いきなり【最強】の魔力を持つ魔王に転生したら、俺が強すぎて異世界のヤツらがまるで相手にならない件。   作:大月秋野

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第99話 明かされた真実

()ぜよッ! (なんじ)の身に宿りし力、外へ向かう風とならん!」

 

 ザガートが正面に両手のひらをかざして呪文の詠唱を口ずさむ。彼の手に青白い光が集まっていって、ダチョウの卵くらいの大きさの光球になる。

 

「呪イノ(チカラ)ヨ……()ガ敵ニ、約束サレタ死ヲ(アタ)エタマエ……」

 

 数秒遅れてアザトホースが詠唱と思しき言葉を唱える。ザガートの方を見ていた目玉の正面に白い光が集まっていって、長さ二メートルに及ぶ細長い金属の針が生まれる。彼も魔王の意思に応えて、この一撃で勝負を終わらせるつもりのようだ。

 

「……絶対圧縮爆裂(アブソリュート・ディスラプト)ッ!!」

「……死ノ結末(デッド・エンド)ッ!!」

 

 両者がそれぞれの必殺奥義と思しき魔法を同時に唱える。

 

 大魔王が生み出した魔法の針が音速を超える速さで飛んでいって、魔王の胸元にブスリと突き刺さる。金属の針が魔王の胴体を貫くと、傷口から真っ赤な血が噴水のように噴き上げた。

 魔王は胸を(くし)刺しにされて苦悶の表情を浮かべたまま、崩れ落ちるように床に倒れた。血の海に沈んだままピクリとも動かない。

 

 だが(すで)に魔王の手元を離れていた光球は唱え主が倒れても消える事なく、グングン加速していって軌道の先にいる大魔王を直撃する。光球が触れると大魔王の体はドクンドクンと脈打った後、皮膚が沸騰したようにボコボコと泡立つ。

 

「ナッ……グワァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」

 

 断末魔の悲鳴を上げた瞬間、アザトホースの体が針を刺した風船のようにバァンッ! と音を立てて破裂した。千を超える数の肉片が床に降り注いだが、超高熱の炎で焼かれたような黒焦げになっており、砂のように崩れ落ちて灰の山となる。

 一陣の突風が吹き抜けると、かつてアザトホースであった灰は風に飛ばされて空に散っていき、後には死体すら残らない。

 

「………」

 

 戦いが終わりを迎えて、場がシーーンと静まり返る。誰も一言も発しないままカカシのような棒立ちになる。目の前で起こった出来事に思考が付いていかず、ただ茫然(ぼうぜん)と立ち尽くすしかない。

 冷たい風がビュウビュウと吹き抜けて、魔王のマントの(すそ)がバサバサと揺れた。

 

 血の海に倒れたまま動かない魔王と、極大魔法を受けて爆散した大魔王……そこに勝者の姿は無い。両者が共に致命的な一撃を食らって死んだらしい光景を、その場にいた者達は呆気(あっけ)に取られて眺めていた。

 

「相討ち……だったのか」

 

 レジーナが不意にそう(つぶや)く。魔王が死んだかもしれない光景を目の当たりにして、真っ先にその事実を受け入れた。眉間(みけん)(しわ)を寄せて苦虫を噛み(つぶ)した顔しており、(ひたい)からは冷や汗が()れ落ちる。

 

 彼女の言葉がきっかけとなり、他の仲間達も冷静に現状を把握しだす。魔王を失った事実が実感として湧き上がると、深い悲しみが急激にこみ上げて、絶望で胸が張り裂けそうになる。

 

「ザガート様ぁぁぁぁぁああああああああああっ!!」

 

 メンバーの中でルシルが真っ先に悲痛な声で叫ぶ。目に涙を浮かべて今にも泣きそうな顔しながら、床に倒れた魔王の元へと駆け寄る。

 他の女達も後に続くように男の元へと走り出す。ただ一人ブレイズだけは何かに気付いたのかその場に立ったままであり、主君の元に駆け寄らない。

 

「ザガート、死ぬな! 死ぬんじゃない!!」

「師匠ッ! オイラ、こんな結末は絶対嫌ッス!!」

「魔王ッ! (われ)を……我を置いていかぬでくれぇぇぇぇぇぇええええええええええッ!!」

 

 女達の口から悲しみの言葉が漏れ出す。四人の女は魔王の上半身を抱き起こして彼に寄り()ったまま、わんわんと声に出して泣く。瞳から大粒の涙を(あふ)れさせて、何度も立ち上がるように声を掛けた。

 四人の女達は魔王が死んだ事実を(かたく)なに受け入れようとはしない。彼が生きているはずだと心の中で思い込む。

 

 少女達の願いも(むな)しく、魔王は目を閉じたままだ。安らかな死に顔を浮かべて死んだかに思われたが……。

 

 

 

「……ムッ!!」

 

 それまで閉じていた魔王の(まぶた)が突然グワッと見開かれた。胸に針が刺さった事実など無かったようにムクッと起き上がる。

 

