊下を歩き、ゆっくりと音を立てないように階段を下りる。下の階に来ると、酒場の方から何やら物音が聞こえる。

 音が聞こえた方角に向かって歩き、酒場の(そば)まで来ると、ランプの明かりが()いているのが見えた。

 

 ザガートが酒場に入ると、(はし)っこのテーブルの前に置かれた椅子(いす)に一人の女が座る。その女は言うまでもなく、部屋を抜け出した鬼姫だ。

 彼女は一升(いっしょう)(びん)に入った日本酒のような酒をガラスのコップに()いで、ゴクゴク飲み()す。(すで)にかなりの量を飲んだのか、(から)の瓶が数本床に転がっている。顔を真っ赤にしてヒックヒックとしゃっくりをする。

 

 魔王はしばらく離れた場所から様子を見ていたが、やがて女の方が男の存在に気付く。

 

「何ひゃあ……魔王……おぬひも起きよったか。どうひゃ……いっひょに飲まぬか? たのひいぞ……ウヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 鬼姫が魔王を見ながら楽しそうに笑う。完全に()いが回っており、呂律(ろれつ)が回らない。テンションが上がっており、意味もなく笑い出す。

 女の口からプゥーーンと酒のニオイがする。あまりの強烈さに男は思わず鼻を(ふさ)いだ。

 

「いっひょに……飲もうや」

 

 鬼姫がそう言いながら椅子から立ち上がる。男を飲みに誘おうと、正面へと歩き出す。けれども足元はふらついており、おぼつかない。案の定、数歩進んだ所で足がもつれてコケそうになる。

 

「危ないっ!」

 

 男が咄嗟(とっさ)に前に出て、女を抱き止める。女は男の胸に寄りかかったまま抱き締められた状態になる。

 

「……うっ!」

 

 次の瞬間、鬼姫の顔が真っ青になる。慌てて男から離れると、床に四つん()いになり下を向く。

 

「おええええええええっ」

 

 そのままゲロを吐いてしまう。体がぐらついた事で胃が刺激されて、吐き気を(もよお)したようだ。

 

(何をやってるんだ、全く……これじゃ仕事帰りにヤケ酒をかっ食らうアラサーのOLじゃないか)

 

 ザガートは思わず頭を抱え込んだ。酒を飲んで酔い(つぶ)れた挙句に嘔吐(おうと)する醜態を(さら)け出した女を見て、心の底から(あき)れる。元いた世界の働く女を引き合いに出す。

 それでも彼女を放っておけず、(そば)まで来てしゃがむ。

 

「しっかりしろ……体の具合は大丈夫か」

 

 優しく言葉を掛けながら、女の背中を手でゆっくりと(さす)る。

 床にぶちまけられた内容物は魔王が人差し指を向けて魔法の言葉を唱えると、何事も無かったかのようにサッと消える。

 

「ああ……もう大丈夫じゃ。心配かけてすまんのう」

 

 鬼姫が背中を摩られたまま申し訳なさそうに謝る。思いっきり吐いてスッキリしたのか酔いが覚めており、普段の落ち着きを取り戻す。

 

「急にどうしたんだ……酒に(おぼ)れるなんて、お前らしくもない」

 

 女が落ち着きを取り戻したのを見て魔王が問いかける。彼女がヤケ酒を(あお)るほど深い悩みを抱えたなら、相談に乗って力になろうと考えた。

 

「我は……我はもうダメなんじゃ」

 

 鬼姫が下を向いたまましゅんっとなる。親に(しか)られた子供のように肩を縮こませて小さくなる。普段の強気な態度は()りを潜めて、すっかりしおらしくなる。

 

「……昼間の事を気にしているのか」

 

 ザガートが心当たりを口にする。昼間の事というのはもちろん鬼姫がギルボロスに勝てなかった事を指す。彼女が魔神に力が及ばなかった事を気にかけているのではないかと、男はそのように考えた。

 

 魔王の指摘に鬼姫がコクンと(うなず)く。

 

「……嫌になったのじゃ」

 

