復讐しない 泡沫の姫
「…どうしたんですか?遅刻しちゃいます、ね?」
トントンと肩を揺さぶられる。静かな教室の中だとわかっているけど、誰が話しかけてきてるのか眠気のある頭ではわからない。
「起きなさい。…でなきゃ襲います、ね」
瞬間、誰が話しかけてきているのかわかった。このイントネーションとしっとりとした白い手は間違いない。
「起きるから勘弁してください」
トラロックだかウィツィロポチトリだかと呼ばれている学級委員の人。俺と関わることは殆どないと思ってたんだけど、この前の体育祭で友人になった。人生とはどうなるかわからないものだなぁ…
「おはようございます。とりあえず朝ごはんにしましょうか」
彼女が我が家のリビングに降りてきてこちらに手招きをする。もう既にダンテ父さんは彼女に馴染んでいる。
「ダンテさん、ありがとうございます」
「いやいや、こちらこそ不肖の息子の友人になって頂いて嬉しいです…あれ、マスターは嫌だったりするの?」
「全然。ちょっと体に違和感があるくらいだから気にしないでいいよ」
なーんか今日は普段と違うような違和感があるんだよな。部屋に乗り込んでくることが久しぶりだからだろうか、それともちょっと朝ごはんに洋食があるのがおかしかったのだろうか。
または、もっと別の何かか。
「ご飯冷めちゃいます、よ」
「そう、だよな。うん、うん…」
頭の中にかかった霧を振り払うかのように自らの違和感を無視してトーストを齧る。
米より食べてないからか、いつもより食感が気持ち悪かった。
「全く、気が弛んでますね。そんなんだから私が起こすハメになるんです、よ?」
「トラロックと交流してからかなりそこらへんは緩くなっちゃったからな」
正直彼女に起こしてもらうという日常が愛おしくてついだらけてしまう。こんなことをして愛想を尽かされないかはとても心配だけと…
「そんなことはありません、よ。トラマカスキのことを私が手放すわけがないでしょう?」
「そう言い切ってくれるなら嬉しいな」
キスを迫られてる気もするけど、流石に登校中のこの場所でそんなことをするのは気が引ける。やはり恥ずかしいけど可愛い彼女の思いには答えないと。
迷った末に少しだけ強く手を握り返す。柔らかく自分のとは違う手の感触でちょっとおかしく感じた。
「もう毒されてるみたいで何よりです、ね」
「そもそも毒されてるって日本語としてはどうなの?」
彼女の言葉選びのやり方がよくわかっていない。まあいつも通りといえばいつも通りで済むのだろうけど、それでも少しひっかかる。
「そんなことを気にしなくていいのです。トラマカスキは目の前のことにだけ集中してください」
…そう言われると何も言い返せない。正直トラロックのことをどうこう言えるような人じゃないからなあ。
悔しいけれどトラロックのことを買えるようになってからこういうことを言えるようにならないとな。
「性欲に満ちてるようなわけでもないですし、このままランデヴーでもしましょう、ね」
「…どれだけ俺のことを嫌ってるのか?」
「好んでいますから。別に私としてはちゃんと増築したいんですから、ね」
なぜか知らないけどトラロックは建築工業の道に進みたいらしく、それ故にかなりこちらに対して同じような知識があるように話してくる。
ただ、問題なのは大抵がエッチなこと関連なのだ。頭の中にピンク色の照明灯でもついているのかと疑いたいくらいには発言は全部エッチである。どれだけ頭の中のルームがベッドなのかを内見してみたいものだ。
「雨の日に登校したかったものですけど…まあ、晴れているのもいいでしょう」
「唐突に何言ってるの、もう学校つくんだからちゃんとしなさい」
…それにしても、文系の俺はなぜトラロックと話せる知識があるんだろうか。
「遅いわよ、マスター。もしかして恋人同士でいちゃいちゃでもしていたのかしら?」
「おはよう
話しかけてきたのは友人の折田。普段から毒を吐く折田だけど、今日はいつにもまして速さがおかしい。
ツンデレの感じだと思うんだけどなあ。
「ばっかじゃないの。私のことを四月に引けてなかったからこんなに伸びたとかあーだこーだ言うくせに…」
「メタいからやめて」
