いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第6話 ヒルデブルク城へと

 ギレネス村を出たザガートは、情報収集のため西にあるヒルデブルク城へと向かう。彼に()れた女性ルシルを(そば)に連れて歩く。

 

 村を離れて二日……城に向かう彼らの前に小さな森が立ちはだかる。

 森を進むと魔物に襲われる危険性があったが、()(かい)すると遠回りになるため、二人は森を突っ切る事に決めた。

 

 彼らが暗い森の中を歩いていると、通り道の(わき)にある茂みがガサガサと音を立てて揺れだす。

 

「ギギギィィーーーーッ!」

 

 奇声を発しながら、茂みの中から一匹のゴブリンが飛び出してきた。右手には()ぎ澄まされたナイフが握られている。ザガート達がここを通ると(にら)んで待ち伏せていたのだ。

 

「小娘ェッ! ココガ貴様ノ墓場トナルノダッ! 死ネェェェェエエエエエーーーーーッッ!!」

 

 ゴブリンは真っ先に少女を狙い、高くジャンプしてナイフを構えたまま急降下する。

 

「業火よ放て……火炎光矢(ファイヤー・アロー)ッ!!」

 

 ルシルが即座に魔物の方を向いて、両手のひらをかざす。魔法の言葉を唱えると、手のひらから(なし)くらいの大きさの煌々(こうこう)と燃えさかる火球が放たれた。

 火球が命中すると、ゴブリンの体が一瞬にして炎に包まれる。

 

「ギャアアアアッ!! 馬鹿ナッ! 小娘……オ前ハ魔法ガ使エナイハ……ズ……」

 

 全身を灼熱の業火で焼かれたゴブリンが地面に墜落して、悲鳴を上げてもがき苦しむ。少女が魔法を使えた事への疑問を口にしながら黒焦げになって息絶えた。

 

「凄いですね、この指輪……本当に私みたいなのでも魔法が使えるなんて」

 

 ルシルが感動の言葉を口にしながら、自分の右手に目をやる。

 彼女の右手の中指に、小さな宝石の付いた指輪が()められていた。ザガートがギレネス村の村長に渡したのと同じものだ。

 

「それがあれば、お前でも中級の冒険者並みに戦える……足手まといにはなるまい」

 

 ザガートがルシルに戦う力が得られた事を伝える。男の足を引っ張るかもしれないと不安を抱いた彼女に、懸念を払拭してやろうと(こころ)みた。

 

 実際魔王にとっても、戦力の頭数が増えて護衛の手間が減るのであれば、良い事ずくめだ。少女に与えた指輪は、非戦闘要員を即席の戦闘要員に出来るだけの力があった。

 

「とは言え、ゴブリンへの咄嗟(とっさ)の対応は見事だった。ルシル、お前冒険者の素質があるかもしれんぞ」

 

 男は少女の戦いぶりに素直に感心し、称賛の言葉を贈りながら頭を優しく()でた。

 

「はいっ!」

 

 頭を撫でられたルシルが、嬉しそうにニコニコしながら元気良く返事する。

 会話が終わると、二人は再び森の出口に向かって歩き出す。ザガートは敵の死を侮辱するようにわざとゴブリンの死体を踏んでいった。

 

「……」

 

 暗闇の中に赤く光る無数の瞳が、二人を見る。

 森の中には他にも魔物の気配があったが、ゴブリンが返り討ちに()ったのを見て『()(かつ)に手を出せば自分もああなる』という恐怖があったのか、結局手を出さずただ二人を見送った。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 森を抜けた二人が開けた草原を歩いていると、王城らしき建物が見えてくる。

 

 正方形に建てられたコンクリートの城壁、その中央にそびえ立つ巨大な城こそザガートが目的とするヒルデブルク城だと思われた。城壁の内側には大きな街があり、城を取り(かこ)むように配置している。王国の首都だけあって総人口はかなり多いようだ。

 

 二人が城壁の門へと近付くと、鉄製の鎧を身に(まと)い、槍で武装した見張りの兵士が門の前に二人立つ。

 

「ムムッ! 貴方はひょっとして、ザガート様では!?」

 

 魔王の姿を目にして、兵士の一人が開口一番に問いかけた。

 

如何(いか)にもそうだが……俺の事を知っているのか?」

 

 初対面の(はず)の兵士が自分を知っていた事に、ザガートが首を(かし)げる。いくら村を救ったとはいえ、風のウワサが流れるにはタイミングが早すぎると疑念を抱く。

 

「実は先日、ギレネス村の村長が早馬を飛ばしまして、事の一部始終を我らに伝えたのです。それで昨晩王宮で会議が行われた結果、王は貴方様を(こころよ)く迎える決断を()されました」