 ボソッと小声で(つぶや)く。表情は暗く、口調は重い。深刻な悩みを抱えていたのが一目で分かる。

 

「我は自分では強い方だと思っておった……少なくともニッポンにおいては敵なしじゃった」

 

 自らの実力に自信を持っていた事、東の国においては最強だった事実を誇らしげに語る。

 

「……じゃが、こっちの国に来てからはどうじゃ? お(ぬし)に負けただけならまだ良い。相手が最強なら諦めも付く。じゃがそれだけに(とど)まらず、事もあろうに大魔王の手下風情(ふぜい)の悪魔に負けてしまいおった! 何が東の妖怪の王じゃッ! 何が鬼族の誇りじゃッ! これでは……これではまるで、ただの非力な女子(おなご)ではないか!!」

 

 悲しげな表情になりながら顔を上げると、自分が井の中の(かわず)に過ぎなかった思いを口にする。魔王軍の幹部でしかないギルボロスに負けた事、それにより自信を喪失した事を長々と喋る。声が震えており、今にも泣きそうな涙声になる。

 

「我は()ずかしい……散々イキリ散らしておきながら、その(じつ)ただのかよわい女でしかなかった自分が、みっとものうてたまらぬ……ウッウッ」

 

 (まぶた)を閉じて下を向いたまま話を終わらせた。目にうっすらと浮かんだ大粒の涙が、(しずく)となって(こぼ)れ落ちる。ボタッボタッと数滴ほど涙の粒が落ちて床が()れる。最後は()(えつ)を漏らして泣き出す。

 

「そう自分を卑下(ひげ)するな……お前は十分強い。今回ばかりは相手が悪かっただけだ」

 

 声を押し殺して泣く鬼姫の頭を、ザガートが優しく()でる。彼女の実力を評価している事を伝えて、少しでも気持ちを(やわ)らげようとした。

 

(そうだ……彼女は決して弱くなどない。むしろ強い。そもそもアスタロトほどの強さがあれば、一地方を牛耳(ぎゅうじ)って魔王を名乗るくらいの事は出来る。そのアスタロトを上回る実力を持った悪魔がゴロゴロいる魔王軍が異常なんだ)

 

 彼女を落ち込ませる原因となった魔神の強さに思いを()せた。かつて男と戦った大悪魔の名を引き合いに出して、魔王軍の層の厚さに戦々恐々となる。

 

「じゃが……」

 

 魔王に(なぐさ)めの言葉を掛けられても、鬼姫の表情は晴れやかではない。相変わらず目に涙を浮かべた泣き顔のままだ。

 

「それでも我は許せぬ……許せぬのじゃ! 散々大口を叩いておきながら、村の一つも守れなかった自分を……」

 

 自身の非力さを心の底から嘆く。大切なものを守りたいと一心に願いながら、それが果たせなかった不甲斐(ふがい)なさに(いら)()った様子が(うかが)える。思い通りに成果が出なかった自分の弱さを相当()(がゆ)く感じたようだ。

 

「もういい……もういいんだッ!」

 

 ザガートは大声で叫ぶと、話を(さえぎ)るように彼女を強く抱き締めた。腕に力を込めて、そのままじっと離さない。

 

「……ッ!!」

 

 突然の出来事に鬼姫が思わず黙り込む。男の腕に抱かれたまま、思考停止したマネキンのように固まる。一瞬何が起こったのか脳に思考が追い付かず、頭の中が真っ白になる。

 

 女が抵抗しない様子を見て、男が彼女を抱いたまま口を開く。

 

「いくら頑張ったって、力が及ばない事もある……(むく)われない事だってある。でもそれは仕方のない事だ。それが現実なんだ。お前は何も悪くない。必死に頑張って成果が出なかったとしても、誰もお前を責めたりしない。だからもうこれ以上、自分を傷付けようとするな……ッ!!」

 

 この世には力の届かない限界がある現実を教えて、自分を責める行為の不毛さを説く。彼女を非難する者など一人もおらず、それ(ゆえ)に責任を感じる必要は無い(むね)を告げる。

 