くっそ、なんでこんな中途半端すぎる時期にでてきちゃったんだよ嬉しいから本当にありがとうございます。
「そして嫉妬なんてしてないわ。あなたの一番の友人のことを放置しているのに対して少し、すこぉしだけ怒ってるだけよ」
明らかにこちらのことをチラチラ見ながら不機嫌丸出しのオーラでこちらを睨みつけているのになぜそんな自分のことを控えめに主張してくるのだろうか。
「ごめん、ちょっと折田と最近関わってなかったからさ」
「別に私は謝罪を求めているわけではないのよ。でも、そうね。ちょっと気になっている喫茶店があるから付き合ってくれないかしら?」
あそこはちょうど二人用のメニューがあるしね。と追加したあとの折田は完全にニヤニヤしている。
そりゃまあ面白そうなのはわかるし行きたくなる気持ちはわかるけどさ…
「せっかくだし今日の午後から行こうか。面白そうだしね」
「マスターはそうこなくっちゃね!ふふ、制服で放課後を過ごすのも悪くはないわね。それに他の人への牽制にもなるもの」
唐突に接近してくる折田。俺は咄嗟のことに反応できない。そして近づいた彼女はこちらにカプリと優しく噛みついてくる。
優しく甘い接吻にも感じられるその一時はすぐに終わりを告げる。なぜなら彼女が歯を突き立ててきたからだ。
「何してくれてんだおい!!?」
「私を無防備に近づけたのが悪いんじゃない?でも、ええ」
口元についた真っ赤な血を隠そうともしない彼女はとても嬉しそうな笑みを浮かべてこう言った。
「マーキング、かしらね?」
言い返せないまま、彼女は始業のチャイムと共に軽やかに自席に戻った。
「おいマスター。その首の噛み跡を含めて何を呆けているんだ」
いつも奇抜な格好をしている教師ナンバーワンのヘファイスティオンにそんなことを言われた。
解せぬ。
「ほらほらマスター、度胸ないの?もしかしてチキっちゃってコツコツやって失敗するの?」
「…んなわけないだろ」
まあ、後ろから目を隠されてる状態だしめちゃくちゃ体の感触がダイレクトに伝わってきて大変です。やっぱりね、普通に触らせてるわけじゃなくて無邪気に来られるのが一番つらい。
「じゃあほら、速く動けよ。エッチなことでもなんでもないんだからさ?」
「…くそったれがー!」
カキーンと大きな音が聞こえたけれどそのあとに爆発音が聞こえたから失敗なんだろうな。なんでダルマ落としが爆発するかは俺だって知りたい。
「はいシッパイ〜♡マスターにはちょっとむずかしかったかな?」
「ミコケルみたいに楽しめたら苦労してないんですよ…」
そう、今いる場所はなぜかドバイのビーチ。なんか月の聖杯戦争に巻き込まれたりとかめんどくさい性格をした人魚姫と合うとかそんなことはなかったのでミコケルだけしかいないのだろう。
「でも砂浜でやることにダルマ落としってどうなの?」
「スイカ割りも何も用意できなかったから…ほら、なんか叩いたりするところとかは一緒じゃない?」
それしか共通点なくないか、とかそんなことを言ったら巫女のパワーで吹き飛ばされる感じがするのでやめておく。
てかミコケル可愛いからずっと見てたい…凄い癒やされるぅ…
「おらおら、お父さまなんだから娘の遊びに付き合うべきなんだろ?」
「モルガン陛下と結婚してる感じの世界観なのこれ?なんかもうぐちゃぐちゃじゃん…」
何が怖いかってこれくらいなら普通に受け入れ始めてる自分が怖い。
もしかしてなんかクラススキルかなんか使ったのかね。特に思い浮かぶフシはない時点で使われてるのだろうけど。
「なんせ今回はエクストラクラスがないからなぁ…!私だってお母さまみたいな活躍したかったもん!!」
「子どもに戻ってない?別にバーヴァンシーならあっちで活躍するから安心してよ」
ちょっと冠位では頼ることになるのは間違いない。せっかくツタンカーメンがいるからね、呪い特攻を使ってボロボロにできるのはトリ子しかいないからね。
「相変わらず頼りになるからね、というかなんか後ろから圧力を感じるんだけど」
「それはそこのヌンノスの力じゃね?最近推しの供給がなくて干からびそうなんだってよ」
「一体なんだろーな…」
凄く近づいてもっとハグをしやがれみたいな圧を感じる。推しの供給ってもしかして俺とバーヴァンシーの絡みとかそんな感じじゃないだろうな?
