いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第66話 魔女の黒い霧

 魔女の封印を解いたカナミは生ける(しかばね)となり、二十年変わらぬ姿のまま廃墟となった村に(とど)まる。

 何をするでもなくただぼーっと空を眺めていた彼女の前に、マイという同い年くらいの少女が現れる。マイは自分の住む村に同年代の友達がおらず、一人で遊んでいた。その時廃墟に住む少女の(ウワサ)を聞いて、会いに来たのだと言う。

 

 友達になって欲しいというマイの言葉にカナミは最初戸惑ったものの、最終的には彼女の好意を受け入れた。

 二人は手を強く握り合い、奇妙な友情で結ばれる事となる。

 

 マイは誰にも見つからないようこっそり廃墟へと向かい、一人でカナミと会う。そうして二人で遊びを始める。

 草むらの花を()んで花輪を作ったり、山盛りになった土に棒を立てて『山崩し』をしたり、トランプの神経衰弱をしたり、オセロをしたりする。地面に棒切れで絵を描いたり、泥をこねて人形を作ったりもする。これまで一人でしかやれなかった遊びが二人で出来るようになり、マイは大いに気持ちが満たされた。

 カナミも二十年()しに出来た友達との交流で、それまでずっと孤独だった心を(いや)される感覚があった。

 

 マイは最初に会った日の翌日から弁当とお菓子を持っていくようになり、カナミはそれをおいしそうに食べる。ゾンビではあったが味覚はちゃんとあり、消化も排泄も行われる。体温がなく年を取らない事以外、ほとんど生きた人間と一緒だった。

 

 日が()れるとマイは別れの挨拶(あいさつ)をして村を出る。必ず翌日も会う約束をする。

 カナミも元気に手を振って彼女を見送る。明日また会える事を楽しみにして胸をウキウキさせた。

 二人は幸せだった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

「行って来まぁーーーーすっ!」

 

 その日もマイは元気に叫びながら家を出る。お弁当と遊び道具が入った(かばん)を手にして、村の外へと走り出す。両親は娘が出ていく姿を黙って見送る。

 

「ねえ貴方……気にならない? あの子ったら、何処に遊びに行くのか全然教えてくれないのよ。村の子に聞いても、誰もあの子と遊んでないって言うし……あの子、一体誰と遊んでるのかしら」

 

 娘がいなくなった後、母親が不穏な表情になる。娘がどんな相手と遊んでいるのか心配になり、気が気でない。変な男の人だったらどうしようとか、危険な場所へ行っているかもしれないとか、悪い想像ばかり膨らんでいく。娘の事が心配で()ても立ってもいられない。

 

「そう不安がる事も無いんじゃないか? あの年頃の子なら、親に隠しておきたい事の一つや二つあるだろう。それにせっかく友達が出来たんだ……その相手にどうこう注文を付けるのは親のわがままじゃないか」

 

 父親が呑気(のんき)に新聞を広げながら葉巻を吸う。娘の交友関係に対して何の心配もしていない。彼女の好きにやらせれば良いと言いたげな態度を取る。娘のぼっち問題という悩みが解決して、それで一件落着としたいようだ。

 

「そうかもしれないけど……でもやっぱり気になるわ」

 

 妻は夫の言葉に同意しながらも釈然としない。娘の好きにやらせるべきという考えを頭では正しいと分かっても、胸の内に湧き上がったモヤモヤは消えない。この女の(かん)と呼ぶべき違和感を払拭する(ため)には、何としても真相を確かめる必要があると考える。

 彼女は明日、娘の後を()ける事に決めた。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 翌日、何処かへ向かうマイの後を母親がこっそり尾いていく。バレないよう足音を立てず、物陰から物陰へササッと移動する。娘が振り返ろうとしたら木の後ろに隠れてやり過ごす。母親の隠密スキルは忍者のようであり、マイは尾行されてる事に気付かない。母親に尾けられてるとも知らず、廃墟に足を運ぶ。

 

(ここは……ッ!!)

