いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第88話 砂漠の支配者……その名はアビスウォームっ!

 サンドウォームが全滅して戦いが終わった空気が漂い始めた時……。

 

「……ん?」

 

 何らかの違和感を覚えたザガートが、ふと地平の彼方に目をやる。

 次の瞬間、魔王が見た方角からドドドッと激しい地鳴りが聞こえた。

 音は最初小さかったが、だんだん大きくなる。それに(ともな)い、音の発生源が一行のいる場所へと近付いて来ているのが分かる。

 

 音は地中から聞こえた。何かが物凄い勢いで土中を掘り進んでいたのだ。

 

(来る……サンドウォームよりも体の大きい何かが!!)

 

 ザガートは新たな敵の出現を予感してサッと身構える。他の仲間達も武器を手に取り魔物の襲来に備える。戦いが終わったムードは一瞬で吹き飛び、皆の心に緊張が走る。心臓がドクンドクンと高鳴る。

 

 土中を掘り進む音はザガート達から十メートルほど離れた場所まで来て止まり、場がシーーンと静まり返る。十秒間の静寂の後、音が止まった場所の地面をブチ抜いて巨大な何かが顔を出す。

 

 地中から姿を現したのはサンドウォームとよく似た巨大ミミズだ。ただ彼らより体が一回(ひとまわ)り大きく、全身の皮膚が毒々しい暗めの紫に染まる。水気のない砂漠だというのに口からダラダラと(よだれ)()らす。「フフフッ」と笑い声のようなものが漏れており、相手を挑発するように舌をヒラヒラ動かす。

 

 見るからに他の個体より強そうなサンドウォームは、武器屋の店主が言っていた魔物のボスだと容易に悟らせた。

 

「……お前がサンドウォームの親玉か」

 

 ザガートが相手の素性を確かめようと問いかける。

 

如何(イカ)ニモ……ワシハ、アビスウォームッ! 魔王軍十二将ノ一人ニシテ、コノ砂漠ノ支配ヲ任サレシ者!!」

 

 紫のミミズが魔王の問いに答える。マイクから発せられたような(くも)った音声で、しゃがれた老人の声で喋る。流暢に言葉を話す辺りからは知能の高さが(うかが)えた。

 

「クラーケンガ倒サレタト聞イテ、必ズココヲ通ルダロウト思ッテ待チ()セテイタノヨッ! フォフォフォ……十体ノ子分ニ勝テタ事ハ()メテヤロウ。ダガオ前達ノ実力デハ、ワシニ勝テン! 貴様ラハココデ死ヌ運命(サダメ)ニアル!!」

 

 男の進行ルートを予測して待機していた事を明かす。部下を全滅させた相手の実力を認めながらも、自分には遠く及ばないのだと声高に告げる。

 

「千ノ刃ニ切リ刻マレテ、(チリ)(カエ)ルガイイ……災厄ノ渦巻(メイル・シュトローム)ッ!!」

 

 挨拶(あいさつ)代わりとばかりに攻撃呪文を唱える。数秒が経過した後、空が(またた)く間に暗雲に包まれて、雷が落ちようとするようにゴロゴロと鳴る。肌を刺すような冷たい風が吹き抜けて、周囲の気温が急激に下がる。

 それからしばらく()つと、アビスウォームの背後にある地平から黒い巨大な竜巻が姿を現す。黒い竜巻はビュオオオオッと音を立てて豪快に砂(ぼこり)を巻き上げながら、ザガート達のいる方へと真っ直ぐ向かっている。

 

 サンドウォームの死骸が竜巻に()み込まれて空高く舞い上がる。次の瞬間ズバズバと何かを切り裂いた音が鳴り、彼であったと思われる(こま)()れにされた肉片がパラパラと地上に落下する。術者であるアビスウォーム自身は影響を受けないようだ。

 

『あれはただの竜巻ではない……百を超える数の真空の刃が内部を渦巻いていて、呑み込んだ者をズタズタに切り裂く、(まさ)に死の竜巻ッ!!』

 

