ヤンデレを攻略せよ【進行度1/5】
「ガチャが当たんない…」
俺は金色に回転しない画面を見ながらそう嘆いた。まさかこんなに当たらないとは思わねぇよ。100連してるんだぞ?
「ロウヒ欲しかったのに…」
回していた最近のガチャで全部外してしまった俺は、最後のガチャを引いた勢いそのままに眠ってしまった。
「起きろ、マスターよ」
目が覚めたと思えばエドモン・ダンテス。俺が始めてからはピックアップの時期が過ぎていたせいで引くことすらなかったキャラだ。
「あれ、なんでこんなとこいるん…?夢だよな…?」
「その認識は正しい。しかしこの夢は現実へと影響する、それを努々忘れぬことだな」
「…となると新しいイベントか何かか」
「まあその程度の認識で充分だろう。悪夢を乗り越えられなければ結局は沈むだけ」
意味深なセリフと共に妙な浮遊感が体を襲う。
「最初のサーヴァントは三騎、この夜を乗り越えてみせよ─」
そうして俺は、シャトーへと放り込まれた。
「ん…?あれ、カルデアか?」
部屋の様子は普段のマイルームカルデアと同じ見た目であり、俺という存在もぐだ男に移ったような感じらしい。
「礼装の機能は問題ない…あとは三騎とかなんとか言ってたし、誰かくるのか?」
それなら推しが来てくれればいいんだが。せっかくなんかリアルっぽい夢なのだ、推しと共に過ごせたら尚のこと良いだろう。
そんなことを思っていると、コンコンとノックされる音が。
「はい、今開けます」
開けた先にはいつも周回でお世話になっている推しの一人、モルガンがいた。
「我が夫よ、妻をこのような場所に待たせるとは何事ですか。ちゃんと部屋の中へと招き入れてください」
「普段画面で見るよりもかわいくてつい見惚れちゃってた」
「…むしろ我が夫に褒め言葉を求めたのが無為なのでしょう」
はぁとわざとらしくため息をつかれ、俺は激しく動揺する。もしかして何かやらかしてしまったのか?
「ごめん、気に障ったのなら謝るよ」
「そんなことはどうでもいいのです。もっとくっついて私と一緒に過ごしてください」
「近いよ…?」
「あえてこう言いましょう、当ててるんですよ…」
何故かどんどん密着してくるモルガン。正直クール系の顔でこうやってグイグイ来られると理性が…持たない…
「そ、そうだ!せっかく来てくれた訳だしお茶にしよう。モルガンから俺の知らない妖精國の話を聞かせてほしいんだ」
「私から、ですか…?ええ、構いませんが…夫はそれでよいのですか?今ならなんでも私は許しますよ…?」
「モルガンのことを知れる機会なんてなかなかないしさ。お茶淹れるからクッキーを用意してもらえるかな?」
正直どんな話をされてもちんぷんかんぷんだろうけど、それでも聞こうとすることが大切なのだ。
モルガンとお茶するなんてバレンタインイベントくらいでしかないし。
「ええ、もちろんです。昔に献上された最上級の焼き菓子でも再現しましょう」
「そうやって笑ってくれるのは嬉しいな」
あまり紅茶の淹れ方には詳しくないけれど、それでもモルガンが楽しめるように作るのが一番だろう。
「作り終わりましたか。…ふぅ。夫の紅茶と考えると、体の芯がじんと暖かくなりますね。どんな話を聞きたいんでしょうか?」
「モルガンが言いたい話なら何でも。そうだね…モルガンのことならどんなことでも大丈夫だよ。好きな人の好きなものに興味がないわけないでしょ?」
俺からしてみたら夢でもなきゃこんなことを聞けやしないからな。絶好のチャンスを逃がすわけないだろう?
