いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

67 / 134
第67話 契約の代償

 十二の宝玉を探して旅を続けていたザガート達一行はアマンダの村へと来ていた。

 一見何の変哲もない辺境の村に足を運んだのは、この地に新たな宝玉を得る手がかりがあると踏んだからだ。

 

 ザガート達が村へ入ると、彼の姿を一目見ようと数十人の人だかりが出来る。マイの両親もその中にいる。

 

「異世界の魔王様、ご高名はかねがね(うかが)っております。アマンダの村へようこそおいで下さいました……何もない辺鄙(へんぴ)な所ですが、ごゆっくりくつろいで下さいませ」

 

 人だかりの先頭にいた五十代の中年男性が村人を代表して挨拶(あいさつ)する。ペコペコ頭を下げてへりくだった態度を見せて、村を訪れた救世主に歓迎の意を示す。

 

「フム……ゆっくりしたいのは山々だが、そういう訳にも行かん。いきなりですまないが、この村の村長か長老に会わせてもらいたい。至急調べたい事がある」

 

 ザガートが早速(さっそく)用件を切り出す。村の実力者に会いたい意向を伝える。

 

「ええ、でしたらゾダック様にお会いになるのがよろしいかと……この村一番の長命で、博識なお方です。きっと実りのある話が聞けましょう。今から彼の住む家に案内しますよ」

 

 最初に言葉を交わした男性が老賢者の名を口にする。()の者ならば魔王の期待に答えるだろうと考えて、家のある方角に向かって歩き出す。

 一行は男性の後に黙って付いていく。マイの両親も彼らの後に続く。

 他の者は魔王を見る(ため)に中断していた作業を再開すべくその場を離れる。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 一行は男性に案内されるがまま村の一番奥にある古ぼけた小屋へと着く。中に入ると、テーブルの前に置かれた椅子(いす)に一人の年老いた男性が座っていた。

 

「おお救世主どの……よくぞ参られた。このワシに何か用ですかな?」

 

 魔王の姿を見るや否やゾダックが杖をついて立ち上がる。救世主の来訪を心より歓迎し、自分に会いに来た用件を聞く。

 

「……これを見てもらいたい」

 

 ザガートはそう口にすると、(ふところ)から紙の地図を取り出してテーブルの上に広げる。その×(バツ)印が書かれた箇所を指差す。

 

「これは魔王軍の幹部の居場所が書かれた地図だ。俺達はこの地図を頼りに、一体ずつ幹部を倒す旅を続けている。そうする事が、大魔王の居城へ行く手がかりになるからだ」

 

 その地図が何であったかを詳しく説明する。地図に書かれた情報を頼りにこれまで旅してきた事を教える。

 

「……そして、ここだ」

 

 そう言いながらある一点を指差す。

 

「ここにも魔王軍の幹部がいる事を示す×印がある。これはアマンダの村から西に一キロ離れた場所だ。もしここにそれらしい魔物がいる伝承や(ウワサ)があるなら、ぜひお教え頂きたい」

 

 バルティナ村があった廃墟を指差しながら、そこに()む魔物の情報を求める。

 

「フム……」

 

 魔王の話を聞いてゾダックが深く考え込む。(あご)に手を当てて眉間(みけん)(しわ)を寄せた気難しい表情になりながら「ムムムッ」と声に出して(うな)る。何からどう話すべきか真剣に思い悩む。

 頭の中で情報を整理しながらしばらく考え込んだが、やがて答えがまとまったように口を開く。

 

「その×印が書かれた場所にはかつてバルティナという村があった。ワルプルギスという名の魔女が住んでおった所じゃよ」

 

 廃墟となった村の名を口にして、そこに住む魔女の情報を教える。

 

「ワルプルギスは恐ろしい魔女じゃ……村の子供をさらっては食べておった。ある日ヘンゼルとグレーテルという二人の子供を食べようとした時、まんまと騙されて返り討ちに()い、命を落としたと聞く。それで全てが終わるはずじゃった」

 

 魔女が子供を食べる醜悪な存在であった事、騙し討ちにあって死んだ事……それらの伝承を述べる。

 

「じゃが彼女は不死(アンデッド)となって(よみがえ)り、またも悪さをした。そして今度は異世界から来た勇者に討伐されて、力の源である指輪ごと本の中に封印された……それが古くからの言い伝えじゃ」

 

 魔女が魔性の存在となって復活し、異世界の勇者に封印された経緯(いきさつ)を伝える。

 

