いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第93話 十二星座の宝玉の使い道

 ドラゴン討伐を終えたザガート達一行はソドムの村へと帰還し、村長に事の一部始終を伝える。山に平和が戻ったと知るや村長は大いに喜び、一行が村にいる間の宿代をタダにする方針が決まる。それは何の対価も受け取らずに魔物を倒してくれた魔王に対する、村長のせめてもの報酬だった。

 

 ザガート達は宿の一室に集まり、これからどうすべきか話し合う。宝玉は十二個揃ったが、肝心の使い道が分からない。使用方法が分からなければ、何の価値もないただの石ころなのだ。

 

 床に十二個並べられた宝玉を、ザガートが(あご)に手を当てて眉間(みけん)(しわ)を寄せたままじーーっと眺める。魔力による解析を行っても、使用方法は突き止められない。

 このままでは(らち)が明かないと考え、宝玉の一つに指で触れた瞬間……。

 

「……ムッ!!」

 

 頭の中に映像が流れ込む。過去の勇者が宝玉をどのように使ったか、その鮮明な記憶がインプットされる。

 

「……宝玉の使い方が今分かったぞ! みんな、今日はゆっくり休んで体力を回復し、明日の戦いに備えて英気を養え! 明日の昼十二時、村の中央にある広場に集合だ!!」

 

 ザガートはすぐさま立ち上がると今後の方針を伝える。宝玉の使用方法を突き止めた事を(みな)に教えて、最終決戦に備えて休息するよう命じる。

 魔王の命令に従い、皆はその晩宿に泊まって旅の疲れを(いや)すのだった。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 翌日……太陽が空に昇ったぽかぽか陽気の昼下がり。

 

 村の中央にある広場に一行が集まる。地面には何らかの魔術的な儀式を行おうとするように、十二個の宝玉が円を描くように配置されていた。

 魔王が何かするらしい(ウワサ)を聞き付けて、彼らの周囲に村人達が見物に来ていたが、魔王は「危険だから離れてなさい」と村人に距離を置くよう命じる。

 

「それで魔王よ、これからどうするのじゃ?」

 

 鬼姫が今後の方針について問いかける。魔王は使い道が分かったと言ったが、仲間達への具体的な説明は行っていない。彼女達からすれば、効果の分からない石ころを地面に並べられてもチンプンカンプンだ。

 

「……すぐに分かる」

 

 ザガートは心配ないと言いたげに言葉を返すと、ズカズカと歩いていって地面に並べた宝玉の前に立つ。

 

「神より(たまわ)りし十二の宝玉……我を()るべき場所へ導きたまえ!!」

 

 天を仰ぐように両腕を左右に広げると、呪文の詠唱のような言葉を叫ぶ。

 魔王の呼びかけに反応したのか、宝玉達が(まばゆ)い光を放つ。とても肉眼で直視できないほど強い光が周囲を覆った瞬間、ザガート達の姿がテレポートしたようにフッと消えた。

 宝玉も一緒に飛んだのか、一行がいた場所には何も残っていない。ただの地面があるだけだ。

 

「き……消えた……」

 

 彼らが一瞬で消えた光景を見て、広場に見物に来ていた村人達はしばし呆気(あっけ)に取られていた。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 西大陸の最果てにある辺境の地……切り立った岩山に(かこ)まれていて徒歩での侵入が不可能な秘境に、大きな神殿が建っていた。人が立ち入れない場所にあったが、ボロボロに()ちた様子は無い、立派な建築物だ。

 

 神殿の入口近くにある地面が眩く光ると、宝玉の力で転送された六人が姿を現す。一緒に飛ばされた宝玉が役目を終えたように光を失って地面に転がる。

 

「ここは……私達は何処に飛ばされたんだ?」

 

 レジーナが周囲を見回しながら魔王に問いかけた。自分達の身に起こった状況をすぐには把握できず、男に聞かずにいられない。

 

「俺も全部知っている訳じゃないが……俺達は宝玉に導かれてここへやって来た。つまり今俺達の前にあるこの神殿……これこそが大魔王の城へと通じる手がかりに違いない」

 

 ザガートが神殿の入口を指差しながら王女の問いに答える。十二の宝玉は神殿にワープするための手段であり、神殿の中に敵の城に行く手がかりがあるのだと推測を交えて語る。

 さすがにこの神殿が大魔王の城という訳では無さそうだ。

 

「そうと決まれば、早速(さっそく)中に入りましょう」

 

