いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第87話 サンドウォームとの戦い

 宿に戻って出発の()(たく)を済ませたザガート達はミントベリーの町を出る。魔王軍の幹部がいるだろうと(もく)される砂漠を目指して進んでいく事となる。

 

 ミントベリーの西に広がる平原を一時間ほど歩き続けると、視界の彼方に砂地が見えてきた。草原の切れ目から西に広がる砂地こそ、西大陸最大面積を誇る大砂漠だ。武器屋の店主はグロシアーナ砂漠と呼んでいた。

 

 頭上に太陽が燦々(さんさん)と照り付けており、砂地からは猛烈な熱気が漂う。砂漠とその周囲の気温は非常に高く、空気は(かわ)いている。この周辺一帯の砂漠化が進行している様子を(うかが)わせた。

 見渡す限り何処までも砂の景色が続いていて、村もオアシスもありそうな気配がしない。()(かつ)に足を踏み入れたら命を落としそうな印象を見る者に与える。

 

「魔王よ、どうするのじゃ? ラクダも馬車もなしにこんな所を通ったら、普通なら死んでしまうぞ」

 

 鬼姫が何の下準備もせずに進めば命を落とす危険性を訴えて、今後の方針を問う。

 

「問題ない……ちゃんと考えてある」

 

 ザガートが心配するなと言いたげにニヤリと笑う。

 

「聖なる力よ、我が旅を助けたまえ……補助移動(アシスト・ウォーク)ッ!!」

 

 正面に右手をかざして魔法の言葉を唱える。魔王の手から金色に輝く光が放たれて、六人の体をバリアのように覆う。光はスゥーーッと薄れて消えていき、目に見えなくなる。

 

「体の表面を覆うようにバリアを張った……この結界内部では気温は一定に保たれ、脱水症状を引き起こさない。どれだけ歩いても足が痛くならないし、歩く速度も少しだけ速くなる。どんな悪路だろうと足を取られる事もない」

 

 魔王が呪文の効能について説明する。仲間を覆った不可視のバリアに特別な力があり、徒歩での旅路を助けてくれるのだという。

 話を聞いていたレジーナは「なんて都合のいい魔法だ!」と声に出しかけたが、野暮(やぼ)なツッコミだと考えて慌てて口をつぐむ。

 

「これで砂漠を安全に渡れますね」

 

 砂地の危険性が無くなった事を確信してルシルがニッコリ笑う。他の者達も彼女に同意するように(うなず)く。皆が安心すると(おく)する事なく前に一歩踏み出す。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 砂漠に足を踏み入れて三十分ほど経過……一行はただ黙々と歩く。

 

 入る前の予感通り砂漠には村もオアシスもなく、延々と砂の風景が続くだけだ。もし呪文を唱えずに入ったら速攻で干上がっただろう。

 魔物が現れずとも、とても危険な場所だ。いくら近道になるとしても、好き好んで通るような箇所ではない。

 

 何も無い砂漠を(さら)に一時間ほど歩き続けた時……。

 

「……妙じゃな」

 

 鬼姫が不意に口を開く。

 

「いくら生物の生育に(てき)さぬ環境とはいえ、サボテンの一本、サソリの一匹も見かけぬのはおかしい。この砂漠に入って随分(ずいぶん)時間が()つが、我ら以外に生き物の姿を全く見かけぬではないか」

 

 頭の中に湧き上がった違和感を並べ立てて、自分達が今いる場所が普通でない事実を指摘した。

 

(彼女の言う通りだ……確かにおかしい。この砂漠からは生き物の気配が全く感じられない。まるで砂漠全体が死に絶えたような、無機質で呪われた空間……(まさ)に死の砂漠と呼ぶに相応しい場所)

 

 ザガートが心の中で女の言葉に同意する。彼もまた一連の光景に違和感を抱いており、とてつもない不吉な予兆を感じ取る。

 

(魔族は、魔族以外の生き物を排他的に捕食する傾向がある……元からこの砂漠に生息していた者達は、サンドウォームに狩り尽くされてしまったのか?)

