いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
魔王が状況を打開する
「……母さん」
サトルが不意に小声で
「ごめんよ、母さん……僕がバカだった。いつもいつもわがまま言って、困らせてばかりだった。本当は僕、気付いてたんだ。いつも母さんが僕の事を心配してくれてた事……それなのに
今まで迷惑かけた事を深く謝罪する。母親が自分の身を案じる行動してくれた事、にも関わらず、その気持ちに応えようとしなかった事……それらを申し訳なく感じた心情を
「もう食べ物の好き嫌いしない……しいたけもたまねぎもちゃんと食べる……朝一人で起きられるようになる……学校の宿題ちゃんとやる……ちゃんと歯も磨く……お風呂が沸いたらすぐに入る……夜遅くまで遊んだりしない……だから……だから」
下を向いて両肩をわなわなと震わせると、今にも泣きそうな涙声になりながら、これまでやらかしたわがままに対する反省の
「もうお母さんの事絶対いらないなんて言わないから……僕の前からいなくならないで、戻ってきてよぉっ!!」
最後は顔を上げて悲しそうな表情になると、球体に閉じ込められた母親を見ながら、家に戻ってきて欲しい切実な思いを訴えた。
(クククッ……バカめ。あの女は眠らされているのだぞ。ションベンくさいガキがいくら
少年の必死の思いが
(……ん?)
それでも念の
ルミエラの体が
魔力で眠らされた少年の母親……その彼女が全力で魔力に
「……トル」
やがて
「サトル……サトルゥゥゥウウウウウーーーーーーッ!!」
両目をグワッと見開くと、腹の底から絞り出したような大声で息子の名を叫ぶ。体育座りするのをやめて自力で起き上がろうとすると、彼女を閉じ込めていたガラスの壁にビシビシと亀裂が入り、ガシャーーーン! とあっけなく割れる。
分厚いガラスのような硬さがあったはずの結界は、女が目覚めると内側からハンマーでぶっ叩いたかのように
「サトルーーーー!!」
ルミエラは自力で結界を破るとすぐさま立ち上がり、離れた場所にいる息子に向かって全速力で駆け出す。数日間閉じ込められた事による疲労のようなものは感じられない。
「母さぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーん!!」
サトルが数秒遅れて母親の元へと走り出す。母親の腰に抱き着くと、顔をうずめたまま大声で泣き出す。瞳から大粒の涙をボロボロと
「母さん、ごめんっ! ごめんよぉ! 僕……僕……」
これまでしてきた事を何度も謝る。母親が目を覚ました喜びで胸がいっぱいになり、言葉がうまく出せない。
「サトル……貴方の言葉はちゃんと届いてましたよ。もう母さんは何処にも行ったりなんかしません……」
ルミエラは身を
(クソッ! これは一体どういう事なんだ? こんな事はありえない……絶対あってはならない事だ!! 俺様の掛けた術は高等な魔術……それを親子の愛だの
親子が抱き合う姿を遠巻きに眺めながらガストが
ガストは自身が掛けた術が魔王に破られる事は想定していた。魔王が破ったのなら仕方ないと自分に言い聞かせて、納得してやるぐらいの気持ちはあった。
だがそうではない。悪魔の掛けた渾身の術は魔王の力によってではなく、ルミエラの思いの強さによって破られたのだ。それは彼にとって決して許せるものでは無かった。
しばらく
「貴様らよくも……よくも俺のメンツを
やがて脳の血管がブチ切れんばかりに怒りだす。
もはや一分一秒たりとも相手を生かしておけない気持ちにすらなり、親子のいる方角に向かってゴォーーーッと風を切る音を鳴らしながらすっ飛んでいく。悪魔としてのプライドを踏みにじられた気になり、なりふり構っていられなくなったようだ。
「うっ……うわぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーっ!!」
影の悪魔が物凄い剣幕で自分達に迫ってきた
ガストの指があと数秒で親子に届きかけた時、ザガートがワープしたように一瞬で駆け付けてガストの前に立ちはだかる。
「ふんっ!」
「なっ……げぼばぁぁぁぁぁぁああああああああっっ!!」
直後ガストが
「……親子の仲を邪魔しようとするヤツは俺が許さん」
