いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第90話 ドラゴンの棲む山

 泉のある森を抜けたザガート達一行は最後の宝玉を求めて旅を続ける。森の先に広がる平原を西に向かって数キロ歩き続けると、村らしきものが見えてきた。

 

 その村は住人が数百人いる規模の大きさだ。決して巨大ではないが、限界集落と呼べるほどではない。畑仕事をしている老婆の姿を見かけて、のどかな田舎の風景という印象を受ける。

 

 (さく)で囲まれた村の唯一の入口に一行が近付くと、一人の若い男が立っていた。

 

「あっ! 貴方がたは例の救世主様ご一行でございますね!? ソドムの村へようこそおいで下さいましたっ!!」

 

 男が歓迎の言葉を口にする。頭に(ツノ)が生えた人物の姿を見て、(ウワサ)の救世主であろうと判断する。

 

 ザガートはソドムという単語を聞いて心中穏やかではない。旧約聖書において神に滅ぼされた街の名前が出てきた事に、嫌な予感が頭をよぎる。せめて()(ゆう)であって欲しいと願い、胸の内にしまっておく。

 

「おーーーーいっ! 救世主様が村に来なさったぞぉぉぉーーーーーーっ!!」

 

 魔王の不安をよそに男が村中に響かんばかりの大きな声で叫ぶ。有名人が訪れた事を村のみんなに知らせる。

 男の言葉を聞いて、村のあちこちから人が集まってくる。あっという間に村の入口に数十人の人だかりが出来る。

 

「救世主様、ようこそ村においで下さいましたっ!!」

「おお、このお方が魔王の姿をした勇者様……」

「ありがたや、ありがたや」

「魔王様……どうか世界をお救い下さい」

 

 村人が思い思いの言葉を口にする。ある者は羨望(せんぼう)の眼差しを向けて、ある者は魔王に握手を求めて、ある者は神に祈るように両手を合わせて拝む。いずれにせよ全ての住人が歓迎の意を示す。

 

「歓迎してくれるのはありがたいが、何分(なにぶん)急いでいる身なので単刀直入に言う。この村の村長か長老の家に案内してもらいたい。そこで(うかが)いたい話がある」

 

 ザガートが率直に用件を述べる。村の実力者に会いたい意思を伝えて、彼の住居まで案内するよう頼む。

 

「分かりました。私が村長の家まで案内しましょう。ささ、こちらへどうぞ」

 

 最初に言葉を()わした男性が案内役を買って出る。善は急げとばかりに村の奥の方へと早足で歩く。一行は彼の後ろに付いてぞろぞろと進む。入口に集まった他の村人達はそれまで行っていた作業を再開すべくその場を離れる。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 男性に案内されるがまま村の中を歩き続けた一行……やがて二階建ての木造家屋の一軒家へと着く。家の中へ入ると、応接間と思しき部屋のテーブルの前に置かれた椅子(いす)に一人の中年男性が座る。年は五十代半ばに見え、()せ型で(ひげ)を生やしている。執事のような紳士然とした落ち着いた雰囲気があった。

 彼の(そば)にエプロンを付けた一人の若い女性がいたが、妻という訳では無さそうだ。年は二十代半ばくらいだ。

 

「辺境の村へ、ようこそおいで下さいました。私はこの村の村長バーラ、(となり)にいるのは娘のデロータと言います」

 

 村長と思しき男性が頭を下げて自己紹介する。側にいた娘が数秒遅れて頭を下げる。

 

「それで、(わたくし)めに何の用ですかな?」

 

 挨拶(あいさつ)もそこそこに、村長が家を訪れた用件を問う。

 

「ふむ、早速(さっそく)だがこれを見てもらいたい」

 

 ザガートがいきなり本題に入ろうと、(ふところ)から取り出した紙の地図をテーブルの上に広げる。地図には何かのありかを示すらしき×(バツ)印が十二箇所に付けられている。

 

「知っているかもしれんが、俺達は魔王軍の幹部を倒す旅をしている……そうする事が大魔王の城に行く手がかりになると考えたからだ。これは彼らの居場所を(しる)したものだ」

 