 

 魔族の生態について思いを()せて、天然の野生動物が絶滅させられたのではないかという考えに行き着く。

 

 魔王がこの異常事態を前にして深く考え込んでいた時……。

 

「……ムッ!?」

 

 何らかの異変を察知して、慌てて後ろを振り返る。

 次の瞬間、砂漠全体が音を立てて激しく揺れた。それと同時に「ウォオオオーーーーンッ」とバケモノの咆哮(ほうこう)のような声がこだまする。

 地震は震度7クラスの揺れがあり、まともに立っていられない。この地震だけで大地が裂けて天地が崩壊しそうな勢いだ。

 

 しばらく()つと激しい揺れが収まっていき、地震がピタリと止む。場がシーーンと静まり返り、(にわ)かに静寂の空気に包まれる。何かが起こりそうな気配は無い。

 

 今のは一体何だったんだ……そんな言葉が(みな)の頭をよぎった瞬間。

 

「オギョォォォォオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 突如けたたましい雄叫びのようなものが発せられた。魔王達から十メートルほど離れた大地が大きく盛り上がり、それをブチ破って巨大な何かが姿を現す。

 

 地中から現れたのは、大人のライオンを(まる)()みにする大きさの巨大なミミズだ。全身の皮膚は土のような茶色に染まっており、体のあちこちにイボのような突起物がある。先端の頭部には十字の切れ込みが入っていて、そこを(さかい)()にしてバックリと割れた口になる。口の中に牙がびっしり生えていて、暗闇の中から蛇のような長い舌を出す。

 ただ通常のミミズと異なり、(たい)らになっている腹の左右にムカデのような足が生えていた。

 

 サンドウォームと思しき物体は最初の一体が姿を現すと、次々と他の者達が地中から出てくる。最後は合計十体の集団となる。ただ武器屋の店主が言っていた紫の個体は見当たらない。

 

 虫の集団は一行を取り(かこ)むように配置されていた。獲物がノコノコとやってくるのを地中で待ち伏せしていたようだ。

 

「……砂漠の住人サマのお出ましのようだ」

 

 ザガートが皮肉めいた言葉を口にしてニヤリと笑う。その表情に焦りの色は()(じん)もない。

 

「オギョォォォォオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 サンドウォームの一体が大声で叫びながら魔王めがけて前進する。それを皮切りとして他の個体も一斉に動き出す。彼らはムカデのような腹()いになってドドドッと音を立てて大地を移動したが、そのスピードは巨体に似合わずかなり速い。

 

 最初に動き出した一体が大きく口を開けて襲いかかり、魔王を(まる)()みにしようとした。

 

「フンッ!」

 

 魔王は小馬鹿にするように鼻息を吹かすと、前方にジャンプして敵の突進をかわす。そこから斜めに急降下しながら右足によるキックを繰り出す。(くつ)を履いた男の足がバケモノの首にめり込んで、ドグォッと鈍い音が鳴る。

 

「ギェェェェエエエエエエエエッ!」

 

 首を蹴られたサンドウォームが悲鳴を上げてのたうち回る。激痛から逃れようとするようにジタバタと暴れたが、やがてピクリとも動かなくなる。

 

 最初の一体がやられてもバケモノの群れはひるまない。今度は二体目のミミズが王女めがけて進み出す。

 

「ルシル、私に強化魔法を唱えてくれッ!」

 

 レジーナが仲間に指示を出す。ルシルが分かったと言いたげにコクンと(うなず)く。

 

「大地と大気の精霊よ、(いにしえ)の盟約に(もと)づき、我に力を与え(たま)え……全能強化(マイティ・ブースト)ッ!!」

 

 少女が強化魔法を唱えると、王女の体が金色の光に包まれる。身体能力が十倍に跳ね上がり、体の(しん)から力が湧き上がる。

 

「オギョォォォォオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 強化魔法を掛け終わった時、二体目のサンドウォームが王女の眼前まで迫っていた。大きく口を開けて突進し、彼女を丸呑みにしようとする。

 

 王女はテレポートしたように瞬間移動して、相手の側面に回り込む。十倍速くなっただけあり、その動作は(わず)か一瞬だ。

 

「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」

 

 レジーナは気迫の篭った雄叫びを発すると、両手で握った剣を正面に突き出したまま敵めがけて走り出す。刃の先端がサンドウォームの首に深々と突き刺さり、傷口から透明な液体が流れ出す。

 王女は間髪入れず、(つか)を握ったまま魔物の体を両足で駆け上がる。剣は分厚い魔物の肉をケーキのようにたやすく斬る。王女が反対側の地面に着地すると、魔物の首は上半分をぐるりと斬られた状態になる。

 

「……ッ!!」

 

 致命傷を負わされたサンドウォームが悲鳴を上げる間もなく息絶えた。

 

