いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第89話 こんなところに泉がっ!

 アビスウォームを倒した魔王一行は次なる宝玉を求めて旅を続ける。ミントベリーの町には戻らず、そのまま砂漠を突っ切る。最後の宝玉のありかが書かれた×(バツ)印は砂漠からずっと遠く離れた西にあったため、そこを目指す事となる。

 

 砂漠を越えた平原を(さら)に進むと大きな森があり、そこを通っていく。森は木々が密集していて日の光が()し込まない暗い場所だったが、魔物の気配は感じられない。鳥がチュンチュンとさえずる声が聞こえて、リスの姿を見かけるのどかな景色だ。

 

 魔物に襲われる事なく森の中をサクサク進むと、木々の密集度合いが下がっていく。日の光が射し込むのが見えて、そこを目指して進んでいくと、次第に空間が開けてくる。最後は森の切れ目へと辿り着く。

 

「おお……!!」

 

 森を抜け出た瞬間視界に飛び込んだ景色に女達が目を輝かせた。

 

 彼女達が見たもの……それは大自然に(かこ)まれた天然の泉だ。水は()き通っていて美しく、鮮やかなエメラルドブルーの色に輝く。泉の底には数匹の魚がいたが、魔物が潜んでいる気配は無い。

 泉は公衆浴場くらいの広さがあり、数人なら余裕で入れるスペースだ。まるで冒険者にここで休んでいけと言わんばかりに用意されたような場所だ。

 

「フム……人が入るのに適した水温だ。毒も酸も含まれていない」

 

 ザガートが泉の前にしゃがみ込んで、指で触れて水質を確かめる。指先の感触だけで泉の成分を事細かに分析し、人体に無害だと判断する。

 

「この泉には精霊の力が宿っている……彼らが邪悪な者を排除する結界を張り巡らせて、魔族が()かれないようにしているのだ」

 

 泉が聖なる力で庇護(ひご)されている事を明かす。大魔王が生み出した魔法生物が侵入できない仕組みになっているため、入浴者の安全が保証されているというのだ。

 

 魔王は最初、泉は罠ではないかと内心で疑った。周囲に何も無い場所におあつらえ向きとばかりに泉があるのを不自然に感じたからだ。それが()(ゆう)だったらしいと知り、ホッと一安心する。

 

「よし、それならここで水浴びしていこう! ちょうど長旅で汗をかき始めていた所だっ!!」

 

 レジーナが体を洗う事を提案する。泉が安全だと知るや、意気揚々とはしゃぎながら服を脱ぎだす。水に浸かりたくてウズウズしたようだ。

 

「王女様……はしたないです」

(あね)さんったら……しょうがないッスね」

 

 人目もはばからず豪快に脱衣する王女を見てルシルとなずみが苦笑いする。女の恥じらいを微塵も持ち合わせない彼女に心底(あき)れながらも、泉に入る意見には同意して一枚ずつ服を脱ぐ。

 

「俺達はちょっとその辺を見て回ってくる……泉に入れないとはいえ、魔物が潜んでいないとは言い切れないからな」

 

 ザガートとブレイズは泉に入らず、周囲の森を散策する意思を伝える。女達の肌や下着には全く興味を示さず、さっさとその場から立ち去ろうとする。

 

「ん? なんじゃ、お主は一緒に水浴びせぬのか? (われ)はてっきりあんな事やこんな事になると思っておったぞ。なんならエッチな体の洗いっこしても構わんのだぞ……ムフフッ」

 

 肉食系男子にあるまじき男の態度に鬼姫が拍子抜けした顔をする。いやらしい展開になると期待したにも関わらず、そうならない事に不満を漏らす。最後はとても卑猥な提案をして顔をニヤつかせた。

 

「……体は一人で静かに洗いたい主義だ」

 

 ザガートはそっけなく言葉を返すと、後ろを振り返りもせずズカズカと森の中へ歩いていく。女の提案にイラついたのか、声の調子は少し不機嫌だ。

 鬼姫は男の塩対応にガッカリし、なずみはムフフでスケベな展開にならなかった事に心底安堵するのだった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 四人の女達は一糸(いっし)(まと)わぬ姿になると水の中へと入る。最初に足先だけ水に触れて水温を確かめると、ゆっくりと全身で泉に浸かる。

 

 四人は水に浸かるとそれぞれバラバラな行動を取る。ルシルは静かに水に浸かったまま全身の汚れを落とすように指でなぞり、なずみはプールで遊ぶようにバシャバシャ泳ぎ、鬼姫とレジーナは水の冷たさにはしゃぎながら互いに水を掛け合って遊ぶ。

