いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
人里から離れた山奥の秘境……森に囲まれた場所に大きな城がそびえ立つ。
その城は遠い昔に放棄されたものらしく、外壁はボロボロに
上空をカラスの群れが飛んでおり、城壁に
長年放置され、廃墟と化した城……その奥にある謁見の間で、一人の男が大股開きで玉座に腰掛けている。
その者は背丈二メートルほど、フルプレートの鎧に身を包んだ騎士だった。装甲はダークブルーに染まり、鎧の
マントは羽織っておらず、ボロボロの赤い布をマフラーのように首に巻いたままぶら下げていた。体格は細身でスラッとしていて、騎士でありながら忍者のような風格を漂わせる。ダークヒーローという呼び名が似合う貫禄もあった。
この城の唯一の住人らしき黒騎士が、玉座に座ったまま黙り込んでいると、ザッザッと何者かの足音が聞こえる。それも一人や二人ではなく、五十人はいるようだ。
足音は謁見の間の入口近くまで来てピタッと止まる。城主の反応を待つかのように沈黙する。
『……何者だ』
黒騎士が足音の主に問いかけた。その声は若い男性のものだったが、マイク
騎士の呼びかけに応じて、一人の男が謁見の間に入ってくる。
男は黒のタキシードを着てマントを羽織った、黒髪の若い男性だ。目鼻立ちが整っていて、色男の雰囲気がある。八重歯が牙のように
部屋の外には彼の部下と思しき数十人の男が待機していたが、全裸にボロボロの布切れを腰に巻いており、ガリガリに
男は謁見の間をカツカツと歩き、騎士から少し離れた場所まで来て一旦足を止める。
「貴方が不滅の黒騎士……最強の
相手の素性を確かめようと、名を口にして問いかける。
『
騎士が
「
男が頭を下げて自分の名を明かす。初対面の相手に対する礼儀を払おうと、丁寧なですます口調で接する。彼が
『……その吸血鬼王とやらが、それがしに何の用だ』
黒騎士がこの場に来た用件を問う。あまり歓迎している風ではない。
「単刀直入に言いましょう。ブレイズ……貴方をスカウトしに来ました。我が主アザトホース様は貴方を高く買ってらっしゃる。ぜひ我が軍に迎え入れたいと、そう
吸血鬼王が主君の名を口にして、古城を訪れた目的を明かす。黒騎士を自軍に引き入れたいという大魔王の意思を伝える。
「黒騎士ブレイズ……その力を全知全能たる我が主のために振るえる事、光栄に思いなさいッ! こんなチャンス、二度とありませんよ! 何しろあのお方は滅多に他者の力をお認めにならない……その大魔王様のお眼鏡に
マントをバサッと開いて両腕を左右に広げたポーズを取ると、大魔王に仕える事を上から目線で命令する。主君に実力を認められるのは困難だった事、黒騎士がその条件を満たした事を告げて、誘いを受けるべきだと
男の言葉を黙って聞いていたブレイズだったが……。
『……
沈黙を破るように言葉を発する。口数は少ないが声に明らかな怒気を
「……は? 今、何と」
吸血鬼王が聞き間違いかもしれないと思い、慌てて聞き直す。黒騎士が主君の誘いを断るはずがないという考えが根底にあった。
『……失せろと言ったのだ』
黒騎士が改めて言い直す。聞き間違いでも何でもなく、男に謁見の間から退出するよう命じる。
『この不死騎王……貴様ら
大魔王に仕える意思がない事を明確に伝えた。欲しければ力で勝ち取ってみろと挑発的な言葉を吐く。魔王軍の幹部相手に一切
黒騎士は玉座から立ち上がると、
「グッ……」
吸血鬼王がギリギリと割れんばかりの力で歯
本当の実力差はともかく、彼にとって黒騎士は格上の相手ではない。にも関わらずそのような人物に敬愛する主君の好意を踏み
「よくも……よくも言いやがったな!! このクソ野郎がッ!! 許さねえ! 絶対許さねえぞ!! そこまで言うなら、望み通り力ずくで引きずり出してやる!!」
胸の内に湧き上がった怒りを声に出してぶちまけた。これまでの紳士然とした態度をかなぐり捨てて、汚い言葉を早口で
