いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第58話 蛇腹剣

「さすが魔王……一筋縄では行かないという訳か」

 

 地面に倒れていたアドニスがゆっくりと起き上がる。蹴られた腹を左手で(かば)うように押さえたものの、深手を負った様子は無い。特に慌てている感じでもなく、表情に余裕が垣間(かいま)見える。

 二本の足でしっかりと立ち上がると、相手の方へと向き直る。

 

 ザガートもすぐ相手に飛びかかったりせず、その場にじっと立つ。慎重に相手の出方を(うかが)う。

 両者は互いに向き合ったまま、一定の距離を保つ。アドニスがジリジリと間合いを詰めると、ザガートがその分後ろに下がる。相手に距離を詰めさせない。

 

 そうして一定の距離を保ったまま(にら)み合っていたが……。

 

「いつまでもそうやって逃げるつもりでいるなら、こちらから行かせてもらうッ!」

 

 アドニスがそう口にするや(いな)や、(つか)の底面にあったボタンらしきものを指で押す。カチッと音が鳴った瞬間、剣の刀身にムカデの甲殻のような(ふし)の線が横に何十本もびっしりと入る。

 

「フンッ!」

 

 鼻息を吹かしながら剣を高く振り上げると、節を境目として、刃が数十個もの細かいパーツに分離する。離れた刃と刃は強靭な(はがね)のワイヤーで繋がれており、まるで胴長の虫になったようだ。ワイヤーは伸縮自在のようで、あっという間に数メートルの長さになる。

 

 鎖のように長くなった剣を、アドニスが(むち)のように振り回す。自身めがけて振り下ろされた刃を、ザガートがサッと横に動いてかわす。刃は地面にぶつかって跳ね返ると、黒騎士の方へと戻っていって、元の長さに折り(たた)まれる。

 

「これぞ蛇腹剣……スネーク・ブレイドッ! この剣は魔力と連動しており、俺の意思によって長さが変わる! 軌道も自在にコントロールでき、どれだけ乱暴に振り回しても自分を傷付けたりしない! これも大魔王から与えられた品物の一つ!!」

 

 剣の性能について自信満々に語る。サソリの尻尾(しっぽ)のように自在に操れる剣であると教える。

 これまで普通の剣として使っていたが、底にあるボタンでモードを切り替えられるようだ。妙に扱いに慣れているのは、ザガートと戦う前に練習したのかもしれない。

 

「これで貴様の息の根を止めてやる……うおおおおおおっ!!」

 

 死を宣告する言葉を発すると、今度は剣を正面に突き出す。ジャァッと音を立てて剣がまっすぐ伸びていって、魔王の心臓を突き刺そうとする。魔王がサッと横に動いて避けると元の長さへと戻っていく。黒騎士はそれを再び魔王へと発射する。

 

 ジャァッジャァッと伸びた刃を、魔王が何度も横に動いてかわす。それが数分ほど繰り返された。

 魔王は回避に徹するばかりで、自分から攻めようとしない。根気強く受け身に回る。ただでさえ素早さが同じな上に、(さら)に離れた場所から攻撃が届くとあっては、()(かつ)に攻撃を仕掛けられないと判断したようだ。

 

 観衆は離れた場所から戦いを見守る。魔王にこの戦いに勝って欲しいと強く願う。

 

「ああっ!」

 

 訪れた状況の変化にルシルが声を上げた。紙一重で攻撃を避け続けたザガートだったが、(わず)か一センチの差でかわした剣が、彼の左腕に蛇のようにグルグルと巻き付いたのだ。そのまま離れようとしない。

 

「捕まえたぞ……もう逃がしはしない」

 

 アドニスが勝利を確信した台詞(セリフ)を吐いてニマァッと笑う。鎖で捕らえた相手を自分の方へと引き寄せようとする。

 

「……かえって都合が良い」

 

 ザガートがそう言葉を返しながら、剣が巻き付いたままの腕をグイッと引っ張る。その力は山よりも大きな巨人の(ごと)きパワーで、相手を引き寄せようとしたアドニスは逆に自分が引っ張られてしまう。

 

「ぬおおおおおおっ!」

 

 黒騎士の体が空高く舞い上がる。(かたく)なに剣を離そうとしなかった(ため)、両者は互いに鎖で繋がれた状態となり、そのまま魔王のいる方へと()(さか)さまに落下する。

 

「ムンッ!」

 

 魔王は(かつ)を入れるように一声発すると、頭上めがけて右拳によるアッパーを繰り出す。魔王の拳は黒騎士の顔面に命中して、ドグォッと骨が砕けたような鈍い音が鳴る。

 

「なっ……ドグワァァァァァァアアアアアアアアッッ!!」

 