「お前にやれない事があったら、全て俺に任せろ。秒速で駆け付けて、一瞬で解決してやる。何だってやってやる! 俺がお前の力になって、全ての困難を背負ってやる!!」

 

 仲間の弱さを全力で受け止める覚悟を強い口調で伝える。彼女が自分の存在を重荷に感じないよう、全てを任せろと訴える。言葉の一つ一つに相手を気遣う優しさが(こも)っており、何とも頼もしい。

 

「魔王……」

 

 男の説得に心を動かされたのか、鬼姫の表情が明るくなる。これまで胸に抱えたモヤモヤが消えてスッキリしたような、晴れやかな顔になる。胸の奥底から急激に熱いものがこみ上げて、今にも泣きそうになる。

 

「うっうっ……うわぁぁぁぁぁぁああああああああんっ……」

 

 感激のあまり瞳を涙で(うる)ませると、大声で叫んで泣き出す。男の胸に顔をうずめたまま、わんわんと声に出して泣く。父親に甘える子供のようになる。

 自分の弱さがもどかしかった。妖怪の王を名乗りながら敵を倒せなかった事に恥ずかしさを覚えた。穴があったら入りたい気持ちにすらなった。いっそこの世から消えてしまいたかった。

 自分の存在を否定するほど追い詰められた彼女にとって、魔王の言葉がどれほど嬉しかったか……彼女はもう他に何もいらなかった。

 

 赤子のように泣き続ける彼女を、魔王が両腕で受け止めるように抱く。

 木の枝に()まるフクロウは、そんな二人の光景を窓の外からじっと眺めていた。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 ……男の胸に顔をうずめたまま泣き続けた鬼姫だったが、やがて泣き疲れたように眠ってしまう。目を閉じたままスゥスゥと気持ちよさそうに寝息を立てる。

 

 魔王は少し困ったような顔しながら彼女をお姫様抱っこし、そのまま宿の中を歩き出す。音を立てないように階段をゆっくりと上がり、二階の廊下の突き当たりにある寝室へと向かう。

 部屋に入ると、ドアを閉めて鍵を掛ける。ベッドが二台置かれた部屋の(すみ)まで来て、女をベッドに寝かせた瞬間……。

 

「……ッ!!」

 

 眠っていたはずの鬼姫がクワッと目を開ける。今がチャンスと言わんばかりに男の肩を両手で(つか)み、グイッとベッドに引き寄せる。ベッドに仰向けに寝た女の上に、男が四つん()いになって覆い被さる状態になる。

 

「我を……我を抱いてくれぬか? 落ち込んだ夜に一人で寝るのは寂しいのじゃ……」

 

 性行為に誘う言葉が口から飛び出す。傷心を(いや)すために体で(なぐさ)めて欲しいという事のようだ。

 

「俺をベッドに引きずり込むために、わざと寝たふりをしたのか? ふふっ……全く、大した女だ」

 

 ザガートが不敵な笑みを浮かべる。この状況に持っていくために魔王を騙す演技をしてみせた女のしたたかさに一杯食わされた気になり、思わず顔をニヤつかせた。

 

「……(わらわ)のような女は嫌いかえ?」

 

 鬼姫が瞳を涙で(うる)ませながら、すがるように問いかけた。声は(かす)かに震えており、今にも泣きそうな顔をしている。この()に及んで拒絶されたら立ち直れない思いがあり、その(おび)えが表情となって表に出る。

 魔王はもしかしたら清純そうな若い娘が好みであり、自分のような吉原の遊女の格好をしたアラサー女は相手にされないのではないか……そんな考えが胸の内にあった。

 

「……」

 

 ザガートは女の問いにすぐには返答しない。相手をじらすように黙り込んだまま頭の中であれこれ考える。体を起こして女から離れると、全体像をじっくりと()めるような視線で眺めて、彼女の魅力を再確認しようと(こころ)みる。

 

 身長百六十センチ代(なか)ば、外見年齢二十七歳という日本人風の女性……普段あまり意識しないが容貌(ようぼう)は飛び抜けており、傾国の美女と呼ばれても不思議じゃない見た目をしている。

