いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
泉のある森を抜けたザガート達一行は最後の宝玉を求めて旅を続ける。森の先に広がる平原を西に向かって数キロ歩き続けると、村らしきものが見えてきた。
その村は住人が数百人いる規模の大きさだ。決して巨大ではないが、限界集落と呼べるほどではない。畑仕事をしている老婆の姿を見かけて、のどかな田舎の風景という印象を受ける。
「あっ! 貴方がたは例の救世主様ご一行でございますね!? ソドムの村へようこそおいで下さいましたっ!!」
男が歓迎の言葉を口にする。頭に
ザガートはソドムという単語を聞いて心中穏やかではない。旧約聖書において神に滅ぼされた街の名前が出てきた事に、嫌な予感が頭をよぎる。せめて
「おーーーーいっ! 救世主様が村に来なさったぞぉぉぉーーーーーーっ!!」
魔王の不安をよそに男が村中に響かんばかりの大きな声で叫ぶ。有名人が訪れた事を村のみんなに知らせる。
男の言葉を聞いて、村のあちこちから人が集まってくる。あっという間に村の入口に数十人の人だかりが出来る。
「救世主様、ようこそ村においで下さいましたっ!!」
「おお、このお方が魔王の姿をした勇者様……」
「ありがたや、ありがたや」
「魔王様……どうか世界をお救い下さい」
村人が思い思いの言葉を口にする。ある者は
「歓迎してくれるのはありがたいが、
ザガートが率直に用件を述べる。村の実力者に会いたい意思を伝えて、彼の住居まで案内するよう頼む。
「分かりました。私が村長の家まで案内しましょう。ささ、こちらへどうぞ」
最初に言葉を
◇ ◇ ◇
男性に案内されるがまま村の中を歩き続けた一行……やがて二階建ての木造家屋の一軒家へと着く。家の中へ入ると、応接間と思しき部屋のテーブルの前に置かれた
彼の
「辺境の村へ、ようこそおいで下さいました。私はこの村の村長バーラ、
村長と思しき男性が頭を下げて自己紹介する。側にいた娘が数秒遅れて頭を下げる。
「それで、
「ふむ、
ザガートがいきなり本題に入ろうと、
「知っているかもしれんが、俺達は魔王軍の幹部を倒す旅をしている……そうする事が大魔王の城に行く手がかりになると考えたからだ。これは彼らの居場所を
地図の用途を教えて、自分達が一体ずつ敵を狩っていた事を明かす。
「村から西に向かった場所にも、ヤツらがいる事を示す×印がある……もしそれらしい魔物がいる情報があれば、現地に向かう前に聞いておきたい」
最後の一箇所を指差して、目的の相手が本当にいるかどうか確かめようとする。
「フム……」
魔王の話を聞いて、村長が
「ここから西に二十キロほど向かった所に山がありましてな……地図が示しているのはちょうどその辺りです」
×印が書かれた場所に山があった事を教える。
「元は何も無いただの山だったのですが、一ヶ月ほど前からでしょうか……季節外れの雪が降りましてな。雪は
山に起こった異変について話す。以前はただの平穏な山だったが、ある日を
「原因の調査を依頼されたギルドの冒険者パーティが、山に向かいました。すると山の中腹にポッカリ大きな洞窟が
山に調査に向かった冒険者の一団が、竜の魔物と遭遇した事を明かす。
「ドラゴンはとても強く、冒険者は歯が立たず逃げ帰りました。ドラゴンは
竜に勝てず冒険者が逃げ帰った事、竜は洞窟の外までは追わなかった事、竜が一連の事件を起こした張本人だろうという事……それらを述べて話を終わらせた。
「ドラゴンは洞窟の外に出なかったのか?」
ザガートが念を押すように問いかけた。村長から聞いた話の中に気になる
「ええ……遭遇した調査団が言うには、ドラゴンは出口の目前でピタリと止まり、そこから一歩も前に進まなかったとの事。冒険者達は一瞬おかしいと思いながらも、とにかくも生き延びるチャンスと考えて、急いでその場から走り去ったようです」
村長が調査団の目撃証言を語る。竜が取った奇怪な行動について
(フゥーーム……ドラゴンは何故冒険者を最後まで追わなかった? 本来ならどんな手を使ってでも、彼らを殺そうとしたはず……それを途中で諦めたのは、そうせざるを得ない理由があったからじゃないのか)
魔王が竜の振る舞いに疑念を抱く。明らかに何かの意図があるらしき行いに、敵の能力を知る手がかりになるのではないかと考えた。
頭の中であれこれ推論を巡らせたものの、どれも仮説の
「ありがとう、村長……それだけ話が聞けたら十分だ。山に
今後の方針が決まると、テーブルの上に広げた紙の地図を折り
村長と娘は彼らならやってくれるだろうと期待して、背中を見送るのだった。
◇ ◇ ◇
村を出たザガート達は雪山を目指して歩く。山に
山は村から西に二十キロ離れた場所にあり、そこへ向かう。目的地に近付くにつれて周囲の気温が下がりだし、山まで残り一キロの地点で雪が降りだす。
