いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
「グヌヌゥゥ……」
アドニスが思わず
相手に戦いぶりを
「まだだ……まだ終わっちゃいない! 俺にはまだ大魔王から与えられた手札が残っている!!」
自分に戦う手段が残っている事を大きな声で告げた。
アドニスは蛇腹剣をポイッと投げ捨てると、自分の真横に空間の裂け目を作る。そこに手を突っ込んで、
「ああっ! あれは……」
その刀を目にして、ルシルが驚きの言葉を発する。その場にいた他の者達も一斉にどよめく。
それもそのはず、青年が異空間から取り出したのは、他ならぬ妖刀ムラマサだったからだ。
「ザガートの所有物だったはずの刀が、何故ヤツの手元に?」
レジーナが観衆の意思を代弁するように疑問を口にする。
「うぬら、そう慌てるでない……村長が言っておったじゃろう。ムラマサは全部で三振りあると。大魔王がそのうち一振りを持っていたとて、何ら不思議はあるまい……」
ただ一人冷静さを
アドニスは刀を鞘から抜くと、鞘を地面に放り投げる。
「ザガート……俺はこの一撃に全てを賭けるッ! 俺の全力を込めた大技で、貴様をこの世から消し去る!!」
強い敵意に満ちた言葉を吐くと、彼の体から白い
「秘剣……
技名らしき言葉を叫ぶと、アドニスが刀を縦
龍が通り抜けた地面は凄まじい威力の衝撃波で削られており、
「そん……な……」
魔王の姿が何処にも見えない事にルシルが
他の者達も魔王がやられたらしい光景を目にして
誰も魔王の生存を信じる者はいない。それほど凄まじい威力の技だった。
「フフフッ……フハハハハッ……」
アドニスが声に出して笑い出す。魔王の死に悲嘆した連中とは真逆に、勝利の喜びに全身の細胞を打ち震わせた。
「フハハハハッ……やった……
天にも届かんばかりの絶叫を発して、拳を強く握ってガッツポーズを取る。人生で味わった事が無いような喜びを得て、心が強く満たされた。今まで胸に抱えたモヤモヤが晴れてスッキリしたような満足感が得られた。今この瞬間死んでしまっても良いとさえ思えたのだ。
……若者の笑い声が響き渡った時、何処からかボコッと音が聞こえた。
「ッ!?」
音が聞こえた方角に若者が振り向くと、ザガートが立っていた場所にあった大地の土がモコモコッと盛り上がる。人と同じくらいの大きさまで
「……そんな」
土の中から現れた人物を目にして、アドニスがショックのあまり
そこに立っていたのは大技を受けて死んだはずの、
「なるほど……確かに凄い威力の技だ。何しろ足元の大地を削って、巻き上げた大量の土砂で俺を生き埋めにしたのだからな……まぁそれでも俺には傷を負わせられなかったが……」
ザガートが服に付いた泥を手で払いながら、皮肉めいた言葉を吐く。技の威力に感心したようだが、もはや
「あああっ……あっ……」
魔王が生きていた事に深く動揺したアドニスが、全身をわなわなと震わせて、手から刀が
「うっ……ぎゃぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーっっ!!」
突然悲鳴を上げて苦しみ出す。いきなり横向きに地面に倒れ込むと、ミミズのように全身を激しくのたうち回らせた。まるで水分が蒸発しようとするように彼の体からシュウシュウと白煙が立ち
「アドニスっ!」
もはや戦いどころではなくなり、エレナが慌てて駆け寄る。彼の前まで来て
「エレ……ナ……」
場がシーーンと静まり返り、誰も一言も発しない。ある推測が頭に湧き上がったものの、誰もそれを口に出せない。岩のように固まったまま棒立ちになる。
数秒間時間が止まったような状態だったが、冷静に歩き出したトールがアドニスの
「……ッ!!」
あらわになった男の素顔を見て、
