いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第74話 絶対に死なない男

『……ヌゥゥウウウ』

 

 不死騎王が(うめ)き声を漏らしながら上半身を起こす。刀を床に突き立ててゆっくり体を起き上がらせると、二本の足でしっかり立ち上がって体勢を立て直す。

 

 不死(アンデッド)であるがゆえに疲れを感じないはずだが、体がよろめいており、息が上がっている。接近戦では()が悪いと踏んだのか、()(かつ)に近寄れず、その場に(とど)まる。肉弾戦を警戒したようにジリジリ後退する。大物であるはずの男が完全に劣勢へと追い込まれた。

 

 相手が接近戦を挑もうとしないのを見て、ザガートが魔法戦に切り替えようと思い立つ。

 

「ゲヘナの火に焼かれて、消し(ずみ)となれッ! 火炎光弾(ファイヤー・ボルト)ッ!!」

 

 相手に手のひらを向けて攻撃魔法を唱える。魔王の手のひらから煌々(こうこう)と燃えさかる(なし)くらいの大きさの火球が黒騎士めがけて放たれた。

 

『カッ!!』

 

 黒騎士は刀を横()ぎに振って飛んできた火球を一刀両断する。上下真っ二つに切り裂かれた火球がそれぞれ異なる方角に飛んでいって、床と壁に激突する。

 

『今度はこちらから行かせてもらうッ!』

 

 相手の技を防ぐと反撃に転じる(むね)を伝える。何かの技を放とうとするように刃の先端を魔王へと向ける。

 

怨獄死霊刃(おんごくしりょうじん)ッ!!』

 

 技名らしき言葉を叫ぶと、刃の先端から紫の炎に包まれた禍々(まがまが)しい骸骨が魔王に向けて放たれた。全身が揃った骨格標本のような人型の骸骨(スケルトン)は、水面を泳ぐように空を飛んでいく。

 怨霊と思しきそれは魔王に触れると執拗に(まと)わり付いたり、両手で抱き締めたりする。だが骸骨にいろいろされても何も起こりはしない。

 

「フンッ!」

 

 魔王が鼻息を吹かせながら右手をブンッと横に振ると、怨霊は一瞬でバラバラになり、煙を散らしたように消えていく。

 

「残念だったな……俺に即死攻撃は通用せん」

 

 腕組みしてふんぞり返りながら、自身に骸骨の呪いが効かなかった事を告げる。

 怨霊は触れた者の命を奪う恐ろしい技であったようだが、魔王には全く被害を与えられない。

 

 ザガートは次なる行動に移ろうと、右手を正面にかざす。

 魔王が魔法を唱える素振りを見せたため、ブレイズが(さき)んじて回避行動を取ろうと横に走り出す。

 

「逃がさんッ! 地獄の鎖よ、我が敵を捕縛せよ……鮮血鉄鎖(ブラッド・チェイン)ッ!!」

 

 魔王が相手を捕らえる意思を強い口調で伝える。呪文の詠唱を行うと、ブレイズの真下にある床に巨大な円形の魔法陣が浮かび上がり、そこから六本の鉄製の鎖が触手のように伸びてきた。

 血のような赤色をした鎖は、自ら意思を持ったように騎士の腕、足、胴体にグルグルと巻き付く。そのまま離そうとしない。

 

『何ッ!?』

 

 相手の術で動きを封じられた事にブレイズが困惑する。力ずくで引き()がそうとしたものの、鎖はビクともしない。騎士も相当のパワーがあったはずだが鎖の強度はそれを(ゆう)に上回る。

 

鮮血鉄鎖(ブラッド・チェイン)の強度は術者のパワーに比例する……その鎖は俺より力が上でなければ破壊する事は出来ない」

 

 ザガートが相手を縛った鎖について解説する。魔法で生成された鎖である事は一目で判別が付いたものの、頑丈さの理由はそれだけではない。魔王より強くなければ外せないという事は、実質的には誰にも外せないのと同じだ。

 

