いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。 作:大月秋野
「ザガート様っ!」
四人の幹部を退けた魔王が物思いに
声が聞こえた方角に男が振り返ると、三人の少女が彼に向かって走ってくる。それはもちろん百五十体のザコの魔物を蹴散らしたルシル、レジーナ、なずみだ。
仲間達の中に負傷した者は一人もいない。皆が五体満足のまま広場の魔物を全滅させた形となり、魔王はその事にひとまず安堵する。
『城の魔物は全て片付けたようだが、大魔王がその気になればいつでも蘇生が可能……この機を逃さず相手の
ブレイズが今後の方針について意見
皆が彼の言葉に同意して
不死騎王の提案に従い、一行が広場の中央最奥にある大扉に向かって歩き出そうとした瞬間……。
「……無駄なあがきだ」
彼らに向かって言葉を発する者がいた。声が聞こえた方角に皆の視線が向けられると、視線の彼方に大きな人影が立つ。腹の傷から血が流れたまま、息も絶えだえになりながら途切れ途切れに喋る、鎧を着た豚頭……それはレジーナに致命傷を負わされて死んだと思われていたオークロードだった。
魔王以外の五人は新たな戦いを予感して身構えたが、魔王が右手をサッと横に振って彼らを制止する。もうヤツに戦う力は残っていない……そう言いたげに目を閉じたまま首を左右に振る。魔王の意を
オークロードは死にかけた身にありながら、
「アザトホース様は全知全能にして、この宇宙を
忠告する
「………」
オークロードの最期の言葉を聞いて、場がシーーンと静まり返る。誰も一言も発しないまま暗い顔しており、
豚頭が命
(主君の偉大さを、命を
ザガートは豚頭の執念とも呼べる最期を見届けて深く感じ
戦闘力は魔王軍十二将に劣ったかもしれない。だがこれまで戦ったどの敵よりも、魔族の戦士たる武人らしさに
「行こう……大魔王がどれだけ恐ろしい相手だろうと、ここで引く訳には行かない」
しばらく感慨に
皆が魔王の提案にコクンと
……窓枠に
◇ ◇ ◇
広場の中央最奥にある大扉は四人の幹部が出てきた時のまま開きっぱなしになっており、一行はそこに足を踏み入れる。中へ入ると部屋は一面真っ暗だったが、数歩前に進むとポッと
燭台は一行が前に進むたびに順番に点火されていき、それに
(ベタな演出だが……悪くない)
大魔王がいると思しき部屋の奥に向かって歩き続ける一行……突如鼻をつく不快な腐敗臭が辺り一帯に漂い始める。周囲をよく見てみると、そこら中に人間の死体が転がっていた。
それも十や二十どころの話ではない。百を超える数の、髪の毛が生えていない全裸のマネキンのような死体が、部屋の至る所にゴミでも捨てるように無造作に置かれていた。
「……ッ!!」
四人の女達は死体の山を見て思わず顔をしかめたが、声には出さない。大魔王の部屋だからこんなものがあっても不思議じゃないと心に受け止めて前へと進む。
やがて最後の一対の燭台が
「大魔王の姿が何処にも無いではないか。
鬼姫が
「何を言ってるんだ。アザトホースなら、さっきからずっと俺達の前にいるじゃないか」
ザガートが突然そんな事を言い出す。
魔王の発言の真意が
部屋中に転がっていた全裸の死体が突然、自ら意思を持ったように
巨大なミートボールが生まれると、それまで死体と同じだった土気色が、赤に近い暗めのピンク色へとサーーッと変わる。肉塊のあちこちから無数に触手が生えて、十を超える数の大きな目玉が、全方位を見るようにギョロリと見開かれた。
「……アザトホース」
目の前に現れたミートボールの化け物を、ザガートがその名で呼ぶ。
そう……これまで一行が目にした部屋に転がっていた肉の死体は、全て大魔王の体の一部だったのだ。
「フハハハハッ! ヨクゾ
肉の塊が嬉しそうに高笑いしながら自己紹介する。どこに口があるかも分からない姿のまま、マイク
「俺達を驚かせるためにつまらん小細工を仕込むとは、
相手をおちょくる大魔王の態度にザガートが苦言を
「……」
魔王の言葉を聞いてアザトホースが急に黙り込む。それまで楽しそうに浮かれていたのが、スイッチを切り替えたように物静かになる。ムキになって反論するでもなく、相手を小馬鹿にするでもなく、ただただ黙っている。
「……ムンッ!!」
ブラックホールのような暗黒空間に閉じ込められたかと思うと、ムンクの『叫び』のような不気味な人間の顔が、そこら中に浮かび上がる。二百を超える数の顔はゆらぁっと左右に揺れながら「死ね死ね死ねシネシネ…」と
「うわあっ! なんだこれはッ! 一体何なんだ、この空間はぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」
