いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第94話 浮遊城の戦い

「さてガルーダよ……もう一つ聞いておきたい事がある」

 

 魔王がサッと話題を切り替えたように神鳥の方を向く。

 

「大魔王の城はアンタの助力が無いと入れないそうだが……それは一体何処にあるんだ?」

 

 敵の本拠地の所在を問う。これから向かう場所なだけに、どんな所にあるのか聞いて確かめておきたかった。

 

「……お見せしましょう」

 

 ガルーダはそう答えると、神殿の何も無い壁を向く。

 直後神鳥が見ていた壁に長方形の大きな映像が映し出された。魔力によるものなのか、高解像度で非常に滑らかに動くそれはあたかも映画のようだ。

 

 映像に映っていたもの……それは雲海より(さら)に上の空を、(さら)のような(ひら)べったい円盤が浮遊している姿だった。円盤はかなり巨大で、半径一キロメートルは(ゆう)に超えている。円盤の中央に中世ヨーロッパの城のようなものがそびえ立っており、敵の居城と思われた。

 円盤の真下に円盤より一回(ひとまわ)り大きな魔法陣が浮かび上がっており、時計回りにクルクルと回る。この魔力により宙に浮かされた円盤こそ、大魔王の城を支える鋼鉄の足場なのだ。

 

 円盤は一箇所に(とど)まらず移動し続けていたが、何処かに向かう様子は無く、特定の範囲内をグルグル周回する。

 

「浮遊城パンドラ……地上より(はる)か高みにある天に浮かぶ城こそ、大魔王が()む忌まわしき場所ッ! 地上はおろか空からの侵入も許さない絶対不可侵な領域ッ! それもそのはず、この城は大魔王の魔力による結界で守られていて、私以外の力では突破できないのです!!」

 

 ガルーダが敵の居城の名を口にする。浮遊城があらゆる者の侵入を(こば)むバリアで覆われていたと伝えて、自分だけが唯一その守りを突破できると教える。

 

(フゥーーム……浮遊城パンドラ……大魔王の城というからてっきり地底深くにあると踏んでいたが、まさかこんな高い雲の上を飛び続けていたとはな)

 

 ザガートが映像を眺めながら声に出して(うな)る。敵の居城が全く予想だにしない場所にあった事に驚きを隠せず、眉間(みけん)(しわ)を寄せてとても渋い顔になる。

 徒歩で立ち入れない場所にあるとは聞いていたが、それが雲より高い天空などとは夢にも思わず、虚を突かれた思いがした。こんな高所にあっては魔王城でおやすみなど到底できそうもない。

 

「これで聞きたい事は全部だ……もし良ければ、今すぐにでも大魔王の城へ連れていってもらいたい」

 

 魔王は話を切り上げると、早速(さっそく)自分達を敵の根城へ連れていくよう頼む。

 

「では皆さん、私の背中に乗って下さい」

 

 ガルーダはそう言うと身を(かが)めて地べたに腹()いになる。六人はそそくさと彼女の背中によじ登る。

 壁に映った映像は役目を終えたように消去される。

 

「わぁーーーーっ! 鳥さんの背中、モフモフっす! とってもあったかいッス!!」

 

 なずみが孔雀の体毛の柔らかさに歓喜の言葉を漏らす。神鳥の背中に顔をうずめてスリスリさせたまま、ベッドの毛布に包まれたような心地になる。

 

「この羽、(むし)ったら高く売れんかのう」

 

 鬼姫が孔雀の羽をじーーっと眺めたまま物騒な言葉を吐く。

 

「コラッ! 馬鹿な事を言うもんじゃありません!!」

 

 ザガートが思わず声を荒らげて仲間の失言を(しか)り付けた。神鳥の機嫌を損ねる可能性を危惧したあまり、子供を叱る父親の口調になる。

 他の仲間達は二人のやり取りを眺めてクスクスと笑う。神鳥は羽が毟られなかった事にホッと一安心する。

 

「ではそろそろ向かうとしましょう」

 

 ガルーダは六人が背中に乗った事を確認すると、ゆっくり立ち上がって大広間の一角にある壁を見つめる。

 視線が向けられた先に彼女が通れる大きさの鉄製の大扉があり、思念に呼応したようにギギギッと音を立てて(ひと)りでに開く。扉が開いた先に神殿の外の空間が広がる。

 

