いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
仲間が生き返った事にエレナが大喜びし、場の空気が感動ムード一色に染まりかけた時……。
「……どうして生き返らせたんだ」
水を差すようにアドニスがボソッと
彼の予想外な反応に、エレナも驚くあまり泣くのをやめたほどだ。
「俺はたくさん罪を犯した……二人の衛兵を手にかけ、仲間に酷い仕打ちをして、魔王を殺そうとした……挙げ句の果てに大魔王に魂を売った大悪党だッ! こんな俺が
これまで犯した罪を並べ立てて、自分が決して許される存在ではないと述べる。世間に白い目で見られる事を自覚して、自分の居場所が無くなったと考える。
「この先、生きながらえても……大罪人と
今後の人生に待ち受ける苦難を想像して、そこから逃れる手段として死を望んだ事を伝える。最後は目を
「……」
若者の言葉を聞いて皆が黙り込む。誰も一言も喋らない。青年の苦しみを取り除きたいと願ったものの、掛ける言葉が見つからない。
彼の言う通り、これから苦難が待ち受けるのは確かだ。犯した罪が許される保証も無い。裁判で厳しく尋問されて、下手をすればせっかく生き返ったのに処刑される可能性も十分あり得る。
仮に処刑されずとも、犯した罪は汚名として残り続ける。今後一生悪名を背負って生き続けるハメになる。住民から石を投げられるかもしれない。
侮蔑と非難の目に
彼は生き返るべきでは無かったのか……皆がそう思い始めた時。
「……バカモノォォォォォォオオオオオオオオーーーーーーーーッッ!!」
ザガートがいきなり大声で叫びながら若者の
「へぶるぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁああああああああっっ!!」
全力で頬をぶったたかれたアドニスが奇声を発しながら豪快に吹っ飛ぶ。その勢いのまま地面をゴロゴロ転がる。
エレナが慌てて駆け寄り、彼を助け起こす。叩かれた頬は
「ザガート!?」
魔王の予期せぬ行動にレジーナが驚いた顔をする。他の者も一瞬何が起こったのか全く理解できず、ポカンと口を開けた。
殴られた当のアドニスも
「馬鹿者が……」
「仲間はお前の事を心配して……お前が生き返った時、心の奥底から喜んだのだぞ! にも関わらず、死んだ方がマシだったとは、何様のつもりだッ! 彼らが今までどんな気持ちでいたか、考えた事があるかッ!!」
物凄い剣幕で説教を始めた。仲間が青年の復活を喜んだ事、青年が彼らの気持ちを理解しなかった事、それらの事実を早口でまくし立てた。
「お前が死ねば、お前はラクになれたかもしれない……だがお前の仲間はどうなる!? お前に生きて欲しいと願った仲間は、お前が死ねばこの先ずっと、死ぬまでお前を救えなかった後悔を抱いて生き続けるハメになるのだぞ! お前はそれで良いのかッ!!」
青年が死んだ後に残された仲間がどうなるかを教える。若者が安易に死を望めば、その後彼らが苦悩し続ける事を口にして、青年がどれだけ大事に思われてたかを伝えようとした。
「俺自身はお前の事などどうでも良い……だがお前が仲間の思いを踏み
仲間を傷付けようとした若者の言動を激しく
「……」
魔王の話が終わると、場がシーーンと静まり返る。男の迫力ある喋りに圧倒されて、
言葉の内容も凄かったが、それ以上に魔王が説教を
魔王自身、内心ガラに合わない事をしたと思った。自分のキャラではないと感じた。だがあまりに自分本位な若者の言動を前にして、怒りを抑え切れなかったのだ。もう普段のイメージなどどうでもいいと思った。
(……ザガート)
魔王の熱の
目の前にいるこの男は、自分を必死に立ち直らせようとしている。言動は
アドニスがふと真横を見ると、エレナが彼の方を見ていた。改めて仲間が生き返った事に安堵した、穏やかな笑みになる。
「アドニス……私達、まだやり直せるよ。やり直そう……一緒に罪を
優しい口調で語りかけた。共に支え合う事を約束して、若者に再起を
彼女の言葉に同意するように、背後に立っていたトールとマックスが若者の肩に手を掛ける。
「トール……マックス……二人とも、俺を恨んでいないのか。あれだけ酷い仕打ちをしたのに……」
アドニスが後ろを振り返り、仲間に問いかける。彼らに迷惑を掛けた実感が湧き上がり、申し訳なさでいたたまれない気持ちになる。
「もう反省したんだろ? だったら恨む事なんて無いさ」
トールが親指を立ててサムズアップしながら、気さくな言葉を掛ける。過去の出来事を水に流すようにニコッと笑う。
「アドニス、俺達の仲間。仲間は見捨てない。これからもずっと一緒」
マックスがいかにもパワー系らしい
「みんな……ありがとう……本当にありがとう。そして、すまなかった……」
感謝と
そんな青年を三人が優しく包み込む。後悔の意識に
ザガートも……そして他の者達も、四人の若者を暖かく見守る。強い
(良かったな……エレナ)
ザガートは一人心の中で少女にエールを送っていた。
◇ ◇ ◇
黒騎士が町の兵士達を襲った騒動から一週間後――――。
