いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
ワルプルギスを倒した魔王一行は次なる宝玉を求めて旅を続けていた。宝玉のありかが書かれた地図を頼りに、八つめの宝玉があると推測された山に足を踏み入れる。
山は非常に大きかったが、それほど
一行が宝玉があると推測された場所を目指して歩き続けた時……。
「ここから先に進んじゃダメっ!」
何者かがそう叫びながら、山道
一瞬敵が現れたかもしれないと警戒して一行が身構える。
一行の前に現れたもの……それは背中に蝶の羽を生やした手のひらサイズの少女、『
「妖精か……先に進むなとは、どういう事だ?」
ザガートが発言の真意を問う。相手が危険な存在ではないと知り警戒を解く。他の仲間達も現れたのが敵でなかった事に深く安堵する。
「私はプリム……この山に住む妖精。他にも仲間がいるけど、ここから離れた場所にいる。私はいつもここに隠れてて、山を通ろうとする旅人がいたら注意してあげるの」
妖精がまず手始めに自己紹介する。山に住む一族であった事、旅人に忠告する役目を
「この道をまっすぐ進むと、廃墟となった城が見えてくる……そこは絶対入っちゃダメ! あそこにはブレイズという
山道の奥に古城があった事、そこが危険な場所であった事を教える。恐ろしい騎士がいた事実を伝えて、足を踏み入れないよう忠告する。
「不死の黒騎士ブレイズ……もしや!?」
その名を耳にしてレジーナが真っ先に驚く。
「
王女が明らかに知っているらしき反応を見せたため、なずみが問いかける。
「城の本棚にある書物に書かれていた……不滅の黒騎士ブレイズ・アングラウス! 黒き鎧を
王女が書物から得た知識を
「ヤツはかつて東の国から大陸に渡った
黒騎士がニッポンの出身であった事、ハデスと契約して生身の肉体を捨てた事、長い間廃墟の城に
「ヤツは
黒騎士が魔族とは異なる存在であった事、勇者ですら仕えるべき
どれほど強いかは戦ってみなければ分からないが、王女の話を聞く限りではザガートやアザトホースに匹敵する大物と思わせる貫禄があった。妖精が戦いを挑めば殺されると警告を発したのも
「姐さん、よく分かったッス」
「さすがレジペディア。おかげで助かる」
なずみとザガートが解説してくれた王女に感謝する。
「そうか……ハハッ、照れるな。ってか……レジペディアって何だ!!」
レジーナは
「何日か前、魔王軍の幹部が部下を
王女の話が終わると、妖精プリムが再び口を開く。古城に魔族の幹部が攻め入って黒騎士に倒されたであろう事を伝える。
「フゥーーム……」
妖精の話を聞いて、ザガートが思わず声に出して
(恐らくこの山にあった八つめの宝玉は、城を攻めたという魔族の幹部が持っていたものだ。そいつが騎士に敗れたとすれば、宝玉は騎士の手に渡ったかもしれない)
宝玉の所在について思いを
「プリムよ……忠告してくれた事には感謝する。だが俺達の旅に必要な宝が、ブレイズの手に渡ってしまった可能性が高い。戦うにしろ戦わないにしろ、一度会っておく必要がある」
やがて考えがまとまると、思い立ったように口を開く。情報提供に対する感謝の念を伝えながらも、それでも
「それに
黒騎士が大魔王よりは弱いだろうと考えて、そうであれば恐れる必要はないと私見を付け加えた。
「そう……そこまで言うなら、もう止めないわ。私は見送る事しか出来ないけど、貴方達の無事を祈ってる。死なないでね」
魔王の言葉を聞いてプリムが諦めた口調になる。一行を城に向かわせないよう説得するのを断念し、せめて彼らが命を落とさないよう願う。