「飛ばしますよ……振り落とされないよう、しっかり捕まってて下さい!!」

 

 神鳥は警告の言葉を発すると、出口めがけて猛然とダッシュする。神殿の外にある平野へ出ると、助走の勢いに任せて大空へと飛び立つ。そのまま一気に数千メートルの高度に浮上する。

 

「うわぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」

 

 鳥の飛行スピードの速さに女達が思わず悲鳴を上げた。事前の警告通り空気抵抗により生まれる風圧は凄まじく、振り落とされないようにするだけで精一杯だ。六人は鳥の背中の体毛に全力でしがみ付く。

 

「わぁーーーーっ! 飛んでる! オイラ達、雲の上を飛んでるッスよ!!」

 

 雲海の上を飛ぶ景色を眺めながらなずみが目をキラキラ輝かせた。

 

『ヌォォォォオオオオオオッ! これは夢か幻か!? まさかこのような体験をする事になろうとは!!』

 

 ブレイズが思わず声に出して(うな)る。普段の()(もく)なイメージからかけ離れた、ガラにもない慌てぶりを見せた。冷静沈着な彼も、これまでの人生で味わった事の無い体験に驚かずにいられない。

 

 他の者達も皆、初めて見る景色に胸を(おど)らせた。本来敵の根城に向かう緊迫したシチュエーションであり、悠長に感動している(ひま)は無いのだが、それでも感慨を覚えずにはいられない。

 この刺激的な旅の記憶は、一生の思い出になるだろう……そう思いを抱く。

 

 孔雀が優雅に空を舞う姿も美しい。見るからに芸術的な姿は神鳥と呼ぶに相応しい貫禄がある。

 

 一行が鳥の背中に捕まったまま飛び続けていると、正面に小さな物体が見えた。距離が近付くにつれてだんだん大きくなるそれは、映像の中で見た浮遊城の姿だ。

 ガルーダが百メートルの距離まで迫ると、浮遊城全体が半透明に()けた青い球状のバリアで覆われる。侵入者の存在を察知して迎撃態勢に切り替えたようだ。

 

 バリアが間近に迫っても鳥は一向に減速する気配を見せない。それどころか突進しようとするようにグングン速度を上げる。

 

「ふんぬらばぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」

 

 ガルーダはトイレで(りき)んだような声を発すると、バリアめがけて突っ込む。鳥が触れるとドガシャァァーーーーンッ! と分厚いガラスの板が割れた音が鳴り、激突した箇所のバリアが粉々に砕ける。青いガラスの破片が降り注ぐ中をガルーダが強引に突っ切る。

 

「えっ……ええええええぇぇぇぇーーーーーーーーっっ!?」

 

 鳥の予想だにしない行動に一行が目を丸くさせた。一瞬何が起こったのか全く理解できず、(はと)が豆鉄砲を食らったような顔をする。

 

 鳥は自分ならバリアを突破できると告げていた。一行はそれがバリアを消去する魔法とか、彼女だけはバリアを通過できるとか、あるいはテレポートだとか、何らかの魔術的な手段だと考えていた。

 何の事は無い。彼女の言うバリアを突破する手段とは、単なる力任せの体当たりによる物理的な破壊だったのだ。

 

 一行がドン引きしている事など気にも()めず、ガルーダがバリア内部に侵入する。円盤の(はし)にある足場に降り立つと、前(かが)みになって床に腹()いになる。

 

「ハァハァ……バリアを破るので力を使い果たしました。私はここで二時間ほど休むので、その間に大魔王を倒して下さい。全てが終わったら迎えに参ります」

 

 息を激しく切らせて全身をグッタリさせた。力技による突破で体力を消耗したらしく、精も根も尽き果てた様子だ。

 

 一行は鳥の背中から降りて床に足を付けると、彼女を心配そうな目で見る。このまま息絶えるんじゃないかと不安が頭をよぎる。

 

(こんな事をこれまで二度もやったのか……神もとんだ大仕事を押し付けたものだ)

 