「ブレイズ、いくらお前でもこの一撃はかわせまい……これで終わりにさせてもらうッ!」

 

 身動きが取れなくなった相手に戦いを終わらせる事を告げる。

 

「悪しき魂よ……聖なる光に焼かれて浄化せよッ! 不死破壊(ターン・アンデッド)ッ!!」

 

 攻撃魔法を唱えると、魔王の手のひらから金色に輝く極太レーザーのような光が放たれた。光は黒騎士に触れると(まばゆ)いオーラとなって全身を包み込む。そのまま彼の体を秒速で分解する。

 

『グオオオオオオオオオオッッ!!』

 

 浄化の光で焼かれる苦しみにブレイズが咆哮(ほうこう)を上げる。如何(いか)に不死騎王と言えど魔王の術の威力には抵抗できないらしく、なす(すべ)なく体が砕けていく。手足の指先から粒子状に分解されていき、十秒と()たないうちに(チリ)となって消滅する。

 光が完全に消えてなくなると、彼の所有物だった刀だけが残された。

 

「やった……やったぞ! 不死騎王を倒したッ!!」

 

 黒騎士が跡形もなく消え失せた姿を見てレジーナが歓喜の声を漏らす。魔王が勝利を得たと確信して、嬉しさのあまり大はしゃぎする。

 他の仲間達も魔王が勝った事を素直に喜び、王女と一緒にバンザイする。「やった、やった」と声に出してはしゃいだり、満面の笑みを浮かべて抱き合う。魔王が強敵と戦って殺されなかった事に深く安堵する。

 

(ブレイズを仲間に出来ず殺してしまったが……こればかりはやむを得まい。わざと威力を弱めた魔法では(かす)り傷にもならなかった)

 

 当のザガートは黒騎士を浄化した事を内心悔やむ。配下にする事が目的で挑んだ戦いだったが、悠長に手加減できるほど弱い相手ではなく、こうなったのは仕方のない事だと自分に言い聞かせた。

 

 せめて今は仲間の喜ぶ姿を目に焼き付けよう……そう思いながら穏やかな笑みを浮かべて、四人の女を遠くから眺めた時。

 

 

 

「……!?」

 

 突然何らかの気配を感じて、慌てて後ろを振り返る。

 さっきまでブレイズが立っていた場所に目をやると、彼が分解されて散ったものである黒い(チリ)が、自ら意思を持ったように空中を動き回り、一箇所へと集まっていく。まるでビデオを逆再生したようにブレイズの体が修復されていき、やがて不死破壊(ターン・アンデッド)を食らう前の状態へと戻る。

 完全に復活を遂げると、床に落ちた刀を拾い上げる。

 

「なん……だと」

 

 黒騎士が復活した姿を見てザガートが困惑の色を隠せない。強い驚きの感情が顔に出て、精神的ショックを受けたような棒立ちになる。一瞬何が起こったか全く理解できず頭が真っ白になる。

 

 黒騎士は浄化の魔法を受けて消滅した。跡形も残らず破壊されて、間違いなく死んだのだ。

 スライムのように(コア)を打ち損じた訳でもなければ、物凄い再生能力を使ってもいない。時間を巻き戻した形跡もないし、本人が蘇生術(リザレクション)を唱えた気配もない。

 存在そのものを消されるレベルの破壊を受けたのに、そこから再生してみせた事に、彼がどんな原理で復活したか分からず、ザガートは動揺せずにいられなかった。

 

 復活した当のブレイズは何事も無かったように平然としている。粉々に破壊された事も、そこから再生した事も、全て想定通りと言わんばかりの態度を取る。

 しばらく茫然(ぼうぜん)と立ち尽くす魔王を遠巻きに眺めていたが、やがて思い立ったように口を開く。

 

『よくぞ我を倒した……と()めてやりたい所だが、ここまでの事であれば、今まで戦った連中の中にも出来た者は数人いる』

 

 黒騎士の口から放たれた言葉……それは魔王が特別な事を何も成し遂げていない残酷な事実を突き付けた。

 

