いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第85話 クラーケンとの再戦

 ダンカンの遺品を手に入れた一行は狭い通路を通って再び川が流れる洞窟へと戻る。今度は右側の大地を六人が一列になって歩く。洞窟の奥を目指して進んでいく。

 

 十分以上歩き続けていると開けた空間が見えてくる。出口に足を踏み入れると、そこはとてつもない広さの地底湖だった。

 学校のグラウンドくらいの広さがある大洞窟に、三分の一が陸地で、三分の二が川へと繋がる湖になっている。鍾乳洞になっている天井はかなり高い。

 

 ザガート達が陸地の中ほどまで来た時、洞窟全体がゴゴゴと音を立てて激しく揺れた。それと同時に「ウォオオオーーーーンッ」とバケモノの咆哮(ほうこう)がこだまする。

 一分近く続いた揺れが収まってシーーンと静まり返ったかと思うと、湖の中央でザバァーーーンッと大きな水しぶきが上がる。水しぶきに(まぎ)れるように巨大な何かが水面に姿を現す。

 

「……クラーケンッ!!」

 

 水面に浮上した敵の姿を見てザガートが名を口にする。彼らの前に現れた巨大なアンモナイトこそ、一度は取り逃がした相手であり、この洞窟の主……そしてダンカンを死に追いやった張本人に他ならない。

 

 クラーケンは湖の中央から(きし)まで移動すると、八本の足をモゾモゾ動かして前進しながら陸へと上がる。陸地に上がり終えると、相手の様子を(うかが)うようにじっとする。時折(ときおり)からかうように触手をウネウネ動かす。前回は海上戦で遅れを取ったので、今回は陸地で戦う事に決めたようだ。

 

「………」

 

 一連の事件を起こした黒幕を前にして、(みな)の表情が怒りに染まる。これまで犠牲になった船員の無念を想像して、彼らを苦しめた化け物を許せない気持ちになる。何としても仇を取らねばなるまいと思いを強くする。

 

「ギヨギヨギヨ……何ヲソンナニ怒ッテイル? 俺ガ船ヲ沈メテ、船員達ヲ殺シタノガソンナニ許セナイノカ?」

 

 一行が怒っているのを見てクラーケンが滑稽(こっけい)そうに笑う。完全に相手の神経を(さか)()でしようとした態度を取る。

 ここに来るまでに船員の死体を見たのだろうと怒りの原因を推測して、わざと挑発するような言葉を吐く。

 

「ギヘヘヘヘッ……人間ノ命ナド、我ラ魔族ニ比ベレバ、アリンコ程度ノ価値シカ無イ……同情ニ(アタイ)シナイ、虫ケラノヨウナ連中。何ヨリ、我ラガ偉大ナ大魔王(オーバーロード)タルアザトホース様ガ、ソウ(オオ)セラレタ」

 

 下品な笑いを浮かべながら人の命を見下す。いかに人間が無価値な存在であるかを主人たる大魔王から()かれており、その教えに従っている事を伝える。

 

「オ前達モ……スグニ後ヲ追ワセテヤルッ!!」

 

 最後は死を宣告する言葉を吐いて話を終わらせた。

 それが戦闘開始の合図であったかのようにクラーケンの顔の皮膚がブヨブヨと不気味に(うごめ)く。やがて百本を超える数の細長い金属の針のようなものが顔面にびっしり生えると、プププッと音を立てて一行に向けて発射された。

 

「精霊の力よ、我を守りたまえ……魔法障壁(マジック・バリア)ッ!!」

 

 危険を感じたルシルが両手で(いん)を結んで魔法の言葉を唱える。彼女を中心として、半透明に青く光るバリアのようなものがドーム状に張り(めぐ)らされた。他の五人は急いでバリアの中に入る。

 

 ガトリングの弾の(ごと)く放たれた無数の針はバリアにぶつかってキキキンッと弾かれる。まともに受けていたらかなりの深手を負う攻撃であったようだが、障壁を貫通するまでには至らない。一分半ほど経過すると針の発射が()む。

 

「よくもダンカンを……船員のみんなを……うぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーっっ!!」

 

 攻撃が止んだと知ると、レジーナが大声で叫びながらバリアの外へと飛び出す。船員の家族を悲しみへと追いやったクラーケンを許せない怒りのあまり、感情の(おもむ)くまま敵に向かって走り出す。

 

「死ね! このクソ(たこ)がぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーっっ!!」

 

 腰に挿してあった(さや)から一振りの剣を抜いて両手で握ると、汚い言葉を吐きながらタコめがけて斬りかかる。縦一閃(いっせん)に振り下ろされた剣の刃がクラーケンの足にぶつかると、ギィインッ! と鈍い音が鳴って剣が二つに折れた。

 折れた剣の刃先がクルクルと宙を舞って地面に転がり落ちる。

 