 

 裸の女達が(たわむ)れる光景はとても色気があった。若くて美しい女達のあんなものやこんなものが、謎の光で隠される事なく(さら)け出されているのだ。もしザガートのような精神的賢者でない年頃の若い男子がこの光景を見たら、大変な事になっただろう。

 

 平和な一時(ひととき)を満喫した彼女達であったが、やがてルシル以外の三人の視線がある一点へと向けられる。視線の先にあるものを凝視したまま、眉間(みけん)(しわ)を寄せて気難しい表情になる。

 

「な、なんですかっ! 急に!!」

 

 視線に気付いてルシルが慌てて胸を両手で覆い隠す。

 三人が見ていたもの……それは彼女の胸だ。弾力ある肉の(かたまり)がぶら下がっていたのを見て、目で追わずにいられなかった。

 

 三人は自分と彼女の胸を見比べて「はぁーーっ」とため息を漏らす。胸の大きさで負けた事に、強い敗北感に打ちのめされてガクッと肩を落とす。

 深い失意の奈落へと突き落とされたまま黙り込んでいたが、やがて鬼姫が思い立ったように顔を上げる。表情は激しい怒りに満ちて、ギリギリと割れんばかりの勢いで歯(ぎし)りする。

 

「グヌヌゥゥ……けしからんッ! なんじゃ、その肉のスライムは! いや、もはやスライムなどと呼べるレベルではない! 八匹のスライムが合体した、スライムの王……肉のキングスライムが二体もそこにおるではないか!!」

 

 腹の底から湧き上がる憤激を声に出してブチまけた。胸の大きさで優劣を付けられた事に激しく嫉妬(しっと)し、大声で(わめ)き散らす。ルシルの乳房が如何(いか)に大きいかを(たと)え話によって表現したが、歪曲的で分かり辛い。

 

「四人の中で一番エロい女は(わらわ)でなければならぬのに、こうも女の大事なパーツで差を付けられてしまうとは、不公平ではないかッ! そなたが一番影が薄い女だというのに!!」

 

 性的魅力において負けてしまった苦悩を吐露(とろ)する。微妙にメタフィクションな台詞(セリフ)を吐いて、彼女の胸が大きいのは容姿の無駄遣いであると指摘した。

 

「ええい、腹立たしい! かくなる上は、その肉のスライムをこうしてくれるわ!!」

 

 鬼姫はそう叫ぶや(いな)や、とてもここでは書けないような事をした!!!

 

「ああーーーーーーっ!!」

 

 ルシルの切ない悲鳴が森の中にこだまする。なずみは目の前で繰り広げられた光景をとても直視できず、(ほほ)を真っ赤にしながら顔面を両手で覆い隠す。

 

「やめろ、鬼姫ッ! そんな()(れん)()な行いをして、誰かに見られでもしたらどうする!!」

 

 レジーナが慌てて仲間の暴走を止めようとした時……。

 

 

 

 王女の言葉に反応したように、泉のすぐ(そば)にある茂みがガサッと揺れた。誰かに(のぞ)かれている事に気付いて、四人の女が音が聞こえた方を一斉に振り返る。何者かが潜んでいると思しき茂みをじーーっと眺めると、黒い物体がモゾモゾと動く。

 

「まさか、師匠がオイラ達の裸を覗きに来たんスか!?」

 

 なずみが期待で目をらんらん輝かせた。本来恥ずかしがるべき状況なのに、何故かとても嬉しそうだ。

 

「いや……そうではない」

 

 鬼姫が仲間の言葉を即答で否定する。覗き魔の正体におおよその検討が付いたのか、表情は暗く、口調は重苦しい。

 

「魔族じゃ……魔族が、(わらわ)たちの裸を覗き見しとる!!」

 

 大魔王の手下の魔法生物が、エッチな覗きの犯人だった事を明かす。

 

「ギギギィィーーーーーーーーッ!!」

 

 女が大声で叫んだ瞬間、黒いモゾモゾした物体が森の中へと走り去る。正体に(かん)()かれたため、敵に捕まる前にその場から逃げようという算段だ。猿にも野犬にも見えた物体は森の大地を軽快に走っており、移動スピードはかなり速い。

 

「あっ!」

 

 泉の側に脱ぎ捨ててあった衣服を漁ったなずみが、思わず声を上げた。

 

「どうしたんだ!?」

 

 少女が何に驚いたのかをレジーナが問う。

 

