いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
宿に戻って出発の
ミントベリーの西に広がる平原を一時間ほど歩き続けると、視界の彼方に砂地が見えてきた。草原の切れ目から西に広がる砂地こそ、西大陸最大面積を誇る大砂漠だ。武器屋の店主はグロシアーナ砂漠と呼んでいた。
頭上に太陽が
見渡す限り何処までも砂の景色が続いていて、村もオアシスもありそうな気配がしない。
「魔王よ、どうするのじゃ? ラクダも馬車もなしにこんな所を通ったら、普通なら死んでしまうぞ」
鬼姫が何の下準備もせずに進めば命を落とす危険性を訴えて、今後の方針を問う。
「問題ない……ちゃんと考えてある」
ザガートが心配するなと言いたげにニヤリと笑う。
「聖なる力よ、我が旅を助けたまえ……
正面に右手をかざして魔法の言葉を唱える。魔王の手から金色に輝く光が放たれて、六人の体をバリアのように覆う。光はスゥーーッと薄れて消えていき、目に見えなくなる。
「体の表面を覆うようにバリアを張った……この結界内部では気温は一定に保たれ、脱水症状を引き起こさない。どれだけ歩いても足が痛くならないし、歩く速度も少しだけ速くなる。どんな悪路だろうと足を取られる事もない」
魔王が呪文の効能について説明する。仲間を覆った不可視のバリアに特別な力があり、徒歩での旅路を助けてくれるのだという。
話を聞いていたレジーナは「なんて都合のいい魔法だ!」と声に出しかけたが、
「これで砂漠を安全に渡れますね」
砂地の危険性が無くなった事を確信してルシルがニッコリ笑う。他の者達も彼女に同意するように
◇ ◇ ◇
砂漠に足を踏み入れて三十分ほど経過……一行はただ黙々と歩く。
入る前の予感通り砂漠には村もオアシスもなく、延々と砂の風景が続くだけだ。もし呪文を唱えずに入ったら速攻で干上がっただろう。
魔物が現れずとも、とても危険な場所だ。いくら近道になるとしても、好き好んで通るような箇所ではない。
何も無い砂漠を
「……妙じゃな」
鬼姫が不意に口を開く。
「いくら生物の生育に
頭の中に湧き上がった違和感を並べ立てて、自分達が今いる場所が普通でない事実を指摘した。
(彼女の言う通りだ……確かにおかしい。この砂漠からは生き物の気配が全く感じられない。まるで砂漠全体が死に絶えたような、無機質で呪われた空間……
ザガートが心の中で女の言葉に同意する。彼もまた一連の光景に違和感を抱いており、とてつもない不吉な予兆を感じ取る。
(魔族は、魔族以外の生き物を排他的に捕食する傾向がある……元からこの砂漠に生息していた者達は、サンドウォームに狩り尽くされてしまったのか?)
魔族の生態について思いを
魔王がこの異常事態を前にして深く考え込んでいた時……。
「……ムッ!?」
何らかの異変を察知して、慌てて後ろを振り返る。
次の瞬間、砂漠全体が音を立てて激しく揺れた。それと同時に「ウォオオオーーーーンッ」とバケモノの
地震は震度7クラスの揺れがあり、まともに立っていられない。この地震だけで大地が裂けて天地が崩壊しそうな勢いだ。
しばらく
今のは一体何だったんだ……そんな言葉が
「オギョォォォォオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
突如けたたましい雄叫びのようなものが発せられた。魔王達から十メートルほど離れた大地が大きく盛り上がり、それをブチ破って巨大な何かが姿を現す。
地中から現れたのは、大人のライオンを
ただ通常のミミズと異なり、
サンドウォームと思しき物体は最初の一体が姿を現すと、次々と他の者達が地中から出てくる。最後は合計十体の集団となる。ただ武器屋の店主が言っていた紫の個体は見当たらない。
虫の集団は一行を取り
「……砂漠の住人サマのお出ましのようだ」
ザガートが皮肉めいた言葉を口にしてニヤリと笑う。その表情に焦りの色は
「オギョォォォォオオオオオオオオオオオッッ!!」
サンドウォームの一体が大声で叫びながら魔王めがけて前進する。それを皮切りとして他の個体も一斉に動き出す。彼らはムカデのような腹
最初に動き出した一体が大きく口を開けて襲いかかり、魔王を
「フンッ!」
魔王は小馬鹿にするように鼻息を吹かすと、前方にジャンプして敵の突進をかわす。そこから斜めに急降下しながら右足によるキックを繰り出す。
「ギェェェェエエエエエエエエッ!」
首を蹴られたサンドウォームが悲鳴を上げてのたうち回る。激痛から逃れようとするようにジタバタと暴れたが、やがてピクリとも動かなくなる。
最初の一体がやられてもバケモノの群れはひるまない。今度は二体目のミミズが王女めがけて進み出す。
「ルシル、私に強化魔法を唱えてくれッ!」
レジーナが仲間に指示を出す。ルシルが分かったと言いたげにコクンと
「大地と大気の精霊よ、
少女が強化魔法を唱えると、王女の体が金色の光に包まれる。身体能力が十倍に跳ね上がり、体の
「オギョォォォォオオオオオオオオオオオッッ!!」
強化魔法を掛け終わった時、二体目のサンドウォームが王女の眼前まで迫っていた。大きく口を開けて突進し、彼女を丸呑みにしようとする。