話を終えると両手の
「死ねぇぇぇぇぇぇええええええええーーーーーーーーッッ!!」
死を宣告する言葉を発すると、両腕を左右に広げたポーズのまま敵に向かって走り出す。鋭い爪で相手を引き裂こうともくろむ。
『……
ブレイズは右手に持っていた刀を両手に持ち替えると、掛け声らしき言葉を吐く。その瞬間彼の姿がフッと消えた――――。
吸血鬼王の真横を一陣の突風が吹き抜けると、彼から数メートル離れた背後に刀を振り下ろした構えのブレイズが姿を現す。刃には何かを斬ったらしい血痕が付着する。
「……なっ」
吸血鬼王が言葉を言いかけた瞬間、彼の首に一本の赤い線が走る。
線が通った箇所が切断面となり、断面から上の首がズルリと滑るように落下して、ゴトリと床に転がり落ちる。残された胴体は首から大量の血を噴き上げた後、糸が切れた人形のように前のめりに倒れて動かなくなる。
ブレイズが相手の生死を確かめようと、倒れた体に近付いた時……。
「クワァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」
突如吸血鬼の首がけたたましい奇声を発する。
ブレイズはすかさず左手を斜め上に突き出して、吸血鬼の口の中にガッと指を突っ込む。
『……地獄の炎に焼かれよッ!!』
そう叫ぶや
「ギャアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」
紫の炎に包まれた吸血鬼王が断末魔の悲鳴を上げる。騎士の手から放たれた炎はかなりの超高熱であったらしく、吸血鬼の頭は十秒と
……後には首のない死体だけが残された。
(……この程度の実力で幹部を名乗れるとは、魔王軍の質も
想定を下回る相手の弱さに黒騎士が深く落胆する。敵ながら魔族の劣化ぶりを嘆く。
吸血鬼が完全に息絶えると、彼の死体があった場所の真上に青い光が集まっていく。それはやがて一つの宝玉へと変わっていき、ゆっくり降下していって黒騎士の手元に収まる。
(これが、魔王軍の幹部が死ぬたびに現れるという
吸血鬼王を倒した証であるそれを、ブレイズはひとまず所持しておく事にした。
「ウアア……」
両者の戦いを謁見の間の入口で見ていた
(何トイウ事ダ……アスタロト様ノ倍ノ強サヲオ持チニナラレタ我ラガ王ガ、コウモアッサリトオ
魔物の一人が黒騎士の実力に戦々恐々となる。大悪魔の名を引き合いに出して、かなりの実力者であるはずの主君を
『さて……』
敵を仕留めたブレイズが後ろを振り返る。謁見の間の入口でオロオロする吸血鬼の大群を遠巻きに眺める。彼らの出方を
『下級の
戦うか退くか、逃れられぬ選択肢を突き付けた。
「ウッ……ウアアアアアアアアッ!」
吸血鬼達が情けない悲鳴を漏らしながら全速力で逃げ出す。五十人ほどいた男達が我先にと争うように城の出口に向かって走っていき、一目散に城から出ていく。そのまま戻ってこない。
主君の仇を討とうと思う者は一人もいない。力の差は歴然としており、戦いを挑んでも無駄だという考えがあった。
(魔族に忠義の概念など、ありはしないか……)
彼らの気骨の無さにブレイズがフゥーーッとため息を漏らす。
『……』
再び床に転がった死体に目をやり、あれこれ考えていた。
◇ ◇ ◇
城の裏手にある広大な敷地……そこに集団墓地があった。
比較的新しい墓石の前で、ブレイズがスコップを手に取り土を掘り起こしていた。墓碑に名は刻まれていない。
騎士のすぐ
土の中に棺桶を入れられるスペースが出来上がると、騎士が乱暴に棺桶を放り込む。スコップで土を被せて埋めると、墓碑に刀でササッと名を刻む。
(……また一つ、墓が増えた)
冷たい風がヒュゥッと吹き抜けて、赤いマフラーがバサバサ揺れる。刀を大地に突き立てたまま、騎士はしばし物思いに
(次なる来客が訪れるのは何十年……いや何百年先になるだろうか)
長い静寂が訪れる事を予感して、城の中へと戻っていく。
……そう遠くない未来に新たな来客が訪問する事を、この時彼は知る