 アドニスが天にも届かんばかりの悲鳴を上げながら、飛んできた方角へと打ち上げられた。頭上数メートルの高さまで舞い上がると、剣がこれ以上伸びない長さに達したのか、まっすぐになった状態でピンッと張る。引っ張られる力に耐えるように数秒間ギリギリと音を鳴らしたが、やがてブツンッ! と真ん中から千切(ちぎ)れてしまう。

 アドニスは重力に任せて落下し、大地に全身を叩き付けられた。

 

「ヌグゥゥゥ……」

 

 黒騎士が(うめ)き声を漏らしながらゆっくりと立ち上がる。首を左右にブンブン振って、朦朧(もうろう)とした意識をはっきりさせる。

 殴られた上に地面に叩き付けられたダメージがあった(はず)だが、深手を負ったようには見えない。鎧の効果によるものか、大魔王に肉体を強化されたからか、非常に打たれ強くなった事は間違いないようだ。

 

「さて……頼みの(つな)の剣はこのザマになった訳だが、これからどうするつもりだ?」

 

 ザガートが相手を(あお)るように問いかけた。左腕に巻き付いた鎖の片割れを右手でほどくと、ポイッと地面に投げ捨てる。攻撃手段を失った相手を見下すような目で見る。

 

「フフフッ……」

 

 アドニスが下を向いたまま声に出して笑う。相手の挑発に動じる事なく、不敵な笑みを浮かべる。まだ何らかの手札がある事を(にお)わせた。

 

千切(ちぎ)れただけで剣を無力化したと……そう思ったか?」

 

 意味深な言葉を吐くと、(つば)の側面にあるボタンらしきものを指で押す。

 すると先端半分を失った剣が黒騎士の方へと戻っていって、折り(たた)まれてロングソード形態に戻る。ジャキーーーンッと音が鳴ると、鍔に収納されていたかのように刀身が飛び出して、切断される前と同じ長さになる。その後は再び蛇腹剣モードになる。

 

「スネーク・ブレイドはただの剣ではない……異空間と繋がっている! いくら刃を失おうと、ボタンを押すだけで何度でも補充が可能ッ! 切断される程度の事など、とうに想定済みッ!!」

 

 剣の性能について得意げに語る。切断されてもすぐ元の長さに戻せる事を教える。

 まるでカッターナイフの刃が無限にあるかのようだ。戦いは実質的に振り出しに戻る形となった。

 

「だが、それで一体どうするつもりだ? いくら元の長さになろうと、その剣では勝負の決め手にならない事はお前も分かっただろう」

 

 魔王が今後の方針について問いかける。蛇腹剣では自分を殺せないと教えて、これからどんな手を打ってくるか聞いて確かめようとした。

 

 魔王の言葉にアドニスがニタァッと笑う。良からぬ(たくら)みをした、悪魔のような笑みだ。魔王は一瞬嫌な予感が頭をよぎる。

 

「どうするかだって? それはなぁ……こうするのよッ!」

 

 黒騎士はそう叫ぶや(いな)や、戦いを見ていた観衆に向かって蛇腹剣を伸ばす。剣は観衆の中にいたエレナへと向かっていき、彼女にグルグルと巻き付く。黒騎士はそれを手でグイッと引っ張る。少女の体が強い力で引っ張られて、上空数メートルの高さへと投げ出された。

 少女の体が宙を舞うと、鎖が役目を終えたように彼女の体から離れる。支えるものが無くなった女の体が、重力に任せて急降下する。

 

「あああああああーーーーーーっ!!」

 

 突然の出来事に少女が悲鳴を上げる。どうにか助かろうと自力であがいたものの、彼女自身ではどうにもならない。このまま地べたに叩き付けられたら、(つぶ)れたトマトになるのは目に見えていた。

 

「くっ!」

 

 魔王が苦虫を噛み(つぶ)した表情しながら、慌てて飛び出す。真下に来て少女を両手でキャッチすると、戦いに巻き込まぬよう離れた場所へドンッと突き飛ばす。

 

 だが一連の動作を行った(すき)を突いて、黒騎士が魔王の前まで来ていた。相手の顔を左手の義手でガッとワシ(づか)みにする。

 

「……焦熱(しょうねつ)獄殺(ごくさつ)(けん)ッ!!」

 

 技名を叫んだ瞬間、顔面を掴んだ義手の手のひらが、火を()けたダイナマイトのように爆発する。地を裂くような轟音と共に巨大な炎が噴き上がり、全身を業火に包まれた魔王が後ろに吹っ飛んでいってゴロゴロ転がる。地べたに倒れたままピクリとも動かない。

 

 男の手のひらには小さな穴が開いており、そこからモクモクと白煙を立ち(のぼ)らせた。

 