 ガルーダの苦労を想像して魔王は何とも言えない気持ちになる。辛い思いをしてまで使命を果たしてくれた彼女に感謝してもしきれず、何としても苦労に(むく)いねばなるまいと思いを強くする。

 

「待っていろ……大魔王は必ず俺が倒す。アンタの苦労は決して無駄にはしない」

 

 神鳥にアザトホースの討伐を強く誓う。浮遊城に巣食う敵を滅ぼす事こそ、彼女の労を(ねぎら)う最良の手段だと考えた。

 魔王の言葉に神鳥がコクンと(うなず)く。一瞬フッと安心したような笑みを浮かべると、目を閉じて横になり安らかな眠りに()く。スゥスゥと気持ちよさそうに寝息を立てる。

 神鳥が休息に入った姿を見届けると、一行は広場の中央にある魔王城を目指して歩き出す。彼女の犠牲を無駄にしないためにも、ここで敗れる訳には行かない……そう固く決意するのだった。

 

 浮遊城は巨大な円形の足場の中央に悪魔の城がそびえ立つ構図となっており、一行はそこを目指す。城まで残り二百メートルの距離に迫った時……。

 

「……」

 

 ザガートが無言のままピタリと足を止める。他の者達も魔王が何かに(かん)()いたのだろうと思い、それ以上先に進まない。

 魔王の視線が向けられた先に城の入口の大扉があり、ギギギッと音を立てて開く。そこから人の形をした『何か』がワラワラと大量に湧いて出る。

 

 城門から出てきたもの……(ひと)りでに動く人間の白骨死体が軽装の鎧を着て、剣と盾で武装したそれは、スケルトンと呼ばれる有名な不死(アンデッド)の騎士だ。数はおよそ二百体ほどいる。

 彼らの群れにレッサーデーモンとヘルハウンドがそれぞれ十体ずつ混ざっており、等間隔に距離を開けてまばらに配置されている。

 

 総数二百二十体にも(のぼ)る魔物の軍勢はザガートめがけてゆっくりと進軍する。骸骨達は獲物を前にして戦意が高揚したように目を赤く光らせて、歯をカタカタ動かして不気味に笑う。

 

「最初のお出迎えという訳か……」

 

 手荒な歓迎を受けてザガートがニタァッと邪悪な笑みを浮かべる。敵の大軍を前にしても(おく)する気配は微塵もなく、戦いが始まる事を喜んだようにウキウキする。

 

「どうするつもりだ?」

 

 レジーナが敵にどう対処するつもりなのか方針を問う。

 

「心配ない……一瞬でカタを付ける」

 

 ザガートが王女の疑問に即答する。敵を速攻で始末する(むね)を告げると、数歩前にズカズカと進み出る。ピタリと足を止めると、両手で(いん)を結んで呪文の詠唱を行う。

 

「紅魔の力よ、一点に収束して爆裂せよ……核爆熱閃光(エクス・プロージョン)ッ!!」

 

 魔法名らしき言葉を叫ぶと、敵軍の中心に赤い光のようなものが集まっていく。限界まで圧縮されて小さな光になった瞬間、火が()いたダイマナイトのように爆発して、その場にいた魔物の群れを一瞬で粉微塵に吹き飛ばす。

 (さら)に最初の爆発が起こった地点の周囲に打ち上げ花火のようにボンボンボンッと連鎖的に爆発が起こり、爆破地点にいた魔物をゴミのように()ぎ払う。

 

「ギャアアアアアアッ!!」

「ドグワァァァァアアアアアアッ!!」

「アビャァァァァアアアアアアーーーーーーッッ!!」

 

 爆発に巻き込まれた魔獣の悲鳴がこだまする。スケルトンの骨は粉々に砕けて、レッサーデーモンの肉は黒焦げになり、ヘルハウンドは木っ端微塵になる。爆発の威力に耐えられる魔物などいない。

 ドミノ倒しのように連鎖的に起こる爆発は一向に()む気配がなく、あたかも近代の航空機編隊による爆撃が行われたようだ。魔物はある者は逃げ(まど)い、ある者は必死に耐えようとしたが、全く無駄な抵抗だ。

 