悪夢のような光景に耐え切れず、レジーナがパニックに
「おえぇぇぇぇーーーーーーっ! なんだか胃の辺りがグルグルして、気持ち悪くなってきたのじゃ!!」
あまりの不快感に鬼姫が吐き気を
大魔王の精神攻撃であろうと思われる奇妙な空間は、
「フンッ!!」
術に対抗するようにザガートの両目がカァッと怪しく光る。すると暗黒空間がガラスのようにバリィィーーーーンッ! と音を立てて割れて、元いた空間へと戻る。そこは術が発動する前の大魔王の部屋のままだ。
「ホゥ……
自身の術を破られた事にアザトホースが驚いた顔をする。想定を
「この程度の術、簡単に破れないようではお前とまともに戦う事など出来やしない……そうだろ?」
ザガートが不敵な
「
魔王の内面に興味が湧いたのか、アザトホースが質問を許可する。本格的な戦いが始まる前に、好敵手と言葉を交わしてみたい衝動が湧き上がったようだ。
「そうか……ならばこの世界に来て間もない頃ミノタウロスにした質問を、もう一度させてもらう。アザトホースよ……お前の目的は何だ? 何故人類を根絶やしにしようとする。一体何を望んで、どんな思想を抱いて、お前はそれを
ザガートが率直な疑問をぶつける。大魔王が人類根絶をもくろんでいるとは聞いていたが、何故そうしたいのかまでは知らない。
人類を暴力によって服従させ、隷属させて、魔族が支配階級となる『魔』の王国を築こうとしているなら、一応は理解できる。共感はせずとも、闇の支配という新たな秩序を築こうとしている事にも納得は行く。だが大魔王が目指したのは『それ』ではない。
大魔王が目指したモノ……それは隷属すら許さず、人類を地上から一匹残らず消し去る事だ。種としての完全な根絶を目指した争いは大量虐殺を生み、血で血を洗う激しい闘争となり、大地を真っ赤な血で埋め尽くす。世界は混沌の
ザガートからすれば、到底合理的な思想とは呼べない。とても納得の行くものではない。大魔王が何を考えてそのような破壊的な行動を行ったのか、本人の口から聞いて確かめたかった。
「……人間ニ
アザトホースが不意にそう言葉を吐く。
「人間ハ
人間を生きる価値の無い生物とみなした事、そう確信するに至った根拠を並べ立てた。よほど目障りに感じたのか、人類を侮辱する言葉が次から次へと口から飛び出す。このまま放っておいたら、いつまでも悪口を言い続けかねない勢いだ。
「我ハ、人間ヲ一匹残ラズ消シ去ルト……コノ地上カラ劣等種タル人類ヲ一掃シ、
人間と魔族の間に価値の順列を付けた事、下位種族だとみなした人類を根絶して、彼が上位種と呼ぶ魔族が地上を支配するに相応しいという結論に至った事を述べる。
「ザガートヨ……我ノ
最後に魔王の能力を高く評価して、人類の
……大魔王の
悲しい過去があった訳ではない。世界の将来を
非論理的な主張で一つの種族を絶滅に追い込もうとする姿は、
レジーナとブレイズは人間をゴミか排泄物のように扱う大魔王の態度にはらわたが煮えくり返る思いがしたが、今すぐ斬りかかったりしない。今はザガートが話している最中だから彼に任せようと考えて、湧き上がる怒りを必死に
当のザガートは大魔王の主張を黙って聞いていたが……。
「……話にもならない」
不意にそう
「人間を劣等種だと……そう言ったな。だが俺はそうは思わない」
目を開いて顔を上げて大魔王をじっと見ると、相手の言葉を即断で否定する。人間は滅ぶべきだという悪魔の主張に全く共感の意を示さない。
話にもならないという言葉の通り、両者の間に埋めがたい価値観の相違があった事実を伝える。
「俺は今まで長い冒険の旅をして、多くの魔族を見てきた。確かに彼らは戦闘力こそ高かったが、優れている点と言えばそれくらいだ。それ以外の部分……精神面においては明らかに人間に劣る」
これまでの実体験を振り返り、自身が感じた魔族の印象について語りだす。
「欲望のままに食らい、欲望のままに殺戮して、欲求の
一つ一つの特徴を上げ
「アザトホース……お前の言う人間は愚かで、魔族は優れているという主張には、一ミリの正当性も感じられない。何の根拠もない、事実に
大魔王の発言を穴だらけだと指摘して、これでもかと言わんばかりにこき下ろす。目玉の言っている事に理論的に正しい箇所など一つも無いと
「アザトホース、お前の言葉は俺の胸には少しも響かなかった。魔族としての誇りも、王としての威厳も感じられない、頭でっかちなだけの空っぽな存在……とても宇宙の支配者と呼べる
目玉の言葉に全く共感できる部分が無かったと伝えて、王として相応しい人物ではないと断ずる。
「……魔族の王というから、どれだけ英知を持ったヤツなのだろうと期待したのだがな。この程度の見識しか持ち合わせていないと知って、控えめに言ってもガッカリしたよ」