「何ッ!?」

 

 クラーケンに攻撃が通じなかった事に王女が驚愕する。ブレイズと鬼姫がスパスパ斬った足なら自分でも斬れると踏んでいただけに、とんだ見込み違いとなった事に(にわ)かに慌てた。

 

「フンッ!」

 

 アンモナイトが当然と言いたげに鼻息を吹かせながら触手によるビンタを放つ。ショックのあまり頭が真っ白になっていた王女は避ける間もなくビンタを食らってしまう。バチィィーーーーンッ! と肉を叩いたような音が洞窟内に鳴り響く。

 

「へぶるぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁああああああああっっ!!」

 

 王女が滑稽(こっけい)な奇声を発しながら豪快に吹き飛ぶ。強い衝撃で地面に叩き付けられて横向きにゴロゴロ転がった挙句、大の字に倒れたまま手足をピクピクさせた。

 バリアを解いたルシルが慌てて駆け寄り、彼女を治癒(ちゆ)しようとする。

 

「妖刀ムラマサナラ、イザ知ラズ、ソノ辺ノ店デ売ッテイルナマクラナ剣デ俺ヲ傷付ケラレルト本気デ思ッタノカ!? バカメ!! 随分(ズイブン)()メラレタモノダナ!!」

 

 クラーケンが王女の判断の(あやま)りを怒り気味に指摘する。強豪が使う伝説の名刀と、ただのロングソードでは明確な切れ味の違いがある事実を突き付けた。

 

「自分ノ馬鹿サ加減ヲ後悔シナガラ、アノ世ヘ行ケェェェェェェエエエエエエエエーーーーーーーーッ!!」

 

 王女の頭の悪さを徹底的に侮辱すると、彼女めがけて猛然と走り出す。八本の足を器用に動かしてズルズルと蛇が()いずるような音を鳴らしながら、物凄い速さで前進する。

 クラーケンが向かっていく先には二人の女がいたが、レジーナは倒れており、ルシルは彼女に治癒魔法を掛けている最中だ。(すで)にタコの怪物は数メートル離れた場所まで来ており、今から対応を取ったとしても間に合わない。このまま彼女達はタコの餌食(えじき)になるかに思われた。

 

 だが女に迫ろうとした刹那(せつな)、ザガートが突然タコの目の前へとワープしたように姿を現す。魔王は垂直にジャンプすると、その場で横回転して回し蹴りを放つ。タコが頭に被っていた(から)にドガァッと強烈な蹴りが叩き込まれて、殻がグニャァッと鈍い音を鳴らしながらひしゃげた。

 

「バッ……ドブルァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」

 

 アンモナイトが凄まじい悲鳴を上げながらゴミのように吹っ飛ぶ。地面に叩き付けられて派手に何度もバウンドした挙句、最後は湖に落下して沈む。水しぶきが洞窟の天井高くまで上がり、水面にブクブクと泡が浮き出る。

 

「クラーケンよ……王女が抱いた怒りは俺も同じだ。俺も貴様を許さない」

 

 ゴミを見るような目で相手を見ながらザガートが怒りの言葉を吐く。表情に静かな殺意を帯びて、腕組みしてふんぞり返りながら仁王立ちする。口調は落ち着いていたが、内心に秘めた憤激は相当のものだ。

 

「貴様ら魔族には一片の生きる価値も無い……俺がアリのように踏み潰す!!」

 

 敵を抹殺する意思を高らかに宣言する。

 

 ザガートに蹴り飛ばされて湖に沈んでいたクラーケンが、ゆっくり水面に浮上する。(から)を蹴られた事による脳震盪(のうしんとう)を治そうとするかのように頭を左右にブンブン振る。意識がハッキリすると、冷静に体勢を立て直す。

 

 殻に受けた傷は彼特有の再生能力により治癒(ちゆ)されていたが、それでも受けた心理的ダメージは相当のようだ。目は恐怖の色に染まり、呼吸は荒くなり、全身をわなわな震わせた。完全に相手の強さに()(しゅく)しており、勝ち目の無さを悟った事が一目で分かる。

 

 退()くべきかどうか迷いが生じたためか、数秒間動きが固まる。魔王はその(すき)を見逃さない。

 

「ゲヘナの火に焼かれて消し炭となれ……火炎光弾(ファイヤー・ボルト)ッ!!」

 

 正面に右手をかざして魔法の言葉を唱える。魔王の手のひらから煌々(こうこう)と燃えさかる(なし)くらいの大きさの火球が放たれた。

 火球はクラーケンに触れると火が()いたダイナマイトのように爆発する。巨大なアンモナイトの体が一瞬にして炎に包まれた。

 

「ギャァァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 全身を地獄の炎で焼かれる痛みにタコが悲鳴を上げた。体が大きかったため即座に命を失うような事は無かったが、それでも炎は彼の体を激しい勢いで焼き続ける。相手の命を奪うまで消えようとはしない。ブスブスと白煙を立ち(のぼ)らせて、タコの皮膚が黒焦げになる。

 

 このまま鎮火しなければ命に関わると考えて、クラーケンが慌てて水の中に入る。そのまま湖の底に身を隠して、泳いで逃げようとした。

 

「鬼姫ッ! ヤツを水中から引きずり出せ!! ブレイズ! 陸に上がったらヤツの動きを封じろ!!」

 

 ザガートが仲間にテキパキと指示を出して役割を与える。

 

「分かったのじゃ!」

『御意に!!』

 

 二人が共に魔王の命令を受諾する。何か考えがあるのだろうと察して、男の作戦通りにやればうまく行くに違いないと確信を抱く。

 女はタコが沈んだ湖の近くにある(きし)まで走っていき、黒騎士は敵が陸に上がるのを待ち構えるように待機する。

 

「青き光よ、雷撃となりて我が敵を()ぎ払え! 雷撃龍嵐(らいげきりゅうあらし)ッ!!」

 

 鬼姫が湖に手のひらを向けて呪文を唱える。彼女の手のひらから青く光る一筋の(いかずち)が水面に向けて放たれた。雷は湖全体へと伝わっていき、水中にいる者全てを焼き殺す高圧電流となる。

 雷が落下した直後、湖の底からブクブクと泡が浮き出る。水中で感電したクラーケンが悲鳴を上げて、空気となって漏れ出たようだ。やがて水底から巨大な影らしきものが浮上してくる。

 

「グバァァァァアアアアアアアアアアッ!!」

 

 アンモナイトがたまらず大声で叫びながら水面に姿を現す。豪快に水しぶきを上げながら高くジャンプして、ドスンッと岩場に着地する。その衝撃で洞窟が激しく揺れた。

 タコの化け物は少しでも水場から離れようと、慌てて陸地を移動する。

 

『地獄の鎖よ、我が敵を捕縛せよ……鮮血鉄鎖(ブラッド・チェイン)ッ!!』

 

 ブレイズが両手で(いん)を結んで魔法の言葉を唱える。するとバケモノの真下に巨大な円形の魔法陣が浮かび上がり、そこから六本の鉄製の鎖が飛び出す。

 血のような赤色をした鎖はクラーケンの体にグルグルと巻き付いて捕縛する。バケモノがいくら力ずくで振り(ほど)こうと暴れても、ビクともしない。

 

「はらわたをブチ()けて死ぬがいい! 死光線(デス・ビーム)ッ!!」

 

 ザガートがこの機を逃すまいと攻撃呪文を唱える。相手に向けた人差し指に魔力と思しき紫の光が集まっていき、凝縮されて小さくなると、指の先端から一筋の光線が放たれた。

 光線は動きを封じられたクラーケンの足の一本を正確に撃ち抜く。その足には吸盤が生えていない。

 

「ギェェェェェェエエエエエエエエーーーーーーーーッッ!!」

 

 足を光線で撃ち抜かれたバケモノが洞窟中に響かんばかりの絶叫を発した。全身をブルブル震わせたかと思うと、熱したロウソクのようにドロドロに溶けだす。最後は完全に溶けた液体となり、水蒸気となって蒸発して跡形もなく消え失せた。

 

「どどど、どういう事じゃ!? クラーケンがスライムのように溶けてしまいおった!!」

 

 巨大なアンモナイトが(またた)く間に消滅した事に鬼姫が驚く。海産物であるはずの敵が液体となって溶けだした状況が(にわ)かに受け入れられず、困惑せずにいられない。

 他の仲間達も気持ちは同じであり、敵が不可解な死を遂げた事に(みな)が慌てる。

 

「そう……スライムだ」

 

 ただ一人敵の死に慌てないザガートが言葉を返す。こうなる事が最初から分かっていたように平然とした態度を取る。鬼姫の台詞(セリフ)に答えが混ざっていた事を冷静に告げる。

 

「巨大なアンモナイトに擬態したスライム……それがヤツの正体だ。スライムは本体である(コア)を破壊されない限り、何度でも再生する。それがヤツの再生能力のカラクリだった訳だ」

 

 クラーケンの正体について克明(こくめい)に伝える。今まで海産物に見えていたものが液体生物の擬態だった事実を明かす。

 

「あの姿に化けたのも、クラーケンと名乗ったのも、スライムの正体を隠すためだったのだろう。今までそうやって正体に気付かせない事で、不死身であるかのように振舞ってきた……そう、ダンカンに弱点を知られるまではな」

 

 敵の狙いについて説明する。巧妙に正体を隠す事で再生能力をフル活用していた戦術、ダンカンがもたらした情報が勝利へと繋がった事……それらを語る。

 

