『迷子のお知らせだよ。マスターは至急ダヴィンチちゃんの素敵な工房にきたまえ!』
「…絶対に碌でもないような気がするんだ…」
「それでもいかないとダメ。ぐだぐたしてちゃもっと変なことになるからね」
おかしいな、ダヴィンチちゃんなんて呼んでいないはずなのに…しかもカルデア全体だから不安すぎる。
「お父さん、速く行こう。ダヴィンチさんが困っちゃうよ?」
「ん、わかった。とりあえず行こうか…」
お父さんと呼んでくる紫で全身が彩られている少女。ドレスが似合うような体つきをしており、こちらを見あげる目は完全に眠たげだ。
…俺の子供なのかね。結婚なんてしてないのになんで?
「…撫でてくれますか?」
「うん」
右手に絡んでくる少女を左手で撫でつつ、ショップに向かった。
かわいいからよし!
「やあ、初めてかな?君だけのサーヴァント、ダヴィンチちゃんさ!」
「…まだ召喚してないよな?」
開口一番どうかと思ったが、大切なことなので一度聞いておいた。アルキャス用の石を失ったわけじゃないと信じたいからな。
「そんなことを言うなんて酷いなあ。呼符で来たっていうのに」
「また無駄な神引きしてるんだ、お父さん。…ま、課金していないんならいいんじゃない?」
「パパが嘆いてるのは面白いからいいんだけどね。ママと一緒のときならなおさらだよ」
「うぐっ」
迷子の子供から言われた冷たい目に心が辛い。というかなんでパパって呼ばれたんだ…?
「おや、悪夢の内容を理解していないのかい?今回は君と英霊の間に産まれた可能性の娘を全員分見ることだよ」
「やめろ…絶対ややこしいことになるだろ…」
迷子のほうの娘は黒髪黒目で俺の特徴だけがでている。これが普通の人と結婚した未来ということであり、結婚した可能性のある未来はサーヴァントの特徴がよく出るらしい。
「お父さんの起こしていることなんていっつもそう。普段より若いだけで大して違わないんじゃない?」
「というかパパの子供はみんな娘なんだね!やっぱり血筋なのかな?」
「それは血筋じゃなくて呪いじゃない?」
娘二人いることには違和感ではあるけれど、要するに全員と出会って時間を潰せばいいということである。
「それじゃあ私たちの子供をみようじゃないか。ティアマトの言葉が確かなら、近くにいるだけで結婚する可能性が高いから…」
言い終わるか終わらないかのタイミングで娘の体が変化する。
ロングの髪、やたらと綺麗なドレス、極めつけには星の杖。どうやらダヴィンチちゃんとの子供のようだ。
「やっぱりママは変わらないんだね!でもパパは肌の艶もあるし筋肉もたくさんあるから結婚式の写真を撮ったときくらいかな?」
「…どういうこと?」
言葉の言い方に戦慄しつつ、うんうんと頷いている娘に続きを促す。
「パパはママのことをちょっと愛しすぎて監禁してくれってお願いしたんだって!でも今のパパのほうがかっこいいのになんでだろうね?」
「そこは天才であるダヴィンチちゃんにしかわからないことなんだよ…ま、未来の私が考えそうなことだ」
「…お父さん、こんな殺されかけてるのに結婚したんですか?」
「違う、違うから…」
監禁してくれなんて頼むほど俺はドMではない。絶対にダヴィンチちゃんが仕向けたに決まってるだろう。
「ラウラちゃんは…ちょっと怖い?」
「私もあなたと変わりませんから」
そして普段からいるのはラウラか。そんな名前、つけるようなことはあったっけ…?
