いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
不死騎王ブレイズを仲間に加えた魔王一行は新たな宝玉を求めて旅を続ける。廃墟となった城を後にすると、宝玉のありかが書かれた地図を頼りに次なる目的地へと向かう。
山を降りた一行が平地を歩いていると、広大な森へと行き当たる。木と木の間は大きく離れていて普通に通れる広さだが、木はかなりの高さまで育っていて、四方八方に大きく枝を伸ばす。木と木の枝が互いに絡ませ合ったまま葉っぱが空を覆っていて、天然の迷宮と化す。葉っぱの隙間から
ふと目をやると森の入口に木の看板が立てられてあり、根元に白骨化した死体が転がっている。
ルシルが看板の前まで走っていって文字を読み上げる。
「魔瘴の森に足を踏み入れた者は、自分の姿をした化け物に襲われる。命が惜しくば引き返せ……」
そこに書かれていたのは森に入ろうとする者への警告に他ならない。恐らく白骨死体となった人物が立てたのだろう。
『我が主よ、どうなされるおつもりで?』
ブレイズが主君の判断を
「地図の情報が正しければ、九つめの宝玉は森を進んだ先にある。恐らく旅人に化けて襲ってくる魔物とやらが魔王軍の幹部なのだろう。そうとなれば避けては通れない」
不死騎王の問いに魔王が答える。危険である事は重々承知したものの、その危険を生み出した張本人が宝の持ち主であると考え、
「相手の姿に化けるとは、何とも不愉快な魔物じゃのう。とはいえ、こちらには魔王級の力を持った者が三人もおるのじゃ。どんな敵が来ようと負けはすまいて」
鬼姫が自分達のパーティの強さに絶対の自信を抱く。敵の能力を知らされて嫌そうな顔をしたものの、どんな能力の相手でも恐るるに足らないとタカを
魔王は女の発言に壮大な前フリ、ある種の死亡フラグを感じたが、あえて口には出さない。
「そうと決まったら森の中に入るッス」
なずみが先に進むよう提案する。
◇ ◇ ◇
一行はだだっ広い森の中をただ歩く。敵の襲撃を警戒し、何かあってもはぐれないように互いに距離を詰めたまま歩き続ける。怪しい者がいないかどうか周囲を観察する。
森の中は暗かったが、不気味さを感じさせるものではない。木と木の間から吹いてくる涼しい風、それによりカサカサと揺れる木の葉が自然の美しさを感じさせる。
「魔族と戦う旅の途中でなければ、ピクニックでもしたい所じゃのう」
平和な空気のあまり鬼姫が緊張感のない発言をした時……。
「……ムッ!?」
ザガートの表情がサッと
直後、森の
「気を付けろ、みんな! 敵の攻撃が始まったようだ!」
ザガートが戦いの始まりを告げて、仲間に警戒するよう
「分かったのじゃ!」
「了解ッス!」
『御意に!』
仲間が口々に魔王の呼びかけに答える。だがその仲間の声は数メートル離れた場所から聞こえており、
はぐれないよう一緒に行動したのに、霧に覆われた途端互いの位置関係がバラバラになったのだ。濃霧で仲間の姿が見えないため、完全に孤立した状態になる。まるで地面が勝手に動いて彼らを移動させたようだ。
(さっきから一歩も動いていないのに、互いの距離が開いている……そう錯覚した訳ではなく、本当に離れているッ! これも敵の仕業なのか!?)
敵の術中に
これからどうすべきか思案しようとした時、霧の中から数人の人影が彼に向かって歩いてくるのが見えた。
「……ッ!!」
目の前に現れた人物の姿を見て、魔王が一瞬顔をこわばらせた。
そこに立っていたのは、はぐれた仲間の姿ではない。魔王と全く同じ姿をした六人の男が、彼を取り
(自分の姿をした化け物に襲われるとは、こういう事か……)
ザガートがこれまでの出来事を振り返って
「ウォォォォオオオオオオーーーーーーーーッッ!!」
魔王が納得した時、六人の男の一人が大声で叫びながら走り出す。両手をグワッと開いたポーズのまま突進して相手に
「フンッ!」
魔王が鼻息を吹かせながら右手による手刀を繰り出す。男の手が触れると、魔王の姿に化けた敵は煙を散らしたようにバラバラになって消える。まるで手応えが感じられない。
「ウオオオオオオーーーーーーーーッ!!」
「クワアアアアーーーーーーッ!!」
他の五人が次々に奇声を発しながら飛びかかる。やはり魔王の姿からかけ離れた力任せの行動を取る。
魔王はパンチとキックを繰り出して、襲いかかってきた偽者を的確に撃退する。男の攻撃が当たると偽者は煙を散らしたように消えていったが、最初の六体が消えた後にまた別の六体が姿を現す。
(襲ってきたのは実体のない、ただの幻影だ……この白い霧が幻覚を見せているのか?)
魔王の姿に化けた敵がまやかしである事に、ザガートが気付いた瞬間……。
「……ムッ!?」
突如何らかの異変を感じて、慌てて後ろを振り返る。
魔王の視線が向けられた方角からププッと何かを発射する音が鳴って、細長い金属の針のようなものが飛んできた。魔王はそれを素手でキャッチする。
(最初に幻覚に襲わせて相手の油断を誘い、その
手元にある金属の針をまじまじと眺めながら、敵の戦術に思いを
(なかなか面白い戦術だが……俺には通用せんッ!!)