 地図の用途を教えて、自分達が一体ずつ敵を狩っていた事を明かす。

 

「村から西に向かった場所にも、ヤツらがいる事を示す×印がある……もしそれらしい魔物がいる情報があれば、現地に向かう前に聞いておきたい」

 

 最後の一箇所を指差して、目的の相手が本当にいるかどうか確かめようとする。

 

「フム……」

 

 魔王の話を聞いて、村長が眉間(みけん)(しわ)を寄せて気難しい表情になる。どれから話すべきか迷ったように「ムムムッ」と声に出して(うな)ったが、やがて考えがまとまったように口を開く。

 

「ここから西に二十キロほど向かった所に山がありましてな……地図が示しているのはちょうどその辺りです」

 

 ×印が書かれた場所に山があった事を教える。

 

「元は何も無いただの山だったのですが、一ヶ月ほど前からでしょうか……季節外れの雪が降りましてな。雪は()む事がなく、山は白く覆われました。まるで山の周囲だけが突然冬になったようです」

 

 山に起こった異変について話す。以前はただの平穏な山だったが、ある日を(さかい)に急に雪山になってしまったという。

 

「原因の調査を依頼されたギルドの冒険者パーティが、山に向かいました。すると山の中腹にポッカリ大きな洞窟が()いており、そこに一匹のドラゴンがいたというのです」

 

 山に調査に向かった冒険者の一団が、竜の魔物と遭遇した事を明かす。

 

「ドラゴンはとても強く、冒険者は歯が立たず逃げ帰りました。ドラゴンは執拗(しつよう)に彼らを追いましたが、出口の外までは追って来なかったため、彼らは生還できたとの事……そのドラゴンが雪を降らせたに違いないと、調査団はギルドの報告書に記載しています」

 

 竜に勝てず冒険者が逃げ帰った事、竜は洞窟の外までは追わなかった事、竜が一連の事件を起こした張本人だろうという事……それらを述べて話を終わらせた。

 

「ドラゴンは洞窟の外に出なかったのか?」

 

 ザガートが念を押すように問いかけた。村長から聞いた話の中に気になる(くだ)りがあり、そこをより詳しく聞いて確かめようとする。

 

「ええ……遭遇した調査団が言うには、ドラゴンは出口の目前でピタリと止まり、そこから一歩も前に進まなかったとの事。冒険者達は一瞬おかしいと思いながらも、とにかくも生き延びるチャンスと考えて、急いでその場から走り去ったようです」

 

 村長が調査団の目撃証言を語る。竜が取った奇怪な行動について克明(こくめい)に伝える。

 

(フゥーーム……ドラゴンは何故冒険者を最後まで追わなかった? 本来ならどんな手を使ってでも、彼らを殺そうとしたはず……それを途中で諦めたのは、そうせざるを得ない理由があったからじゃないのか)

 

 魔王が竜の振る舞いに疑念を抱く。明らかに何かの意図があるらしき行いに、敵の能力を知る手がかりになるのではないかと考えた。

 頭の中であれこれ推論を巡らせたものの、どれも仮説の(いき)を出ず、断定するには至らない。結局直接会ってみなければ確証を得られない結論に行き着く。

 

「ありがとう、村長……それだけ話が聞けたら十分だ。山に()む魔物は俺達が討伐する。魔物が原因なら、雪山の問題はそれで解決する。朗報が届くのを期待してくれ」

 

 今後の方針が決まると、テーブルの上に広げた紙の地図を折り(たた)んで懐にしまう。村長に感謝の言葉を述べて頭を下げると、出口に向かって歩き出す。そのまま扉を開けて建物の外に出ていく。

 

 村長と娘は彼らならやってくれるだろうと期待して、背中を見送るのだった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 村を出たザガート達は雪山を目指して歩く。山に()む魔物が魔王軍の最後の幹部だろうと考えて、彼を倒す事を目的とする。

 

 山は村から西に二十キロ離れた場所にあり、そこへ向かう。目的地に近付くにつれて周囲の気温が下がりだし、山まで残り一キロの地点で雪が降りだす。(ふもと)に辿り着いた時にはビュオオオッと風が吹き抜けて猛吹雪になる。村長が話した通り、山の周囲だけが冬になったようだ。