「で、マスターは私と結婚してくれるのかい?」
「ちょっと今の未来を聞いてやろうとは思いませんよ?」
「じゃあばいばい。また後でね」
絶対に逆レとかその辺りでなし崩し的になった感じだ。慌ててここから出ようとすると、ぐにゃりと視界が歪む。
「なんで…!?」
「なーんてね。…キャスターの工房にのこのことやってきちゃダメだよ?」
「逆になぜ私がその対策をしていないと?」
投げられた何かはわからなかったが、体の異変はすぐに消えた。ラウラって凄いな…
「それじゃ、改めて!」
ネタが割れた状態で留まるほどバカではない。
娘を連れてショップの外へと走った。
「しかし、彼女は誰なんだろうね。ラウラなんて英霊は聞いたこともないし…とりあえずマスターが結婚したくなるように作戦を立てようか」
「で、ラウラはなんなの?」
「お父さんの娘ですけど。具体的にはあと3年後に産まれた娘です」
ハキハキとした喋り方は、やはり他のサーヴァントの特徴にも当てはまらない。
「…もしかしてその未来ってほぼ確定してる?」
「そうですね。お母さんがお父さんを嫌いにならない限りは」
つまり確定してるじゃん。二股してできてる娘だからこんな塩対応なのか?
「お父さん、違いますよ。この対応はお母さんよりも私を優先しないように決められたものです。…私が言いやすいイントネーション、というのもありますが」
「そうなのか…二股については否定しないんだな…」
「お母さんが一人までなら、といっていましたから。お父さんは申し訳なさそうにしてましたけど」
「既成事実で結婚することまで読み切ってたのか…」
ラウラのお母さんの苦労に合掌。
「よくカルデアを壊そうとしてましたけどね」
「本当にラウラのお母さんはヤバそうやなぁ…」
まさかそんなことまで考えてるとは、このマスターの目を持っても…わかるわ。
「ん?マスターじゃん!こんなところで何やってんの?」
「バーヴァンシーか…てっきり鈴鹿だと思ったぞ」
そういえばモルガンと一緒に引いてたな…基本育てても使わないから忘れてた。
「あんなエセJKと一緒にするとか終わってんなマスター!私は単なる正義の味方、なんだろ?」
「お母様、そんな言い方なさらないでください。正義であっても悪であってもお父様の味方と言っていたではないですか」
彼女の娘は善良であった頃の性格を引き継いでおり、純真な目でキラキラとこちらを見ている。
「娘!?おいマスター、なんでこんなことになってんだよ!?せっかく昨日徹夜した呪いが台無しじゃねえか!」
「その呪いもお母様も含めて近づけないようにする呪いなのに…娘の為に優しいお母様はこちらでも変わらないのですね」
「お父さんに対しては何もしないようで安心しました。私としては害しない限りは好きにさせておく方針ですので」
「ラウラ様もお変わりないんですね」
「それはまあ、お母さんからの言いつけも厳しいものでして…本当はもっと愛したいんですがね」
「マスター…どうなってんの?私の娘どうしてこんなに優しく育ってんだよ」
お前の育て方が悪いんじゃないんかと言いたげな視線だが、モルガンに甘やかされたそっちが思っていいことじゃないだろ。
「いいえ、お母様の影響です。実はモルガン様の手術により妖精眼で本質を見抜けるようになったのです」
「…お母さまの手術で?なんでそんなことを頼まなきゃいけないんだよ」
「お母様が私の虐めについて知ったからですわ。ラウラ様が殺しに行くといい、お父様は学校へ鬼電し、お母様は再発防止のためにモルガン様へ頼みました」
「…私はそんなことしませんよ」
「お母さまに頼むわけないじゃない」
学校側がかわいそうな話である。まあ多分娘のためならそれぐらいはしそうだしスルーだけど。
「なにはともあれ、わかりきっていることがあるんです」
「なんだい私の娘?そうなったところで返答は決めてるけどな!」
「お母様が今押し倒してしまえば問題ありません」
瞬間に飛んでくる半透明の弦。フェイルノートであることを理解したが、それなら見えないように打つはず。
咄嗟の判断で手刀で絡め取る。
「危ないな…後ろに飛んだら拘束するつもりか」
確認すると見えないように作られた罠があった。この前のハンターとしての洞察力がなきゃ詰んでたな…
「流石はお父様ですね。しかし私以外にもできるということをお忘れですか?」
「未来の娘の為なら頑張るしかないよなぁ!…あれ?」
ガンド、らしき何かがラウラの手から放たれ一瞬でバーヴァンシーと娘を気絶させた。
魔術も教えられてるなんて…恐ろしい子…!
