いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
アドニスを探して表通りを駆け回った仲間達であったが、彼を見つける事は出来なかった。それもそのはず、当の本人は仲間達が探しているのとは見当違いの場所にいた。
表通りに並ぶ建物の
晴れた日中でも太陽の光が
「ヒック……どいつもこいつも、俺を馬鹿にしやがって……」
アドニスは酒瓶を片手に顔を真っ赤にしながら、裏通りを徘徊していた。瓶の中は
若者が当てもなく通りを
男達は左右の髪を
「俺達ゃ、無敵の三兄弟ーー、どんな敵も、こわくねえーー」
三人は肩を組んで歩きながら楽しそうに歌う。酒を飲んでいた訳ではないが、とても機嫌が良さそうだ。
ゾンビのようにフラフラと歩いていたアドニスは三人を避けようとしたが、
「オゥ、ちょっと待てや兄ちゃんッ! 肩がぶつかったら、せめて一言くらい声をかけるのが礼儀ってモンじゃねえのかい!!」
肩が触れた男が後ろを振り返り、大きな声で叫ぶ。黙って立ち去ろうとした若者の態度に怒り心頭になる。
「……あーーん?」
アドニスが声に反応して後ろを振り向く。
「なんだテメェ……俺とやろうってのかい。上等じゃねえか……どっからでもかかって来やがれ。俺はなぁ……俺はとってもつええんだぞ。テメェなんざ、ボコボコにしてやる……」
本人は完全にやる気まんまんでいたが、へっぴり腰で、拳に力が入っていない。そもそも
「……バカヤロウ!!」
肩がぶつかったモヒカンが大声で怒鳴りながら全力のパンチを放つ。顔面にパンチがヒットすると、アドニスの体がポーーンと宙に浮く。飛んでいった先にはゴミ置き場があり、若者はドンガラガシャーーンッと音を立ててゴミの山に激突し、ゴミに埋もれてしまう。
「ハァハァ……今日はこのくらいで
モヒカンが若者の無謀な行いを
「クソッ……思いっきり殴りやがって」
ゴミの山に埋もれたアドニスが気だるそうに上半身を起こす。強く殴られた
食らった一撃は酔いが覚めるほど強烈だったが、男は冷静になっても自分の行いを反省しない。モヒカンに受けた仕打ちを深く恨んでおり、相手を憎む言葉が口から出る。
「俺はなぁ……俺は……勇者になる男……だ……ぞ」
消え入りそうにか
◇ ◇ ◇
「……ん?」
深い眠りに落ちた男が急に目を覚ます。ふと周囲を見回すと、彼は深い闇の中にいた。日の光が一切
完全に外界から
「な、何だここはッ! 俺は……俺は死んじまったのか!?」
自分の身に降りかかった災厄にアドニスが困惑する。この奇妙な空間に入れられた事に、自分が命を落としたのではないかという憶測が湧き上がり、胸が激しくざわついた。
若者が正気を失ってパニックに
「ソウ
何処からか言葉が発せられた。
声が聞こえた方角に若者が振り向くと、暗闇の中にボヤァッと何かが浮かび上がる。
それはダチョウの卵くらいの大きさをした、
「あ、アンタ一体……何者だ!?」
アドニスが開口一番に問う。このおかしな現象を起こした張本人であろうと思われる、宙に浮いた目玉の正体を確かめようとする。声が
「
目玉が自らの素性を明かす。この奇妙な空間に若者を連れてきたのは自分の仕業だと教える。
「大魔王……アザトホース」
アドニスがその名を復唱してゴクリと
それでも目玉から発せられた声は低音でドスが利いており、迫力がある。このおかしな空間を生み出した事と照らし合わせて、今対話している相手が大魔王本人である事を疑う余地は無い。
「それで……大魔王が、俺に何の用だ?」
若者が恐る恐る用件を問いかけた。人間と敵対する魔族の首領が、人間の冒険者に話をしに来たのだ。普通に考えればろくな内容とは思えない。下手をすれば殺されてもおかしくない。