「しかし二十年前、バルティナ村は突如として謎の爆発に遭い、滅びてしまった……これは村の誰かが魔女の封印を解いたと見て間違いない。もし地図に書かれた場所に魔王軍の幹部がいるというなら、それはワルプルギスを置いて他にはおるまい!!」

 

 村が滅ぼされた事を告げて、復活した魔女こそが、ザガートが探し求める魔王軍の幹部であろうと結論付けて話を終わらせた。

 

「ワルプルギスとやら……いたいけな子供をさらって食べるとは、何とも不愉快な(やから)じゃのう」

 

 魔女の話を聞かされて鬼姫が怒りをあらわにする。弱者を食い物にする悪女の卑劣な行いに深く(いきどお)る。自分がかつて人を襲った鬼だった事はすっかり忘れている。

 

「ああ、救世主様……どうか……どうかウチの娘をお助け下さいッ!!」

 

 それまで後ろで話を聞いていたマイの母親が(こら)えきれず前に出てきて、魔王に助けを求める。ゾダックの話を聞いている内に娘の事が心配になったようだ。

 

「この方達は?」

 

 自分達の後ろに付いてきた夫婦と思しき男女の素性をルシルが問う。

 

「このお二方はのう……かくかくしかじか」

 

 ゾダックがこれまであった出来事を説明する。

 夫婦の娘マイに友達がいなかった事、マイが廃墟に住む少女と友達になった事、その少女は()(びと)であり、魔女と関係があるかもしれない事……それらは魔王一行の知る所となった。

 

「このままではマイは屍人にされてしまうかもしれないんですッ! どうか……どうか悪い魔女をやっつけて、ウチの娘をお救い下さいッ!!」

 

 爺の話が終わると、母親がまたも強くお願いする。もう他に頼れるものが無いと涙目で魔王にすがり付く。

 

「……魔女を倒す事が、お宅の娘さんを救う事に繋がるというなら、出来る限りの事はしてみよう」

 

 しばし考えた(すえ)に魔王が母親の願いを聞き入れる。根拠の無い安請け合いはせず、やれる範囲の努力をする事を誓う。何の(えん)もゆかりも無い家族であったが、目的を果たすだけで彼らを救えるというなら魔王に断る理由は無い。

 

「あ、ありがとうございますッ!!」

 

 母親が感謝の言葉を口にして満面の笑顔になる。救世主が願いを聞き入れた事に感激し、胸のつっかえが取れた気分になる。これで娘は助かるだろうと深く安堵する。

 

「それで、娘さんは何処に?」

 

 レジーナがマイの所在を問う。

 

「マイなら、今はお(ウチ)で留守番してます。案内しましょう」

 

 母親はそう言うや否や、善は急げとばかりに家の外に出る。そのまま自分達が住む家に向かってそそくさと歩き出す。

 一行は彼女の後ろに付いていく。ゾダックは一人その場に残り、去りゆく者達を笑顔で見送った。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 一行を連れて家に戻った母親はすぐに娘の部屋へと向かう。

 

「マイ、救世主様をお連れしたわ。ここを開けなさい」

 

 そう言いながら部屋のドアをドンドンと叩く。だが返事が無い。

 物音が一切鳴らず、明らかに誰もいない雰囲気を漂わせた。

 不審に思った母親がドアノブに手を回すと、鍵が開いている。そのままドアを開けて娘の部屋へ入る。

 

「……ッ!!」

 

 部屋に入った瞬間目に飛び込んだ光景に母親が顔をこわばらせた。

 本当なら留守番していなければならないはずの娘の姿が何処にも見当たらない。部屋はすっかりもぬけの(から)になっていた。

 

 机の上に彼女が書いたと思しき置き手紙があった。ルシルがその手紙を手に取って読み上げる。

 

「パパ、ママ、ごめんなさい。私やっぱりカナミちゃんに会ってきます。このままずっとお別れするのはイヤだから。親の言い付けを守らない娘をどうか許して下さい……マイ」

 

 ……それはマイが廃墟の村に向かった事を告げる内容だった。両親が魔王と会っている間に家を抜け出してしまったのだ。

 

「ああ、そんな! このままだと、マイが……マイが悪い魔女の餌食(えじき)になってしまう!!」

 

 マイが家を飛び出した事を知って、母親が顔面蒼白になる。愛する娘が屍人に変えられた姿を想像して茫然(ぼうぜん)自失になり、ガクッと(ひざ)をついてうなだれた。この世の終わりを見たように暗い顔になる。

 

「まだ彼女が家を出て、そう時間が()ってないはずだ……一刻も早く魔女のいる廃墟に向かわなければッ!!」

 

