いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
「……こんな時間に俺を呼び付けて、一体何の用だ?」
ザガートが
時計の針が二時を指した頃、彼は王女に手紙で呼び出されて、王宮の一階にある廊下へと来ていた。大半の住人が寝静まったのか、城内は夜の静寂に包まれており、鳥が鳴く声だけがホゥーホゥーと聞こえる。
窓から
中庭では数人の兵士が巡回していたが、廊下の二人に気付いた様子は無い。
「……」
魔王を呼び出した張本人であるレジーナは、顔をうつむかせたまま黙り込む。相手の質問に一切答えようとしない。顔は暗闇で隠れており、表情を読み取る事が出来ない。
昼間の事を怒っている風ではなく、告白しようと照れている訳でも無さそうだ。
「……レジーナ?」
異変を感じたザガートが王女に近付き、肩に手を触れようとした時……。
「ザガートッ!!」
王女が切ない声で名を呼びながら男に抱き着く。
二人の体が重なり合った瞬間、男の腹にドンッと何かがぶつかった感触があった。ザガートが自分の腹に目をやると、ナイフが深く突き刺さり、赤い血がボタッ……ボタッ……と床に
「レジー……ナ……」
ザガートが苦悶の表情を浮かべながら、崩れ落ちるように床に倒れる。目を閉じて気を失ったまま、一向に起き上がろうとしない。ナイフが刺さった箇所からは血がとめどなく
その光景を、廊下の柱の影に隠れて大臣が見ていた。計略が成功した喜びでニヤリと笑う。
「……
そう小声で
すると王女に掛けられた術が解けて、ハッと正気に立ち返る。
「ああっ! これは……これは私がやったのか!? 何という事だッ!!」
意識が目覚めた途端ザガートが倒れた場面に出くわし、レジーナが
「おいザガート、しっかりしろ! 起きてくれっ! 目を覚ませっ!!」
急いで男の元に駆け寄り、抱き起こして何度も言葉を掛けながら体を揺すった。だがいくら王女が話しかけても男は一向に目を覚まさない。まるで死んでしまったかのように眠る。
傷口から流れ出る血の量は多く、とても止血できる状態じゃない。
「ううっ、ザガート……お願いだから死なないでくれぇ……」
最後は悲嘆に暮れるあまり男の胸にすがり付く。瞳から大粒の涙を
愛する人を失う悲しみで胸が張り裂けそうになる。自分のせいで彼が死んだらと思うと、とても耐えられない気持ちになる。
「ホッホッホッ、王女殿下……よくぞ魔王をお仕留めになられた」
王女が深く悲しんでいると、大臣が拍手しながら柱の影から姿を現す。悲しみに染まる王女とは対照的に、表情に満面の笑みが浮かぶ。
「ギド、貴様……」
レジーナが憎々しげな顔で相手を
王女に凄まれても、大臣は全く悪びれようとしない。鼻の下のヒゲを右手でビョンビョンいじって、相手を
「ヒルデブルク国を滅ぼすには、その男の存在がどうしても邪魔でした。だがもう、そやつは死んだ……いくら
国を滅ぼすのが真の目的だった事、その
「クククッ……これで私の計画を邪魔する者はいない。王女殿下、もうお分かりでしょう……私が貴方に術を掛けて、その男の殺害を実行させました」
自分が魔王を殺させた張本人であると告げて、声に出して
「何、国を滅ぼすだと!? ギド、それは一体どういう意味だ! 会議が終わった日の晩、お前は私に『国を一緒に守ろう』と声をかけてくれたじゃないかっ! あの言葉は嘘だったのか!?」
レジーナが怒りを抑え切れず、
国を
「そんなの嘘に決まってるさ……何故ナラ、私……イヤ俺ハ……」
ギドが王女の手をサッと払いのけて、ニタァッと笑う。話の途中で声がドスの利いた低音に変わり、不気味にエコーが掛かる。一人称が『私』から『俺』へと変化する。
「ギド……きさ……ま」
ただならぬ異変を感じて、レジーナが慌てて大臣から離れる。
「俺ハ……魔族ナノダカラナ」
大臣が自らの正体を明かし、
真実を告げると同時に彼の目が赤く光り、全身が影に飲み込まれる。
黒一色に染まった男の体がボコッボコッと不気味に
大臣が変身したそれは背丈四メートルほどにもなる、人型の
背中にはコウモリの翼を生やし、全裸で筋骨隆々としていて、全身が暗めの赤色に染まっている。首から上は