「うわぁっ! ザガートが生き返ったあっ!!」

 

 男がゾンビのように息を吹き返した事に仰天して、レジーナが心臓が飛び出んばかりに驚く。目を丸くさせてこの世の終わりを見たような顔しながら、反射的に後ろへと飛び退()く。

 他の女達も同じ反応をして、全員が魔王から離れる。さっきまであった悲しみの感情は一瞬で吹き飛ぶ。

 

 ザガートは二本の足でゆっくりと立ち上がると、自分の胸から突き出ていた針の(はし)っこを片手で(つか)む。

 

「フンッ!!」

 

 気迫の篭った言葉を発すると、胸に刺さった針を力任せに引き抜く。針が抜けると傷口が急速に(ふさ)がっていき、ドクドクと流れていた血が止まる。床に(あふ)れていたトマトジュースのような赤い液体も、スゥーーッと薄れて消えていき、掃除したように()(れい)な床へと戻る。

 ザガートは手に持っていた金属の針を、部屋の(すみ)の方へと乱暴に放り投げた。

 

「ザガート……無事だったのか。てっきり死んだものとばかり」

 

 レジーナが顔を引きつらせたまま、恐る恐る男の元へと歩いていく。間違いなく死んだと確信を抱いた男が生きていた事への衝撃を言葉で伝える。

 本来大切な仲間が無事だった事を喜ぶべき場面だが、それよりも驚きの感情の方が大きかった。

 

「ああ……大魔王の放った一撃が心臓を狙ったものだと瞬時に見抜いた俺は、すかさず横に数ミリ動いた。おかげでヤツの魔法は心臓からずれた位置に命中し、俺は致命傷を(まぬが)れた……という訳だ」

 

 ザガートが王女の問いに答える。敵の狙いに気付いて反射的に回避行動を取り、急所を()れていた事実を伝える。さすがに心臓に刺さったまま生き延びた訳では無いようだ。

 

「まったく……相変わらずデタラメなヤツじゃのう」

 

 魔王の話を聞かされて鬼姫がウンザリしたような溜息(ためいき)を漏らす。

 男が生きていた喜びと、いつもの不死身ぶりに(あき)れた感情が入り混じって、少し疲れたような顔をする。このノリに付き合わされたら、寿命がいくらあっても足りない……そう言いたげだ。

 

(だが避けるのがあと0.1秒遅かったら、俺は今の一撃で確実に死んでいた。さすが大魔王……この世界最強と呼ばれただけある)

 

 ザガートは先程(さきほど)の戦いを回想して、アザトホースの強さを高く評価する。自分をあと一歩の所まで追いつめた実力を思い起こして、互角に渡り合える強敵と呼ぶに相応しい相手だったと()(けい)の念を抱く。

 戦いが始まる前こそ侮辱したが、彼も立派なこの世界の魔王だった……そう思わされた。

 

 物思いに(ふけ)ていた魔王であったが、ふと目をやると大魔王が死んだ場所の真下にあった床に、人間の手のひら程度の大きさの一匹の蜘蛛(クモ)がいた。蜘蛛はザガートに見られていた事に気付くと、部屋の(すみ)の方へそそくさと走り去ろうとする。

 

「フンッ!!」

 

 ザガートは服のポケットから一本の金属の針を取り出して、蜘蛛に向かって投げ付けた。針は蜘蛛の足の一本をブスリと貫いたまま床に突き刺さり、彼をその場から動けなくする。

 蜘蛛は必死に逃れようと手足をジタバタさせたが、(くし)刺しにされた足を切り離せる(ほど)ではなく、床に固定された状態となる。

 

 ザガートはズカズカと歩いていって針を引き抜くと、蜘蛛を指で(つま)んで持ち上げる。自分の顔の前まで持っていくと、興味深そうにまじまじと眺める。

 

「ザガート、その蜘蛛がどうかしたのか?」

 

 レジーナが不思議がるように首を(かし)げた。何の変哲もないただの蜘蛛にしか見えない物体に、魔王が興味を示した意図が全く理解できない。

 

「……これが魔力を失ったアザトホースの真の姿だ」

 

 王女の疑問に魔王が口を開く。何の力も持ち合わせない無力な虫けらこそ、さっきまで激闘を()り広げていた巨大な化け物の正体だというのだ。

 

「えっ……ええええええぇぇぇぇーーーーーーーーっっ!?」

 

 耳を疑うような言葉に、魔王の仲間達が目ん玉が飛び出そうな勢いで驚く。あまりに突拍子も無さすぎて、とても(にわ)かには信じられない。

 

 ……魔王の口から発せられた真実は、(まさ)に天地がひっくり返るような衝撃があった。

 

蜘蛛(クモ)がアザトホースの正体とは、一体どういう事だ! ちゃんと説明しろ!!」

 