ザガートが
「日の光を拝めなくなるのは貴様の方だ……ガスト!!」
影の悪魔の抹殺を高らかに宣言する。
「ゲヘナの火に焼かれて、消し
ザガートは間髪入れずガストに手のひらを向けて魔法の言葉を唱える。
男の右手に炎が集まっていって圧縮されて
「なにっ!」
攻撃魔法をいともたやすくかわされた事にザガートが一瞬たじろぐ。大した事ない悪魔だと思っただけにラクに倒せるだろうとタカを
「クククッ……バカめ。俺は鏡のある場所なら、何処だろうと隠れられる」
ザガートを
「はらわたをブチ
ガストの声が攻撃魔法を詠唱すると、無数ある鏡のうち一つが不気味な紫色に輝いて、魔力を圧縮した光線のようなものがザガートに向けて放たれた。
魔王は自身めがけて発射された光線をサッと横に動いてかわす。空気を圧縮した気弾のようなものを手のひらに生成すると、無詠唱のまま鏡に向けて発射する。気弾が直撃すると鏡は音を立てて粉々に砕けたが、悪魔を仕留めた実感は無い。
「
悪魔が早口で叫んで、異なる場所にある三つの鏡からレーザーがピュン、ピュピュンと立て続けに発射される。
魔王はそれをダンスを踊るような動きで華麗にかわす。右手のひらに圧縮した気弾を鏡に向かって連続発射して、光線を撃ってきた鏡を正確に撃ち抜く。三つの鏡が壊されたが、やはり悪魔を倒した実感は湧かない。
それどころか一度割れた鏡も、時間が
「フフフ……ハァーーーッハッハッハァッ! ザガートぉっ! お前には俺の居場所を見つけられまい!! だが俺はこの迷宮内なら、何処だろうと好きな場所からお前を攻撃できる!! じわじわとなぶり殺しにされて、恐怖と絶望を味わいながら死んでいくがいい!!」
自身の勝利を確信したガストが
「……ほう」
ガストの言葉を聞いてザガートがニタァッと口元を
敵に追い詰められた焦りのようなものは感じられない。それどころか良からぬ
魔王は目を閉じて
(……見つけたぞ!!)
やがて目をグワッと見開くと、すぐさま無数ある鏡のうち一つの前まで猛ダッシュしていって、鏡に向かって貫手のようなものを放つ。魔王の手が触れても鏡は粉々に割れたりせず、手は泥の沼に突っ込んだようにズブズブと鏡の中へと入っていく。
鏡の中で何かが指に触れた感触が得られると、魔王はそれをワシ
「ゲェーーーーッ!!」
ザガートに頭を強く
ガストは手足をジタバタさせて暴れようとしたが、それでどうにかなるはずもなく、指で押さえ付けられた昆虫のようにもがくしかない。もはやこの悪魔が生きるか死ぬかの選択は、一人の男の判断に
「鏡の中に逃げ込めば俺の目を
ザガートが自身の手に掴まれたまま暴れようとするガストを心底
「さて、どうする? ガストよ。いくら鏡の中に逃げ込めるお前でも、こうして掴んでしまえば身動きが取れなくなる訳だが……」
邪悪な笑みを浮かべながら
魔王の指で掴まれたガストの頭がブスブスと
「ま、待てザガートっ! 待ってくれ! ここは落ち着いて、世界平和について話し合おうじゃないか!!」
自身の勝ち目の無さを悟ってガストが慌てて命
「お前は宝玉を集めて旅をしているんだろう? だが俺は宝玉なんか持っちゃいない! 俺を殺した所で得られるものなんか何も無いんだ!! ザガートっ! おおおお前は、理由も無く魔族を殺そうとするのか!?」
魔王の旅の目的を指摘して、自分を殺す事には何の意味も無いと
「……理由ならある」
ザガートが感情を押し殺した小声でボソッと
「お前のやった事が気に入らない……俺が貴様を殺す理由など、それだけで十分だ!!」
すぐさまカッと目を見開いて死刑の宣告を
「ギャァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」
「ク……クソ……コンナ
無念そうに言葉を吐くとガクッと事切れて息絶えた。彼を焼いた炎が鎮火すると体がサァーーーッと砂のように崩れ落ちていって、物言わぬ灰の山となる。
魔王に全身を焼かれてゴミのように息絶える……それが人の心を食らいし者の末路となった。
(フン……あれだけの事をやらかしておいて、生き延びられると思ったのか? だとしたら思い違いも
ガストの死に
「ガスト……あの世で貴様自身の絶望でも食らっているがいい!!」