「魔術が使えるようになりたい!」
ヤンデレの悪夢もこれで10回はやった。そうなれば必然的ではないが魔術くらいは使えるようになりたい。
「えっ、いきなりなんで…?」
というわけで目下ジャンニャに交渉である。一番説明されても話を聞いてくれそうな怠惰状態だし押せばいけるやろ。
「FGOの世界なのにモンハンのゴリ押しで解決するのやだから」
正直モンハンの力技(ラウラの指弾)で解決するのはちょっと強引過ぎる気がしていたからな。
「確かに前回なんてほぼそれで避けまくってたしね…まあいいけど、その分難しくなるよ?」
本人の意に沿うヤンデレシャトーを作るとなると大変らしいけれど、別に問題ない。
「一向に構わない。帰れる条件ってなんになるんだ?」
「もちろん3つの魔術をそれぞれのサーヴァントから習得することかな。次からのシャトーも魔術を覚えておけるから万全だね」
…それって難易度が上がることを言ってるのか?
「今日の悪夢をきちんと乗り越えられればいいんだろ、なら頑張るわ」
ツッコミどころは数多くあるが、その辺りがシャトーへの頼みごとの限界だろう。あとは諦めて腹を括るだけ。
「ちなみに今のところ条件に合うのは私とその他二人だけどいける?」
カタカタとキーボードを叩き、あちゃーといった表情でこちらへと問いかけてくる。
「逆にいけなさそうな理由あるの?」
「全員限定のレベル100以上」
限定でだいたい察した。グランド鯖にするために昨日育てたばかりのあいつがいるんだろうな。
「…それ結構やばくね?」
「まーまー、人権キャラ2体と怠惰ビームだけならなんとかなるでしょ」
不可避のだらけろビームと陛下とエクスカリバーでしょ。
むりむり。
「諦めてヤンデレに食われちゃう?私としてはそれでもいいよ?」
「絶対に碌でもない未来が待ってんだろ…」
前回みたいにこたつでぬくぬくしながら麻雀打ち続ける未来はごめんだ。
しかしジャンニャの思ってる未来はどうやら違うらしく…
「ううん。こっちで死んだら私のものだって約束してくれたからそうなったら合法的に捕まえられるねってこと」
「 」
「あ、もしかして今から襲っていいの?」
「違う違う目をキラキラさせながらこっちくんな!」
いつのまにか布団を被せようとしてきたジャンニャを避ける。油断も隙もありゃしない…
「えー、いいじゃんもっとだらけなーい?」
「だらけるのもいいけど頑張らなきゃダメだろ…ほら、あれとか」
あれ、という指示語で伝わるかどうかは知らないけどこっちのほうが確実なはずだ。
「それは夜のお誘いってことでいい?今なら私以外にも飲みかけのタピオカドリンクと今川焼きと大判焼きとベイクドモチョチョがついてくるよ?」
なんでそのラインナップなの?勘違いの方向性とあってないんじゃない?
…と、いろいろと突っ込みたいところはあったけれどここは既にヤンデレシャトー。故に相手のどのような行動においても油断はしちゃダメなのだ。
「結局オッケー?オッケーなんだよね!」
「麻雀のときのおちつきをもってくれよ…」
押しが強いのはジャンヌ譲りなのだろうけど、問題はジャンニャにはありとあらゆる妨害手段が効かないということ。
「…そっちのほうが君は好きなの?」
「めっっっっちゃ大好き」
「じゃあ面倒だから私の性格までひっくるめて好きにさせるね?」
逆効果なのかよ。というかなんでこんな今日に限って強情なんだろうか…?
(もしかしたらなにかやりたいことがあるのか?)
「そんなものないよ。強いてあるなら君と一緒にいつまでも。ダメ?」
「…とりあえず魔術を教えてくれ」
むすーっとした表情だが知ったこっちゃねえ。なんで夢の中まで貞操を狙われる羽目にあわなきゃいけないんだ。
「え〜…うん、じゃあ精神異常耐性から身につけよう。それくらいならあっちも赦してくれるでしょ」
「もしかして別なの?」
ジャンニャってもう片方とも同じことをしなきゃいけないのか。こっちと比べて話が通じなくて狡猾なイメージがあるから気をつけなきゃ。
「うん、でも気にしないで。どうせそんなのを考える余裕なんてなくなるから」
「………は?」
途端に目の前からジャンニャが消え、目の前を翼が包み込む。多分宝具を使ってデカくなったのだろう。
だが、それと魔術がどう関係してくるのかわからない。混乱している俺をヨソに狭まってくる白い壁。
「天使の体の翼ってね、死者を運ぶために魂を包み込むためにあるの。でも皆どんどん暴れやすくなって…」
「だから何だよ?」
「天使の話は最後まで聞こうね。暴れないようにするためには意思を奪うのが一番大事だって神さまは考えて、天使にいろんなものを付け足したの。わかる?」
「碌でもない機能なんだろ、こうやって拷問に使おうとしている感じだし…」
怪しいものには触らない。こういう状況のセオリーだ。
「せっかちだなぁ…もっとだらだらしようよ。まず羽に触るだけで抵抗の意思をなくすの。それでも暴れる人もいたから天使のことが好きになって改良して離れたくならないように」
ま、だから天使が消えていったんだけどね。
呆れ声でそう締めくくったジャンニャの翼が体に触れる。
(愛の霊薬よりはましか…!?)
