いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
魔王が敵を仕留めた
「……ムッ!?」
突如何らかの異変に気付いたように迷宮全体を見回す。
直後鏡の迷宮がゴゴゴッと音を立てて激しく揺れた。
「こ、これは何が起ころうとしているんですか!?」
離れた場所で両者の戦いを見ていたルミエラが慌てて魔王の元へと駆け寄る。何が起ころうとしているのか全く事態が飲み込めず、男に詳細を聞かずにいられない。
サトルも母親の後に付いていって魔王の元へと集まる。彼ならどうにかしてくれるだろうと期待と不安が入り
「ガストが死んだから鏡の迷宮が崩壊しようとしているッ! 二人とも俺の手に
ザガートが親子にテキパキと指示を出す。ガストの生み出した空間が消滅しようとしている事実を教えて、一緒に脱出するために自分の手に掴まるよう命じる。
「わ、分かりましたっ!」
ルミエラが魔王の指示を承諾して、親子が男の左と右の手をそれぞれ掴む。途中で離れる事が無いようぎゅっと強く握る。
ザガートは親子が自分の手を強く握った事を確認すると、無数ある鏡のうち一つを目指してダダダッと走っていく。鏡の前まで来てピタッと足を止めると、精神統一を行うように深呼吸する。
「では行くぞッ!」
意思確認するように大声で叫ぶと、親子と手を繋ぎ合ったまま鏡に向かってピョーーンとジャンプする。三人の体が
◇ ◇ ◇
一方その頃、鏡の外の空間である台所では四人の女が魔王の帰りを待ち
男が鏡の迷宮に飛び込んでから、かれこれ一時間が経過しようとしている。
「あやつめ、そろそろ戻らんかのう」
鬼姫が退屈を持て
突如鏡が眩い光を放ち、そこからゴルフボールくらいの大きさをした三つの光球が飛び出す。光球は台所の床に降り立って人間と同じくらいの大きさまで
三人が脱出を終えた直後、迷宮の入口であった鏡がバリーーーンッ! と音を立てて粉々に砕けた。ガストが生み出した異空間へのゲートが閉じたかのように……。
「ザガート様、無事だったんですねっ!」
魔王の帰還をルシルが真っ先に大喜びする。
「その様子だと、もう全部終わらせてきたようだな」
ザガートが親子を連れて帰還した姿を見て、レジーナが事情を察する。
「お
なずみがサトルとルミエラに声をかける。村人達が二人の帰還を心待ちにしていた事を伝えて、彼らに会いに行くよう
二人は少女の言葉にコクンと
◇ ◇ ◇
「おお、見ろっ! ルミエラさんだっ! ルミエラさんが家から出てきたぞ!!」
二人が家の外に出た瞬間、彼らの帰りを待ち
「おおルミエラっ! よくぞ……よくぞ無事に戻って来られた!
群衆の先頭にいた村長バロノーアが真っ先に声をかける。表情に満面の笑みを浮かべて、声の調子はとても明るい。ルミエラの生還を心の底から喜んだであろう心情が
他の村人達も反応は皆同じだ。誰もが少年の母親が無事に生きて戻った事に歓喜する。
「皆様にもご心配をお掛けしたようで……恐ろしい魔物に捕まっていたのですが、あの方が助けて下さったのです」
ルミエラが申し訳なさそうに深々と頭を下げる。村人が自分の身を案じた事に恐縮すると、親子の後に家から出てきた魔王を指差しながら、彼こそが自分達を救った英雄なのだと
「アンタはルミエラさんを……いや俺達みんなの心を救ったヒーローだッ! このご恩は一生忘れない!!」
村人の一人である大柄な男性が、魔王の成し遂げた功績を手放しで称賛する。
「俺は今回、大した事はしてない……彼らは自分達の力だけで親子の
ザガートが男性の言葉にあえて
「ご謙遜などなさらずとも、貴方様が村を救ったヒーローだという事は皆が認める所でございます……我々はあらゆる手を尽くして、このご恩に
バロノーアがニコニコ温和な笑顔を浮かべながら語りかける。魔王の活躍のおかげでルミエラが救われた事は揺るがない事実であり、その事に対する恩返しがしたいのだと言う。
「ああ……ですがここは何も無い
村長が残念そうに下を向いて