「俺ハ、レッサーデーモン……魔王軍ノ幹部ケセフ様ノ、忠実ナ
変身を終えた悪魔が自己紹介する。かつてギレネス村を襲った魔族の手下であると伝える。
「ああっ……あっ……」
大臣が化け物に変身した姿を見て、王女が顔を引きつらせた。表情はみるみる青ざめて、全身からサーッと血の気が引く。手足がガタガタ震えて力が入らなくなり、思わずその場にへたり込む。目の前に恐ろしい怪物がいるのに、一歩も動けなくなる。
それまで心の中にあった怒りは一瞬にして消え失せて、恐怖と絶望に飲まれた。
「レジーナ……貴様ハ俺ニトッテ、都合ノ良イ
蛇に
「フフフッ……馬鹿ナ女ダ。俺ガ本気デ国ヲ
たっぷり侮辱する言葉を浴びせて、王女の無知を
「……ッ!!」
どれだけ皮肉めいた言葉をぶつけられても、王女は一言も言い返せない。完全に相手に言い負かされて、下を向いたまま黙り込む。腹立たしげに下唇を噛んだまま、両肩をプルプル震わせた。
まんまと策略に乗せられたこの状況では、とても反論の余地を見出せない。相手の正論を黙って受け入れるしか無い。それが余計に悔しかった。
(私は……なんてバカな事をしたんだ! 事もあろうに、国を救ったかもしれない英雄を信用せず、あべこべに国を滅ぼそうとした悪魔の甘言に
自分の頭の悪さを許せない気持ちでいっぱいになる。自分を騙した相手よりも、彼の言葉を嘘と見抜けなかった我が身の愚かさを呪う。
大臣の正体を見破れなかった事実に、人を見る目が無かったと心底嘆く。
(何も分かってなかった……世間も、現実も、自分の力量すら! 分かったつもりになって思い上がっただけの、頭でっかちな子供だ! 井の中の
心の中で自分を
「私の……せいで」
「……ヨウヤク自分ノ愚カサヲ理解シタカ。ダガモウ遅イ……ザガート亡キ今、俺ヲ邪魔スル者ハイナイ。ココデ貴様ヲ殺シタ後、城ノ兵士モ、国王モ、皆殺シニシテヤル。クククッ……
悲しみに暮れた王女に向かって、デーモンがのっしのしと歩き出す。目の前に立つと、勝ち誇った笑みを浮かべながら相手を見下ろす。
「レジーナ! 俺ニ利用サレタ事ヲ、後悔シナガラ死ネェェェェエエエエエエーーーーーーーーッッ!!」
死を宣告する言葉を発しながら、とどめを刺そうと拳を高く振り上げた瞬間……。
「レッサーデーモンとやら……かよわいお姫様をいじめるのは、その辺にしてもらおうか」
それまで気を失っていたザガートが、突然ムクッと起き上がる。顔色は良く、言葉もハッキリしていて、痛みを感じた様子が全く無い。腹には確かにナイフが刺さっており、そこから赤い液体が流れたのにピンピンしている。
その姿がまるでゾンビのようで、何とも不気味だ。
「「ザガートッ!!」」
男が起き上がった光景を目にして、レジーナとデーモンが同時に名前を叫んだ。
「ザガート……貴様、何故生キテイル!?」
デーモンが思わず声に出して問いかけた。完全に死んだとばかり思っていた男が立ち上がった事実が頭で受け入れられず、金魚のように口をパクパクさせた。
「魔法で強化されたナイフだか何だか知らんが、俺には
ザガートが相手を小馬鹿にするように鼻で笑うと、腹に刺さったナイフを手で引き抜いて、ポイッと床に投げ捨てた。
「ダ……ダガナイフハ腹ニ深ク刺サリ、血ガ流レ出タデハナイカッ!!」
デーモンが
「大臣……貴様が必ず何か仕掛けてくるだろうと予測して、俺は腹に袋入りのトマトケチャップを仕込んでおいた。それで刺された時、わざと痛がって死んだふりをしてみせた。まんまと俺の演技に騙されてくれたようで大変助かる」
魔王が相手の疑問に答える。ナイフが刺さったのは袋の容器に入ったケチャップで、男の腹には一ミリたりとも傷を付けられていない。ドクドクと流れ出たように見えたのは、血ではなくケチャップなのだと。
「ケケケ、ケチャップダト!? ソンナ馬鹿ナ!!」
デーモンが驚くあまり声を
ザガートがした話は突拍子が無さすぎて、とても信じられるものではない。
「貴様ノ言葉ガ嘘カ本当カ、確カメテヤル!」
とても男の言葉に納得が行かず、悪魔が真相を確かめようとザガートに向かって駆け出す。彼の