 黒騎士が(よみがえ)った事に(にわ)かに動揺したザガートであったが、すぐさま冷静に立ち返る。相手の不死身の原理をどうやって確かめようか、あれこれ考える。

 

(……あれを試してみるか)

 

 不死身の能力の正体を知るためにも、まずは行動を起こさなければなるまいと思い立つ。

 

「ゲヘナの火に焼かれて、消し(ずみ)となれッ! 火炎光弾(ファイヤー・ボルト)ッ!!」

 

 正面に手のひらをかざして攻撃魔法を唱える。魔王の手のひらから煌々(こうこう)と燃えさかる(なし)くらいの大きさの火球が黒騎士めがけて放たれた。

 

『……』

 

 火球が迫ってきてもブレイズは何もしない。最初に使われた時は刀で迎え撃ったものの、今回はそれすらやらない。ただ相手の技を受け切る気でいたような棒立ちになる。

 

 火球が直撃して天井まで届かんばかりの巨大な炎が噴き上がると、騎士の体が灼熱の業火に包まれる。炎はメラメラと音を立てて激しく燃えたが、ダークブルーの鎧はビクともしない。太陽の中心温度に匹敵する超高熱に(さら)されても、表面が(かす)かに焦げただけで、肝心の金属部分は全く溶けない。せいぜい首に巻いた赤いマフラーが燃えた程度で、ブレイズが痛みを感じた様子も無い。

 

 炎は時間にしておよそ一分半ほど燃えたが、やがて騎士を焼くのを諦めたように急速に鎮火する。炎が消えてなくなると、鎧に付いた焦げ跡がスゥーーッと薄れていく。一度は消し炭になったマフラーが、時間を巻き戻したように瞬時に再生する。またも攻撃を受ける前の状態へと戻る。

 

「完全なる不死の存在になった……か。なるほど、だいたい分かった」

 

 ブレイズが攻撃魔法を無傷で耐え(しの)いだ姿を見て、ザガートが()に落ちた表情になる。何故不死騎王が死なないか、その理由を突き止めたらしく、ウンウンと納得したように(うなず)く。

 

「な、何が分かったんだ!? 私達には全然分からないぞッ! 私達に分かるように教えてくれ、ザガート!!」

 

 レジーナは状況が全く理解できずチンプンカンプンになる。自分達には分からないのに、魔王一人だけが分かったらしい流れに、のけ者にされたような気になり、不死の原理の説明を強く求めた。

 

「分かるようにも何も、言葉の通りだ。ブレイズは異界の邪神ハデスと契約して不死の命を得た……つまり契約主であるハデスを倒さぬ限り、今この場にいるブレイズを何百回、何千回倒そうと、生き返る……という事だ。たとえ宇宙が消し飛ぶ威力の爆発が起きようと、ヤツだけは平然と生き返るだろう」

 

 王女の問いに魔王が答える。異界にいるハデスこそが実質的な不死騎王の本体であり、今この場にいる体は端末に過ぎないと教える。どれだけ強い一撃を食らっても絶対に死なない事を分かりやすい表現で伝えた。

 

(ブレイズの戦闘力はアスタロトの十五倍であるバハムートと同等……その上(さら)に不死の命まで得たとあっては、今まで誰も服従させられなかったのも道理という訳だ)

 

 純粋な戦闘能力の高さに加えて、完全な不死である事……それこそが彼が千年間主君を求めたにも関わらず、誰も実力を認められなかった理由だと結論付けた。

 

「な、ならばそのハデスとやらを倒せばよいではないかッ!!」

 

 鬼姫が邪神の討伐を提案する。不死騎王が死なない理由が邪神との契約であるならば、邪神を倒せば不死騎王を倒せると、そう安直に考えた。

 

「ハデスはアザトホースと同等か、それ以上の魔王かもしれんのだぞ? いくら俺が強いからといって、一人の男を仲間にする(ため)だけに、おいそれと敵対勢力を増やすようなマネは出来ん。ワルプルギスの本体を叩くだけのとは訳が違う」