 

「ぐぁぁぁぁああああああっ! 寒いッ! 寒いのじゃぁぁぁぁああああああっ! 死ぬ! こここ、このままでは凍え死んでしまううううう!!」

 

 あまりの寒さに鬼姫が悲鳴を上げる。それぞれの手で反対側の二の腕を(つか)んだ姿勢のまま、肩を縮こませて震え上がる。表情は青ざめて、鼻水が()れ落ちる。

 他の仲間達も気温の急激な低下に体を震わせた。全身の体温がみるみる下がっていき、このまま放っておいたら一分と()たずに死にそうな勢いだ。ザガートとブレイズだけが猛吹雪に打たれたまま平気そうな顔をする。

 

「聖なる力よ、我が旅を助けたまえ……補助移動(アシスト・ウォーク)ッ!!」

 

 さすがに仲間を凍死させる訳にも行かず、魔王が呪文を唱える。手のひらから金色に輝く光が放たれて、六人の体をバリアのように覆う。光はスゥーーッと薄れて消えていき、目に見えない結界となる。

 

「おおっ! 見えない結界に覆われた途端、体が急にポカポカあったかくなりだしたぞ!!」

 

 寒さを感じなくなった事にレジーナが歓喜の言葉を漏らす。さっきまで猛吹雪の中にいたのに、今は暖房が効いた部屋の中にいるような感覚を覚える。バリアの中は常に二十度以上に保たれており、外のマイナス気温をものともしない。

 

「それだけじゃないッス! オイラ達に触れようとした雪が、バリアにぶつかってビチビチと弾かれるッス!!」

 

 なずみが自分達の身に起こった出来事を驚き顔で解説する。

 単に熱に触れて溶けていた訳ではない。ガラスの壁にぶつかったように雪が物理的に遮断されていた。頂上から吹き抜けた風すらもバリアを避けて飛んでおり、肌に一滴の水分も触れない状態となる。

 

「このバリアはお前達を雪から守ってくれる……流石(さすが)にドラゴンから氷のブレスを吐かれたら防げないが、単なる天候の吹雪なら恐れる事は無いだろう」

 

 ザガートが少女達を包んだ結界の効果を語る。冷気の遮断に限界があると前置きしながらも、雪山の快適な旅を約束するものであると伝える。

 

「ぬおおおおぉーーーーーーっ! このバリア凄いぞ! 前進したら、目の前に積もった雪が溶けていくのじゃ!!」

 

 鬼姫が大はしゃぎしながらズカズカと前に進む。彼女を包んだバリアに触れた大地の雪が瞬時に溶けて無くなる。高熱に触れて液体になっただけでなく、一瞬で蒸発した気体になる。まるで雪が彼女を避けるように、通った場所だけ雪が無い状態となる。それがあまりに面白くて、周囲の雪を手当たり次第に消して遊ぶ。

 

 その時山の頂上から雪崩(なだれ)が落ちてきた。ドォォッと地鳴りのような音を立てて、白い津波と化した雪が一行を()み込む。だがバリアは迫ってきた雪を全て溶かしてしまい、魔王達は全く被害を受けない。雪崩で埋まった雪の大地に、六人が立っている場所だけポッカリ雪が無い状態となる。

 

 もはや吹雪など恐るるに()らなくなり、六人は雪を溶かしながら竜の巣穴を目指して進む。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 山の中腹に辿り着いた一行……村長が言っていたらしき洞窟を見つける。

 

 魔物が住むだけあり、洞窟はかなりの広さだ。古代の恐竜ティラノサウルスが余裕で出入りできるスペースがある。内部はゴツゴツした()き出しの岩肌になっており氷の洞窟では無かったが、外の風が中に向かって吹き抜けていたため、気温はかなり低い。一行はバリアで守られていたため平気だが、もし備えが無ければ凍死する危険がある。

 

 洞窟の中は非常に暗く、奥を見渡す事は出来ない。外の光も内部までは届かない。

 

