いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
魔王を乗せた船がクランベリーの港から出航して一週間が
クランベリーから海を挟んで対岸に位置する西大陸の港町ミントベリー……その灯台に一人の男がいた。
男が双眼鏡で海の彼方を眺めていると、一隻の船が港に向かってきているのが見えた。
「ああっ……!!」
視界に映り込んだ人物の姿に灯台守が思わず大きな声で叫ぶ。
船に乗って港にやってくるその男こそ、
灯台守は慌てて階段を下りて灯台の外に出ると、港に向かって全力で駆け出す。港にいた数人の男達の前まで来て足を止める。
「た、大変だッ! 例の救世主サマが、船でこっちに向かって来ている!!」
「何!? 東の海峡はクラーケンのせいで渡れないんじゃなかったのか!?」
男の一人が驚いた顔をしながら言葉を返す。とても信じられないと言いたげにポカンと口を開けた。
二つの港をまたいだ海峡は巨大なアンモナイトが封鎖したはずなのだ。その海を渡ってきたなど、
「ああ、そのはずだ! だがその東の海峡を越えて、魔王様がやって来なさったんだ! これはひょっとすると、ひょっとするかもしれねえ!!」
灯台守が
話を聞いていた男の一人が急いで高台に上がり、鐘をカンカン鳴らす。
鐘の音を聞き付けてたくさん人が集まってくる。何事かとざわついて港が騒然となる。
「おおーーーーーいっ! クランベリーから船が来たぞぉぉぉおおおおーーーーーー! 急いで迎える
鐘を鳴らした男が
◇ ◇ ◇
ザガート達の乗る船が港に近付くと、荷下ろしを手伝う作業員が船の到着を待っていた。双眼鏡で船を目視してからすぐ作業に取りかかったため、
船を桟橋に着けて、風に流されないよう
「ガハハッ……ようみんな、久しぶりだな。相変わらず元気そうじゃねーか」
ボルツが満面の笑みを浮かべたドヤ顔で歩きながら、顔なじみであるらしき港の作業員達に声を掛けた。
「よう、じゃねえよ! 全く! 事前の連絡もなしにいきなり来やがって! 何がガハハだ、この野郎! だいたい東の海峡はバケモノのせいで渡れねえはずだろ! テメエ、どうやって来やがった!!」
作業員のリーダーらしき男が、ツッコミを入れるように早口で言葉を返す。クラーケンが海峡を封鎖した事実を指摘して、海を渡ってきた手段を問う。
作業員の問いかけにボルツが待ってましたとばかりに口元をニンマリさせた。
「へへっ……オメエらも知ってるだろうが、このお方は異世界から来た魔王サマよ。彼があのクソ野郎のバケモノをブチのめしてくださったってワケだ」
照れるように指で鼻
「じゃ、じゃあもう東の海峡を船で渡ってもアイツに襲われたりしないのか!?」
話を聞いていた作業員の一人が目を輝かせた。長い間自分達を悩ませ続けた魔物がいなくなったらしい事実に期待せずにいられない。
「……ま、そういう事になるわな」
ボルツが作業員の言葉を肯定して、海峡の航行が自由となった事を告げる。
「うっ……うぉぉぉぉおおおおおおーーーーーーーーっっ!!」
作業員の男が感極まるあまり大きな声で叫ぶ。彼の言葉を皮切りに、その場にいた全員が祝福の歓声を上げた。船の到着でざわついた港が一転して歓喜の色に染まる。
「魔王様、ありがとう! 本当にありがとう!!」
「ありがてえ……これでまた商売ができるってえモンだ」
「異世界から来た魔王、アンタは港を救った神様だっ!」
「よっしゃあ! 今夜は
男達にチヤホヤされて、魔王も悪い気はしない。
(クランベリーの町人達も、さぞや喜んだだろう……)
対岸にある港の連中も同じように歓喜しただろうと考えて、気分が高揚する。町に戻らないため彼らが喜ぶ姿を目にする機会は無いが、それでも間違いなくあったはずの光景を脳裏に思い描いて胸を
その晩は町を挙げてのお祭りとなる。皆が飲めや歌えのドンチャン騒ぎに
ザガート達は酒場へと連れて行かれて、無数の荒くれ
ザガートは他の皆が宿にいる間一人だけ抜け出して宅急便屋を訪れる。ダンカンの遺品をエリザに送る手続きを済ませると、再び宿に戻る。
(今日はもう遅い……残りの用事は明日やる事にして、ゆっくり寝るとしよう)
自室のベッドに寝転がると、目を閉じて静かに眠りに
◇ ◇ ◇
