意識が暗転したあと、確実に死んだ。普通なら死は救済とまでは言わずとも少しくらい気を休めることができただろう。
そう、普通なら、の話だが。
もちろん普通とはほど遠いヤンデレシャトーで死んだのなら別のサーヴァントに捕まるだけである。
「このファラオから逃げようだなんて不敬です!子供を見せなさい!」
そう、こんな感じで待ち構えてるフィールドに入っていかなきゃならないとか。
「…不敬だから子供を見せろと?…というかまた洗い流されたらどうするつもりだ?」
俺を即死させたニトクリスはカルデア内では冥界の番人であり、恐らく死人の俺は逆らえない。
「とりあえずはこちらに来てください。そもそも私以外ともう交流はできませんから」
「死んでいるならそりゃそうだろ…にしてもわざわざあんな遠くから仕掛ける必要あったん?」
「マスター以外の女も巻き込むとこっちに来てやいのやいの言いますから。マスターが他の女を全員庇える位置、そこに行けるよう計算して放ちました」
他の女が死んだら閉じ込めてから堂々と登場していたのだろうか。
そんなことをぼんやり考えていると、杖の音が冥界に響いてきた。
「しかし幽霊だけの状態では不安定ですね…欲を言えば肉体も欲しかったのですが仕方ありません。取り出した疑似心臓でなんとかしましょう」
「何をするつもりだ…?」
「簡単な話です。裁判を行いましょう」
ニトクリスの関係する裁判は間違いなく最後の審判だ。
(う〜ん…絶対に俺が負ける感じじゃない?)
無罪となればいいが、有罪となれば犬のエサ。そして当然ニトクリスが主審ならほぼ有罪。
そんな状態であることに冷や汗を出したが、俺のことなど知ったこっちゃないように裁判が始まる。
「え〜…コホン。では被告人、汝と我が真名を答えよ」
「はい。私の名前は白井あおい、あなたの真名はニトクリス」
「汝、魂が潔白であると断言するか」
「断言する」
…これってアヌビス神が主体のニトクリスオルタがやるんじゃない?
疑問ではあるけど、味方が誰もいない裁判で悪印象を持たれたくないので黙っておく。
(というかほぼ誰も来れない場所に引きずり込まれた時点で負けでは…?)
諦めてたまるものか、という感覚だ。ニトちゃんに負けるのは悔しいからな。
ワンチャン一人くらい来れる奴いるでしょ。
「汝、妻を裏切ったことがないと断言するか」
「ニトクリス様、そもそも妻がいないって話があるんですが」
「否。虚偽もまた罪である」
足元が更に暗くなり、マミーにしがみつかれる。
「この程度で済むことに感謝せよ」
「そうですか…では、断言はできない。浮気男である、薄情だと思ってもらっても構いませんが」
「愚かなり」
上からホルスに襲われるが、どうでもいいとしか思わん。無知は罪だが怒られる筋合いはないぞ?
「そもそも汝、神となった妻への敬意が足りぬ」
「…そういうこと?」
「そういうことも何もおかーさんに対してふけーだよ!」
いつのまにかニトちゃんの隣にいた娘から罵声が飛んでくる。そこまでグサグサ刺してくるものでもないから安らかに受け止められる。
「…ふふ、それでは裁判を終わらせましょう。汝、罪を犯し続け、神の赦しすらもなお受け止められぬ。よって有罪!」
「おいちょっと?何一つとして弁論の機会がないんだけど?」
「…でーすーが!流石に情状酌量の余地ありとして娘と嫁を大切にするのなら冥界の番人の夫として召し抱えましょう」
「意思全部無視ですかそうですか…」
できればもっと話が通じればよかった。…そもそも嫁をもらえる年齢の覚えはないぞ。
「なっ!?」
ニトクリスの驚いた声と同時に扉そのものが開き、中から天使…
ではなくイケメンな男が現れる。
「待った!君のような女に息子はやらない!…ふふ、一回でも言ってみたかったんだよね…」
「それ男女逆転だけど助かる!」
ダンテが助けに来てくれたようだ。なんだかんだまだ信用できるだけありがたい。
(まあ相性は不利なんだけどな…!)
