いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第64話 人助けの報酬

 魔王が敵を仕留めた()(いん)(ひた)っていた時……。

 

「……ムッ!?」

 

 突如何らかの異変に気付いたように迷宮全体を見回す。

 直後鏡の迷宮がゴゴゴッと音を立てて激しく揺れた。

 

「こ、これは何が起ころうとしているんですか!?」

 

 離れた場所で両者の戦いを見ていたルミエラが慌てて魔王の元へと駆け寄る。何が起ころうとしているのか全く事態が飲み込めず、男に詳細を聞かずにいられない。

 サトルも母親の後に付いていって魔王の元へと集まる。彼ならどうにかしてくれるだろうと期待と不安が入り()じった目で相手をじっと見る。

 

「ガストが死んだから鏡の迷宮が崩壊しようとしているッ! 二人とも俺の手に(つか)まれ! すぐにここから脱出する!!」

 

 ザガートが親子にテキパキと指示を出す。ガストの生み出した空間が消滅しようとしている事実を教えて、一緒に脱出するために自分の手に掴まるよう命じる。

 

「わ、分かりましたっ!」

 

 ルミエラが魔王の指示を承諾して、親子が男の左と右の手をそれぞれ掴む。途中で離れる事が無いようぎゅっと強く握る。

 ザガートは親子が自分の手を強く握った事を確認すると、無数ある鏡のうち一つを目指してダダダッと走っていく。鏡の前まで来てピタッと足を止めると、精神統一を行うように深呼吸する。

 

「では行くぞッ!」

 

 意思確認するように大声で叫ぶと、親子と手を繋ぎ合ったまま鏡に向かってピョーーンとジャンプする。三人の体が(まばゆ)い光に包まれて鏡の中へと吸い込まれていった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 一方その頃、鏡の外の空間である台所では四人の女が魔王の帰りを待ち()びていた。

 男が鏡の迷宮に飛び込んでから、かれこれ一時間が経過しようとしている。

 

「あやつめ、そろそろ戻らんかのう」

 

 鬼姫が退屈を持て(あま)した発言をした時……。

 

 突如鏡が眩い光を放ち、そこからゴルフボールくらいの大きさをした三つの光球が飛び出す。光球は台所の床に降り立って人間と同じくらいの大きさまで(ふく)れ上がると、光がパッと消えて中から人が出てくる。それは無論の事、鏡の迷宮から脱出したザガートと二人の親子だ。

 三人が脱出を終えた直後、迷宮の入口であった鏡がバリーーーンッ! と音を立てて粉々に砕けた。ガストが生み出した異空間へのゲートが閉じたかのように……。

 

「ザガート様、無事だったんですねっ!」

 

 魔王の帰還をルシルが真っ先に大喜びする。

 

「その様子だと、もう全部終わらせてきたようだな」

 

 ザガートが親子を連れて帰還した姿を見て、レジーナが事情を察する。

 

「お二方(ふたかた)、外で村のみんなが待ってるッスよ」

 

 なずみがサトルとルミエラに声をかける。村人達が二人の帰還を心待ちにしていた事を伝えて、彼らに会いに行くよう(うなが)す。

 二人は少女の言葉にコクンと(うなず)くと、家の玄関へと足早に歩き出す。

 

  ◇    ◇    ◇

 

「おお、見ろっ! ルミエラさんだっ! ルミエラさんが家から出てきたぞ!!」

 

 二人が家の外に出た瞬間、彼らの帰りを待ち()びた村人の一人が大きな声で叫ぶ。彼の後に続いて他の村人が「ワァーーーッ」と歓声を上げて、雪崩(なだれ)込むように親子の元へと集まる。

 

「おおルミエラっ! よくぞ……よくぞ無事に戻って来られた! (みな)貴方の事を心配しておったのですぞ!!」

 

 群衆の先頭にいた村長バロノーアが真っ先に声をかける。表情に満面の笑みを浮かべて、声の調子はとても明るい。ルミエラの生還を心の底から喜んだであろう心情が(うかが)える。

 他の村人達も反応は皆同じだ。誰もが少年の母親が無事に生きて戻った事に歓喜する。

 

「皆様にもご心配をお掛けしたようで……恐ろしい魔物に捕まっていたのですが、あの方が助けて下さったのです」

 