ミントベリーの宿に泊まった日の翌朝……時計の針が九を回った頃。
宿を出たザガート達一行は街中をブラブラ散策する。六人で表通りをぞろぞろ歩きながら、様子を
昨日のお祭り騒ぎに比べれば街の様子はだいぶ落ち着いたが、それでも表通りはたくさんの人がいて
東の海峡を渡れるようになった事で、これまでの商売の遅れを取り戻そうという意気込みがあったのだろう。
「魔王よ、これから何処に向かうのじゃ? まさか何の目的もなくブラブラと散歩している訳ではあるまい」
街中をトボトボ歩きながら鬼姫が退屈そうに声を掛けた。魔王が無意味な行動をするはずが無いと考えて、散歩の目的を問う。
「ああ……行き先は決めてある」
ザガートが案ずるなと言いたげに言葉を返す。女が推測した通り、明確な目的地がある事を告げる。
一行がしばらく歩いていると、武器屋の看板をぶら下げた建物が見えてくる。それほど大きくはないが、レンガ造りの立派な店だ。かなり繁盛しているらしく、ガラス
一行が近付いた時、買い物を終えたらしき数人の冒険者が店内から出てきた。魔王はすれ違いざまに手を振って彼らを見送ると、ドアを開けて店の中に入る。
魔王一行が店内に入った姿を見て、カウンターにいた一人の男が早足で駆け寄ってくる。
「おお、あなた方は例のご一行様でございますね? お
店主を名乗る男が魔王の前まで来て頭を下げる。温和そうな笑顔を浮かべてニコニコする。その男は頭にターバンを巻いたトルコ風の褐色肌の商人で、丸々と太っている。だがただの脂肪でなく筋肉も混ざっているようで、体格の良さを思わせた。
魔王は彼の腕っぷしの良さを見て、商人だけでなく冒険者として武器調達も行っているかもしれないと見抜く。
「それで今日はどんなご用件で?」
トルネオが店を訪れた理由を聞く。
「ここは冒険者が
ザガートが男の問いに答える。この店の店主が
「お教えしてもよろしいですが……タダという訳には参りませんなぁ」
店主がニタァッといやらしい笑みを浮かべる。親指と人差し指で輪っかを作り、お金のサインを見せて対価を要求する。情報が欲しければ武器を買ってくれと、そう言っているのだ。
「ふむ……それならレジーナの剣が折れたからちょうど良い。彼女に新しい武器を買ってやるとしよう」
ザガートが男の要求をすんなり
「店主、そこの女騎士が自在に振り回せる剣の中で一番切れ味が良いものを頼みたい」
王女を指差して、彼女が扱いやすい武器を売ってくれるよう頼む。
「そうですね……それなら、これがよろしいかと思います」
店主はそそくさと武器の陳列棚に行くと、
王女が鞘から抜くと、刀身から
「おお、なんだこれはッ! 店主よ、これは何という名前の剣なんだ!!」
剣が放つ輝きにレジーナが思わず歓声を上げた。明らかに普通の剣とは異なるオーラに見とれるあまり、子供のようにはしゃぎながら武器の名前を問う。
「それはミスリルソードと呼ばれる剣です。名前を聞けばお分かりでしょうが、魔法金属
トルネオが武器について解説を行う。ファンタジーでは有名な特殊金属で造られた事、それにより女性でも扱いやすい重さである事を伝える。
「一人前の冒険者が手にする剣と言えば、ミスリルソードか
重量があるもう一つの剣を引き合いに出して、緑色の剣の方が彼女に向いていると判断した事を付け加えた。
「決めたぞザガート! この剣が欲しい! ぜひ私の愛剣にしたい!!」
レジーナがプレゼントをもらえる子供のように目をキラキラ輝かせて、名剣を買ってくれるようせがむ。エメラルドグリーンの輝きがすっかり気に入ったようだ。
「……金貨五枚で良いか?」
ザガートが異空間から中身がぎっしり詰まった白い袋を取り出し、中から五枚の金貨を取り出して店主に手渡す。
「ヒッヒッヒッ……まいどあり」
店主が金貨を受け取って上機嫌になる。高価な剣を売れた満足感でニコニコ笑顔になり、魔王に対して好印象を抱く。
「不公平じゃ! 魔王よ、王女だけでなく
鬼姫が急にだだをこねる。レジーナだけが武器を買ってもらえた事に、自分もなんか欲しいと不満を漏らす。
(子供じゃあるまいし……見た目二十七歳、中身に至っては何百年も生きてるおばさ、もとい女が言う事か!? まったく……そもそもお前にはマサムネがあるだろうが!!)
