いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第95話 バールのようなもの

 鬼女と不死騎王が大きな魔物と戦っていた頃、ルシル、レジーナ、なずみの三人は人間サイズの魔物の群れと対峙していた。

 

 百五十体の人型の魔物と三人の少女が十メートルほど間隔を空けたまま、牽制(けんせい)するように(にら)み合う。先に動いた方が負けという考えがあったのか、両者ともに微動だにしない。互いに相手をじっと見たまま数秒が経過する。

 

「業火ヨ、放テ……火炎光矢(ファイヤー・アロー)ッ!!」

火炎光矢(ファイヤー・アロー)ッ!!」

「火炎光矢ッ!!」

 

 やがて(しび)れを切らしたのか、一体のナラク・ウィザードが正面に杖の先端を向けて攻撃呪文を唱える。(さら)に彼に続くように他のウィザードも同じ呪文を一斉に唱える。数十人のウィザードの杖から煌々(こうこう)と燃えさかる(なし)くらいの大きさの火球が少女達めがけて放たれた。

 

「精霊の力よ、我を守りたまえ……魔法障壁(マジック・バリア)ッ!!」

 

 ルシルは咄嗟(とっさ)に両手で(いん)を結んで防御魔法を唱える。彼女を中心として半透明に青く光るバリアのようなものがドーム状に張り巡らされた。

 バリアは三人を守ろうとするようにスッポリと隙間(すきま)なく覆う。それから数秒遅れて敵が放った火球が少女達のいる場所へと到達する。

 

 何十発も同時に発射された火球は少女達めがけてガトリングの弾のように降り注ぐが、バリアには(かす)り傷一つ付かない。ドドドドドッと激しい衝突音が鳴り、大量の白煙が炎とともに立ち(のぼ)るが、障壁は全くの無傷だ。

 やがて敵の魔力が尽きたのか、火球の連続発射がピタリと()む。それに(ともな)い三人を覆っていたバリアも消える。

 

「大地と大気の精霊よ、(いにしえ)の盟約に(もと)づき、我に力を与え(たま)え……全能強化(マイティ・ブースト)ッ!!」

 

 今が絶好の好機とみなし、ルシルが次なる魔法を唱える。三人の少女の体が(まばゆ)い金色の光に包まれた。

 

「五分間だけ全ての能力が十倍になる魔法ですッ! 一日に一度きりしか効果を発揮しないので、その間に敵を片付けて下さい!!」

 

 少女が呪文の効果について説明する。無制限に使えるシロモノではない事を教えて、効果が持続している間に敵を始末するよう指示を出す。

 

「分かった、任せてくれ!」

「了解ッス!」

 

 レジーナとなずみが仲間の言葉を了承する。身体能力が強化された事により体の(しん)からモリモリと力が湧き上がると、「自分はやれるんだ」と気持ちが高ぶって戦意が高揚する。カフェインを摂取したような軽度の興奮状態になると、高まったテンションのまま敵に向かって駆け出す。

 

「死ネェェェェエエエエエエーーーーーーーーッッ!!」

 

 一体のナラク・ニンジャが背中の帯に()してあった(さや)から短刀を引き抜いて、少女めがけて斬りかかる。刀の刃が触れようとした瞬間なずみの姿がワープしたようにフッと消える。その直後ニンジャの背後に抜き身の刀を構えた少女が立っていた。

 

「……ッ!!」

 

 ニンジャが慌てて振り返ろうとした瞬間、少女が刀をサッと横に振る。ニンジャの首が胴体から離れてゴロンッと床に転がり落ちると、首を失った胴体が真っ赤な血を噴水のように噴き上げたまま、崩れ落ちるように床に倒れた。

 

「クワァァァァアアアアアアーーーーーーッッ!!」

 

 今度は二体のガーゴイルが王女へと襲いかかる。最初の一体は地面を走っており、彼の後ろにいる二体目は人間の背より上の高さを低空飛行する。武器や魔法は使わず、手の鋭い(ツメ)で相手を切り裂こうともくろむ。

 

「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」

 

 レジーナは腹の底から絞り出したような雄叫びを上げると、剣を両手で握ったまま正面にいる敵めがけて走り出す。剣を横()ぎに振って最初の一体の横っ腹をすれ違いざまに切り裂くと、そのまま走りながら剣を縦に振り下ろして、二体目を豪快に真っ二つにする。

 

「ギャアアアアアアアアアッ!」

「グワーーーーーーーッ!!」

 

