いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第59話 村正に秘められた力

「グヌヌゥゥ……」

 

 アドニスが思わず(うな)り声を発する。苦虫を噛み(つぶ)した表情したまま、ギリギリと音を立てて歯を食い(しば)る。悔しさのあまりはらわたがグツグツと煮えくり返り、脳の血管が沸騰して爆発寸前になる。

 

 相手に戦いぶりを()められても全く嬉しそうではない。それもそのはず、彼の目的は相手を殺す事で、実力を認められる事ではない。その相手に「よくやった」と言葉を掛けられても、プライドに傷が付くだけだ。最初(はな)から相手に同格と看做(みな)されていなかった証明なのだから。魔王の態度はどんな挑発の言葉よりも強く若者を怒らせた。

 

「まだだ……まだ終わっちゃいない! 俺にはまだ大魔王から与えられた手札が残っている!!」

 

 自分に戦う手段が残っている事を大きな声で告げた。

 アドニスは蛇腹剣をポイッと投げ捨てると、自分の真横に空間の裂け目を作る。そこに手を突っ込んで、(さや)に収まった一振りの刀を取り出す。

 

「ああっ! あれは……」

 

 その刀を目にして、ルシルが驚きの言葉を発する。その場にいた他の者達も一斉にどよめく。(みな)が信じられないと言いたげな表情をして、困惑の色を表に出す。

 

 それもそのはず、青年が異空間から取り出したのは、他ならぬ妖刀ムラマサだったからだ。

 

「ザガートの所有物だったはずの刀が、何故ヤツの手元に?」

 

 レジーナが観衆の意思を代弁するように疑問を口にする。

 

「うぬら、そう慌てるでない……村長が言っておったじゃろう。ムラマサは全部で三振りあると。大魔王がそのうち一振りを持っていたとて、何ら不思議はあるまい……」

 

 ただ一人冷静さを(たも)っていた鬼姫が、仲間の疑問に答える。自分達に妖刀を渡した村長の言葉を思い出させて、魔王が持っていたのとは別の刀があってもおかしくないと()く。

 

 アドニスは刀を鞘から抜くと、鞘を地面に放り投げる。(つか)を両手で握ると、刀を縦に構えたポーズのまま力を()め込むように数秒間静止する。

 

「ザガート……俺はこの一撃に全てを賭けるッ! 俺の全力を込めた大技で、貴様をこの世から消し去る!!」

 

 強い敵意に満ちた言葉を吐くと、彼の体から白い(もや)のようなオーラが立ち込める。オーラが刀へと吸い込まれていくと、刀身が不気味に赤く光り出す。

 

「秘剣……魔神龍撃斬(まじんりゅうげきざん)ッ!!」

 

 技名らしき言葉を叫ぶと、アドニスが刀を縦一閃(いっせん)に振る。ブォンッと風を斬る音を鳴らしながら振られた刃から、巨大な(ドラゴン)の形をした衝撃波が放たれた。龍はドガガガガッと大地を(けず)る音を鳴らしながら飛んでいき、ザガートを一瞬で()み込む。その後は大地を高速で駆け抜けて、そのまま地平の彼方へと飛び去る。

 

 龍が通り抜けた地面は凄まじい威力の衝撃波で削られており、U(ユー)の字に(へこ)んだまま茶色の土が()き出しになっていた。魔王は影も形も見えない。バラバラの肉片になって吹き飛んだのか、(チリ)も残らず蒸発したのか……。

 

「そん……な……」

 

 魔王の姿が何処にも見えない事にルシルが()(ぜん)となる。ポカンと口を開けたまま棒立ちになる。

 他の者達も魔王がやられたらしい光景を目にして(にわ)かに動揺する。そんな馬鹿な、信じられない、と言いたげな顔をする。ある者は恐怖で青ざめて、またある者はガクッと(ひざ)をついてうなだれる。

 誰も魔王の生存を信じる者はいない。それほど凄まじい威力の技だった。

 

「フフフッ……フハハハハッ……」

 