「フハハハハッ……圧縮した火炎光弾(ファイヤー・ボルト)を相手の体内に流し込んで、(じか)に爆発させる技……それが焦熱獄殺拳ッ! 大魔王から与えられた義手に仕込んであった、暗殺用の隠し武器ッ! 蛇腹剣は、いわばこの技を食らわせるための仕込みに過ぎなかったのよ!!」

 

 アドニスが魔王を焼いた技について早口で説明する。これこそが相手を殺す切り札であり、今までの流れはここに(いた)るまでの伏線に過ぎなかったと明かす。

 相手に渾身の大技を食らわせられた喜びで満面の笑顔になる。気分が高揚したあまり、鼻歌を(うた)いたい気分にすらなる。

 

「アドニス……貴様、エレナを(おとり)にして恥ずかしいと思わないのかッ! お前は完全に戦士としての誇りを失い、(おに)畜生(ちくしょう)に成り下がってしまったのか!?」

 

 トールが仲間を人質にされた事に激昂する。いたいけな少女を危険な目に()わせた行為を許せない気持ちになり、外道に成り下がったかつての仲間を強く(ののし)る。

 

「クククッ……最初からヤツが助けに入る事を想定して、この戦法を取ったんだ。(げん)にエレナはこうして無事でいる。何も怪我(けが)がなくて、良かったじゃないか……ハハハハハッ」

 

 アドニスが何を今更(いまさら)、と言いたげに不敵な笑みを浮かべる。彼女が負傷しなかった事実を述べて、自分は悪くないと開き直る。卑劣な手段を取った事に対して謝る気は()(じん)もない。

 

 (みな)の視線が向けられると、エレナは悲嘆に()れた顔をしていた。自分を(かば)ったせいで魔王が倒された事に責任を感じる気持ちと、仲間が悪の道に染まってしまった悲しみが混ざり合い、何とも言えない表情になる。あえて声には出さないものの、両肩を震わせて今にも泣きそうになる。

 

 悲しみに染まる少女の姿は見るからに痛ましい。いたいけな女の子が絶望の奈落へと突き落とされた光景は、男の邪悪さをより一層(きわ)()たせた。

 

「魔王は死んだ……俺が殺したッ! ニセの勇者である魔王を殺し、俺が……俺こそが、本物の勇者となったのだぁっ! フフフッ……フハハハハッ! あーーーっはっはっはぁっ!!」

 

 勝利を確信した悪魔の高笑いが響き渡る。

 誰もが魔王の死を疑わず、敗北ムードが場に漂った時……。

 

 

 

「……そんな大声で笑うと、(あご)が外れるぞ」

 

 何処からか忠告する言葉が発せられた。

 

「ッ!?」

 

 声がした方にアドニスが慌てて振り返ると、全身炎に包まれたまま地べたに倒れていた魔王がムクッと起き上がる。次の瞬間彼を包んでいた炎がサッと一瞬で消え去る。

 魔王には焦げ跡一つ付いていない。あれだけ大きな爆発に()まれたにも関わらず、何事も無かったかのようにピンピンしている。

 

「ききき貴様、ザガートッ! そそそ、そんな……どぼぢで!?」

 

 魔王が生きていた事に黒騎士が慌てふためく。予想外の出来事が起こったあまり声を震わせてしまい、言葉がおかしくなる。ポカンと口を開けて間抜けな表情したまま鼻水が()れそうになる。

 

 それは彼にとって決してあってはならない事だ。この状況に持っていくため綿密に計画を()った。大技が当たれば、敵は間違いなく死ぬはずなのだ。

 にも関わらず魔王は無傷のまま耐え(しの)いだ。その事実が到底受け入れられず、ショックで頭がおかしくなりかけた。

 

「どうしたもこうしたも無い……単純な話だ。お前は俺に技を当てた。俺はそれを回避できず、まともに受けた。だが俺が打たれ強かったために死ななかった……たったそれだけの事だ」

 

 魔王が(こと)()げに言い放つ。防御結界を張った訳でも回復魔法を使った訳でもなく、素の肉体の頑丈さで耐えたという、残酷な事実を突き付けた。

 

「だがアドニス……女を巻き込んだ事は許せないが、それでもさっきのコンビネーションは実に見事だった。もし食らったのが俺でなければ、間違いなく死んでいただろう。勝つためなら手段を選ばない執念、用意周到に計画を練った()(みつ)さ……それには戦士として敬意を払おう」

 

 少女を盾にした事を非難しながらも、自分を追い込んだ戦法の見事さに舌を巻く。青年の勝利に対する貪欲さを素直に評価し、称賛の言葉を送る余裕すら見せた。

 

 言葉だけ切り取れば皮肉に聞こえたかもしれない。だが魔王は純粋に、心の底から、青年の戦いぶりに感心したのだ。

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