「何モ恐レル必要ハ無イ……私ハオ前ニ、
大魔王が敵対する意思が無い事を伝える。若者にとってプラスになる話をしに来たと告げて、相手の警戒を解こうとした。
「アドニス……私ハオ前ノ事ヲ、ズット見テイタ。異世界ノ魔王ニ負ケテ、
若者のこれまでの行動を観察していたと公言して、取引を持ちかけた。大魔王の忠実な部下になれば、彼が望む力を与えるというのだ。
「魔王を倒せる……力」
アドニスがそう口にしてゴクリと
冷静に考えれば乗るべき誘いではない。若者は勇者になる事を目指した
だがその事に疑問を感じなくなるほど、若者の心は追い詰められた。悪魔の誘いに乗る事に一片の迷いも抱かない。
「頼む……俺に力を貸してくれッ! ヤツを倒せるなら、アンタの言う事を何でも聞く!!」
大魔王との取引に応じる事を強い口調で承諾する。もはやなりふり構っていられず、目的のためなら手段を選ばない。
「……
若者の返事を聞いて、大魔王が口元……いや目玉をニマァッと
「デハ、左手ヲ正面ニ差シ出セ……」
「こ、こうか?」
アドニスが恐る恐る指示に従い、正面に左手をグッと突き出す。
「……ムンッ!」
大魔王の目玉がグワッと見開かれた。次の瞬間、紫に光るレーザーのようなものが空から放たれて、辺り一帯を
若者の
「ぐああああっ! 腕がぁっ、俺の腕がぁっ! 痛く……ない!?」
左手を失った事に慌てたアドニスが傷口を押さえて痛がろうとしたものの、痛みが無い事に気付く。本来身を引き裂かれるほどの激痛に襲われるはずなのに、痛みを全く感じないのだ。流れるはずの血も一瞬で止まっている。
「ソウダ。痛クナドナイ。オ前ハモウ
大魔王が声に出して「フフフッ」と笑う。痛覚が無い事に驚く若者の反応を見て面白がる。悪魔と
「無クナッタ左手ノ代ワリトシテ、コレヲオ前ニヤロウ」
そう口にするや
「これは……ッ!!」
光が収まった後視界に入り込んだ光景に、アドニスが驚きの言葉を発する。
肘関節の切断面から先に、無くなった腕の代わりとして、金属製の義手が装着されていた。
義手は魔力で制御されていたのか、若者の思い通りに動く。最初からそうだったかのように違和感なく、よく体に
「ソノ腕ニハ、アル
大魔王が義手について説明を行う。単なる金属製の腕という訳ではなく、ある秘密が隠されているという。
「コレダケデハ、魔王ヲ
そう口にすると、目玉から今度は三つの小さな光が放たれる。光はアドニスの前にある地面に降り立つと、それぞれ異なる品物へと変化する。
一つめは片手で振り回すタイプの剣だ。一見ただのロングソードのように見えるが、大魔王がくれた以上何らかの秘密が隠されているに違いない。
二つめは二の腕に
そして三つめは……。
「これは……妖刀ムラマサッ!!」
アドニスがその名を口にしながら歓喜の表情になる。すぐさま手に取って
若者が超人的な肉体を得たからか、鞘から抜いても命を吸われたりはしない。
「だ……だがムラマサはザガートの手元にあるはず! それが何故ここに!?」
若者が頭の中に湧き上がった疑問を口にする。魔王が若者に使わせた刀は、あの後すぐに回収された。この場にある
「村正ハ、コノ世ニ全部デ三振リアル……ソノウチ一振リヲ、我ガ持ッテイテモ、不思議ハアルマイ」
若者の疑問に大魔王が答える。今この場にある刀は元々彼が所有していたもので、魔王から奪った訳ではないという。
「……
最後に強い口調で魔王の抹殺を命じて、話を終わらせた。
「はっ……ははぁーーーーーーっ!!」
アドニスは深く頭を下げて、大魔王の恩義に
一連の行いが、勇者の道から遠ざかっているなどとは考えもせずに……。