王女はテレポートしたように瞬間移動して、相手の側面に回り込む。十倍速くなっただけあり、その動作は
「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」
レジーナは気迫の篭った雄叫びを発すると、両手で握った剣を正面に突き出したまま敵めがけて走り出す。刃の先端がサンドウォームの首に深々と突き刺さり、傷口から透明な液体が流れ出す。
王女は間髪入れず、
「……ッ!!」
致命傷を負わされたサンドウォームが悲鳴を上げる間もなく息絶えた。
(ほう……身体能力の強化と剣の切れ味があったとはいえ、今の一撃はなかなかのモノだ)
ザガートが魔物を
サンドウォームは並みの冒険者が太刀打ちできない恐ろしい魔物だ。それを仕留めるなど、戦闘経験を積んでいない昔の彼女からは考えられない。
魔王軍十二将に勝てないとはいえ、今の彼女は中級の冒険者並みの強さだろう……そう思いを抱く。
『ほほう……それがし達も負けてられぬな』
ブレイズもまた王女の健闘ぶりに関心を寄せる。自分もうかうかしていられないと対抗意識を燃やす。
ちょうどおあつらえ向きのように一体のサンドウォームが彼へと向かっていた。
『ヌォォォォオオオオオオーーーーーーーーッ!!』
ブレイズは大声で叫ぶと、両手で握った一振りの刀を水平に構えたまま敵めがけて走り出す。そのまま敵の真横を通ると、サンドウォームの体が刃先に
「ギャアアアアアアアアッ!」
ミミズの化け物が断末魔の悲鳴を上げた。横一文字に斬られたバケモノの皮膚がバックリと割れて、ウナギならぬミミズの
(イカン……
巨大ミミズが
その時一体のサンドウォームが彼女の前にいたが、これまでと違い突進を仕掛けて来ない。仲間が返り討ちに
「無駄じゃ……どれだけ離れようと、我が術からは逃れられぬ!!」
鬼姫はそう叫ぶや
「鬼龍剣奥義……
技名を大声で叫ぶと、刃が突き刺さった地面から黒い影のようなものがみょーーんと伸びていく。それはサンドウォームの真下まで来るとみるみる大きくなっていき、半径五メートルほどの大きな丸い影となる。
「グァァァァアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」
直後、影から体長十メートルを超す巨大なイリエワニが顔を出す。ワニは大きく口を開けて
「ギャァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」
ワニに噛まれたミミズが悲鳴を上げて
ワニが
ワニがいなくなると影はスゥーーッと薄れて消えていき、後にはミミズの血らしき透明な液体と牙だけが残った。
「鬼の
女の技の威力を目にしてなずみが瞳をキラキラ輝かせた。本来恐ろしいバケモノであるはずの巨大ミミズがいともたやすく食べられた光景に感激の言葉を漏らす。
(ふん……今まで魔王にもギルボロスにも防がれた技じゃが、普通はこうなるのが当たり前なのじゃ)
技の威力を
本来強者であるはずなのに魔王軍相手に苦戦するのは、彼女にとって実に不本意な事であった。インフレに付いていけないだけで、本当は自分は強いのに……そう言いたい悔しさがあった。
積年の不満が
『だが敵はまだ六体いる……このまま一体ずつ片付けていくのは容易ではないぞ』
ブレイズが状況が
四匹倒してもサンドウォームは半数以上残っていて、彼らは自分達が立て続けに倒された事に警戒心を強めている。完全に接近戦では不利になると悟っていて、これまでのような
彼らに警戒心を抱かせた事は、この先の戦いがスムーズに行かない状況を思わせた。
「……ならば全体魔法でケリを付けてやる」
ザガートがそう口にしてニヤリと笑う。敵が接近戦をやめた事への焦りは
「我が力よ……炎の龍となりて全てを焼き尽くせ!
正面に右手をかざして魔法を唱えると、男の手のひらに炎が集まっていき一つの
ドラゴンは蛇のように体を
「ギョェェェェエエエエエエーーーーーーッ!!」
灼熱の業火で焼かれる痛みにバケモノが悲鳴を上げた。ミミズの体は
炎の龍は最初の一体を仕留めると、他の魔物に襲いかかる。龍に巻かれた順にバケモノが火だるまになる。
「ギャアアアアアアッ!」
「ウギャァァァァアアアアアアーーーーーーッ!!」
「ドバァァァアアアアアアアッ!!」
ミミズ達の口から断末魔の絶叫が発せられた。彼らの必死の抵抗も
術の発動から一分半と
敵がいなくなると、炎の龍は
「何というか……もう見慣れた光景だな。
「
ザガートが火炎魔法を使った真意について説明する。彼にとって自然環境に悪影響を与えるのは本意ではなく、それゆえ自然を傷付けない即死系を多用するのだという。
(これがゲームの中だったら、
ここがあくまでゲームではなく現実の異世界だと認識して、状況に応じて魔法を使い分けなければならない苦悩を
「人間だけでなく、地球環境にまで配慮する俺に感謝するがいい……」
絶対的な力を持つ王である自分が森を守る戦い方をしていた事を、腕組みしてふんぞり返りながらドヤ顔で打ち明けるのだった。
ルシル、なずみ、ブレイズは素直に尊敬の眼差しを向け、鬼姫とレジーナは呆れながら男の話を聞いていた。