 最初の爆発から一分半ほど経過した後……それまで続いていた爆発がピタリと止む。場がシーーンと静まり返り、風が吹き抜ける音だけがビュウビュウと鳴る。

 爆発が止んだ時、そこに生きていた魔物など一匹もいなかった。黒焦げになった骨と肉片がそこら中に散らばっており、敵が全滅した事実を物語る。

 

 足場になっている床はかなり丈夫に作られていたらしく、極大呪文を受けても表面が(かす)かに焦げただけだが、それでも敵を一掃した術の威力は相当のものだ。

 

「相変わらず……デタラメな威力だな」

 

 凄まじい破壊力を目の当たりにしてレジーナがいつもの(あき)れ顔になる。やれやれまたこれか、と言いたげな様子だ。魔王が強大な魔力の持ち主なのは分かっていたが、それでも(なお)驚かずにはいられない。

 

核爆熱閃光(エクス・プロージョン)……隕石群落下(メテオ・スウォーム)に匹敵する大火力の魔法だが、森で使えば木を焼くし、ダンジョンで使えば天井が崩落する。こういう開けた場所でも無ければ使えないシロモノだ」

 

 ザガートが敵を一掃した魔法の解説を行う。周囲に甚大(じんだい)な被害をもたらすだけに()(かつ)に使えない術だという。ここで使用に踏み切ったのは開けた空間である事に加えて、浮遊城が極大呪文に耐える造りだと判断したようだ。

 

「行こう……これが敵の全戦力ではあるまい」

 

 説明を終えると前に進む事を提案してズカズカと歩き出す。仲間達は魔王の言葉に同意して彼の後に付いていく。

 魔王は敵の死を(あざけ)るように、地面に転がった魔物の炭化した骨をクシャッと踏み付けた。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 開けた城門から中へと入る一行……城内の通路をぞろぞろと進む。

 

 城の中は壁が暗めの(すみ)色に塗られていたものの、中世ヨーロッパの王宮のような造りになっており、悪魔の居城らしい不気味な内装にはなっていない。生物の体内のような細胞壁でもなければ、謎の宇宙空間だったり、溶岩が煮えたぎったりもしていない。

 

 ただ所々に人間の白骨化した死体が転がっており、骨にへばり付いた肉を食べようと虫とネズミとトカゲが群がる。(さら)に彼らを食べようとコウモリやカラスが待ち構えており、サッと襲いかかっては小動物を捕食する。

 それらは大魔王が生み出した魔族ではないようで、ザガートが近付くと慌てて逃げ去る。カラスは襲いかかってきたりはしないが、窓枠や壁掛けの燭台に()まったまま一行をじっと眺める。これまでと異なる雰囲気の侵入者に興味を示したようだ。

 

「この城に普通の人間は入れぬはずじゃが、死体が転がってるのはどういう訳じゃ?」

 

 鬼姫が頭の中に湧き上がった疑問を口にする。ガルーダの力が無ければ入れない場所に、自分達以外に侵入者がいた形跡を見て首を(かし)げた。

 

「あくまで仮説だが、大魔王は城が通りかかった場所にいた村人や冒険者をさらっては、魔物に殺させるゲームをしていたんだろう。そうする事で配下に戦闘経験を積ませて、有能な人間がいれば死後に魔物として生き返らせて使役していたに違いない」

 

 ザガートが推測だと前置きしながら答える。城内の白骨死体が大魔王にさらわれた犠牲者であり、魔王軍の戦力強化の(こま)に使われたのだろうと考える。

 

『それが事実であるならば、なんと卑劣な(やから)よ……やはり大魔王こそ討ち果たされるべき諸悪の根源に他ならぬ』

 

 敵の悪行を知らされてブレイズが深く(いきどお)る。人を人と思わぬ大魔王の所業に、何としても彼を討ち果たさねなならぬのだと思いを強くする。

 他の仲間達も不死騎王の意見に同意して(うなず)く。皆が使命感に胸をたぎらせて前へ前へと進む。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 一行は大広間に通じると思しき大きめの回廊を歩く。