「フム……ならば一晩の宿代をタダにしてもらいたい。それで手を打とう」
ザガートがしばし思い悩んだ後、一つの提案をする。村にある宿屋に一晩無料で泊まらせてもらう事、それを
「へ? 宿代をタダに……そんなものでよろしいので?」
魔王の提案に村長がポカーンと口を開けた。一瞬驚いたあまり頭が真っ白になってしまい、間抜けな表情しながらギャグ漫画のように鼻水を
「ああ、構わない。ザコ悪魔を倒した報酬としては、それで十分だ」
村長の驚きなど気にも
「で、ではそうしましょう!!」
村長は一瞬フリーズしたように固まった後、ハッと正気に立ち返る。村人にテキパキと指示を出して、魔王一行が泊まる宿を手配する作業にすぐさま取りかかる。
……内心ではその程度の報酬で良いのだろうかという苦悩があったが、相手がそれで良いと言うので納得する事にした。
◇ ◇ ◇
ガストを倒した日の晩、村長の屋敷で盛大な宴会が
村の住人全員が屋敷へと集まり、極上の料理が次々に運ばれる。皆が酒を飲み、肉をかっ食らって、飲めや歌えやのドンチャン騒ぎに
サトルは母親を取り戻せた喜びからうんと甘えて、ルミエラもそれを受け入れる。事件前からは想像も付かなかったほど親子の愛が深まる。
その晩、『あの日食べ
◇ ◇ ◇
――――翌日。
まだ太陽が昇り始めたばかりで、外の景色が明るくなっていない時間帯。
村をぐるりと覆う
「貴方がたには本当にお世話になりました……このご恩は一生忘れません」
一行の先頭に立つ魔王に、ルミエラが深々と頭を下げる。もし彼が助けなければ息子と再会を果たせなかった思いがあり、その事に感謝してもしきれない。
「……俺はただ自分のやりたいようにやっただけだ」
ザガートが恩義を感じる必要は無い
「お兄ちゃん、母さんを助けてくれてありがとう!」
サトルが元気そうな笑顔で感謝の気持ちを伝える。声はハキハキして、表情は喜びに満ちている。母親を取り戻せた事がとても嬉しそうだ。
「サトル……もうお母さんを困らせないで、親子仲良く暮らすんだぞ。お兄ちゃんと約束だ」
ザガートが穏やかな笑みを浮かべながら少年の頭を優しく
「うんっ!」
サトルがとても大きな返事をして
別れの
村人達は村から去ってゆく彼らの背中を名残惜しそうに見送る。ある者は大きな声援を送り、ある者は笑顔で手を振る。
魔王一行は途中何度も後ろを振り返っては、そんな住人達の姿を目に焼き付ける。彼らと過ごした思い出の時間を決して忘れる事は無いだろうと心に誓いながら。
「お兄ちゃん、元気でねーーー! いつか絶対村に遊びにおいでよ! 約束だよっ! 待ってるからーーー!!」
サトルが村中に響かんばかりの大きな声で叫ぶ。救世主に再び村を訪れてもらいたい気持ちを力いっぱいの言葉で表して、何度も手を振る。
魔王は後ろを振り返りサトルの方を見ると、笑顔で手を振り返す。再び前を向いて、目的地を目指して歩き出す。
「魔王の姿をした勇者……
村長は去りゆく男の姿を見届けて、満足そうに
◇ ◇ ◇
村を
一行は次なる宝玉の
その状態が
「あーーあ……それにしても、本当に何も得られはせぬ戦いじゃったのう。せめて袋いっぱいに詰めた金貨だけでも
鬼姫が唐突に歩きながら不満を漏らす。魔物を倒しても宝玉を得られず、かと言って素晴らしい
村人からの報酬の提示を辞退して、一晩の宿代で済ませた魔王の無欲さにも不満があるようだ。
「そうむくれるな……今度ブレードベアに遭遇したら、その時は新鮮な熊の肉をご
報酬への未練タラタラな女の態度に耐え切れず、ザガートが口を開く。少しでも彼女の不満を
「やったのじゃーーー!!」
新鮮な熊の肉を食べられると聞いて鬼姫が大喜びする。それまであった不満は一瞬で吹き飛び、満面の笑みを浮かべて鼻歌を
(
子供のように大はしゃぎする女を眺めながら、魔王は約束が果たされない可能性を胸に抱く。もしブレードベアが天然の野生動物でなく大魔王が生み出した魔法生物なのだとしたら、あの単一の個体しか存在しないという事もあり
……魔王のそんな心情など