「聖なる光よ、暗き場所を照らしたまえ……領域灯(エリア・ライト)ッ!!」

 

 ルシルが正面に右手をかざして魔法の言葉を叫ぶ。するとパーティから半径十メートルの範囲が明るく照らし出された。その光を頼りにして一行は奥へと進む。

 

 洞窟内部はビュウビュウ風が吹き抜ける音が鳴るだけで、他に物音はしない。魔物が襲ってくる気配は無く、ザガート達の他に生物の姿を見かけない。気温が異様に低かったためか、洞窟の中で暮らす野生動物はいないようだ。熊すら冬眠を行っていない。

 

 しばらく洞窟を歩き続けると、数人の白骨死体が転がっているのが見えた。ボロボロの衣服、壊れた鎧、真っ二つに折れた剣、燃料が切れたランプ……それらは彼らが冒険者の一団だった事を(うかが)わせた。

 

「ギルドの調査団は生き延びたと聞いたが、彼ら以外にも足を踏み入れた連中がいたようだな」

 

 レジーナが白骨死体を眺めて彼らの素性を推測する。地面に散乱した持ち物、死体が置かれた状況から、ドラゴンに殺された犠牲者だろうと察する。ルシルとなずみは洞窟で息絶えた犠牲者を(あわ)れみ、両手を合わせて祈る。

 

「……厄介だな」

 

 ザガートが不意にそう(つぶや)く。洞窟の内部をぐるりと見渡しながら、(あご)に手を当てて気難しい顔をする。

 

「どうしたんスか?」

 

 師匠が何を厄介に感じたのかが分からず、なずみが問いかけた。

 

「この洞窟内部には、目に見えない瘴気が渦巻いている……それは探知魔法を阻害するものだ。おかげで俺の力を(もっ)てしても、敵が何処に潜んでいて、何処から攻めて来るか探るのは容易ではない」

 

 少女の問いに魔王が答える。洞窟の中に邪悪な力が働いていて、敵に有利な状況を生み出している事を教える。この洞窟そのものが敵の得意地形になっているというのだ。

 

(ドラゴンが洞窟の外まで調査団を追わなかったのは、瘴気の中に身を置く事で、正体を知られないようにする狙いがあったからなのか?)

 

 村長の話と照らし合わせて、竜が冒険者の追跡を諦めたのは、洞窟の外に出たくなかったからではないかと察する。

 

 ザガートが敵の能力に思いを巡らせた時、洞窟全体がゴゴゴッと音を立てて揺れた。直後ドォォーーーンッという衝突音とともに洞窟の壁にビシビシと亀裂が入りだし、天井から砂が(こぼ)れ落ちる。何かが壁をブチ破ってこちら(がわ)に来ようとしているのが分かる。

 やがて亀裂の入った壁に大穴が()くと、そこから巨大な蛇のような物体が飛び出してきた。

 

 一行の前に現れたのは、大人のライオンを(ひと)()みにする大きさの、胴が長い東洋タイプの(ドラゴン)だった。全身がガラスのような半透明の氷で出来ており、中が()けて見える。氷の内部は骨格を支える龍の骨があり、肋骨(ろっこつ)内部には魔力の(コア)らしき赤い水晶がある。内蔵や血管らしきものは見当たらない。

 生身の生物というより、ゴーレムのように人工的に生み出された魔法生物という印象を与える。両(まぶた)には赤い宝石が埋め込まれており、不気味な光を放つ。

 

 ドラゴンはフワフワと宙に浮いたまま、魔王達の方をじっと見る。相手の出方を慎重に(うかが)っているのか、いきなり攻撃を仕掛けたりしない。

 

「……貴様がこの山を凍らせたドラゴンか」

 

 調査団が見たらしき魔物を前にしてザガートが問いかけた。

 

如何(イカ)ニモ……俺ハ、スノードラゴン! 魔王軍十二将ノ最後ノ一人ニシテ、コノ山ノ支配ヲ任サレシ者!!」

 

 氷の龍が男の問いに答える。この見るからにおぞましい巨大なドラゴンこそ、一行が探し求めた最後の宝玉の持ち主に他ならない。

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