 ルシルが神殿に足を踏み入れるよう提案する。皆が彼女の言葉に従い、ズカズカと神殿の入口へと入っていく。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 神殿内部の通路をぞろぞろと進む六人……歩きながら周囲をキョロキョロ見回す。

 建物内に人の気配は無く、シーーンと静まり返る。一行が床を歩く音だけがカツカツと鳴る。魔物が襲ってくる気配は微塵も感じられない。

 

 神殿は古代ギリシャの建築物のような古い建物だが、全く経年劣化しておらず、完成した直後のような()(れい)さを保つ。床はツルツルに磨かれており、汚れは一切見当たらない。神聖な力で守られていて、風化を防いでいたのだろうか。

 

 神殿の中をただ黙々と歩き続けた六人は、大広間と思しき開けた空間へと出る。

 大聖堂のような部屋、その天まで届かんばかりの高い天井を見上げた瞬間……。

 

「よくぞここまで辿り着きましたね……貴方達が来るのを待っていました」

 

 何者かが一行に呼びかける声が聞こえた。人間の高貴な女性のような()んだ声色だ。

 

 直後、天井から巨大な何かが降りてくるのが見えた。風に乗るようにフワッとゆっくり落下していたが、それでも床に着地した時にはドスゥゥーーーンッと大きな音が鳴る。

 

 一行の前に降り立ったのは、古代の恐竜ティラノサウルスより大きな孔雀(クジャク)だ。外見はオスだが、先ほどの声から察するに女性のようだ。羽は(たた)んでいる。

 優雅で美しい見た目をした鳥は、魔王達をただじっと眺める。敵意のようなものは感じられない。人語を解する辺り、高い知能を持っている事を(うかが)わせた。

 

「……アンタが、俺達を大魔王の城へと導いてくれるのか?」

 

 美しい鳥を前にしてザガートが口を開く。この大きな孔雀が何らかの使命を帯びているに違いないと考えて、聞いて確かめようとする。

 魔王の問いに孔雀がコクンと(うなず)いて言葉を発する。

 

如何(いか)にも……私は神より遣わされし者、神鳥ガルーダ!!」

 

  ◇    ◇    ◇

 

 一方その頃、大魔王の城……その最奥にある玉座の間。

 アザトホースが瞑想するように目を閉じたまま黙り込んでいると、何者かがドカドカと早足で走ってくる音が聞こえた。

 

「大魔王様ッ! たった今、魔王軍十二将が全滅したと部下から報告がありました! ヤツらはもうすぐここに攻めてきます! 何卒(なにとぞ)敵を迎え撃つ具体策についてご指示を!!」

 

 城の警備隊長オークロードが鉄製の大扉を開けて、慌てて部屋へと駆け込んでくる。大魔王の前まで来て(ひざ)をつくと、今後の作戦について指示を(あお)ぐ。

 

「フフフッ……何ヲソンナニ慌テテイルノダ。オークロードヨ……」

 

 かなり焦っている様子の豚頭を(あざ)笑うように、何者かが声を掛けた。

 その言葉は正面にいるアザトホースから放たれたものではない。オークの真横にある空間から放たれた。

 

「ああっ! 貴方……いえ、貴方がたはッ!!」

 

 声が聞こえた方角を振り向いたオークが、目ん玉が飛び出んばかりに驚く。とても信じられないものを見たと言わんばかりに血相を変えてうろたえる。

 

 そこにいた四体の魔物にオークロードは見覚えがあった。それもそのはず……。

 

「デス・スライム……グレーターデビル、ギルボロス……魔女ワルプルギス……アビスウォーム。我ラ四将軍、大魔王様ノ(チカラ)ニヨリ、ココニ復活セリッ!!」

 

 黒い大きなスライムが、人型の上半身を出しながら大きな声で叫ぶ。

 ……オークロードの前に立っていたのは、いずれもかつてザガートに倒された魔王軍の幹部に他ならない。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 十二の宝玉を揃えた魔王一行……宝玉の力によって秘境にある神殿へとワープする。神殿の中を歩くと、ティラノサウルスより大きな孔雀が彼らの前に降り立つ。

 人間の美しい女性の声で喋る知的な鳥は、自ら神鳥ガルーダと名乗る。

 

「神に遣わされし鳥だと言ったな……アンタに聞きたい事がある」

 

 神の鳥だという肩書きに反応して、ザガートが即座に問いかける。これまで頭の中に抱えていた疑問があり、神の代行者たる彼女ならそれに答えられるのではないかと考えた。

 ガルーダがコクンと(うなず)いて質問を許可したため、魔王は言葉を続ける。

 

