いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第60話 その男、魔王か勇者か。

 仲間が生き返った事にエレナが大喜びし、場の空気が感動ムード一色に染まりかけた時……。

 

「……どうして生き返らせたんだ」

 

 水を差すようにアドニスがボソッと(つぶや)く。下を向いたまま暗い顔をしており、声の調子は重い。死の(ふち)から生還したというのに、全く嬉しそうじゃない。自分を蘇生させた事を非難する言葉が口から飛び出す。

 彼の予想外な反応に、エレナも驚くあまり泣くのをやめたほどだ。

 

「俺はたくさん罪を犯した……二人の衛兵を手にかけ、仲間に酷い仕打ちをして、魔王を殺そうとした……挙げ句の果てに大魔王に魂を売った大悪党だッ! こんな俺が今更(いまさら)生き返った所で、どの(ツラ)下げて皆に顔向けできるって言うんだッ!!」

 

 これまで犯した罪を並べ立てて、自分が決して許される存在ではないと述べる。世間に白い目で見られる事を自覚して、自分の居場所が無くなったと考える。

 

「この先、生きながらえても……大罪人と(ののし)られて、後ろ指を差されて、おめおめと生き(はじ)(さら)すだけだ……いっそ死んだままでいさせてくれた方が、ずっとラクだったんだ!!」

 

 今後の人生に待ち受ける苦難を想像して、そこから逃れる手段として死を望んだ事を伝える。最後は目を(つぶ)って下を向いたままウッウッと()(えつ)を漏らして泣き出す。

 

「……」

 

 若者の言葉を聞いて皆が黙り込む。誰も一言も喋らない。青年の苦しみを取り除きたいと願ったものの、掛ける言葉が見つからない。

 彼の言う通り、これから苦難が待ち受けるのは確かだ。犯した罪が許される保証も無い。裁判で厳しく尋問されて、下手をすればせっかく生き返ったのに処刑される可能性も十分あり得る。

 仮に処刑されずとも、犯した罪は汚名として残り続ける。今後一生悪名を背負って生き続けるハメになる。住民から石を投げられるかもしれない。

 

 侮蔑と非難の目に(さら)されて生きるくらいなら、確かに死んだ方がラクだったかもしれない。青年が生き返る事を望んだ仲間ですら、そう考えてしまう。

 

 彼は生き返るべきでは無かったのか……皆がそう思い始めた時。

 

「……バカモノォォォォォォオオオオオオオオーーーーーーーーッッ!!」

 

 ザガートがいきなり大声で叫びながら若者の(ほほ)をビンタする。バチィィーーーーンッ! ととても良い音が鳴り、顔面の肉がブルルッと震える。

 

「へぶるぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁああああああああっっ!!」

 

 全力で頬をぶったたかれたアドニスが奇声を発しながら豪快に吹っ飛ぶ。その勢いのまま地面をゴロゴロ転がる。

 エレナが慌てて駆け寄り、彼を助け起こす。叩かれた頬は(もち)のように赤く()れ上がり、そこからヒリヒリと痛みが湧く。かなり強い力で叩いたようだ。

 

「ザガート!?」

 

 魔王の予期せぬ行動にレジーナが驚いた顔をする。他の者も一瞬何が起こったのか全く理解できず、ポカンと口を開けた。

 殴られた当のアドニスも(はと)が豆鉄砲を食らったような顔をする。頬を叩かれた痛みも、憎しみの感情も湧かず、予想外の展開にただただ茫然(ぼうぜん)となる。

 

「馬鹿者が……」

 

 呆気(あっけ)に取られた若者を魔王がキッと(にら)む。表情は怒りに満ちており、両肩をプルプル震わせた。興奮した猛牛のように鼻息を荒くしており、相当激しく怒っていたのが一目で分かる。

 

「仲間はお前の事を心配して……お前が生き返った時、心の奥底から喜んだのだぞ! にも関わらず、死んだ方がマシだったとは、何様のつもりだッ! 彼らが今までどんな気持ちでいたか、考えた事があるかッ!!」

