「逃げられればよかったんだけどな…」
「私の幸運ですので諦めたほうがよろしいかと」
当然のことだけど逃げられるわけもなく、今は咲夜の部屋に監禁されていた。時を止められるやつの部屋から出るとかどんな罰ゲームだよ。
そして外に出るには手に繋がれている鎖を外さないとならない。
「別に私としてはあなたがお嬢様の婿になることには異論はありません。寧ろ積極的に推奨しているくらいです」
くるくると手の中でナイフを回す咲夜の目は笑っていない。
「ならなんでわざわざこんなことしてくる?」
「こんなこと、と言われましても。私はマスターの全てを知りたいだけです」
ナイフが一つ投げられ、目の前のリンゴをはじき飛ばした。
ぽたぽたと垂れるのは涙ではなく果汁だろうな。
「お嬢様が縛りつけ、私に恐怖してもらわないと。そうでなければまた逃げ出してしまうのですよね?」
「そりゃこの状況ならな…」
監視の目そのものは5人という少なさから必然的に少ない。というよりレミリアの能力に頼りきるなら0になるだろう。
ここから出れないと断言するのならきっと能力を使うことは可能だし。
「そうなってしまっては困ります。メイドとして奉仕するのはマスターとお嬢様でなければ」
「決めつけられてもらっちゃ困る…!?」
鎖を引っ張られて咲夜の顔が近くに見える。
「いえ、マスターはもう誰も助けに来ません。この部屋に入れるのは私以外誰もいないのです」
本来ならその言葉も信用してはならないのだろうけど、音の少なさと底しれない恐怖から一瞬考えてしまった。
(おちつけ…いざとなればモンハンの技術で抜け出せるんだ)
絶対回避を使えば抜けられるであろう鎖。よくみればそもそも壁にすら繋がれていないのだ。
恐らく中のサーヴァントの影響でミスをしたのだろう。というかそうじゃなきゃ怖すぎる。
「大人しく私に…いえ、失礼しました。お食事をお持ちしますのでお待ちください」
音も立てずに消えられるのは暗殺者の動きそのものに等しいのだが、結局は無力化をしないといけない。
『全く…しょうがないわねマスター』
(!?)
声が聞こえたあとにこちらに飛んできた鎖を無理やり避ける。咲夜の方には恐らく当たったのだろうけど、そんなことを気にするのは後だ。
「攻撃はされないって話だったんじゃ…!」
ドア、本棚、クローゼット、ベッド。私物の少なさも含めて普通の部屋だ。
…どこからの攻撃かもわからないのに留まり続けるのは危険でしかない。迷うことなく扉を開け、廊下へと駆け出した。
さて、紅魔館の階層を使って脱走はしたけれどあいつらが誰なのかわからないままだ。
「レミリア、はランサーかキャスターですよね…」
弾幕を張ってきてるという一点のみでアーチャーになってもおかしくない。性格…は、どうやらカリスマがありそうな感じぐらいだし。強いて言うならかりちゅまではないくらいか。
「もう一人のメイド…あっちは多分無理。どれにしたって普通のアサシンがやれる行動ばかりだ」
ナイフを使って戦闘するのはアサシンのほうが多い。索敵される危険性もあるから同じ場所に居座り続ける訳にもいくまい…
「5人。フランとパチェ、あとは美鈴か…」
幸いにしてパチュリーは図書館に近づかなければ問題ないだろうし、美鈴は今日も元気にお昼寝をしているはず。
問題はフランだ。あれの行動基準がよくわからない。
小学生よりおちつきないんじゃないか?