 魔物の肉が千切りにされた光景を見て、ブレイズが起こった出来事を詳細に語る。紫のミミズが呼び寄せた竜巻が恐ろしい攻撃呪文であった事を伝える。

 

 竜巻は(なお)も一行めがけて進む。このまま呑み込まれたら少女の血肉がバラバラになる事は明白だ。

 

「風の精霊よ……我が力となりて、皆を守りたまえ! 領域結界(フィールド・バリア)ッ!!」

 

 ザガートが両手で(いん)を結んで魔法の言葉を唱える。青い光がドーム状に放たれて、バリアとなって皆を覆う。バリアはスゥーーッと薄れていき、目に見えない結界となる。

 

 その数秒後、巨大な竜巻が一行を呑み込む。竜巻は黒く(にご)っていて中が見えないため、彼らがどうなったかは分からない。龍のような竜巻が全てを()ぎ払おうとするようにゴゴゴと音を立てて、ゆっくりと地面を通り過ぎるだけだ。紫のミミズはその光景をただ見守る。

 

 

 

 ……数分が経過して竜巻が完全に通り過ぎると、激しい風の音が止む。

 竜巻を発生させた術の効果が切れたのか、空を覆っていた暗雲が晴れていき、太陽の光が()し込む。冷えていた気温が急激に上がり、元の暖かさを取り戻す。再び砂漠に本来の静寂が訪れる。

 

 竜巻が通り抜けた場所には、ザガート達が変わらぬ姿のまま立っていた。魔王は術を唱えたポーズのまま固まっており、黒騎士はこうなる事が分かっていたように平然と立つ。女達はある者は敵の術の恐ろしさに恐怖し、ある者は自分達が無事だった事に安堵する。いずれにせよ負傷した者はいない。

 

「ホウ……風属性ノ最上位階魔法ヲ、無傷デ耐エ(シノ)グトハナ」

 

 一行が無事だった姿を見てアビスウォームが思わず声に出して(うな)る。渾身の技を防がれた事に焦りを抱く様子はなく、敵ながらあっぱれと言いたげに深く感心する。

 

災厄の渦巻(メイル・シュトローム)……恐ろしい技だ。俺だから防ぎ切れたものの、並みの術者だったらバリアを張ったとしてもあっさり()がされるのがオチだ。世界を救う勇者でなければ倒せない……それほどのバケモノだ)

 

 余裕ありげな虫とは対照的に、ザガートが敵の魔法の威力に戦慄を覚えた。自身に効かなかったからといって油断はしない。もしバリアの強度が足りなければ少女達がバラバラにされていたかもしれないと考え、心臓がヒヤッとなる。

 

 敵の強さに驚愕したあまり茫然(ぼうぜん)と立ち尽くしていた魔王であったが、それでも自分がやられる事は無いのだと冷静に思い直す。気持ちを切り替えると、改めて宣戦布告するように敵の方へと向き直る。

 

「アビスウォーム、貴様が強い魔物だという事はよく分かった。ならばこちらも全力で行かせてもらう!!」

 

 マントをバサっと開いて風にたなびかせると、相手を倒す意思を強い口調で伝えるのだった。

 

「ゲヘナの火に焼かれて、消し(ずみ)となれッ! 火炎光弾(ファイヤー・ボルト)ッ!!」

 

 魔王が正面に手のひらをかざして攻撃呪文を唱える。男の手のひらに魔力と思しき赤い炎が集まっていき、圧縮されて一つの火球になると、アビスウォームめがけて高速で撃ち出された。

 

 火球はメラメラと音を立てて燃えながら、ミミズのいる方へと一直線に飛んでいく。紫のミミズは攻撃を避ける素振りを全く見せない。攻撃が来るのを待ち構えたような棒立ちになる。

 このまま火球が直撃して火だるまになる……誰もがそう確信した瞬間。

 

「……ワシノ本当ノ(チカラ)ヲ見セテヤロウ」

 

 アビスウォームがそう口にしてニヤリと笑う。良からぬ(たくら)みをした悪魔のようにフフフッと声に出す。

 

