「やあ、マスター。君は僕のことをしっている、知っていたよね?」
「…まあ、な」
眼の前にいるのは言わずと知れたオベロン。シャトーの雰囲気に合わせたのか、それとも単なる気分なのかは知らないが黒い第三再臨。
「よかった。それぐらいはわかってないと今回のシャトーはつまらない。昔のことも今のことにも熱心なのは反吐が出るけどね」
「その喋り方は?もう少しタメ口に近い形じゃなかったか?」
「ふぅん。オレのこれにはきづけたのか。そうか…ま、別にどうでもいいよ。こんなんは気分さ」
君がゲームを辞めたように。
何もかもを見下してくるような目からはそんな非難を込めたようだった。
「まあ、ここから脱出するまであいつらと話していけばいいんだろ?」
「うん。流石に悪夢のことぐらいはこっちに来りゃ思い出すか。つっても今回のシャトーはいつもと勝手が違うからわざわざ説明しに来てるんだ」
普段通りではない。
いつものようにカルデアール学園で過ごした日々ではなく、例えば風呂場やノウム・カルデアだったりの場所が変わるということか。
「オレが説明するのはどうしようもないぐらい不愉快なんだけどさ、聖剣の作成のときに来たアヴァロンは覚えてるよな?」
「冬、秋、夏、春の記憶のか」
「そうだ。今回はお前の昔の行動をどんどん遡っていくのが軸のシャトーだ。…ったく、本来なら設定者がこっちで説明すれば簡単なのに面倒なことしやがって」
…設定者。そういえばアヴェンジャーのエドモンがやっていた説明なのに、ブリテンダーのこいつがやっている。
「お前と設定者は別なのか?」
「質問ばっかりするんじゃなくておちつけよ、はしゃいでんのか。…ま、オレだってここに毒されてたし速く帰ってこいとは思ってたんじゃねぇの?」
「…そうか。まあ、そうなるよな」
最後に俺がここに訪れたのは四年前。ヤンデレではなくともここまで期間が空いたのなら病むのもしょうがないだろう。
「…言っておくが生活が忙しいとか言い訳はすんじゃねぇよ、見苦しくてたまらない」
「…まあ、だろうな」
「オレもヒント役だからある程度の助言はしてやるよ。死んだら最後、ここにずっと囚われ続ける」
「…ま、逃げるから問題ないな」
「全員が普段より病んでいるシャトー…いや、お前が病ませた記憶と共にいってこいよ。待つことも希望もねぇんだよ、バカ」
夢の終わり、というわけではない。
長く苦しめていた俺への罰、ということだろう。
「なんで速く帰ってこないのよ、バカ…」
冬の記憶
「最初の記憶はここか…確か…」
冬の記憶は校舎の裏からのスタートだった。手に持っていたラブレターも含めてみると、バレンタインデーが何かでここに来たあとだろうか。
「そうですよマスターさん。あなたが思っていた通りのことを私はしました」
後ろから懐かしい声を聞き、すっと振り返る。謎のヒロインXオルタか。
確か俺が一番好きだったサーヴァント、だった。
「ええ、マスターさんと間違いなく一緒に居続けたサーヴァントの一人です。夢でもカルデアでも現実でも」
こちらに向けてきたのは手作りで作ったであろうチョコレート。明らかに腐ったであろうチョコレートが4つ。
「毎年、マスターさんのために自分のことを磨いてきました。歌も、勉強も、嫌いな力も」
前から感じる圧力。前あったときよりも明らかに増していた力。
俺が社会に出てから運動をしなくなったこともあるだろうし、病みが更に深まっているのもある。
「なのに、なんで消したんですか…!?私はもういらない子だったんですか…!?」
オルタの手からはチョコが落ち、代わりにひみつカリバーが握られる。
しゃがんで避ける。狙われたのは間違いなく首だ。
「…殺す気かよ」
「部長は4年もこの部活に戻ってこないです。用意してもらったこの場所がラストチャンス、撤退はできないんですよ…!」
迷うことなく刃を振るうのはヴィランさながらではあるが、しかし覚悟は明らかに不安定だ。
「殺せないってことは散々にわかってるんじゃないのか?」
「無駄ですよ、部長。その程度の言葉で止まるほど私たちの覚悟は柔らかくないです」
説得すらも許さない彼女の剣が、こちらにスローモーションで襲いかかってくる。
「ちょっと、なにやってんのよ!?ここで死んでもらったら私との約束が終わらないじゃない…!」
秋の記憶
秋の記憶は暗闇からの始まりだった。どこにいるのかもわからない時点で昔を思い出せていないのだろう。
(だが、カルデアール学園の中ならこうなるだろうな)
暗い場所、なんて学園で簡単に作れるはずがない。監禁なんかはもってのほか。必然的に場所は限られる。
「文化祭ですよ、部長」
後ろから光が差し込んでくる。オルタのまま、だろうけど少し衣装が変わっている。
「新聞部なんて文化祭じゃ下準備して終わらせるくらいだったと思うが?」
確かここでは全員で思い思いの記事を書いて来てくれた人たちに決めてもらってたっけ。
昔は部長の作品が選ばれていたけど、そんなに投票はされてなかった…懐かしいが、わざわざアイドル霊基に変わる必要はあったのか?