(ほう……身体能力の強化と剣の切れ味があったとはいえ、今の一撃はなかなかのモノだ)

 

 ザガートが魔物を(ほふ)った王女の斬撃に深く感心する。予想以上の強さを見せ付けた彼女の戦いぶりに思わず声に出して(うな)る。

 サンドウォームは並みの冒険者が太刀打ちできない恐ろしい魔物だ。それを仕留めるなど、戦闘経験を積んでいない昔の彼女からは考えられない。

 魔王軍十二将に勝てないとはいえ、今の彼女は中級の冒険者並みの強さだろう……そう思いを抱く。

 

『ほほう……それがし達も負けてられぬな』

 

 ブレイズもまた王女の健闘ぶりに関心を寄せる。自分もうかうかしていられないと対抗意識を燃やす。

 ちょうどおあつらえ向きのように一体のサンドウォームが彼へと向かっていた。

 

『ヌォォォォオオオオオオーーーーーーーーッ!!』

 

 ブレイズは大声で叫ぶと、両手で握った一振りの刀を水平に構えたまま敵めがけて走り出す。そのまま敵の真横を通ると、サンドウォームの体が刃先に沿()うようにピィーーーッと切り裂かれていく。

 

「ギャアアアアアアアアッ!」

 

 ミミズの化け物が断末魔の悲鳴を上げた。横一文字に斬られたバケモノの皮膚がバックリと割れて、ウナギならぬミミズの蒲焼(かばやき)のような姿となって息絶えた。

 

(イカン……(わらわ)も何か良い所を見せなければ、恰好(かっこう)が付かぬではないかッ!)

 

 巨大ミミズが(またた)く間に三体仕留められた事に鬼姫が焦りを抱く。仲間が健闘しているのに自分だけが活躍を見せられなければ、強者の誇りに傷が付く考えがあった。

 

 その時一体のサンドウォームが彼女の前にいたが、これまでと違い突進を仕掛けて来ない。仲間が返り討ちに()った事を警戒したのか、接近戦を避けるようにジリジリと一定の間合いを保つ。

 

「無駄じゃ……どれだけ離れようと、我が術からは逃れられぬ!!」

 

 鬼姫はそう叫ぶや(いな)や、右手に持っていた刀を高く掲げたままクルクル回転させる。最後は(つか)を握ったまま刃先を大地に突き立てる。

 

「鬼龍剣奥義……影鰐(かげわに)ッ!!」

 

 技名を大声で叫ぶと、刃が突き刺さった地面から黒い影のようなものがみょーーんと伸びていく。それはサンドウォームの真下まで来るとみるみる大きくなっていき、半径五メートルほどの大きな丸い影となる。

 

「グァァァァアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」

 

 直後、影から体長十メートルを超す巨大なイリエワニが顔を出す。ワニは大きく口を開けて()えると、サンドウォームにガブリと噛み付く。

 

「ギャァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」

 

 ワニに噛まれたミミズが悲鳴を上げて(もだ)え苦しむ。何としても食われてなるものかと力ずくで抵抗したが、何とも()が悪い。噛まれた部分から先の尻尾(しっぽ)で相手をギリギリと締め上げたが、ワニの噛む力は決して緩まない。

 ワニが()(しゃく)するように口を動かすと、ミミズの肉が噛み砕かれて飲み込まれていく。一分半ほど経過してミミズが食べ尽くされると、未消化らしき牙をぺっと吐き出す。最後は満足そうにゲップを吐くと、影の中へと戻っていく。

 ワニがいなくなると影はスゥーーッと薄れて消えていき、後にはミミズの血らしき透明な液体と牙だけが残った。

 

「鬼の(あね)さん、凄いッス! サンドウォームがワニの(えさ)になったッス!!」

 

 女の技の威力を目にしてなずみが瞳をキラキラ輝かせた。本来恐ろしいバケモノであるはずの巨大ミミズがいともたやすく食べられた光景に感激の言葉を漏らす。

 

(ふん……今まで魔王にもギルボロスにも防がれた技じゃが、普通はこうなるのが当たり前なのじゃ)

 

 技の威力を()められた鬼姫がフフンッと鼻息を吹かす。腰に手を当てて誇らしげなドヤ顔になりながら、活躍を見せ付けられた満足感に(ひた)る。ようやく必殺技を成功させられた感慨が湧き上がる。

