いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第92話 スノードラゴン死す

「フハハハハッ! マズハ一人、ヤッツケタゾ!!」

 

 敵を仕留めた喜びで、ドラゴンが(あご)が外れんばかりに大笑いする。魔王の仲間の一人、それも名の知れた強豪を始末できた達成感は大きく、嬉しさのあまり鼻歌交じりで(うた)いだす。魔物らしくなくテンションが高まったウキウキ顔になる。

 すっかり有頂天になって浮かれていた龍だったが……。

 

「……ン?」

 

 ある異変に気付く。不死騎王が死んだ場所に目をやると、洞窟内に散らばった氷が自ら意思を持ったように動きだし、磁力で引き寄せられたように一箇所に集まる。隙間を(ふさ)ぐようにビッタリくっつき合うと破損箇所がみるみる修復されていき、砕かれる前の状態へと戻る。(さら)に氷があっという間に溶け出すと、五体満足な黒騎士がそこに立っていた。

 

『残念であったな……不死は貴殿の専売特許に(あら)ず』

 

 ブレイズがそう言葉を発してニヤリと笑う。自らが絶対なる不死の存在であると明かし、龍だけが不死身ではない事実を突き付けた。敵にとってはお株を奪われた形となる。

 

「……グヌヌゥゥ」

 

 ドラゴンが思わず声に出して悔しがる。ギリギリと割れんばかりの勢いで歯(ぎし)りして、目をグワッと見開いた阿修羅の顔になる。完全に戦勝ムードに水を差された形となり、はらわたが煮えくり返る思いがした。

 

「……オノレ、不死騎王ッ! 貴様ガ何度デモ生キ返ルトイウナラ、何度ダッテ殺シテクレルワァァァァァアアアアアアアッッ!!」

 

 胸の内に湧き上がる怒りを声に出してブチまけた。何としても相手を生かしておけない気持ちになり、揺るぎない殺意を剥き出しにする。

 龍はまたも大きく口を開けて息を吸い込むと、口の中の空気が急激に冷え込んでキラキラ輝く。

 

「死ネェェェェエエエエエエーーーーーーッ!!」

 

 死を宣告する言葉を発すると、全てを凍て付かせる冷気のガスを吐く。

 

『同じ技を二度も喰らいはせぬ!!』

 

 ブレイズはそう叫ぶと、自身に向けて放たれたブレスをサッと横に動いて難なくかわす。そのままぐるりと()(かい)するように走っていって、敵の背後に回り込む。

 龍は巨体で小回りが利かないためすぐには後ろを向けず、敵に背後を(さら)け出した形となる。不死騎王は渾身の一撃を当てるなら今しかないと考えた。

 

『冥王剣……地獄車ッ!!』

 

 技名らしき言葉を叫ぶと、ブレイズは両手で(つか)を握って刃を垂直に構えたまま高くジャンプする。空中で一旦停止すると車のタイヤのようにギュィィーーーンッと高速で縦回転しだす。存在そのものが巨大な手裏剣と化した黒騎士が斜めに急降下して龍に襲いかかる。

 龍の真横を通り抜けた瞬間ズバズバと何かを切り裂いた音が鳴る。回転が止むとスタッと両足で大地に着地する。

 

「グァァァァアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」

 

 次の瞬間ドラゴンが悲鳴を上げて(もだ)える。刀傷と思しき一本の白い線がピッと体を通った後、体のあちこちに白い線が次々に入りだす。やがて体中が(あみ)の目のような線だらけになると、そこを切断面として龍の体がバラバラに崩れ落ちる。

 

 (こま)()れの肉片、いや氷片となったドラゴンが数秒間沈黙する。場がシーーンと静まり返り、魔物が動く気配は無い。これで決着が付いたのではないか……そう期待させる空気が、戦いを見ていた少女達の中にあったが……。

 

『……ッ!!』

 

 次の瞬間起こった出来事にブレイズが()(ぜん)となる。地面に散らばっていた氷の破片が一箇所へと集まり、みるみるうちにドラゴンの姿へと戻ったのだ。想定していた事ではあったが、それでもショックを隠し切れない。

 

「フフフッ……ナカナカ面白(オモシロ)イ技ダッタゾ、不死騎王。()ラッタノガ俺デナケレバ、間違イナク死ンデイタダロウナ。サスガ現地人デハ最強ト呼バレタダケアル……」

 

 ドラゴンがククッと声に出して笑う。黒騎士の実力の高さに素直に感心し、自身を殺した技の威力を()(たた)える余裕すら見せた。

 

(この技でもダメだったか……ならば!!)