「下着が……オイラ達の下着が無くなってるッス! きっとあの黒い変な魔物が盗んでいったに違いないッス!!」

 

 なずみが、衣服の中から自分達の大事なものが無くなった事を明かす。

 これまでの状況から推測するに、覗きの犯人が彼女達のパンティとブラジャーとふんどしを盗んだ事は疑いようがない。

 

「捕まえるのじゃ! もしここで彼奴(きゃつ)を逃せば、我らは替えの下着を持っておらぬ! 衣服の下がノーパンになってしまうぞ!!」

 

 鬼姫が覗き魔を追う事を提案する。自分達が置かれた状況の深刻さを伝えて、一刻の猶予(ゆうよ)も無い事を(みな)に分からせた。特に鬼姫となずみは足の組み方や角度によっては股間が見えるため、何も穿()いてなければ大変な事になる。

 

「○○○が丸見えになるのは嫌ッス!」

「何としても覗き魔を捕まえましょう!」

「捕まえて、拷問して吐かせてやる!!」

 

 仲間達が口々に彼女の言葉に同意して(うなず)く。場の意見がまとまると、四人で魔物が逃げた方へと一斉に走り出す。

 

「待てぇぇぇーーーーーーーーっっ!!」

 

 四人の女達が大声で(わめ)きながら、下着を盗んだ魔物を追いかける。全裸で裸足(はだし)のまま、森の大地を颯爽(さっそう)と駆ける。あんなものやこんなものが見えようとお構いなしだ。阿修羅のような表情になりながら、髪を振り乱して山姥(やまんば)のように走る。

 

 当の下着を盗んだ魔物は森の中を軽快に動き回る。体が小さいだけあって、動きはかなり俊敏だ。いつまで()っても女達との距離は縮まらない。

 

「ヘヘヘッ、ノロマな雌犬(めすいぬ)どもが。捕まってたまるかよ……このままいつも通り逃げてやる」

 

 魔物が勝ち誇った台詞(セリフ)を口にしてニヤリと笑う。これまでにも同様の犯行を繰り返してきた事を(ひと)(ごと)で喋る。

 そのまま森の外へと逃げおおせるかに思われたが……。

 

「!?」

 

 突然魔物の動きがピタッと止まる。金縛りに()ったように立ったポーズのまま動けなくなる。全身が金色の光に包まれており、体のあちこちをビリビリと電流が走る。よく見ると足元に円形の魔法陣が浮き上がっていた。

 

呪術捕縛(カーズド・フリーズ)……あらかじめ不可視の魔法陣を(ひそ)ませておいて、通った者を動けなくする設置型のトラップだ」

 

 一人の男が魔法の原理について説明しながら森の奥から姿を現す。(そば)に忍者のような黒い騎士を従えている。

 

「きっ、貴様達は……!!」

 

 目の前に現れた男の姿を見て魔物が顔面をこわばらせた。彼を待ち伏せていた二人の男こそ、魔族の宿敵たるザガートとブレイズだったからだ。

 

 魔物は人間の子供くらいの背丈をした、裸のゴブリンのような小悪魔だった。背中にコウモリの羽を生やし、耳は(とんが)っていて、舌は蛇のように長い。肌は暗めの緑に染まっていて、見るからに悪い妖精らしさがある。かつて偽ケセフに化けたグレムリンという小悪魔によく似ていたが、肌の色が違う。

 彼の右手には女達が脱ぎ捨てた衣服から盗んだ下着の(たば)が、(はし)(つか)むようにして握られていた。

 

「貴様が泉の近くに潜んでいた事は最初から気付いていた……俺達は森の中を散策するふりをして泉から離れて貴様を油断させ、いくつかの逃走経路を想定して、それら全てに罠を張って待ち伏せていた……という訳だ」

 

 ザガートがこれまで取った行動の真意を明かす。魔物の気配を瞬時に察知しており、捕らえるための入念な仕込みを行っていたのだという。

 

「……彼女達から奪ったものは返してもらう」

 

 そう言うや(いな)や、魔物が手に持っていた下着を力ずくで奪い取る。

 

「フンッ!」

 

 最後に(かつ)を入れるように鼻息を吹かすと、敵の腹を足のつま先で思いっきり蹴飛ばした。ドガァッと肉の塊を蹴り飛ばしたような、とても良い音が鳴る。

 

「ウゲェェェェエエエエエエーーーーーーーーッッ!!」

 