 ミスリルソードの一刀を食らったガーゴイル達が阿鼻叫喚の絶叫を発した。血の海に沈んだまま数秒間体をピクピクさせたが、すぐに物言わぬ死体となる。

 魔法により身体能力を十倍に強化された王女が()り出す一撃の威力は凄まじく、ザコ悪魔の命をたやすく奪う。

 

「フハハハハッ! 前衛ニ意識ヲ集中サセ()ギテ、後衛ガ、ガラ()キダゾ!!」

 

 一体のナラク・ウィザードが大きな声で高笑いしながら、ルシルのいる方へと走り出す。肉弾戦担当の二人が離れている(すき)を狙い、魔法担当のかよわい少女を狙い打とうともくろむ。(すで)に魔力を使い果たしたらしく、杖を鈍器代わりにして殴りかかろうとする。

 

「しまった!」

 

 ルシルを狙われた事にレジーナが内心深く動揺する。一人だけ肉弾戦に向かわせて、もう一人は仲間の護衛をすべきだったか……そんな後悔の念が広がる。

 

 だが王女の懸念に反して、ルシルは焦る素振りを全く見せない。想定内の展開だったと言いたげに平然とした態度を取る。工具のバールのようなものを魔力で生み出すと、それを両手で握って構える。

 

「そぉーーーーーいっ!!」

 

 威勢の良い掛け声を発すると、バールをバットのように豪快にスイングして、眼前に迫ってきたウィザードの顔面をドガァッ! と思いっきりぶん殴った。

 

「ヘブルゥゥゥゥァァァァァァアアアアアアアアッッ!!」

 

 魔道士が滑稽(こっけい)な奇声を発しながらゴミのように吹っ飛ぶ。地面に叩き付けられて横向きにゴロゴロ転がった後、大の字に倒れたまま手足をピクピクさせたが、すぐに全身をグッタリさせて息絶えた。

 

「オイ、ナンダ! ソノバールハ! ソンナ物ガアルトハ聞イテイナイゾ!!」

 

 別の一体のウィザードが、少女が武器を持ち出した事に憤慨する。これまで収集したデータに無い戦法を取り出した事に、声を荒らげて猛抗議する。

 

「こんな事もあろうかと思って、(ひそ)かに特訓してたんですっ! ザガート様が、後ろで魔法を唱えるばかりじゃなく、敵が攻めてきた場合の事も考えた方が良いってアドバイスをくれましたからっ!!」

 

 ルシルが自分の取った戦法について得意げに解説する。(すで)に近接戦闘を想定していたらしく、そのための準備をしていたという。彼女にそれを勧めたのは他ならぬ魔王であったようだ。

 

「身体能力が十倍に強化された今なら、ザコモンスター程度には負けませんっ! ボコボコに叩きのめして、返り討ちにしてやります!!」

 

 少女はそう叫ぶや否や、敵の一団めがけて走っていく。敵軍の()(ただ)中に足を踏み入れると、バールをやたらめたらに振り回して、そこら中にいる魔物を手当たり次第に殴り飛ばす。ドガッバキッと鈍い打撃音が鳴るたびに、人型の魔物がポーンポーンとギャグ漫画のように吹っ飛ぶ。

 

「ギャアアアアアアッ!!」

「グワァァァァアアアアアアッ!!」

 

 阿鼻叫喚の悲鳴が辺り一帯にこだまする。少女の腕力は魔物の想定を(はる)かに上回っており、近付く事さえ出来ない。()(かつ)に間合いに入ったが最後、目にも止まらぬ速さで飛んできたバールに頭を殴られて命を落とすハメになる。

 三つ編み巨乳メガネの地味な田舎娘がバールを振り回して返り血を浴びながら魔物を鏖殺(おうさつ)する姿は、敵からすれば悪夢の光景でしかない。

 

「………」

 

 レジーナとなずみはしばらく呆気(あっけ)に取られて一連の光景を眺めていた。本来手助けに向かうべき状況であったが、その必要が無いと思わせるくらい仲間の強さは圧倒的だった。一方的に蹂躙(じゅうりん)されて虐殺される魔物の姿に同情の念すら湧く。

 

(……よい子のみんなは、工具のバールで人を殴ったりしたら絶対ダメだぞ)

 

 王女は誰に向けて言うでもなく、心の中でそう(つぶや)くのだった。

 

