いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第71話 不滅の黒騎士

 人里から離れた山奥の秘境……森に囲まれた場所に大きな城がそびえ立つ。

 

 その城は遠い昔に放棄されたものらしく、外壁はボロボロに()ちており、(こけ)がびっしり生えている。大地は雑草まみれで、手入れが全く行き届いていない。人が住んでいない事は一目で分かる。

 上空をカラスの群れが飛んでおり、城壁に()まったり、周囲に群がる虫やネズミを捕まえて食べる。その事もより一層不気味さを引き立てる。

 

 長年放置され、廃墟と化した城……その奥にある謁見の間で、一人の男が大股開きで玉座に腰掛けている。(さや)に収まった一振りの刀を床に突き立てたまま、(つか)に両手を乗せる。

 

 その者は背丈二メートルほど、フルプレートの鎧に身を包んだ騎士だった。装甲はダークブルーに染まり、鎧の(ふち)には黄金のラインが走る。頭部はフルフェイスの(かぶと)で覆われており、素顔を(のぞ)く事は出来ない。

 マントは羽織っておらず、ボロボロの赤い布をマフラーのように首に巻いたままぶら下げていた。体格は細身でスラッとしていて、騎士でありながら忍者のような風格を漂わせる。ダークヒーローという呼び名が似合う貫禄もあった。

 

 この城の唯一の住人らしき黒騎士が、玉座に座ったまま黙り込んでいると、ザッザッと何者かの足音が聞こえる。それも一人や二人ではなく、五十人はいるようだ。

 足音は謁見の間の入口近くまで来てピタッと止まる。城主の反応を待つかのように沈黙する。

 

『……何者だ』

 

 黒騎士が足音の主に問いかけた。その声は若い男性のものだったが、マイク()しに喋ったように音声が(くも)っており、普通の人間でない事は一声聞いただけで分かる。

 

 騎士の呼びかけに応じて、一人の男が謁見の間に入ってくる。

 男は黒のタキシードを着てマントを羽織った、黒髪の若い男性だ。目鼻立ちが整っていて、色男の雰囲気がある。八重歯が牙のように(とんが)っていて、やはり普通の人間では無さそうだ。肌も屍人のように青白い。

 部屋の外には彼の部下と思しき数十人の男が待機していたが、全裸にボロボロの布切れを腰に巻いており、ガリガリに()せている。血が欲しそうに「うー、あー」と言いながら体をウネウネ動かす。

 

 男は謁見の間をカツカツと歩き、騎士から少し離れた場所まで来て一旦足を止める。

 

「貴方が不滅の黒騎士……最強の不死騎王(アンデッド・ロード)、ブレイズ・アングラウスですね?」

 

 相手の素性を確かめようと、名を口にして問いかける。

 

如何(いか)にも……最強かどうか知らぬが、それがしはブレイズと申す』

 

 騎士が謙遜(けんそん)を交えながら男の言葉を肯定する。忍者のイメージに相応しい、東洋の武士のような独特の口調で話す。

 

挨拶(あいさつ)代わりに自己紹介させて頂きます。私は吸血鬼王(バンパイア・ロード)……魔王軍十二将の一人にして、我が軍における不死(アンデッド)部隊の首領を(つと)める者」

 

 男が頭を下げて自分の名を明かす。初対面の相手に対する礼儀を払おうと、丁寧なですます口調で接する。彼が吸血鬼王(バンパイア・ロード)だという事は、後ろに控える裸の部下達は低級の吸血鬼(バンパイア)なのだろう。

 (さら)に彼の口ぶりから、黒騎士が魔王軍に属する存在では無いらしい事が(うかが)える。

 

『……その吸血鬼王とやらが、それがしに何の用だ』

 

 黒騎士がこの場に来た用件を問う。あまり歓迎している風ではない。

 

「単刀直入に言いましょう。ブレイズ……貴方をスカウトしに来ました。我が主アザトホース様は貴方を高く買ってらっしゃる。ぜひ我が軍に迎え入れたいと、そう(おお)せられた。それで同じ不死(アンデッド)仲間である(わたくし)が、交渉役を買って出たという訳です」

 

 吸血鬼王が主君の名を口にして、古城を訪れた目的を明かす。黒騎士を自軍に引き入れたいという大魔王の意思を伝える。

 

「黒騎士ブレイズ……その力を全知全能たる我が主のために振るえる事、光栄に思いなさいッ! こんなチャンス、二度とありませんよ! 何しろあのお方は滅多に他者の力をお認めにならない……その大魔王様のお眼鏡に(かな)ったのですから!!」

 