 今にも胃の内容物を吐き出しかねない奇声を上げて、魔物が豪快に吹っ飛ぶ。軌道上にあった木を何本もなぎ倒した挙句墜落するように地面に激突すると、うつ伏せに倒れたまま手足をピクピクさせた。

 全身を包んでいた光は消えており動きを封じる術は解けたようだが、蹴られた痛みのあまり思うように動けない。

 

「ザガートっ!!」

 

 裸のまま敵を追いかけてきた四人の女達が森の奥の方から走ってくる。魔王の姿が視界に入ったため、彼の元へと集まる。

 ルシルとなずみは恥ずかしそうに顔を赤らめて大事な所を手で隠すが、鬼姫とレジーナは女の恥じらいが無いように平然としている。

 

「ほれっ、そこでブッ倒れてる悪魔から取り返してやったぞ」

 

 ザガートはこれまでの経緯(いきさつ)を手短に話すと、手に持っていた下着を女達に向かってヒョイッと投げる。ルシルとなずみは受け取った下着をそそくさと着て、鬼姫とレジーナは受け取るだけで着るのは後回しだ。

 

 魔王は地べたに倒れた悪魔の前までズカズカと歩くと、その場にしゃがんで相手の頭をじっと見る。

 

「貴様……何者だ? こんな所で何をしている」

 

 ゴミを見るような目で相手を見ながら、目的と素性を問う。

 

「ケケケッ……俺様はインプ。女の裸とパンツが大好きなエロ悪魔さ」

 

 小悪魔が顔を上げて(うす)ら笑いを浮かべながら自己紹介する。自らが変態的な性嗜好の持ち主である事を包み隠さず教える。ちなみに(いん)()ではない。

 

「最初はただ泉に入れず、女冒険者を近くから眺めてるだけだった……下着を盗んだのも、ただの嫌がらせだった。だがそれを何度もやってるうちに、だんだん病み付きになっちまってな……今となっちゃ、それをやるのが楽しくなっちまった」

 

 現状に至った理由を話す。泉に侵入できない腹いせのつもりで行った悪戯(いたずら)、それを繰り返した事が彼をエロ悪魔に変貌させたというのだ。冒険者を襲うはずだった目的が、性的欲求を満たす方向へと(ゆが)められてしまった。

 

「頼む! ここは見逃してくれッ! 俺は冒険者を一人も殺しちゃいない! それは自白魔法を掛けられようと事実だッ! ただ女の裸を(のぞ)いて、盗んだ下着を家に持って帰って、クンカクンカしたりペロペロ()めたり頭に被ったりしただけだ! まぁ盗んだ下着は持ち主に返しちゃいないが……別にパンツが無くなったって、死にゃあしないだろ!? だから見逃してくれッ!! な? な?」

 

 立ち上がったと見るや、すぐさま土下座して許しを()う。死にたくない焦りのあまり、これまで犯した罪をどんどん自白する。殺生を犯していない自分は裁かれるような事をしていないと開き直る。

 口ぶりから察するに、覗きと下着泥棒をやめる気は皆無のようだ。

 

「ど、どうか命だけはお助けをッ!!」

 

 ついそんな台詞(セリフ)が口を()いて出た。

 

「……ほう」

 

 インプの言葉を聞いてザガートがニタァッと口元を(ゆが)ませた。良からぬ(たくら)みをした悪魔のような邪悪な笑顔に染まる。

 

「良いだろう……ならば言葉通り、命だけは助けてやる。命だけは……なっ!!」

 

 マントを右手でバサッと開いて風にたなびかせると、悪魔を殺さない事を大声で約束する。だが表情に殺意を(みなぎ)らせており、とても相手を許す者が取る態度ではない。

 

(けが)れた魂よ……地獄の炎に焼かれて、(おの)が罪を(あがな)えッ! 奈落門(ネザー・ゲイト)ッ!!」

 

 両手で(いん)を結んで魔法の言葉を唱える。すると小悪魔から数メートル離れた背後に鉄製の両開きの大扉が出現する。監獄の入口のような大扉が開くと、向こうにマグマが煮え(たぎ)る灼熱の地底世界が広がっていた。

 

 扉の向こうに広がる地下世界が、ビュオオオッと音を立てて周囲の空気を吸い込み出す。扉のまん前にいたインプが強い力で引き寄せられて体が宙に浮く。

 

「あーーーーれーーーーっ!!」

 