 回廊は左右にガーゴイルのような悪魔を()した彫像が置かれており、それが数メートルおきに等間隔で配置されている。だが単なる彫像なのか、襲ってくる気配は無い。彫像の悪魔は台座に乗ったまま、うんこ座りと呼ばれるガラの悪いポーズを取る。

 

 ガーゴイルの彫像がズラッと並ぶ回廊を、一行が黙々と歩き続けた時……。

 

「グルルゥゥゥゥァァァァアアアアアアーーーーーーーーッ!」

 

 彫像の影に隠れていた一体の魔獣が、けたたましい咆哮(ほうこう)を上げながら一行めがけて飛び出す。大人のライオンより一回(ひとまわ)り大きな、黒いチーターの化け物……それはかつてカフカが連れていた『黒の追跡者(ブラック・ストーカー)』と呼ばれる魔獣と同種のようだ。

 

 チーターは他の獲物には目もくれず、真っ直ぐザガートへと向かう。大きく口を開けてジャンプし、相手の喉笛(のどぶえ)に噛み付こうとした。

 

「ゲヘナの火に焼かれて消し炭となれ……火炎光弾(ファイヤー・ボルト)ッ!!」

 

 ザガートが正面に右手をかざして攻撃魔法を唱える。男の手のひらから轟々(ごうごう)と燃えさかる(なし)くらいの大きさの火球が放たれてチーターに命中する。天まで届かんばかりの巨大な炎が噴き上がると、魔獣の体が一瞬で灼熱の業火に()まれた。

 

「グァァァァアアアアアアーーーーーーッ!」

 

 チーターの口からこの世の終わりと思えるほどの絶叫が発せられた。火球を受けた衝撃で後ろに吹っ飛んで地べたに叩き付けられると、全身火だるまになりながらくねくねと死のダンスを踊る。痛みから逃れようと必死にもがいたがどうにもならず、数秒が経過すると黒焦げになったままピクリとも動かなくなる。炎が急速に沈下すると、炭化した体がザァーーーッと砂のように崩れ落ち、最後は物言わぬ灰の山となる。

 

「不意打ちで俺を殺せると思ったなら、考え違いも(はなは)だしい……」

 

 ゴミのようにあっけなく息絶えた敵を眺めながらザガートが侮蔑の言葉を吐く。身の程をわきまえずに襲いかかってきた相手を心底見下したような、冷たい氷の眼差しを向ける。

 フンッと小馬鹿にするように鼻息を吹かすと、回廊の奥に向かってズカズカと歩いていく。

 

  ◇    ◇    ◇

 

 ガーゴイルの彫像が並ぶ回廊を抜けたザガート達……大広間と思しき開けた空間へと出る。

 

 そこは学校のグラウンドくらいの広大なスペースがある部屋で、ダンスホールにうってつけの場所だ。天井は背丈六メートルの巨人がジャンプしても届かない高さにある。

 天井にはシャンデリアが飾られてあり、部屋の中央にはレッドカーペットが()かれている。カーペットの左右にやはりガーゴイルの彫像がズラッと並んでおり、絨毯(じゅうたん)の最奥に大魔王の部屋へ通じると思しき大扉がある。

 中央の大扉の左右に、それより一回(ひとまわ)り小さな扉が一つずつ配置されている。

 

 部屋の中にザガート達以外に人の姿は無く、シーーンと静まり返る。今の所敵が襲ってくる気配は感じられない。

 このまま何事もなく済めば良いのだが……一行がそう思いながら数歩前へと進んだ時。

 

「……ムッ!!」

 

 異変を察知したらしきザガートがピタリと足を止める。他の仲間達も彼に合わせるようにそれ以上は先に進まない。

 

 直後大扉の左右にある鉄製の扉がギギギッと音を立てて開き、そこから魔物の大群がワラワラと出てきた。右の扉からは人と同じサイズの魔物が、左の扉からは竜のように大きな魔物が出てくる。

 それだけではない。大広間の中にあったガーゴイルの彫像が、命を吹き込まれたように(ひと)りでに動き出す。仲間の進軍に呼応して戦闘モードに入ったようだ。

 

 そして最後に中央の大扉が開き、そこから四体の大きな魔物が出てくる。

 

「……ッ!!」

 

