いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第69話 ワルプルギス、死すべし。

(魔力結界が消失した……チャンスは今しか無いッ!!)

 

 魔女に魔力を供給する指輪が破壊されて、探知魔法が正常に機能した事をザガートが瞬時に把握する。一刻も早く敵の居場所を突き止めて、とどめを刺そうと思い立つ。

 

「……そこだッ!」

 

 目をグワッと開くと、誰もいない空間めがけて手刀を繰り出す。空間の裂け目が生じると、そこに手を突っ込んで巨大な『何か』をズズズッと引きずり出し、ポイッと空に放り投げた。

 

「ウワアアアアアアアーーーーーーッッ!!」

 

 異空間から引きずり出された何かが悲鳴を上げながら宙を舞う。ドシャァッと地面に叩き付けられて横向きに倒れる。

 魔王が異空間から引きずり出した存在……それは言うまでもなく、別の空間に隠れていたワルプルギスの本体だ。探知魔法を阻害する結界が消えたため、魔王に居場所を割り出されて、この場に引っ張り出された。

 

「オノレェ……ヨクモ……ヨクモ、指輪ヲ壊シテクレタネッ! ソコノ、マイトカ言ウ(クソ)ガキッ! アンタノセイデ、アタシノ計画ハ台無シダヨッ! 絶対ニ許サナイ! コウナッタラ、アンタダケデモ地獄ニ引キズリ込ンデヤル!!」

 

 ワルプルギスが上半身を起こしてゆっくりと立ち上がる。すぐさま体勢を立て直すと、マイに対する恨みの言葉を吐く。自分の野望を(つぶ)した少女を憎々しげな表情で(にら)む。

 

「ハラワタヲ ブチ()ケテ死ヌガイイ! 死光線(デス・ビーム)ッ!!」

 

 相手に人差し指を向けて(じゅ)()の言葉を唱えると、魔女の指先から魔力を圧縮した光線が放たれた。

 

「フンッ!」

 

 ザガートが一瞬でマイの前までワープし、飛んできた光線を素手で弾く。

 

「ワルプルギス! 地獄へは貴様一人で行ってもらおう!!」

 

 相手に手のひらを向けて死を宣告する言葉を発する。

 

「悪しき魂よ……聖なる光に焼かれて浄化せよッ! 不死破壊(ターン・アンデッド)ッ!!」

 

 魔法を詠唱すると、魔王の手のひらから金色に輝く極太レーザーのような光が発射された。レーザーは魔女を直撃すると、巨大な光のオーラに呑み込む。すると魔女の体が粒子状に分解されて散っていく。

 

「ウギャァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」

 

 魔女の口からこの世の終わりと思えるほどの絶叫が放たれた。全身を灼熱の業火で焼かれるような激痛を味わい、地面に倒れて激しくのたうち回る。痛みから逃れようと必死に手足を動かして暴れるものの、浄化の光は無情にも魔女の体を破壊し続ける。

 

「イ……嫌ダ……マダ消エタクナイ……消エタ……ク……ナ……」

 

 未練がましい言葉を吐くと、魔女は糸が切れた人形のように動かなくなる。そのまま(チリ)も残らず分解されて、跡形もなく消え失せた。

 

 魔女が完全に消滅すると、彼女が倒れていた地面の真上に青い光が集まっていく。それはやがて一つの宝玉へと変わっていき、ゆっくり降下していって魔王の手元に収まる。

 (まばゆ)い光を放つガラスのような半透明の球体に、天秤座の紋章が刻まれていた。それは大魔王の城に行くために必要な十二の宝玉の一つだ。今回七つめを入手した事になる。

 

(災厄の魔女ワルプルギス……ヘンゼルとグレーテルに殺されたまま、大人しく死んでおくべきだったな)

 

 魔女の無惨な最期を魔王が(あわ)れむ。復活などしなければ、苦痛を味わう事も無かっただろうに……そう思いを抱く。

 

「カナミちゃん、やったよ! 魔王様が悪い魔女をやっつけたよ!!」

 

 危機が去った事をマイが大喜びする。地面に寝ていたカナミの体を揺すって、彼女を起き上がらそうとする。

 マイに(うなが)されてカナミがゆっくりと起き上がる。二本の足でしっかり立つと、友の方を振り返る。その笑顔は魔女から解放された喜びに満ちていた。だが……。

 

「カナミ……ちゃ……ん」

 

 マイの表情が(にわ)かにこわばる。信じられない光景を目にしたショックで凍り付いたように固まる。

 