「そもそもまだ生きている存在を一時的に心臓を停めるなんて…閻魔帳はどうしたんだ?」
「くっ…」
「加えて言えばこの裁判に必要な神さまの人数がいない気がしたんだけど…他の神様はどうしたんだい…?」
「うぐっ…」
「そもそも僕は君に息子を渡すようなことをしていないんだけどね。どうなのか答えてくれるかな…?」
「ぐぅ〜…!」
「ぐうの音が出てんじゃん…というかそもそも冥界の場所は俺が決めることでは?」
ニトクリスを虐めているようで酷い気がするけどこんなヤバいタイミングで殺したことがそもそもの問題だからな。
「そうです、ね。トラマカスキは私たちの冥界に来てくれるのでしょう?」
「!?…君は、誰だい?」
唐突に乱入してきたのはトラロック。なんでこんなことをするのか理解はできないが。
「トラマカスキのマイホームです。病めるときも健やかなるときもずっと彼の傍にいました。もう夫婦といっても差し支えないです、ね?」
「…少なくともお前は冥界とはまた違うんじゃないの?」
まず前提としてなんでここにいるんだよ?
「愛のチカラ、です」
「説明になってないからね…ふふ、ベアトリーチェに会いたい…」
ダンテの声だけなぜか響いた。
どうなってるのか説明してくれ。わけがわからんから。
「…コホン。裁判が全く終わってないのですが」
「そっから始めるのは無理があるんじゃない?」
ニトクリスの隣にいる娘は諦めてゲームを始めてるし、かなりわけのわからない事態であることは確かだろう。
「無理とかそんな問題じゃありません。私はマスターの子のことを思って言っているのです」
「嘘です、ね。冥界から自由にさせないためのおべんちゃら、優等生の私が見抜けないと思っているんですか。兄様の冥界なら何もかも用意できますし、実家もついてくるのならもう決まりですよ、ね?」
「なんなんだいこの人たち…息子ってこんな人と付き合ってたの…?」
「学生の友人としては嫌だな、って思う…」
ダンテ父さんに呆れられるのもしょうがないことではあるけれど。
それはそれとしてかなりの面倒なことになっている。どうしたもんかね…?
「えっと…どうしようか…?何をすればいいのかな…?」
「まあ現世に戻れるのなら戻りたいけど。そうすることってできる?」
「えーっと…心当たりにお願いしてくるね」
「頼みます…」
頼りないけど一流のコンサルジュだし、なんなら一応父さんだから信じておくか。
ダンテ父さんが消えた直後、狙いすましたかのようにこちらへと質問が飛んでくる。
「マスターはどちらがいいんですか?もちろん冥界の番人たる私のことですよね?」
「おかーさんに逆らうなんてふけーだよ!ちゃんと甘やかすなり何なりして家族のお父さんしてよ!」
「ふふっ、そんな人よりもちろん私のことを選んでくれるんですよ、ね?一緒に冥界で暮らしましょう、ね」
「はぁ…母様、私もちゃんと建てられたいです。もっとちゃんとした企画設計じゃないと…わかってるよねパパ?」
いつのまにか増えていたトラロックの娘もこっちを押し倒してくる。身長は小さいのになんでこんなに力が強いんだろうか?
「………マスター、なんできみの娘ってこんなおかしいんだい…?」
ダンテ父さんからそんなつっこみを受けるが、そもそも都市か神様の娘がどんなとんちきでもおかしくはないだろ。
「戻ってくるの速くない…?そんなにすぐ見つかるもんなの?」
「うん、そだよ。私に任せろー」
えいやっと雑なかけ声と共に現実のアパートへと戻される。
「ん、これでいいかな?もし嫌でも面倒だからきかないけどさ」
「いや、うん…ありがとうね、二人とも」
おいなんであんたがここにいるんだよ。
ネタバレだろ、いろいろダメじゃん。
「つかれたー。つーか家賃も依頼料も払ってよ。…ま、ないなら子種を子宮に払うでもいいけど」
「普通に麻雀中にぶち込まないで?それはせめて夜の時間に言ってくれよ」
「いいじゃん、夫婦なんだから」
助けてもらった後、せっかくなので俺の部屋らしき場所で麻雀をやることにした。なんか一人足りないと思ったけどいるからいいや。
「しょうがないじゃんおかあさんって乙女でもなんでもないんだからさ。あ、それロン」
「なんでそんな上手なの…?ふふ、僕の威厳と点棒がほぼないよ…」
「裏ドラが乗ったから私の満貫だね」
管理人の娘さんが優しく父さんにとどめを刺す。
うぐって聞こえたけど無視だ無視。
「…というか、なんで俺はここにいるんだっけ?」
ジャラジャラと牌をかき回しながらそんなことを考える。
「考えごと?いいよ、寝ない範囲でなら聞いたげる」
「あんまりおとうさんが父親らしいことしてないってのはなしだからね?」
わからなくてもなんとなくできる範囲で捨てる。何も考えてないわけじゃない。