「俺をこの世界に呼んだのは、異界の神ゼウス……この世界の神ヤハヴェではない。ヤハヴェは今回勇者召喚を行わなかった。これまで二度勇者を呼んだにも関わらず……だ。その事について何か聞いているか?」

 

 この世界を統治する神の意思を問う。人類が魔族に(しいた)げられているのに救済を行わない神に、何らかの方針の変更があったのではないかと考え、聞いて確かめずにいられない。

 

 魔王の問いにガルーダはしばし無言になりながら顔をうつむかせた後、重苦しい表情で口を開く。

 

「神は今回、私に何も話しては下さりませんでした……私がいくら呼びかけても、一切答えては下さらなかったのです。まるで人類をお見捨てになられたかのように……」

 

 神が彼女の質問に答えなかった事実を教える。人類存亡の危機を前にしながら何もしない主人の態度に、彼女自身違和感を覚えた事を明かす。

 ヤハヴェは人類を創造した神だ。その神が、我が子たる人を見放したかもしれないのだ。

 

「……ですが、私は貴方達の事をずっと見守っていました。貴方がたが、これまでの旅で勇者と呼ばれるに相応しい行いをしたのは事実……神がお命じにならずとも、私は私の意思により貴方達を当代の勇者であると認め、大魔王の城へお連れしましょう」

 

 ザガート達の事を遠くから監視し続けていたと明かし、それによって一行を世界を救う勇者パーティだと認める。たとえ召喚したのが異界の神であったとしても、使命を託すに(あたい)する連中だと、自己の判断によって決め付ける。

 

「そうしてくれると助かる……」

 

 ガルーダが前向きに協力する意思を示した事に、ザガートが安堵の笑みを浮かべる。もし彼女の助力が得られなければ状況が手詰まりになった可能性があり、そうならなかった事にホッと一安心する。

 

「あと二つほど聞きたい事がある……アザトホースというのは、どれほどの強さだ?」

 

 今度は大魔王の強さについて問いかけた。

 

「アザトホース……とてつもなく恐ろしい、悪魔の王ッ! 宙に浮かぶクジラよりも大きな肉塊に、無数の触手と目玉が生えた、見るもおぞましい化け物!!」

 

 魔王の言葉を聞いてガルーダが目をグワッと見開く。それまで温和なイメージだったのが一転して真剣な顔付きになり、(ひたい)から冷や汗をかきながら全身をわなわな震わせた。このバハムートに匹敵する強さを持つ神の鳥が、大魔王の強さを思い出しただけで恐怖に()まれたのだ。

 

「普通の人間はその姿を見ただけで網膜を焼かれ、声を聞いただけで心臓が止まって死ぬ呪いに(おか)される……いわば存在そのものが永続的に効果を発揮する範囲即死魔法のようなものッ! しかもそれだけではありません。わざわざ呪文など唱えずとも、彼が大声で怒鳴っただけで山一つ吹き飛ぶほどの衝撃波が放たれるのです」

 

 大魔王がどれほど恐ろしい存在なのかを早口で語る。並みの冒険者では戦いにすらならないという。その場にいただけで周囲に被害をもたらす辺りは災害級と呼べるものだ。

 

「この宇宙において、彼より上位の生命体は存在しない……神ヤハヴェを除けば、彼こそあらゆる生態系の頂点に君臨する悪魔(デーモン)の頭……大魔王(オーバーロード)なのです!!」

 

 最後に大魔王が世界最強の生物である事実を述べて話を終わらせた。

 

 オーバーロードとは王の中の王、王を超えた王の意であり、その世界において彼より上の王は存在しないとされる者に与えられる称号である。この宇宙においてはアザトホースがそう呼ばれるに相応しいという事になる。彼は魔王の中においての魔王なのだ。

 

(フゥーーム……永続的に効果を発揮する範囲即死魔法、か)

 

 ガルーダの話を聞いてザガートが物思いに(ふけ)る。(あご)に手を当てて眉間(みけん)(しわ)を寄せて気難しい表情になる。

 彼女の話が事実なら、大魔王と対面すれば、自分は平気でも仲間はバタバタと倒れる。守るべき存在である少女達に大きな被害が生まれれば、精神的プレッシャーになる。それだけは避けたかった。

 

「お前達……これを付けておけ」

 

 そう言うや否や、服のポケットから何かを取り出して三人の女に手渡す。

 魔王が仲間に渡したもの……それは小さな宝石が付いたイヤリングだ。耳たぶに挟む事で装着するタイプで、ピアスのように穴を開ける必要はない。

 