 

 娘が足を踏み入れた廃墟を見て、母親は愕然(がくぜん)とする。

 彼女が驚くのも無理はない。何しろそこは二十年前に謎の爆発があって住人が一人もいなくなった村なのだ。家屋はボロボロに()ちており、人が住んでいるようには見えない。村のあちこちにある枯れ木の枝にカラスが()まっており、不気味さを引き立てる。

 お化け屋敷か、せいぜい肝試しに使うのが関の山で、とても子供が遊びに来る場所ではない。娘がこんな場所に何をしに来たのか、考えただけで不安が(つの)りだす。

 

 母親が(なお)も娘の姿を目で追うと、マイが一人の少女と会って楽しそうに話していた。

 

(あああっ……あっ……)

 

 娘の遊び相手になっている少女の姿を見て、母親は背筋が凍る思いがした。

 廃墟の村に謎の少女がいる事は村中の(ウワサ)になっており、彼女の耳にも届いていた。様々な憶測が飛び交ったものの、大方()(びと)であろうという見解で一致していた。その屍人である少女が娘と遊んでいたのだ。

 生きた人間の(ぬく)もりを感じさせない青白い肌は、一目見ただけでゾンビだと分からせるに十分だった。

 

 母親は大声で叫びたい衝動を必死に(こら)えて村を出る。そのまま自分の住む村を目指して一目散に駆け出す。

 

 妻が家に帰ると、夫は七輪でサンマを焼いていた。

 

「貴方、サンマなんて焼いてる場合じゃないわッ! マイが……マイが大変なのよ!!」

 

 妻が大声で叫びながら慌てて部屋に駆け込む。これまで見てきた事を早口で説明する。

 

「何、それは大変だ! 一刻も早く何とかしなければッ!!」

 

 妻の話を聞いて夫が血相を変える。娘が屍人と遊んでいるとあっては、さしもの彼も呑気(のんき)ではいられない。

 

「でも何とかするって言っても、どうすれば……」

 

 妻が困惑の言葉を口にしてオロオロする。この状況をどうにかしなければならないと思いながらも、方法が見つからない。

 娘にゾンビと会うのをやめるよう言っても、大人しく言う事を聞くとは思えない。最悪機嫌を損ねられたり、家出される可能性がある。かと言って部屋から出ないよう監禁する訳にも行かない。

 危険性を()くにしても、両親はゾンビ少女の素性を全く知らないのだ。曖昧(あいまい)な説得の仕方では娘を納得させられない。

 

「村の歴史に詳しい老賢者ゾダック様がいる……彼に相談してみよう! 何か分かるかもしれない」

 

 夫が一つの提案をする。妻はその意見に従う事にした。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 村の一番奥にある古ぼけた小屋……老賢者が住むと言われる家のドアを夫が手で叩いてノックする。しばらくするとドアが開いて中から一人の老人が出てくる。

 その老人は頭頂部が禿()げ上がっており、白い(ひげ)を生やす。ガリガリに()せており、(ゆう)に百歳は超えているようだ。緑色のローブを羽織り、木の杖をついて歩く。ただ肌の血色は良く、動作はシャキッとしていて健康そのものだ。

 

「ホッホッホッ……ワシに何か用かね?」

 

 ゾダックと思しき老人がにこやかに笑う。初対面の夫婦に対して特に警戒せず優しく接する。人当たりの良い態度は好々爺という印象を与える。

 

「実は……」

 

 妻が暗い顔をしながら、これまであった出来事を話す。

 

「ムムムッ……それはイカン! 何としても娘を廃墟に行かせるのをやめさせなさい!!」

 

 妻の話を聞き終えて、ゾダックの表情が(けわ)しくなる。目をグワッと開いて、眉間(みけん)(しわ)を寄せた阿修羅のような顔になる。それまでニコニコしていた爺が一転して鬼の形相になった事は、それだけでただならぬ事態である事を分からせた。

 

「あの村について何か知ってるんですか?」

 

 夫が廃墟となった村の事を聞く。娘を説得するためにも詳しい事情を知ろうとする。

 

「フム……」

 

 ゾダックが(あご)に手を当てて気難しい表情になる。どう説明すべきか思い悩む。

 頭の中で情報を整理すると、やがて思い立ったように口を開く。

 

「バルティナ村はな……かつて恐ろしい魔女に支配されとったんじゃよ。随分(ずいぶん)と昔の話になるがの……その魔女は子供を誘拐して食べる悪女だったと聞く。魔王軍の幹部だという(ウワサ)もあったそうじゃ。散々悪事を働いた(すえ)に、異世界から来た勇者によって封印された……そう言い伝えにはある」

 

 (となり)の村に邪悪な魔女がいた事、その魔女が数々の悪事を働いた事、最後は勇者に封印された事……それらの事実を教える。

 

「じゃがバルティナ村は二十年前に謎の爆発が起きて滅びてしまった……あくまで推測じゃが、村が滅びたのは魔女の封印が解かれたからじゃとワシは考えておる。そのような村に少女がいたとすれば、魔女の手先か、魔女本人かもしれない。もしこのままお宅の娘さんを通わせ続けたら、娘さんは魔女と契約を交わされて、屍人にされてしまうかもしれんのじゃ」

 

 魔女の封印が解かれたであろう事、廃墟の少女が魔女と関わりがある事、それらを推測だと前置きしながらも語る。マイが魔女の手によって屍人にされる可能性を伝えた。

 