 魔物が滑稽(こっけい)な奇声を発しながら手足をジタバタさせた。吸い込みの力から必死に逃れようと抵抗したものの、(かな)うはずもなく向こうの世界へ行く。

 悪魔を完全に()み込むと大扉がバタンッと大きな音を立てて締まる。使命を終えたようにスゥーーーッと薄れて消えていく。後には何も無い地面だけが残る。

 

奈落門(ネザー・ゲイト)……相手を地獄の奈落にある魂の牢獄へと幽閉し、千年の間生きたまま浄化の炎で焼き続ける魔法。千年の責め()に耐え切れば晴れて自由の身となるが、大半の者は精神が拷問に耐え切れず廃人になると言われている」

 

 ザガートが小悪魔を幽閉した魔法の効果を語る。精神が耐え切れないほどの苦痛を与える恐ろしい技だという。対象の命を奪わない技だと言っても、実質的には死刑判決に等しい。

 

「相手を殺さないと宝玉が手に入らないため、魔王軍十二将には使えないのが難だ……と言っても、完全即死耐性がある者には術自体が発動しない仕組みなのだが」

 

 敵にとどめを刺さない技であるが(ゆえ)に使う局面が限定される事を、残念そうな口調で話す。非常に強力な魔法に見えたが、万能ではないようだ。

 

(なっ、なんて恐ろしい魔法だ……千年も炎で焼かれるくらいなら、ブラックホールに放り込まれて死んだ方がまだマシじゃないかッ!!)

 

 レジーナが術の効果を知らされて心底震え上がる。自分が地獄の奈落に幽閉される痛みを想像して背筋が凍る思いがした。それを実際に受けたインプに、敵ながら(あわ)れみの念すら湧く。

 同じ異空間に放り込む技としてアビスウォームを思い出し、彼の方がマシだったと考える。

 

「で……お前達はさっきからそこで何をしている? 受け取った下着を何故穿()かない」

 

 状況が一段落するとザガートが女達の方を向く。レジーナと鬼姫が下着を手に持ったまま一向に着ようとしない事に疑念を抱く。

 

「お主こそおかしいじゃろ! こんなスッポンポンのエロい女が目の前におるのに、何故欲情せぬのじゃ! あんなものやこんなものが見えておるのじゃぞ!! ほれほれ」

 

 鬼姫が魔王の反応に不満を漏らす。年頃の若い女の裸が丸見えなのに、全くムラムラした素振りを見せない塩対応に怒りの感情すら湧く。わざと女の大事な所を見せようと、何度もいやらしいポーズを取る。さながらストリップのショーだ。

 

「ならお前達は、俺がウヒョーーだのムホホだの言って、顔を真っ赤にして鼻の下伸ばしてデレデレしながらルパンダイブする姿が見たいのか?」

 

 魔王が鬼姫の疑問に言葉を返す。クールなイメージのある自分が、性欲丸出しにした昭和のエロ親父になる姿が見たいのかと問う。

 

「……見たくない」

 

 レジーナが下を向いたままボソッと小声で(つぶや)く。いくら愛する男に裸を見られたくても、クールなイメージを壊す真似はして欲しくない心情が(うかが)える。

 

「ならさっさと泉に戻って着替えるんだ。もう十分に体を洗っただろう……本来こんな所で遊んでいる余裕は俺達には無い。こうしている間にも魔族が人を殺しているかもしれんのだからな」

 

 ザガートが泉のある方角を指差して服を着るように言う。水浴びを切り上げて先に進むべきだと忠告する。女の態度に(いら)()ったのか、小悪魔を倒しても何の成果も得られなかった事に不満を抱いたのか、口調は少し不機嫌だ。

 

「………」

 

 レジーナと鬼姫が無言のまま泉のある方へトボトボと歩く。父親に(しか)られた子供のようにしょぼくれた顔をする。男の言葉に反論できず、大人しく引き下がるしか無い。

 ルシルとなずみが彼女達の後ろを歩く。二人を(なぐさ)めようと肩に手を掛けたり、(あわ)れみの視線を向ける。

 

(つまらぬ……全くつまらぬ! これが年頃のウブな童貞男子なら、もっと面白い反応が見られたというのに……これではイジリ甲斐(がい)が無いではないかッ! まったく、これだからハードボイルド気取りは……)

 

 鬼姫が他の人に聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声でブツブツと文句を()れる。魔王が性欲において達観した賢者である事に大きな不満を抱く。己のエロさに絶対の自信があったからこそ、強い敗北感に打ちのめされる結果となった。

 

 歴史の英雄を骨抜きにした傾国の美女の(ごと)く、魔王をメロメロにしてやると……そう心に誓うのだった。

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