 ザガートは事態の深刻さを悟り、すぐに目的地に向かう事を提案するのだった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 魔王がアマンダの村を訪れた頃、カナミは廃墟に一人ポツンと(たた)んでいた。

 マイと別れた後、特に何をするでもなく廃墟の中をブラブラと散策する。魔女と思しき黒い霧はそんな彼女を見張るように上空を当てもなく漂う。時折(ときおり)からかうように少女の周囲を飛び回る。

 

 カナミはこの閑散とした廃墟に取り残されて、改めて自分が一人になった事を実感する。無論それは親友のマイを守るためであり、彼女が忠告に従ってくれて良かったと心から安心する。

 だが反面、友を失った悲しみがあり、やりきれない思いが胸の内にこみ上げる。「これで良かった、これで良かったんだ」と何度言い聞かせても消えない心の痛みがズキズキと湧く。もう二度と彼女に会えないと思うと、辛くて泣きそうになる。

 

「……また、一人になっちゃった」

 

 カナミが(さび)しげな表情でそう口にした時……。

 

「カナミィィーーーーーーーーッッ!!」

 

 何処からか少女の名を呼ぶ声が発せられた。

 声が聞こえた方角にカナミが目をやると、(はる)か彼方から一人の少女が走ってくる。

 

「……マイッ!!」

 

 自分のいる方へと走ってくる少女の姿を見て、カナミは心臓が飛び出んばかりに驚く。自分の指示に従い村に帰ったはずのマイが、また廃墟に戻ってきたのだ。一瞬夢でも見たんじゃないかと疑う。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 マイはカナミから少し離れた場所まで来て立ち止まる。全力疾走したらしく息が上がっており、全身汗まみれになる。表情に疲労の色が浮かび、(ひざ)に手をついてうなだれる。

 

「どうして……どうして戻ってきたのッ!」

 

 忠告を無視したマイをカナミが厳しく怒鳴り付ける。魔女から遠ざけようとした目論見を台無しにされた事に怒り心頭になる。

 

「もう私が悪い魔女に()(びと)にされたって、知ってるんでしょ!? だったら、ここにいたら危険だって分かるじゃない! それなのに、どうして戻ってきたのよッ! マイちゃんのバカバカバカっ! 考えなし! 能天気! アンポンタンっ!!」

 

 親友の意図が読めず、廃墟に戻ってきた理由を問い(ただ)す。最後は頭に血が(のぼ)ったあまり罵詈雑言を早口で(わめ)き立てた。

 

「バカでもアンポンタンでもいいよ! 私、自分が頭悪いって知ってるもんっ!」

 

 マイが相手の悪口に真っ向から言い返す。馬鹿呼ばわりされた事を自覚しているとあっさり開き直る。

 

「それでも、このままお別れするのは嫌だから……私、カナミちゃんに、ちゃんと自分の思いを伝えたいッ!!」

 

 もう一度会って、どうしても伝えなければならない言葉があった事を明かす。

 

「私、屍人にされるのなんか怖くない! 悪い魔女に何かされたっていい! それでカナミちゃんの(そば)にいられるなら、私は構わない! 私、この先何があっても、カナミちゃんを一人にさせないって……ずっと一緒にいるって、そう誓ったから! だって私たち、親友だもんっ!!」

 

 胸の内に湧き上がる思いを打ち明けた。言葉の節々(ふしぶし)から、彼女がどれだけ友を大切に思ったかが伝わる。それは不器用で、真っ直ぐで、けれどとても強い言葉だった。友の気持ちに全力でぶつかっていこうとする素直で(いち)()な優しさがあった。

 

「マイ……」

 

 友の強い気持ちにカナミは胸が詰まる思いがした。自分がこんなに愛されてたんだと知って、感激のあまり泣きそうになる。

 彼女を屍人にしたくなかった。たとえ憎まれても、この先一生恨まれ続けたとしても、親友を自分から遠ざけようと、そう心に誓ったはずだった。

 

 だがそれでも彼女が自分に会いに来てくれた事が心底嬉しかった。どんなリスクを冒してでも一緒にいたいと言ってくれた事が、とても心地よかった。二十年抱き続けた孤独が(いや)された気がした。もうずっと彼女といられるなら、どうなってもいいとさえ思えた。

 

(マイ……私も)

 

 カナミがそう言いかけた瞬間……。

 

「……戻ッテキタネ?」

 