 大扉から出てきた魔物を見てザガートがサッと目の色を変えた。信じられないものを見たと言いたげに驚いた顔をする。

 それもそのはず、魔王は彼らの姿に見覚えがあった。

 

 大広間に集まった魔物は以下のようなものだ。

 

 

 黒装束を着た()(びと)の忍者……ナラク・ニンジャ。

 白のローブを羽織って杖を手にした屍人の魔道士……ナラク・ウィザード。

 動き出した彫像の悪魔……ガーゴイル。

 

 

 かつてザガートに倒されたのと同種の巨人……アダマン・ゴーレム。

 筋骨隆々とした悪魔……グレーターデーモン。

 バハムートと色違いの緑竜……グリーンドラゴン。

 

 

 大人の象を丸呑みにする大きなスライム……デス・スライム。

 最強のグレーターデビル……ギルボロス。

 骸骨の幽霊魔女……ワルプルギス。

 暗めの紫色をしたミミズの化け物……アビスウォーム。

 

 

 ニンジャ、ウィザード、ガーゴイルら人間サイズの魔物はそれぞれ五十体ずつ、計百五十体いる。ゴーレムら大型の魔物はそれぞれ十体ずつ、計三十体だ。

 人型の魔物軍団の最後尾に、フルプレートの鎧を着た体の大きなオークがいる。右手に槍を持ち、左胸に階級を表すらしき星のマークがある。この城の警備隊長のようだ。

 

「フハハハハハハァッ! 偉大なる大魔王様の居城へよくもノコノコと足を踏み入れたものだな、異世界の魔王ッ! 俺はオークロード……この城の魔族の指揮権を与えられし、大魔王様の忠実な側近よッ! 我ら魔王軍、貴様ら侵入者の来訪を心より歓迎しよう!!」

 

 鎧を着た豚頭が高らかに自己紹介する。城内の魔物を統率する立場にあった事を教えて、ザガート達を全力で迎え撃つ意思を伝える。

 

「ここで貴様らを血祭りに上げて、大魔王様への()(もつ)として捧げてくれるわッ! 者ども、かかれぇぇぇぇーーーーーーいっ!!」

 

 主人への生贄(いけにえ)にする(むね)を告げると、左手を正面にサッと振って部下達に魔王の処刑を命じる。

 

「ウォォォォオオオオオオーーーーーーーーッ!!」

 

 豚頭の号令を受けて、場内にいた魔物達が歓喜の咆哮(ほうこう)を上げた。戦いの始まりを喜んだようにワクワクしており、血が湧き肉が(おど)る。何としても尊敬する大魔王のために敵を討つのだと息巻く。

 ひとしきり叫び終わると、高まったテンションのまま正面に向かって駆け出す。総数百八十体を超える魔物の大群がドドドッと足音を鳴らしながら一行めがけて殺到する。

 

「ルシル、レジーナ、なずみ! お前達三人には人型の魔物の相手を任せたい! ブレイズ、鬼姫! お前達二人は大きめのザコを始末してくれッ! 俺は復活した魔王軍の幹部を一人で相手するッ! 心配ない……こんな連中、速攻で片付けてやる!!」

 

 ザガートが仲間にテキパキと指示を出す。戦力に応じた役割分担を行い、それぞれが戦うべき相手を瞬時に見定める。さすがに屋内である事と屈強なボスクラスの魔物が混じっている事を踏まえて、極大呪文による瞬殺は行わない。

 

「分かりました!」

「ザコの相手は任せてくれ!」

「師匠も気を付けるッス!」

『今こそ我らが強さ、敵に見せ付けてやる時!!』

「お主の心配などしておらぬ。どうせあっさり倒してしまうのじゃろう」

 

 五人が思い思いの言葉を口にする。ルシルとレジーナとブレイズは命令を(こころよ)く引き受けて、なずみは魔王の身を案じ、鬼姫は結果が見えていると言いたげに余裕の台詞(セリフ)を吐く。

 魔物の大群に(おく)する者など一人もいない。皆が仕事を任された事に意気揚々としており、何としても男の期待に応えるのだと思いを強くした。

 

 今後の方針が決まると、六人はそれぞれが戦うべき相手に向かって走っていく。ここに魔王軍と勇者パーティの対決の火蓋が切って落とされた。

 