 

 物凄い剣幕で説教を始めた。仲間が青年の復活を喜んだ事、青年が彼らの気持ちを理解しなかった事、それらの事実を早口でまくし立てた。

 

「お前が死ねば、お前はラクになれたかもしれない……だがお前の仲間はどうなる!? お前に生きて欲しいと願った仲間は、お前が死ねばこの先ずっと、死ぬまでお前を救えなかった後悔を抱いて生き続けるハメになるのだぞ! お前はそれで良いのかッ!!」

 

 青年が死んだ後に残された仲間がどうなるかを教える。若者が安易に死を望めば、その後彼らが苦悩し続ける事を口にして、青年がどれだけ大事に思われてたかを伝えようとした。

 

「俺自身はお前の事などどうでも良い……だがお前が仲間の思いを踏み(にじ)ろうとする事だけは決して許さんッ! お前が死という手段で逃げようとするなら、俺は百回……いや千回だろうと、お前を生き返らせてやるッ!!」

 

 仲間を傷付けようとした若者の言動を激しく糾弾(きゅうだん)し、逃げの選択肢を強制的に奪う事を声高に宣言した。

 

「……」

 

 魔王の話が終わると、場がシーーンと静まり返る。男の迫力ある喋りに圧倒されて、(みな)が石になったように固まる。

 言葉の内容も凄かったが、それ以上に魔王が説教を()れた事自体が衝撃的だった。今までクールで飄々(ひょうひょう)とした態度を取っていた男が、子供を(しか)る父親のような剣幕で怒鳴った事が、あまりにイメージとかけ離れていた。これまで一緒に旅をした仲間の誰も見た事が無い一面だった。

 

 魔王自身、内心ガラに合わない事をしたと思った。自分のキャラではないと感じた。だがあまりに自分本位な若者の言動を前にして、怒りを抑え切れなかったのだ。もう普段のイメージなどどうでもいいと思った。

 

(……ザガート)

 

 魔王の熱の(こも)った喋りにアドニスは胸を強く打たれるものがあった。これまで抱えていた不安や苦悩が一気に吹き飛ばされた感覚があった。自分は何を今までくよくよしていたんだと、そういう気持ちにすらなった。

 目の前にいるこの男は、自分を必死に立ち直らせようとしている。言動は辛辣(しんらつ)でも、仲間の大切さを()いて、彼らの気持ちに気付かせようとした。本気で体当たりして、全力でぶつかってきた。その不器用で男らしい熱意に感動し、何としても彼の思いに応えねばならないと決意を強くさせた。

 

 アドニスがふと真横を見ると、エレナが彼の方を見ていた。改めて仲間が生き返った事に安堵した、穏やかな笑みになる。

 

「アドニス……私達、まだやり直せるよ。やり直そう……一緒に罪を(つぐな)って、また一から冒険者として」

 

 優しい口調で語りかけた。共に支え合う事を約束して、若者に再起を(うなが)す。

 彼女の言葉に同意するように、背後に立っていたトールとマックスが若者の肩に手を掛ける。

 

「トール……マックス……二人とも、俺を恨んでいないのか。あれだけ酷い仕打ちをしたのに……」

 

 アドニスが後ろを振り返り、仲間に問いかける。彼らに迷惑を掛けた実感が湧き上がり、申し訳なさでいたたまれない気持ちになる。

 

「もう反省したんだろ? だったら恨む事なんて無いさ」

 

 トールが親指を立ててサムズアップしながら、気さくな言葉を掛ける。過去の出来事を水に流すようにニコッと笑う。

 

「アドニス、俺達の仲間。仲間は見捨てない。これからもずっと一緒」

 

 マックスがいかにもパワー系らしい片言(かたこと)の喋りをする。

 

「みんな……ありがとう……本当にありがとう。そして、すまなかった……」

 

 感謝と()びの言葉を口にして、アドニスがウッウッと泣く。罪を許された事に感激したあまり声に出してむせび泣く。

 そんな青年を三人が優しく包み込む。後悔の意識に(さいな)まれた彼を黙って受け止めた。

 