 アドニスが声に出して笑い出す。魔王の死に悲嘆した連中とは真逆に、勝利の喜びに全身の細胞を打ち震わせた。

 

「フハハハハッ……やった……(つい)にやったぞ! 今度こそ、本当に、間違いなく俺が勝った! 最強無敵の魔王に、俺が勝ったんだぁぁぁぁああああああーーーーーーーーッッ!!」

 

 天にも届かんばかりの絶叫を発して、拳を強く握ってガッツポーズを取る。人生で味わった事が無いような喜びを得て、心が強く満たされた。今まで胸に抱えたモヤモヤが晴れてスッキリしたような満足感が得られた。今この瞬間死んでしまっても良いとさえ思えたのだ。

 

 

 

 ……若者の笑い声が響き渡った時、何処からかボコッと音が聞こえた。

 

「ッ!?」

 

 音が聞こえた方角に若者が振り向くと、ザガートが立っていた場所にあった大地の土がモコモコッと盛り上がる。人と同じくらいの大きさまで(ふく)れ上がると土が割れて、中から人が出てくる。

 

「……そんな」

 

 土の中から現れた人物を目にして、アドニスがショックのあまり茫然(ぼうぜん)自失になる。

 そこに立っていたのは大技を受けて死んだはずの、(まぎ)れもないザガート本人だった。あれだけ威力が高い衝撃波を受けたにも関わらず、肌には(かす)り傷一つ付いていない。服の表面が(かす)かに焦げていたが、被害はそれだけだ。

 

「なるほど……確かに凄い威力の技だ。何しろ足元の大地を削って、巻き上げた大量の土砂で俺を生き埋めにしたのだからな……まぁそれでも俺には傷を負わせられなかったが……」

 

 ザガートが服に付いた泥を手で払いながら、皮肉めいた言葉を吐く。技の威力に感心したようだが、もはや()めているのかけなしているのか分からなくなる。

 

「あああっ……あっ……」

 

 魔王が生きていた事に深く動揺したアドニスが、全身をわなわなと震わせて、手から刀が(こぼ)れ落ちた瞬間……。

 

「うっ……ぎゃぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーっっ!!」

 

 突然悲鳴を上げて苦しみ出す。いきなり横向きに地面に倒れ込むと、ミミズのように全身を激しくのたうち回らせた。まるで水分が蒸発しようとするように彼の体からシュウシュウと白煙が立ち(のぼ)ったが、何が起こっているのか分からない。

 

「アドニスっ!」

 

 もはや戦いどころではなくなり、エレナが慌てて駆け寄る。彼の前まで来て(ひざ)をつくと、両手を当てて回復呪文を唱えたが、彼の容態は一向に良くならない。少女の行為を無駄と(あざ)笑うかのように、男の体が衰弱していく。

 

「エレ……ナ……」

 

 (かす)れた声で仲間の名を呼ぶと、糸が切れた人形のように動かなくなる。

 

 場がシーーンと静まり返り、誰も一言も発しない。ある推測が頭に湧き上がったものの、誰もそれを口に出せない。岩のように固まったまま棒立ちになる。

 数秒間時間が止まったような状態だったが、冷静に歩き出したトールがアドニスの(そば)まで来て、彼の(かぶと)を両手で外す。

 

「……ッ!!」

 

 あらわになった男の素顔を見て、(みな)の表情がこわばる。

 男は全身の水分を失って()からびたミイラになっており、苦痛に顔を(ゆが)ませて口を開けた表情のまま固まっていた。彼が死んでいた事は心音を確かめなくても一目で分かる。

 

「一体何が起こっちまったってんだ……」

 

 ドーバンが思わずそう口にする。若者の身に起こった出来事が全く理解できず、疑問を感じずにはいられない。

 

魔神龍撃斬(まじんりゅうげきざん)は、持ち主の生命を技の威力へと変換する捨て身の大技……あやつは魔王を殺すために、今の一撃で全生命を使い切ってしまったのじゃろう。ムラマサが妖刀と恐れられた所以(ゆえん)は持ち主を選ぶからではない。たとえ刀に認められた戦士だろうと、今の技を使えば命を失う危険があったからじゃ」