 ルミエラが申し訳なさそうに深々と頭を下げる。村人が自分の身を案じた事に恐縮すると、親子の後に家から出てきた魔王を指差しながら、彼こそが自分達を救った英雄なのだと(みな)に教える。

 

「アンタはルミエラさんを……いや俺達みんなの心を救ったヒーローだッ! このご恩は一生忘れない!!」

 

 村人の一人である大柄な男性が、魔王の成し遂げた功績を手放しで称賛する。

 

「俺は今回、大した事はしてない……彼らは自分達の力だけで親子の(きずな)を取り戻した。俺は中級のザコ悪魔を片付けて、彼らが無事に戻れる手伝いをしただけだ」

 

 ザガートが男性の言葉にあえて謙遜(けんそん)した態度を取る。ルミエラをガラス球から救い出したのはサトルの功績であった事、魔王にとってガストは取るに()らない存在だった事……それらを根拠として、称賛を受けるに()る活躍をしなかったと述べる。

 

「ご謙遜などなさらずとも、貴方様が村を救ったヒーローだという事は皆が認める所でございます……我々はあらゆる手を尽くして、このご恩に(むく)いたい所存です」

 

 バロノーアがニコニコ温和な笑顔を浮かべながら語りかける。魔王の活躍のおかげでルミエラが救われた事は揺るがない事実であり、その事に対する恩返しがしたいのだと言う。

 

「ああ……ですがここは何も無い(へん)()な村。伝説の宝と呼べる物は一切ありませぬ。一体何を差し上げれば、このご恩に報いる事が出来るのでしょうか……」

 

 村長が残念そうに下を向いて溜息(ためいき)を漏らす。それまでのニコニコ笑顔は一瞬で吹き飛び、救世主に恩を返せない無力感に(さいな)まれた。

 

「フム……ならば一晩の宿代をタダにしてもらいたい。それで手を打とう」

 

 ザガートがしばし思い悩んだ後、一つの提案をする。村にある宿屋に一晩無料で泊まらせてもらう事、それを(もっ)て今回の人助けの報酬にしたいと伝える。

 

「へ? 宿代をタダに……そんなものでよろしいので?」

 

 魔王の提案に村長がポカーンと口を開けた。一瞬驚いたあまり頭が真っ白になってしまい、間抜けな表情しながらギャグ漫画のように鼻水を()らす。

 

「ああ、構わない。ザコ悪魔を倒した報酬としては、それで十分だ」

 

 村長の驚きなど気にも()めず、魔王が言葉を続ける。彼にとって今回の人助けは本当に大した事をしておらず、その(ため)一晩の宿代程度で十分なのだという。

 

「で、ではそうしましょう!!」

 

 村長は一瞬フリーズしたように固まった後、ハッと正気に立ち返る。村人にテキパキと指示を出して、魔王一行が泊まる宿を手配する作業にすぐさま取りかかる。

 

 

 ……内心ではその程度の報酬で良いのだろうかという苦悩があったが、相手がそれで良いと言うので納得する事にした。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 ガストを倒した日の晩、村長の屋敷で盛大な宴会が(もよお)された。

 村の住人全員が屋敷へと集まり、極上の料理が次々に運ばれる。皆が酒を飲み、肉をかっ食らって、飲めや歌えやのドンチャン騒ぎに(きょう)じる。ある者は歌を(うた)い、ある者はダンスを踊り、またある者は魔王一行と雑談に花を咲かせる。誰もがルミエラが生還した事を心から喜ぶ。

 

 (うたげ)が終わると魔王一行は宿屋へと戻り、サトルとルミエラは自宅に帰る。他の者達も解散して、それぞれ自分の家へと帰っていく。

 サトルは母親を取り戻せた喜びからうんと甘えて、ルミエラもそれを受け入れる。事件前からは想像も付かなかったほど親子の愛が深まる。

 

 その晩、『あの日食べ(そこ)ねたカレー』をルミエラが作り直すと、サトルは()(れい)に残さず食べるのだった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 ――――翌日。

 

 まだ太陽が昇り始めたばかりで、外の景色が明るくなっていない時間帯。

 村をぐるりと覆う(さく)……その唯一の出口に魔王一行が立つ。彼らの旅立ちを見送ろうと、百人を超える村人がいる。その先頭には村長バロノーア、そしてサトルとルミエラの姿があった。

 

「貴方がたには本当にお世話になりました……このご恩は一生忘れません」

 