「何としても魔女の危険性を教えて、娘さんを廃墟に行かせないようにするんじゃ! それが娘さんを守る最善の道となろう!!」

 

 最後はマイを廃墟に向かわせないよう強い調子で警告して話を終わらせた。

 

 ゾダックの話はマイの身に危険が迫っている事を分からせる内容だ。娘が屍人にされるかもしれないと言われて、夫婦は背筋が凍る思いがした。何としても娘に事態の深刻さを伝えねばなるまいと、そう決意を新たにするのだった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 ……両親がゾダックと会っていた頃、当のマイは廃墟でカナミと遊んでいた。

 いつものように二人で楽しく遊んだ後、弁当とお菓子を食べて楽しく雑談する。最後は村の外れにある(おか)の草むらに寝そべってひなたぼっこする。

 

 そのまましばらくぼーっと空を眺めていた二人だが、やがてマイが上半身を起こす。

 

「ねえカナミちゃん……私達、ずっと友達でいられるよね?」

 

 カナミの方を振り返りながら念を押すように問いかける。このまま今の関係が続けば良いと考えて、相手にもそう思っていて欲しくて同意を求める。

 

「そうしたいのは山々だけど……たぶんできないよ」

 

 カナミも体を起き上がらせて、(ひざ)を抱えて体育座りしながら質問に答える。マイの好意が嬉しくて口元が(ゆる)んだものの、気落ちしたように下を向いており、瞳は悲しげだ。何か悩みを抱えたように思い詰めた顔をする。

 

「どうして?」

 

 マイがキョトンとした顔しながら首を(かし)げる。

 

「私は()(びと)だから年を取らないけど、マイちゃんは生きた人間だから年を取る。十年か二十年()ったら大人になるし、もっと時間が経ったらおばあちゃんになる……いつかは私より先に死んじゃう……だから」

 

 カナミがいつまでも一緒にいられない理由を話す。死んだ人間と生きた人間、異なる種族の間にある寿命の違いという、越えられない壁がある事実を教える。

 

「カナミちゃん……」

 

 マイが悲しげな顔をする。寿命の問題を告げられて、そんなの嫌だという心境になる。何としてもずっと一緒にいたいと強く願う。その(ため)の方法を模索する。

 どうすれば年を取らないままでいられるか、あれこれ考えたが……。

 

「……だったら私も屍人になるっ! そうすればこの先十年経っても、百年経っても、ずっとカナミちゃんと友達でいられるっ!」

 

 晴れやかな笑顔になると、頭の中に浮かんだ考えを伝える。自分がゾンビになれば永久に今の関係を続けられると話す。

 

「カナミちゃん、私達これからもずぅーーーーっと一緒だよっ!」

 

 大きな声で叫ぶと、感情の(おもむ)くままにカナミを抱き締めた。そのままぎゅぅっと腕に力を込めて、いつまでも離さない。ずっと一緒にいたい思いを反映させたように、体をくっつけたままでいる。

 

(マイ……)

 

 無邪気な少女の言葉にカナミは胸が詰まる思いがした。相手まで自分と同じ屍人にしたくない考えはあったが、それでもマイが一緒にいたいと言ってくれた事がとても嬉しかった。本当にずっと今のままでいられるなら、それも悪くないとさえ思えた。

 

 カナミが少女を優しく抱き締め返そうとした時……。

 

「……アンタモ、ソノ子ト同ジニナリタイノカイ?」

 

 突如辺り一帯に不気味な声が響き渡る。しゃがれた老婆の声でエコーが掛かっている。

 それまで晴れていた空が(またた)く間に黒い雲に覆われて日の光が差さなくなる。雷が落ちようとするかのように雲がゴロゴロと鳴る。何かの危険を察知したのか、枯れ木に()まっていたカラスがギャーギャー鳴いて、一斉に飛び立って村から離れる。

 

 廃墟のあちこちから黒い霧が出てきて、カナミの背後に集まっていく。

 一箇所に集まった霧がどんどん大きくなって、黒い雲の塊になる。

 

「カナミちゃん……これって……」

 

 ただならぬ出来事にマイが異変を感じた時……。

 

「……帰って」

 

 カナミが下を向いたまま口を開く。声の調子は重く、表情は真剣そのものだ。激しく緊張したあまり両肩がブルブル震えて、(ひたい)から冷や汗が出る。まるで危険な猛獣が近くまで迫ったのを察したかのような雰囲気を漂わせる。

 

「……お願いだから、さっさと帰って! そしてもう二度と、ここには来ないでっ! アンタとなんか、友達でも何でもないっ!」

 