(つっても麻雀の範囲なんだよな…基礎的な記憶がないのにこんなかわいい嫁をもらった状態なのはちょっと不安なんだよなぁ…)
「いや、ちょっとさっき衝撃的な出来事があって記憶が飛んじゃってさ…」
「なんでそんなことしてんの。私との運命的な出会いは無視していいのかこんにゃろー」
「…おかあさん、多分おとうさんなんにも覚えてないだけだよ」
「あ、リーチ」
声に出してしまったからしょうがない。本来なら闇リーチした方がよかったな…
「えー…なんかそんなロマンチックな出会いじゃなかったから拗ねたとかじゃないの?」
「多分それダンテさんの考えだよね?物書きだからってリアルとフィクションの違いをわけれない人になっちゃダメだよ?」
「義理の娘からの言葉って辛いね…」
なるほど、つまりそんなに奇をてらってるわけじゃないんだな。
「ダンテじいさんも事務所も建てられてるしそんな不思議じゃないでしょ。私もあくまでかわいいだけの女の子なんだしさー」
「そしてその事務所の担保でキミを婿に貰ったってこと。ちゃんと子供まで作ってくれてるから優しいのはわかってるんだけどねー」
「あぁ、そうだったっけ…?」
でもこんな面倒くさがりの人がなんで子供が欲しいって言ったんだろ。
あ、ツモった。
「あがった。えーっと…リーチのみだな」
「そんな高くなくてよかった…いや、連チャンだしよくないか」
「というかおとうさんはおかあさんのどういうところが好きなの?」
「記憶喪失って言わなかったっけ?娘のことも満足に覚えてないのにどうして妻のことを言えると思ってるん?」
「いいじゃん、こっちだってそんなもんなんだからさー」
とりあえず見た目とさっきからの行動で褒めればいいのかな?
「はぁ…えっと、ちゃんと面倒とか口で言いながら育児も仕事もしっかりやってくれるところ。エッチなことを言いづらいけれど誘ってくれるところ。かわいくてちっちゃいところ」
「…雑だし最後は貶してるって思われるからねー?あ、カンしよ」
タピオカドリンクをずずっとすすりながらドラをカンする彼女は洒落にならない。
「というかかわいくてちっちゃいってロリコン宣言じゃん。それでいいのおかあさん?」
「別にー。私と娘専用のロリコンなら寧ろ大歓迎じゃない?」
タン。
「結婚式とかやってないしなー。もしやることあったらお義父さん来れる?」
「…ふふ…仕事がなかったらね…物書きは地獄だよ…?」
「そもそも俺も学業が終わるまで挙げるつもりはないんだけど…」
タン。
「あ、それカン。字牌でカンするときは嬉しいよね」
「そうなの?あんまり麻雀でカンしないからわかんないわ。ほぼやる必要ないんじゃね?」
「まーね。それでさ、来年くらいにやらない?そんで一緒にダラダラ過ごし続けるの」
「ぐーたらしたいよね…むすめもそう思うよぉ」
「娘というよりそれはわたしの本能じゃない?こうやって皆と話しているけどおんなじ考えだし」
コツン。
明らかに異物の音がしたと気づいた瞬間、一面の白い部屋に飛ばされていた。
見上げている位置にある天秤。周囲にわかるように前面が木の格子になる証言席。
(ここは…裁判場か…)
「ええ、そうです。まさか自分が死者になっていたことをお忘れで?」
しかもこの感じだと心を読むパターンか。さとり妖怪がかわいそうとは思わないのか?
「…まだ死んでたってことかよ…」
メタトロンのジャンヌ、名前は特にない。ややこしいからジャンニャと呼ぼう。かわいいし。
「まあ私をどう呼ぼうと構いません。裁決はもう終わらせて…!?」
「イレギュラーはもう起こり過ぎなんだけどなぁ!?」
とはいえ、避ける理由もない。ここに来て死ぬことを躊躇する必要はないのだ。
(死んでる時点でもう流れに身を任せるままにしたほうが楽なんだよな…)
「もういいです!判決、私に恋をさせた罪で有罪!よってあなたは死後から私の伴侶です!」
想像以上に速い裁判だ。どこかから判決を急かされているような。
「というか結局伴侶どうこうって確定しちゃってるの…?」
「今からあなたが悔い改めて私と天界に住まうというのなら取り消しましょう」
「まじかぁ…」
確実に逃げられる方法はないのか。ドクンドクンと心臓が早鐘を打つ。
「もうそこまで来ているのですか…!?マスター、私のところに!」
「…ま、もしこのあとに死んだら行くよ」
心臓からの痛みで体がもう動かない。体が破裂しそうだ。
「…ええ、では死んだらあなたを迎えに行きましょう。私の、私だけのマスター」
…選択肢、間違えたかな。
奏章Ⅳは最高でした。
やる前「キャンディちゃんほしい!」
やった後「何もかもほしい!」
深夜テンションで引くと当たるぞ(迷信)