 ザガートも……そして他の者達も、四人の若者を暖かく見守る。強い(きずな)で結ばれた彼らを目の当たりにして、一連の事件が終わったと確信するのだった。

 

(良かったな……エレナ)

 

 ザガートは一人心の中で少女にエールを送っていた。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 黒騎士が町の兵士達を襲った騒動から一週間後――――。

 

 

 ゼタニアの町……その表通りの一角で、四人の男女がゴミ拾いをしていた。道端に落ちていたゴミを手で拾い集め、ビニール袋に入れる。道路に積もった砂(ぼこり)をホウキで()いて、ちりとりで集める。そうして町の清掃を行う。

 

「おう、トール! マックス! エレナ! アドニス! やってるかっ!」

 

 清掃活動していた四人にドーバンが声をかけた。(そば)には例の事件に関わった三人の衛兵と、戦いを見ていた数人の冒険者がいる。屈強な男の集団は四人の若い男女へと駆け寄っていく。

 

「ああドーバンさん……それに皆さん。その(せつ)はどうも、ご迷惑をお掛けしました」

 

 四人のリーダー格と思しき赤毛の青年がペコリと頭を下げる。他の三人も一旦掃除の手を休めて同じように謝る。

 

 その者は言うまでもなく、かつて大魔王の手先に()り下がって魔王を襲った男アドニスだ。彼の仲間も一緒だ。

 

 アドニスはあの後、事件の報告を受けた領主によって罰せられそうになったが、魔王が減刑を強く求めたために極刑は(まぬが)れた。それで一ヶ月間、町の清掃を行う事となった。それを今こうしてやっている。

 

「……すっかり()き物が取れちまったみてぇだな」

 

 しおらしくなった若者の姿を見て、ドーバンが安心したように言う。以前のようなギラギラした態度とは異なる今の様子に、もう再犯の恐れは無いだろうと確信を抱く。

 

「俺……今まで自分しか見えてなくて、もっと自分が(えら)くなりたいとか、もっと人から()められたいとか、そればっかり考えてました。仲間が自分をどう思ってるか、全然考えてなかったんです」

 

 アドニスが申し訳なさそうな顔しながら男の言葉に答える。自分の半生を振り返り、わがままで横暴な生き方しかして来なかったと明かす。

 

「でもあの人が……魔王が教えてくれました。仲間が俺の事を大事に思ってくれた事、その仲間を俺が大事にしなきゃいけない事……それに気付かせくれたんです」

 

 ザガートが目を覚まさせてくれた事、それに対する感謝の言葉を口にする。

 

「仲間の大切さに気付けた時、ああ俺はなんて身勝手なヤツなんだ、今まで散々みんなに迷惑かけたって……知る事が出来ました」

 

 反省の(べん)を述べて苦笑いする。これまでやらかした行いの(あやま)ちを自覚して、恥ずかしさのあまり穴があったら入りたい気持ちになる。

 

「そうか……まだ冒険者を続ける気はあるか?」

 

 衛兵の一人が今後について問いかける。

 

「はい……一ヶ月の謹慎が解けたら、冒険者になって一から出直します。今度は以前のように認められたいからじゃなく、人を苦しみから救って、人から感謝される、そういう立派で優しい勇者を目指します。あの人のように……」

 

 アドニスがこれからの生き方について話す。名誉欲に駆られた過去と決別し、真っ当な勇者になりたいと語る。目指すべき勇者の姿として魔王の名を挙げる。

 

「頑張れよ。今のお前さんなら、きっとなれる」

 

 質問した衛兵が激励の言葉を送る。心を入れ替えた若者の夢が叶うよう、背中を強く押す。

 

「ありがとうございます。ただ一つ、心当たりが……」

 

 アドニスがそう言って暗い表情になる。声のトーンが重くなり、落ち込んだように肩を落とす。

 

「あの人に直接感謝の言葉を掛けられなかった事です。領主との会談が終わった後すぐに街を出てしまったから……」

 