「思考よりも現実で逃げてください」
「すまんねえ…」
後ろにおんぶ、前は抱っこ。
逃げるにしてはおかしいけど、走れるのなら問題ないな。
「マスター…ごめん、子供のお守りでもしてるの?」
「エリセか…」
エリセがひょいっと子供を抱きかかえると、露出の多い服装に変わる。
(中学生を孕ませる腐れ外道か…とりあえず自殺したほうがいいな…)
「マスター?なんで私の槍を持ってるの?」
「いや、ちょっと自殺でもして魂を洗い直そうかと…」
「やめなよ、パパ。死ぬならボクに殺させて」
「…はあ。娘に殺されるくらいなら私が殺すよ。魂は二分割して…体はホムンクルスで作ればいいよね」
「…お父さん、一回おちつきなよ」
どんな状況かわからないけれど、すっとラウラからの言葉でおちつける…わけもなく、死にたくなる気持ちが大きくなってくる。
「エリセ…?」
「ん、そう。マスターとしての威厳がなくなってるのは忍びないし殺したげる。最後まで私のことだけで心を埋めて」
「ダメだよ、パパ。ちゃんと娘のことも考えて。どれだけエッチなことしても許してあげるし、親孝行で殺すから」
「…無理かな。ここは頭突きがいいと見た」
「いてっ!?」
後ろのなにかごと殴られた感覚。今度こそ思考が戻った俺は先ほどまでの行動に恐怖した。殺されたいなんて思ってないぞ。
「ちっ、余計なことを…カレン先生からは悪霊で操ればいいって聞いてたのに…」
「三十六計逃げるにしかず!」
エリゼの心臓を狙った槍を避け、娘の手をとって走り出した。
結局外道である点についてはかわりなさそうだけどな。
「……で、ここに逃げてきたと。先生の部屋だから安心してくださいね」
「いや本当助かりました…」
安全…とは言い切れないけれど、ひとまず敵から逃げられたと安堵できるシエル先生の部屋。ところせましとカレーが並べられており、なぜ教室内で問題がないのかつっこみたい。
「ん、シエル姉さん…」
「よしよし、いい子ですね…おやマスター。どうしてそんなにカレーに視線を向けるのでしょうか」
「別に気にしなくていい。ラウラがゆっくりしてるならな」
ラウラの顔が可愛すぎて直視できないなんて言えないからな。というか食器ないのにカレーだけか?
「あ、教卓の上にありますから。どうぞ!」
「それじゃあ失礼します」
本格的なカレーを食べるのは中々骨が折れるからな。カレー粉の味はつまんないし…
「それはそうでしょうね。私も常々そう思います」
「今度カレーのスパイス調合を教えてほしいんだけどな」
「結婚してくれたら教えますよ。ラウラちゃんが娘みたいなものですし、平和な家庭になるんじゃないでしょうか?」
後ろから青髪の少女が抱きついてきた。
「パパがこうしているのが一番です!シエルママ、カレーちょうだい!」
「お父さん、食べさせてください」
「カレー好きの娘はカレー好きだよなぁ…」
ラウラの口にカレーを運ぶ。おいしそうに食べると、もう一杯とせがむようにゴロゴロと首を鳴らす。
「おいしい…シエル姉さんのもお父さんと同じくらいおいしい」
「そうでしょうか…?ちゃんと娘の好きなものが作れるのなら母親として冥利につきます!」
今までだと一番平和な未来図っぽいな…
「シエルママ、今日はパパを襲わないの?」
「あ、そうなんですね。じゃあマスター、お手数ですがベットルームまでついてきていただけますか?」
「そっか…うん、今行くよ…」
カレーを食べて仲良く皆で過ごす。
変なことばかりあったとしても、こういう未来のほうがいいんじゃないか。
「─そんなことさせるかよ!?」
カレーに何も混ぜてはいないけれど雰囲気で流されそうになった。危ねえ…
「ダメでしたか…じゃあせめてカレーを食べさせてもいいですか?娘に手料理を振る舞うなんて、ない機会ですし…」
「それくらいなら…」
交換条件としてならいい。
カレーを食べたそうな2人に苦笑しつつ、スプーンで食べさせるのだった。