女の唐突な要求にザガートは頭が痛くなる。
本来なら「コラ! わがまま言うのやめなさい!」と
店内を見回しながら、どうすべきかしばし思案したが……。
「よし、鬼姫。お前にはこれをやろう」
そう言うや否や、陳列棚から一本の棒を取り出して女に手渡す。それはザガートが元いた世界の魔法少女アニメに出てきそうな、おかしな外見のステッキだ。側面にあるボタンを指で押すと、ブブブッと音を鳴らして高速で振動する。とても実用的な武器には思えない。
「こんな子供のオモチャ、いらぬわッ!」
鬼姫が大声で怒鳴りながらステッキを床に叩き付ける。ドガッと大きな音が鳴って床に叩き付けられたステッキが横向きにゴロゴロ転がる。
(しまった! 店の商品を壊してしまったか!?)
女が
「本当にいらないのか?」
ザガートが床に落ちたステッキを拾い上げて、
「……やっぱくれ」
鬼姫は一瞬迷ったように黙り込んだ後、しょうがないと言いたげな態度で受け取る。たとえ使い道のないオモチャでも、男がくれたものだから……そんな心の葛藤が
「鬼の
なずみが手で口元を押さえたままプププッと笑う。おかしなオモチャをプレゼントされた仲間を
「やかましい! この棒の有効的な使い道を、たった今思い付いたわ!!」
鬼姫はからかわれた事に憤慨すると、少女を後ろからヘッドロックしたまま左手に持っていた棒の先端を
「あああああーーーーーーっ! やややややめてくださいッスススススーーーーーーっ!!」
少女が小刻みに震えたまま暴力行為をやめるよう懇願する。身体的苦痛はそれほどでも無いが、精神的屈辱はかなりのものだ。
だが鬼姫の行為が止む事は無い。それは単なるからかいへの復讐だけでなく、変なオモチャを買われた
(……よい子のみんなはマネしちゃダメだぞ)
ザガートは誰に向けたかも分からない謎のメッセージを心の中で
「それで……聞きたい情報というのは何でございましょう」
武器屋の店主が気持ちを切り替えたように話を持ち出す。ザガートがこの店に来た本来の目的である、魔物の情報について話を始める。
「フム……これを見てもらいたい」
ザガートはそう口にすると
「これは魔王軍の幹部の居場所を示す地図だ。俺達は大魔王の城に行く手がかりを見つけるため、一体ずつヤツらを狩っている」
魔王が地図の用途について説明する。これに
「そして、ここだ」
そう言ってある一点を指差す。
魔王が指差したのは西大陸の砂漠のド真ん中にある×印だ。ミントベリーから西に十キロほど離れた場所にある。
「ここにも魔王軍の幹部がいる事を示す×印がある……もしこの近辺にそれらしい魔物がいる
砂漠に大魔王の手下がいる可能性を伝えて、情報を聞き出そうとする。
「フゥーーム……」
ザガートの話を聞き終えて、店主が
「確証は無いが……でも十中八九、ヤツがそうだろう」
思い当たるフシがあるように
「絶対とは言いませんが……でもまず間違いなくそうだろうと思える魔物が一体います」
ザガートの方へと向き直り、頭の中に浮かんだ心当たりについて話す。
「一ヶ月ほど前からでしょうか……西のグロシアーナ砂漠に巨大なミミズの魔物が出没するようになりました。砂と同じ体色をしたそれを、人々はサンドウォームと呼んでいます」
砂漠に現れるようになった魔物の話をする。
「サンドウォームは十匹ほどいて、砂漠を通ろうとした旅人を襲います。おかげで我々は砂漠を通れなくなった……屈強なギルドの冒険者が討伐に向かったのですが、
魔物が複数体いた事、砂漠の往来を邪魔する事、冒険者が倒そうとして失敗した事……それらの事実を明かす。
「その時逃げ帰った者達が言ったのです。サンドウォームの中に一匹だけ体色が紫で、他の個体より
サンドウォームのボスらしい魔物を見たという、生存者の目撃証言を語る。
「彼らの見間違いでないなら、紫のサンドウォームは砂漠の魔物のボス……地図に居場所が記された魔王軍の幹部に違いありません」
冒険者が見た紫の魔物こそ、ザガートが探し求めた相手に違いないと私見を述べて話を終わらせた。
