いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
これまで地図を頼りに宝玉を集める旅をしてきたザガート達だったが、自分達が今いる大陸には宝玉が残っていないと知る。残りの宝玉を得るためには海を渡る必要があり、船を手に入れなければならないと思い立つ。
宿の主人から港町の存在を知らされた一行は、そこを次なる目的地と定める。宿に一晩泊まって朝食を済ませると、
宿を出た一行は開けた平地を西に向かって歩き続ける。一言も言葉を
地図を見た限り宿から港町までは二十キロほど離れていたが、まっ
このまま何事もなく進めば良いのだが……そんな考えが
「………」
集団の先頭を歩いていたザガートがピタッと足を止める。地平の彼方を凝視したまま一歩も動かない。
魔王が異変に気付いたのだろうと察して、他の五人も足を止める。魔王が見つめた方角に目をやる。
皆の視線が一点に
「ああっ!」
ルシルが悲壮感に満ちた声で叫ぶ。その直後、地平の彼方に小さなモゾモゾした物体が姿を現す。物体はこちらに近付いて来ており、それと共にザッザッと足音が鳴り出す。軍隊の行進のように足音が揃っており、統率された集団だと分かる。
距離が近付くにつれて、彼らの姿がハッキリ見えるようになる。
姿を現した物体……それは邪悪な魔物の群れだった。
右の集団はオークが五百体、左の集団はゴブリンが五百体、
魔族の集団はザガートから十メートルほど離れた場所まで来て足を止める。そこから一歩も動かない。慎重に相手の出方を
「頭数を揃えてお出迎えとは……俺の歓迎会でも開いてくれるのか?」
ザガートがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。大部隊を前にしても一切
「そんな訳ないだろう! 異世界の魔王をこれ以上先に進ませるなと、そうアザトホース様から命令を受けた! 我々はそのためにここへ来た! 我ら魔族の誇りにかけて、この命に
集団の先頭にいたオークが
「どどど、どうするんだ、ザガートッ! 敵は物凄い大軍だぞ!!」
レジーナが血相を変えて慌てふためく。敵の大部隊を前にして冷静ではいられなくなり、声を震わせて
「たわけめ……何を慌てておる。頭数を揃えただけの雑兵なぞ、魔王が全体即死魔法を唱えれば一発でカタが付くではないか」
動揺する仲間を鬼姫が
「フム……確かに
ザガートが鬼姫の言葉に同意して
「忠実なる
正面に右手をかざして魔法の言葉を唱える。すると彼の前にある大地に巨大な円形の魔法陣が浮かび上がる。それは召喚の術式であったらしく、魔法陣からズモモモモッと何かが出てくる。
「……グレーターデーモン!!」
魔王がモンスター名らしき名を叫ぶと、背丈六メートルにも及ぶ筋骨隆々とした青いデーモンが三体現れる。
「……ポイズン・ジャイアント!!」
次に名を呼ぶと、同じく背丈六メートルほどある毒々しい紫色をした裸の巨人がやはり三体現れる。
「……ボーパルバニー!!」
最後に名を呼ぶと、
魔王が召喚した者達……それはいずれもかつて敵として立ち
「我が魔王……こうして我らを召喚して頂いた事に深く感謝
グレーターデーモンの一体が
この世界の魔王アザトホースではなく、異世界から来た魔王ザガートを絶対的な主君と
「ウム……」
ザガートが満足そうに
魔王には一つの悩みがあった。それは魔王軍十二将を配下に出来ない事だ。彼らには
いずれ自分の王国を築きたい魔王にとって、戦闘力の高い部下を得られない事実は大いに頭を悩ませた。そんな彼にとってはグレーターデーモンでも十分にありがたい。
せめて王国を築いたらブレイズと鬼姫の二大側近制を
しばし物思いに
「魔王の名において命じる……我が前に立ちはだかりし魔物の大群を
マントをバサッと開いて風にたなびかせると、ゴブリン
「ははーーっ! 我らにお任せあれ!