 またもしゃがれた老婆の声が響き渡る。マイが戻ってきた事を歓迎するように「ヒヒヒッ」と不気味に笑う。

 その直後、魔女と思しき黒い霧が、カナミから数メートル離れた背後に集まっていく。一箇所に集まった霧がどんどん大きくなり、黒い雲の塊になる。

 一瞬カッと(まばゆ)い光が放たれた後、雲は別の存在へと変化していた。

 

 ……そこに立っていたのは背丈六メートルほど、結婚式に着るような純白のウエディングドレスを着てベールを羽織(はお)った人型の骸骨だった。骨は暗めの茶色に染まっており、全身に黒い瘴気のようなものを(まと)い、瞳は赤い光を放つ。常に猫背になっており、グワッと開いた両手を前面に突き出して、相手を()(かく)するようなポーズを取る。

 見るからに醜悪な姿は、魔女を通り越して、もはや妖怪と呼べる域に達していた。

 

「アンタハ戻ッテキタ……アタシヲ恐ロシイ魔女ダト知リナガラ、ワザワザ戻ッテキタンダ。ツマリ、ソノ子ト同ジニナル覚悟ガ出来タトイウ事。ダッタラ良イダロウ……望ミ通リ、アンタヲ屍人ニシテアゲルヨ……」

 

 魔女と思しき骸骨の化け物がマイに話しかける。屍人にされる危険性を知りながら廃墟を訪れた少女の判断を、自分と契約する意思を固めたと(とら)えて、下僕が増える事を大喜びする。骸骨の口元を不気味に(ゆが)ませてニマァッと笑う。

 

「マイには手を出さないでッ!」

 

 いたいけな少女を屍人にせんと目論む魔女の前に、カナミが両手を左右に広げて立ちはだかる。何としても大切な親友を守ろうとする。

 

「フンッ……ダッタラ、アンタカラ先ニ(イタダ)クトスルヨ。ソロソロ(メシ)ノ時間ダッタカラネ、チョウド良イ」

 

 魔女がそう言いながら右手をグッと強く握る。次の瞬間……。

 

「うっ……うああああああああああっっ!!」

 

 左手の薬指に()めた指輪から、カナミの全身に電流が流れ出す。体中を駆け回る痛みに悲鳴を上げて、地べたに倒れてのたうち回る。(すで)に死んでいるはずなのに、このまま放っておいたら死にかねない勢いだ。

 

 それは即死させるような超高圧の電流ではなく、じわじわと痛め付ける拷問器具の類の電流だ。だが長時間流され続けたら、死に匹敵する苦痛を(ともな)う事は間違いない。

 

「カナミちゃ……(いた)ッ!」

 

 マイが慌てて駆け寄りカナミに手を伸ばした瞬間、バチッと電流が走り、反射的に手を引っ込める。少女に触れようとした指に針を刺したような激痛が走り、電流が通った皮膚が赤く()れてジンジンする。

 近付こうとしただけでこれほどの痛みを(ともな)うのだ。まともに触れば凄まじい激痛に襲われる事は想像に(かた)くない。

 

 マイは自分には何の手助けも出来ないと諦めて悲嘆する。目の前で友が苦しむ姿をただ黙って見ている事しか出来ない。

 魔女はそんな二人の姿を眺めて愉快そうに笑っていた。

 

「お願い……もうやめてぇっ! どうして……どうしてこんな酷い事をするの!?」

 

 マイが涙目になりながら拷問をやめるよう懇願する。いたいけな少女を痛め付ける行為をして一体何の得になるのか、真意を問い質す。

 

「ヒヒヒッ……アタシハ一日ニ数回、コウヤッテコノ子ニ電流ヲ流スノサ。何故ダカ分カルカイ? 電流ヲ流サレル苦痛、ソレガ生ミ出ス精神エネルギーコソ、アタシノ魔力ノ源ニナルカラサ。イワバコノ子ハ、アタシノ(エサ)ナンダヨ」

 

 魔女が邪悪な笑みを浮かべながら疑問に答える。日常的に少女を痛め付けた事、それにより生まれる苦痛こそが魔女の力の源であった事を教える。電流を流す前に「(メシ)の時間だ」と発言した意図も明らかとなった。

 

「何故コノ子ガアンタヲ(カバ)ッタカ、コレデ分カッタダロウ? コノ子ハネ、アンタニ同ジ苦シミヲ味アワセタクナカッタノサ。ソレナノニソノ気持チヲ台無シニスルトハ、馬鹿ナ子ダネェ」

 

 カナミがマイを屍人にしたくなかった理由を明かす。屍人になればマイも同じ運命を辿(たど)った事を教えて、少女の真意を()み取れなかったマイを頭の悪い子だと鼻で笑う。