(われ)は鬼姫……東の妖怪の王じゃッ! 大魔王の手下ども、()して参る!!」

 

 女が真っ先に名乗りを上げながら先陣を切る。愛刀のマサムネを両手で握ると、大型のザコ軍団の先頭にいたグレーターデーモンに斬りかかる。

 

「ウォォォォオオオオオオーーーーーーーーッ!!」

 

 デーモンはグワッと開いた右手を高々と振り上げて、女めがけて一直線に振り下ろす。鋭い(ツメ)で相手の肉を引き裂こうとした。

 鬼姫はサッとしゃがんで敵の(ふところ)に飛び込むと、刀を横()ぎに振ってデーモンの横っ腹を切り裂く。バックリ割れた傷口から真っ赤な血が噴水のように噴き上げた。

 

「ウギャァァァァアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」

 

 致命的な一撃を食らったデーモンが断末魔の悲鳴を上げる。背丈六メートルほどある巨体が前のめりにドスゥーーーンッと倒れて、数秒間ピクピクした後動かなくなる。

 

「このまま一気に片付けてやるのじゃ!」

 

 鬼姫は最初の一体を仕留めると、デーモンの背後にいたアダマン・ゴーレムへと斬りかかる。相手の横っ腹を一刀の(もと)に斬り捨てようとしたが……。

 

「……ッ!!」

 

 女が振った刀は巨人の腹に触れると、ギィンッ! と音を立てて弾かれた。高圧電流が流れたように両腕がビリビリと(しび)れて、少しでも力を緩めたら(つか)を手放してしまいそうになる。

 宇宙最硬物質アダマンタイトで造られた巨人の皮膚は女の想定を(はる)かに上回る強度があり、グレーターデーモンのようにたやすくは切り裂けない。

 

(恐らくはギルボロスの時と同様……刀の切れ味ではなく、(わらわ)の腕力が足りておらぬというのかッ!!)

 

 鬼姫が敵の皮膚を斬れなかった敗因を分析する。ムラマサに次ぐ切れ味を誇るマサムネの切断力が足りていなかったとは考えにくく、素直に自分の力が及ばなかったのだろうと認める。

 

「グォォォォオオオオオオーーーーーーーーッ!!」

 

 女が物思いに(ふけ)ていると、ゴーレムが握った右拳を高々と振り上げて、女めがけて豪快なパンチを()り出す。巨大な岩の塊と化した拳がゴォォーーーッと風を切る音を鳴らしながら彼女へと一直線に迫る。

 

「しまっ……!!」

 

 考え事に没頭した鬼姫は戦闘中だという事を忘れてしまい、一瞬回避の動作が遅れた。慌てて後ろにジャンプしようとしたが、彼女が動くよりも拳が触れるタイミングの方が明らかに早い。

 このままゴーレムの拳の餌食(えじき)になるかに思われた時……。

 

『ヌゥゥゥゥォォォォォォオオオオオオオオーーーーーーーーッッ!!』

 

 ブレイズが勇ましい雄叫びを上げながら、彼女の背後からジャンプしてくる。斜めに急降下しながら両手で握った刀を縦一閃(いっせん)に振ると、ゴーレムの首をたやすく一刀両断する。胴体から離れた首がゴロンッと床に転がり落ちると、ゴーレムはズゥーーーンッと前のめりに倒れたまま動かなくなる。

 

『アダマン・ゴーレムは貴殿の手に余るッ! 鋼鉄の巨人はそれがしに任せて、貴殿はドラゴンとデーモンの相手をなされよ!!』

 

 敵の一体を無力化した不死騎王が女に指示を出す。岩のように硬い敵の相手を自分に任せて、彼女でも斬れる魔物との戦いに専念するよう命じる。役割分担を終えると、女の返事を待たずに二体目のゴーレムへと突進する。

 

(ぬぅ……少々悔しいが、この世には適材適所という言葉もある。ここは大人しくあやつの指示に従うとしよう)

 

 鬼姫は自分の力が及ばない事に内心()(がゆ)い思いをしたが、不死騎王の提案は()(ごく)もっともだと考えて、彼の判断に従う事にした。

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