 ……しばらくルシルに任せきりにしていた二人であったが、やがてふと冷静に立ち返る。このまま彼女一人にばかりザコの掃除を押し付けてはいけないと思い直して、自分達も戦いに加わるべきだと考える。

 

 今後の方針が決まると、二人は魔物の大群めがけて走り出す。敵軍の()(ただ)中へ入ると、武器を振り回して目の前にいる敵をズバズバ斬っていく。

 いくらルシルの戦い方にドン引きしたと言っても、純粋な戦闘力は女騎士とくノ一の方が上だ。太刀打ちできる魔物などいない。

 

 一体、また一体と魔物の数が減っていき、当初百五十体いた魔物の数が半数以下となる。このままなす(すべ)なく蹴散らされて全滅するかに思われた時……。

 

「女騎士レジーナッ! 貴様に決闘を申し渡す!!」

 

 最後尾に控えていたオークロードが突如勇ましく気勢を発しながら正面へと駆け出す。名指しで王女の名を呼ぶと、進行ルートにいた魔物をドカドカと力ずくで押しのけながら進んでいき、魔物達の最前列へと出る。

 王女の前に立つと両手で握った槍を高々と振り上げて、彼女めがけて振り下ろす。王女は右手で(つか)を握ったまま左手で剣の側面を支える構えを取り、振り下ろされた槍の先端を受け止める。ギィンッ! と鈍い金属音が辺り一帯に鳴り響き、室内の空気がビリビリと振動する。

 

 両者は槍が止まった状態のまま全く動こうとしない。互いに相手を力で押し切ろうとしたものの、両者の力はほぼ互角のようで、どちらか一方が相手を押す状況に(おちい)らない。武器を握る腕にギリギリと力を込めても敵は微動だにせず、戦況は膠着(こうちゃく)状態となる。

 

「王女様っ!」

(あね)さんッ!!」

 

 仲間が苦戦している状況を見て、二人が心配するあまり言葉を掛けた。もし彼女一人で倒せない相手であれば、自分が助太刀に向かわなければ……そんな考えが少女達の頭をよぎる。

 

「二人とも、心配は()らないッ! オークロードの相手は私一人で十分だッ! 私がこいつを引き付けている間に、二人は残りのザコを片付けてくれ!!」

 

 レジーナが槍を受け止めた状態のまま言葉を返す。敵のリーダーの注意を自分に向けている間に、人型のザコモンスターを殲滅(せんめつ)するよう頼む。

 二人は一瞬迷った表情を見せたものの、仲間の覚悟を無駄にできないと考えて目の前の敵との戦いに意識を集中させる。

 

「フンッ、余裕だな……素直に仲間の力に頼ればいいモノを。こんな所で意地を張るとは、馬鹿な女だ」

 

 オークロードが王女の覚悟を(あざけ)る。多人数で挑めば楽勝だったのに、あえてそうしなかった彼女の判断を、(くだ)らない強がりをしたと(ののし)る。

 

「……意地ではない」

 

 王女がそう口にしてニヤリと笑う。決して考え無しに行動したのではない余裕に満ちた笑みが表情に浮かぶ。

 

「本気で勝てると……そう思ったからだ! でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」

 

 勝算があった事を大きな声で告げると、(のど)が割れんばかりの雄叫びを発しながら両腕に力を込める。すると女の細腕の何処にそんな力があったのか、オークロードの槍がみるみる押し返されていく。気迫によって馬鹿力が呼び()まされたのか、王女が剣をグイッと押した瞬間オークの体がフワリと宙に浮く。そのまま豚頭の巨体が放物線を描くように後ろへと飛んでいく。

 

「ウオオオオオオッ!!」

 

 思わぬ反撃にオークが悲鳴を上げた。一瞬何が起こったのか全く理解できず、受身が取れないままドスゥーーーンッと地べたに落下して尻餅(しりもち)をつく。落下の衝撃で床がグラグラと揺れて、豚頭の尻に強打した痛みがジーーンと広がる。肉体の痛みと精神的な動揺があり、すぐには起き上がれない。

 

「オークロードッ! この勝負、私の勝ちだッ!!」

 

 レジーナが勝利を確信した台詞(セリフ)を吐きながら敵に向かって駆け出す。相手が咄嗟(とっさ)に動けないのを見て絶好の好機とみなし、体勢を立て直す前に追い討ちをかけようともくろむ。

 

「おのれ小娘ぇっ! まだだ! まだ終わらんぞぉぉぉぉおおおおおおッ!!」

 