 魔王の言葉が(にわ)かには信じられず、レジーナが物凄い剣幕で食ってかかる。さっきまで激闘を()り広げていた大魔王が、ただの一匹の蜘蛛になったと聞かされても到底納得が行くはずもなく、詳細を教えられなければ()(てん)が行かない。

 

 他の仲間達も彼女と心情は同じであり、(みな)魔王が真実を話してくれるはずだと期待する。

 

「俺も全てを把握した訳じゃないが、この蜘蛛から微弱ながらもヤツと同じ魔力の気配を感じる……こいつが大魔王の正体である事だけは疑いようがない」

 

 声を荒らげた王女の問いにザガートが口を開く。(かす)かに残っていた魔力の残滓(ざんし)から、蜘蛛がアザトホースと同一の個体であると見抜く。

 

「推測ではあるが、この蜘蛛が長い年月をかけて魔力を(たくわ)えると、あの(みにく)い化け物の姿になるのだろう。それが勇者に敗れて力を失うと、小さな蜘蛛となってそそくさと逃げる。そして数百年かけて力を蓄えて、巨大な化け物へと戻る……それをこれまで二度行った。これが大魔王が勇者に倒されても、数百年ペースで復活を()げるカラクリだった訳だ」

 

 仮説だと前置きしながらも、蜘蛛がこれまで取った行動について語る。正体を見抜かれなかったため(とど)めを刺されずに生き長らえた事、長い年月をかけて力を取り戻した事、それによって何度倒されても復活した事……それらの事実を語る。

 もしここで蜘蛛を殺さず取り逃がしていたら、数百年の年月を()て復活していたかもしれない……という事になる。

 

「さすがザガート……これまで(われ)を倒した勇者は二人いたが、我の正体まで見破れたのはお前(ただ)一人だけだ。()めてやろう」

 

 ザガートに指で(つま)まれていた蜘蛛が流暢な人間の言葉を話す。以前はマイク()しに発したような(くも)った音声だったが、今は聞き取りやすいハッキリとした声で喋る。見た目はただの蜘蛛でしかないが、人語を解する辺り高い知能を持っていたようだ。

 

「アザトホース……お前は一体何者だ? お前ほど高い知能を持った蜘蛛が、いきなり無から生まれたとは到底考えにくい。お前を影で操っていた黒幕がいたはずだ。知っている事を全て話せ」

 

 ザガートが事の真相を問い(ただ)す。人類抹殺計画は彼による単独の犯行ではなく、裏で計画を主導していた真のラスボスがいたはずだと、そう考えた。

 

「正体を知られた以上、私の運命もここで終わりだ……貴様らに全て教えてやる」

 

 大魔王が観念したように口を開く。正体を見抜かれて捕まえられた以上、もはや死を逃れられる状況では無くなり、口を閉ざしていても無意味だと悟ったようだ。

 

「私を影で操り、人類抹殺をもくろんだ者……それはこの世界を()べる神、ヤハヴェだ」

 

 自分を裏から操っていた黒幕の正体を明かす。

 

「うっ……嘘だぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーっっ!!」

 

 レジーナが(のど)が割れんばかりの大きな声で叫ぶ。あまりにショッキングな事実を告げられて冷静ではいられなくなり、頭の中が混乱してグチャグチャになる。大魔王の言葉がもし真実だったとすれば、とても正気ではいられない。

 

「ヤハヴェと言えば、人類を創造されたお方……全ての人を我が子のように愛する、慈愛の神だぞッ! そもそも人類を助けるために二度も勇者を異世界から呼んだのは、他ならぬヤハヴェじゃないか! そのヤハヴェが人類を滅ぼそうとしたなんて、信じられるか!!」

 

 神が人類抹殺をもくろんだ黒幕だとする大魔王の(げん)を即断で否定する。神がそのような事をするはずがないと考える根拠を早口で並べ立てた。

 

「お前達が信じようが信じまいが、(まぎ)れもない事実だ……」

 

 アザトホースが王女の言葉に反論する。この()に及んで嘘をついても仕方がなく、自分の言っている事が真実だと伝える。

 

「アザトホース……お前の言うヤハヴェとは、旧約聖書に名を(しる)された、あのヤハヴェか?」

 

 ザガートが冷静な口調で問いかける。真相を知らされても王女のように取り乱したりしない。この世界を治める神が、自分の知っている神と同一なのか聞いて確かめようとする。

 

「そうだ、ザガート……お前が元いた世界において(もっと)も名を知られた神……それがヤハヴェだ。モーセに十戒を授けなされたお方であり、全人類の祖たるアダムとイヴを生んだ、人類の創造主に他ならぬ存在……」

 

 大魔王が男の質問に答える。この世界を治める神であり、人類抹殺をもくろんだ黒幕こそ、(まぎ)れもなくザガートが元いた世界において信仰された一神教の神であったと伝える。

 

「貴様ら人間に教えてやろう。アダムとイヴ……人類の祖たる二人が神と交わした契約、その真実を」

 

 アザトホースは原初の人間が楽園を追放された経緯(いきさつ)について語りだす。

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