 マントをバサッと開いて両腕を左右に広げたポーズを取ると、大魔王に仕える事を上から目線で命令する。主君に実力を認められるのは困難だった事、黒騎士がその条件を満たした事を告げて、誘いを受けるべきだと饒舌(じょうぜつ)に語る。

 

 男の言葉を黙って聞いていたブレイズだったが……。

 

『……()せろ。下郎め』

 

 沈黙を破るように言葉を発する。口数は少ないが声に明らかな怒気を(ふく)んでおり、男の態度に気分を害したらしい事が容易に伝わる。

 

「……は? 今、何と」

 

 吸血鬼王が聞き間違いかもしれないと思い、慌てて聞き直す。黒騎士が主君の誘いを断るはずがないという考えが根底にあった。

 

『……失せろと言ったのだ』

 

 黒騎士が改めて言い直す。聞き間違いでも何でもなく、男に謁見の間から退出するよう命じる。

 

『この不死騎王……貴様ら(ごと)き魔族風情(ふぜい)の飼い犬に成り下がるほど安くはない。もし本気で迎え入れたいというなら、使い走りをよこすのではなく、王自らが頭を下げて願い出るのが道理というもの。それが出来ぬのなら、それがしを力ずくでこの場から引きずり出してみせよ……』

 

 大魔王に仕える意思がない事を明確に伝えた。欲しければ力で勝ち取ってみろと挑発的な言葉を吐く。魔王軍の幹部相手に一切(もの)()じしない態度は、自らの力量に相当の自信を抱いていた事が(うかが)える。

 

 黒騎士は玉座から立ち上がると、(さや)から刀を抜く。鞘を床に放り投げると、刀を右手に持ったままズカズカと歩き出す。(すで)に敵と戦う意思を固めている。

 

「グッ……」

 

 吸血鬼王がギリギリと割れんばかりの力で歯(ぎし)りする。全身をわなわなと震わせて、呼吸が乱れて、鼻息が荒くなる。怒りで脳の血管が爆発寸前になる。

 本当の実力差はともかく、彼にとって黒騎士は格上の相手ではない。にも関わらずそのような人物に敬愛する主君の好意を踏み(にじ)られた事は、プライドに泥を()られたに等しい。

 

「よくも……よくも言いやがったな!! このクソ野郎がッ!! 許さねえ! 絶対許さねえぞ!! そこまで言うなら、望み通り力ずくで引きずり出してやる!!」

 

 胸の内に湧き上がった怒りを声に出してぶちまけた。これまでの紳士然とした態度をかなぐり捨てて、汚い言葉を早口で(わめ)き散らす。完全に頭に血が上ったチンピラの物言いになる。

 話を終えると両手の(ツメ)がジャキーーーンと長く伸びる。彼の武器のようだ。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇええええええええーーーーーーーーッッ!!」

 

 死を宣告する言葉を発すると、両腕を左右に広げたポーズのまま敵に向かって走り出す。鋭い爪で相手を引き裂こうともくろむ。

 

『……(さん)ッ!!』

 

 ブレイズは右手に持っていた刀を両手に持ち替えると、掛け声らしき言葉を吐く。その瞬間彼の姿がフッと消えた――――。

 

 

 

 吸血鬼王の真横を一陣の突風が吹き抜けると、彼から数メートル離れた背後に刀を振り下ろした構えのブレイズが姿を現す。刃には何かを斬ったらしい血痕が付着する。

 

「……なっ」

 

 吸血鬼王が言葉を言いかけた瞬間、彼の首に一本の赤い線が走る。

 線が通った箇所が切断面となり、断面から上の首がズルリと滑るように落下して、ゴトリと床に転がり落ちる。残された胴体は首から大量の血を噴き上げた後、糸が切れた人形のように前のめりに倒れて動かなくなる。

 

 ブレイズが相手の生死を確かめようと、倒れた体に近付いた時……。

 

「クワァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」

 

 突如吸血鬼の首がけたたましい奇声を発する。蜘蛛(クモ)のような多関節の足がニョキニョキ生えて自力で起き上がると、大きく口を開けながら高々とジャンプして、黒騎士めがけて急降下する。鋭い牙で噛み付こうと考えたようだ。

 

 ブレイズはすかさず左手を斜め上に突き出して、吸血鬼の口の中にガッと指を突っ込む。

 

『……地獄の炎に焼かれよッ!!』

 

 そう叫ぶや(いな)や、騎士の左手から紫の炎が発せられた。

 

「ギャアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」

 