(ヤツのコアの位置を特定するのは俺でも容易では無かった……それを教えてくれたダンカンには感謝せねばなるまい)

 

 最後に心の中で船長への感謝の気持ちを述べて話を終わらせた。命がけで真実を突き止めてくれた男の勇気ある行動に敬意を抱く。

 

 魔王が考え事をしていると、クラーケンが立っていた岩場の真上に魔力と思しき青い光が集まっていく。凝縮されてガラスのような半透明の球体になると、ゆっくり降下していって魔王の手元に収まる。

 (まばゆ)い光を放つ水晶のような宝玉に山羊(やぎ)座の紋章が刻まれていた。それは大魔王の城に行くために必要な十二の宝玉の一つだ。今回十個目を入手した事になる。

 

「これで船員達の(かたき)を取れたんスね……」

 

 なずみが感慨深げに口にする。ようやく犠牲者の無念を晴らせた事に一仕事終えた達成感が湧く。だがその表情は晴れやかではない。

 

「………」

 

 他の五人も彼女と同様に表情は暗い。下を向いて苦虫を噛み(つぶ)した顔したまま一言も話さない。完全にどんよりした空気に()まれており、とても敵を倒した事を喜ぶ雰囲気ではない。

 

 敵を倒した所で死んだ人間が生き返る訳ではない。いくら仇を討てたとしても、家族を失った悲しみは()えたりしないのだ。船員の遺族がこの先も深い心の傷を負ったまま生きていく事を想像しただけで気が重くなる。

 

(エリザとの約束を果たさねばなるまい……)

 

 ザガートはポケットから懐中時計を取り出してじっと眺める。これから()すべき事に思いを()せた。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 魔王一行が港から出航して二週間が()った日の事――――。

 

 エリザが成果の報告を心待ちにしていると、何者かが家のドアをドンドン叩く。ドアを開けると一人の若い男性が小さな木箱を持って立っていた。

 

「運び屋のベンさん……どうかなされたんですか?」

 

 女が箱を持っていた男の名を口にする。顔見知りの宅急便屋であったらしく、自宅を訪れた理由を聞く。

 

「アンタ()てに荷物が届いてるよ。(ウワサ)の救世主サマからだ。受領印にサインしてくれ」

 

 運び屋のベンが率直に用件を述べる。魔王からエリザ宛てに木箱が送られた事を伝えて、書類にサインするよう頼む。エリザが受領印にサインすると、木箱をテーブルに置いて家から出ていく。

 

 テーブルに置かれた木箱の(ふた)をエリザが開けると、中に懐中時計と手帳、そして一枚の紙が入っていた。

 

「ああ……これは!!」

 

 懐中時計を手にして女が思わず大声で叫ぶ。それは(まぎ)れもなく彼女の夫ダンカンが終始大事そうに持ち歩いていたものだ。(げん)に裏には彼の名が刻まれている。

 夫の所有物が送られた事で、魔王が約束を果たした事が明白となる。

 

 今度は懐中時計と一緒に入っていた手帳に目を通す。夫が家族に宛てたメッセージを見て胸が詰まる思いがした。彼が最後まで自分と息子に会いたかった気持ちを知り、思わず泣きそうになる。

 

 最後は箱の底にあった一枚の紙を取り出し、声に出して読み上げる。

 

 

 

 貴方の夫は最後まで立派に船長として(つと)めを果たした。

 

 ――――ザガート。

 

 

 

 ……手紙にはそう書かれていた。それは魔王がエリザに宛てた言葉だ。文章は短かったが、彼女の夫を(とむら)おうとする切実な思いが伝わる。

 

「ううっうっ……うっ」

 

 エリザが思わず声に出して泣き出す。瞳に大粒の涙が浮かんでボロボロと(あふ)れ出す。手紙を強く握り締めたまま床に(ひざ)をついて、()(えつ)を漏らして泣く。

 夫が死んだ事実は悲しいが、それでも彼の遺品が戻ってきた事、魔王が彼の苦労を(ねぎら)った事、それらに幾分(いくぶん)心を救われた気がした。夫の死は無駄にならなかった……そう思えた。

 

(貴方、お帰りなさい。ようやく……ようやく家に帰れましたね)

 

 心の中でそう(つぶや)く。今はただ夫の魂が安らかに眠れるよう願う。

 

「ママ……」

 

 母親が泣く姿を部屋の入り口で息子のケンが見ていた。しばらく様子を(うかが)っていたが、やがて我慢できずに飛び出す。

 

「ママ……泣かないで!!」

 

 大声で叫んで母親に抱きつく。少しでも彼女の悲しみを和らげようと、頭をナデナデする。

 エリザはそんな息子を抱き締めたまま泣き続けるのだった。

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