「フランはね、お姉様よりもマスターのことを愛してるのー!」
そんなことを思っていたからか、まだ臨戦態勢のフランがぴょこっとでてきた。
「…フランケンシュタイン?」
フランだからという安直な考えをして言ってみたが、絶対に違うのだろう。見てわかるくらい不機嫌な顔をしだし、大きな声を出し始める。
「マスター、私の名前はフランドールだよ!フ、ラ、ン、ド、ー、ル、!」
「わかった。わかったからレーヴァティンしまってくれ…」
ぷんぷん怒りながらこちらへと振られると怖い。普通に話が通じるだけマシである…
「じゃあ名前呼んで、名前!」
「それじゃ…フランドール」
「うん、私はフランドールだよ!ずっと一緒に居てくれるよね?」
…フランはバーサーカークラスかなぁ。
そんなことを考えつつ頭をよしよししていると、階段からコツコツと音がする。
「お手柄ね、フラン?」
「うん、お姉様!マスターの体に玉はないけど…こうやってぎゅってすれば逃げられないよね?」
なんでも壊す能力…この悪夢ではないようだけど、抱きついて逃げなくさせられるのは普通に辛い。
首に歯を突き立てようとするフランからすり抜け、下の階段へと潜ろうとする。
「どこへ逃げようというのかしら?」
「少なくともこの館からですね」
「ダメだよー?お姉様とマスターと一緒に過ごせるんでしょう?」
いやいやと言ってこちらに炎を飛ばしてくる。
「あら、フランにだけ注目してちゃダメよ?私だってマスターの嫁として相応しい行動を取らなきゃならないもの」
ちゃんと見てないと。
そう呟いた声を聞いた先はもう狭い廊下をぐるぐると回ることしかできなかった。どうやら置かれていた槍にひっかかったようだ。
「なんつーか狡猾な真似してきやがって…!」
「だって愚直なマスターのフィアンセですもの。少しくらいは罠や搦め手を使えるようにしておかなきゃ、ね?」
「お姉様、追いかけっこはもう終わりだよね?」
「そうよ。今からマスターとの子供を作る…とりあえず運びましょう?」
「うん!任せてねお姉様!」
風穴は空いてない。しかし出血が酷いな…なまじフランが爪で抉るからぐちょぐちょして更に気持ち悪い。
(だとしても動けないわけじゃなさそうだな…)
夢の中だからの補正なのか、普段と変わらない動きはできそうだ。痛みとかはどんどん酷くなっているのには変わりないがな。
(不死鳥の息吹…)
こっそり体を全部回復した。これ以上酷くなることはないはずだが…いかんせんフランにバレたときが怖い。
「逃げないとな…」
大事なのは他の人を押しのける度胸。
どんなルートを通ればいいのかはわからないが、走り続ければいつかは撒けるはずだ。
「マスター持ちにくい…そうだ!」
ぐさりと体の内部から発生した痛みに耐え、再度走り出す。
「待ちなさい、ここからは出られないのよ?」
「こんだけ広けりゃ退屈しねぇよ…!」
普通に逃げてもバレるので、近場の窓を割って飛ぶ。
「…ここは図書館か。パチュリーは辛いぞ…」
窓の先は大図書館。積まれていないだけましとも呼べる大きさの本積みがちらほらと見える。
小悪魔がいないのかな?一人いないのなら好都合だからありがたいんだけど。
「お疲れさま…レミィから逃げるなんてなかなかやるじゃない」
「今度はパチュリーから逃げなきゃいけないんですけどね…」
動かない大図書館である魔法使い、パチュリー。横の本棚にはびっしりと魔術陣が並んでいる。
「私だってそこまで鬼じゃないわよ…あなたを直接狙わないことがどれだけ優しいのかわかってるの?」
「…!?」
まずはお手並み拝見と言わんばかりの多種多様な初級魔法。弾速もまばらなので避けることは難しくないが、変に攻撃が増しても辛いので精一杯に見えるようにしておく。
「舐めているようなら次からスペルカードでも使おうかしら?」
「もともと限界だ…!というかなんでこんなに執着するんだよ…!?」
「あなたが好きだから」
そう言ってみるが、弾幕の嵐は止まらない。ガトリング砲よりは避けやすいはずなのに毒のせいで上手く動けない。
「もう少し現実的な手段を取ろうかしら?」
「この感覚だと辛すぎるんですが!?」
目くらましになる閃光弾もあるし、たんだん煙が下に充満していく。上にある気体は人体だけに有害な毒だろうけどそんなもんを振りまかないでほしい。
回避しにくいじゃん。
「あら、気づいてるのね。毒には疎いものだと思っていたわ」
「ハンターたるもの、これくらいできないでどうするんでしょうか?」
とはいえこれでタイムリミットがあることがわかった。幸いなことにパチュリーには体力がないようだし、走れば逃げ切れるだろう。
「そんなことは知ってるのよ。いでよ、使い魔!」
近くにいなかった気配が大量に増えた。ついでに若干上から本が降ってきた。
「せめて本の扱いはちゃんとしろよ…!」
「だって今はあなた以外いらないから。そのために何を犠牲にしても問題ないでしょ?嫌なら速く捕まればいい話よ」
何処から飛んでくるかわからない本やら弾幕をよける。ところどころで逃げ道を塞ぐように弾幕の量が多いが、局所的なら対策できる。
結局のところそこに近づかないといいわけだからな。
「それにしても激しすぎません?」
「休むのなら構わないわよ?本の中ならきっととことん休めるわ」
「魂ごと入れ替えようとしている感じですか…」
とはいえ一向に誰なのかわからないのもな。髪の毛が紫だし一回賭けてみてもいいか。メディアは…流石に安直だから違うとして…
「紫式部」
「あら、辞世の句でも詠むのかしら?レミィに伝えておいてあげるわよ」
違うのか。…カルデアだと図書館で過ごしているからいてもおかしくないと思ったんだけどな。他にいそうなのも思いつかないし…
「それに、ここで永遠に過ごしていれば他の人にも会えるわよ。あなたが散々欲しがっていたあの子とかもね?」
「明らかにヤンデレのお前らがここから出してくれるとは思わないんですけれど…!」
明らかに危険そうな金箔の模擬刀の先制攻撃を間一髪で避け、横から飛び出たかめはめ波を受け止める。
(なんでかめはめ波が…パチュリーからは視線を切っていないしそもそも東方キャラじゃ…!?)