 

 不死騎王が即座に気持ちを切り替える。渾身の技が効かなかった事に一度は慌てたものの、すぐに次の手を打とうと思い立つ。手に持っていた刀を一旦(さや)へと収める。

 

『地獄の鎖よ、我が敵を捕縛せよ……鮮血鉄鎖(ブラッド・チェイン)ッ!!』

 

 両手で(いん)を結んで魔法の言葉を唱えると、龍の真下にある大地に巨大な円形の魔法陣が浮かび上がる。そこから血のような赤色をした、六本の鉄製の鎖が飛び出してきた。

 鎖は龍の体にグルグルと蛇のように巻き付く。そのままガッチリ固定して動きを封じようとする。

 

「フンッ!」

 

 だが龍が全身に力を込めると、鎖はバリィィーーーンッと音を鳴らしながら豪快に引き千切られてしまう。ズタズタになった鎖の破片は洞窟内に散らばると、スゥーーッと薄れて消えていく。術の効果が切れたように魔法陣も消失し、後には何もない地面だけが残る。

 

『ヌゥ……それがしの鮮血鉄鎖(ブラッド・チェイン)はクラーケンを完全に捕縛した技ッ! それがこうもあっさり破られようとは……』

 

 自身の技を破ってみせた龍のパワーにブレイズが驚嘆する。過去に戦った敵を引き合いに出して、それとの格の違いを見せた相手の強さに驚きを隠せない。

 

「タワケッ! 俺ノ(チカラ)ハ、竜王バハムートニ匹敵スル……クラーケン(ゴト)キナドト、一緒ニサレテハ(コマ)ル!!」

 

 ドラゴンが黒騎士の言葉に声を荒らげて反論する。自身の強さにかなりのプライドがあったらしく、格下とみなした同僚と比較された事への怒りを(にじ)ませた。

 同じ魔王軍の幹部同士であっても、彼らの間には階級(ヒエラルキー)があったようだ。ドラゴンがかなり上位にいた事は間違いない。

 

「俺ガ強イ魔物ダトイウ事ヲ、トクトソノ身デ味ワエ!!」

 

 龍は憤激に満ちた言葉を吐くと、尻尾によるビンタを繰り出す。ブゥンッと音を鳴らしながら振られた尻尾の先端が触れると、騎士の体がバチィィーーーンッという音とともに豪快に吹っ飛ぶ。

 

『ヌォォォォオオオオオオーーーーーーッッ!!』

 

 ブレイズの体があっけなく宙を舞う。ハエ叩きで叩かれたハエのように猛スピードで飛んでいって壁に激突すると、全身を数メートルめり込ませた。体を強打した痛みがあったためか、壁に埋まったまま動かない。

 

「不死騎王ッ! お主、大丈夫か!?」

 

 仲間が負傷した姿を見て、鬼姫が慌てて駆け寄る。黒騎士が埋まった壁の前まで来て、必死に声を掛けた。普段あまり親しげな間柄ではないが、この時ばかりは心配せずにいられない。龍のブレスで凍らされそうになった時(かば)われたから、尚更(なおさら)だ。

 

『心配は()らぬ……不死身であるそれがしにとって、この程度は(かす)り傷にもならぬ』

 

 ブレイズが人型に()いた壁穴からゆっくり出てくる。足元がふらついていたが、目立ったダメージは無い。仲間に余計な心配掛けたくない心情もあっただろうが、単なる強がりでは無さそうだ。

 

(とは言え、いつまでも悠長に時間を稼げる相手ではない……我が主よ、一刻も早く弱点を突き止められよ!!)