 

「コレハネ、アタシトコノ子ガ結ンダ契約ナンダヨ。コノ子ハアタシニ願イヲ言ウ。アタシハ願イヲ(カナ)エル。願イヲ叶エタ代償トシテ、コノ子ハ永遠ニ、アタシノ(カテ)トナル。ソウイウ契約ナノサ……イーーーッヒッヒッヒッ!!」

 

 最後に一連の出来事が二人の間で交わした契約だった事を伝えて、悪魔のように邪悪な笑顔で大笑いした。

 

(……そんな)

 

 マイは深いショックを受けたあまり茫然(ぼうぜん)自失になる。屍人になるというのがどういう事なのか、その事実を知らされて放心状態になり、抜け殻になったような棒立ちになる。

 

 正直、見通しが甘かった。屍人になるのなんて大した事ないと、内心タカを(くく)っていた。それが子供の浅はかな考えに過ぎないのだと強く思い知らされた。マイは自分の認識が甘かったと知って、友の忠告を無視した事を深く後悔する。

 カナミと一緒にいたい気持ちに変わりはないが、それでも彼女の配慮を台無しにしたと感じて、なんて馬鹿な事をしたんだと自分を責める気持ちに(さいな)まれた。

 

「マイ……逃げ……て……」

 

 カナミが電流にもがき苦しみながら必死に言葉を吐く。意識を失いかねないほどの激痛を味わいながら、自分より友の心配をする。その健気さがかえって痛ましい。

 マイは何としても友を助けねばならない使命感に駆られた。

 

「これ以上カナミちゃんをいじめるのはやめてッ!」

 

 力ずくで拷問をやめさせようと魔女に飛びかかる。

 

「邪魔スルンジャナイヨッ!!」

 

 魔女が腹立たしそうに叫びながら、握った拳をブゥンッと横に振る。

 

「うあっ!」

 

 横一閃(いっせん)に振られた拳にドガッと殴られて、少女の体がポーーンと宙を舞う。強い衝撃で地べたに叩き付けられて、横向きにゴロゴロ転がる。しばらく起き上がれずに寝転がる。

 

「ソコデ、大人シク見テイルンダネ! コノ子ガ終ワッタラ、次ハアンタノ番ダヨッ!!」

 

 地べたに倒れたマイに向かって魔女が言い放つ。カナミの次は彼女を拷問するつもりだと伝える。

 カナミは相変わらず電流を流され続けたままだ。だがもはやマイにはどうする事も出来ない。

 

(お願い……神様……勇者様……誰でもいい!! 誰か……誰か、カナミちゃんを助けてッ!!)

 

 (わら)にもすがる思いで助けを求めた瞬間……。

 

「ゲヘナの火に焼かれて、消し(ずみ)となれッ! 火炎光弾(ファイヤー・ボルト)ッ!!」

 

 何処からか詠唱の言葉とともに轟々(ごうごう)と燃えさかる火球が放たれた。

 

「アヒィッ!!」

 

 魔女は自分に向けて放たれた火球をサッと横に動いてかわす。火球は魔女の背後にある地面に墜落して、大きな音を立てて爆発する。攻撃を避ける事に魔女の意識が向けられて、カナミに電流を流す作業が止まる。

 

「誰ダイ、イキナリアタシニ向カッテ攻撃魔法ヲ唱エル(ヤカラ)ハ! (マッタ)ク、年寄リニ対シテ酷イ仕打チヲスルモンダネッ!!」

 

 魔女が不意打ちを食らわされた事に激昂する。自分の卑劣さを(たな)に上げて、警告せずに襲ってきた相手を許せない気持ちになる。

 

「……貴様のような悪党に声を掛ける義理は無い」

 

 そう言いながら、火球が飛んできた方角に一人の男が立っていた。魔法の唱え主であろうと思われる頭に(ツノ)を生やした人物は、魔女を(さげす)むような目で見る。一見無感情に見える瞳は、しかしながら冷徹な眼光で相手を睨んでおり、胸の内に湧き上がる怒りを必死に押し(とど)めているように思えた。

 

 男の背後には、彼の仲間と思しき四人の女性がいる。彼女達も男と一緒に廃墟に来ていた。

 

「ゲェッ! キッ、貴様ハ……異世界ノ魔王ッ!!」

 

 男の姿を見て魔女が激しく狼狽する。

 そこに立っていたのは(まぎ)れもなく、少女の救出に向かったザガートその人だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。