 極端に太っても()せてもおらず、適度に肉付きが良い。二の腕と太腿(ふともも)はムッチリしており、足が太くて尻が大きめの下半身は安産型と呼ばれる体型だ。

 褐色肌と肌色の中間のような小麦色の肌は、まだ酒が残っているのか汗ばんでおり、(かす)かに火照(ほて)っている。呼吸も少し荒い。

 だらしなく()(くず)した着物から見える、はだけた胸元……太腿の隙間からチラリと見える、股間の白い布。それらが扇情的で見る者をムラッとさせる。

 

 確かに清純派とは呼べないが、熟した(オンナ)の色気がある。この場で抱かないのはあまりに惜しいと思わせるものがあった。

 

 ザガートは考えが固まると、再び女の上に覆い被さってグイッと顔を近付ける。

 

「安心しろ……むしろ好みのタイプだ」

 

 獲物を前にした悪魔のようにニヤリと笑うと、体を前に倒して、互いの体を密着させたまま強引に服を脱がせ始めた。そして――――。

 

 

 

 その晩、ザガートと鬼姫は激しく愛し合った!!!!

 

 

 

 数時間後……宿の主人が一階の調理場で、どろり濃厚なクリームシチューを調理し始めた時。

 

「……」

 

 あられもない姿となった鬼姫が、横向きにベッドに寝転がる。魔王に背を向けたままずっと黙っている。嬉しそうに笑ったりもしなければ、悲しんでいる風でもない。(まさ)に何とも言えない表情をする。本来魔王に抱かれた事を喜ぶべきという考えは彼女の中にあったが、いざやってみると実感が湧かず、素直に喜べない不思議な感情があった。快楽に満ちた一夜を共に出来た事自体は良かったと思いながらも――――。

 

 

 魔王はやはり女に背を向けたまま、一糸(いっし)(まと)わぬ姿でもう一台のベッドに腰掛ける。ベッドの横にある台に置かれたブランデーの(ふた)を開けて、ガラスのコップに(そそ)ぐ。それをグイッと一気に飲む。

 

「……まだ鬼族の復興を願っているのか?」

 

 酒を飲み終えると、背を向けたまま話しかける。

 

「……もうとうに再興の望みなど捨てておるわ」

 

 鬼姫が寝そべったままボソッと小声で(つぶや)く。声の調子は少し不機嫌そうだ。

 

「我は一族の同胞も、鬼族の誇りも、全て失った……今の我には何も無い。今更(いまさら)故郷に帰った所で、二百年も()っておっては(わらわ)を知る者は誰もおらぬ。我はただ生きる目的が……自分の居場所が欲しかった。たったそれだけなのじゃ」

 

 桃太郎に敗れて全てを失った事を(さび)しげな表情で語る。鬼族の再興を本気で望んていた訳ではなく、やりたい事を見つけたかっただけだと真意を口にする。勝負する時に語った『魔王の子を(はら)む』という野望も、その場限りの思いつきでしか無かったようだ。

 

 ザガートは後ろを振り返り、女が寝ていたベッドの前まで移動する。その場に(ひざ)をついてベッドにもたれかかると、背を向けたままの女の頭に顔を近付ける。

 

「……だったら俺が居場所を与えてやる。お前の生きる目的に、俺がなってやる。お前はいい(オンナ)だ……手放すには惜しい。これからも俺の手足となって、俺の(ため)に働いてくれ」

 

 女の横顔を上から(のぞ)き込んだまま、優しい口調で語りかける。彼女を大切に思った事、自分のために働く事が彼女の生きる目的になると考えた事、それらの思いを率直に伝える。

 

 鬼姫は数秒ほど黙っていたが、寝そべったまま体を動かして男の方を向く。互いに数センチしか顔が離れないまま、見つめあった状態になる。相手の鼻息が顔にかかり、(かす)かにくすぐったい。

 

「……嬉しい事を言ってくれる」

 

 鬼姫はフッと笑みを浮かべると、目を閉じたまま顔を近付けて、男の(くちびる)にキスする。魔王は相手の行為をあるがまま受け止めて、両者は唇を強く重ね合わせた。互いに愛を確かめ合うように――――。

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