最後に大魔王の底の浅さに対する失望をあらわにして話を終わらせた。期待を裏切られて心底落胆したのか、見るからにガッカリしたように「はぁーーーっ」とため息を漏らす。相手のしょうもなさにテンションがだだ下がりする。
宇宙の王らしい見識の深さを期待したのか、幼稚でくだらない動機しか聞けなかった事に骨の
アザトホースはザガートの言葉を聞いて一瞬黙り込んだが……。
「ヌゥゥゥ……
全身をわなわなと震わせて、声を荒らげて激高する。体中の血管が今にもブチ切れんばかりにビキビキと浮き上がっており、ギョロリと見開かれた目玉が真っ赤に充血して、ゼェハァと興奮して呼吸が荒くなる。図星を突かれて反論できなかったのか、怒りに火が
発せられた怒声は城全体を激しく揺るがして、空気がビリビリと振動して、震度7クラスの大地震が起こる。城の至る所に置かれていた彫像や家具が床に倒れて、窓枠に
目玉が発した声の衝撃は、ガルーダが言った通り山が吹き飛ぶほどの威力があった。この城が攻撃魔法に耐えるほど頑丈だから無傷だっただけで、そうでなければとっくに崩落していただろう。
「
大魔王が間髪入れずに攻撃呪文を唱える。ドォォーーーーンッ! と重さ十トンの鉄の
「ああああああぁぁぁぁぁっ!」
「うわぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」
「のわぁぁぁぁぁあああああああああっっ!!」
ルシル、レジーナ、なずみ、鬼姫……魔王の仲間の女達が阿鼻叫喚の悲鳴を上げた。実力者であるはずの鬼女ですら超重力に抵抗できない。
(これが大魔王の力……なんたるザマじゃ! あやつが本気を出せば、
鬼姫は超重力に
百倍の重力のパワーは凄まじく、彼女達ではどうにもならない。目に見えない巨人に踏まれた状態のまま、苦痛にもがき苦しみながら死を待つだけだ。このまま勝敗が決したかに思われたが……。
「……!?」
次の瞬間目にした光景にアザトホースは心臓が飛び出んばかりに驚く。信じられないものを見たと言いたげに目をパチクリさせた。
大魔王が目にしたもの……それは超重力を浴び続けたまま、二本の足で立っている二人の男の姿だ。その二人は言うまでもなくパーティ最強である魔王と不死騎王だ。
ブレイズとザガートは腕組みして偉そうにふんぞり返ったまま、何事も無かったかのように平気な顔をしている。地球の百倍の重力などものともせず、大魔王を自信に満ちた表情で見ながら「フッフッフッ」と声に出して笑う。
重力魔法は六人全員に掛かっていた。にも関わらず、彼らにだけはまるで効いていないのだ。
「馬鹿ナ……貴様ラニハ重力魔法ガ効カナイノカ!?」
アザトホースが思わず声に出してうろたえる。超重力の中にありながら平然とした態度を取る彼らを見て、とても冷静ではいられない。よもや百倍の重力が彼らに作用していないのではないかと疑念を抱く。
『
不死騎王が大魔王の疑問に答える。彼らは超重力の影響をちゃんと受けており、何らかの力によって等倍にしていた訳ではないという。
「たかだか百倍程度の重力、俺達にとっては体がだるくなる程度の害しかない……不快な気分にさせられる事はあっても、動きを制限されたりはしない」
ザガートが仲間の後に続くように言葉を発する。自分達にとって百倍の重力など
特別な手段によって重力空間を無効化していた訳ではない。単に身体能力がズバ抜けていたため、彼らにとっては
「
ザガートは正面に右手をかざすと、相手と全く同じ呪文を唱える。大魔王の真下にある空間から重力結界が生まれたような爆発音が鳴ったが、その音は目玉が唱えた時よりも一段大きい。
「ヌォォォォォォオオオオオオオオオオオッッ!!」
大魔王が大声で叫びながら床へと叩き付けられる。
「フハハハハッ! そっちが百倍なら、こちらは千倍だッ! どうだ!?
ザガートが発動させた術の威力について語る。重力がこれまでの十倍の威力に跳ね上がっていた事を教えて、超重力に
千倍の重力はアビスウォームが一瞬で粉々に吹き飛んだ威力だ。百倍なら耐えられたであろうアザトホースも、
このまま超重力の
「ヌゥゥゥ……カァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」
突如気合を入れたような雄叫びを発して、大魔王の目玉が怪しく光る。すると魔法の効果が打ち消されたように重力結界が消失する。超重力から解き放たれると大魔王は即座に空に浮かんで、元いた場所へと戻る。
(ほう……相反する魔力をぶつけて、魔力の逆位相を引き起こさせるとはな。
重力結界を打ち消した大魔王の力にザガートが思わず感心する。自身とは異なる手法によって超重力を克服してみせた相手の強さに、敵ながら