話が終わると一行は再び山道を歩き出す。八つめの宝玉を黒騎士が持っているだろうと考えて、彼がいる城を目指す。
プリムはその場に残り、笑顔で手を振って彼らを見送る。危険な死地へと向かう一行の無事を祈る。
(……それに)
一行の姿が完全に見えなくなると、ふと心の中に思いを抱く。
(それにもしかしたら……貴方達だったら、彼が長年求め続けた『仕えるべき主君』になれるかもしれない。ううん、きっとなるって、そう願ってる。だって彼は……ブレイズはいつか望みが叶うと信じて、千年待ち続けた。それなのにいつまで
彼らならば、騎士が待ち続けた千年の
◇ ◇ ◇
妖精プリムと別れた一行は八つめの宝玉がある古城を目指して進む。緑の景色が何処までも広がる森の中をひたすら歩く。
木々の隙間から木漏れ日が
森の出口に行き当たると、目の前に大きな城がそびえ立つ。プリムが言っていた古城である事は疑いようがない。外壁はボロボロに
辺りはシーーンと静まり返っており、人の気配は感じられない。それがより不気味さを増す。
「ここがヤツのいる城か……」
廃墟となった城を眺めながらザガートが口にする。じっくりと
「いきなり
レジーナがニヤニヤしながら言葉を掛ける。以前ダンジョンに入らず外側から破壊した話を持ち出して魔王をからかう。
「……お望みとあらば、そうしてやる」
ザガートが王女の言葉に乗っかるように右手を前方に差し出す。
「ま、待て! 今のは冗談だッ! ほんのちょっとからかっただけだ! お願いだから、もう二度とあんな真似はしないでくれ! 後生だ! 頼む!!」
魔王が本気で実行に移す素振りを見せたため王女が慌てて止めに入る。男の腕にしがみ付いたまま、無茶な行動をやめるよう懇願する。
「分かった。ならやめよう」
魔王が王女の言葉に素直に従う。正面に掲げた右手をサッと下に降ろす。
男が提案を聞き入れた事に王女がホッと一安心する。前回のような事にならなくて本当に良かったと胸を
(もっとも……王女が止めに入らずとも、本気で
ザガートが、最初から城を壊すつもりが無かった考えを胸中に抱く。過去の自分がやらかした行動を間違いだったと内心深く反省する。
(ちまちまと洞窟に足を運ぶのは魔王らしくないと思っていた。だが自分の目で見なければ確かめられない情報もある。今後判断は慎重に行わねばなるまい)
力押しだけでは解決しない出来事もあると、そう結論付けた。
「そうと決まったら、いつまでもこんな所におっても仕方あるまい。さっさと城に入ろうではないか」
魔王が城を壊す気がないのを見て、鬼姫が城内に進むよう提案する。
城の入口に近付いていくと、黒い何かが周囲を見張るように徘徊しているのが見えた。
大人のライオンより
チーターは魔王の姿を目にすると、真っ先に倒すべき獲物と見定めたように走っていく。
「グルルゥゥゥゥァァァァアアアアアアーーーーーーーーッ!」
大きく口を開けてジャンプし、鋭い牙で相手の
「ゲヘナの火に焼かれて消し炭となれ……
ザガートが相手に手のひらを向けて攻撃魔法を唱える。男の手のひらから
「ウギャァァァァアアアアアアーーーーーーッ!」
全身を灼熱の業火で焼かれる痛みにチーターが悲鳴を上げた。火球が直撃した衝撃で後ろに吹っ飛んで地面に叩き付けられると、火だるまになりながらジタバタと体を激しくのたうち回らせる。十秒と
「この程度では肩慣らしにもならん……先を急ぐぞ」
ザガートが魔獣の死を侮辱するように吐き捨てた。氷のように冷徹な眼差しで「フンッ」と鼻息を吹かすと、城内に向かってズカズカと歩く。他の仲間達も彼の後に続く。
(敵を殺す時だけは、
