いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
ザガートの言葉に深く感激したヒルデブルク王が、助力を申し出た時……。
「お父様っ! その男に騙されてはなりませんっ!」
そう叫ぶ者の声が、何処からか放たれた。
声が聞こえた方角に皆の視線が向けられると、謁見の間の入口に二つの人影が立つ。
二人のうち一人は、二十二歳くらいに見える年の若い女性だ。
長めの金髪を後ろで結んでポニーテールにしていて、目鼻立ちは整っている。背は百六十センチ代後半に達するほど高く、手足はスラッとしている。スポーツマンかモデルのような印象を与える健康的な美しさは、あたかも女神のようだ。
青色のレオタードを肌に
左腰にはロングソードと呼ばれる片手剣が、
キリッとした顔付きは、
もう一人は貴族の服を着て、頭頂部が
二人は謁見の間に入るや
「私はレジーナ・ダ・オリヴェイラ・ヒルデブルク! この国の第一王女にして、誇り高き騎士なり!」
男の前に立つと、女性が大きな声で自己紹介する。王族である事を誇るように、胸を前面に突き出して鼻息を吹かせながら、
「ワシはギド……ヒルデブルク国の大臣をしておる」
後に続くように貴族の服を着た男が名乗る。あからさまにザガートを目障りに思ってそうなしかめっ
二人はそれぞれ王の娘と、この国の大臣であった。
(この男……)
ザガートは大臣の方を見て、ある異変に気付く。
「ザガート様、どうかなされましたか?」
魔王が大臣の顔をじっと見ていた事を不思議に思い、ルシルが問いかけた。
「いや……何でもない」
ザガートはそう言って少女の疑問をはぐらかす。大臣を眺めて気付いた事実を、あえてその場では口に出さず胸の内にしまっておく。
「お父様、この男を信用してはなりません!
自己紹介を終えると、レジーナが凄い剣幕で王に詰め寄る。魔王の危険性を早口で並べ立てて、父に翻意を
「ワシも姫様と同意見ですじゃ。国王……毒を
大臣が王女の言葉に賛同する。王の決断が間違いだという事を、冷静な口調で指摘した。
「これはマズいぞ……」
「俺達はどうすれば……」
国内でも王に次ぐ地位にある二人の人間が反対意見を述べた事に、謁見の間が
一旦はザガートを受け入れる方向で固まりかけた空気に
「何じゃ二人ともっ! 昨日の話し合いで、ザガート
国王も負けじと声を荒らげて反論する。二人に言い寄られても、自分の考えを曲げる気は毛頭無い。魔王と
「確かに私も一度は納得しました……ですが昨夜大臣と
レジーナが考えを改めた経緯について説明する。
「その男は、いつ本性を剥き出しにするやもしれませぬ……聞こえの良い言葉を口にしながら、常に腹の中では良からぬ
ザガートを指差して、言いたい放題に彼を
「ザガート様は悪い人じゃありません! 発言を取り消して下さいっ!!」
レジーナの態度がよほど腹に
「何をッ! この
レジーナが今度はルシルを罵倒する。自分に噛み付いてきた少女を狂犬のような目で
「むっ、胸の大きさは関係ありませんっ!」
ルシルが胸を両手で隠しながら、カーッと顔を赤くさせた。心の中で気にしていた身体的特徴を指摘されて、深く
「デカチチ女っ!」
「金髪ワキガ王女っ!」
二人の少女がギャーギャーと声に出して
ザガートの善し悪しからどんどん話がズレていき、ただの女同士の言い合いになる。その有様を、当初レジーナに賛同した大臣すらもポカンと口を開けて眺めていた。
「二人とも、やめないかっ!」
両者の
男に止められて、ルシルはハッと冷静になって黙り込んだものの、レジーナはブツブツと小声で文句を
「王女よ……アンタが俺の事を気に入っていないのは分かった。では問おう……どうすれば俺を認める気になる? 何をすれば、お前の気が晴れる? ここで頭を下げてお願いすれば、
ザガートが冷静な口調で、なだめるように問いかけた。王女の機嫌を
「そうだな……」
魔王の言葉を聞いてレジーナがニヤリと笑う。何か良からぬ
「ならば……私と一対一の決闘を行ってもらう!!」
自信満々に大きな声で叫びながら、魔王に人差し指を向けるのだった。
「俺と決闘……だとぉ!?」
王女の言葉にザガートが一瞬たじろぐ。まさかそのような要求をされるなどとは夢にも思わず、不意を突かれる形となった。
「そうだ……魔王ザガート! 今から私と一対一の勝負をしてもらう! もしそれで貴様が勝てば、大人しく言う事を聞いてやる! 私が勝ったら、その時はこの城から出て行ってもらう! 良いなッ!!」
レジーナが勝負の結果によって魔王を受け入れるか
「レジーナ、お前……」
タルケンが娘の行動に心底
村での活躍を聞いて魔王の実力を知っていた国王からすれば、娘のやろうとする事は一ミリの勝機も無い、無謀な挑戦でしかない。アリが火の中に飛び込むようなものだ。
(バカな事はやめるんだ!)
