いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
「さすが魔王……一筋縄では行かないという訳か」
地面に倒れていたアドニスがゆっくりと起き上がる。蹴られた腹を左手で
二本の足でしっかりと立ち上がると、相手の方へと向き直る。
ザガートもすぐ相手に飛びかかったりせず、その場にじっと立つ。慎重に相手の出方を
両者は互いに向き合ったまま、一定の距離を保つ。アドニスがジリジリと間合いを詰めると、ザガートがその分後ろに下がる。相手に距離を詰めさせない。
そうして一定の距離を保ったまま
「いつまでもそうやって逃げるつもりでいるなら、こちらから行かせてもらうッ!」
アドニスがそう口にするや
「フンッ!」
鼻息を吹かしながら剣を高く振り上げると、節を境目として、刃が数十個もの細かいパーツに分離する。離れた刃と刃は強靭な
鎖のように長くなった剣を、アドニスが
「これぞ蛇腹剣……スネーク・ブレイドッ! この剣は魔力と連動しており、俺の意思によって長さが変わる! 軌道も自在にコントロールでき、どれだけ乱暴に振り回しても自分を傷付けたりしない! これも大魔王から与えられた品物の一つ!!」
剣の性能について自信満々に語る。サソリの
これまで普通の剣として使っていたが、底にあるボタンでモードを切り替えられるようだ。妙に扱いに慣れているのは、ザガートと戦う前に練習したのかもしれない。
「これで貴様の息の根を止めてやる……うおおおおおおっ!!」
死を宣告する言葉を発すると、今度は剣を正面に突き出す。ジャァッと音を立てて剣がまっすぐ伸びていって、魔王の心臓を突き刺そうとする。魔王がサッと横に動いて避けると元の長さへと戻っていく。黒騎士はそれを再び魔王へと発射する。
ジャァッジャァッと伸びた刃を、魔王が何度も横に動いてかわす。それが数分ほど繰り返された。
魔王は回避に徹するばかりで、自分から攻めようとしない。根気強く受け身に回る。ただでさえ素早さが同じな上に、
観衆は離れた場所から戦いを見守る。魔王にこの戦いに勝って欲しいと強く願う。
「ああっ!」
訪れた状況の変化にルシルが声を上げた。紙一重で攻撃を避け続けたザガートだったが、
「捕まえたぞ……もう逃がしはしない」
アドニスが勝利を確信した
「……かえって都合が良い」
ザガートがそう言葉を返しながら、剣が巻き付いたままの腕をグイッと引っ張る。その力は山よりも大きな巨人の
「ぬおおおおおおっ!」
黒騎士の体が空高く舞い上がる。
「ムンッ!」
魔王は
「なっ……ドグワァァァァァァアアアアアアアアッッ!!」
アドニスが天にも届かんばかりの悲鳴を上げながら、飛んできた方角へと打ち上げられた。頭上数メートルの高さまで舞い上がると、剣がこれ以上伸びない長さに達したのか、まっすぐになった状態でピンッと張る。引っ張られる力に耐えるように数秒間ギリギリと音を鳴らしたが、やがてブツンッ! と真ん中から
アドニスは重力に任せて落下し、大地に全身を叩き付けられた。
「ヌグゥゥゥ……」
黒騎士が
殴られた上に地面に叩き付けられたダメージがあった
「さて……頼みの
ザガートが相手を
「フフフッ……」
アドニスが下を向いたまま声に出して笑う。相手の挑発に動じる事なく、不敵な笑みを浮かべる。まだ何らかの手札がある事を
「
意味深な言葉を吐くと、
すると先端半分を失った剣が黒騎士の方へと戻っていって、折り
「スネーク・ブレイドはただの剣ではない……異空間と繋がっている! いくら刃を失おうと、ボタンを押すだけで何度でも補充が可能ッ! 切断される程度の事など、とうに想定済みッ!!」