スイッチが入ったような態度の切り替えぶりに鬼姫が妙な気分になる。他人に対する気遣いと、敵に対する情け容赦のなさ、二つの性格を
◇ ◇ ◇
一階の大広間に
部屋の中央に開けろと言わんばかりに箱が置かれた構図は見るからに怪しい。熟練の冒険者なら真っ先に罠の可能性を疑う所だ。
「わぁ師匠! 宝ッスよ、宝っ! きっといいモノが入ってるッス!」
なずみが興奮気味に鼻息を荒くしながら箱の前まで走っていく。罠が仕掛けられているとは微塵も考えておらず、さっさと
「待て、なずみッ! その箱に触るなッ!!」
ザガートが強い口調で警告を発する。男の言葉に驚いた少女の体がビクッと震えて、箱を開けようとした手が止まる。
魔王はズカズカと歩いていって箱の前に立つと、疑うような眼差しでじーっと眺めていたが……。
「フンッ!」
物凄い力で蹴られた箱が吹っ飛んでいって床をゴロゴロ転がり、強い衝撃で壁に叩き付けられた。
「おんどりゃあ! テメエら、よくも俺様を蹴飛ばしてくれたなッ!!」
鉄の箱がいきなり人間の言葉を話す。自力で魔王の方に向き直ると、蹴られた事に激昂しながらピョンピョン跳ねる。
「うわあ! た、宝箱が喋ったッス!!」
鉄の箱がまるで自分の意思を持ったように喋りだした事になずみが驚く。
「宝箱に擬態した魔物……ミミックだ。もし不用意に開けていたら、頭からバックリ食われて、バリバリと骨まで噛み砕かれていた。ヤツは冒険者の肉が大好物だからな」
ザガートが生きた箱について解説する。敵が化けていた事を瞬時に見抜いて、自分が止めなければ少女が
「ここで待っていれば、誰かが開けに来ると踏んでいたが……まさか蹴られるとは夢にも思わなかった」
ミミックが獲物を待ち構えていた事を明かし、正体を見破られた事を深く残念がる。
「だがまあ良い……こうなったらそこの頭に
不意打ちに失敗してもめげずに、魔王を仕留める事を宣言する。
「全身の血を抜かれて息絶えるがいいッ!
死を宣告する言葉を発して攻撃魔法を唱える。
ミミックの開いた口から紫に輝く光線が、魔王に向けて放たれた。
「
ザガートが両手で
紫の光線は魔法の結界に触れると、飛んできた方角へと跳ね返された。そのまま魔法の唱え主であるミミックに命中する。
箱型の魔物が紫の光線を受けると、彼の頭上に巨大な
「カッ!!」
掛け声を発すると、手にした鎌を真下にいる魔物めがけて振り下ろす。ザシュッと肉が切り裂かれたような音が辺り一帯に鳴り響く。
「ギャアアアアアアアアアアッッ!!」
縦
一仕事終えた死神は満足したようにケタケタと歯を動かして笑うと、うっすらと姿が薄れて消えていく。
(即死魔法のスペシャリストである俺に即死魔法で挑んだのが、そもそもの間違いだ……)
ザガートは血まみれになった宝箱の死体を眺めながら、敵の戦術の
「もう城内に敵はいないようだな。よし、先に進もう!」
大広間に敵の姿が見当たらないため、すっかり油断しきったレジーナが意気揚々と前に一歩踏み出す。
「待てっ!」
ザガートが警告の言葉を発しながら、慌てて王女の右腕をガッと
「何だ、急に!!」
引き止められた事にビックリしながら後ろを振り返る。
「聞こえないのか? この音が……」
敵の気配を察知したらしきザガートが真剣な顔付きになる。そっと息を潜めたような小声になる。
「何も聞こえな……」
王女がそう言いかけた時、ズルッ……ズルッ……と奇妙な音が何処からか鳴り出す。それは雨で水浸しになった動物の死骸を床に引きずったまま歩くような音だ。最初は小さかったが、だんだん大きくなる。
しかも音が聞こえた方角は一つではない。大広間へと通じる回廊、その至る所から聞こえた。