 一行の先頭に立つ魔王に、ルミエラが深々と頭を下げる。もし彼が助けなければ息子と再会を果たせなかった思いがあり、その事に感謝してもしきれない。

 

「……俺はただ自分のやりたいようにやっただけだ」

 

 ザガートが恩義を感じる必要は無い(むね)を告げる。あくまで自分の意思でやった事を強調して、彼女の心理的負担を(やわ)らげようとした。

 

「お兄ちゃん、母さんを助けてくれてありがとう!」

 

 サトルが元気そうな笑顔で感謝の気持ちを伝える。声はハキハキして、表情は喜びに満ちている。母親を取り戻せた事がとても嬉しそうだ。

 

「サトル……もうお母さんを困らせないで、親子仲良く暮らすんだぞ。お兄ちゃんと約束だ」

 

 ザガートが穏やかな笑みを浮かべながら少年の頭を優しく()でる。もう二度と同じ(あやま)ちを繰り返さず、いつまでも親子の絆を持ち続けるよう忠告する。

 

「うんっ!」

 

 サトルがとても大きな返事をして(うなず)く。魔王と指切りげんまんをして、約束を破らないと強く(ちか)う。

 

 別れの挨拶(あいさつ)を済ませると、一行は次なる目的地を目指して歩き出す。村を救った達成感に胸を(おど)らせたようにズカズカと大手を振って歩いていく。

 村人達は村から去ってゆく彼らの背中を名残惜しそうに見送る。ある者は大きな声援を送り、ある者は笑顔で手を振る。

 魔王一行は途中何度も後ろを振り返っては、そんな住人達の姿を目に焼き付ける。彼らと過ごした思い出の時間を決して忘れる事は無いだろうと心に誓いながら。

 

「お兄ちゃん、元気でねーーー! いつか絶対村に遊びにおいでよ! 約束だよっ! 待ってるからーーー!!」

 

 サトルが村中に響かんばかりの大きな声で叫ぶ。救世主に再び村を訪れてもらいたい気持ちを力いっぱいの言葉で表して、何度も手を振る。

 魔王は後ろを振り返りサトルの方を見ると、笑顔で手を振り返す。再び前を向いて、目的地を目指して歩き出す。

 

「魔王の姿をした勇者……(ウワサ)通りのお方じゃった」

 

 村長は去りゆく男の姿を見届けて、満足そうに(うなず)くのだった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 村を()ってから一時間が経過……もうすっかり村の姿が見えなくなった頃。

 

 一行は次なる宝玉の()()を目指してただひたすらに歩く。一言も言葉を()わさず、黙々と歩き続ける。

 その状態が(さら)に数分ほど続いた後……。

 

「あーーあ……それにしても、本当に何も得られはせぬ戦いじゃったのう。せめて袋いっぱいに詰めた金貨だけでも(もろ)うておくべきでは無かったか」

 

 鬼姫が唐突に歩きながら不満を漏らす。魔物を倒しても宝玉を得られず、かと言って素晴らしい褒美(ほうび)をもらえた訳でも無かった事に、何やら(そん)をした気持ちになる。

 村人からの報酬の提示を辞退して、一晩の宿代で済ませた魔王の無欲さにも不満があるようだ。

 

「そうむくれるな……今度ブレードベアに遭遇したら、その時は新鮮な熊の肉をご()(そう)してやる」

 

 報酬への未練タラタラな女の態度に耐え切れず、ザガートが口を開く。少しでも彼女の不満を(やわ)らげようと、その場(しの)ぎの約束をする。

 

「やったのじゃーーー!!」

 

 新鮮な熊の肉を食べられると聞いて鬼姫が大喜びする。それまであった不満は一瞬で吹き飛び、満面の笑みを浮かべて鼻歌を(うた)いながら嬉しそうにスキップする。完全にねだったオモチャを買ってもらえた子供の取る態度だ。

 

(もっと)も……もし今後ヤツに出会わなかったとしても、その時は何か別の美味い料理をご馳走すれば、鬼姫も納得するだろう)

 

 子供のように大はしゃぎする女を眺めながら、魔王は約束が果たされない可能性を胸に抱く。もしブレードベアが天然の野生動物でなく大魔王が生み出した魔法生物なのだとしたら、あの単一の個体しか存在しないという事もあり()たからだ。

 

 

 ……魔王のそんな心情など(つゆ)とも知らず、鬼姫はウキウキ気分でスキップしながら次の目的地へと向かうのだった。

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