 あーーんっと大きく口を開けると、口の中に広がる暗闇がビュオオオッと音を立てて周囲の空気を吸い込み出す。彼に当たる直前だった火球が暗闇の中へと吸い込まれていき、最後は見えなくなる。

 アビスウォームは口を閉じると、暗闇に吸い込まれた火球をゴクンと飲み込んだ。

 

火炎光弾(ファイヤー・ボルト)が飲み込まれた……だと!?」

 

 自身の攻撃魔法を防がれた光景にザガートがポカンと口を開けた。必殺の威力を持つはずの火球が掃除機のように吸われた事実が(にわ)かに受け入れられず、(はと)が豆鉄砲を食らったような顔をする。

 

「フハハハハッ……驚イタカ! ワシノ(クチ)ハ直接ワシノ胃デハナク、銀河ノ中心ニアル、ブラックホールヘト繋ガッテイル! ワシニ飲ミ込マレタモノハ、超重力ニ押シ(ツブ)サレテ、分解サレテ(チリ)ニナル! シカルニ、ワシニハアラユル攻撃呪文ガ通ジナイ!!」

 

 アビスウォームが攻撃を防いだ原理について説明する。自身の口が暗黒空間と繋がっている事を教えて、攻撃魔法が効かない事実を声高に宣言する。ザガートが放った火球がブラックホールに飲み込まれたというのだ。

 

「ソシテ、ブラックホールニ繋ガッテイルトイウ事ハ……コウイウ事モ可能ダ!!」

 

 そう言うや(いな)や、紫のミミズがまたも大きく口を開けた。

 

「……破滅虚無(ドゥーム・ヴォイド)ッ!!」

 

 技名らしき言葉を叫んだ瞬間、口の中に広がる暗闇がさっきと同じように周囲のものを吸い込み出す。その力は火球を飲み込んだ時よりも一段激しく、重さ十トンの鉄塊ですら引き寄せかねない勢いだ。

 

 敵の真正面にいたザガートが風をまともに受けて、ジリジリと引き寄せられる。紫のミミズと魔王の距離がどんどん(せば)まっていく。

 引き寄せられた当の魔王は慌てる素振りを()(じん)も見せない。腕組みして偉そうにふんぞり返ったまま、銅像のように地に足をついたままスゥーーッと引き寄せられる。

 

 やがて地面から足が離れてフワリと全身が宙に浮くと、暗闇の中へと一気に吸い込まれる。男の姿が消えるとアビスウォームが口を閉じてゴクリと飲み込む音が聞こえた。

 

「ザガートが……飲み込まれた」

 

 魔王が暗闇に吸い込まれた光景を見てレジーナの表情が凍り付いた。

 

  ◇    ◇    ◇

 

(……ここは)

 

 暗闇の中に吸い込まれたザガートが意識を取り戻す。ほんの一瞬気を失っていたらしく、閉じていた目を開ける。

 

 男の目に映り込んだ光景……それは混じり気のない完全な黒一色だった。水も空気も、光すら存在しない死の空間……むろん生き物の気配は無い。目印になるものは一切なく、どっちが西で、どっちが東かも分からない。出口は当然見当たらない。

 

 当のザガートは腕組みしたポーズのまま、斜めに傾いて宙に浮かんでいた。上も下もない空間で流されるようにその場を漂っていたが、水と空気がない事に苦しむ様子は無い。超重力に押し(つぶ)されたりもしない。この世界を満喫するように平然としている。

 

「ここがブラックホールか……なるほど、確かに何も無い場所だ」

 

 魔王が周囲を見回しながらガッカリしたように(つぶや)く。何かあるかもしれないと期待したにも関わらず、何もなかった事を深く残念がる。

 

「ふんっ!」

 

 目をグワッと見開いて大声で叫ぶと、重力が発生したように男の体が真下へと落下する。何も無いはずの場所に地面があるかのように両足でストンと着地する。

 

