いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
時計の針が『八』を指した朝……太陽が昇り始めて周囲が明るくなりだした頃。
村の入口に、出発の準備を終えたザガート一行が立つ。彼らを見送るべく数十人の村人がいる。鬼姫と仲良くなったメイ達数人の子供もいる。
村人の中に本来いるべき村長の姿が見えない。カザーブ村の村長カルタスは「渡したいものがあるから待って欲しい」と言った。それでザガート達は出発せずにいたのだ。
村長を待ち続けたまま、およそ十分ほど経過した時……。
「救世主どのーーーーーーっ!」
村長が大声で叫びながら村の入口へと駆け込んでくる。その手には長い棒のようなものが握られている。一行の前まで来ると慌てて立ち止まる。
「ハァハァ……お待たせして申し訳ありません。
ゼェハァと激しく息を切らせながら言葉を吐く。表情に疲労の色が浮かび、背筋を曲げて前
「村を救って下さったお礼として、これを貴方様にお渡しします」
村長はそう言うと、手に持っていたものを正面に掲げる。
村長が倉庫の中から持ってきたもの……それは
「この刀は?」
ザガートが興味深そうにまじまじと眺めながら問いかける。
「これはムラマサと呼ばれる妖刀です。なんでも世界に三振りしか存在しないと伝えられる、最強の刀だとか……かつてこの地を訪れた
村長が刀について説明を始める。非常に珍しい宝であり、太古の侍の所有物であった事を明かす。
「その侍はかつて勇者と共に世界を救ったパーティの一員だったようですが、この村に落ち着いた後、剣の道を捨てたそうです。村の若い娘と結ばれて、田畑を
侍が腕の立つ戦士だった事、戦後村に定住した
「この刀には意思があります。刀が一流の戦士と認めない者が
刀がリスクのある武器だと前置きしながらも、ザガートほどの男なら使いこなせるだろうと確信を抱いて、話を終わらせた。
「村に代々伝わる宝を……本当にもらっていいのか?」
こんな貴重な品を受け取っていいのか、と魔王が恐縮する。説明を聞いて内心欲しいと思いながらも、それほど大事なものならば、村で保管しておくべきではないかという考えがあった。
「元々、魔神を討伐したギルドの冒険者に、報酬としてお渡しする予定だったものです……貴方様がお受け取りになるのが
ギルボロスの討伐報酬にするつもりだった事を村長が明かす。魔神を倒した勇者である魔王が受け取るべきなのだという。
「そうか……そういう事なら、ありがたく受け取らせてもらう」
村長の言葉を聞いて、ザガートが刀の受け取りを承諾する。
「……美しい刀だ」
ザガートが思わず口にする。刃には一点の
マサムネも素晴らしい刀だが、ムラマサはそれを
やはり妖刀であるらしく、鞘から抜いた途端紫色のオーラらしきものが刃から
「ありがとう……これほどの素晴らしい刀、いつか必ず役に立つ日が来るだろう。アンタ達の好意は決して無駄にしない」
ザガートは感謝の言葉を述べると、刀を再び鞘に収める。自分の真横に空間の裂け目を生じさせると、ムラマサを大事そうにしまう。
「こちらこそ、村を救って頂いた事に深く感謝しております。これではまだお礼として足りないくらいです。もし貴方がたに救って頂かなければ、この村は全滅していたでしょう……」
村長が
「だがまだ絶対に安全とは言えない……敵が再び攻めてくる可能性もゼロではない。だからこれを渡しておく」
ザガートが懸念を口にしながら、
「村に危機が訪れたら、それを複数回鳴らせ。俺が一瞬でワープして駆け付けて、事件を解決してやる」
魔王に危機を知らせる道具である事を教える。せっかく村を救っても、自分がいなくなった間に滅ぼされては意味が無いという配慮が
男の気遣いに感激して、村長が何度も頭を下げる。熱い友情で結ばれたようにガッチリ握手を交わす。
「お姉ちゃん……ホントに行っちゃうの?」
メイが顔をうつむかせて
あえて口に出さずとも、相手を引き止めたい気持ちが嫌というほど伝わる。
「若い
鬼姫が少女の頭を
「……うんっ!」
メイは一瞬悩んだものの、すぐに顔を上げて嬉しそうに笑う。胸の内に抱えた不安が晴れてスッキリしたような笑顔になる。
「ではそろそろ行くとしよう……皆、元気でな」
別れの
「約束だよ、お姉ちゃんっ! 絶対遊びに来てねーーーーーーっ!!」
メイが大きな声で叫んで手を振る。他の村人達も歓声を上げて送り出す。
一行は何度も後ろを振り返って笑顔で手を振り返す。
◇ ◇ ◇
「フッフ、フッフフーーーン」
村が見えなくなるほど遠く離れた頃、鬼姫が上機嫌で鼻歌を
魔王は無言のままズカズカと歩く。あえて彼女のなすがままにさせる。
明らかに
「……やったのね」
「……やったな」
「
……そんな言葉が口から飛び出す。昨晩何があったかを、女の態度から察する。
三人の会話が耳に入り、鬼姫が後ろを振り返る。一旦腕を組むのをやめて魔王から離れると、少女達に駆け寄っていく。
「んんーーー? 何じゃお主ら、
仲間の前に立つと、これ以上ないほどのドヤ顔になる。腰に手を当てて胸を前面に突き出したポーズで、昨晩男と一夜を共に出来た事を誇らしげに自慢する。「フフンッ」と鼻息を吹かせて勝ち誇った笑みを浮かべる。
「抜け駆けしてすまんのーーー、うぬらがもたついてる間に、
自分が真っ先に魔王とヤったと思い込んで、ニヤニヤしている。
彼女は知らないのだ。男が
「あの……鬼の
なずみが何とも気まずそうな表情をしながら言葉を
とても真実を言い出せない彼女の代わりにレジーナが口を開く。
「私達は三人とも魔王と経験済みだ。つまりお前は初めてでも何でもない、ただの四人目という事になる」
残酷な言葉をサラッと吐く。自分が最初だと思い込んで有頂天になっていた女に、ありのまま事実を突き付けた。
「なっ……何じゃとぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーーっっ!!」
鬼姫が大地が割れんばかりの勢いで驚く。喜びに満ちたはずの顔は一瞬で青ざめて、下を向いてガクッと
間違った認識でドヤっていた事に、
「どどど、どういう事じゃ、まにょ……魔王ッ!
すぐに立ち上がると、感情の
「あーー……それはだな。俺はお前の事を大切に思っている。それは事実だ。だが四人とも同じくらい大切に思っていると……つまり、そういう事だ」
魔王がすっとぼけた表情しながら質問に答える。女と視線を合わせようとせず、あさっての方を向いたまま目が泳いでいる。口調も力が
「そういう事とは、どういう事じゃ! この淫乱スケベ魔王ッ!! 我がそんな言葉で納得すると思うてか! さんざん
むろん女の怒りが収まるはずもなく、大声で怒鳴り散らす。ありったけの罵詈雑言を
「痛い痛い! 馬鹿、やめろ鬼姫ッ! お前が本気で叩くとシャレにならん! このまま叩かれ続けたら、俺は本当に死んでしまう!!」
魔王が暴力行為をやめるよう懇願する。魔王クラスの実力を持つ女のパンチは凄まじい破壊力があり、その力で殴られ続ける事に生命の危機を感じる。
だが鬼姫による制裁は、彼女の怒りが収まるまで数十分は続いたのであった……。