……つい声に出して、そう言いかけた。
娘の行動を慌てて止めようとした国王を、ザガートがサッと腕を横に振って
「良いだろう……それでお前の気が晴れるというなら、その挑戦受けて立つ」
落ち着き払った様子で、王女からの決闘の申し出を快諾した。
勝負に勝った時、王女が約束通り言う事を聞くのであれば、それでよし。もし万が一王女がわがまま言ってゴネたとしても、彼女が
いずれにせよ事態を進展させるためには、一度ここで彼女に力の差を思い知ってもらう必要があるとザガートは考えた。
魔王が王女の申し出を受けたのを見て、タルケンは
◇ ◇ ◇
城の中庭にある、開けた空間……普段は兵士達が模擬戦に使っている訓練場。地面には石床が敷かれておらず、
城の住人が総出で見守る中、二つの人影が向き合ったまま対峙する。
無論それは決闘の約束を交わしたザガートとレジーナだ。
レジーナは前髪を右手でかき分ける仕草をしながらフフンッと鼻で笑い、余裕を見せ付ける。ザガートはそんな少女を、何も言わずただじっと見る。
「ざっ、ザガート殿ぉ……」
戦いに巻き込まれないよう離れた場所にいた王が、二人を見ながら情けない声を漏らす。無謀な戦いに挑む娘が心配で、
もし王女が
「国王、心配には及ばない。アンタの娘を殺すような
王の心境を察して、ザガートが不安を取り除こうと優しく言葉を掛けた。
「魔王ザガート……貴様にはここで消えてもらう!!」
そんな父の気持ちなど
「レジーナ……戦いを始める前に、一つだけ聞いておきたい。お前、実戦の経験はあるか?」
少女の敵意など意にも
「実戦の経験など無いッ! 城の中で戦闘訓練を積んだだけだッ!!」
男の質問にレジーナが誇らしげなドヤ顔で答える。
「行くぞザガート! お命
勝負の開始を告げると、王女が大声で叫びながら、先手を打たんと真っ先に飛び出す。近接戦の間合いに入ると、剣を横
だが剣が触れようとした瞬間、男の姿がフッとワープしたように消える。
「!? ど……何処だ!!」
敵の姿を見失った事に驚いて、レジーナがキョロキョロと周囲を見回す。
「……ここだ」
突如声が発せられて、王女が慌てて後ろを振り返ると、目の前に男が立っていた。
「ふんっ」
ザガートが小馬鹿にするように鼻息を吹かせながら、王女の
「ぐああああああっ!」
額に広がる激痛に、王女が思わず大きな声で叫んだ。強い衝撃で叩かれたおでこを
王女は痛みを
「グッ……離せ!!」
レジーナが憎々しげな目で魔王をキッと
男は片足に全体重を乗せており、王女がいくら腕に力を込めても剣は微動だにしない。まるで巨大な象に踏まれてしまったかのようだ。
「そんなにどけてほしいなら、どけてやる。そらっ」
王女が剣を後ろに引こうとした瞬間、ザガートが刃を踏んでいた片足を上げる。
「うわぁっ!」
いきなり軽くなった剣を全力で引いてしまった反動で、王女が後ろに倒れ込む。またも地面をゴロゴロ転がった挙句、仰向けに倒れたままだらしない大股開きになり、死にかけた虫のように手足をピクピクさせた。
「王女ともあろうお人が、随分と
王女の股間をしげしげと眺めながら、ザガートが皮肉に満ちた言葉を吐く。