剣の性能について得意げに語る。切断されてもすぐ元の長さに戻せる事を教える。
まるでカッターナイフの刃が無限にあるかのようだ。戦いは実質的に振り出しに戻る形となった。
「だが、それで一体どうするつもりだ? いくら元の長さになろうと、その剣では勝負の決め手にならない事はお前も分かっただろう」
魔王が今後の方針について問いかける。蛇腹剣では自分を殺せないと教えて、これからどんな手を打ってくるか聞いて確かめようとした。
魔王の言葉にアドニスがニタァッと笑う。良からぬ
「どうするかだって? それはなぁ……こうするのよッ!」
黒騎士はそう叫ぶや
少女の体が宙を舞うと、鎖が役目を終えたように彼女の体から離れる。支えるものが無くなった女の体が、重力に任せて急降下する。
「あああああああーーーーーーっ!!」
突然の出来事に少女が悲鳴を上げる。どうにか助かろうと自力であがいたものの、彼女自身ではどうにもならない。このまま地べたに叩き付けられたら、
「くっ!」
魔王が苦虫を噛み
だが一連の動作を行った
「……
技名を叫んだ瞬間、顔面を掴んだ義手の手のひらが、火を
男の手のひらには小さな穴が開いており、そこからモクモクと白煙を立ち
「フハハハハッ……圧縮した
アドニスが魔王を焼いた技について早口で説明する。これこそが相手を殺す切り札であり、今までの流れはここに
相手に渾身の大技を食らわせられた喜びで満面の笑顔になる。気分が高揚したあまり、鼻歌を
「アドニス……貴様、エレナを
トールが仲間を人質にされた事に激昂する。いたいけな少女を危険な目に
「クククッ……最初からヤツが助けに入る事を想定して、この戦法を取ったんだ。
アドニスが何を
悲しみに染まる少女の姿は見るからに痛ましい。いたいけな女の子が絶望の奈落へと突き落とされた光景は、男の邪悪さをより一層
「魔王は死んだ……俺が殺したッ! ニセの勇者である魔王を殺し、俺が……俺こそが、本物の勇者となったのだぁっ! フフフッ……フハハハハッ! あーーーっはっはっはぁっ!!」
勝利を確信した悪魔の高笑いが響き渡る。
誰もが魔王の死を疑わず、敗北ムードが場に漂った時……。
「……そんな大声で笑うと、
何処からか忠告する言葉が発せられた。
「ッ!?」
声がした方にアドニスが慌てて振り返ると、全身炎に包まれたまま地べたに倒れていた魔王がムクッと起き上がる。次の瞬間彼を包んでいた炎がサッと一瞬で消え去る。
魔王には焦げ跡一つ付いていない。あれだけ大きな爆発に
「ききき貴様、ザガートッ! そそそ、そんな……どぼぢで!?」
魔王が生きていた事に黒騎士が慌てふためく。予想外の出来事が起こったあまり声を震わせてしまい、言葉がおかしくなる。ポカンと口を開けて間抜けな表情したまま鼻水が
それは彼にとって決してあってはならない事だ。この状況に持っていくため綿密に計画を
にも関わらず魔王は無傷のまま耐え
「どうしたもこうしたも無い……単純な話だ。お前は俺に技を当てた。俺はそれを回避できず、まともに受けた。だが俺が打たれ強かったために死ななかった……たったそれだけの事だ」
魔王が
「だがアドニス……女を巻き込んだ事は許せないが、それでもさっきのコンビネーションは実に見事だった。もし食らったのが俺でなければ、間違いなく死んでいただろう。勝つためなら手段を選ばない執念、用意周到に計画を練った
少女を盾にした事を非難しながらも、自分を追い込んだ戦法の見事さに舌を巻く。青年の勝利に対する貪欲さを素直に評価し、称賛の言葉を送る余裕すら見せた。
言葉だけ切り取れば皮肉に聞こえたかもしれない。だが魔王は純粋に、心の底から、青年の戦いぶりに感心したのだ。