敵の戦術に関心を抱きながらも、自分を殺す事は出来ないと断言する。
目をグワッと見開いて不敵な笑みを浮かべると、手元にある針をグシャッと握り潰す。
「我、魔王の名において命じる……呪いよ消え去れッ!
正面に右手をかざして魔法の言葉を唱えると、手のひらから金色に輝く小さな光が放たれた。光はどんどん大きくなっていき、
数秒が経過して森を覆っていた光が消えてなくなると、あちこちから立ち込めていた白い霧が晴れて、偽者の姿もいなくなっていた。幻覚を発生させていた敵の術を魔王が打ち消したのだ。
視界が晴れて森の中が見渡せるようになると、魔王の仲間達は互いに数メートル離れた状態でバラバラに配置されていた。敵の姿は見当たらない。
「みんな、無事かっ!」
ザガートが仲間の安否を確かめようと声を掛ける。
「オイラは平気ッス!」
『おお我が主、無事であらせられたか!』
なずみとブレイズが魔王の呼びかけに真っ先に答える。自分が無事である事を伝えようと、元気に手を振る。
彼らも自分の姿をした幻影に襲われ、金属の針を飛ばされたはずだが、的確に対処したのか傷を負った様子は無い。その点はさすがと言うべきか。
「私は大丈夫ですが、鬼姫と王女様が……」
ルシルが不安そうに顔を
「うう……やられてしまった」
「こんな手に引っかかるとは……我ながら情けないのう」
口々に敵の能力を見破れなかった自分の
「どうか自分を責めないで下さい……今傷を治します」
ルシルが
「精霊よ、傷を
回復の呪文を唱えると、二人の全身が青い光に包まれる。体中に刺さった針が肉に押し出されたように
二人は傷を治してくれた行為に感謝し、ルシルは
「敵の姿が見えぬが……もう倒してしまったのかの?」
鬼姫が森の中を見回しながら問いかける。
「いや……まだだ」
魔王がそう口にしながら、ある一点に視線を向ける。明らかに何かに
二人が見ていた場所には何も無い。ただの地面があるだけだ。だが
数秒が経過した後、魔王が見ていた地面から黒いスライムのような物体がモコモコと地上に
スライムは自ら意思を持った存在である事をアピールするようにウネウネと不気味に
黒いスライムはしばらくこちらの様子を
一連の動作が終わった時、スライムはある人間の姿へと変わっていた。
「ああっ!!」
スライムが化けた男の姿を見て、女達が声に出して驚く。それもそのはず、そこに立っていたのは
「スライムが魔王の姿に化けた……だと!?」
レジーナが思わず口に出す。頼もしい仲間と同じ姿をした敵が現れた事に戦慄せずにいられない。幻影が襲ってきた時もかなり手強かったが、今目の前にある脅威はそれ以上だ。敵が何をしでかすか分からない恐怖が胸の内にあり、無意識のうちにジリジリと後ずさる。
「幻術を破った事は
魔王に化けたスライムがニヤリと笑う。最初の罠を破った事を称賛しながらも、それが前哨戦に過ぎないと告げる。
片言でない流暢な言葉を喋る辺りからは、知能の高さが
「俺は魔王軍十二将の一人、メタモルファ……大魔王様からこの地を任された幹部よッ!!」
自らの素性を声高に述べる。宝玉を託された魔物の一体である事が確定的となる。
「他のスライム属は捕食した相手の能力を取り込む……だが俺は違うッ! わざわざ捕食せずとも、見ただけで相手の能力・記憶・性格をコピーする。目の前にいる相手と同じ強さになる……それがメタモルファの恐ろしさよッ!!」
同種族を引き合いに出して、自分が彼らとは別種の強さを持っていると伝える。
「化けた相手と同じ強さになる……か。事実だとすれば、恐ろしい話だ。だがメタモルファよ、どうするつもりだ? いくら俺と同じ強さになったとしても、お前は一人……こっちは強い戦士が三人いる。このまま戦いを始めれば、三人がかりでお前をボコボコにするハメになる」
ザガートが相手の能力に関心を寄せながらも、頭の中に湧き上がった疑問を口にする。数の優劣がある限り、勝敗は
魔王の言葉に呼応するように、ブレイズと鬼姫が彼の両側に立つ。三人の
「一人なら……な」
偽の魔王が意味ありげな言葉を吐いて
次の瞬間、彼の左右にある大地の土がモコモコと盛り上がり、そこから二体の黒いスライムが顔を出す。スライムはそれぞれ鬼姫とブレイズの姿に化ける。やはり色調が暗かったが、それ以外は本物と変わらない。
「メタモルファが三体……だと」
ザガートが思わず声に出す。さしもの魔王もこの展開は予想外だったらしく、驚きの感情が顔に出る。
「フフフッ……」
魔王に化けたスライムが不敵に笑い出す。男に精神的ショックを与えられた満足感が表情となって表に出る。
他の二体に化けたスライムも「ヒヒヒッ」「ハハハッ」と笑う。本物とかけ離れた下品な笑い方をする。性格をコピーしたと言っていたが、彼らの素の性格は品性下劣だったようだ。
「そっちが三体なら、こちらも三体でやらせてもらう……これで数の優劣は無しだ!!」
彼らのリーダー格となった偽魔王が、戦力が互角となった事を告げるのだった。