ゼタニアの町……その表通りの一角で、四人の男女がゴミ拾いをしていた。道端に落ちていたゴミを手で拾い集め、ビニール袋に入れる。道路に積もった砂
「おう、トール! マックス! エレナ! アドニス! やってるかっ!」
清掃活動していた四人にドーバンが声をかけた。
「ああドーバンさん……それに皆さん。その
四人のリーダー格と思しき赤毛の青年がペコリと頭を下げる。他の三人も一旦掃除の手を休めて同じように謝る。
その者は言うまでもなく、かつて大魔王の手先に
アドニスはあの後、事件の報告を受けた領主によって罰せられそうになったが、魔王が減刑を強く求めたために極刑は
「……すっかり
しおらしくなった若者の姿を見て、ドーバンが安心したように言う。以前のようなギラギラした態度とは異なる今の様子に、もう再犯の恐れは無いだろうと確信を抱く。
「俺……今まで自分しか見えてなくて、もっと自分が
アドニスが申し訳なさそうな顔しながら男の言葉に答える。自分の半生を振り返り、わがままで横暴な生き方しかして来なかったと明かす。
「でもあの人が……魔王が教えてくれました。仲間が俺の事を大事に思ってくれた事、その仲間を俺が大事にしなきゃいけない事……それに気付かせくれたんです」
ザガートが目を覚まさせてくれた事、それに対する感謝の言葉を口にする。
「仲間の大切さに気付けた時、ああ俺はなんて身勝手なヤツなんだ、今まで散々みんなに迷惑かけたって……知る事が出来ました」
反省の
「そうか……まだ冒険者を続ける気はあるか?」
衛兵の一人が今後について問いかける。
「はい……一ヶ月の謹慎が解けたら、冒険者になって一から出直します。今度は以前のように認められたいからじゃなく、人を苦しみから救って、人から感謝される、そういう立派で優しい勇者を目指します。あの人のように……」
アドニスがこれからの生き方について話す。名誉欲に駆られた過去と決別し、真っ当な勇者になりたいと語る。目指すべき勇者の姿として魔王の名を挙げる。
「頑張れよ。今のお前さんなら、きっとなれる」
質問した衛兵が激励の言葉を送る。心を入れ替えた若者の夢が叶うよう、背中を強く押す。
「ありがとうございます。ただ一つ、心当たりが……」
アドニスがそう言って暗い表情になる。声のトーンが重くなり、落ち込んだように肩を落とす。
「あの人に直接感謝の言葉を掛けられなかった事です。領主との会談が終わった後すぐに街を出てしまったから……」
魔王と言葉を
「……その魔王サマから伝言を預かってるぜ」
ドーバンが待ってましたとばかりにニヤリと笑う。魔王から青年へ
「……
口調を真似て、魔王の言葉を一言一句漏らさず伝える。
「……はいっ!」
男の言葉を聞いて、アドニスが晴れやかな笑顔になる。魔王に対する感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。尊敬する人に背中を押されて勇気が湧く。
上を見上げると、雲一つない青空が広がっていた。
青年は魔王が向かっていった方角を眺めて、彼の旅路に思いを
――――ありがとう、異世界の魔王様。本当にありがとう。
……伝えたい感謝の気持ちを心の中で何度も口にするのだった。
◇ ◇ ◇
その頃、ゼタニアの町から遠く離れた平野を歩いていた一行だったが……。
「……ムッ!?」
突然頭の中にキュルリーーンッとニュータイプ的な効果音が鳴ったザガートが、慌てて後ろを振り返る。
「師匠、どうかしたんスか? いきなり町のあった方角を見たりなんかして」
魔王の唐突な行動になずみが首を
「今、アドニスが俺に感謝したッ! 根拠は無いが、何となくそんな気がしたのだ!!」
魔王が自分の身に起こった出来事を説明する。一週間前に助けた若者が自分に感謝したのを直感したと、強い調子で力説する。何の根拠もないオカルトな直感だが、魔王自身は間違いなくそれがあったと確信したようだ。
「いや……だからって、いきなり何だ!!」
魔王の
「それにしてもアドニス、のう……」
鬼姫が青年の名を口にして、一週間前の出来事を回想する。当時の魔王の言動を思い起こして口元をニヤつかせた。
「魔王よ……あの時のお
魔王が青年に対して取った行動の意外性を指摘する。彼が周囲から抱かれるイメージよりも優しい人物と感じた事を伝えて、からかうようにクスクスと笑う。相手の弱みを見つけたように上機嫌だ。
「……別にヤツの
魔王がぶっきらぼうに言葉を返す。女の方を振り返らないまま、カツカツと早足で歩く。表情はムスッとしており、口数は少ない。図星を突かれた照れがあったのか、わざとらしく怒った顔をする。
「ま、そういう事にしといてやろうかの」
魔王の不機嫌そうな態度を鬼姫がサラッと受け流す。彼の意思を尊重し、それ以上深く突っ込まない。ただ口元をニヤつかせたまま黙って後ろを歩く。
他の少女達も同じようにニコニコ笑う。あえて言葉を発しないまま、男の父親のような不器用さを微笑ましく感じる。
魔王はそんな彼女達に突っかかったりせず、なすがままにさせる。心の何処かでそう思われる事を悪くないと感じる気持ちがあったのか、口元が自然に
一行は上空に広がる青空のように晴れやかな気持ちになりながら、次なる目的地へと向かうのだった。