その指は美しき死に触れた   作:  

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第七話

ある日の午後のこと、ゼノスはキャストリスと共にアナクサゴラスの研究室に呼ばれていた。

 

「では、初めに事象の確認から。キャストリス、彼に触れてみてください。出来るだけしっかりと」

「えっ?は、はい!」

 

アナクサゴラスの指示をどのように解釈したのか、キャストリスは顔を仄かに赤くして数秒戸惑ったのちにゼノスへ抱きついた。

 

「……ふ、手を繋ぐだけでも良かったのですが、得られる結果は同じですので、ここは当人の自由意志に任せましょう。そのまま動かず、観察をさせてください」

 

勘違いで抱きついた上にそのまま動くなと言われたキャストリスの顔は完全に紅潮しているが、アナクサゴラスはそれを気に留めずにゼノスの脈や瞳孔など体の各所を観察し始めた。

そして

 

「離れて結構です」

 

その言葉と同時に、すでに羞恥心の限界に達していたのであろうキャストリスはすぐに彼から離れた。

 

「……全身のどこを観察しても身体に死の兆候が一切存在しない。この結果からは、あなたの身体が異常な速度で再生している、またはあなたの身体に死という概念が存在していない、という二つの仮説が立てられます」

 

アナクサゴラスは机の上から短い刃物を手に取り、同じくゼノスの手を取ると、それを躊躇なく切り付けた。

ゼノスの手を切り付けた刃物には赤い血が付着したものの、彼の手には血どころか傷の跡すら残っていなかった。

 

「……やはり、異常だ。あなたの身体は損傷部分を人間が反応できないほどの速度で再生させている。しかし、これだけではキャストリスの力が無効化される理由がわからない」

 

アナクサゴラスは数秒の間目を閉じて黙り込み、そして目を開くと

 

「……あなたの力は聞いています。アグライアはそれについて、あなたは黄金裔に加わるにあたりエイジリアへ辿り着く以前の記憶を焚べ不老を得たと説明をしました。……しかし、あなたはもう一つ何かを失っている、違いますか?」

「……さあ?俺にはわからないな」

「……そうですか。ならば私から追求すべきことはこれで全部です。キャストリス」

「は、はい!」

「彼は幾度あなたの抱擁を受けようと、命を落とすことはないでしょう」

 

その言葉を聞いてキャストリスは嬉しそうに微笑んだ。

 

「ふふ、これで一安心ですね。…では改めて、明日はわたくしがオクヘイマと新悟の樹庭を案内いたします」

「あぁ、楽しみにしているよ」

 

すると彼は、キャストリスにハグをした。

顔を真っ赤にして固まるキャストリスに彼は首を傾げて

 

「俺をオクヘイマへ案内してくれた女性に、エイジリアの人に親愛を示すにはこれがベストだと聞いたのだが…、間違っていたか?」

「……それは、嘘です」

 

キャストリスはこの時点で誰が彼をオクヘイマへ案内したのか察した。

キャストリスはこの後彼女に直談判をしなくてはならない。

しかし、それを思考の隅に置いたキャストリスは数秒の逡巡の後

 

「……ですが、嬉しかったので、私にはもう一度していただいても構いません。で、では、私はいくつかの課題が残っていますので」

 

そう言って逃げるようにその場を去った。

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