「そうですね…では、魔術の話でも」
俺のことにも関係してきそうな話。
珍しく語りたがるモルガンが楽しめるよう、笑顔で聞き続けるのだった。
「…ということがわかったのですよ。水鏡の応用、夫も体験してみますか?」
「うん、ちょっとやってみてほしいな」
楽しめるのなら問題ないだろう。モルガンが俺に危害を加えるとは思ってもなかったので軽く許可をする。
「では、失礼します。…ふふ、どうですか?」
「わっ、なんかすごい変な感覚…!水中なのに息ができるみたい!」
「原理的には酸素を吸収するのと変わりありませんので、感覚はそうなってもおかしくないですね。これはムリアンの遊戯から採用したもので、体の動きはそのまま大きさだけを縮小したのです」
モルガンに閉じ込められたのか…?まあなんとかなりそうな感じはする。
でも話すの楽しいしこのままでいいかな。
「ふふ、楽しんでくれるなら何よりです。今のうちに私以外を認識できなくする幻術をかけますから大人しくしてくださいね」
「うん、わかった…いやちょっと待って?」
「待ちますけど…何か不明な点でも?」
当然のことをしているのになんで止めてくる、と言いたげなでかい視線でこちらを見てくるモルガン。美人の困惑顔に癒される…そんな訳もなくこの状況ではだいぶ不味い。
「俺の意思は無視だよね?」
「ええ、政略結婚では個々人の感情の有無は往々にしてあるものです。私のいた世界ではありませんでしたが、関係から入る婚活というのも流行なのでしょう?」
「違うからね!?」
「あら、そうでしたか…ならマスターをこのまま私に依存させればいいということですね」
違うだろ。どう考えても思考が全然合わない。モルガンの目を見ても読み取れるのはこちらに対する好意だけ。
「安心してください。その中はたとえ無敵貫通を持ってしても出られないのですから」
「ねぇそれ中々にやばくない?」
「やばくないですよ。私お手製の魔術ですから、外からの攻撃にも問題なく対応できます」
「…はぁ」
多分この感じだと話が通じないんだろうな。どうせ夢の中なんだ、令呪の使用はできるだろう。
ここから逃げるためだけにモルガンへと使う手もあるが、もし他の手札があれば今度こそ詰むだろう。
「令呪を持ってサーヴァントに命ずる、この状況をなんとかしろ!」
「そこで私を排除しないあたり、マスターがどれだけパニックなのかわかりますね…いえ、冷静であるからこそこうしたかもしれませんが」
「そりゃわからないものを解いたところでまたかけられるだろうしな…!」
他のサーヴァントがいたところで太刀打ちできるようなモルガンではない。体に令呪の魔力が染み、形が完全に固まった。これは…学生服?
「ムーンキャンサーですか…小癪な…!」
とりあえずなんとかできそうな人か…?そもそもここから俺はどうすればいいんだ…?
『マスター君、そのまま横に回避して?』
聞こえてきた声のとおりに回避すると、直後に煙とパリンと割れた音。
「なっ…!?」
「ガンド!」
驚いているモルガンは誰かからのガンドで倒された。こんなことをできるのは限られるだろう。
例えば、モルガンが隙を作るような妖精騎士トリスタン。
例えば、モルガンでさえも耐えないガンドを使うロウヒ。
例えば、モルガンの隙をつける月の聖杯戦争の勝者。
「先輩、助かりました…!」
「もう、マスター君。ちゃんとハクノ先輩と呼んでよ」
煙の晴れた先には、
「とりあえず私の部屋に移動しよっか。モルガンさんには悪いけどここに放置しておいたほうが危険が少ないしね」
「そうだよね…」
そんなことを言われてはや5分。俺は先輩に連れられてカルデアの廊下を右往左往していた。
「どんな状況なのかってわかりますか?」
「うーんと…私がわかっている情報だけど…」
どうやら俺よりは詳しくこの夢について知ってるらしい。
「とりあえず、サーヴァントは女のヤンデレしかいないよ。私もそうだけど今は気にしないで」
「あの、距離が近いとかについては?」
「月の聖杯戦争じゃこれくらい普通だよ。いつ敵が狙ってくるかわからないし、もっと近づいてほしいくらい」