 カナミの体が何度も発光した後、蜃気楼(しんきろう)のように薄れていくのだ。まだ体に触る事は出来たものの、(すで)に半透明に()けており、向こう側の景色が見える。このままでは一分と()たないうちに消失してしまうように思えた。

 

「ごめんね、マイ……私、こうなるって分かってた」

 

 カナミが(はかな)げな笑顔を浮かべながら謝る。

 彼女は知っていた。ワルプルギスを倒せば自分も消える事を。魔女によって屍人にされた以上、魔女が死ねば存在を保てなくなる事を最初から覚悟していた。

 その事をマイが知れば悲しむだろうと考えて、今まで黙っていたのだ。

 

「そんな……そんなの嫌だよっ! カナミちゃんとお別れなんてしたくない!!」

 

 友が消えると知らされてマイが深く嘆く。辛い別れが訪れる事実を(かたく)なに受け入れようとしない。

 

「せっかく悪い魔女をやっつけて、ずっと一緒にいられると思ったのに……こんなのあんまりだよっ! 酷すぎる!!」

 

 理不尽な現実に対する怒りをぶちまけた。天に向かって抗議するように大声で叫び続けて、最後は目にうっすらと涙が浮かんで泣きそうになる。

 

「マイなら私がいなくても、きっと新しい友達とうまくやっていける……だから泣かないで、ね」

 

 マイが悲しむ姿を見てカナミが困った顔をする。せめて別れ(ぎわ)は笑顔で見送ってもらいたいと考えて、気休めな言葉を掛けて泣くのを止めようとする。

 

「嫌だっ! 絶対嫌っ! カナミとずっと一緒にいるって、そう決めたもんっ! それなのに……それなのに……うううっ……うっ……うわぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーんっ!!」

 

 マイはカナミの言葉に聞く耳を持たない。年相応の子供らしくだだをこねた挙句、(しま)いにはぐずりだして涙を(あふ)れさせて泣いてしまう。

 

「……マイのバカ」

 

 カナミが下を向いたままボソッと(つぶや)く。湧き上がる怒りを我慢するように両肩をプルプル震わせた。

 

「私だって……私だって、本当はマイとずっと一緒にいたいよっ! でもしょうがないじゃない! 消えちゃうんだからっ! もうどうにもならないんだよ!? それなのに、わがまま言わないでよ! マイのバカっ! バカバカバカっ! うわああああああああんっ!!」

 

 顔を上げて泣きそうな表情になると、今まで必死に押し殺そうとした感情を(こら)え切れずにぶちまけた。別れを惜しむ本音が洪水のように溢れ出し、最後はマイに負けじと大声で泣き出す。

 

 二人の少女が強く抱き合ったまま泣く。わんわん声に出して泣き続ける。瞳から大粒の涙がボロボロ(こぼ)れ出す。

 かけがえの無い友を失う悲しみに耐え切れず、胸が張り裂けそうになる。頭の中が絶望に塗り(つぶ)されてグチャグチャになり、何も考えられなくなる。

 

 深く傷付いて泣き続ける少女達を、一行はただ見ている事しか出来なかった。

 

「……」

 

 悲嘆に暮れて泣く少女達の姿を、ザガートが無言で見ていた。その表情は苦虫を噛み(つぶ)したようで、何とも重苦しい。とても魔女を倒した勝利者とは思えない。

 

(……今まで散々苦労して、少女の手まで借りて魔女を倒したというのに、ハッピーエンドを迎えられないのか!? クソッ、何が最強の魔王だ! 何が救世主だッ! たとえ世界を救ったとしても、ここで彼女達を助けられなければ何の意味もない!!)

 

 マイ達の力になれない無力感に(さいな)まれた。最強の力を(ゆう)していながら何の役にも立てない現状にもどかしさを覚えたあまり、自分を責める言葉が次から次へと飛び出す。

 

(彼女達を救えなければ、俺はきっと一生後悔するハメになる……そんなのはまっぴらゴメンだッ!!)

 

 胸のつっかえを抱え込まないためにも、最善の結末にたどり着くべきだと自分に言い聞かせた。

 

(カナミを蘇生させるしかない……だが俺に出来るのか!? いや、出来るか出来ないかじゃない。やるんだッ!!)

 

 成功する見込みのない賭けであった事、それを行動に移す事への迷いが生じたが、最後は迷いを捨てて行動を起こす判断に踏み切る。

 

(奇跡を起こさなければ……救世主とは呼べんッ!!)