「その後の後夜祭を忘れていましたか…やっぱり部長は悪趣味です」
自分から誘っておいたのに、と言ったオルタの表情は恥ずかしそうだ。
…ダンスか何かのお誘いでもしたんだろうか。
「折角の舞台で舞い上がっているんですから、その勢いのままホテルに行きませんか?」
「断る。何やるのか知らんけど全力でやってから答えを教えてやるよ」
あんまり気乗りはしないが、強引にでもいかないとこの悪夢は終わらないだろう。
目新しさ、というより記憶を取り戻すのを優先しているきもするがな。
「忘れているほど青春って覚えてないんですか?」
「さぁな…誰か一人は確実に忘れているんだが」
誰なのか、という問いには答えられない。アイドルみたいな、なんかそんな感じのことを約束していたような。
…結局思い出せない時点で相当離れてるのは違わないが。
「私以外のサーヴァントなんていませんでしたよ。部長といたのはこの私だけです」
だけ、とはならないのに。
何が大切だったのか、まで忘れてしまった。
(ヒロインXじゃないよな…名前を何かしらで忘れるようになっている、ってことだ)
忘却補正がマイナスになるとは…俺もまだまだってことだな。
「部長、トリなんですからしっかり私をさらってくださいね」
「そんなことするわけねぇだろ…」
そんな恥ずかしいことできるわけがない。あの時だって誘うのにもちょっと躊躇したわけだし…
「青春ばかりだと流石に思い出さなそうね…二人とも水着に着替えて!」
夏の記憶
夏の記憶はやっぱり海の記憶だった。夏祭りは選ばれていないのには何か関係があるのか…?
(というかこいつらに水着なんて実装されていたっけ?Xのほうは確か実装はされていたはずだが、オルタのほうは何もなかったような…)
「夏が始まった、合図でした!」
「傷つき疲れるけどもいいんだ!」
ミセスを歌いながらスイカを用意して遊ぼうとしている二人を見ているとどうでもよくなってきた。
「おい待て、俺も混ぜろ!海の中を走る機械を狩る競争しようぜ!」
「ふふっ、部長。その前にスイカ割りしましょう。誰かさんがいないから暑くはないですけれど、夏っぽいことはこうやらないと楽しめませんから」
いつの間にか手に持っているものがあずきバーに変わっているXオルタ。しかし、暑くなるサーヴァントは誰がいたっけ。
(オジマンティウス…いや、そんな男のサーヴァントでもないだろうな。となるともっと直接的なサーヴァントか?)
考えていても答えは出ない。とっくのとうに忘れ去ってしまったってことなのか?
「部長?」
「そうですよ!ちゃんと縛り付けられないじゃないですか!」
(今度は確実に縛り付けようとしてんのか…)
タコ糸や鎖くらいならなんとかなる。そう思って体を流れるがままにしていたけれど、やけに体の外が暑い。
(燃えてるのか…?)
「ま、私たちみんな許したくないんですよ。部長のやったことを恨んでますから」
「恨まれるようなことはしたけど…」
「そこで逃げようとするのがダメなんです。部長の唯一のダメなポイントですから」ジリジリと寄ってくる後輩二人。避けることがしにくい密着体制では勝てるものも勝てない。
(というか高校時代の体に戻ったとしても体力は変わらずか…辛いな…!)