「師匠、これは何ッスか?」

 

 突然プレゼントを渡された事になずみが困惑する。この状況で何の効果もないアクセサリーを贈られるとは思えず、理由を聞かずにいられない。

 

「それには魔力が込められていて、装着すれば状態異常と即死魔法への耐性が俺と同じになる。それを付けてさえいれば、大魔王の眼前に立っても被害を受けずに済むだろう」

 

 魔王がイヤリングの効果について語る。魔王と同等の耐性を得られる事によって、アザトホースの姿を見ても網膜を焼かれず、声を聞いても心臓が止まって死ぬ呪いに冒される心配が無くなるというのだ。

 

「ありがたい……これで最終決戦の場に(おもむ)いても、足手まといにならずに済むという訳だ」

 

 レジーナが感謝の言葉を口にしながらイヤリングを耳に付ける。ルシルとなずみもコクンと(うなず)きながら同じようにする。

 

 これで最終決戦の場に彼女達を立ち合わせても、何の心配もいらないだろう……魔王がそう安堵しかけた時。

 

「おい魔王ッ! なんで(わらわ)にはイヤリングをくれぬのじゃ!? (われ)にもそれをよこせ!!」

 

 一人だけイヤリングをもらえなかった鬼姫が声を荒らげて猛抗議する。自分だけ()け者にされた事に、魔王に軽んじられたのではないかという憶測が湧き上がり、真意を問わずにいられない。

 

「うーーん……」

 

 不満を隠さない女を前にしてザガートが困り顔になる。腕組みして気難しい表情を浮かべたまま「ムムムッ」と声に出して(うな)る。どう説得すべきか迷ったようにあれこれ思い悩んだが……。

 

「……たぶんお前は付けなくても大丈夫だろう」

 

 そんな言葉が口から飛び出す。仲間の身を案じていないようで、ずいぶん呑気(のんき)な口調だ。

 

「お前は他の三人と違って、アスタロトの倍の強さを持つ妖怪の王だ。イヤリングなど付けずとも、即死攻撃に耐えられるのではないか……そう思ったんだ」

 

 アクセサリーを渡さなかった理由を明かす。それなりの力がある上級悪魔である彼女ならば、イヤリングは必要ないかもしれないと判断した(むね)を伝える。

 

「嫌じゃ! 絶対に嫌じゃッ! お主がイヤリングをくれぬというなら、我はここから一歩も動かぬぞ!!」

 

 魔王の説明に納得が行かず、鬼姫がだだをこねる。地べたに寝転がったまま両腕をバタバタさせて、親に反抗する子供のように暴れる。

 

「お主も知っておろう……(われ)がこれまで、どれほど噛ませ犬になったかを。お主と不死騎王に比べて、我は弱い。(まこと)に不本意じゃが、それは認めねばなるまい……お主ら二人なら耐えられる攻撃に、我だけ耐えられぬかもしれぬのじゃ」

 

 ピタッと動きが()むと、泣きベソをかきながら自分の弱さを卑下(ひげ)する。常に戦闘において二人に遅れを取った苦悩を吐露(とろ)し、自分が即死攻撃に耐えられない可能性を指摘した。

 

「……仕方あるまい」

 

 ザガートは根負けしたあきらめ顔になると、やれやれと言いたげにため息を漏らしながら、服のポケットからイヤリングを取り出す。それをこれみよがしに女の前にかざす。

 

「やったのじゃーーーーっ!!」

 

 鬼姫は即座に立ち上がって満面の笑顔になると、魔王の手からイヤリングを奪い取る。早速(さっそく)自分の耳に付けてウキウキ笑顔になると、鼻歌交じりで(うた)いだす。さっきの陰気ムードは一瞬で吹き飛び、いつもの元気な彼女に戻る。

 

(とは言え、彼女の言う事も一理ある……俺とブレイズなら耐えられる攻撃に、鬼姫が耐えられない可能性は十分にある。ここで渡しておくのが得策かもしれない)

 

 大喜びする女を眺めながら魔王が物思いに(ふけ)る。彼女の意見に賛同できる部分があったと考えて、ここは従っておくべきだと冷静な判断を下す。

 

 彼女は決して単なるわがままでアクセサリーを要求したのではない。自分の弱さを素直に受け入れて、未来に起こり得る災厄を想定して、それを避けるためにそうしたのだ。

 彼女の覚悟を()み取ってやる事も、リーダーの(つと)めだ……魔王はそのように考えた。

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