 

 (ただ)一人、技の性質について知っていたらしき鬼姫が疑問に答える。若者の使用した技が大きな代償を支払うものだった事、それにより彼が命を失った事を教える。

 

「激しく燃える松明(たいまつ)ほど、使い道を(あやま)れば我が身を焼く……その結果がこれという訳じゃ。大バカ者が……」

 

 最後は(たと)え話を持ち出して、若者の無残な死を嘆く。分不相応な力を手にしたために悲惨な末路を迎えた彼の生き(ざま)を、他の者への教訓として言い聞かせた。

 

 ザガートはカツカツと歩いていって死体の(そば)まで来ると、若者の死に顔をじっと眺める。自分に歯向かったばかりにこのような死に方をした若者に敵ながら(あわ)れみの念を抱く。

 

(デスナイト……敵ではなく自分に死をもたらすとは、何とも皮肉な話だ)

 

 彼が名乗った肩書きを口にして、迎えた末路に思いを()せた。

 

「……失望シタゾ」

 

 アドニスの死を前にして、(みな)が黙り込んでいると、沈黙を破ろうとするように何者かの言葉が発せられた。

 声が聞こえた方角に皆の視線が向けられると、ダチョウの卵くらいの大きさをした物体がフワフワと宙に浮かんでいるのが見えた。

 

 ……空に浮いていたのは、()き出しの大きな目玉だった。うっすらと半透明に()けており、風がスゥーーッと通り抜ける。ゴーストのような霊体か、もしくは立体映像を映し出したもののようだ。

 目玉から発せられた声は低音でドスが利いており、ただ者でない事は一声を聞いただけで分かる。

 

「ココマデオ(ゼン)()テシテヤッタトイウノニ、ギースノ足元ニモ(オヨ)バヌトハ……期待外レモ良イ所ダ。ショセン、負ケ犬ハ負ケ犬トイウ(ワケ)カ……」

 

 かつてザガートと戦った傭兵を引き合いに出して、残念そうにフゥーーッとため息を漏らす。若者に多くの力を与えたにも関わらず、期待通りの結果にならなかった事に、深く落胆した様子が(うかが)える。

 

「……お前がアザトホースか」

 

 若者を悪の道に引きずり込んだ黒幕であろうと思われる目玉にザガートが問いかける。胸の内に湧き上がった怒りをぶつけるようにキッと相手を(にら)み付けた。

 

「ソウダ……異世界ノ魔王ヨ。コウシテ(ジカ)ニ言葉ヲ()ワスノハ、(ハジ)メテダナ。我コソ大魔王アザトホース……ソノ体ノ一部ヲ、映シ出シタモノナリ」

 

 宙に浮いた目玉が自己紹介する。彼が男が予想した通りの大魔王であった事、そのほんの一部を立体映像で投射したに過ぎない事を教える。

 今この場に本体がいない以上、戦いが目的で来た訳では無さそうだ。大方(おおかた)宣戦布告をしに来たといった所か。

 

「アドニス……貴様ニ()(アタ)エタ武具ハ、回収サセテモラウ」

 

 そう言葉を発した瞬間、目玉がカッと(まばゆ)い輝きを放つ。

 するとアドニスが身に付けていたデモンズメイル、金属製の義手、神速の腕輪、蛇腹剣、妖刀ムラマサ……それらの品々が粒子状に分解されて霧のようになる。霧は目玉へスゥーーッと吸い込まれていき、後には全身タイツを着たミイラの死体だけが残された。

 

「魔王ザガート……コノ世界ノ(コトワリ)(サカ)ライシ者。イズレソノ(ムク)イヲ受ケテモラウ。サラバ……(エン)ガアッタラ、マタ会オウ」

 

 武具の回収を済ませると、別れの挨拶(あいさつ)を口にする。意味深な言葉を吐くと、フッと消えていなくなる。

 

(世界の理に逆らいし者……か)

 