するととても濃厚なケチャップの味が、悪魔の口の中に広がる。
「ンッ! ウ……ウマイッ! コレハ確カニ、トマトケチャップダ! クソッ、ヨクモ俺ヲ騙シタナッ!!」
その美味さに思わず感心し、男の言葉が真実だったと分かる。自分が騙されたとようやく気付かされて、
「大臣……俺は一目見ただけで、貴様の正体に気が付いたぞ。いくら人の姿に化けようと、魔界の瘴気までは隠せん。それをあえて黙っていたのは、あの場で真実を明かすより、貴様が自分から化けの皮を脱ぐのを待つ方が得策だと判断したからだ。俺をたばかったつもりだろうが、俺の方が一枚
ザガートが腰に手を当ててふんぞり返りながら勝利宣言する。最初の時点で正体を見破ったと明かし、大きな声で敵を
「ザガートッ!!」
魔王が楽しそうに笑っていると、レジーナが早足で駆け出して、男に抱き着く。
「バカバカバカっ! 私がどれだけ心配したと思ってる! 大丈夫なら、ちゃんとそう伝えてくれっ!」
顔を真っ赤にして怒りながら、ザガートの頭を両手でポカポカと叩く。男の演技に騙されていた事に深く
「本当に……本当に心配したんだぞ。無事で良かった……ウッウッ」
そう口にすると一転して泣き出す。男の胸にすがり付いたまま、グスッグスッと声に出して泣きじゃくる。
「すまない……また泣かせてしまったな」
父親に甘える子供のように泣くレジーナの頭を、ザガートが優しく
大臣に一杯食わせる
王女の
男を見つめる王女の瞳が涙で
「……どうか、これで許して欲しい」
そう言うや
「んっ……」
王女の口から吐息が漏れ出す。唇を奪われても一切抵抗しない。目を閉じて両腕で抱かれたまま、相手のなすがままにさせる。
男の腕に抱かれて唇がねっとり触れ合う感触に、幸福感すら覚えた。
王女はもう自分の思いに逆らってもしょうがないと観念し、心の中で魔王を愛していた事実を素直に受け入れた。彼の野性的な男らしさで、乙女の花園をグチャグチャに
誰に強制された訳でもなく、彼女自身がそれを深く望んだのだ。
「……」
目の前でいきなり男女が抱き合ってキスしたのを見せ付けられて、デーモンがポカンと口を開けた。全く予想しない話の流れにとても付いていけず、置いてけぼりにされた形となる。
「……貴様ラァ」
だがやがてハッと我に立ち返り、急激に怒りがこみ上げる。体中の血管が沸き立つほどハラワタが煮えくり返り、ギリギリと音が出るほど強く歯を食い
「貴様ラ……ヨクモ……ヨクモ俺様ヲ差シ置イテ、二人ダケデ、イチャイチャシタナッ! シカモ
胸の内に湧き上がった憤激を声に出してブチ
いつ襲ってくるかも分からない化け物がすぐ近くにいるのに、その事を忘れてしまったかのような二人の行いに深く
「……
相手の抹殺を宣言すると、感情の
「レジーナ、下がっていろ! こいつの相手は俺一人で十分だっ!!」
ザガートはそう口にすると王女を片手でドンッと突き飛ばし、デーモンがいない方向へと離れさせた。
「死ネェェェェエエエエエエーーーーーーッッ!!」
一人だけになったザガートに、悪魔が襲いかかる。一メートルしか離れない間合いまで迫ると、グワッと開いた右手を大きく振り上げて、鋭い
「フンッ!」
魔王が
「グワアアアアアアッ!!」
直後デーモンが悲鳴を上げながらゴミのように吹き飛ばされる。城の廊下の壁に激突して、そのまま一気に壁をブチ抜いて中庭へと投げ出された。殴り飛ばした力の勢いは
「グヌゥゥゥ……」
しばらく大の字に寝転がったまま手足をピクピクさせたが、やがて力を振り絞ってゆっくりと立ち上がる。首をブンブンと左右に振って、
殴られた箇所は大きく
「なっ……何だ!?」
中庭を巡回していた数人の兵士が突然の出来事に驚く。いきなり城の壁が爆発したと思ったら、そこから巨大な化け物が飛んできた事に心底驚愕する。
「てっ、敵襲だッ! 敵襲ーーーーーーッ! 中庭に魔族が侵入したぞーーーーーーッ!!」
兵士の中で比較的冷静だった一人が鐘塔に上がり、
それまで眠っていた城の住人が一斉に目を覚まし、ランプの
槍と鎧で武装した兵士が中庭へと殺到し、デーモンを
「レジーナっ!」
「ザガート様!」
悪魔と兵士達が