「ぐぁぁぁぁああああああっ! 寒いッ! 寒いのじゃぁぁぁぁああああああっ! 死ぬ! こここ、このままでは凍え死んでしまううううう!!」
あまりの寒さに鬼姫が悲鳴を上げる。それぞれの手で反対側の二の腕を
他の仲間達も気温の急激な低下に体を震わせた。全身の体温がみるみる下がっていき、このまま放っておいたら一分と
「聖なる力よ、我が旅を助けたまえ……
さすがに仲間を凍死させる訳にも行かず、魔王が呪文を唱える。手のひらから金色に輝く光が放たれて、六人の体をバリアのように覆う。光はスゥーーッと薄れて消えていき、目に見えない結界となる。
「おおっ! 見えない結界に覆われた途端、体が急にポカポカあったかくなりだしたぞ!!」
寒さを感じなくなった事にレジーナが歓喜の言葉を漏らす。さっきまで猛吹雪の中にいたのに、今は暖房が効いた部屋の中にいるような感覚を覚える。バリアの中は常に二十度以上に保たれており、外のマイナス気温をものともしない。
「それだけじゃないッス! オイラ達に触れようとした雪が、バリアにぶつかってビチビチと弾かれるッス!!」
なずみが自分達の身に起こった出来事を驚き顔で解説する。
単に熱に触れて溶けていた訳ではない。ガラスの壁にぶつかったように雪が物理的に遮断されていた。頂上から吹き抜けた風すらもバリアを避けて飛んでおり、肌に一滴の水分も触れない状態となる。
「このバリアはお前達を雪から守ってくれる……
ザガートが少女達を包んだ結界の効果を語る。冷気の遮断に限界があると前置きしながらも、雪山の快適な旅を約束するものであると伝える。
「ぬおおおおぉーーーーーーっ! このバリア凄いぞ! 前進したら、目の前に積もった雪が溶けていくのじゃ!!」
鬼姫が大はしゃぎしながらズカズカと前に進む。彼女を包んだバリアに触れた大地の雪が瞬時に溶けて無くなる。高熱に触れて液体になっただけでなく、一瞬で蒸発した気体になる。まるで雪が彼女を避けるように、通った場所だけ雪が無い状態となる。それがあまりに面白くて、周囲の雪を手当たり次第に消して遊ぶ。
その時山の頂上から
もはや吹雪など恐るるに
◇ ◇ ◇
山の中腹に辿り着いた一行……村長が言っていたらしき洞窟を見つける。
魔物が住むだけあり、洞窟はかなりの広さだ。古代の恐竜ティラノサウルスが余裕で出入りできるスペースがある。内部はゴツゴツした
洞窟の中は非常に暗く、奥を見渡す事は出来ない。外の光も内部までは届かない。
「聖なる光よ、暗き場所を照らしたまえ……
ルシルが正面に右手をかざして魔法の言葉を叫ぶ。するとパーティから半径十メートルの範囲が明るく照らし出された。その光を頼りにして一行は奥へと進む。
洞窟内部はビュウビュウ風が吹き抜ける音が鳴るだけで、他に物音はしない。魔物が襲ってくる気配は無く、ザガート達の他に生物の姿を見かけない。気温が異様に低かったためか、洞窟の中で暮らす野生動物はいないようだ。熊すら冬眠を行っていない。
しばらく洞窟を歩き続けると、数人の白骨死体が転がっているのが見えた。ボロボロの衣服、壊れた鎧、真っ二つに折れた剣、燃料が切れたランプ……それらは彼らが冒険者の一団だった事を
「ギルドの調査団は生き延びたと聞いたが、彼ら以外にも足を踏み入れた連中がいたようだな」
レジーナが白骨死体を眺めて彼らの素性を推測する。地面に散乱した持ち物、死体が置かれた状況から、ドラゴンに殺された犠牲者だろうと察する。ルシルとなずみは洞窟で息絶えた犠牲者を
「……厄介だな」
ザガートが不意にそう
「どうしたんスか?」
師匠が何を厄介に感じたのかが分からず、なずみが問いかけた。
「この洞窟内部には、目に見えない瘴気が渦巻いている……それは探知魔法を阻害するものだ。おかげで俺の力を
少女の問いに魔王が答える。洞窟の中に邪悪な力が働いていて、敵に有利な状況を生み出している事を教える。この洞窟そのものが敵の得意地形になっているというのだ。
(ドラゴンが洞窟の外まで調査団を追わなかったのは、瘴気の中に身を置く事で、正体を知られないようにする狙いがあったからなのか?)
村長の話と照らし合わせて、竜が冒険者の追跡を諦めたのは、洞窟の外に出たくなかったからではないかと察する。
ザガートが敵の能力に思いを巡らせた時、洞窟全体がゴゴゴッと音を立てて揺れた。直後ドォォーーーンッという衝突音とともに洞窟の壁にビシビシと亀裂が入りだし、天井から砂が
やがて亀裂の入った壁に大穴が
一行の前に現れたのは、大人のライオンを
生身の生物というより、ゴーレムのように人工的に生み出された魔法生物という印象を与える。両
ドラゴンはフワフワと宙に浮いたまま、魔王達の方をじっと見る。相手の出方を慎重に
「……貴様がこの山を凍らせたドラゴンか」
調査団が見たらしき魔物を前にしてザガートが問いかけた。
「
氷の龍が男の問いに答える。この見るからにおぞましい巨大なドラゴンこそ、一行が探し求めた最後の宝玉の持ち主に他ならない。