「ザガート兄貴、あっしらの戦いぶりしかと見ててくだせえ!!」
「キキィィーーーーッ!」
主人の命を受けて魔物達が意気揚々と歓声を上げた。敬愛する王に必要とされた事を深く喜んでおり、何としても与えられた使命を
ひとしきり歓声を上げたデーモンが後ろを振り返ると、視界の先にオークの群れがいる。
「貴様ら、俺とヤるつもりか? 脆弱なオーク
デーモンが
敵に侮蔑的な言葉を浴びせられても、オーク達は怒りすら湧かない。間違いなく自分より強いであろう相手に凄まれて、ただ震えているだけだ。
「え……ええい! 貴様ら、何をひるんでいるッ! こちらは千百体、向こうはたかだか二十六体だぞッ! 数の上ではこちらが圧倒的に有利ッ! ここは見事
彼の言葉を聞いて、それまで浮き足立っていた兵達が落ち着きを取り戻す。大魔王の顔に泥を塗らないためにも、ここで引く訳には行かないとメラメラ闘争心を燃やす。
「偉大な大魔王様に、我らの忠誠を捧げるのだぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」
「オオーーーーーーーーッ!!」
先ほどのオークが天にも届かんばかりの号令を発すると、他の魔物達が
「ムンッ!」
グレーターデーモンが
「ギャアアアアアアアアーーーーーーーーッ!!」
岩のような剛拳で殴られた亜人種の群れが悲鳴を上げる。直撃を受けた者は全身が木っ端微塵に弾け飛び、原型を
「俺達も負けてられねえぜ!」
三体のポイズン・ジャイアントが大悪魔に続けとばかりに駆け出す。ザガートの仲間を巻き込まないようにという配慮から、敵軍の中心を目指して進んでいく。彼らの行く手を
「俺達の臭い息を食らえ!!」
敵軍の中心に着くや
「ギャアアアアアアアアッッ!!」
「くっ、くせぇぇぇぇええええええーーーーーーーーっ!」
「うげええええええええっ!」
ガスをモロに吸い込んだ魔物達が大声で泣き叫ぶ。ある者は吐き気を
真夏に放置した生ゴミのような腐敗臭を放つガスは、吸った者をあらゆる状態異常に
「キキキィィーーーーーーッ!!」
敵が無力化した
「……ッ!!」
ウサギに飛びかかられた最初のゴブリンが悲鳴を上げる間もなく倒れた。頚動脈をザックリ切り裂かれており、そこから真っ赤な血を噴き上げたまま数秒間ピクピクした後、糸が切れた人形のように動かなくなる。
ウサギは熟練の暗殺者のように的確に急所を狙っており、オーク、ゴブリン、レッサーデーモンを次々に狩る。ある者は無言のまま息絶えて、ある者は悲鳴を上げてもがき苦しみながら絶命する。
大悪魔、毒巨人、白ウサギは魔族の群れを次々に殺していく。魔王から特に作戦は与えられておらず、ただ目の前の敵をゴミのように踏み
それはもはや戦いなどと呼べるものではなく、強者が弱者を一方的になぶり殺しにするだけの
戦いが始まって数分が経過した頃……それまで鳴り響いていた虐殺の音がピタリと止む。
大地を埋め尽くす魔物の死体……川のように流れる赤い血。辺り一帯には鉄臭いニオイが充満する。
千百体いた魔族は文字通り皆殺しにされており、生存者は一人もいない。
ザガート配下の魔物は返り血こそ浴びていたが、負傷した者は誰もいない。皆暴力的にザコを狩っただけだ。
ひとしきり勝利の雄叫びを上げた二十六体の魔物はそれにも飽きると、主人のいた方へと帰っていく。ザガートの前まで来て足を止めると
「我が主よ……ご命令通り、魔族を始末
先頭のグレーターデーモンが、命令を遂行した事を報告する。
「フム、よくやった。お前達の働きぶりは俺の想像を
ザガートが部下に
「おお、ありがたきお言葉……」
働きぶりを
「お前達には追って褒美を取らせる。今はひとまず持ち場に戻れ」
ザガートは報酬を約束すると、大地に手のひらを向けて魔法陣を出現させる。
配下の魔物達はコクンと
やがて配下の魔物が全員いなくなると、後には死体の山だけが残された。
「師匠、凄いッス! 善の魔物を使役して、敵対する魔族を殲滅する姿は
一連の光景を目にしてなずみが歓喜の言葉を漏らす。魔王らしい実力を見せた男を
大地を埋め尽くす凄惨な死体に顔をしかめたりしない。ただただ男の圧倒的な強さに胸を
他の仲間達も反応は同じであり、皆一様に魔王を
仲間にチヤホヤされてザガートは
「………」
ただ一人レジーナだけが仲間の輪に加わらない。少し離れた場所から魔王の姿をじっと見る。先ほどの戦いを見て何かしら思う所があったのか、彼女だけが浮かない顔をする。
(善人と呼ばれていても、やっぱり魔王は魔王なんだな……もし勇者だったら、こんな戦い方はしないだろう)
男の魔王らしい戦いぶりに
過去二度世界を救った勇者は、いずれも神ヤハヴェが召喚したものだ。だが今回ヤハヴェは勇者召喚を行わない。当代においてはゼウスが召喚したザガートこそ、
だがそうであったとしても、やはりザガートは魔王であって勇者ではないのだ……王女はそう考える。
ファンタジーの王道的な勇者がやらない事を、彼は平然とやってのける。それは長所でもあり短所でもあった。ただいずれにせよ彼はただ強いだけの人物ではなく、『人類に味方する魔王の姿そのもの』だと感じさせるに十分だ。
今はただ、彼がこちら