いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第7話 女騎士レジーナ

 ザガートの言葉に深く感激したヒルデブルク王が、助力を申し出た時……。

 

「お父様っ! その男に騙されてはなりませんっ!」

 

 そう叫ぶ者の声が、何処からか放たれた。

 声が聞こえた方角に皆の視線が向けられると、謁見の間の入口に二つの人影が立つ。

 

 二人のうち一人は、二十二歳くらいに見える年の若い女性だ。

 長めの金髪を後ろで結んでポニーテールにしていて、目鼻立ちは整っている。背は百六十センチ代後半に達するほど高く、手足はスラッとしている。スポーツマンかモデルのような印象を与える健康的な美しさは、あたかも女神のようだ。

 

 青色のレオタードを肌に(まと)い、その上にベルトと鋼鉄製の胸当て鎧を装着した格好をしていた。腕には鋼鉄のガントレット、足には鋼鉄のブーツを履いていたが、二の腕と太腿(ふともも)の肌は露出している。いわゆる『ハイレグ女騎士』と呼ばれる姿だ。マントは羽織(はお)っていない。

 左腰にはロングソードと呼ばれる片手剣が、(さや)に収まった状態で()してある。

 

 キリッとした顔付きは、如何(いか)にも気が強い性格という印象を与える。オークに拷問されても、簡単には(くっ)しなさそうだ。

 

 もう一人は貴族の服を着て、頭頂部が禿()げ上がった中年の男性だ。背は低く顔は()せ細っていて、鼻の下にカイゼル(ひげ)を生やす。見るからに小者っぽい。

 

 二人は謁見の間に入るや(いな)や、ザガートの前までズカズカと早足で歩いていく。歓迎しているようには到底見えない。

 

「私はレジーナ・ダ・オリヴェイラ・ヒルデブルク! この国の第一王女にして、誇り高き騎士なり!」

 

 男の前に立つと、女性が大きな声で自己紹介する。王族である事を誇るように、胸を前面に突き出して鼻息を吹かせながら、(えら)そうにふんぞり返る。

 

「ワシはギド……ヒルデブルク国の大臣をしておる」

 

 後に続くように貴族の服を着た男が名乗る。あからさまにザガートを目障りに思ってそうなしかめっ(つら)をしたまま、自分のヒゲを右手でビョンビョン触って遊んでいる。

 二人はそれぞれ王の娘と、この国の大臣であった。

 

(この男……)

 

 ザガートは大臣の方を見て、ある異変に気付く。

 

「ザガート様、どうかなされましたか?」

 

 魔王が大臣の顔をじっと見ていた事を不思議に思い、ルシルが問いかけた。

 

「いや……何でもない」

 

 ザガートはそう言って少女の疑問をはぐらかす。大臣を眺めて気付いた事実を、あえてその場では口に出さず胸の内にしまっておく。

 

「お父様、この男を信用してはなりません! 此奴(こやつ)は魔王……魔族の侵略に悩むお父様の弱みに付け込み、甘言で(まど)わして、国を乗っ取る計画に違いありませぬ!」

 

 自己紹介を終えると、レジーナが凄い剣幕で王に詰め寄る。魔王の危険性を早口で並べ立てて、父に翻意を(うなが)させようとした。

 

「ワシも姫様と同意見ですじゃ。国王……毒を(もっ)て毒を制すなどとお考えになるのはやめなされ。その男に頼るのは、ネズミを追い払う(ため)に虎を招き入れるようなもの。気付いた時には何もかも奪われ、全て失いましょうぞ」

 

 大臣が王女の言葉に賛同する。王の決断が間違いだという事を、冷静な口調で指摘した。

 

「これはマズいぞ……」

「俺達はどうすれば……」

 

 国内でも王に次ぐ地位にある二人の人間が反対意見を述べた事に、謁見の間が(にわ)かにざわつく。兵士達は互いに顔を見合わせてボソボソと小声で話しながら、どっちの意見が正しいか分からず、右往左往してうろたえる。

 一旦はザガートを受け入れる方向で固まりかけた空気に(ほころ)びが生じた。

 

「何じゃ二人ともっ! 昨日の話し合いで、ザガート殿(どの)に頼る方向で話がまとまったではないかっ! それを今になって変えさせようなどと、見苦しいにも(ほど)がある!!」

 

 国王も負けじと声を荒らげて反論する。二人に言い寄られても、自分の考えを曲げる気は毛頭無い。魔王と(じか)に話して、彼の器の大きさに()(けい)の念を抱いたから尚更(なおさら)だ。

 

「確かに私も一度は納得しました……ですが昨夜大臣と(ひそ)かに話し合い、やはりザガートという男は危険だと判断したのです」

 