「さて……何も無いと分かった以上、こんな場所からはさっさとおサラバするとしよう」

 

 事も無げにそう言い放つのだった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 ザガートが暗黒空間にいた頃、現実世界では――――。

 

「………」

 

 彼の仲間である四人の女達が、悲嘆に暮れた表情をしていた。魔王が脱出不可能な牢獄に(とら)われた事に深く落胆して、失意のドン底に突き落とされたように落ち込む。地に(ひざ)をついてガクッとうなだれたまま茫然(ぼうぜん)自失になる。

 

 一行の中でただ一人ブレイズだけが、主君が飲み込まれた事に慌てない。まるで何事も無かったかのように平然と立っている。

 

「フフフッ……」

 

 四人の女が絶望した姿を見てアビスウォームが嬉しそうに声に出す。

 

「フハハハハッ……異世界ノ魔王ハ死ンダ! 超重力ニ押シ(ツブ)サレテ、(イキ)()エタノダ! (マン)(イチ)生キテイタトシテモ、ブラックホールカラノ脱出ハ不可能! ヤツガコノ空間ニ戻ッテ来ル事ハ無イ! 絶対ニダ!!」

 

 ザガートを仕留めた事を大声で叫んで勝ち誇る。彼が暗黒空間から出る事は決して起こり得ないだろうと確信を抱いて満面の笑顔になる。

 

「異世界ノ魔王ハ死ニ、我ラ魔族ガ勝利シタ! 人類ハ()()ヤシニサレ、我ラ魔族ノ理想タル暗黒ノ世界ガ訪レルノダァッ! ハァーーーッハッハッハァッ!!」

 

 女達の心に追い討ちを掛けるように気取った台詞(セリフ)で勝利宣言を行い、砂漠中に響かんばかりの声で高笑いした。

 

「そんなぁーーーーっ」

 

 アビスウォームの演説を聞いて、なずみが間の抜けた返事をする。師匠が倒された事に意気消沈したあまりしょぼくれた顔になる。

 

「ザガート様……」

 

 ルシルが悲しげな表情で男の名を(つぶや)く。目にうっすらと涙が浮かんで、今にも泣きそうになる。

 

「……」

 

 レジーナと鬼姫は下を向いたまま苦虫を噛み(つぶ)した顔をする。一言も言葉を発せぬまま、この()に及んで何も出来ない無力感に(さいな)まれた。

 

 ブレイズは相変わらず平然と突っ立ったままだ。主君の死を悲しんだ様子は全く無い。

 

「オイ、ソコノオ前……オ前ハ悲シマナイノカ? 敬愛スル主人ガ、倒サレタノダゾ? 何故ソウ平然トシテイラレル」

 

 黒騎士の態度に違和感を覚えたミミズが声に出して問いかける。

 

『何故、だと? フッ……それは分かりきっているからだ』

 

 不死騎王が魔物の疑問を一笑に()す。相手を挑発するように意味深な言葉を吐く。

 

「何ガダ?」

 

 何が分かりきっているかが分からず、アビスウォームが再度問う。

 その瞬間……。

 

 

 

 何も無い空に突然亀裂が入りだす。亀裂はビシビシと音を立てて広がっていき、最後はガラスのようにバリィィーーーンッと割れる。空間の破片がバラバラと地面に落下する。

 

 割れた空間の向こうに広がる暗闇から、一人の男がぴょーーんとジャンプして砂漠に着地する。男がこっちの世界に降り立つと、映像を逆再生したように破片が空に浮き上がり、穴を(ふさ)いで元の空間へと修復される。

 

 空間を破って現れた男……それは言うまでもなく、ミミズに飲まれて異空間に飛ばされたはずの魔王その人だ。

 

『こうなる事が……だ』

 

 タイミングを合わせたような主人の帰還に、不死騎王が誇らしげなドヤ顔になる。その言葉を(もっ)て、魔物の疑問への回答とした。

 

「エッ……エエエエエエエエエーーーーーーーーッ!?」

 

 アビスウォームが砂漠中に響かんばかりの大きな声で叫んだ。

 