 オークが怒声を発しながら慌てて立ち上がる。気力によって自らを奮い立たせると、槍を両手で握って戦闘の構えを取る。

 

「ヌゥゥゥゥォォォォォォオオオオオオオオーーーーーーーーッッ!!」

 

 腹の底から絞り出したような雄叫びを上げると、槍による高速の連撃を放つ。目にも止まらぬ速さで繰り出された突きが、ヒュヒュヒュンッと音を鳴らしながら王女へと迫る。一撃の重さを捨てて数に任せた機関銃のような攻撃だ。

 

「うぉぉぉぉおおおおおおーーーーーーーーッ!!」

 

 王女も負けじと大声で叫びながら剣を盾代わりにして相手の攻撃を弾く。刃の側面に槍の先端がぶつかると、ギィンッ! と鈍い金属音が鳴って槍が後ろへと跳ね返される。だがオークは間髪入れず次の一撃を繰り出す。王女がまたそれを弾く。

 秒間十発を超える速さで繰り出された突きを、王女が正確に防ぎ続ける。両者のスピードは互角であり、一撃の防ぎ漏らしも無い。互いの武器がぶつかる金属音がギンギンギンギンギンッとリズミカルに鳴る。それが一分半ほど続いた。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

「ハァ……ハァ……」

 

 最後の一撃をガードして王女が数メートル後ろに押された瞬間、それまで続いた攻防がピタリと止む。

 二人とも表情に疲労の色が浮かび、ゼェハァと肩で激しく息をして、(ひたい)から滝のように汗が流れ出す。ガクガクと手足の震えが止まらなくなり、背筋を曲げてうなだれた姿勢になる。少しでも気を抜いたら前のめりに倒れてしまいそうだ。

 

 このまま両者のスタミナが尽きて、勝負がお開きになるかに思われた時……。

 

「うっ……うぁぁぁぁぁぁあああああああああああっっ!!」

 

 王女が上を向いて背筋を伸ばしながらしっかりと立つ。自身に(かつ)を入れるように大きな声で叫ぶ。剣を両手で握って構え直すと、オークめがけて一直線に走り出す。

 オークも一瞬遅れて体勢を立て直すと、王女めがけて突進する。二つの影が重なり合った瞬間ズバァッと鎧が切り裂かれる音が鳴った――――。

 

 

 

 二つの影は交差を終えてもそのまま走り続けて、互いに数メートル離れあった地点でピタリと止まる。そのまま硬直したようにピクリとも動かない。相手に背を向けて武器を振り下ろした構えのまま数秒間固まる。

 

 ザコの始末を終えて二人の戦いを見守っていたルシルとなずみがゴクリと(つば)を飲む。どちらが勝ったか分からない状況にヤキモキする。

 場がシーーンと静まり返り、息が詰まりそうな静寂が永遠に続くかに思われた時……。

 

「……見事だ」

 

 オークロードがそう口にしてフッと笑みを浮かべたまま、崩れ落ちるように倒れた。背丈三メートルほどある巨体がズゥーーーンッと音を立てて地べたに倒れ込むと、剣で斬られたと思しき脇腹がバックリと割れて、そこから赤い血がトマトジュースのように流れ出す。オークはピクリとも動かず、立ち上がる様子も無い。

 

「王女様、勝ったんですね!?」

(あね)さん、さすがッス!!」

 

 仲間の勝利を確信したルシルとなずみが歓喜の言葉を漏らしながら王女の元へと駆け寄る。彼女の健闘ぶりを心から()(たた)えて、敵のリーダーを仕留めた勇敢さに尊敬の眼差しを向けた。

 

「ああ……勝った」

 

 王女が安堵の笑みを浮かべたまま仲間の問いに答える。少し疲れたような顔しながらも、一仕事を終えた達成感に包まれたようにフゥーーッとため息をつく。(ひたい)から流れ出る汗が日の光を反射してキラキラ輝く。その表情はスポーツ大会に優勝したような勝利の喜びに満ちていた。

 

(オークロード……手強い相手だった。いくら身体能力が十倍に底上げされたとはいえ、旅に出たばかりの経験が浅い私では到底(かな)わなかっただろう)

 

 レジーナは地べたに倒れたまま起き上がらない豚頭の死体を眺めながら、さっきの戦いを回想する。自分を苦戦させた好敵手の強さに敬意の念を抱くと同時に、これまで積み重ねた経験が決して無駄にならなかったと思いを()せるのだった。

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