 

 鬼姫の提案を魔王が即答で却下する。ハデスを恐ろしい冥界の王であると想定し、ブレイズを倒すためだけに敵に回すのは割に合わないと鬼姫のアイデアの不毛さを説く。

 現状、ハデスという冥界の王はザガートと敵対していない。ブレイズという一人の男を不死にした、たったそれだけだ。一人の男を仲間にするためだけに敵対勢力が一つから二つに増えるのは、道端のお金を拾おうとして腕ごとライオンに食われるようなものだ。

 

(とは言え、ここでブレイズを仲間にするのを諦める訳にも行かん。それでは今まで彼に挑んだ連中と同じになってしまう……さて、どうしたものか)

 

 ザガートが今後の方針について考える。(あご)に手を当てて眉間(みけん)(しわ)を寄せて気難しい表情になる。「フゥーーム」と声に出して(うな)る。

 鬼姫の提案を却下はしたが、不死騎王を配下にしたい欲求までは捨てていない。何としても彼を()(ごま)にしたいからこそ、どうすれば負けを認めさせられるか、その方法を考える。

 

『どうした? 魔王よ、やはり貴殿も今まで戦った連中同様、それがしを屈服させられぬのか……』

 

 ブレイズが(あお)るように問いかけた。これまでのやり取りを見ていて、魔王が諦めてしまうかもしれないと考えて、まだ戦う意思があるかどうか聞いて確かめようとする。

 彼の口調には、もしかして魔王ならやれたかもしれない期待、それが無駄に終わりそうだという落胆、それらの感情が(こも)っているように聞き取れた。

 

 今後についてあれこれ考えたザガートであったが……。

 

「……やめだ」

 

 唐突にそんな言葉を口走る。何かについて考えるのが馬鹿らしくなったように無気力な表情になり、目を閉じて下を向いたまま「フゥーーッ」とため息を漏らしながら、やれやれと言いたげに首を左右に振る。

 すぐに顔を上げると、今度は自信に満ちた笑みを浮かべて、腕組みしてふんぞり返りながら仁王立ちする。

 

「決めたぞ、ブレイズ……俺はこれから貴様の攻撃に対し、一切抵抗しない。回避行動も取らないし、防御もしない。むろん防御結界も張らない。つまり完全な無防備、無抵抗の丸裸という訳だ。そんな俺に持てる力の全てを出して立ち向かい、見事俺を殺してみせろ」

 

 仰天の言葉が口から飛び出す。不死騎王が繰り出す全ての攻撃を、何もせず棒立ちのまま受け切るというのだ。

 

『な……一体どういう事だ、魔王ッ!! 貴殿、何を考えている!?』

 

 魔王の宣言に不死騎王が困惑する。相手の真意が全く(つか)めず、声に出して問わずにいられない。

 冷静に考えれば魔王の言葉はとてもおかしいものだ。ヤケクソになって頭がおかしくなったと思われても不思議はない。

 いくら実力差があるとはいえ、不死騎王はかなりの強者だ。その彼の攻撃を無抵抗のまま受ければ、普通は無事でいられるとは考えにくい。

 (はた)から見れば自殺願望が芽生えたとしか思えない。不死騎王が狼狽するのも無理はない。

 

「先に言っておくが、俺は不死身でも何でもない。攻撃が通ればちゃんと血が出るし、致命傷を受ければ命だって落とす。だがお前に俺は殺せない……何故ならお前の攻撃がいくら命中しても、俺には一切傷を付けられないからだ。その事実の証明を(もっ)て、お前に敗北感を味あわせてみせよう」

 

 ザガートが発言の真意について説明する。自身の打たれ強さに絶対の自信を抱いており、相手の技を最後まで受け切る事によって心を折る作戦なのだという。

 

「ブレイズ……お前が死なないように、俺も死なない男だという事を、今から教えてやる!!」

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