 レジーナが考えを改めた経緯について説明する。

 

「その男は、いつ本性を剥き出しにするやもしれませぬ……聞こえの良い言葉を口にしながら、常に腹の中では良からぬ(たくら)みをしている、(まさ)に邪悪そのもの!!」

 

 ザガートを指差して、言いたい放題に彼を(ののし)った。

 

「ザガート様は悪い人じゃありません! 発言を取り消して下さいっ!!」

 

 レジーナの態度がよほど腹に()えかねたのか、ルシルが王女に食ってかかる。身分の違いがあろうと(もの)()じしない。自分の愛する人を侮辱された怒りで、脳の血管が爆発寸前になる。

 

「何をッ! この(ちち)のデカい田舎娘がッ!!」

 

 レジーナが今度はルシルを罵倒する。自分に噛み付いてきた少女を狂犬のような目で(にら)み付けて、汚い言葉を浴びせた。

 

「むっ、胸の大きさは関係ありませんっ!」

 

 ルシルが胸を両手で隠しながら、カーッと顔を赤くさせた。心の中で気にしていた身体的特徴を指摘されて、深く(はずかし)められた気持ちになる。

 

「デカチチ女っ!」

「金髪ワキガ王女っ!」

 

 二人の少女がギャーギャーと声に出して(くち)(げん)()になる。

 ザガートの善し悪しからどんどん話がズレていき、ただの女同士の言い合いになる。その有様を、当初レジーナに賛同した大臣すらもポカンと口を開けて眺めていた。

 

「二人とも、やめないかっ!」

 

 両者の(みにく)いケンカを見ていられず、ザガートが二人の間に割って入る。

 男に止められて、ルシルはハッと冷静になって黙り込んだものの、レジーナはブツブツと小声で文句を()れながら、むくれた顔になる。まだ悪口を言い足りないのか、不満げに体をウズウズさせた。

 

「王女よ……アンタが俺の事を気に入っていないのは分かった。では問おう……どうすれば俺を認める気になる? 何をすれば、お前の気が晴れる? ここで頭を下げてお願いすれば、(ほこ)を収めてくれる気になるか?」

 

 ザガートが冷静な口調で、なだめるように問いかけた。王女の機嫌を(そこ)ねるのは本意ではなく、可能な限り相手の要求を()んで、警戒心を和らげようと(こころ)みた。

 

「そうだな……」

 

 魔王の言葉を聞いてレジーナがニヤリと笑う。何か良からぬ(たくら)みを抱いたかのように、不気味に口元を(ゆが)ませた。

 

「ならば……私と一対一の決闘を行ってもらう!!」

 

 自信満々に大きな声で叫びながら、魔王に人差し指を向けるのだった。

 

「俺と決闘……だとぉ!?」

 

 王女の言葉にザガートが一瞬たじろぐ。まさかそのような要求をされるなどとは夢にも思わず、不意を突かれる形となった。

 

「そうだ……魔王ザガート! 今から私と一対一の勝負をしてもらう! もしそれで貴様が勝てば、大人しく言う事を聞いてやる! 私が勝ったら、その時はこの城から出て行ってもらう! 良いなッ!!」

 

 レジーナが勝負の結果によって魔王を受け入れるか(いな)か決める提案を持ちかけた。よほど剣の腕に自信があるのか、勝利への確信に満ちたドヤ顔になる。自分が負けるなどとは毛ほども考えていない。

 

「レジーナ、お前……」

 

 タルケンが娘の行動に心底(あき)れた。世間を知らぬ王女の馬鹿げた行いを深く()じるあまり、思わず頭を抱え込んだ。

 村での活躍を聞いて魔王の実力を知っていた国王からすれば、娘のやろうとする事は一ミリの勝機も無い、無謀な挑戦でしかない。アリが火の中に飛び込むようなものだ。

 

(バカな事はやめるんだ!)

 

 ……つい声に出して、そう言いかけた。

 娘の行動を慌てて止めようとした国王を、ザガートがサッと腕を横に振って(さえぎ)る。

 

「良いだろう……それでお前の気が晴れるというなら、その挑戦受けて立つ」

 

 落ち着き払った様子で、王女からの決闘の申し出を快諾した。

 

 勝負に勝った時、王女が約束通り言う事を聞くのであれば、それでよし。もし万が一王女がわがまま言ってゴネたとしても、彼女が(はじ)をかくだけだ。ザガートには何の(そん)にもならない。

 いずれにせよ事態を進展させるためには、一度ここで彼女に力の差を思い知ってもらう必要があるとザガートは考えた。

 