 

 それでも自分達の置かれた状況が(かんば)しくないと悟る。このまま戦い続ければ劣勢に追い込まれる事は避けられないと考え、魔王の作業が無事に終わるよう願う。

 

 ……屈強な仲間二人がスノードラゴンと戦っていた頃、当のザガートは地べたにあぐらをかいて座ったまま意識を集中させていた。鬼女と黒騎士が敵の注意を引き付けてくれたおかげで安全に作業に没頭でき、流れ弾が飛んでくる気配は無い。三人の女もガッチリ周囲を固めて魔王を守る。

 

 魔王は瞑想するように(まぶた)を閉じたまま、敵の本体を探る事に心血を(そそ)いだが……。

 

「……ムッ!!」

 

 突如目をグワッと見開いて立ち上がると、洞窟の(はる)か彼方にある天井の(すみ)を眺める。

 天井の隅には何も無い。ただの岩壁があるだけだ。にも関わらず、魔王は何かを発見したように眉間(みけん)(しわ)を寄せて、鋭い眼差しで凝視する。

 

「ゲヘナの火に焼かれて、消し(ずみ)となれッ! 火炎光弾(ファイヤー・ボルト)ッ!!」

 

 洞窟の天井に手のひらを向けて攻撃呪文を唱える。轟々(ごうごう)と燃えさかる灼熱の火球が、視線の彼方に向かって一直線に放たれた。

 

「魔王、お主何処を狙っておる!? そっちには何も無いぞ!!」

 

 仲間の突然の行動が理解できず、鬼姫が真意を問い(ただ)す。敵がいない場所を攻撃しだした行為に、(つい)に気が狂ったかと思わずにいられない。

 

「いや……これで良い」

 

 ザガートがそう口にしてニヤリと笑う。良からぬ(たくら)みをした悪魔のような笑顔になる。鬼女からすれば全く理解不能な行動だが、何らかの意図がある事は明白だ。

 

 放たれた火球は洞窟の天井にぶつかると大きな音を立てて爆発する。次の瞬間……。

 

「ギャァァァァアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」

 

 バケモノの悲鳴らしき声が発せられた。声が聞こえた方角に(みな)の視線が向けられると、洞窟の岩壁に一匹のカメレオンがへばり付いていた。全身黒焦げになったカメレオンは透明化を解除したようにスゥーーーッと姿を現すと、力なく地面に落下する。仰向けに倒れたまま手足をピクピクさせたが、ガクッと力尽きて息絶えた。

 

 爬虫類の魔物が死んでから数秒が経過した後……。

 

「グォォォォオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 ドラゴンがいきなり洞窟中に響かんばかりの絶叫を上げた。恐怖に(おび)えたように表情が真っ青になると、全身をブルブルと小刻みに震わせる。一瞬ピタッと動きが止まったかと思うと、突然体が液状化してドロドロに溶け出し、ただの水となって洞窟の大地を濡らす。そのままいつまで()っても再生せず、完全に沈黙する。

 

 ……それがドラゴンが永久に無力化した姿である事は、誰の目にも明らかだ。

 

「どどど、どういう事じゃ!? あれだけしぶとく再生したドラゴンが、カメレオンが死んだ途端溶けてしまいおったぞ!!」

 

 目の前で起こった出来事が理解できず、鬼姫が声に出して慌てふためく。彼女からすれば何が何やらまるで訳が分からず、頭が混乱してチンプンカンプンになる。

 他の仲間達も状況を理解できず、(にわ)かにざわつく。ブレイズだけが何が起こったかを察したように冷静に(たたず)む。

 

 ザガートは魔物が倒れた場所までズカズカと早足で歩くと、カメレオンの焼死体を指でつまんで拾い上げた。

 

「バジリスクという名の小さなカメレオン……それが敵の正体だ。スノードラゴンはこいつが魔法で操っていたに過ぎない」

 