 

 もう一人の兵士がザガートの疑問に答える。テラジが王城に使いの者を送ってよこした事、それにより魔王の活躍が城内に知れ渡った事などを、手短に教えた。

 

「陛下からは、貴方が到着したら謁見の間へお通しするよう(おお)せつかってます。ささ、どうぞこちらへ」

 

 最初に言葉を発した兵士が、そう言って二人を城の中へと連れて行こうとする。

 もう一人は、後から来た別の兵士と一緒に見張り役として門に残る。

 ザガート達は男に案内されるがまま門の中に入っていく。

 

(もの)(わか)りが良くて、非常に助かる……)

 

 ザガートは心の中で、話がヤケにサクサク進む事をありがたいと感じた。

 何しろ彼は魔王なのだ。事情を知らない者が姿を見たら、魔族の仲間と勘違いしても何ら不思議は無い。人間に敵とみなされる事態は極力避けたかった。

 

 自分の正確な評判が他の街に伝わっただけでも、ギレネス村を救う価値はあったと感じた。やはり暴力で支配するより、英雄の名声を広める方が手っ取り早いと、ザガートは改めて思い直す。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 ザガート達は兵士に城の中を案内されて、謁見の間と思しき大扉の前に着く。

 重い鉄製の扉がギギギッと音を立てて開き、二人が中へ入ると、中央の床にレッドカーペットが敷かれており、その左右に鎧を着た兵士がズラッと並び立つ。列の奥の方には、王侯貴族らしき服を着た者も数人いた。

 

 カーペットの最奥に玉座が置かれており、一人の男が座る。宝石の付いた王冠を頭に被り、(すそ)の長い衣を着た、五十歳くらいに見える男性……一目で国王だと分かるその人は白い(ひげ)を生やしていたが、極端に太っても()せてもおらず、健康的な体型をしている。

 キリッとした顔付きは力強さを感じさせたが、表情はニコニコして温和で優しい。

 

 ザガートは男の姿を見て、「有能な統治者かもしれない」と好印象を抱く。

 

「おおっ! 貴方がギレネス村を救ったという(うわさ)の救世主、魔王ザガート様じゃな! よくぞ……よくぞ参られたっ! ()はこの国を治める王タルケンと申す!」

 

 二人が部屋に入るや(いな)や、王が慌てて椅子(いす)から立ち上がる。旅人の来訪を心から歓迎しながら、彼らの元へと早足で歩いていく。

 

「村での出来事は一言一句漏らさず報告を受けた……貴方様こそ、神が(つか)わした勇者に違いない。どうか……どうかこの国を、いや世界をお救い下され」

 

 魔王の前に立つと、願いの言葉を口にしながら(ひざまず)いて、床に両手をついて平伏した。もう他に頼れる物が無いのか、(わら)にもすがる思いで懇願する深刻そうな状況が伝わる。

 

「国王陛下、顔を上げよ……一国一城の(あるじ)たる者がおいそれと(ひざ)をついては、民の混乱を招くであろう。俺の事はザガート殿(どの)と呼んでくれて構わない。この国の王は俺ではない……貴方なのだ」

 

 ザガートは(ひざ)をついて優しく王の手を取り、ひれ()すのをやめるよう求めた。あえて高圧的な態度で(のぞ)むのではなく、穏やかな口調で接する事によって、その場にいる者の心象を良くしようともくろむ。

 

「おお……何と……何とありがたいお言葉じゃ」

 

 魔王に紳士的な言葉を掛けられて、タルケンが感激の声を漏らす。男の優しさに胸を強く打たれたあまり、目に涙が浮かんで今にも泣きそうになる。

 

「おお……」

「魔王ザガート……何と慈悲深き男よッ!」

 

 二人のやり取りを見ていた兵士達も深く感嘆する。その気になれば武力で簡単に国を支配できた男が、礼節を(わきま)えた態度で主君に接した事に大きな感動を覚えた。

 

(ふむ……やはり高圧的に出なくて正解だったな)

 

 兵士達の反応を目の当たりにして、ザガートは自身の選択が正しかったと確信を抱く。

 

 彼は恐るべき力を持った魔王だ。今でこそ村を救った英雄として尊敬される身だが、いつそれが恐怖と憎悪の対象へと変わったとしても不思議じゃない。

 強大な力を持つ者が、傍若無人に振る舞うほど人々にとって恐ろしい事は無い。それではアザトホースがやろうとする虐殺と何ら変わらない。

 

 そもそもゼウスがザガートを異世界に送ってよこしたのは、世界に渦巻く負のエネルギーを生まない(ため)なのだ。魔族と同じように人々を苦しめては何の意味もない。

 