ザビ子先輩からもらった愛の霊薬のときに比べれば全くもって微々たる差でしかないけれど、ちょっとだけ短い。
「これならワンチャン…!」
「う〜ん…今の君の意識が消えるのはしょうがないけど必要経費か。だらだらしてるときにまた同じものをすり込めばいいしね」
体に当たる面積が多くなると、更にその堕落の誘惑は増していく。
(というか魔術に関することじゃ全然ないんだけど…!?)
「やだやだ、そんなの教えるわけないじゃん。私のことなら考えられるくらいの廃人具合がちょうどいいんだけどなぁ…」
「そんな細かい調整以前に人権とか考えろよ!」
「私にはないからわかんない!だから君を捕まえて実験するね!」
「そんな非人道的なことをするなんて…ここは穏便に話し合いで解決しよう?」
「うーんダウト。今は私のほうが立場が上なのに話し合いができると思ってるなんて…そんな人は穏便に黙らせよう!」
羽で口を覆われる。喋れないわけではないが、開いた瞬間に突っ込まれてえづくのは致命傷になる気がする。
「どう?これでも私のことを好きにならない…のかぁ…」
こころなしシュンとした羽毛が下を向く。
…とりあえずこの感じだと一切教えるつもりはないな。つまり脱出するには自分の力で覚えて突破しないといけないのか…
(どうなるのかようわからん…まあ体に若干痛みが走るらしいしそれを目安にやってみるか)
満たす。満たす。満たす。満たず。
後ろから火で体の中を燃やされている感覚。そこには何一つとしてジャンニャへの思いなんてのは含まれず、単なる機械としての役割を果たす歯車になったみたいだ。
「ふぅ〜ん…でも君がここから抜け出せるのとはまたちがくない?諦めて私の羽毛布団で眠ろ?」
「
単なるイメージで思い浮かんだのは雫。
ぽたり、と落ちる。内側からひんやりとした何かを垂れたような感覚。その未知の感触に驚きつつも心地よいそれに身を任せていると、いつのまにか体がスッキリしていた。
「どう、だよ?」
「うん、おめでとう!魔術が使えたからなんだって話だけどね」
更にぐいっと強く締め付けられる。女の子だからなのか体に当たるのがとても柔らかくて素晴らしいけどそれ以上に脱力感が凄い。
「魔力って初めて使うとこんな風に脱力感凄くてー、他の魔術に対しての抵抗値もとっても下がるの。ちょうど今体感してるんじゃない?」
「ジャンニャ…?」
「まあこれくらいなら妥協して良さそうかな。私もこれくらいならあなたと結婚するのに問題ない感じだし」
なんか体がふわふわしてくる。眠気と同じように抗いがたい欲望としてジャンニャが欲しい。
ほしいほしいほしい。ほしくてたまらない。
「……はぁ。わたしのことながらマスターに迷惑をかけて何をやっているのですか」
呆れた声が聞こえてくるが、聞き覚えが完全にある。
ぎこちなく首を回してみると、そこにはもう一人のジャンニャがいた。
「私とこれが同じあることは甚だしいくらい認めがたいのですけれど…まずは救出ですね」
途端にジャンニャが消え、目の前には裁判をしていたほうが残った。当然場所は裁判場だ。
「…厄介な」
「まあ、そこは私の気分ということですので。しかしこの場所だとやはり堅苦しく感じてしまいますね。少し移動しましょう」
えいやっと小さなかけ声のあと、俺は元いた位置から図書館へと離された。
「これくらいならまあ許容範囲です。目線が少し下になってマスターが見えにくいのは難点ですが、そこは我慢しましょう」
「…いまいち意図が掴めないんだが。なにがしたいんだ?」
別に支配されるよりはよほどマシだけど、それはそうとして行動の目的がわからない。
人間の普通としてわからないことは恐怖なのだ。
「勘違いしてほしくないので明言しておきますが、わたし個人はあなたのことをなんとも思っていません。この悪夢であったとしても単なるマスターであるだけです」
「…さいですか」
じゃあこのプレッシャーは何のために放っているんですかね?