 敵の本体がちっぽけな爬虫類だと見抜く。氷の龍は彼が使役していた人形であり、本体を叩かない限り無限に再生する事を教える。

 

「龍が洞窟の外まで冒険者を追わなかったのは、洞窟内に身を置く事で、バジリスクが本体だと気付かれないようにする狙いがあったからだろう。探知魔法を阻害する瘴気が渦巻くこの洞窟は、ヤツにうってつけの戦闘領域(バトル・フィールド)だった訳だ」

 

 村長から聞いた話を思い出して敵の狙いを解説する。龍の取った不自然な行動……それが正体を知られないようにするための苦肉の策だったと明かす。

 

「フンッ、何が不死身のドラゴンじゃ! (ふた)を開けてみれば、クラーケンと大差ないではないか!!」

 

 真相を知らされて鬼姫が憤慨する。不死のカラクリを知った途端しょうもない敵に振り回された思いに駆られて、八つ当たりするように龍が溶けた地面をガッガッと踏み付けた。

 

(とは言え、バハムートに匹敵する強さの龍を無尽蔵に生み出せたのだ……かなりの術者であった事は疑いようがない)

 

 敵を侮辱する女とは対照的に、ザガートがバジリスクの強さに敬意の念を抱く。(から)め手を使う相手ではあったが、それも地力が無ければ()し得ない戦術だと考えて、それを可能にした魔物の実力に高い評価を与える。

 魔王軍十二将のトリを(つと)めるに相応しい強者だった……そう思いを抱く。

 

 魔王が物思いに(ふけ)ていると、カメレオンが死んだ場所の真上に魔力と思しき青い光が集まっていく。光は凝縮されて一つの球体になると、ゆっくり降下していって魔王の手元に収まる。ガラスのような半透明の水晶に魚座の紋章が刻まれていた。

 それは大魔王の城に行くために必要な宝玉の一つだ。これで十二個全てが揃った事になる。

 

(これでようやくヤツの城に行ける……ここまで長い道のりだった)

 

 宿願を果たせた事に魔王が胸を(おど)らせた。宝玉の使い方は今すぐは分からないが、それでも目標達成に近付いた感動はひとしおだ。

 もう大魔王討伐は目と鼻の先なのだ。魔王はラストダンジョン攻略を前にした勇者のようにウキウキが止まらなくなる。

 

「みんなぁーーーっ! こっちに来て下さいッスーーーーっ!!」

 

 一足早く出口に向かっていたなずみが大声で仲間を呼ぶ。

 彼女に呼ばれた他のメンバーが洞窟の出口へと集まる。

 

「おおっ……!!」

 

 洞窟の外に広がる景色を見て、一行が感嘆の声を漏らす。

 

 彼らが目にしたもの……それは雪が完全に消えて無くなり、山の大地が露出した姿だった。長く雪が降り積もった影響で大部分の緑は失われたが、それでもごく一部の自然は残っており、生命のたくましさを感じさせる。

 (はる)か頭上には雲一つない青空が広がっており、雪は一ミリも降らない。燦々(さんさん)と照り付ける太陽が辺り一帯に(まばゆ)い光を届けて、春のような陽気をもたらす。気温は二十度近くまで上がり、さっきまで豪雪地帯だった事を忘れさせるほどだ。

 

「ドラゴンがこの山にある精霊の力を奪っていた……そのドラゴンが死んだ事で、奪われた力が戻ってきたんだろう」

 

 ザガートが一連の光景について語る。雪が降ったのは魔物の影響であり、魔物がいなくなったために山が本来あるべき姿を取り戻したというのだ。

 

 生暖かい風が吹き抜けて、冒険者達の肌を優しく()でる。ぽかぽか陽気は激戦の疲れを忘れさせて、平和が戻ってきた実感を与える。

 

 何処からか一羽のツバメが飛んできて、魔王の肩に()まる。何か訴えようとするようにチュンチュンと声を掛ける。

 ……それはあたかも山の精霊が、自然を取り戻してくれた感謝の気持ちを伝えているようだった。

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