 紫の炎に包まれた吸血鬼王が断末魔の悲鳴を上げる。騎士の手から放たれた炎はかなりの超高熱であったらしく、吸血鬼の頭は十秒と()たないうちに黒焦げになる。やがて完全に炭化して灰になると、ボロボロと(もろ)く崩れ去る。

 ……後には首のない死体だけが残された。

 

(……この程度の実力で幹部を名乗れるとは、魔王軍の質も随分(ずいぶん)と落ちたものだ)

 

 想定を下回る相手の弱さに黒騎士が深く落胆する。敵ながら魔族の劣化ぶりを嘆く。

 

 吸血鬼が完全に息絶えると、彼の死体があった場所の真上に青い光が集まっていく。それはやがて一つの宝玉へと変わっていき、ゆっくり降下していって黒騎士の手元に収まる。

 (まばゆ)い光を放つガラスのような半透明の球体に、(サソリ)座の紋章が刻まれていた。

 

(これが、魔王軍の幹部が死ぬたびに現れるという(ウワサ)の宝玉……それがしには無用なものだが、捨ておく事も無かろう)

 

 吸血鬼王を倒した証であるそれを、ブレイズはひとまず所持しておく事にした。

 

「ウアア……」

 

 両者の戦いを謁見の間の入口で見ていた吸血鬼(バンパイア)の大群が(にわ)かに色めき立つ。主君が敗れた光景を目にしてどうすればいいか分からず、声に出してうろたえる。

 

(何トイウ事ダ……アスタロト様ノ倍ノ強サヲオ持チニナラレタ我ラガ王ガ、コウモアッサリトオ(ヤブ)レニナラレルトハ……!!)

 

 魔物の一人が黒騎士の実力に戦々恐々となる。大悪魔の名を引き合いに出して、かなりの実力者であるはずの主君を(ほふ)ってみせた騎士の強さに戦慄すら覚えた。

 

『さて……』

 

 敵を仕留めたブレイズが後ろを振り返る。謁見の間の入口でオロオロする吸血鬼の大群を遠巻きに眺める。彼らの出方を(うかが)うようにしばらく何もせずにいたが、やがて思い立ったように口を開く。

 

『下級の吸血鬼(バンパイア)ども……貴様らの主は死んだぞ。もし主君の仇を討ちたいというなら相手になろう。それをする気が無いなら、今すぐこの場から立ち去れ』

 

 戦うか退くか、逃れられぬ選択肢を突き付けた。

 

「ウッ……ウアアアアアアアアッ!」

 

 吸血鬼達が情けない悲鳴を漏らしながら全速力で逃げ出す。五十人ほどいた男達が我先にと争うように城の出口に向かって走っていき、一目散に城から出ていく。そのまま戻ってこない。

 主君の仇を討とうと思う者は一人もいない。力の差は歴然としており、戦いを挑んでも無駄だという考えがあった。

 

(魔族に忠義の概念など、ありはしないか……)

 

 彼らの気骨の無さにブレイズがフゥーーッとため息を漏らす。

 

『……』

 

 再び床に転がった死体に目をやり、あれこれ考えていた。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 城の裏手にある広大な敷地……そこに集団墓地があった。

 墓碑(ぼひ)の数は(ゆう)に百を超える。それぞれに埋葬された人物と思しき名が刻まれる。(こけ)の生え具合や墓石の風化ぶりが異なっており、年代の違いを感じさせる。

 

 比較的新しい墓石の前で、ブレイズがスコップを手に取り土を掘り起こしていた。墓碑に名は刻まれていない。

 騎士のすぐ(そば)(ふた)が閉じられた鉄製の棺桶があった。どうやら吸血鬼の遺体が収められたもののようだ。ここは騎士に敗れて命を落とした者が埋葬される墓場であり、吸血鬼王はその新たな一人に加わったという事なのだろう。

 

 土の中に棺桶を入れられるスペースが出来上がると、騎士が乱暴に棺桶を放り込む。スコップで土を被せて埋めると、墓碑に刀でササッと名を刻む。

 

(……また一つ、墓が増えた)

 

 吸血鬼王(バンパイア・ロード)の名が刻まれた墓を見ながら、心の中で(つぶや)く。何処か遠くを見るような目はコレクションが増えた喜びとは縁遠く、(むな)しさすら感じさせた。

 

 冷たい風がヒュゥッと吹き抜けて、赤いマフラーがバサバサ揺れる。刀を大地に突き立てたまま、騎士はしばし物思いに(ふけ)る。

 

(次なる来客が訪れるのは何十年……いや何百年先になるだろうか)

 

 長い静寂が訪れる事を予感して、城の中へと戻っていく。

 

 ……そう遠くない未来に新たな来客が訪問する事を、この時彼は知る(よし)もない。

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