「私だって結婚できるようになりたいんです!仕事だけできる門番なんて古いじゃないですか!」
「仕事だけできるなら別にいいパターンじゃん…」
やる気のないイメージの多い美鈴だった。かめはめ波も気の一種、気を扱う程度の能力なら再現するのも簡単だろう。
幸い本家のように魔改造されているわけでもないので普通にずらしてパチュリーに肉薄する。遠距離から先に倒さないと絶対に面倒なことになる。
「そうはさせませんよ!」
「仕事だけできてちゃ人生の幸せには程遠いだろうが…!」
「仕事ばっかりうるさいです!幻想郷じゃお金持ちになるより結婚ですよ!」
…こんな結婚にがめつかったっけな。
とはいえこんなんでも一流の門番。しのがれるどころかどんどん後退させられる。
「皆でシェアハピできればいいんです!最近の皆さんのギスギスした空気の人柱になってください!」
「人柱になったら終わりそうな気配がするんだよなぁ!?」
「いえ…私を正妻にすればちゃんと働く自由は保障されますよ!マスターと一緒に紅魔館を辞めましょう!」
「美鈴、勧誘の仕方がなってないわ。でも…これで終わりでいいでしょう。チェックメイトよマスター」
後ろは壁。前には美鈴とパチュリー。避けたところで周囲には弾幕。
(考えろ…助っ人がいないでこうなることは想定済み…ケムリ玉で視界を眩ませれば…)
ほんの少しだけ弾幕の密度が薄いところをみつけた。罠であることはわかっているが、逃げるのならそこしかない。
「今から意識を奪いますけど、大人しくしてくださいよ?」
「そんなんで大人しくするほど優しくはないな!」
炸裂したかどうかを確かめず、見つけた位置に向けて走り出す。当然使い魔を斬り捨てることはせず、最小限の動きをして棚の上で息を潜める。
「どこか行ってしまったようね。美鈴、気を探知しなさい」
「…むむっ、上です!」
「なんでわかるんだよ!?」
咄嗟に飛び移り、本の山を駆け回る。後ろからの弾幕は見ないで切り捨てるぐらいには余裕がない。
「パチュリー様やばいです!このままじゃお外に!」
「よっしゃ逃げきれる!」
このあと俺は前しか見ずに走っていたことを死ぬほど後悔した。
顔を見れば必ず嘘だってわかったのに。
(…地下への階段…フランの部屋かよ…!)
外ではないとわかったとしても逃げることしかできない俺は駆け下りる。
「そんなに焦っても無駄ですよ?先に行かせないのは門番の技の見せどころですから」
後ろから聞こえてくる声が近づいてくる。
「大丈夫ですから。ちょーっと夢から覚めれなくなるだけですから」
(まずいまずいまずい…!)
しかし焦っていてもどうしようもない。大人しく自殺するか、それともここで過ごすか。
(誰か助けてくれ…!)
staynightさながらの状況だけど、アルトリアよりも頭のいいやつが欲しい。あと絶対に味方だって安心できるやつ。
祈ることしかできないこの現状。
「僕を呼ぶのかい?確かに安心できる択ではあるけどサ…カルデアに招かれるべき人物ではないと思うヨ」
…殺人鬼の塩かよ。
こいつが運命なのは嫌すぎるんですけど?
塩だけじゃ誰もわからないだろ(困惑)
殺、狂、術、槍、殺…
真名予想はこちらから
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=324114&uid=402242
ヒント:レミリアとフランは宝具演出から描写がされています