 顔を上げて怒った表情になると、物凄い剣幕で怒鳴り出す。一刻も早く村に戻るよう忠告し、今後自分に会いに来ないよう強い調子で(くぎ)を刺した。

 

「えっ、でも……」

 

 突然の態度の変わりようにマイが困惑する。いきなり別れの言葉を告げられても素直に「はいそうですか」とは言えない。どうすれば良いのか分からず、困った顔しながらオロオロする。

 

「……早く行ってぇぇぇぇえええええっ!!」

 

 忠告に従わないマイに(しび)れを切らしたようにカナミが大きな声で叫ぶ。腹の底から絞り出したように言葉を発し、表情には何としても要求に従って欲しい悲壮感が浮かぶ。もし言う通りにしなければ大変な事になる……そんな切実な思いが伝わる。

 

「……」

 

 マイは一瞬躊躇したものの、押し黙ったまま廃墟の出口に向かって走り出す。そのまま村から出ていき、一目散に自分の住む村へと戻っていく。

 詳しい事情は分からないが、カナミが自分を危険から遠ざけようとする意図のようなものは()み取れた。今は大人しく要求に従う事こそ、彼女が(もっと)も望んだ流れであると、そのように考えた。

 

 マイがいなくなってカナミが一人その場に取り残されると、黒い霧のようなものが、少女の周りをからかうようにフワフワと飛び回る。

 

「アノ子ヲ(カバ)ッタノカイ? デモアノ子ハキット、マタ村ニ来ルヨ……アタシニハ分カル。ソウシタラ今度コソ、アノ子ヲ……ヒヒヒヒヒッ」

 

 黒い霧がしゃがれた老婆の声で喋りだす。マイを逃がしたカナミの判断を、無駄な行為だと下品な声で(あざ)笑う。

 

(マイ……もうここには来ないで)

 

 カナミは少女が村に来ないよう、手を合わせて神に祈る事しか出来ない。

 

  ◇    ◇    ◇

 

「……ただいま」

 

 マイが気落ちした表情で家に帰ると……。

 

「ああ、マイ! 無事だったのねっ! 良かった……本当に良かった! ママもパパも、貴方の事を心配してたのよっ!!」

 

 母親が大声で叫びながら駆け寄ってきてマイを抱き締める。娘が生きて戻ってきた事を深く喜び、感動のあまり目を(うる)ませて泣きそうになる。

 

「実はパパ達、マイが廃墟の少女と会っていた事を知ってしまってね……それでどうするべきか、老賢者ゾダック様に相談しに行ったんだ」

 

 父親が安堵の表情を浮かべながら、これまでの経緯(いきさつ)を話す。

 

「いいか、よく聞くんだマイ……バルティナ村には恐ろしい魔女がいる。子供を誘拐して食べようとする、恐ろしい魔女だ。二十年前村が滅びたのも、廃墟に住む少女を屍人に変えたのも、魔女の仕業と見て間違いない。このまま村に通い続けたら、マイは屍人に変えられたか、最悪魔女に殺されたかもしれないんだ……」

 

 神妙な(おも)()ちになると、老賢者から聞いた話を伝える。魔女の恐ろしさを出来る限り丁寧に教えて、廃墟に向かう事の危険性を分からせようとした。

 

「恐ろしい魔女……」

 

 マイが心当たりがあるようにボソッと(つぶや)く。父の話を聞いて頭に浮かんだのは、カナミの背後に集まった黒い霧の事だ。あれがカナミを屍人に変えた魔女と見て間違いないと感じた。

 またそれにより、彼女が自分を危険から遠ざけようとした意図も明白となった。マイは憎まれ口を叩いても自分を助けようとしたカナミの気遣いに胸が詰まる思いがした。

 

「とにかく私達はこれからもう一度賢者様に会って来ます。マイは今日一日大人しくお留守番して、一歩も外に出ちゃダメよ」

 

 母親が今から出かける用事を伝えて、娘にずっと家にいるよう(くぎ)を刺す。

 

「……はい」

 

 マイは下を向いて暗そうな顔したまま小声で返事する。すっかり元気をなくすと、トボトボと歩いていって自分の部屋に入り、ドアを閉めて鍵を掛ける。

 

「さて、では早速(さっそく)老賢者様の所へ向かうとするか」

 

 娘が大人しく言う事を聞いてくれた事に安堵した父が、そう提案した時……。

 

「魔王様が……救世主様が、村に来なさったぞぉぉぉぉおおおおおおーーーーーーっっ!!」

 

 村の入口から青年が大きな声で叫んだのが聞こえてきた。

 それはザガート一行が村を訪れた事を知らせるものだった。

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