(地図に記された場所に紫のサンドウォームがいたなら、そいつが魔王軍の幹部で間違いないだろう……)
魔王がこれまで得た情報を頭の中で整理する。いくつかの客観的事実により、
「ありがとう店主、それだけ話が聞ければ十分だ。砂漠にいる魔物が大魔王の手下である可能性が高い。次はそこへ向かう事とする」
トルネオに対する感謝の言葉を述べると、テーブルの上に広げた紙の地図を折り
『我が主よ、何処へ向かわれるので?』
一人で店から出ようとする魔王に黒騎士が行き先を問う。
「お前達は先に宿に帰って出発の
ザガートはそう告げるとドアを開けて店から出るのだった。
◇ ◇ ◇
魔王は表通りに面した建物の
その店はさっきの武器屋と違い、とても古びた木造の家屋だ。店内の
ザガートが引き戸をガラガラと開けて中へ入ると、店内は暗い。あちこちに珍妙な骨董品、石、首飾り、武器などが置いてあったが、どれも
ただならぬ雰囲気を漂わせた店の奥から、腰の
「おや、これはとても珍しいお客さんが来たねぇ。こんなおかしな店に、一体何の用だい? ヒッヒッヒッ……」
ザガートの姿を見て不気味な笑顔を浮かべて笑う。
その老婆は西洋の童話に出てくる魔女の格好をしていた。帽子を被り、木の杖をついて歩き、眼鏡を掛ける。顔は特徴的なワシ鼻で、声はしゃがれている。年は八十代くらいに見えたが、百歳を超えていたかもしれない。
店の怪しさもかなりのものだが、老婆の不気味さはそれ以上だ。並みの冒険者なら彼女の姿を見ただけで逃げ出すだろう。
「この店に例の薬があると聞いて来た。それを購入したい」
ザガートが店を訪れた用件を伝える。老婆の恐ろしさに
「ヒッヒッヒッ……あれが欲しいんだね? 分かったよ、ちょっと待ってな」
店主であろうと思われる老婆が悪魔のような笑みを浮かべて笑う。魔王の要求する商品がすぐに分かったらしく、一旦店の奥の方へと入っていく。ゴソゴソと
「……アンタが欲しいものはこれだろ?」
そう言って手に持っていたものをカウンターの上に置く。
老婆が持ってきたのは透明なガラス
「ハイパードリンク……飲めば五分間の間だけ全ての能力が十倍になる、魔法の薬。かつてはある国で生産されていたが、今は製法が失われたため、現存するのはこれが最後の一つと言われている」
老婆が瓶に入った液体の説明を行う。
それはかつて
「……いくら出せば良い?」
ザガートが商品の値段を問う。
「……アンタなら、その商品の価値が分かると思うがねぇ」
老婆が意味ありげな言葉を吐いてニヤリと笑う。あえて商品の値段を口にしない。相手が物の価値を見抜けるかどうか、試しているようだ。
「金貨で十枚……いや二十枚出そう」
魔王はそう言うや否や、異空間から中身がぎっしり詰まった白い袋を取り出し、中から金貨を二十枚取り出してカウンターの上に置く。
消耗品でしかないオレンジの液体に、ミスリルソードの四倍の価値を
「アンタも相当変わりもんだねぇ……今までこの薬を買いに来た冒険者は何人かいたけど、そこまでの価格を提示したヤツぁ誰もいなかったよ。ま、アタシがそいつらに売らなかったから今ここにあるんだけどね」
老婆が魔王の豪胆ぶりに
「よっしゃ! 良いだろう……この薬、アンタに売ってやるよ! 持ってお行き!!」
商談が成立した事を伝えると、テーブルに置かれた金貨を豪快に手でかっさらい、お金を入れる袋の中に乱暴に放り込む。
ザガートは目的のものを得られた満足感でニッコリ笑うと、薬が入った瓶を手に取り大事そうにポケットにしまう。店の出口に向かって早足で歩きだそうとする。
「でもアンタが魔法を唱えれば、これと同じ効果が得られるんだろ? それなのにわざわざ高い金を出して欲しがるなんて、不思議な話だねぇ」
老婆が頭の中に湧き上がった疑問を口にする。男が何故薬を欲したか、意図が理解できずに首を傾げた。
「話せば長くなるが……」
ザガートが後ろを振り返って小声で
「いや、
老婆が申し訳なさそうに手を振って謝る。用途を聞くのは本意ではない意思を伝える。
ザガートは老婆の意を