「ナ、何故ダ……何故コッチノ世界ニ戻ッテ来レタ!! ブラックホールカラハ脱出不可能ナハズ!! 魔王ザガート、貴様一体ドウヤッテ脱出シタ!?」

 

 魔王が帰還を果たした事に巨大ミミズが(にわ)かに慌てふためく。恐怖に恐れおののいたあまり全身の震えが止まらなくなり、「アワワ」と声が漏れ出す。体中の穴という穴からドッと汗が噴き出し、動悸(どうき)と息切れがして()(まい)がする。

 

 それは彼にとって決してあってはならない事だ。本当なら魔王はブラックホールに()まれて死ななければならないのだ。にも関わらず男が平然と生きていた事実が頭で受け入れられず、精神的ショックで卒倒しかけた。

 

「どうやって脱出したか……だと? フンッ、簡単な話だ。空間の壁をブチ破って、こっちの世界へと飛んできた……たったそれだけだ」

 

 狼狽するアビスウォームを魔王が鼻で笑う。何をくだらない質問を、と言いたげな態度で帰還した方法を教える。常人には不可能な行いを、とてもたやすい事のように言ってのける。

 

「ナッ……!!」

 

 魔王の言葉を聞いてミミズが思わず絶句した。あまりにもありえない回答に開いた口が(ふさ)がらなくなる。お前は何を言っているんだ、と真顔で問いたい衝動に駆られた。一瞬冗談を言われたんじゃないかと我が耳を疑う。

 

「バッ……馬鹿ナ事言ッテンジャネエ!! ソンナフザケタ話ガ、アッテタマルカ!! コノヤロォォォォオオオオオオーーーーーーーーッッ!!」

 

 腹の底から湧き上がる憤激を声に出してブチまけた。怒りで頭に血が(のぼ)ったあまり冷静ではいられなくなり、口から大量の(つば)が飛ぶ。頭部に血管がビキビキと浮き上がり、激高してはらわたが煮えくり返る。何としても相手を殺さずにおくものかという気持ちにすらなり、一分一秒たりとも生かしておけなくなる。

 

「ナラバモウ一度、死ノ世界ヘト旅立ツガイイ! 破滅虚無(ドゥーム・ヴォイド)ッ!!」

 

 再度技名を叫びながら大きく口を開ける。口の中に広がる暗黒空間が周囲のものを強い力で吸い込み出す。

 紫のミミズの真正面にいたザガートが吸い込みの風をまともに受ける。さっきと同じように暗闇の中へと引き寄せられるかに思われた。だが……。

 

「……!?」

 

 次の瞬間目にした光景にアビスウォームが驚愕する。

 彼の目に映り込んだもの……それは腕組みしてふんぞり返ったまま、その場から一センチたりとも動かない魔王の姿だった。

 さっきと同じ強さの吸い込みを受けたにも関わらず、男は微動だにしない。まるで完全に地面に固定されたかのように強風に耐えて、吸い込まれる気配が全く無い。

 

「さっきはどういう技か確かめたくて、わざと吸い込まれてやった……何も無いと分かった以上、吸い込まれてやる義理は無い」

 

 ザガートがあっさりと言い放つ。一度目は自分の意思で暗黒空間に入った事を明かして、今回はそうしない方針を伝える。耐えようと思えば耐えられたのに、あえてそうしなかったというのだ。

 

「アビスウォーム、そろそろ茶番は終わりにしよう……俺の本当の力を見せてやる!!」

 

 恰好(かっこう)を付けるようにマントを開いて風にたなびかせると、戦いを終わらせる事を宣言する。

 

(ひざまず)け……暗黒重力(ダーク・グラビティ)ッ!!」

 

 正面に右手をかざして魔法名らしき言葉を叫ぶと、アビスウォームが立っていた地面が突然ボゴォッと音を立てて陥没する。直径十メートルほどの大きさのクレーターとなる。ミミズは目に見えない巨人に踏まれたように地べたに押し(つぶ)された。

 

「グァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」

 