 魔王と言葉を()わせなかった事への未練を(のぞ)かせた。

 

「……その魔王サマから伝言を預かってるぜ」

 

 ドーバンが待ってましたとばかりにニヤリと笑う。魔王から青年へ言伝(ことづて)があった事を教える。今日四人の若者に会いに来たのも、それを伝える(ため)だと思われた。

 

「……(きずな)の大切さに気付けたなら、お前はもっと強くなれる。また会おう……ってな」

 

 口調を真似て、魔王の言葉を一言一句漏らさず伝える。

 

「……はいっ!」

 

 男の言葉を聞いて、アドニスが晴れやかな笑顔になる。魔王に対する感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。尊敬する人に背中を押されて勇気が湧く。

 

 上を見上げると、雲一つない青空が広がっていた。燦々(さんさん)と照り付ける太陽の光が(まぶ)しい。

 青年は魔王が向かっていった方角を眺めて、彼の旅路に思いを()せた。

 

 

 

 ――――ありがとう、異世界の魔王様。本当にありがとう。

 

 

 

 ……伝えたい感謝の気持ちを心の中で何度も口にするのだった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 その頃、ゼタニアの町から遠く離れた平野を歩いていた一行だったが……。

 

「……ムッ!?」

 

 突然頭の中にキュルリーーンッとニュータイプ的な効果音が鳴ったザガートが、慌てて後ろを振り返る。

 

「師匠、どうかしたんスか? いきなり町のあった方角を見たりなんかして」

 

 魔王の唐突な行動になずみが首を(かし)げた。

 

「今、アドニスが俺に感謝したッ! 根拠は無いが、何となくそんな気がしたのだ!!」

 

 魔王が自分の身に起こった出来事を説明する。一週間前に助けた若者が自分に感謝したのを直感したと、強い調子で力説する。何の根拠もないオカルトな直感だが、魔王自身は間違いなくそれがあったと確信したようだ。

 

「いや……だからって、いきなり何だ!!」

 

 魔王の(やぶ)から(ぼう)な発言に、レジーナが思わずツッコミを入れた。たとえ直感が事実だったとしても、それを声に出して仲間に伝える行動に心底(あき)れる。

 

「それにしてもアドニス、のう……」

 

 鬼姫が青年の名を口にして、一週間前の出来事を回想する。当時の魔王の言動を思い起こして口元をニヤつかせた。

 

「魔王よ……あの時のお(ぬし)の行動には本当にビックリしたぞ。よもやあの者を生き返らせるだけに()()らず、ビンタして説教まで()れるのじゃからな。自分を殺そうとした相手によくもそこまで肩入れしたものじゃ。お主も存外にお人好しじゃな……プププッ」

 

 魔王が青年に対して取った行動の意外性を指摘する。彼が周囲から抱かれるイメージよりも優しい人物と感じた事を伝えて、からかうようにクスクスと笑う。相手の弱みを見つけたように上機嫌だ。

 

「……別にヤツの(ため)にそうした訳じゃない」

 

 魔王がぶっきらぼうに言葉を返す。女の方を振り返らないまま、カツカツと早足で歩く。表情はムスッとしており、口数は少ない。図星を突かれた照れがあったのか、わざとらしく怒った顔をする。

 

「ま、そういう事にしといてやろうかの」

 

 魔王の不機嫌そうな態度を鬼姫がサラッと受け流す。彼の意思を尊重し、それ以上深く突っ込まない。ただ口元をニヤつかせたまま黙って後ろを歩く。

 他の少女達も同じようにニコニコ笑う。あえて言葉を発しないまま、男の父親のような不器用さを微笑ましく感じる。

 

 魔王はそんな彼女達に突っかかったりせず、なすがままにさせる。心の何処かでそう思われる事を悪くないと感じる気持ちがあったのか、口元が自然に(ゆる)んだ。

 

 一行は上空に広がる青空のように晴れやかな気持ちになりながら、次なる目的地へと向かうのだった。

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