 大魔王が言い残した言葉をザガートが反芻(はんすう)する。何らかの意図があるかもと思いあれこれ考えてみたが、どれも推測の(いき)を出ない。

 

 魔王が物思いに(ふけ)ていると……。

 

「いっ……いやぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」

 

 何処からか少女が泣き叫ぶ声が発せられた。

 声が聞こえた方角を皆が振り返ると、エレナがアドニスの死体を抱き(かか)えたまま泣いていた。今までショックのあまり固まっていた彼女だったが、徐々に仲間が死んだ実感が湧き上がり、急激に悲しみがこみ上げてきたようだ。

 

「アドニスっ! お願い、死なないでっ! 返事してぇっ!!」

 

 ミイラ化した仲間を激しく揺さぶりながら、何度も言葉を掛ける。彼が死んだ事実から目を(そむ)けて、起き上がる事を懇願する。

 

「どうして……どうしてこんな事に……」

 

 最後はうわ(ごと)のように(つぶや)きながら、死体を抱き締めたままウッウッと声に出して泣く。両肩をプルプル震わせて、目から大粒の涙がボロボロと(こぼ)れ出す。

 深い絶望に()まれて泣き続ける少女の姿は見るからに痛ましい。何とかしてあげたいと思いながら、何も出来ない無力感に(さいな)まれる。いたいけな少女が深く傷付いた光景に胸が張り裂けそうになる。

 

 アドニスをよく知らない者からすれば、彼は単なる犯罪者でしかない。生き返ったとはいえ二人の罪なき兵士を殺した大罪人だ。大魔王の手下となり、勇者と呼ばれた男を殺そうとした悪党だ。

 悪の手先に()り下がった男の死を嘲笑するのは簡単だ。「ざまぁ」と侮蔑の言葉を吐いて追い打ちをかける事も出来た。

 

 だが少女の悲しむ姿を前にして、とても男の死を喜べる空気ではなくなった。勝利の喜びや達成感はそこには無く、後味の悪さだけが残る。何とも言えない重苦しい空気が場に漂う。

 

(この事態を招いた責任を取らねばなるまい……)

 

 ザガートはこの状況を打開しなければならない使命感に駆られた。若者を追い詰めた事に責任を感じており、何らかの解決策を思い立つ。

 

「下がっていろ……俺が何とかする」

 

 再び死体の(そば)まで来ると、一言断りを入れてエレナを下がらせる。

 

「我、魔王の名において命じるッ! (なんじ)の傷を癒し、魂をあるべき場所へと呼び戻さん……蘇生術(リザレクション)ッ!!」

 

 死体に手を触れて魔法の言葉を唱える。すると天から一筋の光が差し込んで、遺体を(まばゆ)く照らす。数秒が経過した後、ミイラ化したはずの体に水分が(そそ)がれたように肌が(ふく)らんでいき、それまで乾燥していた皮膚が(うるお)いを取り戻す。大魔王に切断されて失われたはずの左腕が瞬時に再生し、元の姿に戻ると、若者がムクッと起き上がる。

 

「ううっ……俺は生き返ったのか」

 

 アドニスが困惑しながら目を開ける。意識が朦朧(もうろう)としており、ふらつく頭を手で押さえる。自分が一度死んだ事を知覚しており、魔王の手で蘇生させられた事を瞬時に理解する。

 

「あああっ……あっ……」

 

 仲間が生き返った光景を見て、エレナが感動するあまり全身を打ち震わせた。表情は喜びの色に染まり、瞳から大粒の涙が(あふ)れ出す。涙と鼻水でくしゃくしゃになり、顔が真っ赤になる。

 神の奇跡を目の当たりにした……(まさ)にそのような状態だった。

 

「アドニス……アドニスーーーーーーーーっっ!!」

 

 大声で叫ぶと感情の(おもむ)くままに若者を抱き締めた。両腕で強く抱いたままわんわんと声に出して泣く。そのままいつまで()っても離さない。子供が生き返った事に感動した母親のように泣き続ける。

 

 家族のように大切に思う仲間が生き返った……彼女にとってはそれで十分だった。他に何も()りはしなかった。

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