「国王陛下……貴方に聞きたい事がある。俺はその為にここへ来た」

 

 ザガートは気持ちを切り替えると、当初の目的を果たそうと思い立つ。

 

(すで)に聞いただろうが、俺は異世界から来た身だ。だからこの世界の歴史について何一つ知らない。大魔王アザトホースが何者で、いつこの世界に現れたのか、ヤツが現れてから人類はずっと魔族と戦争をしたのか、勇者が現れてヤツを倒したりはしなかったのか……そうした話を知りたい」

 

 自分が知らない異世界の歴史について事細かに問う。特に大魔王が過去勇者に倒されたかどうか興味を抱く。

 

「ウム……」

 

 男の問いにタルケンがコクンと(うなず)くと、()(けん)(しわ)を寄せて気難しい表情になる。頭の中に回答を思い浮かべた上で、どれから順番に話すべきか迷う。

 

「この地には元から魔物が住んでおった。それらは決して邪悪な存在ではなく、人類と争ったりはしなかった。彼らは今も人里離れた辺境で暮らしておる」

 

 やがて考えが決まるとゆっくり口を開く。

 まずこの世界に善良な魔物がいた事を伝えて、魔族と明確に異なる存在である事を教える。

 

「だが千年前……アザトホースが突如として地上に姿を現したッ! ヤツは自らの眷属『魔族』を魔法で生み出し、魔王軍を結成した! そして人類を根絶やしにすべく襲いかかってきたのじゃ! 大魔王が何者かは分からぬ……だが限りなく邪悪な存在である事は間違いないッ!!」

 

 突如グワッと目を見開くと、大魔王の恐ろしさについて延々と話す。魔族が大魔王によって作られた魔法生物だという事、彼らが共存も対話も不可能な存在であった事などを語る。

 よほど魔族に怒りを覚えたのか、喋りながら全身をわなわなと震わせた。

 

「過去に二度、勇者が地上に舞い降りた……人類を創造した神『ヤハヴェ(Yahhaveb)』が、異世界から遣わしたのじゃ。勇者は大魔王を倒し、世界に平和が訪れた……ワシらは今回もその奇跡が起こると信じて神に祈った」

 

 一旦怒りを(しず)めて気持ちを落ち着かせると、今度は勇者の歴史について話す。

 この世界を統治する神の名を口にし、勇者が神によって遣わされた異世界転生者だった事実を明かす。

 

「……じゃが今回だけは違った。ワシらがいくら祈りを(ささ)げても、神は願いを聞き届けては下さらなかった。勇者が現れず、ワシらはなす(すべ)なく魔族に蹂躙(じゅうりん)されるしか無かったのじゃ……」

 

 最後は自分達が神に見離されたと話して、落胆したようにガックリと肩を落とす。村の住人がそうであったように、何の救いの手も差し伸べられないまま、魔族の侵略を受け続けた苦悩や悲しみが十二分に伝わる。

 

(フゥーーム……)

 

 王の話を聞いていて、ザガートは少し思う所があった。

 

(俺が勇者ではなく魔王として転生したから、この地に勇者が現れなかったのか? だが俺を転生させたのは、異界の神ゼウス……この世界の神ヤハヴェではない。ヤハヴェとやらは、まさか本当に人間を見捨てたのか? 一体今この世界で、何が起ころうとしている……)

 

 これまで得た情報を元に、世界が置かれた状況について考える。過去に二度現れたという勇者が現れなくなった事に、神の(がわ)で何かしら方針の変更があったのではないかと推測した。

 何らかの予期せぬ事態に巻き込まれようとしているのではないかと危機感を抱く。

 

(だがまぁ、何にせよ……ここであれこれ考えても(らち)が明かない。大魔王を倒せば、真相は(おの)ずと明らかになるのだから)

 

 それでも結局、これからやろうとする事に変更は無いと結論付けた。

 

「国王よ、安心してくれ……たとえ神が見捨てようと、俺は貴方達を決して見捨てたりしない。俺が勇者の代わりとなって、貴方がたを魔族の手から守ると約束しよう」

 

 今後の方針が決まると、再び国王の手を取り頼もしい言葉を吐く。深く絶望した彼らに安心感を与えて、自身への信仰を(うなが)させようともくろむ。

 

「ザガート殿、お心遣い感謝する……このタルケン、貴方の旅の助けとなるなら、協力は惜しみませぬぞ。()に出来る事なら、何なりと言ってくだされ」

 

 男の言葉に深く感激した王が、助力を申し出た時……。

 

「お父様っ! その男に騙されてはなりませんっ!」

 

 そう叫ぶ女性の声が、何処からか聞こえた。

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