「ん、キスしようぜマスター。父娘のスキンシップならそこまで過激じゃないでしょ?」
「そうなんだろうけどっ…!?」
いうなり口の中に舌まで突っ込んでこちらを蹂躙してくる。凄い引き剥がしたいけど娘であるらしいので傷つけるような強い力を加えることはできない。
結局5分間彼女に抱きつかれてキスをされた。
「えへへ、恥ずかしいけどこれで巫女としての使命が果たせているからいいんだよな?」
「それを俺に聞かないでほしい。キスの仕方といい一応は父親に対して娘が抱く感情じゃないだろ」
この世界がそういうヤンデレとかそっち系の話なのは知っているけどモルガンという母親から横恋慕してどうなの?ってことだ。
「大丈夫だよマスター、ちゃんとお母さまから許可を得て愛人にしてもらえることになってるから!」
「それでいいのかモルガン!自分の娘になんつー倒錯的なプレイをさせてんだ…!?」
自分の身にかかる不幸じゃなきゃ問題ないのにね。母娘揃って好きな人が一緒って普通は修羅場じゃん!
なんでこんな優しいくらい譲り合いの精神を発揮してんだ!
「ふふ、よくやりましたバーヴァンシー。せっかくなので一緒に悪い遊びをしましょうか」
「もうこのまま拘束しちゃっていいの?お母さまももっと話したいとかそういうのは…」
「ええ、そういう気持ちもありますけどバーヴァンシーと揃って出れる機会なんて滅多にありませんから」
「というかこれはDVに当たるのでは…?」
なぜこいつらは平然と女から男の間でDVが成り立たないようなことをしてきたのだろうか。
「そう言われると思っていたのでこちらをご覧ください」
いつの間にかモルガンが1枚の写真を見せてくる。そこにはさっきの俺とバーヴァンシーがキスしているのが写っていた。
「ふふ、これなら先に性的暴行を受けたって言えばおしまいですね。いつの世も政治や裁判というのは女の方を味方するものです」
「そんな理不尽なことある…?」
というかモルガンの方も育児放棄でどうこうってなるんじゃないのか?
そもそも法律に詳しい訳じゃないから誰か教えてほしい。ダンテとかなら知ってるんじゃなかろうか。
「いえ、裁くのは妖精國の司法権を持っていた私です。この意味、わかりますね?」
まさかこんなひどいことになるとは思わないんだよなぁ…独裁政治って怖いよ…
そんなことを考えつつ二人に運ばれる。なんかどうしても躊躇しないようにするにはどうすればいいものか。
『あーもう何やってんだお前?俺の仕事を増やそうとするんじゃねぇよ。毎回毎回時間ギリギリまで粘りやがって…しかも後始末の量として確実に居残りだし…』
「相変わらずシャトーの主も元気そうで何よりだな」
どうやら今回はブリテンダーのシャトーだったらしいのだが数名くらい乱入者がいたらしい。
『ったく、さっさと洗脳が解ければいいもののお前はフルで全員にひっかかるし…なんだ?もうそろそろ本気で悪夢だけしか見れないようにしたほうがいいのか?』
「怒らないでほしい…許して…許して…」
オルタとモルガンの行動なんて避けられるわけないじゃん…しかも今回ストーリーに沿って行動されたせいで既視感のあることされても違和感がなかったし。
『…はあ。朗報といえば朗報なのかもしれないが、このシャトーではアヴェンジャーやルーラーというエクストラクラスは関係ない。どのクラスであっても出るときは出るし、逆に出ないやつはとことん出ない。精々つかの間の幸福でも享受してろ』
「騙されあいはこりごりだけどな」
『ふん、どうだかな。ブリテンダーとしては騙されて貰わなきゃ困る…お前に取っちゃ嫌なことなんだろうけどな』
白い光が体を包み始めた。もうそろそろ夢の終わりか。
『耐えろとも敗れろとも言わんが、精々グランドには負けないことだ』
グランドセイバーの前に聞きたかったんだけど?
もうそろそろ十周年迎えますね
というわけでリクエスト募集をします(そんなことよりもっと投稿頻度上げろ)
締め切りは8月1日午前0時まで…
リクエストはこちらから
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=324114&uid=402242