恋人つなぎをしている距離、といえばわかるだろうか。
顔のよさといい匂いでくらくらする。
「それで、他にわかってることはありますか?」
「うーんとね、もしサーヴァント同士で殺し合ったら再臨段階が下がるよ。聖杯まで捧げてると大変だね」
「他人事のように言わないでくださいよ…先輩にも捧げてるんですよ?」
「まあ、一つ捧げたぐらいだし気にしないでね?私から挙げた聖杯がなくなるってくらいだから」
「無課金には辛いんです…!」
モルガンに至ってはもう限界まで捧げたぐらいだし。推しの死ぬ姿うんぬんよりも育成的にやだ。
「この悪夢っていつ終わるんですか…!?」
「マスター君が起きるまでだね。今の時間は5時くらいだし、普段の君が6時におきることを考えればしばらく私といれば問題ないよ」
ドアを開けてもらい、彼女の部屋に入る。
「はい、君の部屋っぽくしてみたけど…わわっ、こっちに倒れ込まないでよ」
「なんかやってない…?」
体の底からハクノ先輩が欲しいけれど、冷静に考えればおかしい。こんな短時間でどんどん好きになるような人ではない…はず。
「私もヤンデレだって言ってたよね。上手に誘惑できる気もしないから、愛の霊薬を開けたんだ」
「タネ明かしが、遅いんだよ…」
「ついでに言うならそれだって私が着けた特注の礼装で、少し毒の効きが早くなるんだよね。大丈夫、後輩の欲望ならなんでも受け止めてあげる」
「……」
ハクノ先輩のことしか考えられない。凄くかわいくてこっちのことを許してくれるのなら何したっていいじゃん。
(好き、ダメ、ダメ、好き、好き、好き…)
「ハクノ先輩…」
「うん、いいよ。私のこと…ちゃんと求めてね?」
恥じらう表情でもう我慢ができない。
「霧の都へようこそ!」
一瞬で夢から覚めた感覚。普段通りに戻った体は後ろからのナイフに対応する。
「マスター君!?」
「ハクノ先輩…?」
誰の攻撃かはわからないけれど、最悪の事態を避けるために先輩にガッツを付与した。が、攻撃が防ぎきれずに血が飛び散った。
「おかあさん?」
「やっぱりジャックちゃんか…」
考えてみれば当然のことである。情報抹消で状態異常は消せるし、ここにいるのは女性だけだから宝具が刺さる…
「あれ、強くね?」
さながらキャスターがいないと止められないバーサーカーである。とにかくナイフを持ってきて殺そうとする手を止め、こちらに抱きかかえる。
「おかーさん、なんでとめるの?」
「ジャックちゃんが人を殺すの見たくないの。ダメかな?」
「だーめ。おかーさんをおとーさんにしようとしたから」
口を尖らせるジャックだが、ナイフを落とそうとしないのでそろそろ自分の身の安全が怖くなってきた。
「1回お外に出よう?ね?」
「おかーさんといっしょ?」
「おかーさんといっしょ。ね?」
なんか頭が混乱してくるが、ジャックちゃんの頭のよさについては折り紙つきだ。抱っこしないと絶対に刃物で刺すだろうと確信がある。
「わかった!」
見ながらナイフをふられてもなんだかなぁ…
かといって手加減されてそうにないので止めることもできず。
空振らせてからはたき落とすのが精一杯だった。
「ほら、さっさとジャックちゃんのお部屋にいくよ」
「やだやだやだ!まだかたづけてないのに!」
「駄々をこねられても困るんだよなぁ…」
しかしこんなことで時間を消費していたおかげで、体が光り始める。もうそろそろ起きるようだ。
「むぅ…おかあさんともっといっしょがよかったよぉ…」
「また今度会ったら一緒にいような…」
正直ジャックちゃんが一番ましだったと思う。変に誘惑されても子供だからって対応できるし他から変なことされそうになったら解除してもらえるし。
「ん…?あぁ、寝落ちしたのか」
携帯を持ったまま寝ていたようで、電源を押して起動させる。
「うわ、ジャック2枚目…」
ロウヒのすり抜けを狙っていた俺は、なんとも言えない気持ちと喜ばしさを感じたのだった。
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