 

 目をグワッと開くと、(つい)に少女達を救う決意を固める。

 

「どいてろ、マイっ! 俺が必ず何とかする!!」

 

 前に一歩踏み出すと、蘇生を行うためにマイを一旦後ろに下がらせる。

 

「我、魔王の名において命じるッ! (なんじ)の傷を癒し、魂をあるべき場所へと呼び戻さん……蘇生術(リザレクション)ッ!!」

 

 正面に右手をかざして魔法の言葉を唱える。

 カナミの全身がキラキラ輝いた後、一瞬カッと(まばゆ)い光が放たれた――――。

 

 

 

「……うっ」

 

 辺りを覆っていた光が薄れていき、視界が開けてくると、カナミがゆっくり目を開ける。

 少女が自分の手を見てみると、半透明に()けたはずの体が実体を持っていた。しかもそれまでの屍人だった青白い肌ではなく、生前の肌の色に戻っている。体温もちゃんとある。

 少女の姿は蘇生魔法が間違いなく成功した事を、その場にいる者達に分からせた。

 

「カナミ……ちゃん」

 

 少女が生き返った姿を見て、マイが棒立ちになる。奇跡を目の当たりにした衝撃でしばらく放心状態になったが、やがて友が消滅を避けられた実感がじわじわと湧き上がる。

 

「……生き返った! カナミが生き返ったぁ! やった! やったよ! うわぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーいっ!」

 

 友が生き返った感動を声に出してぶちまけた。大事な親友と別れずに済んだ事が嬉しくてたまらず、何度も大きな声でバンザイする。ウサギのようにピョンピョン跳ねる。

 彼女にとって今までの人生でこれほど大きな喜びを味わった事は無かった。心の中ではカナミが消滅する事を覚悟して受け入れた。だからこそ悲しかった。

 そのカナミが消滅の運命から逃れて、生きた姿で目の前にいるのだ。他にもう何もいらなかった。

 

「私……生きてる」

 

 カナミもまた、自分が生き返った事に深く驚く。まさかこんな展開になるとは夢にも思わず、幻覚を見ているんじゃないかと我が目を疑う。

 自分で自分の顔をペタペタ手で触り、指から伝わる感触に、確かに自分は生き返ったんだという実感が得られた。

 

「マイ……私、生きてる! 生きてるよっ! これからもずっと……ずぅーーーっと、マイと一緒にいられるんだよッ!!」

 

 生きた人間に戻れた事を大きな声で喜び、マイと強く抱き合って感動を分かち合う。二人して「やった、やった」と声に出して大はしゃぎし、手を繋いでクルクル回ったり、抱き合ったままジャンプする。

 喜びに満ちた笑顔を浮かべて、これからも親友と一緒にいられる幸せで満たされた。

 

 抱き合って喜ぶ二人を、ザガートが離れた場所から見守る。その表情には困難な仕事をやり遂げた達成感が浮かぶ。

 

(……正直、自分でうまくいくと思ってなかった。なにしろ死後十二時間が経過すれば、肉体と魂の繋がりは途切れる。そうなれば蘇生術(リザレクション)は効果を発揮しない。だが魔女はカナミの肉と魂を二十年間繋ぎ止めたようだ。恐らく電流による苦痛を与えるためだったと思われるが、皮肉にもそれが功を(そう)したという訳か……)

 

 蘇生魔法が成功した事に深く安堵する。かなり()が悪い賭けだった事、成功する見込みがない(こころ)みにあえて打って出た事、それが実を結ぶ結果になった事に、やって良かったという思いに駆られた。

 世の中まだまだ捨てたもんじゃないな……そう思えるものだった。

 

「ありがとう……魔王様、本当にありがとう! 魔王様は私にとって、救世主……いや神様だよっ! だって奇跡を起こしたんだものっ!!」

 

 マイが魔王の方を振り返りながら感謝の言葉を伝える。友を生き返らせる奇跡を起こした彼を神と信じて疑わない。

 

(そうか……俺はなれたのか。この子にとって救いをもたらした、本物の神に……)

 

 神呼ばわりされてザガートが一瞬驚いた顔をする。極力感情を表に出さないつもりでいたが、喜びを隠し切れず口元が(ゆる)む。

 不思議な気分だった。神が一切救いの手をもたらさない世界に降り立ち、魔族に苦しめられた人々を救って回った。その自分が神として扱われたのだ。

 もはや一部の人々にとって、この世界の神ヤハヴェではなく自分こそが、信仰すべき神となった……その事実に胸を(おど)らせた。

 

 魔王はこれまでおぼろげだった目指すべき救世主のあり方が、ようやくはっきり見えてきたと、そう確信を胸に抱くのだった。

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