 魔物が横向きに倒れたまま絶叫を発する。上から物凄い力で()(かか)られて、全身の骨が音を立てて(きし)む。体中を凄まじい激痛が駆け回り、内蔵が圧迫されて破裂しそうになる。

 

「フハハハハッ! 相手をこの星の百倍の重力で押し潰す技……それが暗黒重力(ダーク・グラビティ)ッ! 如何(いか)に貴様が相手の魔法を食らおうと、これを消す事は(かな)うまい!!」

 

 ザガートが魔物を押し潰した重力魔法について語る。相手に向かって飛んでいくタイプでなく、殺傷力のある結界そのものを発生させるため、相手の口に吸われないというのだ。

 

 男の発言を裏付けるように、ミミズは潰されるだけで何も出来ない。体を動かす事も、攻撃呪文を発動させる事も叶わず、超重力の餌食(えじき)となるだけだ。

 ただ体が非常に大きかったためすぐには死なない。このまま放っておいたら完全に息絶えるまで数分は掛かりそうだ。

 

流石(さすが)にこの大きさでは、簡単には死なないか。ならば……フンッ!!」

 

 敵が死ぬのを待っていられずザガートが(しび)れを切らす。目をグワッと見開いて(かつ)を入れるように一声発すると、重力結界から発せられたゴゴゴという音が一段大きくなる。

 

 次の瞬間、アビスウォームの体がパァンッ! と音を立てて破裂した。全身の細胞がトマトジュースのような液体となり、それすらも一瞬で地べたに吸い込まれると、敵を仕留めた事を確信したように重力結界が()む。後には何も無いクレーターだけが残った。

 

「………」

 

 一瞬何が起こったのか全く理解できず、四人の女達がポカンと口を開けた。あまりに突拍子もない出来事に思考力が追い付かず、フリーズしたコンピュータのように固まる。

 ブレイズだけは相変わらず目の前の光景に驚かない。

 

「い……一体何が起こったんだ?」

 

 レジーナが思わず声に出して問いかけた。

 

「これまで百倍だった重力を、千倍に引き上げた……ヤツの細胞はそれに耐え切れず、爆裂して粉々に弾け飛んだ……という事だ」

 

 ザガートが一連の出来事について解説する。魔物が超重力に押し潰されて分子レベルの崩壊を引き起こした事を教える。

 

 相変わらずのデタラメな原理に四人の女達は尊敬を通り越して、ただただ(あき)れるしかない。魔王の圧倒的すぎる力に冷や汗をかいて苦笑いすら浮かぶ。

 レジーナと鬼姫は彼が敵でなくて本当に良かった、と心底胸を()で下ろす。アビスウォームですら一瞬で吹き飛んだ超重力を彼女達が受けたら、生きていられる訳が無いのだから。

 

 男がふと空を見上げると、アビスウォームが死んだ場所の真上に魔力と思しき青い光が集まっていく。光は凝縮されて一つの水晶玉へと変わると、ゆっくり降下していって魔王の手元に収まる。

 (まばゆ)い光を放つ半透明の球体に水瓶(みずがめ)座の紋章が刻まれていた。それは大魔王の城に行くために必要な十二の宝玉の一つだ。今回十一個目を入手した事になる。

 

(これで残りあと一つ……)

 

 目的に向かって着実に前進した事に魔王が感慨深げになる。もうすぐ大魔王と対峙して、世界を救えるかもしれない事実に胸を(おど)らせた。

 この長い旅もようやく終わる……そんな思いが湧き上がる。

 

(アビスウォーム……恐ろしい魔物だった事は間違いない。俺以外でブラックホールに()まれて自力での帰還が可能なのは、ブレイズくらいのものだろう)

 

 一転して気持ちを切り替えると、先の戦いの内容に目を向ける。ミミズが使ってきた技の威力を思い起こして、なかなかのものだったと関心を寄せる。

 

 自分に勝てなかったとはいえ、一目(いちもく)を置くに(あたい)する相手だった……そう評価を下すのだった。

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