やがて音が大きくなると、回廊の入口に人影らしきものが立っているのが見えた。
「……ああっ!!」
人影の姿を目にしてルシルが悲痛な声で叫ぶ。
そこにいたのは腐敗が進行し、全身の皮膚がドロドロに溶けた、動く全裸の死体……ゾンビと呼ばれる怪物だ。頭頂部は
全身は暗めの茶色に染まり、雨に濡れた泥のように体の表面が溶けていたため、一見すると泥人形のようにも見える。ただ強烈な腐敗臭が漂ったためゾンビだと分かる。
自分の意思を持っていたカナミと異なり、完全に心を無くした、ただの動く死体だ。
ゾンビは一体や二体どころの話でなく、
「さっきの戦いの騒ぎを聞き付けて集まってきたようだ……」
ザガートが苦虫を噛み
ゾンビ達は走れないらしく、非常に歩くのが遅い。足を引きずったままノロノロと進む。だが確実に一行へと近付いており、このまま何の手も打たなければ彼らの
「業火よ放て……
ルシルが先手を打つように攻撃魔法を唱える。集団の先頭にいた一体めがけて火球を放つ。
「ウアアアアアアアアッッ!!」
火球が直撃したゾンビが地面に倒れてのたうち回る。全身を炎に包まれたままもがき苦しんだが、すぐに動かなくなる。
だが先頭の一体がやられてもゾンビ達は
「
ルシルが攻撃魔法を連続発射する。低威力の一撃でも確実に仕留められるため、威力を増すための詠唱を省略し、数に任せた戦術に切り替える。
ゾンビは一体、また一体とやられたが、
「私達も行くぞ! うおおおおおおっ!!」
レジーナが気勢を上げながら敵に向かって駆け出す。両手で握った一振りの剣を縦横無尽に振り回して、ゾンビの群れをズバズバと切り裂く。
鬼姫となずみも彼女の後に続いて、手にした武器で一体ずつ敵を片付けていく。
そうして四人の女が戦った時、ゾンビ達の背後から何かが飛んでくるのが見えた。
「何だ!?」
ゾンビとの戦闘の最中に何かがスゥッと視界を横切った事にレジーナが驚く。
鳥か、コウモリか、はたまた妖怪の
部屋の中を飛んでいた物体をよく見てみると、半透明に
「あ……あれはゴースト! 西洋の幽霊の化け物ッス!!」
なずみが空を飛んでいた魔物の名を口にする。それはゾンビと並ぶ有名な
ゴーストの群れは全部で二十体ほどおり、大広間の天井を好き勝手に飛んで遊ぶ。
ゴーストはスペクターと違って触れられても害は無いが、ゾンビとの戦いの最中に視界を横切られるだけでも集中力を
「ええい、西洋のお化けどもッ! こっちに来るでない! 我は……我は東の妖怪の王じゃぞ!!」
鬼姫がヤケクソ気味に刀をブンブン振りながら大声で叫ぶ。いくら彼女でもゾンビにたかられるのは嫌らしく、表情に
「魔王よッ! さっきから見てばかりおらんで、お主も戦わぬか! お主が本気を出せば、この程度の連中など一網打尽じゃろう!!」
後ろで見ているだけで戦おうとしない魔王に苦言を
(フム……彼女の言う事も一理ある。仲間に戦闘経験を積ませるつもりでいたが、さすがにこの数を相手にしては、そんな悠長な事を言ってられなくなった)
魔王が鬼姫の言葉に同意するように
「悪しき魂よ……聖なる光に焼かれて浄化せよッ!
正面に手のひらをかざして魔法の言葉を唱える。魔王の手のひらから金色に輝く極太レーザーのような光が発射された。男は
「アアアアアアアアッッ!!」
「ウワァァァァアアアアアアーーーーーーッッ!!」
「オオオオオオッ……」
ゾンビもゴーストも粒子状に分解されて
さっきまで
「これでこの城にいたアンデッドは全て片付いたのか?」
戦いが終わると、レジーナが念を押すように問いかけた。
「いや……まだ一人残っている」
ザガートは小声でそう
魔王の言っていた一人というのが