体の節々にくる痛みを無視し、切り裂かれる前に走って砂浜から逃げる。
「あはは、夏の恋人ごっこですか!いいでしょう、部長とならどんなこともちゃんと楽しんでやりましょう!」
「ヴィランに背を向けて逃げるということがどんなことなのか、しっかりと部長の体に叩き込んであげましょう…!」
二人から逃げるよりあいつとふざけ合ってたほうがよっぽどましだ。
(でもいないあいつの名前が出てこないのはなんなんだよ…!いや、待てよ…?)
アヴェンジャーの一人、そういえば思いつかないやつは炎に関係しているのなら。
「気づいてくれるのならよかったわ。さ、クライマックスと行こうじゃない」
春の記憶
春の記憶は屋上で不釣り合いな冬のファッションした女性と会うところからだった。
「確かに、そうなるのか…」
「あら、気づくのが遅かったじゃない。最初にアヴェンジャーが設定したものだってわかってるのなら私のことくらい思い出しなさいよ」
「その毒の吐き方は相変わらずだな、邪ンヌ」
こちらに対して言葉を吐き捨てつつ近づいてくるのはカルデアール学園の新聞部の後輩、邪ンヌだ。
(アヴェンジャーとして召喚したとしても、来れるとはな…いや、たぶんこれは俺が原因か)
恐らく俺がやっていないことが影響したのだろうその行動は、明らかに自分のことを隠した行動だった。
「別に、私よりもあいつらが部長のことを歓迎したがってただけよ。やれ、やっと機会が回ってきたとかなんとか言われて…」
「そんなことばっかり言っててもちゃんと俺と会いたかったんだろ?」
「…そうよ。悪かったわね」
くるりと背を向けて回転すると、普段見ないような学生服に変わる。
「これが、あんたのいなかった間に追加されたものよ。どう?カルデアール学園の衣装より素晴らしくないかしら?」
「…無理して背伸びしないでほしいんだが」
昔のことしか知らない俺には邪ンヌがどう思うのかわからない。
ただ、俺と会いたいと思っていたことはわかる。
強いてわかるのはこの一つだけ。
「えぇ…まあ、あなたがちゃんと戻ってくるのなら踊ってあげようじゃない」
「…ついてきてくれるのか?」
言いたいことはたくさんあるのだろうけど、ひねり出せたのはそれくらい。仮にも新聞部の部長であったものが恥ずかしいことである。
「構わないわよ、別に。ちゃんとマスターとして毎日会いに来てくれるんでしょ?」
「当然、そうだな。どうせ俺は頑張ってお前らと一緒に勝ちたいからな」
「なら満足よ」
溢れている熱いものを拭おうともしない邪ンヌ。ありえないくらいに優しく抱きしめてきたその手にはいくつもの爪痕が残っている。
「ねぇ、踊らない?私は多分、この後会えなくなっちゃうかもしれないって訳だけど」
「…しゃあねぇな。下手くそでもいいなら踊ってやるよ」
どうせ朝起きたら復元で忙しくなる。それにアヴェンジャーの章とかどうとかが去年やっていたからなおさら邪ンヌとは深く関わるだろう。
「あら、ちゃんと踊れるじゃない。どこかで習ったのかしら?」
「知らねぇよ。夢の中だからなんでもできるようになったんじゃないか?」
どんどんと下らない話をしながら踊ると、懐かしい白い光に包まれていく。
「へえ、もう終わりなのね。うたかたの夢、ちゃんと楽しめたかしら?」
「…楽しめてなきゃこうやって踊ってないな」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない」
笑ってこっちを見つめた邪ンヌは夕陽に照らされていて綺麗で。
写真に撮りたいと思うことすらできないくらい美しかった。
悪夢を見た翌日、空は清々しいくらいに晴れていた。
「さて、じゃあ入れるか。…なんだ、ピックアップされてんのか」
どうやら今は新規や復帰に優しい状態になっていた。4月はマスターが増えるからな、そういうことだよな…
「福袋召喚か…ヒロインの方も来てるし引いておくか」
俺は惰性で貯めていた金を少しだけつっこみ、召喚をする。金色に光ったアヴェンジャーを確認し、前を向く。
『『『改めてよろしくお願いします、部長』』』
そんな声が、外の桜から聞こえてきた。
…今年の春は楽しめそうだな。