そんな問いをしたくても出せないくらいには張り詰めてはいる。それとヤンデレなのにヤンデレじゃないとか嘘でしょ…
「ですが、神の所有物である御物であるのに神のことすらも信仰しない。ましてやその自覚すらも忘れてもう一人の私と遊ぶなど…!」
下から聞こえるえげつない地響きは気のせいではない。間違いなくこのメタトロンの権能ってやつか。
「…ふう、取り乱しました。ともかく、そのような状況であるならマスターをイチから私好みへと育て上げようかと思った次第です。所有物には使われ続ける覚悟さえあればいいのです」
「その神さまとやらはどこにもいないやんけ…いないものの所有物だって言われても俺は信じねぇぞ!」
ヤンデレなんだけど普段のヤンデレとはまた違う…あれか、弟子の成長をみて喜ぶ師匠型ヤンデレってやつか。
「いえ、あなたは神の所有物であると決まっています。神の右腕たるわたしのものである以上、ね」
「あーなるほどそういうことね」
妄想も含まれてたか。それにさっきジャンニャに抱きつかれて閉じ込められていたから説得力というものが一切ない。
「理解したのならいいでしょう。ならばまずは公平であることです」
「公平であること?」
言葉のほうでピンとこない。どちらかと言えばそれはルーラーの必須事項だったんじゃ…
「もちろんあなたがわかるまでじっくりと教えるつもりではありますが、彼女とわたしは同一個体です。つまり同じことをしなさい」
「じゃあ俺からなにもしてないからしなくていいな」
「それならば私からするので動かないでください。全ては公平でなければなりません」
…話が噛み合わないにも程があるな。こいつらの感覚バグりすぎじゃない?
「後ろからこうやってハグ…ふむ、もっと近寄ってください」
ひょいっと飼い猫を抱くような形で収まってしまう。まるで姉にイタズラされてうなだれる弟、でもあるかもしれない。
「なるほど、これはあの子がやっていたのも無理はない…もっと胸を押し付けたいですね」
「ねぇ、さ」
「どうしました?もうそろそろ調教に移ってほしいということでしょうか。心変わりされても困りますし、魂から汗までの一つたりとてわたしのものであると刻み込みましょうか」
「人の話って聞かないのなんなの?」
「ええ、お気になさらず。神のものにわたしがどのようなことをしても神のものに変わりはありませんから」
「ジャイアニズムじゃん、それ」
「人間と神の価値観の違いですからそう思うかもしれませんね」
言い方を咎めたところでどうしようもない。そもそも魔術を学ぶはずだってのになんでこんなハメにならなきゃいけないんだ。
(しかも弱体関連はなんにも聞かないじゃん…)
なんで今回魔術を教えてもらいに来たのにメタル並みの耐性の奴に使わないといけない。
「少しだけ天使に対する耐性があるようですが関係ありません。思いっきり理性を溶かしてあげましょう」
(…待てよ。相手に使わなきゃいいだけなんじゃ…!)
「……護持!」
魂がどんなものかはわかっていないけど、雫と同じ要領で自分を護るだけなら簡単である。先ほどのように魔力を使うような感覚はないけれど、それでも充分過ぎるほどの威力であった。
「…わたしの加護を真似て守備ですか。それは確かに有効でしょうね」
憎々しげに、はたまた恍惚としてこちらを見やるジャンニャ。
が、一瞬で俺の体は光の粒子として消え去った。
「「!?」」
どうなっているのかはわからないが、夢から覚める前の感覚に似ている。
『はぁ…おい、魂を壊すレベルの行動は慎めと言われなかったのか?』
「…誰だよ?」
『別に誰だっていいだろ、お前のシャトーの管理人ってところだ。お前が引けなきゃな』
「…そうかい。本題は?」
『さっき聞いた通り
「マジ?」
『大マジだよ、ばーか。モンハンで済ましときゃよかったってのに…あぁ、それとは別に次は冠位で揉めるからグランドは決めるんじゃねぇぞ』
そんな憎まれ口を最後に、俺は夢から覚めた。
…グランド鯖、か。
なおグランド以前に女性の剣鯖全然いないんですよね…