 魔王が王女の申し出を受けたのを見て、タルケンは()むなく引き下がるしか無かった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 城の中庭にある、開けた空間……普段は兵士達が模擬戦に使っている訓練場。地面には石床が敷かれておらず、(かわ)いた土が剥き出しになっている。

 城の住人が総出で見守る中、二つの人影が向き合ったまま対峙する。

 

 無論それは決闘の約束を交わしたザガートとレジーナだ。

 レジーナは前髪を右手でかき分ける仕草をしながらフフンッと鼻で笑い、余裕を見せ付ける。ザガートはそんな少女を、何も言わずただじっと見る。

 

「ざっ、ザガート殿ぉ……」

 

 戦いに巻き込まれないよう離れた場所にいた王が、二人を見ながら情けない声を漏らす。無謀な戦いに挑む娘が心配で、()ても立ってもいられない。

 もし王女が(チリ)も残らず一瞬で消し飛ばされたら……そんな光景を頭の中に思い描いて、オロオロした。

 

「国王、心配には及ばない。アンタの娘を殺すような真似(まね)は断じてしないと約束しよう」

 

 王の心境を察して、ザガートが不安を取り除こうと優しく言葉を掛けた。

 

「魔王ザガート……貴様にはここで消えてもらう!!」

 

 そんな父の気持ちなど(つゆ)とも知らず、レジーナが(さや)から剣を抜いて、両手で握って構えた。試合だからと手加減する気など全く無く、全力で相手を斬り()せようと明確な敵意を向ける。

 

「レジーナ……戦いを始める前に、一つだけ聞いておきたい。お前、実戦の経験はあるか?」

 

 少女の敵意など意にも(かい)さず、ザガートが頭の中に湧き上がった疑問をぶつけた。

 

「実戦の経験など無いッ! 城の中で戦闘訓練を積んだだけだッ!!」

 

 男の質問にレジーナが誇らしげなドヤ顔で答える。

 

「行くぞザガート! お命頂戴(ちょうだい)する!! うおおおおおおっ!!」

 

 勝負の開始を告げると、王女が大声で叫びながら、先手を打たんと真っ先に飛び出す。近接戦の間合いに入ると、剣を横()ぎに振って相手に斬りかかろうとした。

 だが剣が触れようとした瞬間、男の姿がフッとワープしたように消える。

 

「!? ど……何処だ!!」

 

 敵の姿を見失った事に驚いて、レジーナがキョロキョロと周囲を見回す。

 

「……ここだ」

 

 突如声が発せられて、王女が慌てて後ろを振り返ると、目の前に男が立っていた。

 

「ふんっ」

 

 ザガートが小馬鹿にするように鼻息を吹かせながら、王女の(ひたい)にデコピンを喰らわす。バチーーーンッと(ムチ)で叩いたような音が鳴り、王女の体がポーーンと後ろに弾き飛ばされる。

 

「ぐああああああっ!」

 

 額に広がる激痛に、王女が思わず大きな声で叫んだ。強い衝撃で叩かれたおでこを(かば)うように両手で押さえたまま、派手に地面をゴロゴロと転がる。あまりの痛みにうっかり剣を手放してしまう。

 

 王女は痛みを(こら)えながらすぐに起き上がると、離れた場所に落ちた剣を拾いに行こうと慌てて走り出す。だが彼女が剣の(つか)に手を触れた瞬間、ザガートが刃の腹を足でガッと踏み付けて、剣が持ち上がらないよう地面に固定した。

 

「グッ……離せ!!」

 

 レジーナが憎々しげな目で魔王をキッと(にら)む。剣を踏んだ足をどけるよう命じる。

 男は片足に全体重を乗せており、王女がいくら腕に力を込めても剣は微動だにしない。まるで巨大な象に踏まれてしまったかのようだ。

 

「そんなにどけてほしいなら、どけてやる。そらっ」

 

 王女が剣を後ろに引こうとした瞬間、ザガートが刃を踏んでいた片足を上げる。

 

「うわぁっ!」

 

 いきなり軽くなった剣を全力で引いてしまった反動で、王女が後ろに倒れ込む。またも地面をゴロゴロ転がった挙句、仰向けに倒れたままだらしない大股開きになり、死にかけた虫のように手足をピクピクさせた。

 

「王女ともあろうお人が、随分と()(れん)()恰好(かっこう)だな。それで騎士の誇りがあると言えるのか? わざといやらしい恰好をして、俺の油断を誘おうとしているなら話は別だが……」

 

 王女の股間をしげしげと眺めながら、ザガートが皮肉に満ちた言葉を吐く。()(ざま)な醜態を(さら)け出した敵を完全に(あざ)笑っている。

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