男は全身の水分を失って
「一体何が起こっちまったってんだ……」
ドーバンが思わずそう口にする。若者の身に起こった出来事が全く理解できず、疑問を感じずにはいられない。
「
「激しく燃える
最後は
ザガートはカツカツと歩いていって死体の
(デスナイト……敵ではなく自分に死をもたらすとは、何とも皮肉な話だ)
彼が名乗った肩書きを口にして、迎えた末路に思いを
「……失望シタゾ」
アドニスの死を前にして、
声が聞こえた方角に皆の視線が向けられると、ダチョウの卵くらいの大きさをした物体がフワフワと宙に浮かんでいるのが見えた。
……空に浮いていたのは、
目玉から発せられた声は低音でドスが利いており、ただ者でない事は一声を聞いただけで分かる。
「ココマデオ
かつてザガートと戦った傭兵を引き合いに出して、残念そうにフゥーーッとため息を漏らす。若者に多くの力を与えたにも関わらず、期待通りの結果にならなかった事に、深く落胆した様子が
「……お前がアザトホースか」
若者を悪の道に引きずり込んだ黒幕であろうと思われる目玉にザガートが問いかける。胸の内に湧き上がった怒りをぶつけるようにキッと相手を
「ソウダ……異世界ノ魔王ヨ。コウシテ
宙に浮いた目玉が自己紹介する。彼が男が予想した通りの大魔王であった事、そのほんの一部を立体映像で投射したに過ぎない事を教える。
今この場に本体がいない以上、戦いが目的で来た訳では無さそうだ。
「アドニス……貴様ニ
そう言葉を発した瞬間、目玉がカッと
するとアドニスが身に付けていたデモンズメイル、金属製の義手、神速の腕輪、蛇腹剣、妖刀ムラマサ……それらの品々が粒子状に分解されて霧のようになる。霧は目玉へスゥーーッと吸い込まれていき、後には全身タイツを着たミイラの死体だけが残された。
「魔王ザガート……コノ世界ノ
武具の回収を済ませると、別れの
(世界の理に逆らいし者……か)
大魔王が言い残した言葉をザガートが
魔王が物思いに
「いっ……いやぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」
何処からか少女が泣き叫ぶ声が発せられた。
声が聞こえた方角を皆が振り返ると、エレナがアドニスの死体を抱き
「アドニスっ! お願い、死なないでっ! 返事してぇっ!!」
ミイラ化した仲間を激しく揺さぶりながら、何度も言葉を掛ける。彼が死んだ事実から目を
「どうして……どうしてこんな事に……」
最後はうわ
深い絶望に
アドニスをよく知らない者からすれば、彼は単なる犯罪者でしかない。生き返ったとはいえ二人の罪なき兵士を殺した大罪人だ。大魔王の手下となり、勇者と呼ばれた男を殺そうとした悪党だ。
悪の手先に
だが少女の悲しむ姿を前にして、とても男の死を喜べる空気ではなくなった。勝利の喜びや達成感はそこには無く、後味の悪さだけが残る。何とも言えない重苦しい空気が場に漂う。
(この事態を招いた責任を取らねばなるまい……)
ザガートはこの状況を打開しなければならない使命感に駆られた。若者を追い詰めた事に責任を感じており、何らかの解決策を思い立つ。
「下がっていろ……俺が何とかする」
再び死体の
「我、魔王の名において命じるッ!
死体に手を触れて魔法の言葉を唱える。すると天から一筋の光が差し込んで、遺体を
「ううっ……俺は生き返ったのか」
アドニスが困惑しながら目を開ける。意識が
「あああっ……あっ……」
仲間が生き返った光景を見て、エレナが感動するあまり全身を打ち震わせた。表情は喜びの色に染まり、瞳から大粒の涙が
神の奇跡を目の当たりにした……
「アドニス……アドニスーーーーーーーーっっ!!」
大声で叫ぶと感情の
家族のように大切に思う仲間が生き返った……彼女にとってはそれで十分だった。他に何も