 本来強者であるはずなのに魔王軍相手に苦戦するのは、彼女にとって実に不本意な事であった。インフレに付いていけないだけで、本当は自分は強いのに……そう言いたい悔しさがあった。

 積年の不満が(つの)る彼女にとって奥義を成功させられた喜びが大きかった事は想像に(かた)くない。

 

『だが敵はまだ六体いる……このまま一体ずつ片付けていくのは容易ではないぞ』

 

 ブレイズが状況が(かんば)しくない事を伝える。

 四匹倒してもサンドウォームは半数以上残っていて、彼らは自分達が立て続けに倒された事に警戒心を強めている。完全に接近戦では不利になると悟っていて、これまでのような(ちょ)(とつ)猛進を行わない。

 彼らに警戒心を抱かせた事は、この先の戦いがスムーズに行かない状況を思わせた。

 

「……ならば全体魔法でケリを付けてやる」

 

 ザガートがそう口にしてニヤリと笑う。敵が接近戦をやめた事への焦りは()(じん)もない。良からぬ(たくら)みをした悪魔のような邪悪な表情に染まる。

 

「我が力よ……炎の龍となりて全てを焼き尽くせ! 火炎龍嵐(ファイア・ストーム)ッ!!」

 

 正面に右手をかざして魔法を唱えると、男の手のひらに炎が集まっていき一つの(かたまり)になる。そこから全身が炎で出来た巨大な(ドラゴン)が放たれた。

 ドラゴンは蛇のように体を()ねらせながら飛んでいき、サンドウォームの一体に巻き付く。龍に巻かれた瞬間、ミミズの全身が炎に包まれた。

 

「ギョェェェェエエエエエエーーーーーーッ!!」

 

 灼熱の業火で焼かれる痛みにバケモノが悲鳴を上げた。ミミズの体は(わず)か一瞬で黒焦げになり、物言わぬ焼死体となる。鼻をつくニオイとともにブスブスと白煙を立ち(のぼ)らせた。

 

 炎の龍は最初の一体を仕留めると、他の魔物に襲いかかる。龍に巻かれた順にバケモノが火だるまになる。

 

「ギャアアアアアアッ!」

「ウギャァァァァアアアアアアーーーーーーッ!!」

「ドバァァァアアアアアアアッ!!」

 

 ミミズ達の口から断末魔の絶叫が発せられた。彼らの必死の抵抗も(むな)しく、次々と焼きミミズが出来上がる。残りの一体は慌てて地中に潜って逃げようとしたが、炎の龍は砂に触れても威力を減衰される事なく、あっさり追い付いて敵を焼き殺す。

 術の発動から一分半と()たないうちに六体のサンドウォームがこんがり焼かれた。

 

 敵がいなくなると、炎の龍は蜃気楼(しんきろう)のように薄れて消えていく。後には焼けたまずそうな肉だけが残された。

 

「何というか……もう見慣れた光景だな。()いて言えば、珍しく即死魔法でなかった事ぐらいだが」

 

 (またた)く間に敵が全滅させられる(さま)を見てレジーナが(あき)れた顔で言う。やれやれ、またこれか……と言いたげな表情をしており、いつもの展開にツッコミを入れる。ただ即死でない普通の攻撃魔法を使った事は不思議がる。

 

火炎龍嵐(ファイア・ストーム)は俺のお気に入りだが、森で使うと周囲の木まで焼いてしまう……だから普段は森を焼かない即死系を使うのだが、今回それを気にする必要が無かった……という事だ」

 

 ザガートが火炎魔法を使った真意について説明する。彼にとって自然環境に悪影響を与えるのは本意ではなく、それゆえ自然を傷付けない即死系を多用するのだという。

 

(これがゲームの中だったら、火炎龍嵐(ファイア・ストーム)だろうが隕石群落下(メテオ・スウォーム)だろうがバンバンぶち込んでも平気なのだろうが……現実世界ではそうは行かない)

 

 ここがあくまでゲームではなく現実の異世界だと認識して、状況に応じて魔法を使い分けなければならない苦悩を吐露(とろ)する。

 

「人間だけでなく、地球環境にまで配慮する俺に感謝するがいい……」

 

 絶対的な力を持つ王である自分が森を守る戦い方をしていた事を、腕組みしてふんぞり返りながらドヤ顔で打ち明けるのだった。

 

 ルシル、なずみ、ブレイズは素直に尊敬の眼差しを向け、鬼姫とレジーナは呆れながら男の話を聞いていた。

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